説明

油圧制御弁

【課題】油圧制御弁において、カシメ工程で発生した弁板の変形がリーク孔制御部分に波及するのを防止する。
【解決手段】クラッチピストン40に弁板51をリベット45によって、リベット孔54にカシメ付けることにより油圧制御弁50が構成される。又弁板51には開閉力を補助するために、錘52がカシメ孔53にカシメ付けられている。符号43はクラッチピストン40の油リーク孔であって、弁板51の符号55で示した部分で制御される。カシメ工程で弁板に発生した変形が制御部分55に波及することを防止するために、カシメ部分の近傍に波状隆起71、72を形成し、弁の正確、確実な機能を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧式多板クラッチに使用され、クラッチピストンに取り付けられた油圧制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は油圧制御弁を備えた油圧式多板クラッチの構成の概要を断面で示したもので、油圧式多板クラッチ10は駆動軸20、クラッチケース21、被動軸30、クラッチピストン40等からなっている。
【0003】
22はクラッチケース21に設けられたスプライン溝であって、セパレータ23がかん合している。又32は被動軸30側のハブ31に設けられたスプライン溝であって、フリクションプレート24がかん合している。25はフリクションプレート24の両側に貼着されている摩擦材である。クラッチピストン40には油圧のリーク孔43が設けられており、このリーク孔43を制御する油圧制御弁50がリベット45でクラッチピストン40の、油圧作動室60側に取り付けられている。
【0004】
クラッチを締結するときは、油圧供給路61から油圧作動室60内に油圧を供給すると、油圧制御弁50が図の右方に押され、リーク孔43をふさぎクラッチピストン40は図の右方に押され、その押圧部41によってセパレータ23とフリクションプレート24を止め輪26に向かって押圧し、クラッチが締結される。クラッチを解放するときは油圧作動室60から油圧を抜けばクラッチピストン40はリターンスプリング44によって左方に復帰し、クラッチは解放される。その際油圧作動室60内の残留油はリーク孔43から排出される。クラッチ締結時には油圧作動室60内の油圧により、油圧制御弁50の弁板51が油圧リーク孔43を閉じている。
【0005】
クラッチを解放するときは、油圧作動室60内の残留油に遠心力がかかり、それが油圧制御弁50の弁板51を閉じる力となる。それに打ち勝って弁を開くほど弁板51のスプリング力を強くすればクラッチ締結時に油圧作動室60内の圧力が充分な高圧になるまで油圧制御弁50がリーク孔43を閉じないこととなり、油圧系における油圧低下を生ずることとなる。それを防ぐために油圧ポンプを大型化すれば全体として効率低下を招き、又多量の作動油を急激に油圧作動室内に供給するので圧力が急上昇して大きな係合ショックを引き起こすおそれもあった。
【0006】
そこでこの不具合を解消するために弁板51に重量体としての錘を取り付けることが考えられた。錘52にかかる遠心力による開弁力と油圧作動室60内の残留油にかかる遠心力による閉弁力とがほぼ等しくなるようにすれば、弁板51自身のスプリング力は小さくても油圧作動室60から油圧を抜けば、油圧制御弁50が開いて油圧はリーク孔43から残留油は抜けることとなる。図で42は押圧部41の内側の、錘の存在する凹部を示している。
【0007】
図2は従来の弁板を示し、図2(A)は弁板を正面から見た正面図、図2(B)は図2(A)をS方向から見た側面図、図2(C)は図2(A)をT方向からみた端面図であって、51は弁板、53は錘52をカシメ付けるカシメ孔、(図1参照)54は弁板51をクラッチピストン40へリベット45でカシメ付けるためのリベット孔(図1参照)をそれぞれ示している。
【0008】
図から判るように、従来の弁板51はまっすぐな平板であったので、カシメ孔53やリベット孔54に錘やリベットをカシメ付けた場合にカシメ部に生じた変形が弁板全体に波及して油のリーク孔43を被っている部分(図1参照。図2(A)では符号55で示している。)も変形し、リーク孔43を正確、確実に制御することが不可能になるおそれがある。
【0009】
図3は図2(C)と同じ図であって、弁板51の変形を端面からみた場合、図3(A)は凸状に変形し、図3(B)は凹状に変形していることを示している。このようにカシメ工程で発生した変形がリーク孔の制御部分に波及するので、リーク孔を正確、確実に制御することは不可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の如く弁板をクラッチピストンに取り付けたり、又弁板に錘を取り付けたりする際に行われるカシメ工程によって生ずる変形が弁板の油リーク孔を制御するための平板な部分に波及し、油孔の閉鎖が完全に行われなくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明では前記の課題を解決するために、「油圧式多板クラッチに使用される油圧制御弁において、油圧制御弁の組み立てに際して行われるカシメ工程によって油圧制御弁の弁板に生ずる変形が、弁板の油リーク孔閉鎖部分へ波及するのを防止するための部分的な波状の隆起が、弁板のカシメ部分の近傍に形成されていることを特徴とする油圧制御弁。」を得たものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明により、カシメ工程によって弁板に生ずる変形が、弁板の油リーク孔閉鎖部分へ波及するのを防止できるので、確実な油リーク孔の制御が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
