説明

液体吐出装置及び液体充填方法

【課題】ヘッド内へ効率よく液体が充填され、気泡残留が抑制された液体吐出装置及び液体充填方法を提供する。
【解決手段】本流路60と支流路55とを備えた流路構造を有する印字ヘッド50において、本流路60と支流路55との接続部近傍に弾性膜61が備えられる。弾性膜61の本流路60と反対側から弾性膜61を加圧して変形させて支流路55の入口55Aを閉じた状態で本流路60にインクが充填される。本流路60のインク充填が終わると弾性膜61を非変形状態にして支流路55の入口55Aを開け、支流路55及び圧力室52にインクが充填される。弾性膜61の支流路側の端部142は、本流路60と支流路55との接続部144よりも支流路側に位置するように弾性膜61が配置される。弾性膜61の幅方向の中央位置146が該接続部144よりも支流路側に位置ことがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置及び液体充填方法に係り、特に液体を吐出する液体吐出ヘッドにおける液体充填技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像やドキュメント等のデータ出力装置としてインクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)が普及している。インクジェット記録装置はヘッドに備えられたノズル(吐出孔)を含んだ吐出素子をデータに応じて駆動させ、該ノズルから吐出されるインクによってメディア上に画像等が形成される。インクジェット記録装置では、各ノズルに連通される圧力室に気泡が発生すると当該ノズルからインクが正常に吐出されない吐出異常が発生し、また、メニスカス面の乾燥やノズル内のインクの増粘によって吐出異常が発生する。圧力室に気泡が発生する原因は、ヘッド外部からノズル及びインク流路を経由して圧力室へ気泡が侵入することや、温度変化によって圧力室内のインクの溶存気体が気泡化することなどがある。ヘッドにインクを初期充填する際にヘッド内に気泡が残留してしまうと、圧力室へ気泡が侵入する恐れがあるだけでなくインクの初期充填の効率を低下させてしまう。
【0003】
また、インクジェット記録装置に用いられるヘッドには、ノズルが2次元状に配置されたマトリクスヘッドが用いられる。このマトリクスヘッドでは、ヘッド全体にインクを供給する本流と、該本流から分岐して各圧力室(個別流路)へインクを供給する支流と、を備えたインク流路構造を持つものがある。このような本流支流構造を有するインクジェットヘッドでは、本流と支流に対して一度にインクを充填すると、本流と支流との接続部分で気泡を巻き込んでしまうことがある。
【0004】
特許文献1に記載された発明では、プリントヘッド内のインク流路として主流路と個別流路とを備え、プリントヘッドのインクの初期充填が主流路と個別流路の2段階に分けて行うことで、少ないインク浪費量でインクジェットプリンタのインク充填性とメンテナンス性を向上させ、装置設計の自由度を上げるように構成されている。具体的には、プリントヘッドのノズル面にヘッドキャップを密着させ、プリントヘッドのインクカートリッジ側に設けられた流路規制弁及びプリントヘッドのチューブ開放端側に設けられたチューブ開放弁を開放し、プリントヘッドとチューブ開放弁との間に設けられたポンプを駆動してインクカートリッジからインクを主流路へ充填し、該主流路にインクが充填された後にポンプを停止してチューブ開放弁を閉じ、ヘッドキャップの密着を開放してポンプを反対向きに駆動することで、個別流路にインクが充填される。
【特許文献1】特開2004−174926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット記録装置では、画質向上などの観点から、画像形成に用いるインク(液体)の粘度が高くなる傾向がある。インク粘度が高くなるとヘッド内の流路において発生する圧力損失が大きくなり、リフィル特性に悪影響を与えてしまうといった問題が発生するので、インク流路における圧力損失を下げるためにヘッド内の流路の断面積を大きくして該流路の流体抵抗を下げなければならない。インクが吐出されるノズルを2次元状に配置したマトリクスヘッドでは、1つの流路から複数の圧力室へインクが供給されており、1つの流路を流れるインク量が多いために該流路の断面積を大きくする必要がある。
【0006】
インク流路の断面積が大きくなりインク流路の高さが高くなると、インクに加わる重力の影響はインクの表面張力に比べて無視できなくなり、流路の下側だけインクが進んでしまい、インク流路の内部に気泡が残ってしまう。また、インク流路の幅が大きくなると、幅方向の片側だけインクが進んでしまうことがあり、インク流路内の気泡を巻き込んでしまう恐れがある。
【0007】
また、本流及び支流を備えるインク流路構造では、インク流路(本流及び支流)の断面積を大きくすると、本流にインクを充填している間に支流や圧力室にインクが流れ込んでしまい、本流と支流に対して一度にインクを充填することになり、本流と支流とをつなぐ部分の角で気泡を巻き込んでしまう恐れがある。
【0008】
特許文献1に記載の発明では、個別流路の断面積が大きくなると、ヘッドをキャップで密着していてもインクに作用する重力の影響を受けてインクが個別流路の下側から入り込んでしまう恐れがある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ヘッド内へ効率よく液体が充填され、気泡残留が抑制された液体吐出装置及び液体充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る液体吐出装置は、液体を吐出させるノズルと、前記ノズルに対応して設けられる圧力室と、前記圧力室と連通し該圧力室に液体を供給する支流路と、前記支流路と連通し該支流路に液体を供給する本流路と、前記支流路と前記本流路の接続部近傍に設けられた第1の弾性膜と、を有する液体吐出ヘッドと、前記支流路及び前記本流路の接続部を封止するように前記第1の弾性膜を変形させる弾性膜変形手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、本流路と該本流路から分岐して圧力室へ液体を供給する支流路とを有する液体吐出ヘッドにおいて、本流路と支流路との接続部近傍に設けられた第1の弾性膜を変形させ支流路の入口を閉めた状態で本流路に液体が充填されるので、本流路に液体を充填している間は支流路に液体が流れ込むことがなく、本流路及び支流路に気泡が残留することを回避できる。
【0012】
第1の弾性膜を変形させる弾性膜変形手段は、第1の弾性膜を変形させる方向と反対側に空間部と、一方の端部が該空間部に連通し他方の端部が液体吐出ヘッドの外部に連通する連通口と、該連通口及び空間部を介して液体吐出ヘッドの外部から第1の弾性膜を加圧する加圧手段と、を備える態様がある。該加圧手段を制御する加圧制御手段を備えてもよい。
【0013】
なお、該連通口を第1の弾性膜の加圧面と略直交方向に形成し、第1の弾性膜の加圧面と略直交方向から加圧してもよいし、該連通口を第1の弾性膜の加圧面と略水平方向に形成し、第1の弾性膜の加圧面と略平行方向から加圧してもよい。
【0014】
第1の弾性膜を非変形状態にするとともに該連通口を大気開放すると、第1の弾性膜は本流路のエアダンパとして機能し、ノズルから液体を吐出させる際に発生する流体クロストークを低減させることができる。
【0015】
液体吐出ヘッドは、圧力室に収容されている液体に吐出力を与える吐出力付与手段を備える態様がある。吐出力付与手段には、圧力室を変形させて圧力室の体積を変化させるアクチュエータや、圧力室内の液体を加熱して圧力室内にバブルを発生させるヒータなどがある。
【0016】
また、液体吐出ヘッドには、記録媒体の全幅に対応する長さを有する吐出孔列を備えたフルライン型のヘッドや、記録媒体の全幅に満たない長さを有する吐出孔列を備えた短尺ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させるシリアル型ヘッドがある。ライン型のインクジェットヘッドには、記録媒体の全幅に対応する長さに満たない短尺の吐出孔列を有する短尺ヘッドを千鳥状に配列して繋ぎ合わせて、記録媒体の全幅に対応する長さとしてもよい。
【0017】
記録媒体は、吐出孔から打滴される液体を付着させる媒体であり、連続用紙、カット紙、シール用紙、PHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、その他材質や形状を問わず、様々な媒体を含む。
【0018】
液体には、インクジェット記録装置に用いられるインクやレジストなどの薬液、処理液などがある。この液体は、液体吐出ヘッドに設けられた吐出孔から吐出可能な物性(粘度など)を有している。
【0019】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記支流路と前記本流路の接続部近傍の前記第1の弾性膜と対向する位置に、前記弾性膜変形手段によって前記第1の弾性膜を変形させた状態において該第1の弾性膜と当接する突起を備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項2記載の発明によれば、第1の弾性膜と対向する位置に突起部を設け、該突起部に当接するように第1の弾性膜を変形するので、第1の弾性膜の変形量を小さくすることができる。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記本流路に第2の弾性膜を備えたことを特徴とする。
【0022】
請求項3記載の発明によれば、本流路に第2の弾性膜を備えることで、流体クロストークを低減させることができる。
【0023】
第2の弾性膜を本流路の底面に備え、第2の弾性膜の本流路と反対側を大気連通させる大気連通口を備える態様がある。なお、第2の弾性膜は本流路の底面以外の面に備えられてもよい。
【0024】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記液体吐出ヘッドは、複数の薄膜部材を積層した積層構造を有し、前記第1の弾性膜と前記第2の弾性膜との間に間隙部材を有することを特徴とする。
【0025】
