説明

洗濯機械力測定用スケール

【課題】 繊維製品の洗濯時に受ける物理化学的作用を測定するためのスケールの製作。
【解決手段】 顔料濃度、固着剤の濃度と種類、洗浄脱落性調節用の添加活性剤の微調整を、顔料捺染方式の固着度合を厳密に制御して印捺・キュワリングすることで、手洗いから強力洗濯までの幅広い機械的作用に応じて脱落度が変化する洗濯添付布試験布(スケール)を製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
繊維製品が洗濯時に受ける洗濯機械力を測定する洗濯機械力スケールの提供。
【背景技術】
【0002】
繊維製品は常に洗濯されるがそのときに被洗濯物が受ける条件は一定でない。繊維形状、洗濯機械の型式、洗濯条件の強弱、温度、時間、浴比、洗剤の種類などにより程度は異なる。
【0003】
繊維製品の水系洗濯の洗浄力に与える4大要素として、物理的機械力、物理化学的力、熱的力、時間の影響がそれぞれ35%、35%、15%、15%という報告(全国クリーニング生活衛生同業組合、「技術情報」2005.5,Vol 35)にもあるように、洗濯機械力の強さが大きな影響を与えるにもかかわらず、それを測定する適正な方法が存在しない。4大要素のうち、物理的機械力を除いた3要素については、人為的に条件を制御することが可能である。従い、ここで物理的機械力を把握する適正な方法が開発されれば、機械力を固定した上で、物理化学的力、熱的力、時間の影響等を普遍的な数値として把握、対比することができる、また、多様な洗濯機間・洗濯コース間の比較ができるようになり、より合理的な洗濯システム開発に貢献できると期待される。
【0004】
JIS L 0217やこれに基づく家庭用品品質表示法で規定する洗い方(103107)には洗濯方法が規定されているが、使用するJIS C9606に規定する遠心脱水機は家庭用洗濯機であればどのような洗濯機でもよいので、洗濯機自体には実質上規定はないことになる。そのため、例えば、JIS L0217に規定する104法に従い、液温、温度、浴比、洗濯時間、すすぎ回数等をいくら厳守しても、使用する洗濯機や洗濯コースにより、得られる結果が異なってくる。すなわち、現在の104法では普遍妥当性のある結果は得られない。普遍性のある結果を得る手法の開発が期待されている。
【0005】
JIS L 0217で規定する101−102法の試験法は、JIS L1096 8.13.2 B法に規定するシリンダ形洗濯機を用いて行うが、これと実用洗濯機との機械力の対比が行われておらず、洗濯試験法と実用洗濯機との関連が不明である。
【0006】
JIS C 9606付属書4に規定する汚染布は洗浄力を測定するのが目的である。この規定に基づいて市販されている汚染布は、経時的に汚染布に使用される汚れ成分等の固着が進み、脱落しにくくなるので、冷蔵庫での保管、使用可能期間が設定されている。すなわち、普遍性のある汚染除去率を得るには、保管や使用法に細心の注意が必要である。もちろん、この汚染布は洗濯の機械作用測定用に開発されたものではない。
【0007】
デンマーク(DANISH TECNOLOGIC INSTITE)には洗濯時の機械力(Mechanical Action=MA値)を測定するためのMA試験布がある。これは試験布に穿った穴部分で、洗濯機械力に応じて生成する織物の糸ほぐれの数を測定することで洗濯機械力を測定する。この方法は実用価値があると思われるが、濯機機械力が高い(強い)領域では、糸ほつれが難しくなって再現性のある測定結果が得られないといった欠点がある。また、試験布も高価である。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
洗濯機には、渦巻き型、タンブラー型などの多様な型式、回転の強弱、温度の高低、時間の長短、すすぎ洗いの回数等洗濯機によって、あるいは同一の洗濯機でも洗濯コースによって様々に洗濯方法が設定されている。これらの各種の洗濯機や同一の洗濯機の各コースについて普遍性のある洗濯機械力を示す指標を提示する。
【0009】
JIS L 0217、これに基づく家庭用品品質表示法で規定する洗い方(101107)に代えて、普遍性のある洗濯情報を消費者に提供する。
【0010】
ISO(国際標準化機構)の洗濯試験には標準洗濯試験機が規定されており、世界中で使用されている。その試験法(ISO 3758、以降ISOと称する)で、特にA型洗濯機として「ウエスケーターFMO71MP−Lab(A1タイプ)」がdefacto standardとしての地位を築いている。この試験機による洗濯試験法(1A〜9A及び模擬手洗い)の洗濯機械力と、わが国の各種洗濯機や洗濯コースの洗濯機械力を[0008]で示す指標を用いて対比することで、ISOとJISの融合化にも貢献できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
洗濯中の物理的機械的作用は繊維製品のもみ、こすれ、液流の強さ、液量、温度、時間などにより変化する。この物理的、機械的作用の程度、すなわち、洗濯機械力を布上のパタン柄の脱落度合で判断する。
【0012】
特許請求の範囲の請求項1は顔料とバインダーの組合せによる調整で達成することを目的とするが、この目的に球環境対応に配慮した薬品成分で対応する。
【0013】
脱落度の測定・評価については、一種類あるいは複数の捺染柄の脱落度を光学的な測色機器で計測しても、特別に作成した脱落度合スケールと対比させて級数を判断しても、あるいは、JIS L 0804で規定する変退色用グレースケールと対比し級数を判断してもよい。なお、光学的な測定は煩雑で、とくに、特別に作成した脱落度評価用スケールと対比させて級数を判断させる方法は簡便である。また、例えば、洗濯機械力の評価に対応する5種類の印捺を施すことで、測色器や対比スケールを用いることなく相当する機械力レベルを判断するようにすることも可能であるであるが、この場合には印捺が複雑で高価につく。
【0014】
判定スケールとしてグレースケールを使用できるように捺染柄の濃度や脱落度を調整できれば、特別な脱落度合評価用スケールを作成する必要もなく、安価に簡便に機械力が判断できる。そこで、JIS L 0804変退色用グレースケールとの関連性を持たせる目的で、ISOの7Aや模擬

