説明

浄水高度処理方法及び装置

【課題】本発明は、従来の浄水高度処理システムの利点を十分生かした上で、臭素酸の生成を解消し、その結果、安全でおいしい飲料水を供給する新しい浄水方法と装置を提供することを目的とする。
【解決手段】かかる目的を解決するための手段として、本発明の一態様は、被処理水をオゾン処理した後、嫌気性生物処理、及び場合によっては更に好気性生物処理を行うことを特徴とする浄水処理方法を提供する。また、本発明の他の態様は、被処理水をオゾン処理するオゾン処理装置;オゾン処理された被処理水を嫌気性生物処理する嫌気性生物処理装置;及び場合によっては更に嫌気性生物処理された被処理水を好気性生物処理する好気性生物処理装置;を具備することを特徴とする浄水処理装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水の処理方法に係り、特に、河川水、湖沼水、地下水等の原水から高度に浄化された飲料水を得ることができる浄水処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚濁の進んだ原水を飲料水にする浄水方法として、浄水高度処理システムが普及している。
【0003】
この方法は、図1のフロー工程図に示されるように、従来の凝集沈殿工程2及びろ過工程3に、オゾン処理工程4と生物活性炭処理工程7を組合わせたものである。被処理水を、まず凝集沈殿工程2で処理し、次に砂ろ過等のろ過工程3で処理する。そして、凝集沈殿及びろ過工程で取りきれない汚濁成分を、オゾン処理4によって酸化分解する。その後、オゾン処理による酸化分解物と残存物質とを活性炭層を通過させるなどの生物活性炭処理7(好気処理)にかけることにより、活性炭に自生した微生物によって汚濁物質を生物分解すると共に、活性炭吸着によって除去する。
【0004】
このような浄化工程を経ることで、トリハロメタン前駆物質やジオスミンや2−MIB(2−メチルイソボルネオール)などの臭気物質の除去が行われ、安全でおいしい水を供給することができる。
【0005】
このシステムは、上記のように優れている面が認められている。しかし、最近の研究において、オゾン処理工程で、臭素イオンが酸化されて臭素酸になることが明らかになってきている。臭素酸は、発ガン性物質であり、昨今、WHOでは臭素酸の飲料水許容値を10μg/Lにした。わが国においても、現在、飲料水基準として10μg/L以下に強化することが検討されている。
【0006】
オゾン処理工程において生成した臭素酸は、その後の生物活性炭処理では除去することができない。そこで、オゾン酸化工程での臭素酸の生成量を減少させる試みがなされている(平成15年度全国水道研究発表会講演集、p.242、2003年)。しかしながら、この対応は、オゾン添加量を少なくすることが主体であり、オゾンの酸化力を低下させて臭素酸を生成しにくくしているものの、本来の目的である微量有機物質の酸化分解力を同時に低下させていることになる。
【0007】
つまり、オゾンとの競合反応について詳細に検討されているわけではないが、一般に、フミン酸やフルボ酸などのトリハロメタン前駆物質より、臭素の方がオゾンに対して反応性が高いものと考えられる。したがって、微量有機物質の方が極端に反応性が高い場合を除いて、オゾン添加量を減少させることは、そのまま微量有機物質への酸化力が低下することを意味する。したがって、臭素酸生成抑制を目的としてオゾン添加量を抑制することは、安全でおいしい飲料水を供給するという高度浄水処理法の本来の目的自体を損なうものであり、急場しのぎの対症療法と言わざるを得ない。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、上記の従来技術の問題点に対して、科学的実証的根拠に基づいて抜本的な解決策を講じるものであり、従来の浄水高度処理システムの利点を十分生かした上で、臭素酸の生成を防止し、その結果、安全でおいしい飲料水を供給する新しい浄水方法と装置を提供することを課題とするものである。
【0009】
上記課題を解決する手段として、本発明の一態様は、河川水、湖沼水又は地下水などを原水として、凝集沈殿工程、ろ過工程及びオゾン処理工程を経て、飲料水を得る浄水処理方法において、オゾン処理工程の後に、オゾン処理水を嫌気性生物処理工程で処理することを特徴とする浄水処理方法を提供する。
【0010】
また、本発明の他の態様においては、前記浄水処理方法において、嫌気性生物処理工程の処理水を、さらに好気性生物処理工程で処理することができる。また、前記オゾン処理工程と嫌気性生物処理工程の間には、脱気工程を配することができ、また、嫌気性生物処理工程での処理は、有機物質(特に、食品添加物)を添加して行うことができ、前記脱気工程は、真空脱気方式、窒素ガス撹拌方式、膜脱気方式のいずれかを用いることができる。
【0011】
また、本発明の他の態様は、河川水、湖沼水又は地下水などを原水として飲料水を得る、凝集沈殿装置、ろ過装置及びオゾン処理装置を有する浄水処理装置において、前記オゾン処理装置の後に、該オゾン処理水を処理する嫌気性生物処理装置を配備したことを特徴とする浄水処理装置を提供する。
【0012】
本発明の更に他の態様では、臭素酸を含む浄水工程水から臭素酸を除去する方法において、前記浄水工程水を脱気するか、及び/又は、前記浄水工程水に有機物質を添加して、通性嫌気性菌作用と生物学的酸化作用とを有する生物処理槽(即ち、嫌気性生物反応部と好気性生物反応部とを備えた生物処理槽)で処理することを特徴とする臭素酸の除去方法が提供される。
【0013】
また、本発明の更に他の態様では、臭素酸を含む浄水工程水から臭素酸を除去する装置において、前記浄水工程水を脱気する脱気装置、及び/又は、前記浄水工程水に有機物質を添加する手段と、通性嫌気性菌作用と生物学的酸化作用とを有する生物処理槽とを、順次配備したことを特徴とする臭素酸の除去装置が提供される。
