液体物検査装置
【課題】ボトル等の容器が不透明でも該容器に収納された液体物を高速で同定する。
【解決手段】液体物5aの充填されたボトル5が、静電容量センサ1の電極板2a、2b間のテーブル6上に衝撃を加えて配置されると、静電容量センサ1が液体物5aの誘電率εを測定する。このとき同時に、静電容量センサ1は、電極板2a、2b間に衝撃を加えてボトル5が配置された瞬間から、液体物5aの表面波5bに起因して発生する見かけの誘電率ε1の時間的な減衰特性を測定する。さらに、この見かけの誘電率ε1の時間的な減衰特性を対数処理して減衰係数(すなわち、見かけの誘電率ε1の減衰特性の包絡線の勾配)を求める。この減衰係数は液体物5aの流体粘度が高いほど減衰勾配が大きい傾向にあるので、減衰係数から液体物5aの流体粘度を推定して液体物5aを同定することができる。即ち、液体物5aの誘電率εと流体粘度とを用いて該液体物5aを同定する。
【解決手段】液体物5aの充填されたボトル5が、静電容量センサ1の電極板2a、2b間のテーブル6上に衝撃を加えて配置されると、静電容量センサ1が液体物5aの誘電率εを測定する。このとき同時に、静電容量センサ1は、電極板2a、2b間に衝撃を加えてボトル5が配置された瞬間から、液体物5aの表面波5bに起因して発生する見かけの誘電率ε1の時間的な減衰特性を測定する。さらに、この見かけの誘電率ε1の時間的な減衰特性を対数処理して減衰係数(すなわち、見かけの誘電率ε1の減衰特性の包絡線の勾配)を求める。この減衰係数は液体物5aの流体粘度が高いほど減衰勾配が大きい傾向にあるので、減衰係数から液体物5aの流体粘度を推定して液体物5aを同定することができる。即ち、液体物5aの誘電率εと流体粘度とを用いて該液体物5aを同定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体物検査装置に関するものであり、特に、ボトルなどの容器に収納された液体物を同定するための検査を行う液体物検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体物はそれぞれの種類によって流体粘度(以下、単に粘度と言う場合もある)が異なるので、液体物の粘度を測定することによって該液体物を同定することができる。そこで、液体物の粘度を非接触で測定する方法として、液体物の表面に気体を吹きつけ、その液体物に生じた表面波が消滅するまでの時間を光電センサやハイスピードカメラで測定する方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この場合、当然のことながら粘度の高い液体ほど表面波(以下、単に波と言う場合もある)の消滅時間は短い。尚、液体物の表面に波を生成させる方法は、気体の他に音波やレーザ光や電界などを液体物に印加する方法等もある。
【0003】
また、低周波の音を連続的に液体物に印加することにより、液体物の表面に定常的に生じる波の高さから液体の粘度を測定する方法も知られている。すなわち、液体の表面に低周波振動音を加えることによって生じた液面振動の振幅をレーザ変位計及びオシロスコープなどで観測し、その液面振動の振幅の大きさから液体物の粘度を推定して該液体物を同定している(例えば、特許文献2参照)。この場合、当然のことながら粘度の高い液体ほど、定常的に生じる表面振動による波の高さ(振幅)は小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−85639号公報
【特許文献2】特開2007−256276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2の技術は、液体物の粘度を非接触で測定することができるという特徴はあるが、測定対象となる液体物に対して、直接、気体を吹き付けたり低周波音を印加したりするため、蓋を被せたボトルなどの容器に充填された液体物の粘度を測定することはできない。また、測定対象となる液体物に対して高精度に位置決めして気体を吹き付けたり低周波音を印加したりするため、特別に設けたベンチの上に液体物のサンプルを固定して載置し、正確な位置決めをしてから光電センサやハイスピードカメラ、又は低周波音源などを設置しなければならないので、液体物の粘度を測定するための準備作業にかなりの時間がかかってしまう。