説明

油圧式クラッチレリーズ装置

【課題】シールが油路によって傷付かないようにすることができる油圧式クラッチレリーズ装置を提供すること。
【解決手段】内側ハウジング1と、外側ハウジング2と、内側ハウジング1と外側ハウジング2の間にて構成されるシリンダ室4と、外側ハウジング2において形成されるとともにシリンダ室4に通ずる油路と、シリンダ室4内にて軸方向へ摺動可能に収容された環状ピストン6、7と、環状ピストン6の受圧部に装着されたシール3と、シリンダ室4内に配されるとともにシール3が油路(段差部2cとフランジ部1bの間の油路)に到達しないようにシール3のスライドを規制し、かつ、内側ハウジング1と外側ハウジング2のいずれとも別体のストッパ部材14と、ストッパ部材14に設けられるとともに外側ハウジング2に係合する係合手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧によってクラッチを遮断状態にする油圧式クラッチレリーズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧式クラッチレリーズ装置は、内側ハウジングと外側ハウジングと環状ピストンとによって内側ハウジングと外側ハウジングとの間に油室を形成し、油室内の油圧によって環状ピストン及びレリーズベアリングを回転伝達軸の軸方向へ移動してクラッチを遮断状態にする。油室内を摺動する環状ピストンの先端部にはシールが装着されている。油圧式クラッチレリーズ装置においては、エンジンのクランクシャフトによってもたらされる軸方向の振動の油圧系への伝播遮断や、エア抜き作業時のシールと環状ピストンの分離防止のために、シールと環状ピストンはある軸方向隙間をもって連結されるが、軸方向隙間の設定量はエンジンに依存し、振動の大きいエンジンほど伝播遮断のために隙間を大きくする必要がある。ゆえに、エンジン振動に応じた隙間量の選択もしくは完全分離が必要となる。シールと環状ピストンの軸方向の間に隙間を有する従来技術として、以下のようなものが開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、シールが軸方向及び径方向の隙間を持って、シール又はその補強物に形成された突起によって環状ピストンとスライド可能に連結されているものが開示されている。また、特許文献2では、シールは圧力室の側面上に円環形を呈するシールキャリアに固定されており、シールキャリアは軸方向及び径方向の隙間を持って環状ピストンにスライド可能に連結されたものが開示されている。また、特許文献3では、シールが軸方向の隙間を持って、シールに形成された突起によって環状ピストンとスライド可能に連結されているものが開示されている。
【0004】
特許文献1−3に記載の油圧式クラッチレリーズ装置では、いずれも、軸方向において内側ハウジングに形成されたフランジ部と外側ハウジングの間に油路となる隙間を有する。
【0005】
【特許文献1】独国特許第19681324号明細書
【特許文献2】米国特許第6273231号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第2745617号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、環状ピストンが内側ハウジングのフランジ部と外側ハウジングとの間の油路付近までスライドすると、シールが内側ハウジングのフランジ部と外側ハウジングとの間の油路に到達するおそれがあり、そうするとシールが外側ハウジングの内周面と軸方向の面との角部に当って傷付き、シールの封止力が損なわれるおそれがある。
【0007】
本発明の主な課題は、シールが油路によって傷付かないようにすることができる油圧式クラッチレリーズ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の視点においては、油圧式クラッチレリーズ装置において、回転軸を包囲する内側ハウジングと、前記内側ハウジングを包囲する外側ハウジングと、前記内側ハウジングと前記外側ハウジングの間にて構成されるシリンダ室と、前記外側ハウジングにおいて形成されるとともに前記シリンダ室に通ずる油路と、前記シリンダ室内にて軸方向へ摺動可能に収容された環状ピストンと、前記環状ピストンの摺動に伴って移動可能なレリーズベアリングと、前記環状ピストンの受圧部に装着されたシールと、前記シリンダ室内に配されるとともに前記シールが前記油路に到達しないように前記シールのスライドを規制し、かつ、前記内側ハウジングと前記外側ハウジングのいずれとも別体のストッパ部材と、前記ストッパ部材に設けられるとともに前記外側ハウジングに係合する係合手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記内側ハウジングは、円筒部の一端が外周側に延在したフランジ部を有し、前記外側ハウジングは、前記フランジ部と接合するとともに、前記フランジ部と接合面にて前記油路と前記シリンダ室を流路として接続するための段差部を有し、前記係合手段は、前記段差部と係合することが好ましい。
