説明

活性型Fc受容体に選択的な抗体の製造方法

本発明は、ITAMモチーフ(単数又は複数)(免疫受容体チロシン活性化モチーフ)を含む活性型抗体Fc領域受容体に選択的な抗体を製造する方法であって、以下のステップ:ハイブリドーマから、ヘテロハイブリドーマから、又は任意の動物、植物、又はヒト細胞株からモノクローナル抗体を取得し;当該抗体のFc領域のHis310及びHis435残基(カバットの番号付け)の各々を、リジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、又はスレオニンから選ばれる残基で置換し;そして次にITIMモチーフ(免疫受容体チロシン抑制性モチーフ)を含む抑制型FcRへの結合性が、天然Fc領域を有する同じ抗体に対して少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、70%、80%、又は少なく十90%だけ低減される抗体を選択することを含む方法に関する。本発明は、癌及び感染性病変の治療において特に使用するための医薬の製造における本発明の方法から生成された抗体の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITAMモチーフ(免疫受容体チロシン活性化モチーフ)(単数又は複数)を含む活性型抗体Fc領域受容体(FcR)に選択的な抗体を製造する方法であって、ハイブリドーマ、ヘテロハイブリドーマ、又は任意の動物、植物若しくはヒトの細胞株からモノクローナル抗体を取得し、当該抗体のFc領域のHis310及びHis435残基(カバットの番号付け)の各々をリジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、又はスレオニンから選ばれる残基で置換し、そしてITIMモチーフ(免疫受容体チロシン抑制性モチーフ)を含む抑制型FcRへの結合性が、天然Fc領域を有する同じ抗体に対して少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、70%、80%、又は少なくとも90%だけ低減された抗体を選択することを含む、前記方法に関する。本発明は、特に癌及び感染症の治療用の医薬の製造における本発明の方法から得られた抗体の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
血漿又は生物工学由来の治療用の多くの抗体製剤が、現在市場に流通しているか、又は臨床開発フェーズにある。特異的に標的に結合し、そして効果的に免疫細胞をリクルートできる治療ツールを得るために、抗体の性質が利用される。
【0003】
ここ数年間、研究は、抗体の有効性を改善すること、そしてより具体的に、定常Fc領域を操作することに向けられてきた。定常Fc領域こそが、抗体のエフェクター性質に関与し、定常Fc領域がエフェクター免疫細胞及び補体分子の動員を可能にする。この能力は、特定の免疫細胞上に糖タンパク質であるFc受容体、つまりFcRが存在することにより可能になる。これらの受容体は、特に、抗体がその可変領域により標的抗原に結合すると、当該抗体の定常領域に結合できる。これらの細胞と接触すると、抗体は貪食及びADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用)などの種々の細胞メカニズムを引き起こす。
【0004】
しかしながら、種々のヒトFcRクラスが存在する。後者は、染色体1に位置する8種のヒト遺伝子によりコードされる。これらの遺伝子のあるものは、異なる受容体アロタイプを生成し、異なるIgG結合性質を有するアレル多型を示し(Hulett M. D. & Hogarth P.M., Advances in Immunology, vol. 57, Blood, Vol. 99, no.3, 754-758)、異なるエフェクター性質を導く(Cartonら、(2002)blood, vol. 99, no. 3, 754-758)。同定された主要なヒトFcRクラスは、FcγRI(CD64、A及びBイソ型を有する)、FcγRII受容体(CD32、A及びBイソ型を有する)及びFcγRIII受容体(CD16、A及びBイソ型を有する)である。FcγRI及びFcγRIII受容体、並びにFcγRIIA受容体は、その配列又は鎖に付随する配列が有するITAMモチーフを用いて活性化されると、標的細胞の溶解などのエフェクター機能を引き起こすことができるので「活性型」と分類される。逆に、FcγRIIB受容体は、その配列が含むITIMモチーフを介して受容体を活性化する伝達経路を抑制し、そしてFcR、或いはB細胞抗原受容体(BCR)又はc-kitなどの成長因子受容体などの他の表面分子を介して誘導されるADCCメカニズムなどのエフェクターメカニズムを負に調節するので、「抑制型」受容体と分類される。
【0005】
その結果、FcR受容体の多様度、特に同じ細胞上で発現される活性型FcRと抑制型FcRの存在は、治療抗体の有効性を調節することができ、抑制型のFcRの関与が、活性型FcRの関与と平衡を保つことができる。
【発明の開示】
【0006】
その結果、治療抗体であって、その有効性、つまり、多様なFcR受容体により、特に抑制型FcRにより全く又はわずかだけしか調節されないエフェクター免疫細胞を活性化する能力を有する抗体を提供することが出願人の意図である。
【0007】
WO2005/040216の文献の出願人は、一次配列を改変した抗体であって、IgG4置換治療、又は移植片拒絶の予防のため、或いは抗破傷風、抗ジフテリア薬として、又は病原体又は派生される毒素に対する薬剤として特に有用であるように改変された抗体を記載する。
【0008】
しかしながら、驚くべきことに、このように改変された抗体が、活性型受容体に依存したエフェクター機能を誘導する能力を保ち、一方、抑制型受容体をリクルートする能力を最早持たなかったということを本出願人が発見した。
【0009】
