説明

液体トナー現像装置及び液体トナー現像方法

【課題】本発明の課題は、基材の厚みによらず、薄く歪みやたわみのある基材であっても、基材の両面に均一にトナー粒子を付着させる事のできる液体トナー現像装置及び液体トナー現像方法を提供する事にある。
【解決手段】液体トナーを収容する液体トナー槽、電気泳動のための電界を形成する現像電極、現像電極にバイアス電圧を印加するバイアス電圧電源、基材の端部を保持しテンションをかけながら平面状に保持する基材固定手段、基材固定手段の上下動作を行う昇降手段、基材固定手段によって保持された基材と現像電極が規定の位置関係となるように規制するガイド手段、昇降手段の動作と関連づけてバイアス電圧電源の印加電圧を変化させる事のできるバイアス電圧制御手段を有している液体トナー現像装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体トナーを用いて電気泳動法により基材表面にトナー粒子を付着させる液体トナー現像装置及び液体トナー現像方法に関し、特に、基材の厚みによらず、薄く歪みやたわみのある基材であっても、基材の両面に均一にトナー粒子を付着させる事のできる液体トナー現像装置及び液体トナー現像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面に層を形成する方法としては、種々の方式があり、ブラシ塗布、スプレー塗布、静電塗布、ロール塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、スピン塗布、電着塗布、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ塗布、粉体塗布、スクリーン塗布、ラミネーション塗布、LB膜、電気化学的メッキ法等々が知られている。中でも液中での電気的な作用を利用して塗布を行う電着塗布や電気化学的メッキ法は、基材表面に均一な層を形成する事ができるとともに、塗布材料の利用効率も高いという利点を有する。
【0003】
電着塗布は電気泳動を利用して荷電材料を基材に付着させる方法であるが、荷電材料を保持する液としては水系の場合と非水系の場合がある。水系の電着塗布の場合、電着のために流れる電気量1クーロン当たりの電着塗料の質量(これをクーロン効率という)は、通常10〜50mg/Coulomb程度と言われている。一方、非水系の液体トナーを用いて電気泳動により荷電材料(トナー粒子)を基材に付着させる方法では、電気量1クーロン当たりのトナー粒子重量は10〜10000g/Coulombと著しく大きな電着重量を得る電着塗布が可能である。トナー粒子の保持電荷量は処方によりコントロール可能で、従ってこのクーロン効率の値もある程度自由にコントロールする事が可能である。
【0004】
従って、非水系の電気泳動を利用した電着塗布では、水系の電着塗布やメッキ法に比べ、所定の膜厚を形成するのに必要な消費電流を著しく軽減する事ができ、省エネルギーという点で好ましい。また、短時間で所定の膜厚を形成する事ができるため生産性もよく、トナー粒子の保持電荷量をコントロールする事でトナー粒子層の成長速度、トナー粒子層の品質等も自由に制御できるため、優れている。
【0005】
非水系の電気泳動を利用した電着塗布のための装置及び方法としては、荷電材料を分散させた絶縁性の液の中に基材を浸漬し電着する方法や、ローラを電極として電着塗布される装置が知られており、種々の基材に種々の塗布材料を塗布する産業上の利用の適用例が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
非水系の電気泳動を利用した電着塗布を応用したものとしては、液体トナーを用いた電子写真プロセスによる製版機、複写機、オンデマンド印刷機等があげられる。これらは主に電子写真感光体層の上に電子写真プロセスにより静電潜像を形成させたドラム、ベルト、シート等を基材として、液体トナー現像を行っている。実際に印刷される基体は液体トナー現像された基材上のトナー粒子層を転写によって基体上に写し取り、画像パターンを形成している。これらを利用して基材の両面に均一な層を形成しようとすると、片面ずつ逐次で処理する必要があり、基材の種類によっては、表裏差が発生したり、搬送系接触による傷等の影響を受けやすく、また、転写により最終トナー粒子層の形成を行うため、転写効率の限界により、トナー粒子層厚に制限があったり、ピンホールが発生しやすいなどの問題点があり、基材両面に均一な層厚のトナー粒子層を形成する事は難しかった。
【0007】