【0014】
なお、前記通性嫌気性菌作用と生物学的酸化作用とを有する生物処理槽は、次の(a)〜(c)の各構成を有するのがよい。
(a)槽下部に原水流入口を有し、槽上部に処理水流出口を有し、槽底部に逆流洗浄機構を配備する構成;
(b)逆流洗浄機構の上部に、上下2層で連続形成される充填材層を形成し、前記下層の充填材が、水に沈みかつ逆流洗浄時に膨張層を形成しない多孔質粒状材からなり、前記上層の充填材が、水に沈みかつ逆流洗浄時に膨張層を形成する多孔質粒状材からなる構成;
(c)下層の充填材層に通気管を配備する構成。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来公知の浄水処理方法を示すフロー工程図である。
【図2】本発明の一態様に係る浄水処理方法の一例を示すフロー工程図である。
【図3】本発明の他の態様に係る浄水処理方法の一例を示すフロー工程図である。
【図4】本発明の一態様において使用することのできる嫌気性処理槽と好気性処理槽とを組みあわせた生物処理槽の構成を示す概念図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、本発明において使用することのできる嫌気反応部と好気反応部とに仕切られた生物処理槽の構成例を示す概念図である。
【図6】本発明の一態様において使用することのできる嫌気性生物反応部と好気性生物反応部とを備えた生物処理槽の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の各種実施態様を図面を参照して説明する。図2は、本発明の一態様に係る浄水処理方法の一例を示すフロー工程図である。
【0017】
図2の浄水処理方法においては、河川水、湖沼水、地下水等の飲料原水1は、凝集沈殿工程2、砂ろ過工程3などの当該技術において公知の処理がされた後、オゾン処理工程4で処理される。次に、本発明方法においては、オゾン処理されたオゾン処理水を脱気工程5にかけた後に嫌気性生物処理工程6にかける。また、脱気工程5に代えてオゾン処理水に有機物8を添加して、嫌気性生物処理工程6にかけてもよい。或いは脱気工程5と有機物8の添加の両方を行うこともできる。有機物8を添加すると、好気性細菌が溶存酸素を取り入れて有機物を資化することで酸素が消費され、雰囲気を嫌気性にすることができる。
【0018】
本発明方法において、オゾン処理の前段処理として行う凝集沈殿工程2及び砂ろ過工程3は、浄水処理プロセスにおいて公知の技術であり、任意の方法を採用することができる。また、オゾン処理の前段処理として、当業者に明らかな他の処理を行うこともできる。
【0019】
オゾン処理工程4では、原水にオゾンを吹き込むことによって殺菌が行われるが、それと同時に、原水中に含まれる臭素イオンがオゾンによって酸化され、臭素酸イオンを生成する。
【0020】
【化1】

この臭素酸は、従来の生物活性炭処理工程(好気処理)では除去することができない。臭素酸を除去する方法として、本発明方法で採用する嫌気性生物処理による還元法は、特別な触媒や薬品を使用せず、自然界の浄化作用に基づいているため、安全性も高い。本発明は、この原理に基づいている。微生物の代謝作用から生じる水素によって、臭素酸イオンが還元されて臭素イオンになる。
【0021】
【化2】

オゾン酸化工程4においては、オゾンと共に酸素が供給されるため、被処理液は酸素リッチの状態である。被処理液中に酸素が十分に溶解していると、嫌気性生物処理は作用しない。
【0022】
被処理液中の酸素を除去する方法として、脱気工程5を設けるか、又は、酸素を微生物の代謝作用によって効率的に除去するために、生物学的に容易に分解される有機物質8を添加する方法とが考えられる。また、両者を併用することもできる。
【0023】
先ず、脱気工程5を配した場合について説明する。脱気手段としては、真空脱気方式もしくは窒素ガス撹拌方式もしくは膜脱気方式が適切である。真空脱気方式とは、槽内を真空に保ち、被処理液中の溶存気体をすべて取り除く方法である。次に、窒素ガス撹拌方式とは、密閉槽に窒素ガスをバブリングすることによって酸素分圧を減らし、被処理液中の酸素を除去する方法である。この際、窒素ガスを得る方法として、少量であれば窒素ガスボンベを用い、多量であれば分子篩効果を利用したPSA装置を用いることが効果的である。また、膜脱気方式とは、中空子等の膜の片側を減圧することによって溶存ガスを除去する方法である。脱気後の被処理液の溶存酸素濃度は、2mg/L以下、望ましくは1mg/L以下、さらに望ましくは0.3mg/L以下とすることが好ましい。
【0024】
このようにして脱気された被処理水は、嫌気性生物処理工程6に導かれる。嫌気性生物処理方法としては生物膜法が適している。即ち、活性炭、ハニカムチューブ材、布帛材などの微生物担体を充填し、嫌気状態に保持した充填槽(嫌気性生物処理槽)に被処理水を導入することにより、担体の表面に形成された微生物膜と被処理水とが接触して、微生物による被処理水の生物処理が行われる。下水などのように被生物処理物質が多い場合は浮遊法を採用することも考えられるが、本発明が処理対象とする浄水原水では、被生物処理物質の濃度がμg/Lレベルであるため浮遊法は適切ではない。
【0025】