従って、これらの技術は、空港や港湾のなどにおいて顧客の手荷物検査を行う検査装置としては利用しにくい。また、上記特許文献1及び2の技術は、液体物の表面波を観測するのに光学系を利用しているので、液体物を収納するボトルなどの容器が不透明な場合は液体物の表面波を観測することができない。さらに、上記特許文献1及び2の技術は、液体物の表面に生じた波をカメラやレーザ光線などで計測するために厳密な位置決めを行う必要がある。そのため、流れ製品(製造ライン)において液体内容物を高速で検査したり、不特定多数の入場顧客の手荷物(ボトルなど)を高速でチェックしたりするための測定装置として応用することは困難である。
【0006】
そこで、ボトルなどの容器が不透明であっても該容器に収納された液体物を高速且つ簡便に検査するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、被測定対象液体物を検査するための液体物検査装置であって、前記被測定対象液体物の近傍に設置されて、該被測定対象液体物の静電容量値を測定し、該静電容量値から前記被測定対象物に固有の誘電率を求める静電容量センサと、前記被測定対象液体物に物理的振動を与え、該物理的振動に伴う液体物の遥動の時間的な減衰特性を、前記静電容量センサが測定した見かけの誘電率の過度応答特性により算出し、算出された前記減衰特性から前記被測定対象液体物の流体粘度を推定する流体粘度推定手段とを備え、前記静電容量センサが求めた前記誘電率と流体粘度推定手段が推定した流体粘度との少なくとも一つの物理量に基づいて前記被測定対象液体物を検査することを特徴とする液体物検査装置を提供する。
【0008】
この構成によれば、液体物検査装置は、好適な実施形態としては、静電容量センサが求めた被測定対象液体物の誘電率と、該被測定対象液体物に過度的な振動を与えたときに発生する表面波の減衰特性から推定される流体粘度とによって、前記被測定対象液体物を同定している。従って、誘電率が近似な液体物(例えば、水と過酸化水素)であっても、それぞれの液体物によって流体粘度が異なるので、個々の液体物(例えば、水と過酸化水素)をほぼ正確に同定することができる。但し、被測定対象液体物の誘電率あるいは流体粘度の何れかの物理量によって被測定対象液体物を同定することもできる。このとき、新たな構成要素を追加することなく、液体物の誘電率測定に用いた静電容量センサをそのまま利用して、その静電容量センサによって液体物の表面波の遥動に起因して発生する見かけの誘電率を測定し、この見かけの誘電率の時間的な減衰特性から該液体物の流体粘度を推定している。言い換えると、流体粘度推定手段は、誘電率測定に用いた静電容量センサによる誘電率の観測時間中における見かけの誘電率の減衰傾向によって液体物の流体粘度を推定することができるので、新たな構成要素を追加する必要は全くない。
【0009】
請求項2記載の発明は、上記流体粘度推定手段が、上記見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数処理して得られた減衰係数から該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数処理した減衰係数を用いて液体物の流体粘度を推定している。すなわち、流体粘度推定手段は、見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数表現した包絡線の勾配によって液体物の流体粘度を推定しているので、より定量的に液体物の流体粘度を推定することができる。従って、より高精度に液体物の種類を同定することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、上記流体粘度推定手段が、上記被測定対象液体物に定常的な振動が与えられたとき、上記被測定対象液体物の遥動の振幅の大きさから該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、被測定対象液体物に過度的な振動を加えるのではなく、定常的な振動が与えても該被測定対象液体物の流体粘度を推定することができる。すなわち、被測定対象液体物に定常的な振動を与えた場合は、該被測定対象液体物に定常的な表面波が発生するので、この表面波の振幅の大きさから前記被測定対象液体物の流体粘度を推定することができる。
