説明

流体供給孔付きタップ

【課題】タップ本体の先端に閉塞部材が一体的に固設されることにより、その閉塞部材に沿って流体が外周側へ吐出される形式の流体供給孔付きタップの流体供給性能を改善し、工具寿命を一層向上させる。
【解決手段】オイルホール20の先端開口部に設けられた大径穴部28内に球体30が配設されているため、オイルホール20を通って供給された流体(潤滑油剤など)がその大径穴部28の内壁面に沿って滑らかに外周側へ流動させられるとともに、径方向に形成された吐出通路36内に滑らかに流入させられるようになる。これにより、うず巻き等の乱流の発生が抑制されるとともに圧力損失が低減され、複数の吐出通路36から略均一に流体が吐出されるようになるとともに、その吐出流量が多くなり、優れた流体供給性能(潤滑性能など)が得られるようになって、通り穴に対してねじ立て加工を行う場合でも優れた工具寿命が得られるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体供給孔付きタップに係り、特に、タップ本体の先端に閉塞部材が一体的に固設されることによりその閉塞部材に沿って流体が外周側へ吐出される形式の流体供給孔付きタップの流体供給性能を改善する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) めねじを加工するためのおねじ部を先端外周部に備えているとともに、工具軸心Oを縦通するように流体供給孔が設けられて先端面に開口させられているタップ本体と、(b) そのタップ本体の先端面に密着させられるように一体的に固設されて前記流体供給孔の先端開口部を閉塞する閉塞部材と、(c) 前記タップ本体の先端面と、その先端面に密着させられる前記閉塞部材の対向面との境界部分に、前記流体供給孔と連通するように径方向に形成され、その流体供給孔から供給された流体を外周側へ吐出する複数の吐出通路と、を有する流体供給孔付きタップが提案されている。特許文献1に記載のタップはその一例で、切削タップの場合であり、案内部材が閉塞部材として機能している。このような流体供給孔付きタップによれば、タップ先端に径方向に吐出通路が設けられて流体が外周側へ吐出されるため、通り穴に対してめねじを加工する場合でも、そのめねじの加工部位の近傍へ潤滑油剤等の流体を適切に散布することができる。
【0003】
図3は盛上げタップに関するもので、(a) は工具先端部分を工具軸心Oと平行に切断した縦断面図、(b) は(a) の右方向から見た先端面図であり、タップ本体100の先端外周部にはおねじ部102が設けられているとともに、工具軸心Oを縦通するように流体供給孔としてオイルホール104が設けられ、先端面106に開口させられている。おねじ部102は、外側へ湾曲した辺からなる略六角形状の外周面に加工すべきめねじに対応するおねじのねじ山108が螺旋状に設けられたもので、その六角形状の頂点に相当する6箇所の突出部110が被加工物の下穴の表層部に食い込んで塑性変形させることによりめねじを盛上げ加工する。そして、タップ本体100の先端には円板形状の閉塞部材112が一体的に固設され、オイルホール104の先端開口部を閉塞しているとともに、その閉塞部材112とタップ本体100の先端面106との境界部分に放射状、図3では十字形状を成すように4本の吐出通路114が設けられ、オイルホール104から供給された流体を外周側へ吐出するようになっている。オイルホール104の先端開口部には、センタ支持用のテーパ形状のセンタ穴116が設けられているとともに、おねじ部102には上記6箇所の突出部110の中間位置にそれぞれ油流通溝118が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3025679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の流体供給孔付きタップにおいては、必ずしも期待通りの流体供給性能(潤滑性能など)が得られず、工具寿命の向上効果が十分に得られなかった。図3の従来例を参照して具体的に説明すると、オイルホール104内を流通した流体は閉塞部材112に略垂直にぶつかって跳ね返るとともに、テーパ形状のセンタ穴116の存在で収束してオイルホール104に向かうため、圧力損失が生じるとともにうず巻き等の乱流が生じ易く、吐出通路114から吐出される際の圧力が低下して吐出量が少なくなるとともに、複数の吐出通路114から吐出される流体の吐出量が不均一になり、流体供給性能が損なわれるものと考えられる。また、一般に流体の流通経路の途中に流通断面積が大きい部分が存在すると、流速変化などでうず巻き等の乱流が生じて圧力損失が発生するが、センタ穴116部分で流通断面積が大きくなるため、これにより圧力損失が生じて流体供給性能が損なわれることも考えられる。