なお、脱気工程5を省略する場合や、脱気工程5での脱気が不十分の場合、さらには嫌気性生物処理速度を高める目的で、有機物質8を添加することができる。脱気工程の効果が優れていて且つ生物学的還元作用を早める必要がない場合には、有機物質の添加を省略することができる。添加する有機物質8は、通性嫌気性菌の代謝に利用される有機物質であれば何でもよいが、エタノールや酢酸をはじめとした食品添加物であれば、万が一飲料水中に残存したとしても安全性の面で心配が要らない。これ以外にも例えば、メタノールなどのアルコール類、乳酸、クエン酸などの有機酸類、グルコース、ラクトース、フルクトース、マルロースなどの糖類、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などの低級脂肪酸類など、更にBOD源となる他の任意の物質を有機物質として使用することができる。これらの有機物質を被処理水に添加することによって、通性嫌気性菌が活性化され、残存溶存酸素をいち早く細胞内に取り入れ、被処理水を無酸素状態に導くことができる。更に、被処理水が既に無酸素状態であれば、臭素酸イオン中の酸素を代謝に利用し、加えてこのとき有機物質が残存していれば水素供与体として作用し、内生呼吸によらない臭素酸イオンの還元が可能になり、反応が促進されることになる。
【0026】
上記のような嫌気性条件で浄水を処理することにより、嫌気処理槽内の通性嫌気性微生物及び/又は絶対嫌気性微生物の働きによって、上述したように被処理水中の臭素酸イオンが還元され臭素イオンとなる。
【0027】
ところで、嫌気性生物処理工程での生物付着担体として活性炭を用いることによって、生物活性炭機能を期待することもできる。ここで、「生物活性炭機能」若しくは「生物活性炭作用」とは、活性炭のマクロポアに繁殖する生物が、ミクロポアに吸着した化学物質を分解する機能又は作用のことである。活性炭の吸着機能と、上記の「生物活性炭機能」によって、極めて優れた浄化作用を期待できる。特に、原水中に有機物質がほとんどなく、ジオスミンや2−MIBなどの異臭味対策として高度浄水処理システムを導入する場合では、嫌気性生物処理水(浄水)9を、そのままもしくは簡単なエアレーションを施すことで飲料水に供することができる。
【0028】
また、本発明の他の態様によれば、原水中にトリハロメタン前駆物質が存在する場合などには、嫌気性生物処理工程の後段に好気性生物処理工程を配備することが望ましい。嫌気性生物処理工程の後段として好気性生物処理工程を配した本発明の他の態様に係る浄水処理方法のフロー工程図を図3に示す。従前の図面で説明したものと同じ構成要素に関しては、同じ参照番号を付して、適宜説明を省略する。図3に示す浄水処理方法においては、原水は、凝集沈殿2、砂ろ過3などの前処理を行った後、オゾン処理4にかけられる。オゾン処理されたオゾン処理水は、脱気工程5にかけられるか、及び/又は有機物8が添加された後、嫌気処理工程6にかけられ、続いて空気注入12がされて、好気処理工程11にかけられ、浄水9が得られる。本発明のかかる態様において用いられる好気性生物処理工程でも、嫌気性生物処理工程の場合と同様に生物膜法が適している。最も簡単な方法は、嫌気性生物処理槽の出口(或いは嫌気性生物処理槽と好気性生物処理槽との間)に気液接触部を設け、被処理液中に酸素を溶解させた後、従来法と同様の構成の生物活性炭槽(好気性生物処理槽)に導くことである。また、好気性生物処理槽に空気12を直接吹き込んでもよい。生物活性炭槽(好気性生物処理槽)では、微生物担体として活性炭を充填し、好気性条件に保った反応槽に被処理水を導入して、担体表面に形成された微生物膜と被処理水とを接触させて、被処理水の好気性生物処理を行う。なお、好気性生物処理槽を好気性条件に保つための手段としては、特許第1642399号公報に記載のように担体充填層の下部から散気すると酸素利用効率が高いため効果的である。また、生物膜処理効果が促進されるため、充填材として必ずしも活性炭である必要はなく、ゼオライトや人工軽量骨材などの多孔質材、場合によっては、通常のろ過材である砂やアンスライトでも良く、これら充填材を組み合わせても良い。
【0029】
好気性生物処理工程11では、生物活性炭作用もしくは生物膜による浄化作用によって、わずかに残存しているトリハロメタン前駆物質やジオスミン、2−MIBなどの臭気原因物質を処理することができる。もちろん、好気性生物処理工程において臭素酸イオンの生成は皆無であり、臭素酸の懸念のない安全で、おいしい飲料水を安心して供給できる。
【0030】
本発明において、オゾン処理水を脱気又は有機物添加した後に嫌気性処理し、続いて好気性処理する場合においては、嫌気性処理と好気性処理とは、別々の反応槽で行うことができる。かかる形態の生物処理装置を図4に示す。即ち、オゾン処理水を脱気又は有機物添加した被処理水を、まず嫌気性生物反応槽6に導入して嫌気性生物処理を行った後に、嫌気性生物反応槽からの排出水を次に好気性生物反応槽11に導入して空気12を吹き込みながら好気性生物処理を行う。この場合、例えば図4に示す形態のように、嫌気性生物反応槽の下部に処理水を導入し、嫌気性生物反応槽の上部より嫌気性処理水を取り出して好気性生物反応槽の下部に供給することができる。
【0031】
また、一つの反応槽を仕切り板によって区切って嫌気性反応部と好気性反応部とを形成した生物反応槽を構成し、これを用いて嫌気性生物処理及び好気性生物処理を行うことができる。かかる形態の生物処理装置を図5に示す。この場合、例えば、図5aに示すように、オゾン処理水を脱気又は有機物添加した被処理水を嫌気性反応部6の下部に導入し、嫌気性反応部6の処理水が仕切り板14を溢流するように仕切り板を構成して、嫌気性反応部の上部の処理水を好気性反応部11の上部に供給して、空気供給管15より空気を吹き込みながら好気性生物処理を行い、好気性反応部11の排出水を好気性反応部の下部より取り出すことができる。また、図5bに示すように、仕切り板14の下部に液流通口16を設けて、嫌気性反応部の処理水を槽下部より好気性反応部に供給するように生物反応槽を構成することもできる。更には、図5cに示すように、嫌気性反応部6と好気性反応部11との間に曝気部を設け、嫌気性反応部の下部より曝気部に処理水を導入し、曝気部内で空気供給管15より空気を吹き込んだ後に、仕切板の上端より好気性反応部11に被処理水を導入するように生物反応槽を構成することもできる。また、円状の反応槽を仕切板によって中心部と円周部とに区切り、それぞれの部分を嫌気性反応部又は好気性反応部として使用するように構成した生物反応槽を用いることもできる。
