説明

油圧回路用ピストン式アキュムレータ及び油圧回路への作動油充填方法

【課題】 飛石や氷結によって動作不良が発生することを回避できるピストン式アキュムレータを提供すること。
【解決手段】 シリンダ53内のダイヤフラム56を変位させるピストン54の下部外周には、シリンダ53の内周面に摺動自在に当接してピストン54をシリンダ53の中心軸上に位置決めし、シリンダ53内におけるピストン54の往復動作のガイドとなるガイド部64が突設される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば流体式リターダを制御するための油圧回路等に使用されて該油圧回路内の作動油の油圧を安定させる油圧回路用ピストン式アキュムレータ及び油圧回路への作動油充填方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図7は、流体式リターダを制御するための油圧回路に使用されて該油圧回路内の作動油の油圧を安定させる油圧回路用ピストン式アキュムレータの従来例を示したものである。
【0003】このピストン式アキュムレータ1は、上部ハウジング9および下部ハウジング10とにより筒状の容器を構成するシリンダ2と、該シリンダ2内に往復動可能に組み付けられるピストン3と、該ピストン3の頂部3aとシリンダ周壁9a,10aとの間に張設されてシリンダ2内上部に油圧回路の作動油循環路に連通する油室5を画成するダイヤフラム6と、前記ピストン3とシリンダ底部10bとの間に介装されて油室5の容積が小さくなる方向に前記ピストン3を付勢して油圧回路内の作動油の油圧変動を抑制する単一の圧縮コイルばね8とを備えた構成とされている。
【0004】ここに、シリンダ2を構成する上下のハウジング9,10相互は、互いに突き合されるフランジ9c,10c同士をねじ部材で連結固定することによって一体化されている。そして、フランジ9c,10cが、前記ダイヤフラム6の外周部を挾持している。
【0005】一方、ピストン3は、有頭筒状のピストン本体12と、該ピストン本体12の頂部3aに締結されてダイヤフラム6を挾持するダイヤフラム固定板13と、該ダイヤフラム固定板13をピストン本体12の頂部3aに締結する締結具を兼ねたピストンロッド14とから構成されており、前記ピストンロッド14が下部ハウジング10のシリンダ底部10bに形成された軸受部15に摺動自在に嵌合することで、シリンダ2内を往復動可能にされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、流体式リターダが補助制動装置として車両に搭載されるものの場合、該流体式リターダを制御する油圧回路に使用される前記ピストン式アキュムレータ1は、外気に晒される車体フレーム上に取り付けられることが多く、シリンダ2から突出したピストンロッド14の端部に飛石が当たって動作不良が生じたり、あるいは損壊する虞があった。
【0007】また、寒冷地等ではシリンダ2から突出したピストンロッド14に氷結が起こり、その結果、ピストン3が滑らかに往復動できなくなるという動作不良が生じる虞もあった。
【0008】さらに、流体式リターダを制御する油圧回路に使用されるピストン式アキュムレータ1は、流体式リターダの非作動時には、余分な負荷がかからないようにする一方で、油圧回路内に負圧やキャビテーションの発生を抑制することから、回路内の作動油を弱く加圧し、また、流体式リターダの作動時には、流体式リターダが所望の制動トルクを発揮するように回路内の作動油を強く加圧し得ることが望ましい。
【0009】このような観点から、前記圧縮コイルばね8のばね定数の設定に工夫が要求されることになるが、従来のように単一の圧縮コイルばね8でピストン3を付勢する構造では、流体式リターダの非作動時には回路内の作動油に対する加圧を十分に弱め、かつ、流体式リターダの作動時には回路内の作動油に対する加圧を十分に高めるといった使い分けが不可能であった。したがって、例えば、流体式リターダの非作動時にも余分な負荷がかかったり、あるいは、負圧やキャビテーションの発生を十分に抑制することができないという問題が生じた。