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、タップ本体の先端に閉塞部材が一体的に固設されることによりその閉塞部材に沿って流体が外周側へ吐出される形式の流体供給孔付きタップの流体供給性能を改善し、工具寿命を一層向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) めねじを加工するためのおねじ部を先端外周部に備えているとともに、工具軸心Oを縦通するように流体供給孔が設けられて先端面に開口させられているタップ本体と、(b) そのタップ本体の先端面に密着させられるように一体的に固設されて前記流体供給孔の先端開口部を閉塞する閉塞部材と、(c) 前記タップ本体の先端面と、その先端面に密着させられる前記閉塞部材の対向面との境界部分に、前記流体供給孔と連通するように径方向に形成され、その流体供給孔から供給された流体を外周側へ吐出する複数の吐出通路と、を有する流体供給孔付きタップにおいて、(d) 前記流体供給孔が前記タップ本体の先端面に開口する先端開口部には、開口端程径寸法が大きくなる大径穴部が設けられているとともに、(e) その大径穴部には、前記流体供給孔を通って供給された流体がその大径穴部の内壁面に沿って外周側へ流動するように案内するガイド部材が収容されていることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の流体供給孔付きタップにおいて、前記ガイド部材は、前記タップ本体および前記閉塞部材と別体に構成された球体で、前記大径穴部とその閉塞部材とによって囲まれた空間内に収容されていることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第2発明の流体供給孔付きタップにおいて、前記閉塞部材の対向面には、前記流体の圧力で前記球体が押圧されることにより工具軸心Oと略同心になるようにその球体を位置決めする位置決め凹所が設けられていることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第1発明の流体供給孔付きタップにおいて、前記ガイド部材は、前記閉塞部材の対向面に前記大径穴部の内方へ向かって突き出すように工具軸心Oと同心に一体的に設けられた先端側程小径のガイド突起であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような流体供給孔付きタップにおいては、流体供給孔の先端開口部に設けられた大径穴部には、流体供給孔を通って供給された流体がその大径穴部の内壁面に沿って外周側へ流動するように案内するガイド部材が収容されているため、流体供給孔から供給された流体が大径穴部の内壁面に沿って滑らかに外周側へ流動させられ、径方向に形成された吐出通路内に滑らかに流入させられるようになる。これにより、うず巻き等の乱流の発生が抑制されるとともに圧力損失が低減され、複数の吐出通路から略均一に流体が吐出されるようになるとともに、その吐出流量が多くなり、優れた流体供給性能が得られるようになって、通り穴に対してねじ立て加工を行う場合でも優れた工具寿命が得られるようになる。
【0012】
第2発明では、ガイド部材が球体で、大径穴部と閉塞部材とによって囲まれた空間内に収容されるため、大幅な設計変更が必ずしも必要なく、簡便に実施することができる。
【0013】
第3発明では、閉塞部材の対向面に位置決め凹所が設けられ、上記球体が工具軸心Oと略同心に位置決めされるため、流体供給孔から供給された流体がその球体により略均一に外周側へ流動させられ、複数の吐出通路から一層均一に流体が吐出されるようになり、流体供給性能が一層向上する。
【0014】
第4発明では、閉塞部材に一体的に設けられたガイド突起によってガイド部材が構成されているため、大幅な設計変更が必ずしも必要なく、簡便に実施することができるとともに、流体供給孔から供給された流体を位置固定のガイド突起により略均一に外周側へ流動させて複数の吐出通路から一層均一に吐出させることができ、流体供給性能が一層向上する。また、球体等のガイド部材を別個に組み込む場合に比較して、閉塞部材をタップ本体に一体的に固設する際の組付作業が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明がオイルホール付き盛上げタップに適用された場合の一例を示す図で、(a) は工具軸心Oと直角な方向から見た正面図、(b) は工具先端部分を工具軸心Oと平行に切断した縦断面図、(c) は(b) の右方向から見た先端面図、(d) は閉塞部材および球体を組み付ける前のタップ本体の先端面図、(e) は閉塞部材を対向面側から見た端面図である。
【図2】本発明の他の実施例を説明する図で、(a) および(b) は何れも図1の(b) に対応する縦断面図である。