3.4)前後となるように顔料捺染柄の色相及び脱落度を設計をした。
【0015】
カーボンブラックの捺染用水性分散液カラーベース、(顔料分15〜25%含有)を0.01〜5%捺染用黒色糊に配合し、グレースケールでの目視判定性並びに測色数値の近似性を得るようにした。
【0016】
なお、その他の黄、赤、青、白顔料を用いて同様の洗濯作用性判定の試験布(スケール)も設定可能である。
洗濯時の脱落度合を測定に適する顔料粒は次のようなカーボンやピグメントが使用できる。即ち、アクラミンブラックFFB(ダイスター社カーボンブラックの顔料捺染用製品)、ヘリザリンブラックTT(三井バジッシェ社カーボンブラックの顔料捺染用製品)、ハイカラーブラック(林化学工業株式会社カーボンブラックの顔料捺染用製品)、ニューラクチミンブラックFLTR(大日精化社製品)、C.I.ピグメントイエロー3,12,14,83、C.I.ピグメントオレンジ13,16,34、C.I.ピグメントレッド2,17,122,148、バイオレット23,ブルー15,グリーン7などの単独、あるいは混合色である。さらに粒径0.01から10ミリミクロンの二酸化チタン、アルミナ、シリカ、カオリン、タルク、ベントナイトなどの無機顔料を配合することができる。
【0017】
ISO 5A法による洗濯でグレースケール3級程度の脱落度評価が得られるようにするためにカーボンブラックの固着用のバインダーについて種々のポリマー樹脂を検討比較した結果、アクリルエステル酸共重合、エチレン酢ビ共重合体の樹脂乳液を固形分換算で3〜15%用いたとき、安定した脱落度評価が得られることがわかった。とくに、アクリル酸エステル共重合(アクリル酸メチル、エチル、プロピル、ブチル、メタリアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルエステルなどの共重合で代表されるもの)の30〜60%濃度の乳化重合体が好ましいことがわかった。
【0018】
ISO 7A法による洗濯でグレースケール2〜3級の脱落度評価を得るためには、固着剤としてはエチレン酢ビ共重合樹脂乳液の固形分換算で3〜15%を用いることで対応できることがわかった。エチレン酢ビ共重合樹脂乳液の例としては、ポリゾールAD6(昭和高分子社エチレン酢ビ共重合樹脂乳液製品)、スミカフレックス500(住友化学工業製品)エバテッグEL−400などが上げられる。
【0019】
洗濯の機械力による脱落度合を微調整するのに適した活性剤や添加配合量を鋭意検討の上、環境に優しいグリセリン、エチレングリコール、尿素、アルキルエーテル、脂肪族エステル、多糖類エステル、プロピレングリーコール及び脂肪酸石鹸など高級アルコール活性剤を中心に5〜15%用いることで目的を達成できることがわかった。
【0020】
ISO 5A、7A法の洗濯で脱落度評価がそれぞれ、グレースケールで1〜2級程度及び2−3級程度、3級程度及び4級程度を示すような2つのカーボンブラックのパタン部を持つプリント試験布を作成すべく、カーボンブラック顔料分散液と固着剤、洗浄剤の配合比等を検討して微調節した。カーボンブラック顔料分散液は、例え、固着剤バインダーを配合しない場合でも繊維製品を汚染させ、容易に洗浄除去できないことが多い。まして、固着剤バインダーを配合すると、通常は、洗浄での除去性は悪化し、耐久性のある捺染物となりやすいる。このため、求めるような洗浄性(脱落性)を得るために配合する顔料の粒径を鋭意検討の結果、0.1〜10ミクロンとすることがよい。また、固着バインダーとして酢酸ビニルないし乳酸ビエチレン共重合バインダー乳液が適している。他方、洗浄性を低下(脱落性を抑制)するためのバインダーとしてはアクリルないしウレタン系」エマルジョンを用いることが好ましい。さらに、洗濯温度や時間に応じて脱落度を微調整節するには、親水性高分子糊を顔料捺染インク配合比より多く用いねばならないことも判明した。さらに洗浄後の汚れを残さないようにグリコールアルキルエーテル系界面活性剤を3〜15%と従来の顔料インク処方では容易に推定されないほど多い量を配合することで解決できることがわかった。
結局、捺染用顔料分散液を0.01〜5%(重量比)、アクリル酸エステル共重合樹脂乳液又はエチレン酢ビ共重合樹脂乳液3〜15%、CMC(カルボキシメチルセルロース水性糊)5%を水性元糊とし、洗浄性調節用にアルキルエーテルEO付加型活性剤3〜15%を含むカーボンインクを基本成分とすればよい。
以上のような考え方で、一例として、後述の実施例1、2、3に示すように機械的作用を受け易いモデルとしてISO 7Aでグレースケール2〜3級程度の脱落度評価の顔料捺染布を、又、実施例4、5、6に示すように機械的作用に耐える強い固着モデルとしてISO 5Aでグレースケール3級程度の脱落度評価がえられるような顔料捺染布との組合せをもつ洗濯機械力測定スケールを製造した。[0021]以下に製造方法、評価結果等を説明する。
【0021】
インクを綿40番ブロード布に5cm20cmの短冊状パタン柄としてスクリーンメッシュ100番の一度のゴムスケージでプリントし、室温乾燥後100℃から150℃、1分〜60分、好ましくは110〜130℃10分のキュワリング(熱固着)処理し、本発明の試験布(スケール)とした。
【発明の効果】
【0022】
特許請請求項2として本発明の試験布洗濯機械力測定用スケールを被洗濯物に仮縫い付けし、[0010]で記したようにISO6330法に従って洗濯した。
なお、洗濯機械力スケール、[0007]で記したMA値、[0010]で記した試験法との関連性を次の表1にまとめた。また、[0004]で示したように、JIS L 0217の洗濯方法には明確な規定方法がないが、仮に表中で当てはめてみた。
【0023】
スケールの脱落度合をJISL0804変退色用グレースケール及び測色器で測定した。その結果を表2〜表5にまとめた。
【表1】