転写せずに基材に直接、かつ、両面同時に液体トナー現像を行う装置としては、基材を略水平に搬送し、基材と対向するように上下に並行に並べた電極板の間に挿入し、基材の上下両側から基材両面に液体トナーを供給して液体トナー現像を行う図7に示すような両面横水平現像の装置が知られている(特許文献2参照)。
【0008】
ただし、上記の両面横水平現像の装置では、特に薄い基材の処理を行ったときなどは、そのたわみにより、上面と下面でトナー粒子の付着状態が異なるという不具合があった。また、電極板間でトナー粒子を電着した後、絞りロール対の間を通過させて、余剰液の除去を行う構成となっているが、その際に絞りロール表面の接触によって均一なトナー粒子層が乱されてしまうという問題もあった。
【0009】
それらの問題を解決するものとして、浸漬方式による液体トナー現像装置が開示されている(特許文献3参照)。これによると、鉛直に基材を上下させて液体トナー液槽に浸漬するため、表裏の違いは発生しにくい。また、余剰液の除去も非接触でなされるため、絞りロール対の接触による乱れも回避される。
【0010】
この方式によれば、両面全面に均一な画像パターンの形成ができるが、それはあくまでも基材が電子写真感光体であり、静電潜像を担時している場合であって、トナー粒子は、基材表面の静電潜像からの電界とバイアス電極が形成する電界との両方の合わさった作用として、トナー粒子の付着がパターン状に行われる。一般的な基材のように静電潜像を担持していない基材に、この装置によってトナー粒子の付着を行おうとすると、以下に示すように均一な層厚のトナー粒子層を両面均一に形成する事は難しかった。
【0011】
すなわち、浸漬方式により基材を液体トナー中に浸漬した状態で、一定時間バイアス電圧を印加してトナー粒子を基材の両面表面に付着させた後、電極板を離間して、基材を引き上げるが、その際、静電潜像を保持している場合ではその静電潜像のエッジ効果を助けとして、トナー粒子はおおむね基材に付着した状態のまま引き上げられ、均一な画像パターンが形成される(画像パターンの各場所のトナー粒子層の層厚としては必ずしも均一なものではない)。一方、基材が静電潜像を担持していない場合には、一定時間バイアス電圧を印加してトナー粒子を基材の両面表面に付着させた後、電極板を離間して、基材を引き上げるその引き上げられる過程で、一度基材に付着したトナー粒子が基材表面から脱離してしまい、トナー粒子層が乱されるという問題が発生する。
【0012】
また、一定時間バイアス電圧を印加してトナー粒子を基材の両面表面に付着させた後、電極板を離間させずに、バイアス電圧を印加したまま基材を引き上げると、引き上げる過程でのトナー粒子の脱離は回避されるが、バイアス電圧が印加されている時間が基材の場所により異なるため、均一な膜厚とはならないという問題があった。
【0013】
また、特に基材に歪みやたわみがあるような場合には、一定時間バイアス電圧を印加している際にも、基材の面内の場所により電極板との間の距離が異なる状態となり、その結果、トナー粒子の付着量が場所によって異なるという問題が顕著に表れてしまう事となる。これは静電潜像を担持している基材では、電極と基材との間の間隙は、画像パターン形成にそれほど大きな影響は与えないが、静電潜像を担持していない基材の両面に均一にトナー粒子を付着させようとする場合には、電極と基材との間の間隙の大きさの違いが大きく影響する事による。
【特許文献1】米国特許2,898,279
【特許文献2】特開平6−224541号公報
【特許文献3】特開2002−132049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、基材の厚みによらず、薄く歪みやたわみのある基材であっても、基材の両面に均一にトナー粒子を付着させる事のできる液体トナー現像装置及び液体トナー現像方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、液体トナーを用いて電気泳動法により基材表面にトナー粒子を付着させる液体トナー現像装置において、液体トナーを収容する液体トナー槽、電気泳動のための電界を形成する現像電極、現像電極にバイアス電圧を印加するバイアス電圧電源、基材の端部を保持しテンションをかけながら平面状に保持する基材固定手段、基材固定手段の上下動作を行う昇降手段、基材固定手段によって保持された基材と現像電極が規定の位置関係となるように規制するガイド手段、昇降手段の動作と関連づけてバイアス電圧電源の印加電圧を変化させる事のできるバイアス電圧制御手段、を有している液体トナー現像装置によって課題を解決できる事を見いだした。
