説明

治水ダムの濁水処理設備

【課題】治水ダムに好適な濁水対策を提供することを課題とする。
【解決手段】堆砂エリア13に流しても堆砂エリア13を乱さない程度の水量を小水量と呼び、このときには図(a)に示すように、水は堆砂エリア13に流す。小水量より大きな水量で且つ堆砂エリア13に流すと堆砂エリア13を乱す程度の水量を中水量と呼び、このときには(b)に示すように、転倒堰14を起立させる。すると、水は堆砂エリア13には至らないで、迂回水路15を流れ、放水口11に至る。この結果、放水口11からは清水が排出される。
【効果】小水量時は転倒堰は転倒させる。水は転倒堰を越え、堆砂エリアを流れ、放水口に至るが、水量が小さいため濁水は発生しない。中水量時は転倒堰を起立させる。水は転倒堰でせき止められ、堆砂エリアには至らない。水は迂回水路を介して放水口に至るため、濁水は発生しない。小水量時、中水量時ともに濁水の心配がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常は水を溜めずに洪水時に水を溜める治水ダムの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムには各種のものが実用化されてきた。
図5は従来の多目的ダムの断面図であり、ダム本体100は高さ方向の途中に放水口101を有し、この放水口101より下に、利水102と称する水を溜め、この利水102を発電用水、農業用水、工業用水などに利用するようにしている。また、想像線103で示すレベルまで水を溜めることで洪水対策を講じる(このことを治水と言う。)。すなわち、ダム本体100は、利水と治水との両目的を達成する構造になっているので多目的ダムと呼ばれる。
【0003】
洪水時には水と共に土砂がダム本体100の上流側貯水池に流れ込み、貯水全体が濁る。これの対策が提案されいる(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−143961号公報(図8)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図6は従来の技術の基本原理を説明する図であり、ダム110の上流に貯水堰111が設けられ、この貯水堰111の上流に貯砂堰112が設けられ、この貯砂堰112の上流に溜まる水をダム110の下流側に迂回する迂回トンネル113が設けられている。洪水時は迂回トンネル113を通じて上流の水をダム110の下流へバイパスする。すなわち、洪水は貯水池に入らないため、貯水が濁る心配はない。
【0005】
しかし、洪水がダム110の下流に放出されため、ダム110は治水(洪水をせき止めて下流側を保護する。)の機能を有さない。したがって、このダム110は利水ダム(利水専用ダム)であると言える。
以上に多目的ダム(図5)や利水ダム(図6)を説明した。次に治水ダム(治水専用ダム)を説明する。
【0006】
図7は従来の治水ダムの断面図であり、ダム本体120は、河床部に洪水吐出し口を兼ねた放水口121を有する。洪水時には想像線122で示す位置まで水を溜めるが、非洪水時には水123は留まらないで直接的に放水口121を通過する。
【0007】
図8は図7の要部拡大図であり、元河床124は、どうしても放水口121より下がる。施工上の理由がその要因である。すると、元河床124に砂125が溜まる。この砂125の上面は放水口121の排水レベルに一致する。余剰の砂は放水口121から排出される。排出される砂が少ないため水123が濁ることはない。そのため、このような治水ダムでは濁水対策は必要がないと言われてきた。
【0008】
しかし、治水ダムにおいても次に説明する問題があることが判明した。
図9は治水ダムの問題点を説明する図であり、非洪水時ではあるが、水123の量が増加して、流速が高まると水123で砂125が撹拌され、水123が濁る現象が出現した。そこで、治水ダムでも濁水対策を講じることが望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、治水ダムに好適な濁水対策を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、河床部に洪水吐出し口を兼ねた放水口を有する河床部穴あきダム本体と、このダム本体の上流側に堆積する堆砂エリアより上流に設けられる転倒堰と、起立状態の転倒堰でせき止めた水を前記堆砂エリアを迂回して前記放水口に導く迂回水路と、前記堆砂エリアに流しても堆砂エリアを乱さない程度の水量を小水量と呼び、この小水量より大きな水量で且つ前記堆砂エリアに流すと堆砂エリアを乱す程度の水量を中水量と呼び、この中水量より大きな水量で且つ洪水に相当する水量を大水量と呼ぶときに、小水量又は大水量のときに前記転倒堰を転倒させて水を堆砂エリアへ流し、中水量のときに前記転倒堰を起立させて水を迂回水路へ流すように転倒堰を制御する転倒堰制御部と、からなる治水ダムの濁水処理設備が提供される。
