説明

浮体式フラップゲートの側部水密構造

【課題】扉体の起立状態に応じた圧着量とすること。
【解決手段】開口部或いは出入口に設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側を回転中心Cとして先端側が起立揺動する扉体2を有する浮体式フラップゲート1の前記扉体2と側部戸当り3間の水密構造である。扉体2の起立状態に応じた必要な圧着量が得られるように、扉体2の側面部に取り付けられた側部水密ゴム4と側部戸当り3の面3aとの間隔を領域ごとに異ならせる。
【効果】扉体の起立状態に応じた必要な圧着量が得られ、水密構造による無駄な摺動抵抗が低減し、扉体が起立し易くなるので、水が流入し始める流入初期における扉体の浮上動作が速くなり、水の流れ込みを防止できて漏水を効果的に防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば防波堤の開口部に設置され、増水時、増水した水が生活空間や地下空間に流れ込まないように、扉体を浮上させて前記開口部を遮断する浮体式フラップゲートにおける扉体と側部戸当りとの水密構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
増水時、増水した水が生活空間や地下空間に流れ込まないように、流入しようとする水の浮力を利用して扉体を浮上させ、例えば防波堤の開口部を遮断する浮体式フラップゲートがある(例えば特許文献1)。
【0003】
この浮体式フラップゲートにおいて、浮上した扉体と扉体両側の側部戸当りとの水密方法として、側部戸当りと相対する扉体の側面部に側部水密ゴムを取り付けている(例えば特許文献2)。
【0004】
しかしながら、従来の起伏ゲートの側部戸当りは、特許文献2の第1,2図に示されるように、同一平面で構成されているので、側部水密ゴムの側部戸当りへの圧着量は扉体の起立角度に関係なく常に一定となる。
【0005】
この時、側部水密ゴムの側部戸当りへの圧着量は最大設計水深に応じたものとなるので、扉体の起立角度が浅く、水深が低い場合には無駄な押し付け力が発生していることになる。
【0006】
特に、無動力で、浮力や水圧により起立する起伏ゲートの場合、水が流入し始める段階では、前記無駄な押し付け力により水の流入時に扉体がすぐに起立せず、遅れて起立することになるので、漏水が生じやすい。
【0007】
また、扉体の起立が完了している状態で想定外の水圧が作用した場合、側部水密ゴムは側部戸当りの面のみに押付けられているので、側部水密ゴムが反るように変形し、永久ひずみが残ってその後の水密性能を低下させる。
【0008】
さらに、前記同一平面で構成された側部戸当りでは、常時状態の倒伏限においても大きな押し付け力が作用しているので、側部水密ゴムに経年による永久ひずみが残り、水密性能を低下させる。
【0009】
このように、無動力で、浮力や水圧により起立する起伏ゲートの場合は、側部水密ゴムの側部戸当りへの圧着に伴う抵抗を如何に低減するかが課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−214425号公報
【特許文献2】実開昭62−72333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の浮体式フラップゲートの側部戸当りは同一平面で構成されているので、側部水密ゴムは扉体の起立角度に関係なく常に一定の圧着量となるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記問題を解決すべく、扉体の起立状態に応じた圧着量とすることで、従来の水密構造にあった問題を解決できる浮体式フラップゲートの側部水密構造を提供することを目的としてなされたものである。
【0013】
本発明の浮体式フラップゲートの側部水密構造は、
開口部或いは出入口に設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側を回転中心として先端側が起立揺動する扉体を有する浮体式フラップゲートの前記扉体と側部戸当り間の水密構造であって、
扉体の起立状態に応じた必要な圧着量となるように、扉体の側面部に取り付けられた側部水密ゴムと側部戸当りの面との間隔を領域ごとに異ならせたことを最も主要な特徴としている。
【0014】
上記の本発明では、扉体の起立状態に応じた必要な圧着量となるように、扉体に取り付けられた側部水密ゴムと側部戸当りの面との間隔を領域ごとに異ならせたので、水密構造部における無駄な摺動抵抗が低減し、扉体が起立し易くなる。
【0015】
上記の本発明において、側部戸当りの面における、起立限の扉体の側面部に取り付けられた側部水密ゴムの起立方向側の境界部に、凸型の段部をさらに形成した場合には、起立状態にある扉体の水密性能が向上する。
【0016】
また、上記の本発明において、倒伏限にある扉体の側面部に取り付けた側部水密ゴムの側部戸当りの前記面への圧着量がゼロとなるようにした場合には、扉体が倒伏状態にある場合の側部水密ゴムの潰れ代を最小限にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、扉体の起立状態に応じた必要な圧着量が得られるので、水密構造部における無駄な摺動抵抗が低減し、扉体が起立し易くなる。従って、水が流入し始める流入初期における扉体の浮上動作が速くなり、水の流れ込みを防止できて漏水を効果的に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の浮体式フラップゲートの側部水密構造を説明する概略図で、(a)は側面側から見た図、(b)〜(e)は側部水密ゴムの側部戸当りへの圧着状態を説明する(a)図の矢視A−Aから見た部分拡大図で、(b)は扉体が倒伏状態の第1の領域の図、(c)は第1の領域から先端側の扉体ブロックのみが流入する水と反対方向に回転する第2の領域の図、(d)は第2の領域の境界線から扉体が起立限まで起立する第3の領域の図、(e)は扉体が起立限にある場合の図である。