【0010】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記ストッパ部材は、前記円筒部の外周に配されたリング部を有し、前記係合手段は、前記リング部の外周面において前記フランジ部と前記段差部の間の隙間に延在した複数の爪部であることが好ましい。
【0011】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記ストッパ部材は、前記内側ハウジング及び前記外側ハウジングに対して相対回転可能かつ軸方向移動可能に配されており、前記リング部の外周面において径方向外側に向けて突出する凸部を複数有し、
前記凸部は、周方向の片側の面に先端側の角部が面取りされたガイド面をそれぞれ有し、前記ガイド面は、隣り合う前記凸部の間の油路の圧油の流れに応じて前記ストッパ部材を回転させるように構成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記ガイド面は、テーパ面である。
【0013】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記ガイド面は、前記凸部における前記ガイド面の反対面よりも面積が大きいことが好ましい。
【0014】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記ガイド面は、周方向において隣り合う前記凸部の前記ガイド面と対向することが好ましい。
【0015】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記凸部は、外周先端部にて前記爪部を有することが好ましい。
【0016】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記リング部の軸方向の厚さは、前記フランジ部と前記段差部の間の隙間よりも厚く構成されていることが好ましい。
【0017】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記環状ピストンは、前記レリーズベアリングが取り付けられた第1環状ピストンと、前記シールが装着された第2環状ピストンと、からなることが好ましい。
【0018】
本発明の第2の視点においては、油圧式クラッチレリーズ装置において、回転軸を包囲する内側ハウジングと、前記内側ハウジングを包囲する外側ハウジングとを有するハウジングと、前記内側ハウジングと前記外側ハウジングの間にて構成されるシリンダ室と、前記シリンダ室に通ずる油路と、前記シリンダ室内にて軸方向へ摺動可能に収容されたピストンと、前記ピストンの受圧部に装着されたシールと、前記シリンダ室内に配されるとともに前記シールのスライドを規制するストッパ部材と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記ストッパ部材は、前記ハウジングに係合する係合手段を有することが好ましい。
【0020】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記ストッパ部材は、前記回転軸を中心として前記ハウジングに対して相対回転可能に配設されることが好ましい。
【0021】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記ストッパ部材は、前記回転軸に同軸なリング部と、前記リング部の外周部から径方向外側に向けて突出する凸部と、を有し、前記油路と前記シリンダ室との間における作動流体の流れが前記凸部に作用することにより前記ストッパ部材は回転されることが好ましい。
【0022】
本発明の前記油圧式クラッチレリーズ装置において、前記凸部の周方向の片側の面はテーパ面であり、前記周方向において隣り合う前記凸部の前記テーパ面は対向し、対向する前記テーパ面の前記リング部の外側に向かう延長線は交わりの関係にないことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明(請求項1−10)によれば、ストッパ部材がシールのスライドを規制するので、シールが油路に到達しなくなり、シールが傷付くのを防止することができ、シールの封止力が損なわれずにすむ。ストッパ部材は油圧式クラッチレリーズ装置にもともとある油路(段差部とフランジ部の間の油路)及びシリンダ室にて位置を決めないで配置することができるので、内側ハウジング及び外側ハウジングの設計変更をすることなく、任意に組み付けることができる。
【0024】