請求項4記載の発明によれば、第1の弾性膜を変形時の当接部に近づけることで、第1の弾性膜の変形量(高さ)を小さくし、第1の弾性膜と第2弾性膜との間に間隙部材を有することで、本流路の断面積が確保される。したがって、支流路及び本流路の接続部近傍の封止を容易にし、本流路の流体抵抗を下げることが可能になる。また、第2の弾性膜の厚みを大きくする必要がないので、第2の弾性膜の音響容量を大きくし本流路のダンパとしての性能を維持することができる。
【0026】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記積層構造を構成する薄膜部材は、前記圧力室の圧力を検出する圧力検出素子を含む圧力検出膜を備え、前記圧力検出膜は前記第2の弾性膜と兼用されることを特徴とする。
【0027】
請求項5記載の発明によれば、圧力室の圧力を検出する圧力検出素子を備える態様において、該圧力検出素子を含む圧力検出素子層と第2の弾性膜を兼用すると、第2の弾性膜が配設される部分を本流路として用いることができ、本流路の流体抵抗低減に寄与する。
【0028】
圧力検出素子にはPVDFなどの樹脂系圧電素子が好適に用いられる。
【0029】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記圧力検出膜は、前記圧力室に対応する位置に前記圧力検出膜をはさむように形成され前記圧力室の発生圧力に応じた検出信号が取り出される第1の電極及び第2の電極と、前記第1の電極と導通する第1の配線及び前記第2の電極と導通する第2の配線と、を有し、前記圧力室検出膜の検出面に垂直な方向から見て、前記第1の配線に対して前記第2の配線をずらして配置することを特徴とする。
【0030】
請求項6記載の発明によれば、圧力検出膜は、圧力検出素子層の圧力検出素子として機能する部分(圧力室に対応する部分)に形成される第1の電極及び第2の電極と、該第1の電極と導通する第1の配線及び第2の電極と導通する第2の配線と、を有し、圧力検出膜の検出面に垂直な方向から見て(圧力検出膜と平行な平面から見て)、第1の配線と第2の配線とをずらして配置することで、圧力検出膜にダンパ機能による変形が生じても第1の配線及び第2の配線間に発生する浮遊容量を小さくすることができ、圧力検出素子としての機能に及ぼす影響(圧力検出信号に対して該浮遊容量による電圧変動が重畳される現象等)を低減可能である。
【0031】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記第1の弾性膜は、異なる伸張性を有する複数の領域を有することを特徴とする。
【0032】
請求項7記載の発明によれば、第1の弾性膜の変形に異方性が生じるので、支流路及び本流路の接続部近傍を封止する際に、第1の弾性膜の変形量を小さくすることができる。
【0033】
第1の弾性膜の一部に変形矯正部材を備えて、異なる伸張性を有する領域を形成してもよい。
【0034】
請求項8記載の発明は、請求項1乃至7のうち何れか1項に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記第1の弾性膜は、異なる厚みを有する複数の領域を備えたことを特徴とする。
【0035】
請求項8記載の発明によれば、第1の弾性膜に厚みの異なる部分を設けることで、異なる伸張性を有する複数の領域を形成可能である。
【0036】
また、上記目的を達成するために、請求項9記載の発明に係る液体吐出装置は、液体を吐出させるノズルと、前記ノズルに対応して設けられる圧力室と、前記圧力室と連通し該圧力室に液体を供給する支流路と、前記支流路と連通し該支流路に液体を供給する本流路と、前記支流路に設けられた第1の弾性膜と、を有する液体吐出ヘッドと、前記支流路及び前記本流路の接続部を前記支流路側から封止するように前記第1の弾性膜の少なくとも前記支流路及び前記本流路の接続部近傍の部分を変形させる弾性膜変形手段と、を備えたことを特徴とする。
【0037】
本発明によれば、支流路に設けられた第1の弾性膜の少なくとも前記支流路及び前記本流路の接続部近傍を変形させて、該接続部近傍を前記支流路側から封止するので、本流路側に支流路の入口を閉じる構造物を設ける必要がなく、本流路の断面積を大きくすることができ、本流路の流路抵抗の低減化に寄与する。また、簡易な構造が実現され、製造容易性の向上やコストダウンを図ることができる。
【0038】
また、上記目的を達成するために方法発明を提供する。即ち、請求項10記載の発明に係る液体充填方法は、液体を吐出させるノズルと、前記ノズルに対応して設けられる圧力室と、前記圧力室と連通し該圧力室に液体を供給する支流路と、前記支流路と連通し該支流路に液体を供給する本流路と、前記支流路と前記本流路の接続部近傍に設けられた第1の弾性膜と、を有する液体吐出ヘッドの液体充填方法であって、前記支流路及び前記本流路の接続部を封止するように前記第1の弾性膜を変形させて前記本流路に液体を充填することを特徴とする。
【0039】
本流路への液体充填時にノズル側から液体吐出ヘッドの液体流路を密閉するノズル密閉手段を備える態様が好ましい。
【0040】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の液体充填方法の一態様に係り、前記第1の弾性膜を非変形状態として前記支流路及び前記本流路の接続部を開放し、前記支流路に液体を充填することを特徴とする。
【0041】
本流路が充填された後に支流路が充填されるので、本流路と支流路を一度に充填する方法に比べて、本流路側からの気泡混入の可能性を下げることができる。支流路の液体充填時には圧力室及びノズルに液体が充填されてもよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、本流路の液体充填時には第1の弾性膜を変形させて支流路の入口を閉じ、本流路の液体充填完了後に第1の弾性膜を非変形状態として支流路の入口を開いてから支流路への液体充填が行われるので、液体流路内に気泡が残留しにくくなり、液体充填が安定化される。また、該第1の弾性膜はその非変形状態ではエアダンパとして機能して流体クロストークを低減させることができる。
【0043】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色ごとに設けられた複数の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録媒体たる記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印字済みの記録紙16(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0044】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0045】
複数種類の記録媒体を利用可能な構成にした場合、媒体の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類を自動的に判別し、記録媒体の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御(打滴制御)を行うことが好ましい。
【0046】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0047】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0048】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0049】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0050】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示,図6中符号88として記載)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
【0051】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0052】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に記録紙16の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0053】
吸着ベルト搬送部22により形成される記録媒体搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0054】
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。詳細な構造例は後述するが、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、図2に示したように、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0055】
記録紙16の送り方向(以下、紙送り方向という。)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K,12C,12M,12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0056】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色ごとに設けられてなる印字部12によれば、副走査方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(即ち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0057】
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
【0058】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは不図示の管路を介して各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0059】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0060】
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0061】