【0024】
本発明は請求項4が次に示す工程で再現性、耐久性の向上が得られた。
プリント、乾燥後に100℃から150℃、1分〜15分、好ましくは110〜130℃10分の条件で、キュワリングすることで、熱、時間的な経過に安定で、再現性を担保するため、冷蔵庫保管や使用可能期限をつけたりする必要性がなくなる。
【0025】
一定面積の色濃度が観察できるものであれば十分である。繊維製品の種類によってはパタンを細かい斑点柄や格子柄等を適用することができ、洗濯の機械的作用の判定し易い条件設定も本発明は可能である。
【0026】
本発明の特許請求項5、6は脱落度の評価に関するものであるが、光学的な手法での評価以外に、簡易な目視測定のできることに特徴がある。
【発明を実施するための最良形態】
【0027】
カーボンブラックパタン柄の脱落度評価に差のある二水準を用いることで、機械力の強弱の評価判定がより容易になる。パタンの捺染は添付図面に示される例の如く一定面積の色濃度が観察できるものであれば十分である。
【実施例1、2、3】
【0028】
黒色糊分の機械的作用を受け易いモデルインクの成分とプリント工程例を表2にまとめる。
実施例1、2、3は本発明の原理に基づくもので比較例1、2は周知の顔料捺染の配合比。
【表2】