【図3】従来のオイルホール付き盛上げタップの一例を示す図で、(a) は図1の(b) に対応する縦断面図、(b) は図1の(c) に対応する先端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の流体供給孔付きタップは、おねじ部が多角形状(三角形以上)を成していて突出部により下穴表層部を塑性変形させてめねじを形成する盛上げタップ(転造タップ)に好適に適用されるが、おねじ部に切れ刃が設けられてめねじを切削加工する切削タップにも適用され得る。盛上げタップの場合、特に十分な潤滑油剤を必要とするため、本発明が適用されることにより潤滑性能が向上し、工具寿命を向上させる効果が大きい。
【0017】
タップ本体と閉塞部材との境界部分に形成される吐出通路は、工具軸心Oまわりに等角度間隔で放射状に3本以上設けられることが望ましいが、工具軸心Oと直交する一直線上に一対の吐出通路が設けられるだけでも良いし、不等角度間隔で設けることもできる。また、直線溝だけでなく、外周側へ向かうに従って工具回転方向側或いは逆回転方向側へ滑らかに湾曲した円弧形状とすることもできるなど、種々の態様が可能である。
【0018】
吐出通路は、タップ本体の先端面および閉塞部材の対向面の少なくとも一方に設けられた断面が半円弧形状や矩形等の直線溝、或いは湾曲溝などによって形成される。タップ本体の先端面および閉塞部材の対向面の何れか一方のみに溝が設けられ、他方は平坦面であっても良いし、タップ本体の先端面および閉塞部材の対向面の両方の相対向する部分にそれぞれ溝が設けられ、その両方の溝が合わされることによって断面円形等の吐出通路が形成されても良い。
【0019】
吐出通路の流通断面積は、複数の吐出通路の合計の流通断面積が流体供給孔の流通断面積と略同じかそれより小さくなるようにすることが望ましく、吐出通路の本数を考慮して適宜設定される。大径穴部とガイド部材との間の流通断面積は、流体供給孔の流通断面積と略同じかそれより小さく、複数の吐出通路の合計の流通断面積と略同じからそれより大きいことが望ましい。
【0020】
閉塞部材は、吐出通路以外の部分でタップ本体の先端面に接着剤などで一体的に接着され、或いはレーザ溶接等による溶接でタップ本体に一体的に固設される。ねじ等による機械的な固設手段で、着脱可能に固定することも可能である。
【0021】
本発明の流体供給孔付きタップは、特に通り穴に対してめねじを加工する場合に好適に用いられるが、止り穴に対してめねじを加工する場合に使用することもできる。但し、止り穴の場合は、前記閉塞部材およびガイド部材は必ずしも必要なく、タップ本体のみの状態で使用することも可能で、通り穴に使用する可能性がある場合だけ閉塞部材およびガイド部材を配設するようにしても良い。
【0022】
大径穴部は、センタ穴のようなテーパ形状であっても良く、センタ穴をそのまま大径穴部として用いることも可能である。テーパ形状の他、工具軸心Oと平行な断面形状が半円弧形状や開口側が開いたU字形状の大径穴部を採用することもできる。
【0023】
ガイド部材である球体を工具軸心Oと同心に位置決めするために閉塞部材の対向面に設けられる位置決め凹所は、球体と略同じ曲率の部分球面形状やテーパ穴、或いは球体よりも小径の円穴などで、球体と係合させられることにより工具軸心Oと略同心に位置決めできるものであれば良い。
【0024】
ガイド部材として閉塞部材に一体的に設けられるガイド突起は、閉塞部材と別体に構成されて接着剤や溶接等により閉塞部材に一体的に固設されるものでも良いが、削り出し等により閉塞部材に一体に設けられても良い。このガイド突起の形状は大径穴部の形状を考慮して適宜定められ、例えば大径穴部がテーパ形状の場合は、そのテーパ形状の大径穴部の内方に向かって突き出す円錐形状とすることが適当である。大径穴部の工具軸心Oと平行な断面形状が半円弧形状や開口側が開いたU字形状の場合は、ガイド突起も断面を半円弧形状としたり、U字形状に対応する断面形状(先端が半球形状で基端側がテーパ角が小さい円錐形状など)とすることが望ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるオイルホール付き盛上げタップ10(以下、単に盛上げタップ10という)を示す図で、(a) は工具軸心Oと直角方向から見た正面図、(b) は工具先端部分を工具軸心Oと平行に切断した縦断面図、(c) は(b) の右方向から見た先端面図、(d) は閉塞部材および球体を組み付ける前のタップ本体の先端面図、(e) は閉塞部材を対向面側から見た端面図である。この盛上げタップ10は、タップ本体12の先端に円板形状の閉塞部材14を一体的に固設したもので、タップ本体12は、図示しないチャックを介して主軸に取り付けられるシャンク16と、めねじを盛上げ加工(転造加工)するためのおねじ部18とを工具軸心Oと同心に一体に備えているとともに、工具軸心Oを縦通するように流体供給孔としてオイルホール20が設けられ、先端面22に開口させられている。この盛上げタップ10は流体供給孔付きタップに相当する。