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各印字ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
【0062】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像形成面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
【0063】
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0064】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像形成面に凹凸形状を転写する。
【0065】
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り替える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
【0066】
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
【0067】
〔印字ヘッドの構造の説明〕
次に、印字ヘッドの構造について説明する。インク色ごとに設けられている各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを示すものとする。
【0068】
本例では、インクジェット記録装置10によってインク滴を打滴される記録媒体に紙類を例示したが、該記録媒体には紙類以外にも、金属板、樹脂板、木、布、皮など、インクを定着させることができ、印字ヘッド50に対して相対的に搬送可能であると共に、印字ヘッド50とのクリアランスを確保できる様々なメディアを適用することができる。
【0069】
図3は、印字ヘッド50に設けられるノズル51の配置を示す平面図であり、図4は、印字ヘッド50に設けられるインク流路の構造を示す透視平面図である。なお、図3に示すノズル配置は一例であり、これ以外の様々なノズル配置に対して本発明を適用可能である。
【0070】
図3に示すように、本例の印字ヘッド50はインク滴が吐出されるノズル51が2次元状に配置されたマトリクスヘッドであり、図4に示すように、各ノズル51に対応する圧力室52を含む複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリクス状に配置させた構造を有し、これにより見かけ上のノズルピッチの高密度化を達成している。
【0071】
各ノズル51に対応して設けられる圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線の両隅部にノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路(支流路)55と連通されている。
【0072】
また、図4に示すように本例の印字ヘッド50は、その短手方向(紙送り方向)の両端部近傍に長手方向(主走査方向)と略平行方向に形成された2つの本流路60A及び本流路60Bを有し、この2つの本流路60A及び本流路60Bから分岐され、これら本流路60A及び本流路60Bをつなぐようにインク室ユニット53の配列方向に沿って支流路55が形成されている。本例に示す印字ヘッド50は2つの本流路60A及び本流路60Bと、該本流路から分岐した複数の支流路55を有する本流支流構造を有している。
【0073】
また、印字ヘッド50は、1つの支流路55が印字ヘッド50の短手方向と略平行方向に並べられた複数の圧力室52と連通し、1つの支流路55から複数の圧力室52へインクが供給される構造を有している。
【0074】
本流路60A及び本流路60Bとの接続部近傍(分岐点)を含む領域には、本流路60の全長に対応する長さにわたり支流路55の入口55Aを開閉する弾性膜61(第1の弾性膜、破線で図示)が設けられている。弾性膜61は本流路60A、本流路60B及び支流路55の底面の一部を構成し、加圧手段を用いてこの弾性膜61を本流路60及び支流路55の反対側から変形させて、支流路55の入口55Aを本流路側から閉じる(封止する)ことができる。なお、弾性膜61の詳細は後述する。
【0075】
図5は、印字ヘッド50の立体構造を示し、印字ヘッド50の一部を拡大した斜視断面図(印字ヘッド50の長手方向の断面線に沿う断面図)である。同図に示すように、圧力室52の天面を形成する加圧板56には供給口54が形成され、加圧板56の圧力室52と反対側に形成された支流路55は供給口54を介して圧力室52と連通されている。この加圧板56の支流路側には各圧力室52に対応して個別電極57を備えた圧電素子58が設けられており、個別電極57に駆動信号を印加することによって圧電素子58が変形してノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、支流路55から供給口54を通って圧力室52へインクが供給される。
【0076】
また、加圧板56の圧電素子配設面(図7に符号56Aで図示)には各圧電素子58の個別電極57から引き出された水平配線62が形成され、この水平配線62は、隣り合う支流路55を隔てる支流路隔壁64の内部に形成されたパッド66から立ち上がるように形成される垂直配線部材68と導通される。
【0077】
垂直配線部材68は、フレキシブル基板(図5中不図示、図8に符号182で図示)に形成される配線パターン(不図示)と電気的に接合される。即ち、圧電素子58に与える駆動信号は、駆動信号発生部(図6のヘッドドライバ84)から該配線パターン、垂直配線部材68、パッド66、水平配線62を介して各圧電素子58の個別電極57へ伝送される。なお、本例では、垂直配線部材68が支流路隔壁64の内部に形成される態様を示したが、垂直配線部材68に所定の絶縁処理を施して支流路55内に形成してもよい。
【0078】
圧電素子58には、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの様々な種類の圧電素子を適用可能である。なお、圧力室52の圧力を検出する圧力センサとして圧電素子を用いることができる。圧力室52内のインクに吐出力を与える吐出力発生素子として用いられる圧電素子には圧電d定数(電気−機械変換定数)が大きなセラミック系圧電素子が好適に用いられ、圧力センサとして機能する圧電素子には圧電g定数(機械‐電気変換定数)が大きなフッ化樹脂系圧電素子が好適に用いられる。
【0079】
図6はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
【0080】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal serial bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0081】
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0082】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42(図1に図示)等のヒータ89を駆動するドライバである。
【0083】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御(打滴制御)が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0084】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0085】
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yのアクチュエータを駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0086】
プログラム格納部90には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部90はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。なお、プログラム格納部90は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
【0087】
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
【0088】
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいて印字ヘッド50に対する各種補正を行う。
【0089】
〔第1実施形態、印字ヘッドの内部構造の説明〕
次に、印字ヘッド50の内部構造の詳細について説明する。図7は、印字ヘッド50の立体構造の詳細を示す断面図(図4中7−7線に沿う断面図)である。図7に示すように、印字ヘッド50は複数のキャビティプレート(以降、単にプレートと記載)が積層される積層構造を有し、各プレートにはインク流路やインク室になる開口、穴、溝等が形成される。
【0090】
即ち、印字ヘッド50は、ノズル51が形成されるノズルプレート100にノズル51と圧力室52とをつなぐノズル連通路102が形成されるノズル連通路プレート104が積層され、更に、各圧力室52に対応して設けられる圧力センサ106が形成されるセンサプレート108が積層されている。
【0091】
センサプレート108は、PVDF層110の両面に各圧力室52に対応する電極112A,12Bと、該電極112A,112Bから引き出された配線パターン(不図示)が形成される。更に、センサプレート108の上下両面には、電極112A,112B及び該配線パターンと接触する他の層との絶縁を確保するために、ポリイミド樹脂絶縁膜(PI絶縁膜)114が設けられている。
【0092】
センサプレート108には、圧力室52が形成される圧力室プレート116が積層され、圧力室プレート116には弾性膜61として機能する弾性膜プレート118が積層され、弾性膜プレート118には更に別の圧力室プレート120が積層される。圧力室プレート120には供給絞り122が形成される供給絞りプレート124が積層され、更に供給口54が形成される加圧板56が積層されている。
【0093】