【0010】そこで、本発明の目的は上記課題を解消することにあり、飛石や氷結によって動作不良が発生することを回避でき、さらには、非作動時には回路内の作動油に対する加圧を十分に弱めると同時に作動時には回路内の作動油に対する加圧を十分に高めることのできる油圧回路用ピストン式アキュムレータ及び油圧回路への作動油充填方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明に係る油圧回路用ピストン式アキュムレータは、シリンダ内に往復動可能に組み付けられるピストンと、該ピストンの頂部とシリンダ周壁との間に張設されてシリンダ内上部に油圧回路の作動油循環路に連通する油室を画成するダイヤフラムと、前記ピストンとシリンダ底部との間に介装されて前記油室の容積が小さくなる方向に前記ピストンを付勢して油圧回路内の作動油の油圧変動を抑制する圧縮コイルばねとを備えてなる油圧回路用ピストン式アキュムレータにおいて、前記ピストンの下部外周には、前記シリンダの内周面に摺動自在に当接して該ピストンをシリンダの中心軸上に位置決めし、該シリンダ内におけるピストンの往復動作のガイドとなるガイド部が突設されたことを特徴とする。
【0012】あるいは、上記の油圧回路用ピストン式アキュムレータにおいて、油室の容積が小さくなる方向にピストンを付勢する前記圧縮コイルばねとして、ピストン内の空洞に浮遊装備される中間ばね受け座とピストンの頂部壁との間に介装されて油圧回路内の作動油の初期圧設定を受け持つばね定数の小さなサブ圧縮コイルばねと、シリンダ底部を構成する下蓋に形成された底部ばね座と前記中間ばね受け座との間に介装されるとともにばね定数が前記サブ圧縮コイルばねよりも大きく設定されて油圧回路作動時にピストンを所定の力で付勢するメイン圧縮コイルばねとが装備されたことを特徴とする。
【0013】あるいは、上記の油圧回路用ピストン式アキュムレータにおいて、シリンダ底部を構成する下蓋は、前記サブ圧縮コイルばね及びメイン圧縮コイルばねの圧縮を解除する方向に退出可能に、シリンダ底部に螺着されていることを特徴とする。
【0014】また、上記目的を達成するための本発明に係る油圧回路への作動油充填方法は、上記の油圧回路用ピストン式アキュムレータを含む油圧回路へ作動油を充填する油圧回路への作動油充填方法であって、前記油圧回路の給油口を開いて作動油の供給を開始する前に、前記メイン圧縮コイルばねが自由長にまで伸張し、かつ、前記サブ圧縮コイルばねがシリンダ内上限位置にピストンを保持する程度の付勢力を発揮する範囲内で適宜量伸張するように、前記シリンダの下蓋を退出させておき、次いで、前記油圧回路用ピストン式アキュムレータの油室内に所定量の作動油が充満するように前記油圧回路の給油口から作動油の供給を実施し、次いで、前記油圧回路の給油口を閉じた後に、前記サブ圧縮コイルばねが最大限に圧縮される位置まで前記下蓋をねじ込むことによって、油圧回路内の作動油に初期圧をかけることを特徴とする。
【0015】そして、シリンダ内のピストンは、ピストン下部外周に突設されたガイド部とシリンダ内周面との当接により、シリンダ内を往復動自在に位置決めされる。
【0016】また、ばね定数の小さなサブ圧縮コイルばねを油圧回路の非作動時における回路内作動油の加圧用に、そして、ばね定数の大きなメイン圧縮コイルばねを油圧回路の作動時における回路内作動油の加圧用に設計しておくことで、油圧回路の非作動時には回路内の作動油に対する加圧を十分に弱めると同時に、油圧回路の作動時には回路内の作動油に対する加圧を十分に高めることが可能になる。
【0017】また、油圧回路の給油口を開いて作動油の供給を開始する前に、メイン圧縮コイルばねが自由長にまで伸張し、かつ、前記サブ圧縮コイルばねがシリンダ内上限位置にピストンを保持する程度の付勢力を発揮する範囲内で適宜量伸張するように、シリンダの下蓋を退出させておき、次いで、前記油圧回路用ピストン式アキュムレータの油室内に所定量の作動油が充満するように油圧回路の給油口から作動油の供給を実施し、次いで、油圧回路の給油口を閉じた後に、前記サブ圧縮コイルばねが最大限に圧縮される位置まで前記下蓋をねじ込むことによって、油圧回路内の作動油に最適の初期圧をかけることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る油圧回路用ピストン式アキュムレータの好適な実施形態を図面を参照して説明する。