その結果、治療抗体であって、その有効性、つまりエフェクター免疫細胞を活性化する能力が、多様なFcR受容体、特に抑制型FcRによって全く調節されないか、又はわずかにしか調節されないところの、治療抗体を提供することを可能とする方法を出願人は開発した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、第一に、活性型FcRをリクルートする能力を有するが、抑制型FcRをリクルートする能力が、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて低減された抗体(つまり、当該抗体のFc領域は、活性型の抗体Fc領域受容体(FcR)に選択的に結合する)を製造する方法であって、以下のステップ:
a) ハイブリドーマ、ヘテロハイブリドーマ、又は任意の動物、植物、又はヒトの細胞株からモノクローナル抗体を取得し;
b) 抗体のFc領域のHis310及びHis435残基(カバットの番号付け)の各々を、リジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、又はスレオニンから選ばれる残基で置換し;
c) Fc領域の抑制型FcRへ結合が、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、70%、80%、又は少なくとも90%だけ低減される抗体を選択する
を含む、前記方法に関する。
【0011】
本発明の目的では、「抗体」は、その特異性及びそのイソ型に関わらず、Fc領域、又はFc領域と同じ機能及び同じ特徴を有する領域を含む、任意の抗体を意味する。こうして、抗体は、全抗体又は抗体断片、例えば、Fc抗体断片、又はFc領域をその末端の一つに含む融合分子でありうる。さらに、本発明に記載される方法において使用される抗体は、IgG、つまり任意のIgG1、任意のIgG2、任意のIgG3(G3m(s)又はG3m(st)アロタイプ)及び任意のIgG4、IgM、IgE、IgA又はIgD、又はそれらの1以上の混合物でありうる。さらに、本発明に記載される方法に使用される抗体は、モノクローナル又はポリクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体の場合、これらの抗体は、キメラ、ヒト化、ヒト又は動物由来でありうる。
【0012】
さらに、「抗体」という用語は、同じ生物学的システムにおいて発現される同じアミノ酸配列を有する抗体分子から構成され、そして少なくとも1の賦形剤又は医薬として許容されるビヒクルを含む抗体組成物であって、当該組成物が予防及び/又は治療目的のために医薬投与を可能にするために剤形された組成物を指す。
【0013】
ステップb)の終わりに、本発明の改変抗体をコードする配列は、適切な生物学的システムで発現される(ステージb')。
【0014】
本発明の目的では、「同じ抗体」は、本発明のプロセスにおけるステップb)に従い、そして本発明の改変抗体と同じ生物学的生産システムにおいて産生された非改変抗体を意味する。「同じ抗体」は、同じ天然の一次配列(但し、本発明の抗体において改変されたHis310とHis435残基は除く)を有し、そして同じ生物学的システムにおいて産生されるので、本発明の方法により得られる抗体と同じ翻訳後修飾が付される。
【0015】
本発明の目的では、ステップa)の抗体は、モノクローナル抗体組成物の形態で得られる。各モノクローナル抗体組成物は、同じアミノ酸配列を有し、そうして、同じ特異性を有し、同じ生物学的システムにおいて発現される抗体分子から構成される。これらの組成物は適宜、少なくとも1の賦形剤又は医薬として許容されるビヒクルを含むことができ、その結果、これらの組成物は、予防及び/又は治療目的のために医薬投与を可能にするように剤形されうる。
【0016】
ステップa)の抗体は、天然Fc領域を含む。つまり、当該抗体は、そのFc領域の310位及び435位(カバット番号付け)においてヒスチジン残基を有する。好ましくは、このような抗体のFc領域は、活性型受容体と抑制型受容体の両方に結合できる。本発明の目的では、「抗体の天然Fc領域」は、His310とHis435残基について、化学的又は生命工学的方法によって改変されていないFc領域を意味する。より具体的に、「抗体の天然Fc領域」は、Fc領域のHis310及びHis435残基が、化学的又は生命工学的方法によって、リジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、又はスレオニンから選ばれる残基で置換されていないFc領域を意味する。
【0017】
一例として、本発明において利用される抗体は、抗-Ep-CAM、抗-KIR3DL2、抗-EGFR、抗-VEGFR、抗-HER1、抗-HER2、抗-GD、抗-GD2、抗-GD3、抗-CD20、抗-CD23、抗-CD25、抗-CD30、抗-CD33、抗-CD38、抗-CD44、抗-CD52、抗-CA125及び抗-タンパク質C、抗-HLA-DR、抗ウイルス:HBV、HCV、HIV及びRSVから選ぶことができ、そしてより具体的には、以下の表1の抗体から選ぶことができる。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明の目的では、「活性型抗体Fc領域受容体(FcR)に選択的な抗体」又は「そのFc領域が活性型抗体Fc領域受容体(FcR)に選択的に結合するところの抗体」は、活性型FcRをリクルートする能力を有するが、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて抑制型FcRに寄与する能力が低減されているか又は当該能力を全く有さない全ての抗体を意味する。
【0020】
こうして、本発明の抗体は、活性型FcRをリクルートする(つまり、そのFc領域により結合する)能力を有するが、抑制型FcR受容体に寄与する(つまり、そのFc領域により結合する)能力は、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて低減されるか、又は失われている。
【0021】
活性型FcRは、FcγRIIIA、FcγRIIIB、FcγRIIA、FcγRIA及びFcγR1B、FcγR、FcγR1及びマウスにおいて記載されたFcγRIVのヒト相当物を意味する。抑制型FcRは、FcγRIIBを意味する。
【0022】
ステップc)の間に、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べてFcRへの結合性が低下された抗体(複数)、つまり種々の抗体組成物を選択することができる。この低下は、例えば、本発明の抗体が結合するFcRを発現する細胞の数又は割合を定量し、そして天然Fc領域を有する抗体が結合するFcRを発現する細胞の数又は割合を比較することによって計測することができる。