加圧板56の圧力室52に対応する部分には圧電素子58が形成され、圧電素子58を覆う圧電素子カバー126が設けられている。この圧電素子カバー126によって支流路55に設けられる圧電素子58が支流路55内のインクから保護される。また、加圧板56の圧電素子配設面56Aには、図5に示す水平配線62が形成され、この水平配線62が形成される部分には、支流路55内のインクと絶縁されるように保護膜が形成される。該保護膜には上述したPI絶縁膜などが好適に用いられる。
【0094】
加圧板56には、支流路55及び本流路60(60A,60B)が形成される支流プレート130が積層され、支流プレート130にはダンパ膜132が積層され、更に、本流プレート134が積層される。本流プレート134には、ダンパ膜132の変位を規制しないように、空間部(凹部)136が形成される。
【0095】
本流プレート134のダンパ膜132と反対側の面である上面側には、圧電素子58へ与える駆動信号などを伝送する配線が形成された配線層138が設けられている。
【0096】
なお、図7に示す積層構造はあくまでも一例であり、他の積層構造を用いてもよい。例えば、図7には2層から構成される支流プレート130を例示したが、支流プレート130は単層構造でもよいし、3層以上の積層構造を有していてもよい。即ち、図7に示す各プレート(層)は、更に複数のプレート(層)から構成されていてもよい。
【0097】
〔弾性膜の説明〕
次に、弾性膜61について説明する。図7に示すように、印字ヘッド50は、積層構造を構成する1つの層として弾性膜プレート118を有し、この弾性膜プレート118の本流路60と支流路55との接続部近傍(本流路60の底面)部分が弾性膜61として機能する。
【0098】
図7に破線で示す符号61’は、加圧手段によって弾性膜61を加圧して変形させた状態を示している(図7中、矢印線で弾性膜61の変形方向(加圧方向)を図示)。即ち、本流路60の反対側から(本流路60の反対側に設けられた空間部139及び連通口140から)ポンプ等の加圧手段を用いて、弾性膜61の変形面と略直交方向から弾性膜61を加圧すると、弾性膜61が膨らんだ結果、符号61’に示す形状(変形状態)になる。このように弾性膜61が符号61’に示す変形状態になると、弾性膜61によって支流路55の入口55Aが閉じられ、本流路60から支流路55へ液体が流れ込まない状態となる。
【0099】
本例の印字ヘッド50は、インクの初期充填時に支流路55の入口55Aを閉じた状態で本流路60にインクを充填し、本流路60のインク充填が完了した後に支流路55の入口55Aを開けて支流路55にインクを充填するように制御される。このような初期充填によれば、本流路60及び支流路55に気泡が残留する可能性を下げることができ、圧力室52内に気泡が侵入したことにより発生する吐出異常を回避することができる。
【0100】
弾性膜61の本流路60と反対側に形成された空間部139及び連通口140から弾性膜61に与える圧力をコントロールするには、加圧手段として圧力計付きのポンプを用いるとよい。なお、主としてインクの初期充填時に弾性膜61の変形(加圧)が行われるので、圧力計付きポンプに代わりスポイトやシリンジなどの単純な道具を加圧手段として用いることが可能である。また、ノズル51が形成される面側に加圧用の連通口140が形成される態様では、メンテナンス時に用いるキャップを用いて弾性膜61を加圧することができる。
【0101】
即ち、弾性膜61の本流路60と反対側に設けられる空間部139と、該空間部と連通するとともにその空間部と反対側の端部が印字ヘッド50の外部と連通(大気連通)可能な連通口140と、該空間部139及び該連通口140を介して弾性膜61を本流路60の反対側から加圧する加圧手段は、弾性膜61を変形させる弾性膜変形手段として機能する。なお、該加圧手段に代わり、またはこれと併用して静電気力や磁力を用いて弾性膜61を変形させることも可能である。
【0102】
一方、加圧手段による加圧を解除すると、弾性膜61は元の状態(非変形状態、即ち、支流路55の入口55Aを介して本流路60から支流路55へインクが流れる状態)に戻り、連通口140を大気開放すると、非変形状態(非加圧状態)の弾性膜61は本流路60のエアダンパとして機能し、本流路60の流体クロストークを低減させる効果を得ることができる。
【0103】
弾性膜61の支流路側端部142は、本流プレート134に形成される本流路60と支流路55との境界(境界位置)144よりも内側(支流路55側)に位置するように構成されており、このような構成によって弾性膜61を変形させたときに支流路55の入口55Aを確実に閉じることができる。
【0104】
また、弾性膜61の本流路60の幅方向(印字ヘッド50の短手方向と略平行方向の長さ)の中央の位置(弾性膜61の幅Dを略2等分する位置)146が上述した境界位置144に対応する位置になるように構成するとより好ましい。即ち、弾性膜61の厚みが均一な場合には弾性膜61が変形した際に最も高くなる中央の位置146で支流路55の入口55Aを閉めるように構成すると、弾性膜61の変形量(膨らみ具合、図7中、Hで示す弾性膜61の変形時の高さ)を最も小さくすることができる。
【0105】
なお、本流プレート134の弾性膜61と当接する部分148は、当該当接部分によって弾性膜61を傷つけないように面取り加工が施されることが好ましい。
【0106】
弾性膜61に用いられる材料には、ポリイミド膜やゴム膜などある程度変形しやすい材料が適用される。この弾性膜61の厚みは数十μmから数百μm(例えば、50μmから100μm)程度である。また、幅Dは数mm程度であり、これは本流路60の幅と略同一である。変形時の高さ(最大高さ)Hは支流路55の高さよりも大きく、数百μmから数mm程度(例えば、500μmから1mm程度)である。
【0107】
図8には、図7の加圧板56よりも上部側の構造例を示す。図8では加圧板56よりも下部側の部材の図示が省略されている。図8に示すように、印字ヘッド50の短手方向の両端部には本流路60A及び本流路60Bが形成され、この本流路60Aと本流路60Bは支流路55によって連通される構造を有している。また、本流プレート134の上面には、ビルトアップ基板180及びフレキシブル基板182を含む配線層138が形成される。
【0108】
図9には、図4に示す支流路隔壁部分の断面図(図4中9−9線に沿う断面図)を示す。図9に示すように、隣り合う支流路55を隔てる支流路隔壁64の内部には圧電素子58へ駆動信号を与える垂直配線部材68が形成されている(図5参照)。また、垂直配線部材68は本流プレート134の内部にも形成されており、垂直配線部材68は本流プレート134を貫通するように形成されている。
【0109】
なお、本流プレート134の内部に形成される垂直配線部材68は支流プレート130に形成される垂直配線部材68の直径よりも大きな直径を有するように構成すること(即ち、(本流プレート134の内部に形成される垂直配線部材68の直径)>(支流プレート130の内部に形成される垂直配線部材68の直径)の関係を満たす構造)が可能である。本流プレート134は支流プレート130の支流路部分が不要であり、垂直配線部材68の配設面積を大きくとることができる。このような構造によれば、本流路60の断面積を大きくすることができ、本流路60の流路抵抗を小さくすることが可能である。また、図9に示すように、支流路55の両側に本流路60を形成可能であり、支流路55に対して両側(両端部)からのインク供給が可能になる。
【0110】
なお、図10、図11には本流プレート134を省略した構造をもつ印字ヘッド50’を示す。図10は図8に対応する図であり、図11は図9に対応する図である。
【0111】
図10に示すように、図8に示す本流プレート134が省略された構造では、支流プレート130に天板184、ビルトアップ基板180、フレキシブル基板182が積層される。なお、天板184とビルトアップ基板182は兼用可能である。
【0112】
図10に示す印字ヘッド50’では、支流路55の両端部近傍(支流路55の両端部55Bから破線55Cで図示したあたりまでの領域)が本流路60A及び本流路60Bとなる。図10に示す構造を有する印字ヘッド50’は、本流路60へのインク供給部186は少なくとも印字ヘッド50’の長手方向の両端部(即ち、少なくとも2ヶ所)に設けられる。なお、流路抵抗の観点から上記2ヶ所以外の位置にもインク供給部を設けることが好ましい。このインク供給部186は、ビルトアップ基板180(フレキシブル基板182)に貫通穴を開けて形成すればよい。このように、本流路60に対して上側からインクを供給する態様では、気泡排除性が向上し、印字ヘッド50’の幅が大きくなることを抑制可能である。
【0113】
図10及び図11に示す構造では、図8及び図9に示す構成と比較して垂直配線部材68の長さを短くすることができるので、製造容易性の向上が見込まれる。
【0114】
〔インク供給系の説明〕
次に、インク供給系について説明する。図12はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。図12には、図7〜図9に示した、各本流路60に2ヶ所のインク供給部を備えた(本流プレート134を備えた)印字ヘッド50に対応するインク供給系を示す。
【0115】
インク供給タンク200は、インクを供給するための基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インク供給タンク200の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。
【0116】
図12に示したように、インク供給タンク200と印字ヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ(不図示)が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
【0117】
なお、図12には図示しないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパ効果及びリフィルを改善する機能を有する。
【0118】
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ202と、ノズル面の清掃手段としてのクリーニングブレード(不図示)とが設けられている。
【0119】
これらキャップ202及び該クリーニングブレードを含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