また、本発明(4−10)によれば、ストッパ部材の凸部の周方向の片側の面にガイド面を有するため、凸部が圧油の流れを妨げたとしても、圧油の流れによってストッパ部材が回転し、圧油を抵抗なく流すことができ、低温時においても圧油の流れを妨げずペダルの戻りが悪くならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る油圧式クラッチレリーズ装置では、回転軸を包囲する内側ハウジング(図1の1)と、前記内側ハウジング(図1の1)を包囲する外側ハウジング(図1の2)と、前記内側ハウジング(図1の1)と前記外側ハウジング(図1の2)の間にて構成されるシリンダ室(図1の4)と、前記外側ハウジング(図1の2)において形成されるとともに前記シリンダ室(図1の4)に通ずる油路(図1の段差部2cとフランジ部1bの間の油路)と、前記シリンダ室(図1の4)内にて軸方向へ摺動可能に収容された環状ピストン(図1の6、7)と、前記環状ピストン(図1の6、7)の摺動に伴って移動可能なレリーズベアリング(図1の5)と、前記環状ピストン(図1の6)の受圧部に装着されたシール(図1の3)と、前記シリンダ室(図1の4)内に配されるとともに前記シール(図1の3)が前記油路(段差部2cとフランジ部1bの間の油路)に到達しないように前記シール(図1の3)のスライドを規制し、かつ、前記内側ハウジング(図1の1)と前記外側ハウジング(図1の2)のいずれとも別体のストッパ部材(図1の14)と、前記ストッパ部材(図1の14)に設けられるとともに前記外側ハウジング(図1の2)に係合する係合手段(図1の14e)と、を備える。
【実施例1】
【0026】
本発明の実施例1に係る油圧式クラッチレリーズ装置について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施例1に係る油圧式クラッチレリーズ装置の構成を模式的に示した断面図である。図2は、本発明の実施例1に係る油圧式クラッチレリーズ装置におけるストッパ部材の構成を模式的に示した(A)底面図、及び(B)X−X´間の断面図である。
【0027】
図1を参照すると、油圧式クラッチレリーズ装置は、内側ハウジング1と外側ハウジング2と第2環状ピストン7とによって内側ハウジング1と外側ハウジング2との間に油室4を形成し、油室4内の油圧によって環状ピストン6、7、及びレリーズベアリング5を回転伝達軸の軸方向へ移動してクラッチ(図示せず)を遮断状態にする装置である。油圧式クラッチレリーズ装置は、内側ハウジング1と、外側ハウジング2と、シール3と、油室4と、レリーズベアリング5と、第1環状ピストン6と、第2環状ピストン7と、皿バネ8と、コイルスプリング9と、シート部材10と、カバー部材11と、止め輪12と、シール13と、ストッパ部材14と、を有する。
【0028】
内側ハウジング1は、環状(ドラム状、筒状)の部材であり、シリンダ室の一部となる。内側ハウジング1は、筒状部1aと、フランジ部1bと、を有する。筒状部1aは、変速機(図示せず)の入力軸(図示せず)を包囲する部分である。フランジ部1bは、筒状部1aの一端から外周方向に延在した部分である。
【0029】
外側ハウジング2は、所定間隔をおいて内側ハウジング1を包囲するように配され、シリンダ室の一部となる。外側ハウジング2は、油ポート2aと、取付フランジ2bと、段差部2cと、を有する。油ポート2aは、クラッチマスタシリンダ(図示せず)等から供給された圧油を油室4に供給する油路となる部分である。取付フランジ2bは、変速機等に取り付けるためのフランジ形状部分である。段差部2cは、外側ハウジング2のフランジ部1b側の面に形成された凹部であり、油室4の外周にて環状に形成されている。段差部2cは、油ポート2aからの圧油を油室4に供給する油路となる。段差部2cとフランジ部1bの間の空間には、所定のクリアランスを介してストッパ部材14の爪部14eが配されている。
【0030】
シール3は、弾性材料よりなり、油室4を密封する環状のシール部材である。シール3は、内側ハウジング1と外側ハウジング2の間に配され、第2環状ピストン7の凹部7aに装着されている。
【0031】
油室4は、内側ハウジング1、外側ハウジング2、及び第2環状ピストン7に囲まれた環状のシリンダ室である。油室4は、段差部2cとフランジ部1bの間の油路、及び油ポート2aを介してクラッチマスタシリンダ(図示せず)等に接続されている。
【0032】
レリーズベアリング5は、保持部材5cに取り付けられたボールベアリングである。レリーズベアリング5の内輪5aは、ボールを介して外輪5bに回動可能に支持されており、クラッチ側(図1の右側)の端部にてダイヤフラムスプリング(図示せず)と常時接合している。したがって、内輪5aは、ダイヤフラムスプリング(図示せず)と一体的に回転する。なお、ダイヤフラムスプリング(図示せず)は、プレッシャプレート(図示せず)を介してクラッチディスク(図示せず)をフライホイール(図示せず)に圧接させる。レリーズベアリング5の外輪5bは、保持部材5cを介して第1環状ピストン6に固定された非回転輪である。レリーズベアリング5の保持部材5cは、第1環状ピストン6の取付部6aにて皿バネ8によって調芯可能に取り付けられており、コイルスプリング9側の面にてシート部材10を介してコイルスプリング9の付勢力を受けている。