【0023】
本発明の好ましい実施態様では、ステップc)において、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて抑制型FcγRへの結合が失われている抗体(複数)、つまり種々の抗体組成物は、以前に記載された方法と同様の方法に従って選択される。こうして、本発明の方法に従って調製された抗体は、活性型FcRに結合するが、抑制型受容体に結合しないFc領域を有する。一方、同じ生物学的システムにより産生されるが、本発明の方法に従って改変されていないFc領域を有する同じ抗体は、そのFc領域により、活性型FcγR及び抑制型FcγRに結合する。
【0024】
本発明の好ましい実施態様では、His310とHis435残基は、リジン残基に置換される。
【0025】
本発明の好ましい実施態様では、His310とHis435残基は、部位特異的変異誘導又は分子進化によって置換される。
【0026】
別の実施態様では、His310とHis435残基は、化学処理によって、例えばDEPC(ジエチルピロカーボネート、当該物質はヒスチジン改変薬である)での処理により改変される。
【0027】
抗体のCH2/CH3境界に位置する2の特定のヒスチジン残基His310及びHis435を、リジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン又はスレオニンから選ばれる残基により、そして好ましくはリジンにより変異誘導することは、このように改変された抗体の抑制型FcR、特にFcγRIIBに対する結合性に主要な影響を与え、そして活性型FcR、特にFcγRIIIAに対する抗体の結合性について中程度の影響を与えるということを出願人は驚くべきことに発見した。このように改変された本発明の抗体がもはや、又は実質的にもはやin vitro結合試験において抑制型FcγRIIB受容体に結合せず、一方、変異誘導をされていない抗体に比べて、活性型FcγRIIIA及びFcγRIIA受容体への結合性がかなり部分的にしか阻害されていないということを出願人は示した(以下を参照のこと)。この変異誘導された抗体は、抑制型FcγRIIBへの関与を避けることにより、ADCC型の細胞毒性に関わる活性型受容体(FcγRIIA及びFcγRIIIA)に寄与できる抗体である。その結果、FcγRIIBの寄与に続いてADCCが負に調節されることなく、このような抗体は、標的細胞(赤血球、腫瘍細胞、アロ反応性細胞、微生物病原に感染した細胞)に対してADCCを誘導することを可能にする。この変異誘導された抗体を含む免疫複合体が、樹状細胞上に同様に存在する抑制型FcγRIIBを活性化することなく、樹状細胞上に発現される活性型FcγRによってのみ捕捉されるという事実のため、このような抗体が、樹状細胞による抗原提示を最適化することを可能にする。
【0028】
活性型受容体及び抑制型受容体についての「示差的」振舞いは、本発明の抗体を治療に、特に癌又は感染病原体の枠組みの中で抗体を用いるために必須の利点である。実際、このような抗体は、ADCCメカニズムが抑制型FcγRにより負に調節されることなく、活性型FcγRを介してADCCメカニズムを誘導することができる。さらに、このような抗体が、樹状細胞上の活性型FcγRのみをリクルートし、そして同じ細胞の表面に存在する抑制型FcγRをリクルートすることはないということを出願人は発見した。樹状細胞の表面の抑制型FcγRの関与が、これらの細胞の成熟について及び抗原をエフェクターTリンパ球に対して効果的に提示する能力について負の影響を与えるということが近年示されてきた。抗原と複合体形成したこのような抗体が、樹状細胞の表面に発現された活性型FcγRのみを認識し、そして抑制型FcγRを認識しない場合、当該事象により生じた樹状細胞による抗原提示が最適であり、そして最適化された特異的免疫応答の活性化の効果が最適化される。
【0029】
有利な態様では、本発明の方法から生じた抗体のFc領域が、活性型Fc受容体に結合し、その一方で当該Fc領域は、抑制型Fc受容体には結合しない。
【0030】
有利な態様では、本発明の方法の抗体は、抑制型Fc受容体、特にBリンパ球により発現される抑制型Fc受容体をリクルートすることはない。
【0031】
特に有利な態様では、本発明の方法の抗体は、抑制型Fc受容体をリクルートしないが、Bリンパ球の表面の分子には結合する。
【0032】
有利な態様では、本発明の抗体は、抑制型Fc受容体をリクルートしないが、腫瘍細胞の表面、特に腫瘍性Bリンパ球の表面の分子に結合する。
【0033】
有利な態様では、本発明の抗体は、抑制型Fc受容体をリクルートすることはないが、B-CLL腫瘍性リンパ球の表面の分子に結合する。有利な態様では、本発明の抗体は、抑制型Fc受容体をリクルートすることはないが、B-CLL腫瘍性リンパ球の表面のCD20分子に結合する。
【0034】
特に有利な態様では、本発明の方法の抗体は、FcγRIII受容体(A及びBイソ型)、及び/又はFcγRIIA受容体、及び/又はFcγRI受容体(A及びBイソ型)に結合し、その一方、当該抗体は、FcγRIIB受容体(B1及びB2イソ型)には結合しない。具体的な実施態様では、FcγRIIB受容体は、FcγRIIB1受容体である。
【0035】
好ましくは、本発明の方法に関与する受容体は、ヒト受容体である。
【0036】
本発明の特定の実施態様では、抗体のFc領域の受容体は、単球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、Bリンパ球、単球、マクロファージ、及びBリンパ球に位置する。
【0037】
本発明の別の特定の実施態様では、当該抗体のFc領域の抑制型受容体は、腫瘍細胞、例えば悪性メラノーマ細胞、腫瘍性Bリンパ球、例えばリンパ腫、B-CLL(B慢性リンパ白血病)細胞及びミエローマ細胞上に位置する。
【0038】
有利な態様では、本発明の方法の抗体は、その可変領域により、B-CLL腫瘍性リンパ球の表面でCD20分子に結合する。本発明のこのような抗体は、特にB-CLL腫瘍性リンパ球の表面に存在する抑制型Fc受容体をリクルートしない。
【0039】