【0120】
キャップ202は、図示せぬ昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ202を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面をキャップ202で覆う。
【0121】
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、図7に示す圧電素子58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなってしまう。
【0122】
このような状態になる前に(圧電素子58の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)圧電素子58を動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべくキャップ202(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
【0123】
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、圧電素子58が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合には印字ヘッド50にキャップ202を当て、吸引ポンプ204で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク206へ送液する。
【0124】
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室52内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
【0125】
前記クリーニングブレードは、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構(ワイパー)により印字ヘッド50のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、該クリーニングブレードをノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。なお、該ブレード機構によりインク吐出面の汚れを清掃した際に、該ブレードによってノズル51内に異物が混入することを防止するために予備吐出が行われる。
【0126】
また、図12に示すように、印字ヘッド50は、各本流路60にそれぞれ2ヶ所(合計4ヶ所)のインク供給部208,210,212,214を有し、インク供給部208,210は印字ヘッド50の本流路60Aと連通し、インク供給部212,214は本流路60Bと連通される。
【0127】
インク供給タンク200とインク供給部208との間には、ポンプ216(ポンプA)と弁218(弁A)が設けられ、インク供給タンク200とインク供給部212との間にはポンプ220(ポンプB)と弁222(弁B)が設けられている。即ち、図12に示すインク供給系は、ポンプ216及び弁218を介してインク供給タンク200から本流路60Aへインクを供給する供給管路224と、ポンプ220及び弁222を介して本流路60Bへインクを供給する供給管路226と、を有している。
【0128】
ポンプ216及びポンプ220は、インクの流れる方向を逆転させることができ、図12に図示したF方向及びR方向にインクを流すことが可能である。また、ポンプ216及びポンプ220は停止中にもポンプ内をインクが流れることが可能な構造を有している。
【0129】
また、図12に示す符号1a〜1h及び符号2a〜2hで示す弁は、図7に示す弾性膜61を表しており、該弁1a〜1h、弁2a〜2hにより各支流路55の入口55Aの開閉が行なわれる。なお、弁1a〜弁1hは本流路60A側に設けられた弾性膜61に対応し、弁2a〜弁2hは本流路60B側に設けられた弾性膜61に対応する。各支流路55に対して共通の加圧手段を備える態様(1つの加圧手段によって弁1a〜弁1hを動作させる態様)では、弁1a〜弁1hは略同時に動作し、弁2a〜弁2hもまた同時に動作する。一方、各支流路55に対応した加圧手段を備える態様(弁1a〜弁1h及び弁2a〜弁2hごとに加圧手段を設ける態様)では、弁1a〜弁1h及び弁2a〜弁2hを個別に動作させることが可能である。
【0130】
本例に示すインク供給系は、パージなどの回復動作時に印字ヘッド50から回収されたインクにリサイクル処理を施してインク供給タンク200に戻す循環路228を備えている。循環路228はリサイクル処理部230を有し、切換弁232を循環路側に切り換えると、印字ヘッド50から回収されたインクはリサイクル処理部230によりリサイクル処理が施されインク供給タンク200に送られる。
【0131】
リサイクル処理部230の一例を挙げると、回収されたインクに含まれる気泡の大きさに対応した(許容される気泡サイズよりも小さい)メッシュサイズを有するフィルタがある。
【0132】
図13には、図10及び図11に示す本流プレートを持たない構造を有する印字ヘッド50’に対応するインク供給系を示す。なお、図13中、図12と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。また、印字ヘッド50’は2つの本流路60A及び本流路60Bを有しているが、2つの本流路60A,60Bに対するインク供給系が同一の構成となるので、図13には一方の本流路60Aと本流路60に対応するインク供給系を図示してある。
【0133】
図13に示すように、印字ヘッド50’は5つのインク供給部240,242,244,246,248,250を有し、これらのインク供給部240,242,244,246,248に対応して供給管路250,252,254,256,258が設けられている。
【0134】
供給管路250,252,254,256のインク供給部240,242,244,246と反対側の端部は、供給主管路260と連通され、供給管路258のインク供給部248と反対側の端部はインク供給タンク200と連通されている。また、供給管路252,254,256には弁262,264,266が設けられ、供給主管路260にはインク供給タンク200と供給管路256の接続部との間にポンプ269が設けられている。
【0135】
このように、多数の(3つ以上の)インク供給部と、該インク供給部に対応した供給管路を備える態様では、印字ヘッドの長手方向の両端部(2ヶ所から)インクを供給する場合に比べてインクの有効流路長(インクを運ぶ距離)を短くすることができ、印字ヘッド内における圧力損失を小さくすることができる。即ち、インク吐出時には弁262,264,266を開放して5つのインク供給部から印字ヘッド50’内へインクを供給するように制御される。
【0136】
〔インク初期充填制御の説明〕
次に、本発明に係るインク初期充填制御について説明する。図14は、図12に示すインク供給系に対応する(図7〜図9に示す印字ヘッド50の)インク初期充填制御のフローチャートである。
【0137】
本例に示すインク初期充填制御では、図7に示す弾性膜61を変形させて支流路55の入口55Aを閉じた状態で本流路60へインクを充填し、弾性膜61を非変形状態として支流路55の入口55Aを開けた状態で支流路55及び圧力室52へインクが充填されるように制御が行われる。
【0138】
即ち、インク初期充填が開始されると(ステップS10)、印字ヘッド50のノズル面から印字ヘッド50のインク流路を密閉するために、該ノズル面がキャッピングされ(ステップS12)、弁218(弁A)及び弁222(弁B)が開けられるとともに弁1a〜1h、弁2a〜2hが閉じられる(ステップS14)。即ち、ステップS14では、各支流路55の入口55Aを閉じるように弾性膜61を加圧して変形させる。また、ノズル側から空気が漏れないように切換弁232が閉じられる(ステップS16)。
【0139】
その後、ポンプ216(ポンプA)及びポンプ220(ポンプB)が駆動され、本流路60にインクが充填される(ステップS20)。ポンプ216及びポンプ220はR方向にインクが流れるように駆動してもよいし、F方向にインクが流れるように駆動してもよい。
【0140】
本例では、インクの充填量は充填開始からの経過時間で管理される。即ち、予め、インクの種類ごとに標準的なインク充填時間を求めておき、これをデータベース化して記憶しておき、インクの種類情報を取得して当該インクの種類に応じた充填時間が設定される。
【0141】
ステップS20でインク充填が開始されると、インク充填開始からの経過時間がカウントされ(ステップS22)、所定の時間が経過していないと判断されると(NO判定)、ステップS20に進み、インクの充填が継続され、所定の時間が経過したと判断されると(YES判定)、ポンプ216及びポンプ220を停止するとともに、切換弁232がリサイクル処理部側(循環路側)向きに開けられる(ステップS24)。
【0142】
その後、吸引ポンプ204を駆動し(ステップS26)、弁1a〜1h及び弁2a〜2hを開けて支流路55及び圧力室52にインクが供給される(ステップS28)。即ち、弾性膜61の加圧を解除して非変形状態とし、支流路55の入口55Aを開けて支流路55及び圧力室52へインクが充填される。
【0143】
支流路55及び圧力室52へのインク充填量も充填開始からの経過時間で管理され、支流路55へのインク充填開始からの経過時間がカウントされる(ステップS30)。ステップS30において所定の時間が経過していないと判断されると(NO判定)、ステップS28に進み、支流路55へのインク充填が継続され、ステップS30において所定の時間が経過したと判断されると(YES判定)、吸引ポンプ204を停止し(ステップS32)、キャッピングが解除される(ステップS34)。
【0144】
その後、ノズル面にはクリーニング(ワイピング)処理が施され(ステップS36)、インク初期充填は終了する(ステップS38)。
【0145】
本例では、インクの充填量を充填開始からの経過時間で管理したが、本流路60及び支流路55に流量センサなどの検出手段を備え、該検出手段から得られた検出信号に基づいてインクの充填量を管理してもよい。
【0146】
また、各支流路55の入口55Aの開閉を個別に行うことができる態様では、支流路55へのインク充填はインク供給部に近い側の支流路から順にインクが充填されるように弁1a〜1h及び弁2a〜2hの開閉を制御すると、更なる気泡排除性の向上が見込まれる。