図1乃至図5は本発明に係る油圧回路用ピストン式アキュムレータの一実施形態を示したもので、図1は油圧回路用ピストン式アキュムレータの縦断面図、図2は図1のピストン式アキュムレータを使用した油圧回路の概略構成図、図3はピストン式アキュムレータの未使用状態を示す縦断面図、図4はピストン式アキュムレータの作動油充填前の下蓋退出操作を示す縦断面図、図5はピストン式アキュムレータの作動油充填直後の状態を示す縦断面図である。
【0019】まず、油圧回路の構成について説明した後、ピストン式アキュムレータの構造について詳述する。油圧回路22は、補助制動装置として車両に装備される流体式リターダ23の作動油の圧力や温度を適正範囲に管理するためのものである。流体式リターダ23の動作は、車両のハンドル24の周辺に装備されるコンビネーションスイッチ25の操作を検出するコントロールボックス26によって制御される。
【0020】前記コンビネーションスイッチ25は、流体式リターダ23のオン・オフを指示するスイッチである。流体式リターダ23は、油圧回路22内を流れる作動油圧を受けるロータ27を湿式クラッチ28を介してプロペラシャフト29に接続することで、プロペラシャフト29の回転数に応じた制動トルクを得るもので、湿式クラッチ28の断続動作は、湿式クラッチ28の後部に配置されたメカニカルアクチュエータ30によってなされる。
【0021】前記メカニカルアクチュエータ30は、クラッチコントロール系34によって駆動される。このクラッチコントロール系34は、バキューム圧によって往復動をするバキュームチャンバ31と、該バキュームチャンバ31に作用するバキューム圧源であるバキュームタンク32と、該バキュームタンク32からバキュームチャンバ31へのバキューム圧供給を制御するクラッチ制御用電磁弁35とを備えた構成で、前記クラッチ制御用電磁弁35の流路切り替え制御が前記コントロールボックス26によって行われる。
【0022】前記油圧回路22は、前記流体式リターダ23への作動油の循環路を提供する管路37と、作動油を循環させるオイルポンプ38と、循環する作動油を適正温度に冷却するオイルクーラー39と、該オイルクーラー39に送風する冷却ファン40と、循環する作動油の圧力変動を抑制するピストン式アキュムレータ21とから構成されている。
【0023】前記コントロールボックス26は、前記コンビネーションスイッチ25の操作だけでなくエキゾーストブレーキスイッチ42の操作も監視しており、また、油温スイッチ(温度センサ)43,44によって流体式リターダ23内の作動油温度を監視しており、これらの監視結果に基づいて、クラッチ制御用電磁弁35やオイルポンプ38や冷却ファン40の動作を制御すると共に、リターダ作動ランプ45や油温警報ランプ46の点灯制御を行う。なお、油温スイッチ43は作動油の異常温度を検知するためのものであり,油温スイッチ44は作動油の動作温度を検知するためのものである。
【0024】以下、ピストン式アキュムレータ21について詳述する。前記ピストン式アキュムレータ21は、図1に示すように、有頭筒状の上部ハウジング51と有底筒状の下部ハウジング52とで筒状の容器を構成するシリンダ53と、該シリンダ53内に往復動可能に組み付けられるピストン54と、該ピストン54の頂部54aとシリンダ周壁51a,52aとの間に張設されてシリンダ53内上部に油圧回路22の作動油循環路(管路37)に連通する油室55を画成するダイヤフラム56と、前記ピストン54とシリンダ底部52bとの間に介装されて油室55の容積が小さくなる方向に前記ピストン54を付勢して油圧回路22内の作動油の油圧変動を抑制する圧縮コイルばね58とを備えた構成とされている。
【0025】ここに、前記油室55は、上部ハウジング51の頂壁に装備された連通管59が油圧回路22の管路37に接続されることによって、油圧回路22の作動油循環路に連通する。また、シリンダ53を構成する上下のハウジング51,52相互は、互いに突き合されるフランジ51c,52c同士をねじ部材で連結固定することによって一体化されている。そして、フランジ51c,52cが、前記ダイヤフラム56の外周部を挾持している。