有利な態様では、本発明の「m」の文字で表された抗体は、モノクローナル抗体である。これらのモノクローナル抗体は、モノクローナル抗体組成物の形態で任意の適切な生物学的システムにより生産することができ、当該組成物は、少なくとも1の賦形剤又は医薬として許容されるビヒクルを含み、その結果、これらの組成物は、予防及び/又は治療目的のため医薬の投与を許容するために剤形することができる。「生物学的システム」は、当該抗体を発現するために、1以上のベクターを用いてトランスフェクションされた動物又は植物細胞株、植物又は非ヒトトランスジェニック動物、並びに任意のハイブリドーマ、ヘテロハイブリドーマを意味する。これらの細胞の中から、当該抗体をコードする遺伝子を含むベクターを用いてトランスフェクションされた細胞株から生じた細胞、例えば真核細胞又は原核細胞、特に哺乳動物、昆虫、植物、細菌、又は酵母の細胞を選択することができる。優先的に、ラット骨髄腫細胞、例えばYB2/0(ATCC第CRL1662)を用いる。
【0040】
CHO細胞、特に、CHO-K、CHO-Lec10、CHO-Lec10 CHO Pro-5、CHO dhfr-、或いはWil-2、Jurkat、Vero、Molt-4、COS-7、293-HEK、K6H6、NSO、SP2/0-Ag14及びP3X63Ag8.653、PERC6又はBHKを使用することも可能である。
【0041】
本発明の別の目的は、抗感染及び抗腫瘍ワクチン化を意図した医薬の製造のための、Fc領域のHis310及びHis435残基(カバット番号付け)の各々が、リジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン又はスレオニンから選ばれる残基により置換された抗体、又は本発明の方法により得られた抗体の使用であり、ここで本発明の抗体は、抗原提示細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞、上皮ランゲルハンス細胞、Bリンパ球)の活性型FcRγにのみ結合することができる免疫複合体に寄与する。
【0042】
好ましくは、このような医薬の製造のために、そのFc領域のHis310及びHis435残基(カバット番号付け)の各々が、リジン残基で置換された抗体が用いられる。
【0043】
本発明の別の対象は、癌の治療、及びより好ましくはリンパ腫、白血病、骨髄所、サルコーマ、固形腫瘍、例えば哺乳動物癌腫、直腸腫瘍、膵臓腫瘍、前立腺腫瘍、胃腫瘍、胚腫瘍、卵巣腫瘍、子宮頚部腫瘍、眼腫瘍、甲状腺腫瘍、ENTスフィアの腫瘍(tumeurs de la sphere ORL)、悪性メラノーマ、神経腫瘍、例えば膠芽細胞腫、及び神経芽細胞腫の治療のための医薬の製造のための、His310とHis435残基(カバットの番号付け)の各々が、リジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、又はスレオニンに置換された抗体、又は本発明の方法により産生された抗体の使用に関する。
【0044】
好ましくは、このような医薬の製造のために、そのFc領域のHis310及びHis435残基(カバットの番号付け)の各々が、リジン残基で置換された抗体が使用される。
【0045】
本発明の別の対象は、感染性疾患、例えばHIV、HBV、HCV、RSV(呼吸器合胞体ウイルス)、SARSウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、天然痘による感染、細菌感染、例えばコッホ杆菌、髄膜炎菌、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Criptococcocus neoformans)、クロストリジウム、ボツリヌス中毒症、炭疽、破傷風、結核、及び腸球菌感染の原因となる細菌により引き起こされる感染の治療用の医薬を製造するための、His310及びHis435残基(カバットの番号付け)が、リジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、又はスレオニンにより置換される抗体、或いは本発明の方法により産生される抗体の使用である。
【0046】
好ましくは、このような医薬の製造のため、そのFc領域の各His310及びHis435残基(カバットの番号付け)がリジン残基で置換された抗体が使用される。
【0047】
最終的に、本発明の最後の態様は、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて、抑制型FcRへの結合が、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、70%、80%、又は少なくとも90%又は100%だけ低減される、抗体組成物に関する。
【0048】
好ましくは、本発明の組成物は、抗体のFc領域が、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて、抑制型受容体に結合する能力が失われた組成物である。
【0049】
特に有用な態様では、本発明の組成物は、抗-CD20抗体組成物である。
【0050】
本発明の他の態様及び利点は、以下の実施例に記載され、この実施例は例示と認められ、そして本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1:His310-435Lysの二重変異を有する抗体の製造
トランスフェクションされ、そしてEMAB5抗体(WO 2005/040216に記載される)(当該抗体は、Rh(D)抗原に対するヒトIgG1(γ)である)を産生する細胞株YB2/0(ラット骨髄腫株、ATCC第CRL1662号)を無血清培地中における培養に適用した。
EMAB5をセファロース-タンパク質A上でアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
HPCE-LIFにより、大部分のグリカン構造が、二分岐型の多糖であり、約25%のフコースを含むということが示された。
【0052】
断片の調製
精製されたEMAB5を50mMTris緩衝液、pH8.0に対して一晩透析した。50mM・CaCl2及び10mMシステインに調節された抗体溶液を、30分間37℃でインキュベートし、次にトリプシン溶液(1mg/ml)を、酵素/基質比1/25で加えた。