【0147】
図15には、図13に示すインク供給系に対応する(図10、図11に示す印字ヘッド50’の)インク初期充填制御のフローチャートを示す。なお、図15中、図14と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0148】
図15に示すフローチャートでは、図14のステップS14に代わり、弁262(弁1A)、弁264(弁1B)、弁266(弁1C)が閉じられるとともに、弁1a〜1hが閉じられ(図15のステップS15)、ステップS18に進む。
【0149】
また、図14のステップS20に代わり、ポンプ269(ポンプA)がR方向にインクを流すように駆動され(ステップS19)、ステップS22に進む。ステップS22において、所定の時間が経過したと判断されると(YES判定)、ポンプ269を停止し(ステップS100)、ステップS101に進む。
【0150】
ステップS101では、弁262,264,266を開き、ポンプ269をR方向にインクを流すように駆動され、印字ヘッド50’(本流路60)から供給管路252,254,256へのインク充填が開始される(ステップS102)。なお、弁262,264,266は同時に開くように制御してもよいし、弁262,264,266を開くタイミングに時間差を持たせてもよい。
【0151】
供給管路252,254,256へのインク充填もまた充填開始からの経過時間で管理され、ステップS104において充填開始から所定の時間が経過していないと判断されると(NO判定)、供給管路252,254,256へのインク充填が継続され、ステップS104において充填開始から所定の時間が経過したと判断されると(YES判定)、ステップS24に進む。
【0152】
上述したように、本流路60にインクを充填する際には、弁1a〜1h、弁2a〜2h(弾性膜61)により支流路55の入口55Aを閉じ、支流路55にインクを充填する際には、支流路55の入口55Aを開けるように、インクの初期充填が制御されるので、本流路60及び支流路55に気泡が残留せず、好ましいインク初期充填を実現することができる。
【0153】
図14及び図15に示すインク充填制御(初期充填制御)は、インク充填制御手段(不図示)によって制御される。なお、該インク充填制御手段は、図6のシステムコントローラ(又はプリント制御部)などを含む制御系に設けられる。例えば、システムコントローラ72からポンプ制御部に制御信号を与えてポンプのオンオフやインクの流れ方向が制御され、また、システムコントローラ72から弁制御部に制御信号を与えて、弁の開閉制御が行われる。
【0154】
〔各プレートの説明〕
図16〜図20には、印字ヘッド50を構成するプレートの一例を示す。なお、図示の都合上、図16〜図20に示す各プレートには圧力室52(ノズル51)を15×4個だけ示したが、実際の印字ヘッド50には更に多数(例えば、600×48個)の圧力室52(ノズル51)が設けられている。
【0155】
また、各プレートにはポリイミドなどの樹脂材料やSUSなどの金属材料が適宜用いられ、各プレート間に用いられる接合部材は接合時の処理(例えば、加熱、加圧)や積層構造の製造方法に応じて適宜選択される。
【0156】
図16には、本流プレート134の一例を示す。本流プレート134には短手方向の両端部近傍に長手方向に沿って本流路60となる2つの開口300A及び開口300Bが形成される。また、図5に示す垂直配線部材68に対応して複数の穴302が形成されている。この穴302は開口300A及び開口300Bの間の領域に2次元状配置され、穴302(及び穴302に対応して他のプレートに形成された穴)の内部に導電性ペーストが充填される。この導電性ペーストが図5に示す垂直配線部材68として機能する。なお、本流プレート134の材料にSUSを用いる場合には、図16に示す本流プレートが複数用いられる。
【0157】
図17〜図19には、支流プレート130の一例を示す。支流プレート130には、図17に示す支流プレート130A、図18に示す支流プレート130B、図19に示す支流プレート130Cが支流路55の構造に応じて適宜用いられる。
【0158】
図17に示す支流プレート130Aには短手方向の両端部近傍に長手方向に沿って本流路60となる2つの開口310A及び開口310Bが形成され、この2つの開口310A及び開口310Bにはさまれた領域には、図5の垂直配線部材68に対応する複数の穴312と、支流路55となる複数の開口314及び開口316が支流プレート130Aの長手方向に並ぶように形成される。開口314は図15における上側の開口310Aとつながるように形成され、開口316は図15における下側の開口310Bとつながるように形成される。
【0159】
支流プレート130Aは、その短手方向の略中央部に開口314及び開口316を隔てる隔壁318が形成される。なお、開口314及び開口316は支流路プレート130の片面でつながるように形成されていてもよい。即ち、隔壁318は支流プレート130Aの厚みよりも小さい厚みを有していてもよい。このような支流プレート130Aの片面で開口314及び開口316がつながる形状はハーフエッチングにより形成可能である。
【0160】
図18には支流プレート130Bを示す。支流プレート130Bには支流プレート130Aの開口310A及び開口310Bに対応する本流路60となる2つの開口320A及び開口320Bが形成され、この2つの開口320A及び開口320Bにはさまれた領域には、図5の垂直配線部材68に対応する複数の穴322と、支流路55となる開口324が形成される。開口320A及び開口320Bと開口324との間には隔壁326、隔壁328が形成されている。穴322は本流プレート134の穴302及び支流プレート130Aの穴312に対応して形成されている。
【0161】
なお、開口320A及び開口320Bと開口324とは支流プレート130Bの片面でつながるような形状を有していてもよい(隔壁326及び隔壁328は支流プレート130Bの厚みより小さい厚みを有していてもよい)。
【0162】
図19には支流プレート130Cを示す。支流プレート130Cは、支流路55となり、支流プレート130Cの短手方向がその長手方向となる形状を有する複数の開口330が支流プレート130Cの長手方向に沿って並ぶように形成されている。開口330は、その長手方向(支流プレート130Cの短手方向)の長さが2つの本流路60A,60Bの幅と支流路55の長さに対応している。また、本流プレート134の穴302、支流プレート130Aの穴312、支流プレート130Bの穴322に対応して垂直配線部材68が形成される複数の穴332が形成されている。
【0163】
なお、図5に示す垂直配線部材68の、支流プレート130における直径よりも本流プレート134における直径を大きくする構造は、図16に示す本流プレート134に形成される穴302の直径を図17〜図19に示す支流プレート130に形成される穴312,322,332の直径よりも大きくすればよい。
【0164】
図20には圧力室プレート116(120)の一例を示す。圧力室プレート116は、本流路60となる開口340と、圧力室52となる開口342が形成されている。開口342の平面形状が圧力室52の平面形状となる。
【0165】
このように、図16〜図20に例示した形状を有するプレートを積層することで、所望の流路構造(形状)を有する印字ヘッドが形成される。
【0166】
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10では、印字ヘッド50の本流路60と支流路55との接続部近傍(支流路55の入口近傍)に弾性膜61を備え、インクの初期充填時には、加圧手段を用いて該弾性膜61を変形させて支流路55の入口55Aを閉じた状態で本流路60にインクを充填し、本流路60のインク充填が完了すると、弾性膜61が非変形状態となるように加圧手段による加圧を停止して支流路55の入口55Aを開けて支流路55にインクが充填される。したがって、本流路60及び支流路55に気泡が残留しにくくなり、支流路55側から圧力室52へ侵入した気泡による吐出異常の発生を抑制可能である。また、該弾性膜61は、その非変形状態では本流路60のダンパとして機能し、各ノズルからインクを吐出させる際に発生する流体クロストークの低減化にも寄与する。
【0167】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を説明する。なお、本実施形態において上記第1実施形態と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0168】
図21には、本実施形態に係る印字ヘッド400の立体構造を示す。なお、図の簡略化のために同図では図7に図示した配線層138の図示が省略されている。図21に示すように、印字ヘッド400は、支流路55の入口55A近傍の弾性膜61と対向する位置に突起部(当接部材)402が設けられている。この突起部402は弾性膜61の側へ凸(図21における下方向へ凸)となる形状を有している。このような突起部402を設けることで、上述した第1実施形態に比べて突起部402の高さH’の分だけ弾性膜61の変形量を小さくすることができる。
【0169】
突起部402を弾性膜61の幅方向の中央の位置146に対応する位置に設けると、更に弾性膜61の変形量を小さくすることができより好ましい。また、突起部402の弾性膜61と当接する部分に角がある場合には、この突起部402の角形状によって弾性膜61を傷つけないように面取り加工を施すことが好ましい。
【0170】
突起部402は図18に示す支流プレート130Bの隔壁326,328を利用して形成することができる。図21には、図17に示す支流プレート130Aの上に図18に示す支流プレート130Bを積層する支流プレート130の構成例を図示したが、図18に示す支流プレート130Bを複数積層して支流プレート130を構成すると、突起部の高さH’が最も大きくなり、弾性膜61の変位量を最小にすることができる。
【0171】
図21には、本流路60と支流路55との境界位置に突起部402を設けた構成例を示したが、突起部402は該境界位置よりも支流路55側に設けられていてもよい。また、図21には断面形状が略正方形(略四角形)形状の突起部402を例示したが、突起部402の断面形状には半円形形状など他の形状を適用してもよい。