【0033】
第1環状ピストン6は、内側ハウジング1と外側ハウジング2の間において第2環状ピストン7の摺動により軸方向(図1の左右方向)に摺動可能に作動する環状部材である。第1環状ピストン6は、外側ハウジング2に収容されない部位にレリーズベアリング5を取り付けるための取付部6aを有する。第1環状ピストン6は、油室4側の端部にて第2環状ピストン7と接離可能に当接している。
【0034】
第2環状ピストン7は、内側ハウジング1と外側ハウジング2の間において油圧により入力軸(図示せず)の軸方向(図1の左右方向)に摺動可能に作動する部材である。第2環状ピストン7は、油室4側の端部にシール3を装着するための凹部7aを有する。第2環状ピストン7は、クラッチ側(図1の右側)の端部にて第1環状ピストン6と接離可能に当接している。
【0035】
皿バネ8は、第1環状ピストン6の取付部6aにレリーズベアリング5の保持部材5cを取り付けるためのばね弾性を有する環状の部材である。皿バネ8は、レリーズベアリング5を半径方向に調心移動可能に支持する。
【0036】
コイルスプリング9は、入力軸(図示せず)の軸方向(図1の左右方向)であってシート部材10とカバー部材11のシート部11aとの間に介在している。コイルスプリング9は、シート部材10を介してレリーズベアリング5をダイヤフラムスプリング(図示せず)側に付勢している。
【0037】
シート部材10は、コイルスプリング9の一端を支持するための部材であり、レリーズベアリング5の保持部材5cに取り付けられている。
【0038】
カバー部材11は、コイルスプリング9の外周をカバーする円筒状の部材である。カバー部材11は、環状ピストン6、7が油室4側にスライドしたときにもレリーズベアリング5と抵触しないように設定されている。カバー部材11は、変速機側(図1の左側)の端部にて内周側に延在したシート部11aを有する。シート部11aは、コイルスプリング9の他端を支持し、外側ハウジング2に当接している。
【0039】
止め輪12は、環状ピストン6、7のクラッチ側(図1の右側)へのスライドを規制する環状部材である。止め輪12は、内側ハウジング1の外周面のクラッチ側(図1の右側)の端部の近傍に形成された溝に取り付けられている。
【0040】
シール13は、内側ハウジング1のフランジ部1bと外側ハウジング2との接合面を封止するための弾性材料よりなる環状部材である。シール13は、油室4及び油ポート2aよりも外周側に配されている。
【0041】
ストッパ部材14は、シール3の変速機側(図1の左側)へのスライドを規制する環状部材である。ストッパ部材14は、エンジン(図示せず)のクランクシャフト(図示せず)によってもたらされる軸方向振動の油圧系への伝播遮断のためにピストンを完全分離した際に、シール3が段差部2cとフランジ部1bの間の油路で傷付かないようにするためのものである。ストッパ部材14は、内側ハウジング1の円筒部1aの外周にて、油室4のフランジ部1b近傍の部分から段差部2cとフランジ部1bの間の油路において、回動可能に配置されている。ストッパ部材14は、リング部14aと、溝部14bと、凸部14cと、ガイド面14dと、爪部14eとを有する(図2参照)。
【0042】
リング部14aは、油室4のフランジ部1b近傍の部分に配置されるストッパ部材14のリング状の部分である。リング部14aの軸方向の長さは、段差部2cとフランジ部1bの間の隙間よりも長く、シール3が段差部2cの角部に到達しないように設定されている。リング部14aの内周面は、油路となる隙間を介して内側ハウジング1の円筒部1aの外周に配置されている。リング部14aとフランジ部1bの間には、クリアランスを有する。リング部14aは、外周面にて外周側に延在した複数の凸部14cを有する。凸部14cの外周先端部は、クリアランスを介して外側ハウジング2の内周に配置されている。リング部14aは、フランジ部1b側の面にて複数の溝部14bを有する。溝部14bは、隣り合う凸部14cの間にて径方向に形成されている。隣り合う凸部14cの間の空所と、溝部14bは、油路となる。
【0043】