【0032】
なお、本発明方法において用いる嫌気性反応槽及び好気性反応槽に生物担体として用いることのできる充填材としては、当該技術において公知の任意の材料を使用することができる。例えば、粒状活性炭、ハニカムチューブ、布帛材料、合成ゼオライト、人工軽量骨材、多孔質焼結材、石炭乾留物などを使用することができる。
【0033】
更に、本発明の他の態様によれば、一つの反応槽の上下に嫌気性反応部と好気性反応部とを設けた生物処理槽、即ち、嫌気性反応部と好気性反応部(生物学的酸化反応部)とを有する生物処理槽を使用することができる。かかる態様の生物処理槽の構成を図6に示す。
【0034】
図6において、オゾン処理された臭素酸イオンが含まれる被処理液は、流入口31から原水分配機構兼逆流洗浄機構32を経由して、均等な上昇流を形成しながら充填材層A(嫌気性反応部)に至る。充填材層Aの充填材aは、多孔質でかつ逆流洗浄時に膨張層を形成するものであってはならない。数十μg/Lという極希薄濃度の臭素酸イオンを生物学的に還元するためには、通性嫌気性菌が生息し易い環境でなければならない。したがって、充填材aは、通性嫌気性菌の大きさがサブミクロンオーダであるから、その数倍の孔を有するマクロポアの発達した物が良く、さらに、後述するように通気管33が配備されるので、逆流洗浄時に膨張層を形成しないことが好ましい。逆流洗浄時に膨張層を形成すると、通気管33によりブリッジングが生じ、逆流洗浄後に充填材層Aに空隙(空間、隙間)が生じ、適正な層を形成できないことがしばしば生じる。これが著しい場合には、処理を継続している最中に空隙がつぶれることがある。このようになると、充填材層Aと、後に説明する充填材層Bとが混合するため、適正な生物処理ができなくなる。したがって、逆流洗浄によって充填材層Aは膨張しないことが望ましい。
【0035】
図6に示す生物反応槽において用いられる通気管33としては、管状部材に多数の孔を形成した多孔管を用いることが好ましい。多孔管に形成する通気口径は、2mm程度が適切である。2mm以下であると微生物膜による汚染により閉塞する可能性がある。さらに、通気の目的は、雰囲気中の溶存酸素をゼロから数mg/L、好ましくは5mg/L以上にするだけでよく、下水や排水処理で用いる散気管に比べて通気量(散気量)は極端に少ない。一般に、好気性ろ床法(生物膜ろ過法)の下水や排水処理で供給する散気量は、水処理工学第2版(井出哲夫編著、技報堂出版、1976、p348)によれば、処理水量の2倍から4倍である。本発明の場合では、処理水量の1倍以下、さらに好ましくは0.5倍以下でよく、その結果、均等な分配を考慮すると通気孔径は小さければ小さいほど良い。つまり、閉塞を防止するための最小径である2mm程度が妥当でなる。通気口径が2mmであれば、充填材aの粒径は2mm以上、望ましくは3mm以上、さらに望ましくは4mm以上でなければ、通気口が充填材aで閉塞することになるので好ましくない。加えて、充填材の粒径が大きすぎると、生物膜付着面積が少なくなり、生物処理効果が低下する。経験的には、充填材aの粒径は15mm以下、さらには10mm以下が望ましい。
【0036】
このような条件を満たす充填材aの材質は、気相用造粒活性炭、合成ゼオライト、人工軽量骨材、多孔質焼結材、石炭乾留物などいずれでもよく、とりわけ、特開平11−197682号公報に記載されている環境浄化用造粒物は、原料が廃鋳物砂と活性炭の焼成物であることから極めて有効である。
【0037】
図6に示す生物反応槽においては、充填材層Aの上方部に、通気管33が配備されている。通気管33の通気口から空気が排出され、酸素を供給する。この通気管は単純な構造が望ましい。微細気泡を発生させる散気装置が昨今開発されているが、図6に示す生物反応槽において用いるのにはあまり適切ではない。図6に示す生物反応槽においては、充填材層の水の流れを妨害しないで且つ耐久性の高い手段として、通気口を有する多孔管がもっとも望ましい。通気管の配設位置は、充填材層Aの上端付近、具体的には充填材層Aの上端から100mm以下、望ましくは200mm程度が望ましい。勿論、この値は一具体例であり、生物反応槽の大きさや、充填材の粒径、充填密度などによって変動する。
【0038】
この理由として2点あげられる。第1には、通気管を充填材層Aの上端若しくは充填材層Aと充填材層Bとの境界に配設したのでは、充填材層Bを形成する充填材bが通気口へ侵入することが懸念される。また、通気管を充填材層Aの下方部に配設したのでは、充填材層Aの無酸素状態が得られにくい。第2には、通気管の配設位置付近がすぐに好気状態になるのではなく、通気口から均等に出た空気は、充填材層Aの中で充填材aと接触を繰り返すことによって分割される。したがって、通気管配設位置から徐々に上昇するにしたがって酸素溶解効率が上がっていく。水温23℃のときに小型実験機で確認したところ、通気管位置をゼロ点として被処理水中のDO(溶存酸素)濃度を測定したところ、ゼロ点では0.0mg/L、+20mm点では0.0〜0.2mg/L、+50mm点では0〜0.4mg/L、+100mm時点では0.3mg/L〜1.3mg/L、+150mm点では1.1mg/L〜1.6mg/L、+200mm時点では2.3mg/L〜4.2mg/L、+300mm点では3.8mg/L〜7.1mg/Lであった。したがって、通気管配設位置より100mm上方までは微好気状態であり、200mm時点まで来ると、はっきりした好気状態になることを実験的に確認した。