【0011】
請求項2に係る発明は、ダム本体の上流側又は下流側における水位を測る水位計と、堆砂エリアを流れる水の濁度を測る濁度計とを備え、
転倒堰制御部は、水位計の情報に基づいて大水量を認定し、濁度計の読みが清から濁に切り替わったときに小水量が中水量に変わったと認定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、小水量時は転倒堰は転倒させる。水は転倒堰を越え、堆砂エリアを流れ、放水口に至るが、水量が小さいため濁水は発生しない。
中水量時は転倒堰を起立させる。水は転倒堰でせき止められ、堆砂エリアには至らない。水は迂回水路を介して放水口に至るため、濁水は発生しない。
大水量時は転倒堰を転倒させる。水は転倒堰を越え、堆砂エリアを流れ、放水口に至る。水は濁水となるが、洪水であるため容認される。
したがって、本発明によれば非洪水時(中水量時を含む。)に濁水が発生する心配はない。
【0013】
請求項2に係る発明では、水位計と濁度計とに基づいて転倒堰制御部を作動させる。ダムは水位計を常備している。これに濁度計を付設するだけで制御が可能となるため、制御系の設備費用を圧縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る治水ダムの濁水処理設備の平面図であり、治水ダムの濁水処理設備10は、河底部に放水口11を有する河床部穴あきダム本体(以下、ダム本体と記す。)12と、このダム本体12の上流側に堆積する堆砂エリア13より上流に設けられる転倒堰14と、起立状態の転倒堰14でせき止めた水を堆砂エリア13を迂回して放水口11に導く迂回水路15と、転倒堰14を起立させる駆動部16と、水位計17や濁度計18の情報に基づいて駆動部16を制御する転倒堰制御部19とからなる。
【0015】
図2は図1の2−2線断面図であり、ダム本体12は河底部に放水口11を有する。そして、ダム本体12に水位計17を取付けるとともに、放水口11の下流に濁度計18を取付ける。想像線21は小水量時の水位を示す。
【0016】
水位計17はフロート式水位計が好適である。また、濁度計18は、透明な管とポンプとスペクトル分析部とを内蔵し、ポンプで汲み上げた水を透明な管に通し、光線を照射する。濁りが強いほど透過する光線は弱まる。すなわち、透過した光線の強さで濁度を特定することができる光学式濁度計が好適である。しかし、濁度計18の形式は問わない。
【0017】
図3は図1の3−3線断面図であり、(a)に示すように、転倒堰14は、樹脂又はゴム製の中空体22と、この中空体22を河床23に固定するアンカー24とで構成する。また、駆動部16は、ポンプなどの水圧源26と、この水圧源26を中空体22に接続する配管27と、この配管27に設けた三方口弁28とで構成する。
【0018】
(b)において、三方口弁28を切り替えて、水圧源26から高圧水29を中空体22へ吹き込むと、中空体22は膨れて、小さなダムになる。また、三方口弁28を切り替えて、中空体22から高圧水29を排出すると、(a)に示すように中空体22を平たくすることができる。(a)を転倒状態、(b)を起立状態と呼ぶ。三方口弁28の開閉は転倒堰制御部(図1、符号19)で実施する。
【0019】
以上の構成からなる治水ダムの濁水処理設備10の作用を次に説明する。
図4は治水ダムの濁水処理設備の作用説明図である。
堆砂エリア13に流しても堆砂エリア13を乱さない程度の水量を小水量と呼び、このときには(a)に示すように、水は堆砂エリア13に流す。転倒堰は転倒状態にあるため、図示しない。
【0020】
小水量より大きな水量で且つ堆砂エリア13に流すと堆砂エリア13を乱す程度の水量を中水量と呼び、このときには(b)に示すように、転倒堰14を起立させる。すると、水は堆砂エリア13には至らないで、迂回水路15を流れ、放水口11に至る。この結果、放水口11からは清水が排出される。