凸部14cの周方向の片側の面には、先端側の角部が面取りされたガイド面14dを有する。ガイド面14dは、テーパ面とされている。凸部14cにおけるガイド面14dの反対側の面は、径方向の面であり、ガイド面14dよりも面積が小さい。換言すれば、図3中においてストッパ部材14の径方向(図3中上下方向)において凸部14cと油ポート2aとが一致する際に、ガイド面14dの反対側の面は径方向と略並行とされている。ガイド面14dは、周方向において隣り合う凸部14cのガイド面14dと対向する。対向するガイド面14d(テーパ面)のリング部14aの外側へ向かう延長線は、交わりの関係にないようにされている。ガイド面14dは、凸部14cの位置が圧油の流れを妨げた場合に、ストッパ部材14を回転させて、圧油の流れを妨げないようにするためのものである。ガイド面14dは、隣り合う凸部14cの間の油路の圧油の流れに応じてストッパ部材14を回転させることで、隣り合う凸部14cの間の油路を、外側ハウジング2の油ポート2aに位置合わせするようにガイドする(図3参照)。
【0044】
凸部14cの外周先端部には、段差部2cとフランジ部1bの間の油路に突出した爪部14eを有する。爪部14eは、段差部2cとフランジ部1bの間に引っ掛かることでストッパ部材14の軸方向への移動を規制する。爪部14eは、段差部2cとフランジ部1bの間の隙間にてクリアランスを介して配されている。
【0045】
次に、本発明の実施例1に係る油圧式クラッチレリーズ装置の動作について図面を用いて説明する。図3は、本発明の実施例1に係る油圧式クラッチレリーズ装置におけるストッパ部材の動作を模式的に示した図である。
【0046】
クラッチペダル(図示せず)を踏み込んだときにクラッチマスタシリンダ(図示せず)より油室4に圧油が供給され、環状ピストン6、7、及びレリーズベアリング5をクラッチ側(図1の右側)に移動させ、クラッチ(図示せず)が遮断する。
【0047】
クラッチペダル(図示せず)を解放したときに油室4の圧油が油ポート2aから排出され、環状ピストン6、7、レリーズベアリング5が油室4側に移動し、クラッチ(図示せず)が係合する。
【0048】
ここで、図3上段のように圧油の流れがストッパ部材14によって妨げられたとき、ストッパ部材14の凸部14cのガイド面14dに圧油が当たり、ストッパ部材14に回転力が働く。つまり、ガイド面14dが先端側の角部が面取りされているため、凸部14cにおけるガイド面14dの反対面に作用する力よりもガイド面14dに作用する力の方が大きく、ストッパ部材14がガイド面14d側から押されて回転する。この回転力により、ストッパ部材14は力が均衡するところ(圧油が抵抗なく流れるところ)まで回転し、図3下段のように隣り合うガイド面14d間の油路が油ポート2aに位置合わせされる。
【0049】
実施例1によれば、ストッパ部材14がシール3の変速機側(図1の左側)へのスライドを規制するので、シール3が段差部2cの角部に到達しなくなり、シール3が傷付くのを防止することができ、シールの封止力が損なわれずにすむ。特に、環状ピストンが第1環状ピストン6と第2環状ピストン7に分割された構成となっているときには、シール3が油路(段差部2cとフランジ部1bの間の油路)に到達することがあるので、ストッパ部材14を配置することで、シール3が段差部2cの角部に到達しなくなる。
【0050】
また、ストッパ部材14の凸部14cの周方向の片側の面にガイド面14dを有するため、凸部14cが圧油の流れを妨げたとしても、圧油の流れによってストッパ部材14が回転し、圧油を抵抗なく流すことができ、低温時においても圧油の流れを妨げずペダルの戻りが悪くならない。ストッパ部材14は、ハウジング1、2内に配置するために円周上に放射状の凸部14cを形成しているが、凸部14cの位置によっては、低温時にフルードの粘性上昇で、凸部14cが抵抗になりペダルの戻り不良が発生するので、凸部14cの周方向の片側の面にガイド面14dを形成することで、凸部14cが圧油の流れを妨げたとしても、圧油の流れによってストッパ部材14が回転し、圧油を抵抗なく流すことができる。
【0051】
さらに、ストッパ部材14は油圧式クラッチレリーズ装置にもともとある油路(段差部2cとフランジ部1bの間の油路)及び油室4にて位置を決めしないで配置することができるので、内側ハウジング1及び外側ハウジング2の設計変更をすることなく、任意に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例1に係る油圧式クラッチレリーズ装置の構成を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る油圧式クラッチレリーズ装置におけるストッパ部材の構成を模式的に示した(A)底面図、及び(B)X−X´間の断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る油圧式クラッチレリーズ装置におけるストッパ部材の動作を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0053】
1 内側ハウジング
1a 筒状部
1b フランジ部
2 外側ハウジング
2a 油ポート
2b 取付フランジ
2c 段差部
3 シール
4 油室(シリンダ室)
5 レリーズベアリング
5a 内輪
5b 外輪
5c 保持部材
6 第1環状ピストン
6a 取付部