【0013】
請求項4記載の発明は、上記流体粘度推定手段が、上記被測定対象液体物に一時的な振動が与えられたときに、上記静電容量センサの測定した静電容量値の変動分の時間的な減衰特性から、該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、流体粘度推定手段は、静電容量センサが測定した静電容量値の時間的変動分から求めた見かけの誘電率の減衰特性を用いなくても、該静電容量センサが測定した静電容量値の時間的変動分そのものの減衰特性から被測定対象液体物の流体粘度を推定することができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明は、好適な実施形態としては、静電容量センサが求めた液体物の誘電率と、該液体物に過度的な振動を与えたときに発生する表面波の減衰特性から推定される流体粘度とによって液体物を同定しているので、誘電率が近似な液体物であっても該液体物をほぼ正確に同定することができる。尚、被測定対象液体物の誘電率あるいは流体粘度の何れかの物理量によって被測定対象液体物を同定することもできる。
【0016】
請求項2記載の発明は、流体粘度推定手段が、見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数処理した減衰係数を用いて液体物の流体粘度を推定しているので、請求項1記載の発明の効果に加えて、より定量的に液体物の流体粘度を推定することができるので、さらに高精度に液体物の種類を同定することができる。
【0017】
請求項3記載の発明は、液体物に定常的な振動が与えても該液体物の流体粘度を推定することができるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、例えば、飲料物生産工場の生産ラインにおいて、ボトルなど充填された飲料物の製品チェックを流れ作業の中で行うことができる。
【0018】
請求項4記載の発明は、流体粘度推定手段が、静電容量センサの測定した静電容量値の時間的変動分の減衰特性から液体物の流体粘度を推定しているので、請求項1記載の発明の効果に加えて、より簡易的に液体物を同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の液体物検査装置によって液体物の誘電率を測定する静電容量センサの概念を示す説明図。
【図2】図1に示す静電容量センサ1の原理に基づいて、誘電体の代わりに液体物が充填されたボトルを配置した状態を示す説明図。
【図3】ボトルの過度的な振動によって発生する見かけの誘電率の時間的変化を示す特性図。
【図4】見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値E(t)を示す特性図。
【図5】ボトルに対して定常的に振動を加えたときに発生する見かけの誘電率の変化を示す特性図。
【図6】粘性係数の異なる3種類の液体の粘性を評価した特性図。
【図7】3種類の液体の誘電率と粘度との関係を示す特性図。
【図8】エタノール30%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性。
【図9】エタノール50%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性。
【図10】タノール70%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性。
【図11】液体物の種類ごとの粘性係数、減衰係数、及び減衰係数×10の特性値を示す図表。
【図12】図11に示す各特性値をプロットした特性グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、ボトルなどの容器が不透明であっても該容器に収納された液体物を高速且つ簡便に検査するという目的を達成するために、被測定対象液体物を検査するための液体物検査装置であって、前記被測定対象液体物の近傍に設置されて、該被測定対象液体物の静