【0016】
また、液体トナーを用いて電気泳動法により基材表面にトナー粒子を付着させる浸漬式の液体トナー現像方法において、基材が液体トナー中に浸漬されている時のバイアス電圧の大きさをVb、昇降手段によって基材が引き上げられている時のバイアス電圧の大きさをVuとした時に、0<Vu<Vbとなるようにバイアス電圧Vuを制御する液体トナー現像方法によって課題が解決できる事を見いだした。
【0017】
また、液体トナー現像直後の基材表面の表面電位の大きさをVsとした時に、Vs≦Vu<Vbとなるようにバイアス電圧Vuを制御する液体トナー現像方法により良好に課題が解決できる事を見いだした。
【0018】
また、液体トナーを用いて電気泳動法により基材表面にトナー粒子を付着させる浸漬式の液体トナー現像方法において、基材が引き上げられている時の現像電極と基材との間に流れる電流が常に0となるようにバイアス電圧を制御して引き上げる液体トナー現像方法により良好に課題が解決できる事を見いだした。
【発明の効果】
【0019】
本発明の液体トナー現像装置においては、液体トナーを収容する液体トナー槽、電気泳動のための電界を形成する現像電極、現像電極にバイアス電圧を印加するバイアス電圧電源、基材の端部を保持しテンションをかけながら平面状に保持する基材固定手段、基材固定手段の上下動作を行う昇降手段、基材固定手段によって保持された基材と現像電極が規定の位置関係となるように規制するガイド手段、昇降手段の動作と関連づけてバイアス電圧電源の印加電圧を変化させる事のできるバイアス電圧制御手段、を有し、薄板や歪みやたわみのある基材であっても、基材固定手段により平滑化して保持する事が可能となり、ガイド手段により、現像電極との位置関係を精確に決める事ができる。それにより、浸漬時に基材が現像電極対の間に位置された際には、基材の両面全面に渡って、現像電極との間隙が一定に保たれ、それにより一定時間バイアス電圧を印加した際には、基材の両面全面に等量のトナー粒子が電気泳動により付着する事を保証する。
【0020】
また、昇降手段の動作と関連づけてバイアス電圧電源の印加電圧を変化させる事のできるバイアス電圧制御手段、を有する事で、基材が液体トナー槽に浸漬されている間には、所定のトナー付着量の得るために必要なバイアス電圧値の設定が行われ、引き上げられる際には、浸漬中とは全く別のトナー付着状態を乱す要因を押さえ込むためのバイアス電圧制御が行われる。これにより、引き上げた後も基材の両面に均一にトナー粒子を付着させた状態を得る事ができる。
【0021】
また、具体的には、引き上げられる際に、バイアス電圧をオフ(0V)にせずに、かつ浸漬時に印加したバイアス電圧値よりは小さなバイアス電圧を印加する事で、付着したトナーを脱離させずに、かつ、トナー粒子の付着ムラも最小限にする事が可能となる。
【0022】
また、引き上げられる際に、液体トナー現像直後の基材表面の表面電位の大きさを測定し、その値をVsとした時に、Vs≦Vu<Vbとなるようにバイアス電圧Vuを設定して基材を引き上げるようにする事で、付着したトナー粒子による基材の表面電位と同等の電位以上をバイアス電圧とする事で、付着したトナーを脱離させずにかつトナー粒子の付着ムラを最小限とする事ができる。
【0023】
また、引き上げられる際の現像電極と基材との間に流れる電流が常に0となるようにバイアス電圧を制御して基材を引き上げるようにする事でも、付着したトナーを脱離させずにかつトナー粒子の付着ムラを最小限とする事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の液体トナー現像装置及び液体トナー現像方法について詳細に説明するが、本発明の液体トナー現像方法は、本発明の液体トナー現像装置を用いる事で優位に行われる。従って、以下は本発明の液体トナー現像装置を説明しながら、本発明の液体現像方法を説明する。
【0025】
図1は本発明の液体トナー現像装置の一実施例の構成図である。図1に於いて、基材1は基材固定手段11により保持され、昇降手段31の働きにより昇降され、液体トナー51を収容する液体トナー槽41の中へ浸漬され、引き上げられるようになっている。液体トナー槽41の中には電気泳動を行うための2枚の現像電極7からなる電極対が設けてあり、基材固定手段11がガイド手段6によって移動の軌跡が規定され、基材固定手段11が液体トナー槽41の中に浸漬された際には、基材1がちょうど電極対の間に入るように調整されている。
【0026】