【0172】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、本実施形態において上記第1、第2実施形態と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0173】
図22には、本実施形態に係る印字ヘッド420の本流路60(60A)の構造例を示す。同図に示すように、印字ヘッド420の本流路60には本流路60と支流路55との接続部近傍に設けられ、空間部139及び連通口140を介して加圧手段により加圧することで変形させて支流路55の入口55Aを閉じる第1の弾性膜422(第1、第2実施形態の弾性膜61に対応)と、本流路60の底面に設けられ本流路60の反対側に空間部426及び大気連通口428を備え本流路60のダンパとして機能する第2の弾性膜424と、を有している。
【0174】
なお、第1の弾性膜422を変形させて支流路55の入口55Aを閉じた状態を破線で図示し符号422’(61’)で示す。また、図22には第1の弾性膜422が変形した状態で当接される突起部402を図示したが、突起部402を省略した態様も可能である。
【0175】
第1の弾性膜422及び第2の弾性膜424には、ポリイミド膜やゴム膜が好適に用いられる。第1の弾性膜422と第2の弾性膜424を同一材料で形成してもよいし、異なる材料で形成してもよい。このように、2つの弾性膜を備えることで、これらの厚みや特性が異なるように各弾性膜を形成することができる。
【0176】
例えば、第1の弾性膜422の厚みを大きくすることでその強度を上げることができ、また、第2の弾性膜の厚みを小さくすることで、本流路60のダンパとして機能する第2の弾性膜424の音響容量を好ましい値にすることができる。
【0177】
ここで、両端固定の梁構造として弾性膜の音響容量Cを計算すると、弾性膜の長さl、弾性膜の幅W、弾性膜の厚みt、弾性膜のポアソン比ν、弾性膜のヤング率Eを用いて、C={l×W×(1−ν)}/(60×E×t)で表される。即ち、音響容量Cは弾性膜の厚みtの3乗に反比例し、弾性膜の厚みtを大きくすると音響容量Cは小さくなり、弾性膜の厚みtを小さくすると音響容量Cは大きくなるという関係がある。
【0178】
また、図22に示す印字ヘッド420は、圧力室プレート116に第2の弾性膜424として機能する第2の弾性膜プレート430が積層され、更に、第1の弾性膜420として機能する第1の弾性膜プレート432(図7の弾性膜プレート118に相当)が積層される。圧力室プレート116には、空間部139及び空間部426となる凹部が形成され、ノズルプレート100、ノズル連通路プレート104、センサプレート108には、連通口140及び大気連通口428となる穴が形成される。
【0179】
本例には2つの弾性膜を組み合わせて異なる厚みを有する2つの弾性膜を形成する態様を示したが、レーザ加工等により厚みを小さくする部分に対応した凹部形状を有する1つ弾性膜を用いてもよい。
【0180】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について説明する。なお、本実施形態において上記第1〜3実施形態と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0181】
図23は、本実施形態に係る印字ヘッド460の本流路60(60A)の構造例を示す。同図に示す印字ヘッド460は、第1の弾性膜422として機能する第1の弾性膜プレート432と、第2の弾性膜424として機能する第2の弾性膜プレート434との間にプレート(間隙部材)462が設けられている。
【0182】
即ち、印字ヘッド460は、第2の弾性膜プレート434にプレート462が積層され、更に第1の弾性膜プレート432が積層される構造を有している。このように、第1の弾性膜プレート432と第2の弾性膜プレート434との間にプレート462を設けることで、第1の弾性膜422と突起部402との距離(図23のおける上下方向の距離)を小さくすることができ、図22に示す態様に比べて第1の弾性膜422の変形量を小さくすることが可能である。
【0183】
このように、第1の弾性膜422の変形量を小さくできると、加圧手段の加圧時における負荷を低減させることができ、第1の弾性膜422に用いる材料の選択肢が広くなる。
【0184】
〔第5実施形態〕
次に、本発明の第5実施形態について説明する。なお、本実施形態において上記第1〜4実施形態と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0185】
図24には、本実施形態に係る印字ヘッド480の本流路60(60A)の構造を示す。同図に示す印字ヘッド480は、図7に示す各圧力室52に対応して設けられる圧力センサ106として機能するセンサプレート108が、図23に示す第2の弾性膜424と兼用される。
【0186】
即ち、図24に示す印字ヘッド480は、図22及び図23に示す第2の弾性膜424(第2の弾性膜プレート434)が省略され、センサプレート108が本流路60の底面を構成している。更に、センサプレート108の本流路60の反対側(ノズル連通口プレート104)には、空間部426及び大気連通口428が設けられている。
【0187】
即ち、符号482で示すセンサプレート108の一部が、図22、図23に示す第2の弾性膜424と兼用され、本流路60のダンパとして機能する。
【0188】
センサプレート108を構成するPVDF層110は、その厚みが40μm程度、ヤング率が2GPa〜3GPa程度、幅が数mm程度(本例に示す印字ヘッド480の本流路60の幅は5mmから10mm程度)であり、本流路60のダンパとして機能するために十分な音響容量を有している。センサプレートに形成されるポリイミド樹脂絶縁層114や水平配線62(図5参照)は数μm程度でありPVDF層110に比べて十分小さく、センサプレート118の厚みはほぼPVDF層110の厚みに等しいといえる。
【0189】
図7に示すように、センサプレート108は圧力室52に対応し、圧力センサ106として機能する部分にはPVDF層110の両面に電極112が形成されている。図25(a),(b)に示すように、第1の電極112Aから引き出された第1の配線112C及び第2の電極112Bから引き出された第2の配線112DがPVDF層110に平行な平面(PVDF層110の検出面と垂直な方向)から見て(図7等参照)重ならないように、第1の配線112C及び第2の配線112Dをずらして配置されている。即ち、第1の配線112C及び第2の配線112DをPVDF層110の検出面(第1の電極112A及び第2の電極112Bが形成される面)と垂直な方向に投影した平面上において、第1の配線112Cは第2の配線112Dと重ならないように所定の距離だけ離されて配置される。
【0190】
このように、第1の配線112C及び第2の配線112Dをずらして配置することで、インク吐出時などにセンサプレート108のうちダンパ482の部分が変形したとしても、圧力センサ106の部分に浮遊容量を持つ恐れはなく、ダンパ機能が圧力センサ機能に影響を及ぼすことはない。
【0191】
なお、図25(a)は電極112を圧力室52側から見た図(平面図)であり、図25(b)は図25(a)の斜視図に相当する図である。図示の都合上、図25(a)では第1の電極112Aと第2の電極112Bが圧力室52側からずれているように見えるが、実際には、第1の電極112Aと第2の電極112Bは圧力室52側から見てずれていない配置を有している。
【0192】
このように、センサプレート108を用いて本流路60のダンパ482を構成すると、図22及び図23に示す第2の弾性膜プレート434が省略され、本流路60の断面積が大きくなり、本流路60の流路抵抗を低減させることが可能になる。
【0193】
〔第6実施形態〕
次に、本発明の第6実施形態について説明する。図26は、本実施形態に係る印字ヘッド500の断面図である。また、図27は、印字ヘッド500に用いられる弾性膜502の構造を示す断面図である。なお、本実施形態において上記第1〜5実施形態と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0194】
図26に示すように、印字ヘッド500には2つの厚みを有する弾性膜502が設けられている。即ち、弾性膜502は、その厚みが大きい厚肉部504と厚みが小さい薄肉部506とを有し、厚肉部504は支流路55と反対側に設けられ、薄肉部506は支流路55側に設けられる。このように弾性膜502の厚みを部分的に異ならせる構造では、厚肉部504に比べて薄肉部506の方が伸びやすく(即ち、支流路側が伸びやすく、支流路と反対側が伸びにくい)、弾性膜502を加圧して変形させると、図26中破線で図示する符号502’のように弾性膜502は不均一に変形する。
【0195】
このように、弾性膜502が不均一に変形すると、図7に示す一様な厚みを有する弾性膜61に比べて弾性膜502の変形(加圧手段による加圧量)が少なくても、支流路55の入口55Aを弾性膜502によって閉じることができる。
【0196】
図27に弾性膜502の構造例を示す。図27に示すように、弾性膜502の厚肉部504は2つの膜(層)504A及び504Bを重ねた構造を有し、その厚みは薄肉部506の略2倍となっている。
【0197】
なお、図27に示す弾性膜502の構造はあくまでも一例であり、厚肉部504に用いられる2つの膜504A、504Bは同一材料で形成されてもよいし、異なる材料で形成されてもよい。また、厚肉部504に用いられる膜504A,504Bは略同一厚みを有していてもよいし、異なる厚みを有していてもよい。更に、厚肉部504を3つ以上の膜で形成してもよい。また、弾性膜502の厚みを部分的に異ならせる構造は、厚肉部504の厚みを有する膜に薄肉部506の厚みを有する凹部を形成することによっても実現可能である。
【0198】
本例では、弾性膜502の厚みを変えて該弾性膜502の伸縮性を部分的に異ならせる構造を例示したが、弾性膜502の組成(物性)を変えて該弾性膜502の伸縮性を部分的に異ならせてもよい。
【0199】
〔第7実施形態〕
次に、本発明の第7実施形態について説明する。図28は、本実施形態に係る印字ヘッド520の断面図である。なお、本実施形態において上記第1〜6実施形態と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0200】