電容量値を測定し、該静電容量値から前記被測定対象物に固有の誘電率を求める静電容量センサと、前記被測定対象液体物に物理的振動を与え、該物理的振動に伴う液体物の遥動の時間的な減衰特性を、前記静電容量センサが測定した見かけの誘電率の過度応答特性により算出し、算出された前記減衰特性から前記被測定対象液体物の流体粘度を推定する流体粘度推定手段とを備え、前記静電容量センサが求めた前記誘電率と流体粘度推定手段が推定した流体粘度との少なくとも一つの物理量に基づいて前記被測定対象液体物を検査するように構成したことによって実現した。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の好適な一実施例を図1乃至図12に従って詳細に説明するが、まず、本発明に係る液体物検査装置の概要について述べる。各々の液体物はそれぞれ固有の誘電率を有している。例えば、可燃性液体であるガソリンや灯油(両者を合わせて、以下、単に油という)の誘電率は2〜3であり、水の誘電率は80程度であるので、誘電率を測定することによって水と可燃性液体(油)とを区別して同定することは可能である。ところが、安全な水(H2O)と爆発の危険性がある過酸化水素(H2O2)とは、酸素分子が多いか少ないかだけの違いであるので、誘電率は何れもほぼ80程度である。従って、誘電率を測定しただけでは、水と過酸化水素とを区別(同定)することは難しい。しかしながら、水と過酸化水素は粘度が異なるので、該粘度を測定することによって水と過酸化水素をそれぞれ同定することができる。そこで、本発明では、静電容量センサのみを使用することによって、液体物の誘電率の測定と、該液体物の流体粘度(粘度)の推定とを併せて行うことにより、あらゆる液体物の種類の同定を行うことを特徴としている。
【0022】
すなわち、本発明は、液体物を収納するボトルなどの容器の近傍に静電容量センサを設置し、該静電容量センサが測定した液体物の静電容量値から該液体物に固有の誘電率を求める。さらに、その静電容量センサが測定した静電容量値(又は、見かけの誘電率)が、大きな誘電率を有する水溶性の液体の遥動によって変動することを利用し、外部からボトルなどの容器に与えられた振動によって発生した静電容量値(又は、見かけの誘電率)の遥動の時間的な消滅の様子、あるいは、継続的な容器の振動による静電容量値(又は、見かけの誘電率)の変位から液体物の粘度を推定する。言い換えると、外部から容器に所定の振動を与えたとき、流体粘度の大きい液体物ほど該液体物の表面に発生する波の高さ(振幅)が小さいので、静電容量値(又は見かけの誘電率)の変動分の振幅が小さくかつ振幅の消滅時間も短い。
【0023】
このとき、外部からボトルなどの容器に与える振動は、該容器を静電容量センサの近傍に置くときに自然的に発生する過度的な振動でもよいし、意図的に外部から該容器へ連続振動又は衝撃を与えてもよい。尚、液体物は、水溶性である方が誘電率が大きいために該誘電率の絶対値が大きいので計測がし易いが、必ずしも水溶性である必要はない。
【0024】
図1は、本発明の液体物検査装置によって液体物の誘電率を測定する静電容量センサの概念を示す説明図である。図1に示すように、静電容量センサ1は、2枚の電極板2a、2bが対向して配置されていて、それぞれの電極板2a、2bから各検出端子3a、3bが取り出されている。このような構成の静電容量センサ1において、対向した電極板2a、2bの間に誘電率εの誘電体4を密着して介在させる。このとき、2枚の電極板2a、2bの面積はそれぞれSであり、対向する2枚の電極板2a、2bの間隔はtである。
【0025】
図1に示すような構成において、静電容量センサ1が測定する静電容量値Cは次の式(1)で表される。
C=ε×(S/t) (1)
【0026】
従って、2枚の電極板2a、2bの間に介在された誘電体4の誘電率は次の式(2)に
よって求められる。
ε=C×(t/S) (2)
【0027】
このようにして求められた誘電率εは、それぞれの物体(液体物)に固有の定数であるので式(2)によって求められた誘電率εから物体(液体物)を同定することができる。
【0028】