基材1と現像電極7との間には、配線によってバイアス電圧電源21が設けられ、基材1と現像電極7との間に電位差を発生させるようになっている。バイアス電圧制御手段22が、昇降手段31の動作と関連づけてバイアス電圧のオンオフやバイアス電圧値の設定を行うようになっている。
【0027】
正の電荷を有するトナー粒子を使用する場合には、現像電極7には、基材に対して高い電圧を印加する事で、電気泳動によりトナー粒子を基材に付着させる。基材1を接地した場合は、現像電極7にはプラスの電位を与え、現像電極7を接地した場合は、基材1にマイナスの電位をそれぞれの場合に応じて印加する。また接地は別にとって、基材と現像電極の間の電位差を設定しても良い。負の電荷を有するトナー粒子を使用する場合には、上記とは正負逆の電位を与え、電気泳動により基材にトナー粒子が付着するように設定する。
【0028】
いずれの場合においても、基材1の両面と、現像電極7の基材に面した面のみに電流が流れるように設定する事が好ましい。すなわち、現像電極7の背面及び側面(基材に面していない面)は導電体が露出していない事が望ましく、絶縁樹脂等で充分に遮蔽されている必要がある。同様に基材固定治具11に関しても、現像電極7もしくは基材1との間で電流のやりとりがおこらないように露出表面を絶縁する等の構成にする事が好ましい。
【0029】
図2に基材1が基材固定手段11に保持されている状態の説明図を示す。基材は、基材固定手段11の基材チャック部13によって、対辺がチャックされる。チャック部13の少なくとも一方にはスライドガイド15がそのチャック部13の両側に設けられ、少なくとも一方のチャック部13は、もう一方のチャック部に対して平行を保ったまま移動するようになっている。平行を保ったまま移動するチャック部13に対して、テンション機構14によって基材1を平滑化する方向に力が加わり、歪みやたわみのある基材であっても平滑に保持される。チャック部13、テンション機構14、スライドガイド15はそれぞれ剛性をもった枠12に取り付けられ、基材が平滑かつ安定に固定保持されるようになっている。
【0030】
チャック部は、基材端部を挟み込んでその圧縮力により基材をチャックする方法や、また、基材端部にあらかじめ穴や切り欠き等のチャック補助穴を設けて、チャック部の側にはそのチャック補助穴に対応するピン差し込み等のチャック補助機構を有する事で、基材を保持しテンションをかけるような方法も採用する事ができる。
【0031】
本発明に関わる基材固定手段は、上の一実施例に限らずに、基材の端部を保持しテンションをかけながら平面状に保持する機構を有していれば、いずれの方式でも可能である。
【0032】
本発明に関わる液体トナー槽は、液体トナーを収容できるものであればいずれのものも使用可能である。また、液体トナーのトナー粒子濃度の均一化のための循環ポンプ等の均一化手段を有している事が好ましい。また、オーバフロー槽や、別の貯留槽を設ける事で、基材固定手段及び基材が浸漬された状態でも液面位置を一定にするような機構を有している事が好ましい。
【0033】
本発明に関わる現像電極は、電気泳動のための基材への電界が均一に形成できるものであればいずれのものでも使用可能であるが、金属平板にその背面及び側面に絶縁樹脂を貼り合わせたものが好適に利用できる。現像電極7は、液体トナー槽内において、基材1と平行に、設定された間隙をもって精度良く対向するようになっている。また、現像電極の背面及び側面が絶縁樹脂となっていなくても、基材以外の現像電極の周囲の部材を現像電極と同電位とするなど、現像電極の背面及び側面に電流が流れないような電気的環境を作り出せるのであれば、そのような現像電極も好適に使用可能である。
【0034】
本発明に関わるガイド手段は、基材と現像電極との間の間隙の精度を保証するものであり、基材固定手段と現像電極との間の位置関係を物理的な接触によって規定するものであればいずれのものも利用できる。
【0035】
本発明に関わる昇降手段は、基材固定手段を液体トナー槽へ浸漬し、引き上げる動作を行うものであり、昇降の速度及び浸漬時間の設定ができるようになっている。昇降手段と基材固定手段との位置関係、及び、昇降手段と現像電極との位置関係が、精度良く設定されている場合は、昇降手段がガイド手段を付随して有する事となる。しかし、この場合のガイド手段は、基材と現像電極との位置関係を、基材固定手段と昇降手段とを介して設定される構成となり、より多くの部材の精度が求められる事となるため、図1に示すようなガイド手段6(基材固定手段11と現像電極7との間の位置関係のみを規定する場合)の方が、少ない部材の精度のみの保証によってガイド手段としての機能が発現できるため好ましい。