【0026】一方、ピストン54は、有頭筒状のピストン本体61と、該ピストン本体61の頂部54aに締結されてダイヤフラム56の中心部を挾持するダイヤフラム固定板62とを有した構成である。そして、前記ピストン本体61の下部外周には、シリンダ53の内周面に摺動自在に当接してピストン54をシリンダ53の中心軸上に位置決めし、シリンダ53内におけるピストン54の往復動作のガイドとなるガイド部64が突設されている。このガイド部64には、円滑な摺動を実現することから、摩擦係数の小さな滑り軸受用のメタルや樹脂による当接部材64aが貼設されている。
【0027】また、前記圧縮コイルばね58は、ばね定数の小さなサブ圧縮コイルばね67と、ばね定数が前記サブ圧縮コイルばね67よりも大きく設定されたメイン圧縮コイルばね70とを直列に組み合わせた構成をなしている。ここに、前記サブ圧縮コイルばね67は、ピストン54内の空洞に浮遊装備される中間ばね受け座66とピストン54の頂部54aとの間に介装されて油圧回路22内の作動油の初期圧設定を受け持つ。また、前記メイン圧縮コイルばね70は、シリンダ53の底部を構成する下蓋68に形成された底部ばね座69と前記中間ばね受け座66との間に介装されて、油圧回路22の作動時にピストン54を所定の力で付勢して回路内の圧力変動を抑制する。
【0028】また、前記底部ばね座69は、メイン圧縮コイルばね70が嵌合する円筒状をなしていて、その外周には、下部ハウジング52のシリンダ底部52bに螺合する雄ねじ72が形成されている。この雄ねじ72は、長さL1 に渡って形成されており、図4に示すように、下蓋68を回すことで、メイン圧縮コイルばね70を支えた状態を維持したまま距離L2 だけ下蓋68をシリンダ底部52bから退出可能にされている。このように下蓋68を距離L2 だけ退出した状態とした場合、メイン圧縮コイルばね70は自由長になり、また、サブ圧縮コイルばね67は、図4に示すように、シリンダ53内上限位置にピストン54を保持する程度の付勢力が残る範囲内で圧縮が緩和される。
【0029】以上、本実施形態のピストン式アキュムレータ21は、未使用の状態で、下蓋68を下部ハウジング52のシリンダ底部52bに完全に締め付け固定した場合には、図3に示すように、メイン圧縮コイルばね70は自由長の状態にあり、またサブ圧縮コイルばね67は所定の圧縮を受け、該サブ圧縮コイルばね67の付勢力によってピストン54がシリンダ53内上限位置に移動した状態が維持される。
【0030】上記のピストン式アキュムレータ21を組み込んだ油圧回路22に作動油を充填する場合には、次の手順で行う。まず、油圧回路22の給油口を開いて作動油の供給を開始する前に、図4に示すように、前記メイン圧縮コイルばね70が自由長にまで伸張し、かつ、前記サブ圧縮コイルばね67がシリンダ53内上限位置にピストン54を保持する程度の付勢力を発揮する範囲内で適宜量伸張するように、前記シリンダ53の下蓋68を距離L2 だけ退出させておく。次いで、図5に示すように、アキュムレータ21の油室55内に所定量の作動油が充満するように油圧回路22の給油口から作動油の供給を実施する。次いで、油圧回路22の給油口を閉じた後に、図1に示すように、前記サブ圧縮コイルばね67が最大限に圧縮される位置まで前記下蓋68をねじ込むことで、油圧回路22内に充填された作動油に初期圧をかける。
【0031】このような作動油の充填方法によれば、油圧回路22内の作動油に最適の初期圧をかけることが、簡単に達成できることになる。また、上記実施形態のピストン式アキュムレータ21では、シリンダ53内のピストン54が、該ピストン54の下部外周に突設されたガイド部64とシリンダ内周面との当接により、シリンダ53内を往復動自在に位置決めされる。従って、ピストン54をシリンダ53の中心軸上に位置決めするためのガイド機構として、シリンダ底部の中心に軸受を装備して該軸受にピストンロッドを挿通させる構成を採用する必要がなくなり、シリンダ53から突出するピストンロッドを廃止して、飛石や氷結によって動作不良が発生することを回避できる。