図2は、図1に示す静電容量センサ1の原理に基づいて、誘電体4の代わりに液体物が充填されたボトルを配置した状態を示す説明図である。図2に示すように、テーブル6の上に配置された電極板2a、2bの間にボトル5を介在させる。ここで、ボトル5に充填された液体物5aの誘電率はεである。尚、ボトル5がガラス容器であるか、ペットボトル容器であるか、あるいは紙容器であるかによって、それぞれの容器の誘電率は異なるが、これらの容器の誘電率は固定値であるので、ボトル4を振動させることによって発生する静電容量値の変動分を測定する場合は、容器が持つ固有値の誘電率は無視することができる。
【0029】
すなわち、図2に示す静電容量センサ1において、誘電率εの液体物5aが充填されたボトル5は、電極板2a、2bの間のテーブル6の上に、小さな衝撃を加えて(ドンと)配置されるか、又はテーブル6の上にボトル5が置かれた後に外部から該ボトル5に対して定常的な振動が加えられる。
【0030】
このとき、静電容量センサ1は、前述の式(1)によってボトル5に充填された液体物5aの静電容量値Cを求め、さらに、前述の式(2)によって該液体物5aの誘電率εを求める。
【0031】
また、このとき同時に、静電容量センサ1は、電極板2a、2bの間に小さな衝撃を加えてボトル5が配置された瞬間から、又は、外部からボトル5に対して定常的な振動が加えられたときから、前述の式(1)に従って静電容量値Cの時間的な変化を測定する。すなわち、図2に示すように、小さな衝撃を加えて配置されたボトル5内の液体物5aは、図2に示すような表面波5bが発生している。このような表面波5bが発生している状態で、静電容量センサ1が液体物5aの静電容量値Cを測定すると、その静電容量値Cは表面波5aの波高値(振幅)にほぼ比例して変化する。
【0032】
その理由は次の通りである。すなわち、液体物5aの誘電率εは一定の値であるが、液体物5aを振動させたとき、該液体物5aの表面波5bの谷間には、誘電率がε0=1の空気5cが存在している。従って、液体物5aの表面付近においては、電極板2a、2bの間に、見かけ上、(ε+ε0)の誘電体が介在されていることになる。言い換えると、液体物5aの表面付近においては、誘電率の遥動成分である見かけの誘電率(ε+ε0)の誘電体が電極板2a、2bの間に介在されていることになる。従って、以下の説明では、液体物5aの表面波5bによって生じる誘電率の遥動成分を『見かけの誘電率』ということにする。やがて、表面波5bが減衰して液体物5aの表面が平坦になると、液体物5aの表面付近においては該液体物5aに固有の誘電率εとなる。
【0033】
すなわち、ボトルの振動によって液体物5aの表面に表面波5bが発生している間は見かけの誘電率(ε+ε0)となり、表面波5bが減衰して無くなると液体物5aに固有の誘電率εとなる。言い換えると、電極板2a、2bに介在された液体物5aの見かけの誘電率ε1は、表面波5bの振幅に比例して変化することになる。従って、前述の式(1)に当てはめると、静電容量値Cは表面波5aの振幅に比例して変化すると言える。このことから、見かけの誘電率ε1の時間的な変化、又は静電容量値Cの時間的な変化を観測すれば、表面波5bそのものの時間的な変化を観測していることになるので、液体物5aの粘度を推定することができる。例えば、液体物5aの粘度が高ければ表面波5bの減衰時
間が短いので、見かけの誘電率ε1(又は、静電容量値C)の減衰時間も短い。このことから、見かけの誘電率ε1(又は、静電容量値C)の減衰時間を測定すれば、液体物5aの粘度を判定して該液体物5aを同定することができる。
【0034】
図3は、ボトルの過度的な振動によって発生する見かけの誘電率の時間的変化を示す特性図であり、横軸は時間tの経過、縦軸は見かけの誘電率ε1の変化を表わしている。すなわち、図3は、図2に示す静電容量センサ1の電極板2a、2bの間に小さな衝撃を加えてボトル5を配置したときの見かけの誘電率ε1の時間的変化を示す特性図である。
【0035】
図3に示すように、時刻t0において、ボトル5をテーブル6の上に置いた直後に液体物5aの表面波5bの振幅が最大となるので見かけの誘電率ε1は最大値を示す。このようにして、液体物5aの表面波5bの振幅に比例して見かけの誘電率ε1が揺動する。そして、時間tの経過によって液体物5aの表面波5bの振幅が小さくなるので見かけの誘電率ε1も小さくなり、時刻t1において表面波5bの振幅がゼロのなると液体物5aに固有の誘電率εとなる。
【0036】