【0036】
本発明に関わるバイアス電圧制御手段は、昇降手段の動作に関連づけて、印加するバイアス電圧の値及びタイミングを設定し、バイアス電圧電源を制御するもので、本発明の液体トナー現像装置においては、基材が液体トナー槽に浸漬、静止している状態と、引き上げられている状態とで、別のバイアス電圧制御を行うものである。
【0037】
基材が液体トナー槽に浸漬、静止している状態では、基材の両面に均一に、必要充分な量のトナー粒子が付着するようにバイアス電圧を設定する。トナー粒子の付着量はバイアス電圧以外にも液体トナー中のトナー粒子濃度、トナー粒子の保持する電荷量、基材と現像電極間の間隙、現像時間、等をバイアス電圧とともに設定して、所望の付着量を得る。
【0038】
基材が引き上げられている状態では、浸漬、静止している状態に付着したトナー粒子付着量及び付着状態を維持するようにバイアス電圧を制御する。従来のようにバイアス電圧を切ってしまうと、引き上げる際に、付着したトナー粒子が再分散して脱離してしまい、ムラが発生し、良好な均一な層が得られない。逆に高いバイアス電圧を印加し続けると、引き上げる過程でもトナー粒子が引き続き基材に付着し続けるため、液体トナー中に長く浸漬されている基材下部ほど多くのトナー粒子が付着する構成となり、トナー付着量の勾配(基材下部に行く程厚くなる)が生じ、良好な均一なトナー粒子層が得られない。
【0039】
本発明の液体トナー現像方法では、基材が液体トナー中に浸漬されている時のバイアス電圧の大きさをVb、昇降手段によって基材が引き上げられている時のバイアス電圧の大きさをVuとした時に、0<Vu<Vbとなるようにバイアス電圧Vuを印加しながら引き上げる。これにより浸漬、静止中に付着した均一な膜が、引き上げられた後でも良好に維持される。
【0040】
このVuの値は、基材の種類やトナー粒子の性質、現像時間等々によって良好な最適値は異なるが、次のようにして設定する事が好ましい。
【0041】
すなわち、本発明の液体トナー現像方法では、引き上げ直後の基材の表面電位を計測して、その値をVsとし、Vs≦Vu<Vbとなるようにバイアス電圧Vuを印加して引き上げる。VuはVs以上であり、できるだけVsに近いか、やや高いバイアス電圧とする事が好ましい。Vs≦Vu<(Vs+Vb)/2が好ましく、さらに好ましくは、Vs≦Vu<(3Vs+Vb)/4、さらにより好ましくはVs≦Vu<(5Vs+Vb)/6である。Vuが表面電位Vsよりも小さいと、一度付着したトナー粒子の脱離が起こる可能性が増し、脱離が発生すると均一に付着したトナー粒子層が乱される事となり好ましくない。また、VuがVbの値に近づくと、引き上げ時にもトナー粒子が基材に付着する事となり、液体トナーにより長い時間浸漬している基材の下部の方が、基材の上部に比べ、トナー付着層厚が厚くなるという結果となり、好ましくない。
【0042】
また、本発明の液体トナー現像方法では、基材が引き上げられている時の現像電極と基材との間に流れる電流を常に0となるようにバイアス電圧を制御して引き上げる事もできる。トナー粒子の付着及び脱離がそのまま電流として検知できる場合には、この方法が好適に利用される。すなわち、基材を浸漬、静止している間に一定のトナー粒子の付着を行った後に、引き上げる際に、電流が0となるようにバイアス電圧を制御して印加する。すなわち、電流を検知してフィードバックして電圧を制御する。これにより、引き上げる過程でのトナー粒子の脱離や追加付着を防ぐ事ができ、良好な均一なトナー付着膜が得られる。
【0043】
本発明に係わる基材は、少なくともその両面が液体トナーによって電着可能なものであり、より具体的には導電性基材もしくは、非導電性基材の表面に導電性層を設けたものである。また、該導電性層の表面にそれぞれ非導電層が形成されていても、また多層化されていても、その表面へのトナー粒子の電気泳動が可能であればいずれも使用する事ができる。
【0044】
本発明に関わる液体トナーの分散媒は非水系である事が好ましい。少ない消費電流により効率的に層の形成ができるとともに、現像電極と基材との位置関係を適切にセッティングする事により、より均一な層が形成でき、本発明の液体トナー現像装置及び液体トナー現像方法の効果がより有効に得られる。
【0045】
本発明に関わる液体トナーは、液体トナー現像の用途により、トナー粒子の機能を自由に選択し、種々の特性を持つトナー粒子の層を基材表面に形成する事ができる。電子写真用の液体トナーも使用可能である。
【0046】