【0039】
また、通気管の水平断面形状は、例えば、中心に配置された主管の両側に枝管が複数本接続されたような形状とすることができる。
【0040】
このように形成された充填材層Aでの臭素酸イオン除去機構は、次の通りである。微生物の代謝作用から生じる水素によって、臭素酸イオンが還元されて臭素イオンになる。
【0041】
【化3】

この方法は、特別な触媒や薬品を使用せず、自然界の浄化作用に基づいた還元作用に基づいているため、安全性の面でも優れている。
【0042】
次に、充填材層Aで嫌気性生物処理を受けた被処理液は、充填材層Bに至り、空気管33からの通気によって溶存酸素が十分にある状態で好気性生物処理が行われる。充填材層Bは、充填材bによって構成される。充填材bは、逆流洗浄時に膨張層を形成し、かつ多孔質材であることが好ましい。逆洗時の膨張率は5から40%、望ましくは10から30%が良く、この程度膨張すると、充填材同士が適度に衝突し、充填材表面に付着した過剰な生物膜や、充填材の間に補足した浮遊物質を、適切に排出することができる。
【0043】
ところで、一般に、好気状態の微生物によって構成された生物膜は粘着性が高く、上記のような衝突を繰り返す逆流洗浄が不可欠であるが、嫌気状態で且つ浄水処理工程水のように、有機物質と被還元物質が数10μg/Lレベルと極微量である場合には、充填材同士の衝突による逆流洗浄は、生物膜を過剰に剥離してしまうため、かえって性能を低下させる原因になり、好ましくない。あくまで充填材層Aは、逆流洗浄においても膨張せず、充填材aの間をすり抜ける水流によって、過剰な生物膜を排出する方が適切である。ただし、水温が高く生物活性が高い時には、たとえば月に一度程度、水洗速度を高め、もしくは空気洗浄を併用するなどして、充填材aを膨張させない状態でわずかに移動させても良い。理想的には、充填材aの各個の位置は変わらないで、向きが変わる程度が良く、この程度で十分に、余剰生物膜の排除と微生物の活性化が図れる。
【0044】
充填材bの代表例として、高度浄水処理システムで採用されている生物活性炭(水処理用活性炭)と同様な活性炭をあげることができるが、先に示した要件を満たすものであれば、合成ゼオライト、人工軽量骨材、多孔質焼結材、石炭乾留物など何でもよく、特に規定するものではない。
【0045】
逆流洗浄速度は、先ず、充填材bによって定める。充填材bとして高度浄水処理システムにおける活性炭を採用した場合では、水洗速度0.3から0.8m/min程度であり、他の充填材の場合でも、最大で1.0m/min程度である。
【0046】
次に充填材aの選定について説明する。充填材bとして高度浄水処理システムにおける活性炭を採用した場合では、水洗速度が0.3から0.8m/min程度となり、充填材aは、この水洗速度で膨張しないものであることが好ましい。更に先に述べた粒径と多孔性を加味すると、すでに示したように気相用造粒活性炭、合成ゼオライト、人工軽量骨材、多孔質焼結材、石炭乾留物などが充填材aとして好ましい。
【0047】
充填材層Bにおいては、通気管33からの通気によって好気状態が得られ、好気性生物処理作用によって残存有機物質や異臭味原因物質が除去される。もちろん、充填材bとして活性炭を用いれば、生物活性炭作用が生じる。このようにして浄化された被処理液は、トラフ34を経由して流出口35から流出する。
【0048】
処理をある程度の時間、具体的には半日、1日もしくは2日継続すると、充填材層、とりわけ充填材層Bにおいて、生物膜の過剰分や補足された浮遊物質によってろ過抵抗が増してくる。このような場合には逆流洗浄を行うことが好ましい。逆流洗浄の方法は通常のろ過装置と大きく変わらない。先ず、生物反応槽の中間排水口36を開け、槽内水位の低下を図る。この水位低下は省略することができるが、充填材bの流出を防止する上から実施することが望ましい。次に、逆流洗浄水を逆流洗浄口37から入れ、充填材aを膨張させないで且つ充填材bを膨張させた状態で洗浄する。逆流洗浄口37は、被処理液流入口31と兼用することもできる。また、定常的には使用しないが、空気洗浄が必要となる場合に備えて、逆流洗浄機構のなかに空気洗浄を組み込んでも良い。逆流洗浄水は、トラフ34を通って流出口35から系外に排出される。
【0049】
逆流洗浄排水に濁りが少なくなった段階、具体的には10分から30分程度の時間が経過した後で、逆流洗浄を停止する。生物処理の再開に際しては、そのまま処理を開始しても良いし、中間排水口36による水位低下を図ってもよく、さらには再開後の生物処理水を、一定時間循環するなどの操作を施してもよい。
【0050】
図6に示す本発明の一態様に係る生物処理槽を用いれば、充填材層Aで生物学的な還元作用を施し、また、充填材層Aの上方部に配備した通気管33からの通気によって好気状態を維持できる充填材層Bにおいて、生物学的な酸化作用(好気性処理)を施すことによって、トリハロメタン前駆物質やジオスミン、2−MIBなどの臭気原因物質を処理すると共に、臭素酸イオンに懸念のない安全で、おいしい飲料水を安心して供給できる。
【0051】
なお、本発明において、嫌気性生物処理とは、所謂通性嫌気性生物処理と絶対嫌気性生物処理の両方を包含する。実際の運転においては、嫌気性処理槽内では通性嫌気性細菌と絶対嫌気性細菌の両方が混在して作用する状態になっていると推測することができる。特に上記に説明したような一つの生物反応槽内に嫌気性反応部と好気性反応部とを形成した反応装置を用いてオゾン処理された被処理水の生物処理を行う場合には、嫌気性反応部においては、被処理水の導入部分では好気性細菌の作用も未だ存在しているが、中間部分では通性嫌気性細菌の作用が支配的となり、嫌気性反応部の後半部分では絶対嫌気性細菌の作用が支配的となるような条件で生物反応槽を運転することがより好ましいと考えられる。