このようにして、見かけの誘電率ε1の減衰傾向(すなわち、単位時間あたりに見かけの誘電率ε1が減衰する桁数)が時間の経過によってどのように変化するかを定量的に観測することにより、液体物5aの流体粘度を推定して該液体物5aを同定することができる。このような見かけの誘電率ε1の減衰傾向を定量的に判断するためには、見かけの誘電率ε1の減衰傾向を対数表現する必要がある。
【0037】
言い換えると、見かけの誘電率ε1の時間的変動信号をε1(t)、充分に時間が経過した後の誘電率信号をε1(∞)とすると、見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値(E(t)は、次の式(3)によって表わすことができる。
E(t)=log(|ε1(t)−ε1(∞)|) (3)
【0038】
ここで、見かけの誘電率ε1の時間的変動信号ε1(t)から充分に時間が経過した後の誘電率信号ε1(∞)を引算する理由は、オフセット分を除去して、正味の見かけの誘電率ε1の時間的変動成分のみを取り出すためである。また、ε1(t)−ε1(∞)の絶対値をとる理由は、図3に示したように見かけの誘電率ε1は、時間の経過によって液体物5aの誘電率εに対してプラス/マイナスに振れるため、見かけの誘電率ε1の絶対値成分のみを取り出すためである。
【0039】
すなわち、前述の式(3)によって、見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値(E(t)を求めることにより、見かけの誘電率ε1が単位時間当たりにどのような桁数で減衰して行くかという減衰傾向を定量的に把握することができる。そして、この見かけの誘電率ε1の減衰傾向から液体物5の粘度を推定することができる。
【0040】
図4は、見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値E(t)を示す特性図であり、横軸は時間、縦軸は誘電率の減衰桁数を表わしている。尚、縦軸の減衰桁数は、0.1から1E−14(10−14)までの桁数を示している。すなわち、図4に示すように、見かけの誘電率ε1の減衰傾向を対数処理して対数表現値(E(t)で表わすことにより、該対数表現値(E(t)の時間的な包絡線の傾き(減衰係数)ρを求めることができる。この減衰係数ρは、(E(t)〔Decade/Sec〕)で表わされるので、見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値E(t)が1秒当たりで何桁減衰しているかを判定することができる。従って、この減衰係数ρから液体物5aの流体粘度を推定することができる。
【0041】
このようにして、静電容量センサ1によって、前述のように液体物5aに固有の誘電率εを測定すると共に、液体物5aの振動によって発生する見かけの誘電率ε1の対数表現
値E(t)の減衰係数(包絡線の傾き)ρから該液体物5aの粘度を推定することにより、該液体物5aをほぼ正確に同定することができる。すなわち、見かけの誘電率ε1の減衰時間が短かいほど液体物5aの流体粘度が高くなる傾向にあって、見かけの誘電率ε1の対数表現値E(t)の減衰係数ρが大きくなり、見かけの誘電率ε1の減衰時間tが長いほど液体物5aの流体粘度が低くなる傾向にあって、見かけの誘電率ε1の対数表現値E(t)の減衰係数ρが小さくなる。このことから、静電容量センサ1によって見かけの誘電率ε1の減衰時間を測定することにより、ボトル4に充填された液体物5aの流体粘度を正確に推定することができる。
【0042】
尚、前述の式(1)及び式(2)から分かるように、見かけの誘電率ε1の変化は静電容量値Cの変化に比例するので、図3における見かけの誘電率ε1の時間的な変化を静電容量値Cの時間的な変化と置き換えてもよい。すなわち、図3の縦軸の見かけの誘電率ε1を静電容量値Cと置き換えてもよい。
【0043】
図5は、ボトルに対して定常的に振動を加えたときに発生する見かけの誘電率の変化を示す特性図であり、横軸は時間tの経過、縦軸は見かけの誘電率ε1を表わしている。すなわち、図5は、図2に示す静電容量センサ1の電極板2a、2bの間に配置したボトル5に対して、外部から定常的な振動を加えたときの見かけの誘電率ε1の時間的経過を示している。
