説明

浮動ブッシュ軸受

【課題】浮動ブッシュと回転軸との隙間に従来以上の液体を供給可能とすることによって回転軸の回転抵抗をより低減させる。
【解決手段】浮動ブッシュ20のハウジング側から回転軸側に貫通して形成されると共に、ハウジング側の入口流路41が浮動ブッシュ20の回転方向に向けて傾斜されて形成されている液体導入孔40を備え、液体導入孔40の入口流路において浮動ブッシュ20の回転方向前側が削られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸とハウジングとの隙間に上記回転軸が挿通されて配置されると共に、液体で満たされた上記隙間において回転しながら上記回転軸を支持する円筒形状の浮動ブッシュを備える浮動ブッシュ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、過給機等の高速回転する回転軸を軸支する軸受として、浮動ブッシュ軸受が知られている。
この浮動ブッシュ軸受は、特許文献1に記載されているように、回転軸とハウジングとの隙間において回転軸が挿通されて配置される円筒形状の浮動ブッシュを備えており、該浮動ブッシュが回転しながら回転軸を支持する動圧軸受の一種である。
このような浮動ブッシュ軸受によれば、ハウジングと回転軸との隙間において浮動ブッシュが回転することによって、回転軸の振動を抑制すると共に、回転軸と作動流体との摩擦を低減して回転軸の磨耗を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3136687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
とろこで、浮動ブッシュ軸受においては、浮動ブッシュと回転軸との間に液体(潤滑油)が入り込み、浮動ブッシュと回転軸との間に液膜が形成されている。
そして、当該液膜の厚みが薄い場合には、浮動ブッシュと回転軸との間の液量が少ないこととなり、回転軸の回転抵抗が増大し、回転軸の磨耗や焼き付きの原因となる。このため、従来の浮動ブッシュ軸受は、例えば特許文献1に示すように、浮動ブッシュに半径方向に貫通する貫通孔を備え、ハウジング側から供給される液体が浮動ブッシュと回転軸との間に入り込みやすくする構成を採用する場合がある。
【0005】
しかしながら、浮動ブッシュが上述のように回転するため、液体に遠心力が作用する。このため、浮動ブッシュに半径方向に貫通する貫通孔を形成した場合であっても、十分な量の液体が浮動ブッシュと回転軸との間に入り込めず、十分な厚さの液膜を浮動ブッシュと回転軸との間に形成できない虞がある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、浮動ブッシュと回転軸との隙間に従来以上の液体を供給可能とすることによって回転軸の回転抵抗をより低減させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、回転軸とハウジングとの隙間に上記回転軸が挿通されて配置されると共に、液体で満たされた上記隙間において回転しながら上記回転軸を支持する円筒形状の浮動ブッシュを備える浮動ブッシュ軸受であって、上記浮動ブッシュの上記ハウジング側から上記回転軸側に貫通して形成されると共に、上記ハウジング側の入口流路が上記浮動ブッシュの回転方向に向けて傾斜されて形成されている液体導入孔を備えるという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記液体導入孔が直線状に形成されているという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記液体導入孔が、上記浮動ブッシュで囲まれる円形の接線と重ねて形成されているという構成を採用する。
【0011】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記液体導入孔を複数備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、浮動ブッシュのハウジング側から回転軸側に貫通して形成されると共に、ハウジング側の入口流路が浮動ブッシュの回転方向に向けて傾斜されて形成されている液体導入孔を備える。
このように、入口流路が浮動ブッシュの半径方向よりも浮動ブッシュの回転方向に向けて傾斜された液体導入孔を浮動ブッシュが備える場合には、浮動ブッシュの半径方向に液体導入孔が形成されている場合よりも、液体導入孔の回転方向後ろ側における内壁面の周面からの立ち上がりが鋭角となる。
このため、本発明の浮動ブッシュが回転された場合には、液体導入孔の回転方向後ろ側における内壁面によって、浮動ブッシュのハウジング側の液体が液体導入孔の内部に掻き込まれることとなる。
したがって、本発明によれば、浮動ブッシュの半径方向に液体導入孔が形成された従来の浮動ブッシュ軸受と比較して、液体導入孔へ液体を押し込む力が強く作用するため、浮動ブッシュと回転軸との隙間に従来以上の液体を供給することが可能となる。
よって、本発明によれば、回転軸の回転抵抗をより低減させ、回転軸の磨耗や焼き付きを防止すると共に、回転軸による動力の伝達効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態の浮動ブッシュ軸受を備える過給機の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の浮動ブッシュ軸受をシャフトの延在方向と直交する面において切断した断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の浮動ブッシュ軸受の側面図である。