5分間37℃でインキュベートした後に、ジイソプロピルフルオロホスフェート(1mM、終量)を添加することにより反応を止めた。加水分解物を、50mMイミダゾール緩衝液、pH7.8に対して一晩透析した。
Fc断片の精製のため、透析された加水分解物を抗体3.6gあたり1mlのゲルの割合で、タンパク質L-アファロースと接触させた。攪拌下で室温にて4時間インキュベートした後に、ゲルをカラムにロードし、そして50mMイミダゾール緩衝液、pH7.8で洗浄した。Fc断片を含む流出物及び洗浄緩衝液を合わせ、そして製造者により記載された条件を用いてVivaspin20で遠心することにより濃縮した。
【0053】
部位特異的変異誘導:
抗Rh(D)抗体EMAB5の重鎖のアミノ酸配列をコードするcDNAを含む発現ベクターを、PCRによる二重部位特異的変異誘導を行なうためのマトリックスとして用いた(PCR-に基づく部位特異的変異誘導)。以下の4つのヌクレオチド置換を導入した:
- His338残基(カバット番号付けによると310位)をLysへと変換するC1229A及びC1301G、つまりCAC→AAG;
- His463残基(カバット番号付けによると435位)をLysへと変異誘導するC1674A及びC1676G、つまりCAC→AAG。
【0054】
変異誘導された抗体の重鎖は、ヌクレオチド配列では配列番号1、そしてペプチド配列では配列番号2(変異誘導されたアミノ酸が、配列番号2において338位及び463位に現れる。これらはそれぞれアミノ酸Lys310及びLys435に相当する)を有する。番号付けは、リーダー配列を考慮する(338及び463位)か、又は考慮しない(後者において、いわゆるカバットの番号付けで、310及び435位が用いられる)。
【0055】
変異誘導されたEMAB5-H-K338-K463-1ベクターとEMAB5抗体の軽鎖をコードするEMAB5-dhfr-K-SpeIベクターを電気穿孔により共トランスフェクトしたYB2/0細胞を、5%透析済みFCS、0.5%G418、及び25nMのメトトレキセート(MTX)を加えたRPMI培地中で培養した。最も高いレベルのヒトIgGを分泌するクローンを、MTXを伴わない培地中で24ウェルプレート上で培養した。7日間の培養後に回収した上清を、以下に記載される試験を行なうために用いた。
【0056】
実施例2:ヒトIgG1/FcRγ相互作用についての、ジエチルピロカーボネート(DEPC)による抗-RhDモノクローナルIgG1のCH2/CH3境界におけるヒスチジンの改変の効果
ヒトIgG1/FcγR相互作用についてのヒトIgG1のヒスチジンの改変の影響を試験するために、抗RhDモノクローナル抗体、T125(YB2/0)をジエチルピロカーボネート(DEPC)で処理した。DEPCは、ヒスチジン環の窒素原子と、DEPC分子の炭素原子との間に共有結合を生成することにより、ヒスチジン残基を改変する。DEPCで処理されるか又は処理されなかったモノクローナル抗体を、タンパク質A-セファロースのカラムで分画した。ヒスチジン435は、タンパク質AへのIgGの結合に重要であり、DEPCで処理され、そしてタンパク質Aに保持されないモノクローナル抗体の画分は、少なくともHis435残基が改変されたIgG1に相当する。DEPCで処理されないか又は処理され、そしてタンパク質Aに保持されないモノクローナル抗体T125(YB2/0)は、異なるタイプのヒトFcRγに対する結合性について比較された(図1)。ジエチルピロカーボネート(DEPC)で処理されるか又は処理されていない抗RhDモノクローナル抗体T125(YB2/0)のヒトFcγRIIIA(A)、FcγRIIA(B)、FcγRIIB1(C)及びFcγRI(D)(hFcγR)への結合性を間接的な免疫蛍光により分析した。指標細胞であるJurkat-HuFcYRIIIA(A)、K562(B)、IIA.1.6-huFcγRIIB1(C)及びTf2-13(D)を、DEPCで処理されたか又は処理されていない種々の濃度のT125(YB2/0)とインキュベートした。モノクローナル抗体の結合を、FITCに結合されたマウス抗ヒトIgG(H+L)F(ab')2により検出した。T125(YB2/0)は、低濃度(0.05μg/ml〜)においてFcγRIIIAに結合し、そして0.5μg/mlでかなり顕著な結合を示した(95%が陽性細胞)。このモノクローナル抗体をDEPCで処理した場合、高濃度(1〜5μg/ml)の濃度で低下し(1μg/mlで約90%低下し)、そして低濃度(0.025μg/ml〜0.05μg/ml)で悪くなった(図1A)。DEPCでの処理は、(それぞれ50μg/ml及び100μg/mlで)T125(YB2/0)のFcγrIIAへの結合性の76%及び64%の低下を誘導した。同様に、DEPCで処理されたT125(YB2/0)のFcγRIIB1への結合性は、50μg/mlで低下し、DEPCで処理されたT125(YB2/0)の結合性は悪く、一方、同じ濃度の未処理のT125(YB2/0)では、約40%の細胞が陽性であった(図1C)。他方、DEPCによるmAbの改変は、FcγRIへの結合性について中程度の効果を有する。DEPCでの処理は、0.5μg/mlと1μg/mlにおけるT125(YB2/0)のFcγRIへの結合性について15%の低下をもたらした(図1D)。
【0057】
結論として、T125(YB2/0)中に存在するヒスチジンをDEPCによりブロッキングすることは、そのFcγRIIIA(図1A)、FcγRIIA(図1B)、FcγRIIB(図1C)に対する結合性を低下し、そして、ヒトFcγRI(図1D)に対してそれより少しの程度だけ結合性を低下させる。
【0058】
実施例3:ヒトIgG1/FcγR相互作用についての抗RhDモノクローナルIgG1のHis435とHis310残基の変異誘導の効果
モノクローナルIgG1のHis残基の改変が、ヒトFcγRとの相互作用に影響するということが前述の結果により示唆された。しかしながら、DEPCでの処理では、どのHisが改変されたかを決定することはできなかった。
【0059】