【0032】また、ピストン54を付勢する圧縮コイルばね58が、ばね定数の小さなサブ圧縮コイルばね67と、ばね定数の大きなメイン圧縮コイルばね70との2段構成のため、前記サブ圧縮コイルばね67を非作動時における回路内作動油の加圧用に、そして、メイン圧縮コイルばね70を作動時における回路内作動油の加圧用に設計しておくことで、非作動時には回路22内の作動油に対する加圧を十分に弱めると同時に、作動時には回路22内の作動油に対する加圧を十分に高めることが可能になり、例えば、流体式リターダ23の非作動時には、余分な負荷がかからないようにする一方で、油圧回路22内に負圧やキャビテーションの発生を抑制することができ、また、流体式リターダ23の作動時には、流体式リターダ23が所望の制動トルクを発揮するように回路内の作動油を強く加圧し得ることができる。
【0033】補足説明すると、前記油圧回路22に組み込まれたピストン式アキュムレータ21におけるメイン圧縮コイルばね70のばね定数を変えることで、流体式リターダ23の出力特性が変る。図6は、メイン圧縮コイルばね70のばね定数がk1 の時のリターダ出力特性f1 ,ばね定数がk2 の時のリターダ出力特性f2 ,ばね定数がk3 の時のリターダ出力特性f3 を示している(但し、k1 >k2 >k3 )。従って、非作動時における初期加圧はサブ圧縮コイルばね67によって行い、メイン圧縮コイルばね70は作動時の加圧専用に設計し得るピストン式アキュムレータ21では、メイン圧縮コイルばね70を変更するだけで、流体式リターダ23の出力特性を車両の走行性能に簡単に適合させることが可能になり、汎用性の向上といったメリットも得られる。
【0034】本発明のピストン式アキュムレータが使用される油圧回路は、上記に示したものに限るものではない。例えば、車両の自動変速機を制御する油圧回路をはじめ、作動油圧の安定が必要とされる種々の油圧回路に利用することができる。
【0035】
【発明の効果】本発明の油圧回路用ピストン式アキュムレータによれば、シリンダ内のピストンは、該ピストンの下部外周に突設されたガイド部とシリンダ内周面との当接により、シリンダ内を往復動自在に位置決めされる。従って、ピストンをシリンダの中心軸上に位置決めするためのガイド機構として、シリンダ底部の中心に軸受を装備して該軸受にピストンロッドを挿通させる構成を採用する必要がなくなり、シリンダから突出するピストンロッドを廃止して、飛石や氷結によって動作不良が発生することを回避できる。また、ピストンを付勢する圧縮コイルばねが、ばね定数の小さなサブ圧縮コイルばねと、ばね定数の大きなメイン圧縮コイルばねとの2段構成にされた構成では、前記サブ圧縮コイルばねを非作動時における回路内作動油の加圧用に、そして、メイン圧縮コイルばねを作動時における回路内作動油の加圧用に設計しておくことで、更に、非作動時には回路内の作動油に対する加圧を十分に弱めると同時に、作動時には回路内の作動油に対する加圧を十分に高めることが可能になる。したがって、例えば、当該ピストン式アキュムレータを含む油圧回路が流体式リターダを制御するものである場合、流体式リターダの非作動時には、余分な負荷がかからないようにする一方で、油圧回路内に負圧やキャビテーションの発生を抑制することができ、また、流体式リターダの作動時には、流体式リターダが所望の制動トルクを発揮するように回路内の作動油を強く加圧し得ることができる。また、シリンダ底部を構成する下蓋が、前記サブ圧縮コイルばね及びメイン圧縮コイルばねの圧縮を解除する方向に退出可能に、シリンダ底部に螺着されている構成の場合には、油圧回路の給油口を開いて作動油の供給を開始する前に、メイン圧縮コイルばねが自由長にまで伸張し、かつ、前記サブ圧縮コイルばねがシリンダ内上限位置にピストンを保持する程度の付勢力を発揮する範囲内で適宜量伸張するように、前記シリンダの下蓋を退出させておき、次いで、前記油圧回路用ピストン式アキュムレータの油室内に所定量の作動油が充満するように油圧回路の給油口から作動油の供給を実施し、次いで、油圧回路の給油口を閉じた後に、前記サブ圧縮コイルばねが最大限に圧縮される位置まで前記下蓋をねじ込むことによって、油圧回路内の作動油に最適の初期圧をかけることが、簡単に達成できることになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る油圧回路用ピストン式アキュムレータの一実施形態の縦断面図である。
