説明

油圧緩衝器

【課題】 取付長を短くすることが可能な両ロッド型の油圧緩衝器を提供することである。
【解決手段】 シリンダ2と、シリンダ2内に移動可能に挿通されるロッド4と、シリンダ2側に連設されるボールジョイントJ1を構成する球体5とを備えた両ロッド型の油圧緩衝器1において、上記球体5にロッド4が移動可能に挿通される中空部9を設けて、ボールジョイント部分をもロッド4の移動範囲とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧緩衝器の改良に関し、特に、シリンダ端にボールジョイントを構成する球体が連設された油圧緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、構造物の耐震性を向上させるために、図4に示すように、上梁B1と下梁B2との間に設けた間柱Sを途中で分割し、この分割された間柱Sの間に両ロッド型の油圧緩衝器Dを介装して、構造物に作用する振動を減衰させているものがある。
【0003】
このような制振装置で使用される油圧緩衝器Dを間柱S間に介装する方法としては種々あるが、特に、いわゆるボールジョイントを介して間柱Sに取付ける場合としては、たとえば、図5に示すように、油圧緩衝器Dの端部に設けた球体Rと、該球体Rを抱持する保持部Tとでボールジョイントを構成するとともに、この保持部Tを間柱Sに起立したブラケットたるプレートPに連結するものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004-116552号公報(段落番号0020,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の油圧緩衝器では特に機能上特に欠陥があるわけではないが、以下の不具合があると指摘される危険がある。
【0005】
ここで、間柱Sは、上述のように構造物の柱と梁B1で作られるラーメン内に設けられるが、該ラーメン内に窓や出入口等の開口部を設ける場合、当該間柱Sは邪魔となるので、できるだけ間柱Sの幅を小さくする方が好ましい。
【0006】
しかしながら、間柱S間に介装される油圧緩衝器Dは、図5に示すがごとく、間柱S間に並行に寝かせた状態で介装されるので、間柱Sの幅は、ボールジョイントを含めた緩衝器Dの取付長Lを確保しなくてはならず、間柱Sの幅を小さくすることの弊害となっている。
【0007】
また、上記間柱S間以外でも一般的に狭い搭載スペースに油圧緩衝器を介装する必要がある場合には、上記取付長Lを小さくしたいという要請もある。
【0008】
そこで、本発明は上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、取付長を短くすることが可能な両ロッド型の油圧緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の課題解決手段は、シリンダと、シリンダ内に移動可能に挿通されるロッドと、シリンダ側に連設されるボールジョイントを構成する球体とを備えた両ロッド型の油圧緩衝器において、上記球体にロッドが移動可能に挿通される中空部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロッドは、シリンダ端に連設された球体内に移動自在に挿通されるから、ロッドが移動範囲を確保したうえで球体をシリンダ端に連設していた従来の油圧緩衝器ではデッドスペースとなるボールジョイント部分をもロッドの移動範囲とすることができ、その分油圧緩衝器の取付長を飛躍的に短くすることが可能となる。
【0011】
したがって、取付長が従来の油圧緩衝器より短くなるので、間柱の幅を小さくすることが可能となり、また、狭いスペースへの油圧緩衝器の搭載性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を、図に示した実施の形態にもとづいて説明する。図1は、第1の形態における油圧緩衝器の縦断面図ある。図2は、第2の実施の形態における油圧緩衝器の一部拡大縦断面図である。図3は、第3の実施の形態における油圧緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【0013】
なお、本発明に係る油圧緩衝器は、制振装置に具現化されており、この制振装置は、図4に示した従来の制振装置と同様に、間柱S間に油圧緩衝器1を介装させたものである。
【0014】
そして、第1の実施の形態における油圧緩衝器1は、シリンダ2と、シリンダ2内にピストン3を介して移動自在に挿通されたロッド4と、シリンダ2の端部に連設されたボールジョイントJ1の一部をなす球体5とを備え、シリンダ2内にピストン3で区画される2つの部屋R1,R2に作動油等の液体が充填され、いわゆる両ロッド型の緩衝器として構成され、ロッド4がシリンダ2に対し出没するときに所定の減衰力を発生するように設定されている。
【0015】
なお、本実施の形態のように制振用途に供される場合には、油圧緩衝器1に、シリンダロック機能を搭載させても良く、また、用途により油圧緩衝器1にアクチュエータとしての機能を搭載させても良い。