波状の隆起を設ける個所は、弁板の錘取付孔と弁板をクラッチピストンへ取り付ける孔の両方の近傍でもよく、条件によっては油孔に近い方の片方のみでもよい。
【実施例】
【0014】
図4はこの発明の弁板51をクラッチピストン40にカシメ付けた状態を示した解説図、図5はこの発明の一実施例である弁板の図2と同様な三面図をそれぞれ示している。図4において、弁板51に錘52がカシメ孔53においてカシメ付けられている。又弁板51はリベット孔54のところで、リベット45によってクラッチピストン40にカシメ付けられている。これらのカシメ孔53やリベット孔54のところで、カシメ工程によって発生した弁板51の変形が弁板51の油リーク孔43の制御部分55に波及するのを防止するためこの発明では弁板51のカシメ部分の近傍に波状の隆起が形成されている。カシメ孔53の近傍の隆起は71、リベット孔54の近傍の隆起は72で示されている。
【0015】
これらの隆起71、72などの形成により、カシメ工程においてカシメ孔53あるいはリベット孔54のところに発生した変形が、隆起部分がバッファーの作用を行うことにより、弁板51の油リーク孔の制御部分55の平面部分にまで波及するのを防止することができる。
【0016】
図5はこの発明による弁板51の一実施例を図2と同様な方向からみて示したもので、図5(A)は正面図、図5(B)は(A)をS方向からみた側面図、図5(C)は(A)をT方向からみた端面図である。51は弁板、53は錘をカシメ付けるカシメ孔、54は弁板51をクラッチピストンにリベットでカシメ付けるリベット孔をそれぞれ示している。この実施例ではカシメ孔53の近傍に波状の隆起71を形成して、カシメ孔53に錘をカシメ付けるときカシメ工程で発生した弁板の変形が弁板の油リーク孔制御部分(図で符号55で示されている。)の平面部に波及するのを防止している。
【0017】
図5(C)でαは隆起部分の盛り上がり量を示すもので、0.05mmないし0.2mmていどが適当である。
【0018】
この隆起は図4のようにカシメ孔53、リベット孔54の両方の近傍に設けてもよく、又は図5のように、油孔制御部分に近い方の片方のみでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明により、油圧制御弁の製作時にカシメ工程により発生する弁板の変形が油リーク孔制御部分に波及するのが防止できるので、作動が正確、確実な油圧制御弁を得ることができ、製品の機能が安定化した。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】油圧式多板クラッチの構成を示す断面図
【図2】従来の弁板を示す図
【図3】従来の弁板の変形の状態を示す図
【図4】この発明の油圧制御弁の解説図
【図5】この発明の弁板の実施例を示す図
【符号の説明】
【0021】
10 油圧式多板クラッチ
20 駆動軸
21 クラッチケース
22 スプライン溝
23 セパレータ
24 フリクションプレート
25 摩擦材
26 止め輪
30 被動軸
31 ハブ
32 スプライン溝
40 クラッチピストン
41 押圧部
42 内側凹部
43 リーク孔
44 リターンスプリング
45 リベット
50 油圧制御弁
51 弁板
52 錘
53 カシメ孔
54 リベット孔
60 油圧作動室
61 油圧供給路
71 波状隆起
72 波状隆起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式多板クラッチに使用される油圧制御弁において、
油圧制御弁の組み立てに際して行われるカシメ工程によって油圧制御弁の弁板に生ずる変形が、弁板の油リーク孔閉鎖部分へ波及するのを防止するための部分的な波状の隆起が、弁板のカシメ部分の近傍に形成されていることを特徴とする油圧制御弁。
【請求項2】
前記の部分的な波状の隆起は、弁板の錘取付孔及び/又は弁板のクラッチピストンへの取付孔の近傍に形成されていることを特徴とする請求項1記載の油圧制御弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−170456(P2007−170456A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365790(P2005−365790)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】