【0052】
なお、本発明によって嫌気性処理及び場合によっては更に好気性処理を行った後に生物処理槽から排出される処理水には、生物処理槽での生物担体に付着している後生動物(ミジンコ、ワムシなど)や、担体が剥離・脱落して生成する微粒子、更には生物担体に付着している嫌気性微生物及び好気性微生物自体が混入する場合がある。これらの夾雑物を排除するために、本発明によって得られる処理水を更にろ過処理することができる。
【0053】
本発明の各種形態は以下の通りである。
【0054】
1.被処理水をオゾン処理した後、嫌気性生物処理を行うことを特徴とする浄水処理方法。
【0055】
2.オゾン処理した被処理水に脱気処理を行うか、及び/又は、オゾン処理した被処理水に有機物を添加した後に、嫌気性生物処理を行う上記第1項に記載の浄水処理方法。
【0056】
3.脱気処理によって被処理水中の溶存酸素濃度を2mg/L以下にする上記第2項に記載の浄水処理方法。
【0057】
4.被処理水の脱気処理を、真空脱気方法、窒素ガス撹拌方法又は膜脱気方法のいずれかの方法によって行う上記第2項又は第3項に記載の方法。
【0058】
5.被処理水に有機物としてエタノール又は酢酸を加える上記第2項に記載の浄水処理方法。
【0059】
6.嫌気性生物処理の後段処理として、被処理水をろ過処理する上記第1項〜第5項のいずれかに記載の浄水処理方法。
【0060】
7.被処理水をオゾン処理した後、嫌気性生物処理し、続いて好気性生物処理することを特徴とする浄水処理方法。
【0061】
8.好気性生物処理の後段処理として、被処理水をろ過処理する上記第7項に記載の浄水処理方法。
【0062】
9.被処理水として、原水を凝集沈殿処理及びろ過処理にかけた処理水を用いる上記第1項〜第8項のいずれかに記載の浄水処理方法。
【0063】
10.原水として、河川水、湖沼水又は地下水を用いる上記第9項に記載の浄水処理方法。
【0064】
11.被処理水をオゾン処理するオゾン処理装置;オゾン処理された被処理水を嫌気性生物処理する嫌気性生物処理装置;を具備することを特徴とする浄水処理装置。
【0065】
12.オゾン処理装置でオゾン処理された被処理水を脱気処理する脱気処理装置、及び/又は、オゾン処理された被処理水に有機物を添加する有機物添加装置を更に具備する上記第11項に記載の浄水処理装置。
【0066】
13.脱気処理装置が、真空脱気装置、窒素ガス撹拌装置又は膜脱気装置のいずれかである上記第12項に記載の浄水処理装置。
【0067】
14.嫌気性生物処理装置の後段に、更に被処理水をろ過処理するろ過装置を具備する上記第11項〜第13項のいずれかに記載の浄水処理装置。
【0068】
15.被処理水をオゾン処理するオゾン処理装置;オゾン処理された被処理水を嫌気性生物処理する嫌気性生物処理装置;嫌気性処理された被処理水を好気性生物処理する好気性生物処理装置;を具備することを特徴とする浄水処理装置。
【0069】
16.嫌気性生物処理装置と好気性生物処理装置とが別々の反応槽によって構成され、嫌気性生物処理装置からの排出水を好気性生物処理装置に供給する配管が備えられている上記第15項に記載の装置。
【0070】
17.一つの反応槽が仕切板によって二つに区切られていて、一方が嫌気性反応部、もう一方が好気性反応部として機能する生物処理槽を嫌気性生物処理装置及び好気性生物処理装置として用いる上記第15項に記載の装置。
【0071】
18.嫌気反応部と好気反応部とを備えた反応槽であって、槽下部に原水流入口を有し、槽上部に処理水流出口を有しており、原水流入口の上部に、上下2層で連続形成される充填材層が形成されており、下層の充填材層の上端付近に通気管が配備されていることを特徴とする生物処理槽を嫌気性生物処理装置及び好気性生物処理装置として用いる上記第15項に記載の装置。
【0072】
19.好気性生物処理装置の後段に、更に被処理水をろ過処理するろ過装置を具備する上記第15項〜第18項のいずれかに記載の浄水処理装置。
【0073】
20.オゾン処理装置の前段として、原水を凝集沈殿処理する凝集沈殿装置;及び凝集沈殿処理された被処理水をろ過処理するろ過装置;を更に具備する上記第11項〜第19項のいずれかに記載の浄水処理装置。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、従来の浄水高度処理システムで必然的に生成する発がん性物質である臭素酸をWHOガイドラインの10μg/L以下を十分に満足することができる飲料水を得ることができ、さらに、原水の水質に応じた最も経済的な方法を選択することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明の各種態様を具体的に説明するが、以下の記載は本発明を制限するものではない。
実施例1
原水として、実施例1(a)の河川水を除いていずれも富栄養化の進行した湖水を用いた。比較例においては、原水に対して、従来の浄水高度処理システムである凝集沈殿処理、砂ろ過処理、オゾン処理、生物活性炭処理をこの順番で行った。凝集沈殿処理は、寸法が500mm×3200mm×1200mm高さの角型凝集沈殿装置で行い、砂ろ過処理は、寸法が160mm径×3000mm高さの筒型塩ビ製カラムに、濾材としてアンスラ(1.2mm径)、珪砂(0.6mm径)及び支持砂利をそれぞれ200mm、400mm、300mmの高さに充填した砂濾過装置で行い、オゾン処理は、寸法が160mm径×3000mm高さの筒型塩ビ製カラムのオゾン散気式オゾン処理装置で行い、生物活性炭処理では、水処理用活性炭(エバダイヤLG−20S、径1.2mm、荏原製作所製)を充填した処理槽(寸法が160mm径×3000mm高さの筒型塩ビ製カラム)に被処理水を導入した。