【0016】
以下、詳細に説明すると、シリンダ2は筒状に形成され、その両端には、シリンダ2を封止する封止部材20,21が結合され、この封止部材20,21の軸芯部にはロッド4が挿入される孔22,23が設けられている。
【0017】
そして、この孔22,23内には、軸受24を介してロッド4が摺動自在に挿入され、また、ロッド4と封止部材20,21との間をシールするシール部材25が設けられてシリンダ2内が油密状態下に保持されるとともに、シリンダ2内に埃等が侵入することを防止するダストシール26が設けられている。
【0018】
さらに、封止部材20の左端には、ボルト27,27によって継手部材Fが螺着されており、この継手部材Fは、ボールジョイントJ1の一部をなす球体5と、球体5から延設される連結部6とで構成されている。
【0019】
この連結部6は、封止部材20に螺着されるフランジ部7とフランジ部7の軸芯部から立ち上がる軸部8とで構成され、また、球体5は、軸部8の先端に設けられて連結部6と一体的に形成され、シリンダ2側に上記連結部6を介して連設されている。
【0020】
この場合、球体5と連結部6とを一体的に形成することで、この部分における剛性を高くすることができる利点がある。
【0021】
そして、この継手部材Fの軸芯部全体、すなわち、球体5および連結部6の軸芯部に、中空部たる孔9が設けられ、この孔9内には、封止部材20の図1中左端から突出するロッド4が挿通される。
【0022】
なお、この中空部たる孔9の内径は、ロッド4の移動を妨げることがないように、ロッド4の外径より大きくしてあればよい。
【0023】
さらに、上記球体5は、保持部10に抱持され、この球体5と保持部10とでボールジョイントJ1が構成されている。
【0024】
保持部10は、内部に球体5を摺動自在に抱持できるように中空部を設けてあり、具体的には、筒状の2つの部材11,12で構成され、各部材11,12の内部には、球体5を受けられるように、球面状の凹部が設けられ、この一方の部材11と他方の部材12とで球体5を挟み込むことにより、球体5は保持部10に締めつけられるとともに摺動自在に抱持される。
【0025】
さらに、ロッド4の図1中右端には、ボールジョイントJ2の一部を構成する球体13が結合され、この球体13は、保持部14に抱持され、球体13と保持部14とでボールジョイントJ2が構成されている。
【0026】
ボールジョイントJ2にあっても、保持部14は、ボールジョイントJ1と同様に、筒状の2つの部材15,16で構成され、この部材15,16で球体13を挟み込むことにより、球体13は保持部14に締めつけられるとともに摺動自在に抱持される。
【0027】
転じて、ロッド4の中間部には、ピストン3が連結されており、このピストン3によりシリンダ2内には部屋R1と部屋R2とが隔成される。
【0028】
なお、図示はしないが、部屋R1と部屋R2とを連通する通路が、たとえば、ピストン3内やロッド4内に設けられるとともに、この通路の途中に図示しない減衰力発生要素が設けられ、ピストン3が図1中左右に移動すると、シリンダ2内に充填された作動油は、該通路を介して各部屋R1,R2間を移動するので、油圧緩衝器1は、作動油の減衰力発生要素通過時に生じる圧力損失により所定の減衰力を発生するようになっている。
【0029】
また、シリンダ2内の作動油の温度変化による体積変化を補償するためには、図示しないがアキュムレータを設けるとすればよく、具体的には、ロッド4内もしくはシリンダ2の外方に設ければよい。ただし、油圧緩衝器1のスリム化という観点からは、ロッド4内に内設することが好ましい。
【0030】
さて、上述のように構成された油圧緩衝器1にあっては、ロッド4は、シリンダ2端に連設された球体5内に移動自在に挿通されるから、ロッドが移動範囲を確保したうえで球体をシリンダ端に連設していた従来の油圧緩衝器ではデッドスペースとなるボールジョイント部分をもロッド4の移動範囲とすることができ、その分油圧緩衝器1の取付長L1を飛躍的に短くすることが可能となる。
【0031】
したがって、取付長L1が従来の油圧緩衝器より短くなるので、間柱Sの幅を小さくすることが可能となり、また、狭いスペースへの油圧緩衝器の搭載性を向上させることが可能となる。
【0032】
そして、ボールジョイントの一部をなす球体に中空部が設けられることから、中空部の体積分の重量が軽量化されるので、油圧緩衝器全体としての重量も軽量化でき、油圧緩衝器の取付作業および搬送の点で有利となる。
【0033】
さらに、間柱Sの幅を小さくすることが可能であることから、構造体の柱と梁で作られるラーメンに対する間柱Sの占有面積が小さくなるので、ラーメンを壁以外の用途に使用することができる。
【0034】
すなわち、ラーメン内に出入口、給排気および給排水等の配管設備、通風設備、採光設備等のいわゆる非構造部材を設けることが可能となり、複数のラーメンを組み合せて完成される構造物の設計に当り、構造物への非構造部材の配置の自由度を飛躍的に高められる。そして、構造物の設計自由度が高められるので、設計者の設計上の負担も軽減される。
【0035】