図28に示す印字ヘッド520は、支流プレート130と本流プレート134との間に設けられたダンパ膜132の支流路55の入口55A付近の支流路55と反対側に、空間部524と連通口526を備え、加圧手段によって該空間部524及び連通口526を介してダンパ膜132を加圧して変形させ、支流路55の入口55Aを閉めるように構成されている。
【0201】
即ち、支流路55の上部に設けられたダンパ膜132のうち、支流路55と本流路60との接合部近傍の領域が、図7等に示す弾性膜61と兼用されている。支流路55の底面(本例では加圧板56の圧電素子配設面56A)にダンパ膜132の方向へ凸形状の突起部528を備えると、ダンパ膜132の変形量を小さくすることができる。
【0202】
図28に破線で図示する符号132’は、加圧手段の加圧により変形したダンパ膜132の形状を表している。このように、支流路55のダンパとして機能ずるダンパ膜132を変形させて支流路55の入口55Aを開閉可能に構成すると、図7に示す印字ヘッド50において本流路60に形成される弾性膜61が省略でき、本流路60をセンサプレート108の位置まで広げることが可能になり、本流路60の流路抵抗を低減させる。また、図7に示す弾性膜61とダンパ膜132が兼用され該弾性膜61が不要になるために、印字ヘッド520の構造を簡素化することができるとともにコストダウンに寄与する。
【0203】
なお、図29に示すように、ダンパ膜132のうち、変形させる部分(支流路55の開閉部分)132”の厚みを他の部分よりも大きくすることで(図29で2層構造によって厚みを大きくしている)、図28に示す態様に比べて該変形させる部分132”の強度を上げることができる。
【0204】
〔変形例〕
次に、上述した第1〜第5実施形態の変形例を示す。図30に示す印字ヘッド50”は、弾性膜61(502)を加圧するために連通口140’が図30における横方向に沿って形成された(図7に示す連通口140が空間部139と兼用され、該連通口の端部(開口部)がインクの吐出方向と略直交する長手方向の端面に形成される)態様を示す。図30に示す構造では、連通口140’が形成されるプレートに連通口と140’となる加工を施せばよく、弾性膜を加圧するために連通口を形成する際に、センサプレート108、ノズル連通路プレート104、ノズルプレート100に穴を開けずにすむ。即ち、図30に示す構造では、センサプレート108、ノズル連通路プレート104、ノズルプレート100には連通口140となる穴の加工が不要になる。
【0205】
また、図示は省略するが、支流路55の上部に設けられたダンパ膜132を膨らませて支流路55の断面積を小さくすることができる。支流路55にインクを充填する際に支流路55の断面積を小さくすることで、重力の影響を抑制することができ、インク充填が容易になる。
【0206】
なお、支流路55の全体に対応する空間部136及び、該空間部136と連通する連通口を備え、該連通口及び空間部136を用いて支流路55の全体にわたりダンパ膜132を変形可能に構成し、支流路55全体の流路断面積を小さくするように構成することが好ましい。
【0207】
本例では、液体吐出装置としてインクジェット記録装置を例示したが、本発明は、ウエハやガラス基板、エポキシなどの基板類等の被吐出媒体上に液類(水、薬液、レジスト、処理液)を吐出させて、画像や回路配線、加工パターンなどの立体形状を形成させる液体吐出装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0208】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図
【図3】図1に示す印字ヘッドのノズル配置を示す図
【図4】図3に示す印字ヘッドの流路構造を示す平面透視図
【図5】図3に示す印字ヘッドの透視斜視図
【図6】図1に示すインクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【図7】図4中、7−7線に沿う断面図
【図8】図7に示す印字ヘッドの一部拡大図
【図9】図4中、9−9線に沿う断面図
【図10】図8に示す印字ヘッドの他の態様を示す図
【図11】図10に示す印字ヘッドにおける、図4中、9−9線に沿う断面図
【図12】図1に示すインクジェット記録装置におけるインク供給系の構成を示す概念図
【図13】図12に示すインク供給系の他の態様を示す構成図
【図14】図12に示すインク供給系におけるインク初期充填の制御の流れを示すフローチャート
【図15】図13に示すインク供給系におけるインク初期充填の制御の流れを示すフローチャート
【図16】本流プレートを説明する図
【図17】支流プレートを説明する図
【図18】図17に示す支流プレートと異なる構造の支流プレートを説明する図
【図19】図17、図18に示す支流プレートと異なる構造の支流プレートを説明する図
【図20】圧力室プレートを説明する図
【図21】本発明の第2実施形態に係る印字ヘッドの構造例を示す図
【図22】本発明の第3実施形態に係る印字ヘッドの構造例を示す図
【図23】本発明の第4実施形態に係る印字ヘッドの構造例を示す図
【図24】本発明の第5実施形態に係る印字ヘッドの構造例を示す図
【図25】図24に示す圧力センサの電極構造を示す図
【図26】本発明の第6実施形態に係る印字ヘッドの構造例を示す図
【図27】図26に示す弾性膜の構造を説明する図
【図28】本発明の第7実施形態に係る印字ヘッドの構造例を示す図
【図29】図27に示す印字ヘッドの他の構造例を示す図
【図30】本発明の応用例を説明する図
【符号の説明】
【0209】
10…インクジェット記録装置、12…印字部、50,50’,50”,400,420,460,480,500,520…印字ヘッド、55…支流路、60,60A,60B…本流路、61,422,424,502…弾性膜、108…センサプレート、112A,112B…電極、112C,112D…配線、132…ダンパ膜、136,139,426…空間部、140,428…連通口、402…突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出させるノズルと、
前記ノズルに対応して設けられる圧力室と、
前記圧力室と連通し該圧力室に液体を供給する支流路と、
前記支流路と連通し該支流路に液体を供給する本流路と、
前記支流路と前記本流路の接続部近傍に設けられた第1の弾性膜と、
を有する液体吐出ヘッドと、
前記支流路及び前記本流路の接続部を封止するように前記第1の弾性膜を変形させる弾性膜変形手段と、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記支流路と前記本流路の接続部近傍の前記第1の弾性膜と対向する位置に、前記弾性膜変形手段によって前記第1の弾性膜を変形させた状態において該第1の弾性膜と当接する突起を備えたことを特徴とする請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記本流路に第2の弾性膜を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記液体吐出ヘッドは、複数の薄膜部材を積層した積層構造を有し、
前記第1の弾性膜と前記第2の弾性膜との間に間隙部材を有することを特徴とする請求項3記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記積層構造を構成する薄膜部材は、前記圧力室の圧力を検出する圧力検出素子を含む圧力検出膜を備え、
前記圧力検出膜は前記第2の弾性膜と兼用されることを特徴とする請求項3又は4記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記圧力検出膜は、前記圧力室に対応する位置に前記圧力検出膜をはさむように形成され前記圧力室の発生圧力に応じた検出信号が取り出される第1の電極及び第2の電極と、前記第1の電極と導通する第1の配線及び前記第2の電極と導通する第2の配線と、を有し、
前記圧力検出膜の検出面に垂直な方向から見て、前記第1の配線に対して前記第2の配線をずらして配置することを特徴とする請求項5記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記第1の弾性膜は、異なる伸張性を有する複数の領域を有することを特徴とする請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記第1の弾性膜は、異なる厚みを有する複数の領域を備えたことを特徴とすることを特徴とする請求項1乃至7のうち何れか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
液体を吐出させるノズルと、
前記ノズルに対応して設けられる圧力室と、
前記圧力室と連通し該圧力室に液体を供給する支流路と、
前記支流路と連通し該支流路に液体を供給する本流路と、
前記支流路に設けられた第1の弾性膜と、
を有する液体吐出ヘッドと、
前記支流路及び前記本流路の接続部を前記支流路側から封止するように前記第1の弾性膜の少なくとも前記支流路及び前記本流路の接続部近傍の部分を変形させる弾性膜変形手段と、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
液体を吐出させるノズルと、前記ノズルに対応して設けられる圧力室と、前記圧力室と連通し該圧力室に液体を供給する支流路と、前記支流路と連通し該支流路に液体を供給する本流路と、前記支流路と前記本流路の接続部近傍に設けられた第1の弾性膜と、を有する液体吐出ヘッドの液体充填方法であって、
前記支流路及び前記本流路の接続部を封止するように前記第1の弾性膜を変形させて前記本流路に液体を充填することを特徴とする液体充填方法。
【請求項11】
前記第1の弾性膜を非変形状態として前記支流路及び前記本流路の接続部を開放し、前記支流路に液体を充填することを特徴とする請求項10記載の液体充填方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2007−50671(P2007−50671A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239021(P2005−239021)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】