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
基材として、340mm×255mm×0.1mmの絶縁樹脂の表面に5μmの厚みの銅層を設けた基材を使用した。基材は基材固定用治具にセットするために、340mmの辺に沿って端部に3mmの小径が両端それぞれに5カ所開けられている。
【0048】
図2に示すように、基材1を基材固定用治具11にセッティングした。チャック部13には基材の端部の小径の位置に精確に合うように、ピンがたててあり、そのピンに基材の小径穴を挿入するようにしてセットし、チャックにより挟持して保持する。テンション機構14の作用により、基材は左右に引っ張られ、薄い板であるにも関わらず基材面はほぼ平滑な面となった。
【0049】
液体トナー槽41に金属平板の背面及び側面を樹脂材で覆った現像電極7を2枚平行に液体トナー槽内にセットした。現像電極7はベース8を介してガイド手段に連結されており、それぞれの部材の位置関係は精度良く保たれている。
液体トナー槽41には、液体トナー51として、三菱OPCプリンティングシステム用正電荷トナー(三菱製紙(株)製、「ODP−TW」)が貯留され、図示されない循環手段によって循環攪拌されている。
【0050】
現像電極7は電気的には他の周囲の部材とは絶縁されており、唯一バイアス電圧電源と配線接続されている。
【0051】
基材1をセットした基材固定用治具11を昇降手段31に取り付け、ガイド手段6に導入される位置にセットした。その後、装置をスタートさせる事により、基材固定用治具11が昇降手段によって降下され、液体トナー51で満たされた液体トナー槽41へ浸漬される。その際、ガイド手段6が基材固定用治具11の一部と接触しながら、規定の位置に基材固定用治具11を誘導し、最下点で停止する。
【0052】
最下点においては、上から見た図3で示すように、基材1の両面に現像電極7が5mmの間隙を持って精度良く対向される。その後一定時間の後、昇降手段31により基材固定用治具が上昇され、基材が引き上げられる。
【0053】
この間、バイアス電圧電源21及びそれを制御するバイアス電圧制御手段22の働きによって、図4に示すようなバイアス電圧が昇降手段の動作に関連づけられて印加された。図4において縦軸の基材位置は、基材上の一点の鉛直方向の位置を表しており、最下点とは、基材の有効エリア(そのエリア全面に均一にトナー付着を行う領域)が液体トナーに浸漬される位置である。また、図4の引き上げ位置とは、基材の有効エリアが液体トナーの液面上に完全にあがり、液体トナーに浸漬されていない位置である。トナー現像条件は、トナー粒子層の樹脂フィルム形成後の膜厚が約2μmとなるように、現像バイアス電圧Vbは300V、引き上げ時のバイアス電圧Vuは20Vに設定された。引き上げ時のトナー電着後の表面の表面電位Vsを測定した所、基材に対して、15Vであった。
【0054】
引き上げる際には、図示されない乾燥手段によって、余剰液の乾燥除去が行われ、トナー粒子層が得られた。その後、基材1を基材固定手段11より取り外し、熱定着を行う事により基材表面にトナー粒子を融着させた樹脂フィルムを形成した。樹脂フィルムの膜厚を反射率分光法による膜厚測定器により測定を行った。測定は、基材表面全体を約40mm間隔で48カ所に分割し、片面48カ所、両面で96カ所の位置の膜厚の測定を行った。1カ所あたり3点の測定を行い平均をとってそのカ所の膜厚とした。96カ所の膜厚を算出した後、その96カ所の平均値と標準偏差を計算した。その結果、平均膜厚2.0μm、標準偏差0.13μmと良好な均一性をもった膜を得る事ができた。
【実施例2】
【0055】
基材として、340mm×255mm×0.1mmの絶縁樹脂の表面に5μmの厚みの銅層を設けた基材の上にさらに樹脂フィルムをラミネートしたものを使用した。基材は基材固定用治具にセットするために、あらかじめ340mmの辺に沿って端部に3mmの小径が両端それぞれに5カ所開けられている基材を使用した。
【0056】
液体トナーとしては、特開2004−138666号公報の実施例1に記載されているポジ型フォトポリマー樹脂粒子からなる液体トナーを使用した。
【0057】
実施例1と同様にして、基材固定用治具11にセットし、図1に示す液体トナー現像装置によって、トナー粒子の電着を行った。ただし、実施例1とは異なり、現像電極と基材との間の間隙は両側とも3mmに設定し、バイアス電圧Vbは500Vに設定した。引き上げ時のバイアス電圧Vuは50Vに設定した。
引き上げ時のトナー電着後の表面の表面電位Vsは基材に対して、15Vであった。
【0058】