【0076】
実施例1(a)では、上記の凝集沈殿処理−砂ろ過処理−オゾン処理を行った被処理水に、嫌気性処理を行った。また、実施例1(b)、(c)では、嫌気性処理を行った被処理水に対して更に好気性処理工程を行った。実施例1(a),(b),(c)では、オゾン処理処理水を、膜脱気装置を用いて脱気処理を行い、表1に示す溶存酸素条件にして嫌気性生物処理を行った。実施例1(d)では、脱気装置を用いずに、オゾン処理水に、有機物質としてエタノール10mg/Lを加えた後に嫌気性処理を行った。
【0077】
嫌気性生物処理では、充填材として平均粒径2.0mmの人工軽量骨材(荏原製作所製、商品名エバサイトL412)を充填した反応槽に被処理水を供給した。好気性生物処理においては、実施例1(b)では、充填材として比較例と同じ活性炭を充填した反応槽に嫌気性生物処理槽の排出水を導入し、実施例1(c)では、充填材として平均粒径1.1mmの人工軽量骨材(荏原製作所製、商品名エバサイト)を充填した反応槽に嫌気性生物処理槽の排出水を導入し、実施例1(d)では、充填材として活性炭(荏原製作所製、エバダイヤLG−20S、1.2mm径)を充填した反応槽に嫌気性生物処理槽の排出水を導入した。嫌気性処理槽の空塔速度(SV)及び好気性処理槽の空塔速度は、全て10h−1とした。
【0078】
以上の実験の結果を表1にまとめる。
【0079】
【表1】

比較例では、トリハロメタン生成能(THM−FP)や2−MIBの除去能力は高いが、臭素酸が35μg/L残り、WHOの基準10μg/L以下を満足しなかった。
【0080】
実施例1(a)で用いた原水はダム湖を源流に持つ河川水であり、トリハロメタン生成能は低いが、異臭味成分が比較的高濃度に存在する原水であった。表1に示すように、オゾン酸化工程で2−MIBは十分に分解されていた。臭素酸はオゾン酸化工程で約40μg/Lまで増加していたが、嫌気性生物処理工程で0.9μg/Lまで低下した。
【0081】
実施例1(b)では、トリハロメタン生成能及び異臭味物質とも高い湖水を原水として用いた。オゾン酸化工程でトリハロメタン生成能が38μg/Lに、2−MIBは検出限界以下になっているが、臭素酸として34μg/Lが生成していた。嫌気性生物処理工程でトリハロメタン生成能も減少しているが、臭素酸は1μg/Lまで低下した。好気性生物処理工程では、生物活性炭効果によってトリハロメタン生成能は9μg/Lに、2−MIBは5μg/L以下に、さらに臭素酸は0.5μg/Lまで低下した。
【0082】
実施例1(c)では、ほぼ実施例1(b)と同様な処理状況が得られた。但し、好気性生物処理工程でのトリハロメタン生成能の除去率は30%程度であり、実施例1(b)に比べると劣る傾向があった。
実施例2
図6に示す構造の嫌気性反応部及び好気性反応部を有する生物処理槽を用いて浄水処理を行った。原水として富栄養化の進行した湖水を水源に持つ河川水を用いた。
【0083】
原水に対して、従来の浄水高度処理システムである凝集沈殿処理、砂ろ過処理、オゾン処理、生物活性炭処理をこの順番で行った。凝集沈殿処理、砂ろ過処理、生物活性炭処理は、それぞれ実施例1で用いたものと同じ構成の装置を用いて処理を行った。この浄水処理によって得られたオゾン処理水に対して、表3に示すように、脱気処理及び/又は有機物添加を行った後、図6に示す構造の生物処理槽に導入して嫌気生物処理/好気生物処理を行った。脱気装置としては窒素ガス撹拌式カラムを用い、有機物質としてはエタノールを添加した。表3中の各種充填材の性状は、次の通りである。
【0084】
【表2】

生物処理槽は、径160mm、高さ4000mmであり、下部を嫌気反応部(層高1000mm)、上部を好気反応部(層高1500mm)とし、被処理水を処理槽下部より導入し、上部より回収した。嫌気反応部の上端から50mmの位置に通気管(径2mmの多孔管:目開き約0.5mmのネットで表面を覆って濾材の内部への侵入を防止した)を配置し、ブロアーにより空気を吹き込むことにより、生物処理槽の上部(充填材bの部分)を好気性条件とした。生物処理槽内の空塔速度(SV)は10h−1とした。
【0085】
実施例1(a)は、脱気を行ったが有機物質の添加を行わなかった方法であり、実施例1(b)は、脱気を行うと共に有機物質を2mg/L添加したものである。実施例1(c)では、脱気を行わずに有機物質を11mg/L添加した。実施例1(d)では、人工軽量骨材を充填材a,bの双方に使った。
【0086】
結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

いずれの方式とも有機物質であるトリハロメタン生成能(THM−FP)、異臭味物質の2−MIBが十分浄化され、同時に臭素酸イオンも十分に低い値に処理された。
【0088】
ただし、実施例1(d)では、トリハロメタン生成能や臭素酸イオンの除去率が他の実施例よりやや劣っていた。
実施例3
原水として、ダム湖を源流に持つ河川水(実施例3(a))、又は富栄養化の進行した湖水(実施例3(b)及び比較例)を用いた。比較例においては、原水に対して、従来の浄水高度処理システムである凝集沈殿処理、砂ろ過処理、オゾン処理、生物活性炭処理をこの順番で行った。凝集沈殿処理、砂ろ過処理、オゾン処理は、それぞれ実施例1で用いたものと同じ構成の装置を用いて処理を行った。
【0089】
実施例3(a)、3(b)共に、上記の凝集沈殿処理−砂ろ過処理−オゾン処理を行った被処理水(オゾン処理水)に、窒素ガス撹拌式カラムを用いて脱気処理を行ない、検出限界以下まで溶存酸素を減少させた。更に有機物質としてエタノールを10mg/L添加し、嫌気性処理及び好気性処理を行った。