構造試験は、IgG1/FcγR相互作用におけるIgG1のヒンジ領域のいずれかの側に位置するHis435とHis310の重要性を示した。それゆえ、モノクローナル抗体のヒトFcRγへの結合性について、T125(YB2/0)のHis435とHis310残基のリジンへの変異誘導の効果を試験した(図2)。モノクローナル抗体(T125(YB2/0)又は二重変異体T125(YB2/0)His310Lys/His435LysのヒトFcγRIIIA(A)、FcγRIIA(B)、FcγRIIB1(c)及びFcγRI(D)(hFcγR)に対する結合性を、間接的免疫蛍光により分析した。指標細胞であるJurkat-huFcγRIIIA(A)、K562(B)、IIA.1.6-huFcγRIIB1(C)、及びTf2-13(D)を、種々の濃度のT125(YB2/0)又は二重変異体T125(YB2/0)His310Lys/His435Lysとインキュベートした。mAbの結合性を、FITCに結合されたマウス抗ヒトIgG(H+L)F(ab')2断片により検出した。変異誘導していない抗体の結合性に比べて、JarkatCD16細胞により発現されるヒトFcγRIIIAへの二重変異体T125(YB2O)His310Lys/His435Lysの結合性はわずかに低下した(図2A)。この結合性は、ヒトFcγRIIAを発現する指標細胞(K562)を用いて行った場合に低下した(図2B)。対照的に、T125(YB2/0)His310とHis435残基の変異誘導は、完全に当該抗体のヒトFcγRIIB1への結合性を無くしてしまう(図2C)。T125(YB20)His310Lys/His435LysのヒトFcγRIへの結合性は影響されなかった(図2D)。
【0060】
実施例4:そのエフェクター性質についての抗-RhDモノクローナルIgG1のHis435とHis310の変異誘導効果
出願人は、当該抗体の活性化エフェクター機能についてのT125(YB2/0)のHis310とHis435の残基の変異誘導の効果を分析した。
Jurkat-huFcγRIIIA、つまりFcγRIIIA細胞、によるIL-2の産生を誘導する二重変異体及び変異誘導をされてないモノクローナル抗体の能力は、ELISAにより比較された(図3)。3回の異なる実験から得られた結果を標準化するために、異なる量のモノクローナル抗体により誘導されるIL-2の産生量を、10μg/mlのT125(YB2/0)により誘導されるIL-2の産生量の割合として報告した。このT125(YB2/0)の量は、行なわれた全ての実験において検出されたIL2における最大産生量をもたらす量に一致した。1、5、及び10μg/mlの変異誘導体T125(YB2/0)により産生されるIL-2の産生量は、変異誘導を行なっていないモノクローナル抗体の同じ量により誘導されるIL-2の放出に対して、それぞれ61%、53%、及び54%だけ低減した(図3)。Jurkat-huFcγRIIIA(FcγRIIIA)細胞は、37℃で15時間、種々の濃度のT125(YB2/0)又は二重変異体T125(YB20)His310Lys/His435/Lysにより、ラビット抗ヒトIgG(H+L)F(ab')2断片の存在下で刺激して、抗RhDヒトモノクローナル抗体を凝集させた。Jurkat-huFcγRIIIA細胞によるIL-2の産生は、次にELISAにより検出した。種々の濃度の2個のmAbの存在下において誘導されたIL-2の産生量は、10μg/mlのT125(YB2/0)により誘導されるIL-2の割合として報告した。
【0061】
これらの結果により、モノクローナルIgG1のCH2/CH3境界におけるHis310とHis435の改変が、このmAbのヒトFcγRIIIAへの結合性を部分的に低下させ、そしてこれらの活性型FcRγに依存したサイトカインの産生を誘導する能力を部分的に低下させた。それにもかかわらず、二重変異体モノクローナル抗体T125(YB20)His310Lys/His435Lysは、活性型FcγRIIIAのリクルートを可能にし、そしてこれらの受容体に依存したエフェクター機能の活性化を誘導できた。
【0062】
実施例5:T125(YB2/0)、T125(YB2/0)His310Lys/His435Lys及びT125(CHO)のヒトFcγRへの関与プロファイルの比較
二重変異モノクローナル抗体T125(YB20)His310Lys/Hys435Lysが活性型受容体(FcγRIIA及びFcγRIIIA)への関与を可能とするが、抑制型FcγRIIBに結合するその能力を欠いていることをこれまでの実験が示した。このモノクローナル抗体の振舞いをよりよく特徴付けるために、ヒトFcγRIIIA及びFcγRIIBへのその結合性を、T125(CHO)の結合性と比較した(図4)。ここで、T125(CHO)について、構造的な性質及び種々のタイプのFcγRとの関与のプロファイルが正確に規定されていた。。(A)及び(C)、mAb T125(YB2/0)、T125(YB2/0)His310Lys/His435Lys及びT125(CHO)の、ヒトFcγRIIIA(A)、及びFcγRIIB1(C)への結合性を、間接的な免疫蛍光により分析した。指標細胞であるJurkat-huFcγRIIIA(A)、又はIIA.1.6-huFcγRIIB1(C)を種々の濃度のT125(YB2/0)、T125(YB2/0)His310Lys/His435Lys及びT125(CHO)とインキュベートした。モノクローナル抗体の結合性を、FITCに結合されたマウス抗ヒトIgG(H+L)F(ab')2断片により検出した。
【0063】
(B)及び(D)、3G8-PE抗体(抗ヒトFcγRIIIA/IIIB)(B)又はAT10-FITC(抗-ヒトFcγRIIA/IIB)(D)の結合性を抑制するモノクローナル抗体T125(YB2/0)、T125(YB2/0)His310Lys/His435Lys及びT125(CHO)の能力を比較した。指標細胞であるJurkat-huFcγRIIIA(B)又はIIA.1.6-huFcγRIIB1(D)を種々の濃度のT125(YB2/0)、又はT125(YB2/0)His310Lys/His435Lys又はT125(CHO)でインキュベートし、次に40ng/mlの3G8-PE(B)又は40ng/mlのAT10-FITC(D)をそれぞれインキュベートした。競合モノクローナル抗体の濃度の関数として3G8-PE又はAT10-FITCの結合性の阻害割合を計算し:T125(CHO)(T125(CHO)は125(YB2/0)よりもフコシル化されている)は、FcγRIIB1に依存した抑制機能を誘導できる。他方、T125(CHO)は、ヒトFcγRIIIAに弱く結合するのみであり、FcγRIIIAに依存した活性化機能の弱い誘導物質である。