引き上げる際には、図示されない乾燥手段によって、余剰液の乾燥除去が行われ、トナー粒子層が得られた。その後、基材1を基材固定手段11より取り外し、熱定着を行う事により基材表面にトナー粒子を融着させた樹脂フィルムを形成した。樹脂フィルムの膜厚を実施例1と同様にして両面で96カ所の位置の膜厚を測定し、平均値と標準偏差を計算した。その結果、2.0μmで標準偏差0.16μmと良好な均一性をもった膜を得る事ができた。
【実施例3】
【0059】
基材として、340mm×255mm×0.1mmの絶縁樹脂の表面に5μmの厚みの銅層を設けた基材の表面にさらに、特開平10−51105号公報の実施例2に記載のアルカリ可溶ドライフィルムで被覆を行ったものを基材として使用した。基材は基材固定用治具にセットするために、あらかじめ340mmの辺に沿って端部に3mmの小径が両端それぞれに5カ所開けられている基材を使用した。
【0060】
実施例2と同様にして、基材固定用治具11にセットし、図1に示す液体トナー現像装置によって、トナー粒子の電着を行った。ただし、液体トナーとしては、特開平10−51105号公報の実施例4に記載の熱溶融性微粒子を含んだ塗布液を液体トナーとして使用し、熱溶融性微粒子をトナー粒子として使用した。
【0061】
実施例2と同様にして、基材を基材固定用治具11にセットし、図1に示す液体トナー現像装置によって、トナー粒子の電着を行った。ただし、実施例2とは異なり、バイアス電圧Vbは300Vに設定した。引き上げ時のバイアス電圧Vuは200Vに設定した。引き上げ時のトナー電着後の表面の表面電位Vsは基材に対して、200Vであった。
【0062】
引き上げる際には、図示されない乾燥手段によって、余剰液の乾燥除去が行われ、トナー粒子層が得られた。その後、基材1を基材固定手段11より取り外した。
トナー粒子を電着する前の両面96カ所の膜厚をあらかじめレーザ顕微鏡を用いて測定しておき、トナー粒子層形成後の膜厚から差し引きする事で、両面96カ所のトナー粒子層の厚みを計算した。その結果、2.0μmで標準偏差0.1μmと良好な均一性をもった膜を得る事ができた。
【実施例4】
【0063】
実施例3と同様にしてトナー粒子の電着を行った。ただし、実施例3とは異なり、図5に示すようなタイミングで、バイアス電圧Vbは300Vに設定し、引き上げる際のバイアス電圧を、現像電極と基材との間に流れる電流が常に0Aとなるようにバイアス電圧を制御して引き上げた。
【0064】
引き上げる際には、図示されない乾燥手段によって、余剰液の乾燥除去が行われ、トナー粒子層が得られた。その後、基材1を基材固定手段11より取り外した。
【0065】
実施例3と同様にして両面96カ所のトナー粒子層の厚みを計算し、その結果、2.0μmで標準偏差0.1μmと良好な均一性をもった膜を得る事ができた。
【実施例5】
【0066】
基材として、340mm×255mm×0.1mmの絶縁樹脂の表面に5μmの厚みの銅層を設けた基材を使用し、液体トナーとしては、特開2002−249530号公報の実施例2に記載のエマルジョン粒子を元に作製した電子写真用のトナーを使用した。
【0067】
バイアス電圧Vbは300V、引き上げ時のバイアス電圧Vuは40Vに設定した。引き上げ時のトナー電着後の表面の表面電位Vsは基材に対して、15Vであった。
【0068】
それ以外は、実施例1と同様にしてトナー粒子層の形成及び熱定着による樹脂フィルム形成を行い、その後、基材両面96カ所の膜厚の平均値と標準偏差を計算した。その結果、平均膜厚2.0μm、標準偏差0.14μmと良好な均一性をもった膜を得る事ができた。
【0069】
(比較例1)
液体トナー現像装置として、図6に示すような液体トナー現像装置を使用し、かつ引き上げる際には、バイアス電圧をオフ(0V)にして引き上げた以外は、実施例3と同様にしてトナー粒子の付着を行った。
【0070】
図6の液体トナー現像装置では、基材1は昇降手段31によって、液体トナー51を満たした液体トナー槽41内に鉛直方向に昇降されるようになっており、基材1が液体トナーに浸漬された状態では、現像電極7が、現像電極稼働手段69及び70により基材を挟み込む方向に平行移動し、基材とそれぞれ3mmの間隙をもって対向した状態で、現像電極7にバイアス電圧Vbが印加され、トナー粒子の付着が行われる。その際、基材1の両端には、現像電極7と3mmの間隙ができるように図示されない3mmの厚みのスペーサが設けられている。引き上げる際には、現像電極7の位置はそのままに、基材が引き上げられ、図示されない乾燥手段によって、余剰液の乾燥除去が行われた。