【図2】図1のピストン式アキュムレータを使用した油圧回路の概略構成図である。
【図3】ピストン式アキュムレータの未使用状態を示す縦断面図である。
【図4】ピストン式アキュムレータの作動油充填前の下蓋退出操作を示す縦断面図である。
【図5】ピストン式アキュムレータの作動油充填直後の状態を示す縦断面図である。
【図6】油圧回路用ピストン式アキュムレータのメイン圧縮コイルばねのばね定数と流体式リターダの出力特性との関係を示すグラフである。
【図7】従来の油圧回路用ピストン式アキュムレータの縦断面図である。
【符号の説明】
21 ピストン式アキュムレータ
22 油圧回路
23 流体式リターダ
25 コンビネーションスイッチ
26 コントロールボックス
37 管路
38 オイルポンプ
39 オイルクーラー
51 上部ハウジング
52 下部ハウジング
53 シリンダ
54 ピストン
55 油室
56 ダイヤフラム
58 圧縮コイルばね
64 ガイド部
66 中間ばね受け座
67 サブ圧縮コイルばね
68 下蓋
69 底部ばね座
70 メイン圧縮コイルばね
72 雄ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダ内に往復動可能に組み付けられるピストンと、該ピストンの頂部とシリンダ周壁との間に張設されてシリンダ内上部に油圧回路の作動油循環路に連通する油室を画成するダイヤフラムと、前記ピストンとシリンダ底部との間に介装されて前記油室の容積が小さくなる方向に前記ピストンを付勢して油圧回路内の作動油の油圧変動を抑制する圧縮コイルばねとを備えてなる油圧回路用ピストン式アキュムレータにおいて、前記ピストンの下部外周には、前記シリンダの内周面に摺動自在に当接して該ピストンをシリンダの中心軸上に位置決めし、シリンダ内における該ピストンの往復動作のガイドとなるガイド部が突設されたことを特徴とする油圧回路用ピストン式アキュムレータ。
【請求項2】 前記圧縮コイルばねとして、ピストン内の空洞に浮遊装備される中間ばね受け座とピストンの頂部壁との間に介装されて油圧回路内の作動油の初期圧設定を受け持つばね定数の小さなサブ圧縮コイルばねと、シリンダ底部を構成する下蓋に形成された底部ばね座と前記中間ばね受け座との間に介装されるとともにばね定数が前記サブ圧縮コイルばねよりも大きく設定されて油圧回路作動時に前記ピストンを所定の力で付勢するメイン圧縮コイルばねとが装備されたことを特徴とする請求項1に記載の油圧回路用ピストン式アキュムレータ。
【請求項3】 シリンダ底部を構成する前記下蓋は、前記サブ圧縮コイルばね及びメイン圧縮コイルばねの圧縮を解除する方向に退出可能に、前記シリンダ底部に螺着されていることを特徴とした請求項2に記載の油圧回路用ピストン式アキュムレータ。
【請求項4】 請求項3に記載の油圧回路用ピストン式アキュムレータを含む油圧回路へ作動油を充填する油圧回路への作動油充填方法であって、前記油圧回路の給油口を開いて作動油の供給を開始する前に、前記メイン圧縮コイルばねが自由長にまで伸張し、かつ、前記サブ圧縮コイルばねがシリンダ内上限位置にピストンを保持する程度の付勢力を発揮する範囲内で適宜量伸張するように、前記シリンダの下蓋を退出させておき、次いで、前記油圧回路用ピストン式アキュムレータの油室内に所定量の作動油が充満するように前記油圧回路の給油口から作動油の供給を実施し、次いで、前記油圧回路の給油口を閉じた後に、前記サブ圧縮コイルばねが最大限に圧縮される位置まで前記下蓋をねじ込むことによって、油圧回路内の作動油に初期圧をかけることを特徴とした油圧回路への作動油充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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