【0064】
二重変異誘導モノクローナル抗体T125(YB20)His310Lys/His435LysのFcRγIIIAへの結合が、T125(YB2/0)の結合性に比べて少し低下しているが、その結合性は、T125(CHO)の結合性よりもずっと高いままである(図4A)ということが間接的な免疫蛍光実験により示された。出願人は、ヒトFcRγIIIAとFcγRIIIB結合部位をブロックする40ng/mlの3G8-PEを用いた競合実験により、ヒトFcγRIIIAへの結合性について、T125(CHO)とT125(YB2/0)の二重変異誘導体の間の差違を確認した。T125(YB2/0)の場合約15μg/mlの濃度及びT125(YB2/0)His310Lys435の場合40μg/mlの濃度が、Jurkat-huFcγRIIIA細胞の表面で発現されたFcRγIIIAへのモノクローナル抗体3G8-PEの結合性の50%阻害を誘導するために必要とされる。対照的に、100μg/m超の(約130μg/ml)の用量が、3G8-PE結合の50%阻害を達成するために必要とされる。
【0065】
二重変異体T125(YB20)His310Lys/His435LysのHA.1.6-huFcγRIIB1(FcγRIIB1+)指標細胞への結合性は完全に失われた一方、T125(CHO)の結合性は、T125(YB2/0)に比べて、当該mAbがFcRγIIB1に結合する能力が低下したにも関わらず維持されたということが間接的な免疫蛍光実験により示された(図4C)。同様に、どのような濃度が試験された場合でも、二重変異体T125(YB20)His310Lys/His435Lysは、40ng/mlのAt10FITC抗体のHA.1.6-huFcRγIIB1細胞への結合を抑制できず、一方T125(CHO)は、AT10-FITC抗体のFcγRIIB1への結合性の抑制を誘導できるが、この抑制はT125(YB2/0)により誘導されるものよりも低かった(図4D)。
【0066】
その結果、二重変異体T125(YB20)His310Lys/His435Lysは、FcγRとの相互作用の点で、T125(CHO)の振舞いとは異なる振舞いを示し:T125(YB20)His310Lys/His435Lysは、活性型FcγRIIIAを効果的にリクルートするということが、これらの免疫蛍光実験により示された。他方、このモノクローナル抗体は、FcγRIIBと関与することができない。
【0067】
実施例6:T125抗体(YB2/0)、二重変異体T125抗体(YB2/0)His310Lys/His435Lys及びT125抗体(CHO)で得られたADCCの比較
単核細胞(エフェクター細胞の起源)及びテゲリン(Tegeline)(2500μg/ml)の存在下で種々の抗Dsにより誘導されるRh陽性赤血球のADCC溶解を誘導する能力を、種々の抗D抗体について比較した。AD1抗体は、ADCC応答を引き起こさない抗D抗体であり、そしてその結果陰性対照として機能する。T125抗体は、2つの異なる細胞型:YB2/0(T125抗体(YB2/0)を産生する)とCHO(T125抗体(CHO)を産生する)で発現された。さらに、T125抗体は、そのHis310とHis435残基の各々を置換するために、リジン残基で変異誘導される(T125(YB2/0)His310Lys/His435Lys)。
【0068】
結果は図5に示され:変異されたヒスチジン抗体(H310KH435K)は、変異誘導されていないT125抗体(YB2/0)で得られたRh陽性赤血球のADCCよりもわずかに低いRh陽性の赤血球のADCCを誘導したが、AD1よりもずっと高かった。これらの実験条件下で、CHOで発現された抗D対照抗体は、ADCCがあるとしてもかなり少ないADCCしか誘導しなかったということに留意すべきである(結果は示していない)。
【0069】
実施例7:ヒスチジン310と435のリジンへの変異誘導の構造への影響
T125(YB2/0)とT125H310K-H435K(YB2/0)(例えば実施例6)の結晶構造の比較により、ヒスチジン310及び435のリジンへの変異誘導が、Fc断片の一般的な立体配置を変更しなかった。WO2005/040216号の文献で(当該文献は本明細書に援用される)、変異を誘導されていない抗体、その結果His310及びHis435残基を有する抗体は、亜鉛カチオン(Zn2+)に結合する能力を有することを示した。リジンを有するFc断片は、Zn2+カチオンに結合する能力を失っていたが;これらの残基の側鎖の位置、並びにその3次元構造は、T125(YB2/0)のFc断片のヒスチジン残基の位置及び3次元構造と重なりあった。この事実は、ヒトの治療においてこのタイプの抗体を使用するのに重要である。なぜなら、この事実により、T125抗体H310K-H325K(YB2/0)のFcnRへの結合性、そしてその結果生じる異化が変更されていないということが示唆されるからである。対照的に、ヒスチジン310及び435残基のリジンへの変異は、Fc断片のCH2ドメインの配向に影響を有する。実際、T125(YB2/0)のFc断片の結晶構造と、二重変異体T125H125H310K-H435K(YB2/0)のFc断片の結晶構造との比較により、T125(YB2/0)のFc断片のCH2ドメインに比べて、二重変異体は、2個のCH2ドメインが互いに近いより近接した立体配置を有する。立体配置におけるこの差が、ヒトFcγRへの抗体の結合についてのH310KとH435K変異の影響の原因でありうる(実施例3、4、及び5)。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ヒトFcγRをリクルートする抗体の能力についての、ジエチルピロカーボネートによる抗RhDmAb T125(YB2/0)のヒスチジンの改変の効果。
【図2】ヒトFcγRに結合する抗体の能力についての、抗RhDmAb T125(YB2/0)におけるヒスチジン310と435のリジンへの変異誘導の効果。
【図3】ヒトFcγRIIIA依存性のIL-2産生を誘導するmAbの能力についての抗-RhDmAb T125(YB2/0)におけるヒスチジン310と435の変異誘導の効果。
【図4】ヒトFcγRIIIA及びFcγRIIBに対するT125(YB2/0)、二重変異体T125(YB2/0)His310Lys/His435Lys、及びT125(CHO)の結合性の比較。