【0071】
浸漬され静止している状態でのバイアス電圧Vbは300V、引き上げる際にはバイアス電圧はオフ(0V)にした。引き上げ時のトナー電着後の表面の表面電位Vsは、引き上げ直後の基材最上部では、約200Vであったが、その他の部位では、20V〜200Vの範囲でバラツキがあり安定に一定電位の表面電位の検出はできなかった。
【0072】
基材表面のトナー粒子層の膜厚を、実施例3と同様にして、基材両面96カ所で測定を行った所、トナー粒子層の膜厚は、平均1.7μm、標準偏差0.6μmとかなりバラツキのある膜となり良好な膜が得られなかった。
【0073】
(比較例2)
実施例1と同様の基材、液体トナーを使用し、比較例1と同様の液体トナー現像装置を使用して、トナー粒子の付着を行った。ただし、現像電極と基材との間の間隙は5mmと設定し、基材1の両端に設けるスペーサの厚みも5mmとした。浸漬され静止している状態でのバイアス電圧Vbは300Vとし、引き上げる際にも浸漬中と同様のバイアス電圧300Vをかけ続けて引き上げた。
【0074】
その後、熱定着により樹脂フィルムを形成した後、基板両面96カ所の樹脂フィルムの膜厚を測定した所、平均3.7μm、標準偏差1.5μmとバラツキのある膜となり、良好な膜が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、液体トナーを用いて電気泳動法により基材表面にトナー粒子を均一に付着させる用途に利用可能であり、トナー粒子を選択する事により、電子材料を初め、基材表面への均一なコーティングを必要とする全ての用途に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の装置の一実施例の構成図。
【図2】本発明に関わる基材固定手段の一例を示す説明図。
【図3】本発明に関わる基材固定手段の一例を示す断面図。
【図4】本発明の方法におけるバイアス電圧印加の一例を示すタイミング図。
【図5】本発明の方法におけるバイアス電圧印加の一例を示すタイミング図。
【図6】従来の液体トナー現像装置の説明図。
【図7】従来の液体トナー現像装置の説明図。
【符号の説明】
【0077】
1 基材
6 ガイド手段
7 現像電極
11 基材固定手段
12 枠
13 チャック部
14 テンション機構
15 スライドガイド
21 バイアス電圧電源
22 バイアス電圧制御手段
31 昇降手段
41 液体トナー槽
51 液体トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体トナーを用いて電気泳動法により基材表面にトナー粒子を付着させる液体トナー現像装置において、液体トナーを収容する液体トナー槽、電気泳動のための電界を形成する現像電極、現像電極にバイアス電圧を印加するバイアス電圧電源、基材の端部を保持しテンションをかけながら平面状に保持する基材固定手段、基材固定手段の上下動作を行う昇降手段、基材固定手段によって保持された基材と現像電極が規定の位置関係となるように規制するガイド手段、昇降手段の動作と関連づけてバイアス電圧電源の印加電圧を変化させる事のできるバイアス電圧制御手段、を有している事を特徴とする液体トナー現像装置。
【請求項2】
液体トナーを用いて電気泳動法により基材表面にトナー粒子を付着させる浸漬式の液体トナー現像方法において、基材が液体トナー中に浸漬されている時のバイアス電圧の大きさをVb、昇降手段によって基材が引き上げられている時のバイアス電圧の大きさをVuとした時に、0<Vu<Vbとなるようにバイアス電圧Vuを制御する事を特徴とする液体トナー現像方法。
【請求項3】
液体トナー現像直後の基材表面の表面電位の大きさをVsとした時に、Vs≦Vu<Vbとなるようにバイアス電圧Vuを制御する事を特徴とする請求項2記載の液体トナー現像方法。
【請求項4】
液体トナーを用いて電気泳動法により基材表面にトナー粒子を付着させる浸漬式の液体トナー現像方法において、基材が引き上げられている時の現像電極と基材との間に流れる電流が常に0となるようにバイアス電圧を制御して引き上げる事を特徴とする液体トナー現像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−94077(P2007−94077A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284173(P2005−284173)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】