説明

油圧モーターの多段変速装置

【課題】油圧モーターの出力を、1:2:3や1:2:4などの多段且つ高変速比を汎用の油圧モーターと油圧回路で得られるようにする。
【解決手段】3個以上の同容量の油圧モーターMが同一減速比で出力軸に接続され、制御用切替バルブeが中立であると、切替バルブa、b、cは中立で、油圧モーターM1、M2、M3、M4は、直列に接続される。制御用切替バルブeを2NDとすると切替バルブbを正転方向に切り替え、油量Qは油圧モーターM1と油圧モーターM3に送られるので、2個ずつの油圧モーターを並列接続とし、出力は、回転数がQ/2/V、トルクが油圧モーター2個分である。制御用切替バルブeをLOWの位置に切り替えると、切替バルブa、b、c全てが切り替えられ、油圧モーターM1、M2、M3、M4は全て並列に配管された状態となり、出力は、回転数がQ/4/V、トルクが油圧モーター4個分となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の油圧モーターを切替バルブで連結することにより、出力を多段に変速する多段変速装置に関するものであり、油圧モーター駆動のドリルビット等の種々の装置に適用できるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、掘削機は作業効率の向上のためドリルヘッドの上下ストロークが長くなる傾向にあり、これに伴いドリルヘッドの駆動源も機械式の駆動から油圧式、電気式の駆動源に移行してきている。これは上下移動するドリルヘッドに駆動源を搭載した方が機械構造が簡素化されるためである。
ドリルヘッドは、掘削する地層及びビットの種類によって回転数を変える必要があり、油圧源の効率化のためドリルヘッド側で変速することが求められている。
【0003】
油圧モーター駆動のドリルヘッドの変速方法に関しては油圧モーター自体を二速モーターとするものや、同容量モーター2個を直列・並列に切り替える方法で変速することが行われているが、この方法では1:2の変速比は得ることができるが、1:3や1:4の変速比を得るには困難な点が多く、できたとしてもコストがかかり、非常に高価な装置となっていた。また、ギヤーによる変速方式ではドリルヘッドの重量が重くなる問題がある。
【0004】
また、特殊な1:3の出力可変油圧モーターを使用するか、無段階可変油圧モーターを使用して油圧的に実現する方法がある。ただし、特殊油圧モーターであることから油圧モーターの価格が高価であり装置全体が高価となり、汎用機械には使用できない欠点があり、必要とする変速比が得られない場合もあった。
その他には容量の異なる油圧モーター(容量比1:2)2ヶを一つのギヤーにギヤー連結し、両方のモーター(1+2=3)で運転するLOW、大容量のモーターだけで運転する2ND、小容量のモーターで運転するTOPとする方法がある。この場合2NDとTOPで運転する場合、使用しないモーターを油圧回路の中で空転させる必要があり、その分油圧効率を減少させ、油圧力を有効に使用できない面があった。
使用しないモーターを伝動ラインから切り離し空転させないためには、油圧モーターの伝達ラインを機械的に切り離すことが必要となり、そのための機構やレバー等の装置が必要であると同時に、切替操作時に、油圧操作と機械装置の操作を行わなければならず煩雑となり、同時に操作ミスの危険もあった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−092302号公報
【特許文献2】特開2005−121074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、油圧モーターの出力を、1:2:3や1:2:4などの多段且つ高変速比を油圧モーター自体の機構・構造を変更することなく、複数の油圧モーターを使用し、油圧回路によって得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
駆動源である3個以上の同容量の油圧モーターが同一減速比で接続され、出力軸に伝達する構造を持つ減速機の機械部分と、油圧モーター間に配置された切替バルブを含む駆動油圧回路と、その切替バルブを操作する制御回路により構成されている。
【発明の効果】
【0008】
複数の油圧モーターを単一の出力軸に接続し、油圧回路によって任意の油圧モーターを並列接続とすることによって回転数と出力トルクを変更するものであり、任意の変速比を低コストで得ることができるので、地層に応じてビットの回転速度を変更する必要がある掘削機に適用することができ、且つ、低コストである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施例
図1に示すように、駆動源である同一性能(同容量)の複数の油圧モーターM1、M2、M3、M4が同一減速比となるギヤーG1、G2、G3、G4を解して一つのギヤーG5に連結され、出力軸Dに伝達する構造を有する機械部分と、図2に示す油圧モーター間に配置された切替バルブを含む駆動油圧回路と、その切替バルブを操作する制御回路により構成されている。
【0010】
4つの油圧モーターM1、M2、M3、M4には、同じ歯数のギヤーG1、G2、G3、G4がそれぞれ固定され、中央のギヤーG5に噛み合わされており、4つの油圧モーターは同一回転数で回転する。
【0011】
図2の油圧回路に示すように、各モーターM1、M2、M3、M4の間にP−Tオープンでタンクラインに作動圧が掛けられる汎用切替バルブa、b、cが設けてある。油圧ポンプP1からの作動油は、切替バルブdを介してモーターM1に供給され、モーターM2、M3、M4にはそれぞれ切替バルブa、b、cを介して油圧が供給される。