【図2】本発明の浮体式フラップゲートの側部水密構造を説明する概略図で、一方側の側部戸当りと扉体を平面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、扉体の起立状態に応じた圧着量とするという目的を、扉体の側面部に取り付けられた側部水密ゴムと側部戸当りの面との間隔を領域ごとに異ならせることで実現した。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、図1を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の浮体式フラップゲートの側部水密構造を説明する図である。
【0021】
図1において、1は例えば防波堤の開口部の路面に設置される、内部に浮体を備えた扉体2を有する浮体式フラップゲートである。
【0022】
この浮体式フラップゲート1は、海洋(或いは河川)から生活空間や地下空間に水が流入しようとする際、流入する水の水圧を利用して、扉体2の基端側を回転中心Cとして先端側を起立揺動させることで開口部を水密状態に遮断するものである。
【0023】
図1に示した浮体式フラップゲート1は、扉体2を基端側の扉体ブロック2aと先端側の扉体ブロック2bの高さ方向に2分割したものである。そして、これら両扉体ブロック2a,2bを前記開口部から流入する水の方向に高さ方向の平面内で回転可能に連結し、高さ方向の先端側の扉体ブロック2bのみが前記流入する水と反対方向にも所定角度だけ回転可能に構成している(図1(a)の想像線参照)。
【0024】
この浮体式フラップゲート1を構成する扉体2は1つ(単数個)であって、扉体2の、防波堤の開口部に設けた側部戸当り3と相対する両側には側部水密ゴム4が設けられている。
【0025】
本発明は、扉体2の起立状態に応じた必要な圧着量が得られるように、側部戸当り3の面3aへの側部水密ゴム4の圧着量δを、領域ごとに異ならせたことを主要な特徴としている。
【0026】
具体的には、扉体2が図1(a)に示す倒伏状態の場合に、側部水密ゴム4が圧着される側部戸当り3の第1の領域A1を、前記圧着量δがゼロとなるように、側部戸当り3の面3aに対する側部水密ゴム4の位置を決定する(図1(b)参照)。
【0027】
このようにすることで、側部水密ゴム4の潰れ代を最小限とすることができ、側部水密ゴム4に加わる永久ひずみを低減することができる。
【0028】
次に、前記圧着量δがゼロの領域A1から、図1(a)に想像線で示す先端側の扉体ブロック2bのみが開口部から流入する水と反対方向に例えば15°回転する領域A2を、前記圧着量δがゼロから徐々に直線的に大きくなるようにする(図1(c)参照)。
【0029】
このようにすることで、水が流入し始める流入初期における扉体2の浮上動作が速くなり、水の流れ込みを防止できて漏水を効果的に防ぐことができる。
【0030】
さらに次に、先端側の扉体ブロック2bのみが前記15°回転する領域A2の境界線から扉体2が起立限まで起立する第3の領域A3における圧着量δは、従来と同様、最大設計水深に応じた値となるようにする(図1(d)参照)。
【0031】
このように、側部戸当り3の面3aへの側部水密ゴム4の圧着量δを、扉体2の起立状態に応じて領域ごとに異ならせた本発明では、水密構造部における無駄な摺動抵抗が低減して扉体2が起立し易くなる。
【0032】
上記構成に加えて、側部戸当り3の面3aにおける、起立限の扉体2に取り付けられた側部水密ゴム4の起立方向側の境界部A4に、凸型の段部5をさらに形成した場合は、側部戸当り3の面3aだけでなく段部5にも側部水密ゴム4が圧着することになる(図1(e)参照)。
【0033】
従って、側部水密ゴム4の圧着面積が増加して扉体2の起立時における水密性能を向上させることができる。また、扉体2に想定外の水圧が作用した場合でも、側部水密構造部が反るように変形することを防止できる。
【0034】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0035】
例えば上記の例は複数の扉体ブロックを連結した浮体連結式のフラップゲートに適用したものについて説明したが、扉体を複数の扉体ブロックに分割しない単体式のフラップゲートに適用しても良いことは言うまでもない。
【0036】
また、上記の例では、第2の領域A2は直線的に圧着量が増加するようにしているが、曲線的に増加するものでも良い。
【符号の説明】
【0037】
1 浮体式フラップゲート
2 扉体
2a 基端側の扉体ブロック
2b 先端側の扉体ブロック
3 側部戸当り
3a 面
4 側部水密ゴム
5 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部或いは出入口に設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側を回転中心として先端側が起立揺動する扉体を有する浮体式フラップゲートの前記扉体と側部戸当り間の水密構造であって、
扉体の起立状態に応じた必要な圧着量が得られるように、扉体の側面部に取り付けられた側部水密ゴムと側部戸当りの面との間隔を領域ごとに異ならせたことを特徴とする浮体式フラップゲートの側部水密構造。
【請求項2】
側部戸当りの面における、起立限の扉体の側面部に取り付けられた側部水密ゴムの起立方向側の境界部に、凸型の段部をさらに形成したことを特徴とする請求項1に記載の浮体式フラップゲートの側部水密構造。
【請求項3】
倒伏限にある扉体の側面部に取り付けた側部水密ゴムの側部戸当りの前記面への圧着量がゼロとなるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の浮体式フラップゲートの側部水密構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87510(P2013−87510A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229769(P2011−229769)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】