つづいて、図2に示す第2の実施の形態における油圧緩衝器30について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については、同様の符号を付するのみとして、その詳しい説明を省略することとする。
【0036】
この油圧緩衝器30は、基本的には、第1の実施の形態における油圧緩衝器1と同様の構成とされ、第1の実施の形態と異なるのは、シリンダ2の図2中左端部を封止する封止部材31の形状と、この封止部材31に連結される継手部材F2の形状である。
【0037】
この異なる部分について、少々説明すると、第2の実施の形態における封止部材31には、その図2中左端側にソケット32が延設されている。
【0038】
他方、継手部材F2は、第1の実施の形態と同様の球体33と、球体33の図2中右端から延設される軸部34とで構成され、この軸部34の外周側には、雄螺子が形成され、この雄螺子がソケット32に形成の雌螺子に螺合されて、継手部材F2が封止部材31に結合されている。
【0039】
この第2の実施の形態の場合には、球体33が軸部34を介して封止部材31に螺着されるので、球体33のシリンダ2端への連設が容易となり、部品点数も第1の実施の形態に比較して少なくて済むという利点がある。
【0040】
そして、この継手部材F2にあっても、球体33と軸部34の軸心部には、ロッド4が挿通可能なように、中空部たる孔35が設けられており、これにより、第1の実施の形態と同様、油圧緩衝器30の取付長を飛躍的に短くすることが可能であり、この油圧緩衝器30にあっても、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することが可能である。
【0041】
さらに、図3に示す第3の実施の形態における油圧緩衝器40について説明すると、この第3の実施の形態における油圧緩衝器40にあっては、第1の実施の形態における油圧緩衝器1と異なる部分は、封止部材20に連結される継手部材F3である。
【0042】
この異なる部分について、少々説明すると、第3の実施の形態における継手部材F3は、第1の実施の形態と同様の球体41と、球体41の図3中右端から延設される軸部42と、軸部42と封止部材20とを連結する連結部43とで構成されている。
【0043】
連結部43は、封止部材20に螺着されるフランジ部44と、フランジ部44の軸芯部から立ち上がるソケット45とで構成され、ソケット45の内周には雌螺子が形成され、この雌螺子に、上記軸部42の外周に形成の雄螺子を螺合させて、連結部43と軸部42を結合してある。
【0044】
この第3の実施の形態の場合には、球体41が軸部42を介して連結部43に螺着されるので、球体41のシリンダ2端への連設が容易となる利点がある。
【0045】
したがって、球体41は、連結部43を介して封止部材20に連設され、また、この継手部材F3にあっても、球体41、軸部42および連結部43の軸心部には、ロッド4が挿通可能なように、中空部たる孔46が設けられており、これにより、第1の実施の形態と同様、油圧緩衝器40の取付長を飛躍的に短くすることが可能であり、この油圧緩衝器40にあっても、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することが可能である。
【0046】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1の形態における油圧緩衝器の縦断面図ある。
【図2】第2の実施の形態における油圧緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【図3】第3の実施の形態における油圧緩衝器の一部拡大縦断面図である。
【図4】間柱に油圧緩衝器を介装した制振装置を示す概略図である。
【図5】従来の油圧緩衝器の正面図である。
【符号の説明】
【0048】
1,30,40 油圧緩衝器
2 シリンダ
3 ピストン
4 ロッド
5,13,33,41 球体
6,43 連結部
7,44 フランジ部
8,34,42 軸部
9,35,46 中空部たる孔
10,14 保持部
20,21,31 封止部材
22,23 孔
24 軸受
25 シール部材
26 ダストシール
27 ボルト
32,45 ソケット
F,F2,F3 継手部材
J1,J2 ボールジョイント
R1,R2 部屋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、シリンダ内に移動可能に挿通されるロッドと、シリンダ側に連設されるボールジョイントを構成する球体とを備えた両ロッド型の油圧緩衝器において、上記球体にロッドが移動可能に挿通される中空部を設けたことを特徴とする油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−10017(P2006−10017A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190884(P2004−190884)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】