油圧ポンプP1からの作動油をオン・オフする切替バルブdを正転方向に切り替えると、作動油は油圧モーターM1に供給され、更に切替バルブaのP−Tを経て油圧モーターM2に、油圧モーターM2を出た作動油は切替バルブbを経由して油圧モーターM3へ、更に切替バルブcを経て油圧モーターM4へ順に供給されるので、油圧ポンプP1から送られてくる油量Qに対しモーターの1回転当たりの吸収量をVとすれば、Q/Vだけ全ての油圧モーターは回転することになる。
駆動トルクは、4つのモーターで作動圧分の圧力しか得られないためモーター1ヶ分である。この状態を初期状態とする。
【0012】
ここで、油圧モーターM1とM2を連結する切替バルブaを正転方向に切り替えると、油量Qは切替バルブaを経て油圧モーターM1と油圧モーターM2に送られる。油圧モーターM1を作動させた作動油は直ちにタンクラインに戻るが、油圧モーターM2に送られた作動油は切替バルブbを経由して油圧モーターM3へ、その後切替バルブcを経由して油圧モーターM4へ送られる。このため油圧モーターの回転数はQ/2/Vとなり、初期状態の半分となる。出力トルクは、油圧モーターM1が作動圧を有効に使用でき、油圧モーターM2、M3、M4は3つの油圧モーターで作動圧を使用するため1個分が得られ、トータルでは油圧モーター2個分の出力トルクが得られる。
【0013】
次に切替バルブaとbを正転方向に切り替えると、油量Qは油圧モーターM1とM2とM3に送られる。この場合、油圧モーターM1とM2に送られた作動油は直ちにタンクラインに戻る。油圧モーターM3に送られた作動油は切替バルブcを経由し油圧モーターM4に送られる。このため油圧モーターの回転数はQ/3/Vとなり初期状体の1/3回転となる。出力トルクは、油圧モーターM1とM2が作動圧を有効に使用できる、油圧モーターM3とM4は2台で作動圧を使用するため1ヶ分の出力しか得られない。この結果、トータルでは油圧モーター3ヶ分の出力トルクが得られる。
【0014】
最後に切替バルブa、b、c全てを切り替えると、油圧モーターM1、M2、M3、M4は全て並列に連結されることとなる。このため油量Qは4つの油圧モーターM1、M2、M3、M4に均等に送られることとなり、油圧モーターの回転数はQ/4/Vとなって初期状態の1/4となる。出力トルクは、油圧モーターM1、M2、M3、M4全てが作動圧を有効に使用できるため油圧モーター4ヶ分の出力トルクが得られる。
以上のように、油圧モーターとその間に設ける切替バルブを増やしていけば理論的には無限の変速比を得ることが可能である。しかし、油圧モーターの接続方法に関しては油圧モーターのドレン量に個体差が考えられるため、並列にする油圧モーターに差が出ないように配慮する必要があり、また、油圧モーターをコンパクトに配置しなければならないので、実用的には数個が限度であるといえる。
【0015】
油圧モーター間に設けた切替バルブを操作するための制御回路は、図2の油圧回路図では、油圧パイロットによる制御回路であり、1:2:4の3段階の変速を行う例を示している。図2の油圧回路図の制御用切替バルブeが中立であれば、切替バルブa、b、cを切り替える指示圧ラインはタンクラインに繋がっており、指示圧は低圧となっている。この結果、切替バルブa、b、cは中立となり、油圧モーターM1、M2、M3、M4は、直列に接続された状態であり、回転数はQ/V、出力トルクは油圧モーター1ヶ分である。
【0016】
制御用切替バルブeを2NDの位置に切り替えると、指示圧が制御用切替バルブeからシャトル弁fを経由して切替バルブbを正転方向に切り替える。切替バルブa、cの指示圧ラインはタンクラインに繋がっているため中立のままであり、油量Qは油圧モーターM1と油圧モーターM3に送られる。油圧モーターM1に送られた作動油は切替バルブaを経由して油圧モーターM2に、油圧モーターM3に送られた作動油は切替バルブcを経由して油圧モーターM4に送られてタンクラインに戻る。こうすることにより2個ずつの油圧モーターを並列に配管することができ、出力は、回転数がQ/2/V、トルクが油圧モーター2個分である。
【0017】
制御用切替バルブeをLOWの位置に切り替えると、切替バルブa、cは直接指示圧で切り替えられる。切替バルブbも指示圧がシャトル弁fを経由して加わるため切り替えられ、切替バルブa、b、c全てが切り替えられるため、油圧モーターM1、M2、M3、M4は全て並列に配管された状態となり、出力は、回転数がQ/4/V、トルクが油圧モーター4個分となる。
切替バルブa、b、cを電磁バルブに交換すれば電気的制御回路とすることができる。切替バルブa、b、c、をマニュアルバルブにすれば、手動での切り替えとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の変速装置の平面図及び正面図。
【図2】本発明の変速装置の油圧回路図。
【符号の説明】
【0019】
M 油圧モーター
P 油圧ポンプ
G ギヤー
D 出力軸
a 切替バルブ
e 制御用切替バルブ
f シャトル弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同容量の3個以上の油圧モーターが同一減速比で一つの出力軸に連結されており、各油圧モーターは切替バルブを介して相互に連結してあり、切替バルブが中立の場合には各モーターが直列接続であり、切替バルブの切り替えによって任意の油圧モーターを並列接続とすることにより、同入力の油量、作動圧に対する出力軸の回転数及びトルクを多段に切り替える油圧モーターの多段変速装置。

【図1】
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【図2】
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