【0021】
中水量より大きな水量で且つ洪水に相当する水量を大水量と呼び、このときには、(c)に示すように、水は堆砂エリア13に流す。転倒堰は転倒状態にあるため、図示しない。水量が多いため堆砂エリア13の砂を巻き上げ、濁水になるが、洪水時であるため許容される。
【0022】
図1に示した濁度計18、水位計17及び転倒堰制御部19の作用は次のようにまとめることができる。
【0023】
【表1】

【0024】
濁度計18では「清」を検出した場合は、転倒堰制御部19は、小水量と認定し、図4(a)を実現する。
濁度計18での読みが、「清」から「濁」に変わったら、転倒堰制御部19は、中水量と認定し、図4(b)を実現する。
水位計17の読みが「高」になったら、洪水であるから、転倒堰制御部19は、大水量と認定し、図4(c)を実現する。
【0025】
水位が増加傾向にある場合は、以上の要領で制御される。
水位が減少傾向にある場合は、次の要領で制御する。
【0026】
【表2】

【0027】
本発明の制御を実施すると、中水量でも濁度は「清」になる。濁度では中水量を小水量に切り替えることができない。このときには、水位計の読みを使用する。水位計の読みが低から超低に変われば、水量的には小水量と見なす。
以上の要領で、図4(a)〜(c)の何れかを実現して治水を行う。
【0028】
尚、水位計の設置場所は任意であって、ダムの上流、下流の何れでも良い。一方、濁度計の設置場所は、堆砂エリアの途中又は下流であれば、場所は任意である。
また、転倒堰は中空体の他、鉄鋼製の堰であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、治水ダムの濁水処理設備に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る治水ダムの濁水処理設備の平面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】治水ダムの濁水処理設備の作用説明図である。
【図5】従来の多目的ダムの断面図である。
【図6】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【図7】従来の治水ダムの断面図である。
【図8】図7の要部拡大図である。
【図9】治水ダムの問題点を説明する図である。
【符号の説明】
【0031】
10…治水ダムの濁水処理設備、11…放水口、12…ダム本体、13…堆砂エリア、14…転倒堰、15…迂回水路、17…水位計、18…濁度計、19…転倒堰制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河床部に洪水吐出し口を兼ねた放水口を有する河床部穴あきダム本体と、このダム本体の上流側に堆積する堆砂エリアより上流に設けられる転倒堰と、起立状態の転倒堰でせき止めた水を前記堆砂エリアを迂回して前記放水口に導く迂回水路と、
前記堆砂エリアに流しても堆砂エリアを乱さない程度の水量を小水量と呼び、この小水量より大きな水量で且つ前記堆砂エリアに流すと堆砂エリアを乱す程度の水量を中水量と呼び、この中水量より大きな水量で且つ洪水に相当する水量を大水量と呼ぶときに、小水量又は大水量のときに前記転倒堰を転倒させて水を堆砂エリアへ流し、中水量のときに前記転倒堰を起立させて水を迂回水路へ流すように転倒堰を制御する転倒堰制御部と、からなる治水ダムの濁水処理設備。
【請求項2】
前記ダム本体の上流側又は下流側における水位を測る水位計と、前記堆砂エリアを流れる水の濁度を測る濁度計とを備え、
前記転倒堰制御部は、前記水位計の情報に基づいて大水量を認定し、前記濁度計の読みが清から濁に切り替わったときに小水量が中水量に変わったと認定することを特徴とする請求項1記載の治水ダムの濁水処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−75284(P2008−75284A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253320(P2006−253320)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(594135151)財団法人ダム技術センター (12)
【Fターム(参考)】