【図4】本発明の第2実施形態の浮動ブッシュ軸受をシャフトの延在方向と直交する面において切断した断面図である。
【図5】本発明の一実施形態における浮動ブッシュ軸受の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態における浮動ブッシュ軸受の変形例を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態における浮動ブッシュ軸受の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る浮動ブッシュ軸受の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の浮動ブッシュ軸受を備える過給機1の断面図である。
この図に示すように、過給機1は、タービン2と、コンプレッサ3と、連結部4とを備えている。
【0016】
タービン2は、排ガスが供給されることによって回転駆動されるタービンインペラ2aと、該タービンインペラ2aを囲うタービンハウジング2bとを備えており、排ガスの運動エネルギを回転エネルギとして回収するものである。
【0017】
コンプレッサ3は、タービン2において回収された回転エネルギが伝達されて回転駆動されるコンプレッサインペラ3aと、該コンプレッサインペラ3aを囲うコンプレッサハウジング3bとを備えており、コンプレッサインペラ3aの回転エネルギによって空気を圧縮して排出するものである。
【0018】
連結部4は、タービン2とコンプレッサ3とを連結するものであり、タービンインペラ2aとコンプレッサインペラ3aとを連結するシャフト4a(回転軸)と、該シャフト4aを囲うと共にタービンハウジング2bとコンプレッサハウジング3bとを連結するベアリングハウジング4bとを備えている。
【0019】
また、過給機1は、各摺動箇所(タービンインペラ2aとタービンハウジング2bとの摺動箇所や、コンプレッサインペラ3aとコンプレッサハウジング3bとの摺動箇所等)に潤滑油を供給するための流路5を備えている。
【0020】
そして、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10は、シャフト4aを軸支する軸受として、連結部4の内部に2箇所設置されている。
図2は、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10をシャフト4aの延在方向と直交する面において切断した断面図である。また、図3は、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10の側面図である。
これらの図に示すように、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10は、浮動ブッシュ20と、ベアリングハウジング4b(ハウジング)と、作動流体30(液体)とによって構成されている。
なお、図2及び図3においては、目視可能とするために、シャフト4aと浮動ブッシュ20との離間距離及び浮動ブッシュ20とベアリングハウジング4bとの離間距離を実際と比較して広く図示している。
【0021】
浮動ブッシュ20は、円筒形状を有しており、シャフト4aとベアリングハウジング4bとの隙間においてシャフト4aが挿通されて配置されている。そして、浮動ブッシュ20は、作動流体30によって満たされたシャフト4aとベアリングハウジング4bとの隙間において回転しながらシャフト4aを支持する。
【0022】
また、浮動ブッシュ20には、浮動ブッシュ20のベアリングハウジング4b側からシャフト4a側に貫通して形成される液体導入孔40が浮動ブッシュ20の周方向に分散して複数形成されている。
そして、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10において各液体導入孔40は、ベアリングハウジング4b側の入口流路41が浮動ブッシュ20の回転方向に向けて傾斜されるように浮動ブッシュ20の半径方向に対して傾斜された直線状に形成されている。
【0023】
作動流体30は、シャフト4aと浮動ブッシュ20と間、及び、ベアリングハウジング4bと浮動ブッシュ20との間において液膜を形成するものであり、上述の潤滑油が用いられる。
このため、シャフト4aとベアリングハウジング4bとの隙間には、潤滑油を供給するための流路5が接続されている。なお、上記隙間と流路5と接続領域に、より多くの潤滑油を隙間に供給するための半月領域Rが形成されるように、ベアリングハウジング4bの一部は凹んで形成されている。
【0024】
そして、過給機1が作動し、タービンインペラ2aが回転駆動されると、シャフト4aが高速回転してコンプレッサインペラ3aが回転駆動される。
このようにシャフト4aが高速回転すると、流路5を介してシャフト4aとベアリングハウジング4bとの隙間に供給された潤滑油(すなわち作動流体30)によって、シャフト4aと浮動ブッシュ20と間、及び、ベアリングハウジング4bと浮動ブッシュ20との間に液膜が形成され、シャフト4aが浮動ブッシュ20及びベアリングハウジング4bに対して非接触で支持される。
【0025】
ここで、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10においては、浮動ブッシュ20がベアリングハウジング4b側からシャフト4a側に貫通して形成されると共に、ベアリングハウジング4b側の入口流路41が浮動ブッシュ20の回転方向に向けて傾斜されて形成されている液体導入孔40を備える。