【0026】
上記おねじ部18は、外側へ湾曲した辺からなる正多角形状、本実施例では略六角形状の断面を成しており、その外周面には形成すべきめねじに対応するおねじのねじ山19が螺旋状に設けられているとともに、六角形状の頂点に相当する6箇所の突出部24が被加工物の下穴の表層部に食い込んで塑性変形させることによりめねじを盛上げ加工する。このおねじ部18は、突出部24の径寸法が略一定の完全山部18aと、先端側へ向かうに従って径寸法が徐々に小さくなる食付き部18bとを備えている。また、6箇所の突出部24の周方向の中間位置には、それぞれ工具軸心Oと平行に油流通溝26が形成されている。
【0027】
オイルホール20は、シャンク16の途中で径寸法が変化しており、シャンク16の後部側は大径(実施例ではφ3)で、途中から小径(実施例ではφ2)とされている。オイルホール20がタップ本体12の先端面22に開口する先端開口部には、半球形状すなわち工具軸心Oと平行な断面形状が半円弧形状を成しているとともに、開口側程径寸法が大きくなるように開口側が開いた略U字形状の大径穴部28が設けられており、その大径穴部28内には、大径穴部28の内壁面との間に所定の隙間が形成されるように大径穴部28よりも小径の球体(実施例では鋼球)30が収容されている。この大径穴部28は、元々センタ穴が形成されていた部分に設けられたもので、センタ穴により工具軸心Oまわりの回転可能に支持して前記おねじ部18などを加工した後に、切削加工などで形成されたものである。球体30は、オイルホール20を通って供給された流体が大径穴部28の内壁面に沿って流通するように外周側へ案内するガイド部材に相当し、大径穴部28と球体30との間の流通断面積は、オイルホール20の工具先端側部分の流通断面積と略同じかそれより小さくなるように定められている。
【0028】
タップ本体12の先端には円板形状の閉塞部材14がレーザ溶接や接着剤等により一体的に固設され、球体30を大径穴部28内に閉じ込めているとともに、オイルホール20の先端開口部を閉塞している。閉塞部材14は、タップ本体12側の対向面32が先端面22に密着させられるとともに、対向面32には、オイルホール20内を供給される流体の圧力で球体30が押圧されることにより、工具軸心Oと略同心になるように球体30を位置決めする位置決め凹所34が設けられている。この位置決め凹所34は、球体30と略同じ曲率の部分球面形状乃至は皿形状を成している。また、タップ本体12の先端面22と閉塞部材14の対向面32とに跨がって放射状、実施例では十字形状を成すように4本の吐出通路36が設けられ、オイルホール20から大径穴部28と球体30との間の隙間を通って供給された流体を外周側へ向かって吐出するようになっている。吐出通路36は、タップ本体12の先端面22に十字状に形成された断面が半円弧形状の溝36aと、閉塞部材14の対向面32に十字状に形成された断面が半円弧形状の溝36bとが合わされることにより、略円形断面の通路とされている。4本の吐出通路36の流通断面積は互いに等しいとともに、合計の流通断面積が大径穴部28と球体30との間の流通断面積と略同じかそれより小さくなるように定められている。
【0029】
このような盛上げタップ10においては、オイルホール20の先端開口部に設けられた大径穴部28内に球体30が配設されているため、オイルホール20を通って供給された流体(潤滑油剤など)がその大径穴部28の内壁面に沿って滑らかに外周側へ流動させられるとともに、径方向に形成された吐出通路36内に滑らかに流入させられるようになる。これにより、うず巻き等の乱流の発生が抑制されるとともに圧力損失が低減され、複数の吐出通路36から略均一に流体が吐出されるようになるとともに、その吐出流量が多くなり、優れた流体供給性能(潤滑性能など)が得られるようになって、通り穴に対してねじ立て加工を行う場合でも優れた工具寿命が得られるようになる。
【0030】
また、本実施例では、ガイド部材として球体30が用いられ、大径穴部28と閉塞部材14とによって囲まれた空間内に収容されるため、大幅な設計変更が必要なく、簡便に実施することができる。
【0031】
また、本実施例では、閉塞部材14の対向面32に位置決め凹所34が設けられ、球体30が工具軸心Oと略同心に位置決めされるため、オイルホール20から供給された流体がその球体30により略均一に外周側へ流動させられ、複数の吐出通路36から一層均一に流体が吐出されるようになり、流体供給性能が一層向上する。
【0032】
因みに、呼び径が14mmでピッチが2mmの本発明品(図1の盛上げタップ10)および従来品(図3の盛上げタップ)の2種類の盛上げタップを用意し、以下の加工条件でめねじのねじ立て加工を行って工具寿命に達するまでの加工穴数を調べたところ、本発明品は従来品に比べて周速度が速い過酷な条件にも拘らず4000穴を加工することが可能で、3500穴の従来品よりも優れた工具寿命が得られた。工具寿命は、突出部24の摩耗によるゲージアウト(GPアウト)によって判定した。周速度以外は、本発明品、従来品共に同じ加工条件である。