【図5】YB2/0において産生された天然(野生型)抗体及びCHOにおいて産生された天然(野生型)抗体と比較されたヒトFcγRIIIAに依存するADCCを誘導するモノクローナル抗体の能力についての抗-RhDモノクローナル抗体T125(YB2/0)のヒスチジン310及び435の変異誘導の効果。
【図6】亜鉛(A)及びT125H310K-H435K(YB2/0)(B)の存在下におけるT125(YB2/0)のFc断片の結晶構造の表面の表示。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性型FcRをリクルートする能力を有するが、抑制型FcRをリクルートする能力が、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて低減される抗体の製造方法であって、以下のステップ:
a)ハイブリドーマ、ヘテロハイブリドーマ、又は任意の動物、植物若しくはヒトの細胞株からモノクローナル抗体を取得し、
b)上記抗体のFc領域のHis310とHis435残基(カバットの番号付け)の各々を、リジン、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン又はスレオニンから選ばれる残基で置換し、
c)抑制型FcRへの結合性が、天然Fc領域を有する同じ抗体に比べて、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、70%、80%、又は少なくとも90%だけ低減された抗体を選択する
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記ステップc)において、抑制型FcRへの結合性が失われた抗体が選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選択された残基がリジンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップb)から得られた抗体が、YB2/0(ATCC第CRL1662号)で発現されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップc)から選ばれる前記抗体のFc領域が、活性型Fc受容体に結合する一方、当該Fc領域が抑制型Fc受容体に結合しないことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体が、FcγRIII受容体(A及びBイソ型)及び/又はFcγRIIA受容体及び/又はFcγRI受容体(A及びBイソ型)に結合する一方、FcγRIIB受容体(B1及びB2イソ型)に結合しないことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記受容体がヒト受容体であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
抗体のFc領域の前記受容体が、樹状細胞、単球、マクロファージ、Bリンパ球上に位置することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
抗体のFc領域の前記抑制型受容体が、悪性メラノーマ細胞などの腫瘍細胞、リンパ腫及びB-CLLなどの腫瘍性Bリンパ球並びに骨髄腫細胞上に位置する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体が、B-CLL腫瘍性リンパ球の表面のCD20分子に結合することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記残基が、部位特異的変異誘導又は分子進化により置換されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
抗感染及び抗腫瘍ワクチン化を意図された医薬の製造のための請求項1〜11のいずれか一項に定義される方法によって産生された抗体であって、当該抗体が抗原提示細胞の活性型FcγRによってのみ結合されうる免疫複合体に関与する抗体の使用。
【請求項13】
癌治療用の医薬の製造のための、請求項1〜11のいずれか一項に定義される方法によって産生された抗体の使用。
【請求項14】
リンパ腫、白血病、骨髄腫、肉腫、乳癌などの固形腫瘍、直腸腫瘍、膵臓腫瘍、前立腺腫瘍、胃腫瘍、肺腫瘍、卵巣腫瘍、子宮頚部腫瘍、眼腫瘍、甲状腺腫瘍、ENTスフィアの腫瘍、悪性メラノーマ、膠芽細胞腫、神経芽細胞種などの神経腫瘍から選ばれる癌の治療用の医薬を製造するための、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、HBV(B型肝炎ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)、RSV(呼吸器合胞体ウイルス)、SARSウイルス(新型肺炎ウイルス)、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、天然痘による感染などの感染性疾患、コッホ杆菌、髄膜炎菌、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、クロストリジウム、結核菌、及び腸球菌により引き起こされる感染症などの細菌感染症の治療用の医薬の製造のための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法により産生された抗体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2009−519030(P2009−519030A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545046(P2008−545046)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002748
【国際公開番号】WO2007/080277
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(508178722)エルエフベ バイオテクノロジ (1)
【Fターム(参考)】