このように、浮動ブッシュ20の半径方向よりも浮動ブッシュ20の回転方向に向けて傾斜された液体導入孔40を浮動ブッシュ20が備える場合には、浮動ブッシュ20の半径方向に液体導入孔40が形成されている場合よりも、図2に示すように、液体導入孔40の回転方向後ろ側における内壁面42の周面21からの立ち上がりが鋭角となる。
このため、本実施形態における浮動ブッシュ20が回転された場合には、液体導入孔40の回転方向後ろ側における内壁面42によって、浮動ブッシュ20のベアリングハウジング4b側の作動流体30が液体導入孔40の内部に掻き込まれることとなる。
したがって、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10によれば、浮動ブッシュの半径方向に液体導入孔が形成された従来の浮動ブッシュ軸受と比較して、液体導入孔40へ作動流体30を押し込む力が強く作用するため、浮動ブッシュ20とシャフト4aとの隙間に従来以上の作動流体30を供給することが可能となる。
よって、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10によれば、シャフト4aの回転抵抗をより低減させ、シャフト4aの摩耗や焼き付きを防止すると共に、シャフト4aによる動力の伝達効率を向上させることが可能となる。
【0026】
また、本実施形態の浮動ブッシュ軸受10によれば、液体導入孔40が直線状に形成されている。
このため、例えば浮動ブッシュ20の外周側から機械加工によって液体導入孔40を容易に形成することができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0028】
図4は、本実施形態の浮動ブッシュ軸受50をシャフト4aの延在方向と直交する面において切断した断面図である。
この図に示すように、本実施形態の浮動ブッシュ軸受50においては、直線状の液体導入孔60の回転方向後ろ側における内壁面61が、浮動ブッシュ20で囲まれる円形の接線と重ねて形成されている。
【0029】
このような構成を有する本実施形態の浮動ブッシュ軸受50においては、液体導入孔60を直線状に形成する場合において、液体導入孔60の回転方向後ろ側における内壁面61が周面21に対して最も鋭角となる。
したがって、浮動ブッシュ20のベアリングハウジング4b側の作動流体30が液体導入孔60の内部により掻き込まれることとなり、より確実にシャフト4aの回転抵抗をより低減させ、シャフト4aの磨耗や焼き付きを防止すると共に、シャフト4aによる動力の伝達効率を向上させることが可能となる。
【0030】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0031】
例えば、上記実施形態においては、液体導入孔40,60が直線状に形成された構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、図5に示すように液体導入孔70が湾曲された構成や、図6に示すように液体導入孔80が屈曲された構成を採用することもできる。
このような構成を採用することによって、例えば、上記第2実施形態のように液体導入孔60を浮動ブッシュ20で囲まれる円形の接線と重ねて形成した場合よりも、さらに液体導入孔70,80の回転方向後ろ側における内壁面71,81が周面21に対して鋭角にすることができる。
【0032】
また、例えば、図7に示すように、液体導入孔40の回転方向前側を削ることによって、液体導入孔40により作動流体30が入り込みやすい構成を採用することもできる。
【0033】
また、例えば、液体導入孔40,60,70,80の開口形状が長円や楕円形状であっても良い。
また、液体導入孔40,60,70,80が浮動ブッシュ20の周方向に複数列に亘って形成されていても良い。
【符号の説明】
【0034】
4a……シャフト(回転軸)、4b……ベアリングハウジング(ハウジング)、10,50……浮動ブッシュ軸受、20……浮動ブッシュ、30……作動流体(液体)、40,60,70,80……液体導入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸とハウジングとの隙間に前記回転軸が挿通されて配置されると共に、液体で満たされた前記隙間において回転しながら前記回転軸を支持する円筒形状の浮動ブッシュを備える浮動ブッシュ軸受であって、
前記浮動ブッシュの前記ハウジング側から前記回転軸側に貫通して形成されると共に、前記ハウジング側の入口流路が前記浮動ブッシュの回転方向に向けて傾斜されて形成されている液体導入孔を備え、
前記液体導入孔の入口流路において前記浮動ブッシュの回転方向前側が削られている
ことを特徴とする浮動ブッシュ軸受。
【請求項2】
前記液体導入孔を複数備えることを特徴とする請求項1記載の浮動ブッシュ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−64510(P2013−64510A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−285850(P2012−285850)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2009−12364(P2009−12364)の分割
【原出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】