《加工条件》
被加工物:機械構造用炭素鋼(JIS−S45C)
加工深さ:28mm(通り穴)
周速度:35m/min(本発明品)、30m/min(従来品)
送り速度:2mm/rev
潤滑油剤:塩素フリー水溶性(2MPa)
【0033】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0034】
図2の(a) 、(b) は何れも前記図1(b) に対応する断面図で、(a) はテーパ形状のセンタ穴40をそのまま大径穴部として用いる場合で、前記球体30よりも小径の球体42がガイド部材として用いられるとともに、閉塞部材14にはその球体42に対応する小径の位置決め凹所44が形成されている。この実施例も前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【0035】
図3の(b) は、同じくテーパ形状のセンタ穴40をそのまま大径穴部として用いる場合で、そのセンタ穴40に対して相似形を成す円錐形状のガイド突起50が、そのセンタ穴40の内方へ向かって突き出すように工具軸心Oと同心に閉塞部材14の対向面32に一体的に突設されている。このガイド突起50は、閉塞部材14に一体に設けることもできるが、別体に構成して溶接や接着剤などで一体的に固設しても良い。本実施例も、前記実施例と同様の作用効果が得られる。また、閉塞部材14に一体的に設けられたガイド突起50によってガイド部材が構成されているため、大幅な設計変更が必ずしも必要なく、簡便に実施することができるとともに、オイルホール20から供給された流体を位置固定のガイド突起50により略均一に外周側へ流動させて複数の吐出通路36から一層均一に吐出させることができ、流体供給性能が一層向上する。また、球体等のガイド部材を別個に組み込む場合に比較して、閉塞部材14をタップ本体12に一体的に固設する際の組付作業が容易になる。
【0036】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10:オイルホール付き盛上げタップ(流体供給孔付きタップ) 12:タップ本体 14:閉塞部材 18:おねじ部 20:オイルホール(流体供給孔) 22:先端面 28:大径穴部 30、42:球体(ガイド部材) 32:対向面 34、44:位置決め凹所 36:吐出通路 40:センタ穴(大径穴部) 50:ガイド突起(ガイド部材) O:工具軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めねじを加工するためのおねじ部を先端外周部に備えているとともに、工具軸心Oを縦通するように流体供給孔が設けられて先端面に開口させられているタップ本体と、
該タップ本体の先端面に密着させられるように一体的に固設されて前記流体供給孔の先端開口部を閉塞する閉塞部材と、
前記タップ本体の先端面と、該先端面に密着させられる前記閉塞部材の対向面との境界部分に、前記流体供給孔と連通するように径方向に形成され、該流体供給孔から供給された流体を外周側へ吐出する複数の吐出通路と、
を有する流体供給孔付きタップにおいて、
前記流体供給孔が前記タップ本体の先端面に開口する先端開口部には、開口端程径寸法が大きくなる大径穴部が設けられているとともに、
該大径穴部には、前記流体供給孔を通って供給された流体が該大径穴部の内壁面に沿って外周側へ流動するように案内するガイド部材が収容されている
ことを特徴とする流体供給孔付きタップ。
【請求項2】
前記ガイド部材は、前記タップ本体および前記閉塞部材と別体に構成された球体で、前記大径穴部と該閉塞部材とによって囲まれた空間内に収容されている
ことを特徴とする請求項1に記載の流体供給孔付きタップ。
【請求項3】
前記閉塞部材の対向面には、前記流体の圧力で前記球体が押圧されることにより工具軸心Oと略同心になるように該球体を位置決めする位置決め凹所が設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の流体供給孔付きタップ。
【請求項4】
前記ガイド部材は、前記閉塞部材の対向面に前記大径穴部の内方へ向かって突き出すように工具軸心Oと同心に一体的に設けられた先端側程小径のガイド突起である
ことを特徴とする請求項1に記載の流体供給孔付きタップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−184339(P2010−184339A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31678(P2009−31678)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)