【0090】
嫌気性生物処理では、充填材として粒径4〜6mmの気相用活性炭(円柱形状、ヨウ素吸着量1130mg/g、荏原製作所製、商品名エバダイヤAG−400)(実施例3(a))又は粒径3〜6mmの人工軽量骨材(球状、荏原製作所製、商品名エバサイトL412)を充填した反応槽に被処理水を供給した。好気性生物処理においては、充填材として粒径0.6〜1.5mmの水処理用活性炭(破砕形状、ヨウ素吸着量1010mg/g、荏原製作所製、商品名エバダイヤLG−20S)を充填した反応槽に嫌気性生物処理槽の排出水を導入した。嫌気性処理槽の空塔速度(SV)及び好気性処理槽の空塔速度は、全て10h−1とした。
【0091】
以上の実験の結果を表4にまとめる。
【0092】
【表4】

比較例ではトリハロメタン生成能(THM−FP)や2−MIBの除去能力は高いが、臭素酸が22μg/L残り、WHOの基準10μg/L以下を満足しなかった。
【0093】
これに対して実施例3(a),3(b)では、オゾン酸化工程で臭素酸はそれぞれ23μg/L、35μg/Lまで増加したが、その後の嫌気性処理工程で十分に低減された。トリハロメタン生成能はオゾン酸化工程で約60〜75%程度除去され、2−MIBは定量下限未満まで低減されていた。更に、好気性処理により、トリハロメタン生成能が従来法と同等か又はそれ以上まで十分に低減された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水をオゾン処理した後、嫌気性生物処理を行うことを特徴とする浄水処理方法。
【請求項2】
オゾン処理した被処理水に脱気処理を行うか、及び/又は、オゾン処理した被処理水に有機物を添加した後に、嫌気性生物処理を行う請求項1に記載の浄水処理方法。
【請求項3】
脱気処理によって被処理水中の溶存酸素濃度を2mg/L以下にする請求項2に記載の浄水処理方法。
【請求項4】
被処理水の脱気処理を、真空脱気方法、窒素ガス撹拌方法又は膜脱気方法のいずれかの方法によって行う請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
被処理水に有機物としてエタノール又は酢酸を加える請求項2に記載の浄水処理方法。
【請求項6】
嫌気性生物処理の後段処理として、被処理水をろ過処理する請求項1〜5のいずれかに記載の浄水処理方法。
【請求項7】
被処理水をオゾン処理した後、嫌気性生物処理し、続いて好気性生物処理することを特徴とする浄水処理方法。
【請求項8】
好気性生物処理の後段処理として、被処理水をろ過処理する請求項7に記載の浄水処理方法。
【請求項9】
被処理水として、原水を凝集沈殿処理及びろ過処理にかけた処理水を用いる請求項1〜8のいずれかに記載の浄水処理方法。
【請求項10】
原水として、河川水、湖沼水又は地下水を用いる請求項9に記載の浄水処理方法。
【請求項11】
被処理水をオゾン処理するオゾン処理装置;オゾン処理された被処理水を嫌気性生物処理する嫌気性生物処理装置;を具備することを特徴とする浄水処理装置。
【請求項12】
オゾン処理装置でオゾン処理された被処理水を脱気処理する脱気処理装置、及び/又は、オゾン処理された被処理水に有機物を添加する有機物添加装置を更に具備する請求項11に記載の浄水処理装置。
【請求項13】
脱気処理装置が、真空脱気装置、窒素ガス撹拌装置又は膜脱気装置のいずれかである請求項12に記載の浄水処理装置。
【請求項14】
嫌気性生物処理装置の後段に、更に被処理水をろ過処理するろ過装置を具備する請求項11〜13のいずれかに記載の浄水処理装置。
【請求項15】
被処理水をオゾン処理するオゾン処理装置;オゾン処理された被処理水を嫌気性生物処理する嫌気性生物処理装置;嫌気性処理された被処理水を好気性生物処理する好気性生物処理装置;を具備することを特徴とする浄水処理装置。
【請求項16】
嫌気性生物処理装置と好気性生物処理装置とが別々の反応槽によって構成され、嫌気性生物処理装置からの排出水を好気性生物処理装置に供給する配管が備えられている請求項15に記載の装置。
【請求項17】
一つの反応槽が仕切板によって二つに区切られていて、一方が嫌気性反応部、もう一方が好気性反応部として機能する生物処理槽を嫌気性生物処理装置及び好気性生物処理装置として用いる請求項15に記載の装置。
【請求項18】
嫌気反応部と好気反応部とを備えた反応槽であって、槽下部に原水流入口を有し、槽上部に処理水流出口を有しており、原水流入口の上部に、上下2層で連続形成される充填材層が形成されており、下層の充填材層の上端付近に通気管が配備されていることを特徴とする生物処理槽を嫌気性生物処理装置及び好気性生物処理装置として用いる請求項15に記載の装置。
【請求項19】
好気性生物処理装置の後段に、更に被処理水をろ過処理するろ過装置を具備する請求項15〜18のいずれかに記載の浄水処理装置。
【請求項20】
オゾン処理装置の前段として、原水を凝集沈殿処理する凝集沈殿装置;及び凝集沈殿処理された被処理水をろ過処理するろ過装置;を更に具備する請求項11〜19のいずれかに記載の浄水処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/005327
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511522(P2005−511522)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009709
【国際出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】