7 第2環状ピストン
7a 凹部
8 皿バネ
9 コイルスプリング
10 シート部材
11 カバー部材
11a シート部
12 止め輪
13 シール
14 ストッパ部材
14a リング部
14b 溝部
14c 凸部
14d ガイド面
14e 爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を包囲する内側ハウジングと、
前記内側ハウジングを包囲する外側ハウジングと、
前記内側ハウジングと前記外側ハウジングの間にて構成されるシリンダ室と、
前記外側ハウジングにおいて形成されるとともに前記シリンダ室に通ずる油路と、
前記シリンダ室内にて軸方向へ摺動可能に収容された環状ピストンと、
前記環状ピストンの摺動に伴って移動可能なレリーズベアリングと、
前記環状ピストンの受圧部に装着されたシールと、
前記シリンダ室内に配されるとともに前記シールが前記油路に到達しないように前記シールのスライドを規制し、かつ、前記内側ハウジングと前記外側ハウジングのいずれとも別体のストッパ部材と、
前記ストッパ部材に設けられるとともに前記外側ハウジングに係合する係合手段と、
を備えることを特徴とする油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項2】
前記内側ハウジングは、円筒部の一端が外周側に延在したフランジ部を有し、
前記外側ハウジングは、前記フランジ部と接合するとともに、前記フランジ部と接合面にて前記油路と前記シリンダ室を流路として接続するための段差部を有し、
前記係合手段は、前記段差部と係合することを特徴とする請求項1記載の油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項3】
前記ストッパ部材は、前記円筒部の外周に配されたリング部を有し、
前記係合手段は、前記リング部の外周面において前記フランジ部と前記段差部の間の隙間に延在した複数の爪部であることを特徴とする請求項2記載の油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項4】
前記ストッパ部材は、前記内側ハウジング及び前記外側ハウジングに対して相対回転可能かつ軸方向移動可能に配されており、前記リング部の外周面において径方向外側に向けて突出する凸部を複数有し、
前記凸部は、周方向の片側の面に先端側の角部が面取りされたガイド面をそれぞれ有し、
前記ガイド面は、隣り合う前記凸部の間の油路の圧油の流れに応じて前記ストッパ部材を回転させるように構成されていることを特徴とする請求項記載の油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項5】
前記ガイド面は、テーパ面であることを特徴とする請求項記載の油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項6】
前記ガイド面は、前記凸部における前記ガイド面の反対面よりも面積が大きいことを特徴とする請求項4又は5記載の油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項7】
前記ガイド面は、周方向において隣り合う前記凸部の前記ガイド面と対向することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一に記載の油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項8】
前記凸部は、外周先端部にて前記爪部を有することを特徴とする請求項2乃至のいずれか一に記載の油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項9】
前記リング部の軸方向の厚さは、前記フランジ部と前記段差部の間の隙間よりも厚く構成されていることを特徴とする請求項2乃至のいずれか一に記載の油圧式クラッチレリーズ装置。
【請求項10】
前記環状ピストンは、前記レリーズベアリングが取り付けられた第1環状ピストンと、前記シールが装着された第2環状ピストンと、からなることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一に記載の油圧式クラッチレリーズ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100910(P2013−100910A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−11924(P2013−11924)
【出願日】平成25年1月25日(2013.1.25)
【分割の表示】特願2008−256353(P2008−256353)の分割
【原出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】