【実施例4,5,6】
【0029】
黒色糊の機械的作用に耐える強い固着モデルの試験布の製造方法を表3に示す、
【表3】

上記2水準の色糊を面積当たり100〜150g/m2付着量の巾5cm長さ20cmの長方形パタンを綿布に刷りこんだもので本発明の効果を公開する。
【0030】
表2、3によって製作した洗濯機械力スケールの評価結果を、グレースケールを用いた場合を表4、5に示す。
【表4】

【表5】

【0031】
表6には、表2、3によって製作した洗濯機械力スケールの評価結果を測色器を用いて行った

【表6】


【0032】

すると、表6のように測色器を使用しなくてもグレースケール判断ができることがわかる。
【表7】

ちなみに比較例1は周知のEVAバインダー使用の顔料捺染インク調整例である、比較例3は周知のアクリル系バインダーによる顔料捺染インクの例である。これらは洗濯による脱落度が少なく3〜4級(グレースケール判定)となった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の原理は特許請求の範囲の顔料粒0.01〜10μ径を0.01〜5%(重量%)と固着樹脂固形分換算3から15%を基本成分とし、洗濯による脱落度合を調節する界面活性剤を3から15%含有する捺染用色インクのパタン刷り部分を洗濯機械力測定用のスケールとして利用することにある。
このスケールを利用することで、他の洗濯に関連する化学的力、熱的力、時間の影響等の諸条件を変化させた諸試験によって得られる普遍妥当性のある結果に基づき、より合理的な洗濯システム開発に貢献できると期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製品が洗濯時に受ける機械的・物理的な作用力(以降、洗濯機械力と称する)を、洗濯時に同時に用いる顔料とバインダーで調整されたパタン柄印捺布の柄の脱落度合より測定することを目的とする洗濯機械力スケール及びその製造方法。
【請求項2】
繊維製品が洗濯時に受ける洗濯機械力を、顔料0.01〜5%とバインダー(3〜15%)と界面活性剤3〜15%で調整されたパタン柄印捺布を、洗濯時に同時に用いて柄の脱落度合より測定する洗濯システム。
【請求項3】
パタン柄が、固着度の低い顔料捺染布から固着堅牢度が強い顔料捺染布までの複数で構成される洗濯機械力測定スケール及びその製造方法。
【請求項4】
捺染・乾燥後に、キュワリング(熱固着)することで、日常生活の温度、湿度、経時的に安定で、冷蔵庫での保管や、試験使用期間の限定の必要性が極めて少ない請求項1から3に規定する洗濯機械力測定スケールの製造方法及びこれを用いた洗濯システム。
【請求項5】
脱落度の測定について、特別に作成した脱落度評価スケールと対比させて級数を判断することで洗濯機力を判定するシステム。
【請求項6】
脱落度の測定について、JIS L 0804で変退色用グレースケールを使用して、級数が判定できるように脱色度、色相を設定した洗濯機械力測定スケール及びその製造方法。