【0044】
ボトル5に対して外部から定常的な振動を加えると、液体物5aの表面波5bは一定の振幅を示すので、図5示すように、見かけの誘電率ε1の振幅Aは時間の経過に関わらず一定値を示している。このとき、見かけの誘電率ε1の振幅Aは、液体物5aの流体粘度が低いほど大きく、流体粘度が高いほど小さくなる傾向にあるので、見かけの誘電率ε1の振幅Aを観測して、該見かけの誘電率ε1の振幅Aを測定することによって該液体物5aの粘度を推定することができる。このようにして、静電容量センサ1によって、前述のように液体物5aの誘電率εを測定すると共に、見かけの誘電率ε1の定常的な振幅Aを観測することによって粘度を推定することで、該液体物5aをほぼ正確に同定することができる。
【0045】
図6は、粘性係数の異なる3種類の液体の粘性を評価した特性図であり、横軸に粘性係数(mP・S)、縦軸に減衰係数(又は、減衰定数)(Decade/Sec)を表わしている。すなわち、図6は、前述の図4で示した手法によって、3種類の液体(水、エタノール、及びIPA(イソプロピルアルコール))における見かけの誘電率ε1の対数表現値E(t)の減衰係数ρを求めて、それぞれの液体の粘性を評価した特性図である。
【0046】
図6に示すように、水は粘性係数がほぼ0.9(mP・S)、減衰係数がほぼ0.2(Decade/Sec)であり、エタノールは粘性係数がほぼ1.1(mP・S)、減衰係数がほぼ0.3(Decade/Sec)であり、IPAは粘性係数がほぼ1.6(mP・S)、減衰係数がほぼ0.6(Decade/Sec)であって、これらの特性値をプロットすると、それぞれの液体の粘度(粘性係数)と減衰係数(減衰定数)がリニアな関係にあることが分かる。このことから、ある液体物の減衰係数を求めれば該液体物の粘度を推定することができる。尚、このような減衰係数を計測するのではなく、前述したように、定常的な振動における見かけの誘電率変化の振幅を計測しても液体物の粘度を推定することができる。
【0047】
図7は、3種類の液体の誘電率と粘度との関係を示す特性図であり、横軸に誘電率、縦軸に粘度を表わしている。図7に示すように、3種類の液体として、油、水、及び過酸化水素を選択した場合、油の誘電率2〜3程度であって、水の誘電率は80程度であるので、静電容量センサによって両者の誘電率を計測すれば油と水を区別することができる。ところが、水と過酸化水素は何れも誘電率が80程度であるので、静電容量センサによって
両者の誘電率を計測しただけでは水と過酸化水素を区別することはできない。
【0048】
そこで、前述した液体物の粘度を求める手法により、水と過酸化水素とを個別にボトルに入れてそれぞれ遥動させ、それぞれの誘電率の遥動成分である見かけの誘電率を求め、さらに、この見かけの誘電率の時間的減衰特性を対数処理した減衰係数を求めることにより、水と過酸化水素のそれぞれの流体粘度を推定することができる。従って、このようにして推定されたそれぞれの粘度から水と過酸化水素とを特定することが可能となる。すなわち、図7に示すように、水よりも過酸化水素の方が粘度が高いので、粘度を推定することによって水と過酸化水素を特定することが可能となる。
【0049】
以上を要約すると、液体物検査装置において、静電容量センサによって液体物の誘電率を計測しただけでは誘電率が近似な液体物(例えば、水と過酸化水素)を区別することができなかった。ところが、液体物の誘電率の計測と粘度の推定とを組み合わせて行うことにより、誘電率が近似な液体物であっても粘度の相違によって個々の液体物をほぼ確実に特定することができる。
【0050】
尚、ここで、誘電率の計測と流体粘度の推定とを組み合わせて行う場合、流体粘度の推定方法は、必ずしも前述のような見かけの誘電率の時間的減衰特性を利用する方法に限定されるものではない。例えば、液体物の表面波を光学的に観測して流体粘度を推定する方法を用いてもよいし、連続音を液体物に印加して表面波に定常的に生じる波の高さから流体粘度を推定する方法を用いてもよい。すなわち、液体物の流体粘度を推定する方法はどのような方法でも構わないが、液体物の誘電率と流体粘度とを用いて該液体物を同定する方法であれば、本発明の液体物検査装置に適用されることは言うまでもない。
【0051】
また、本発明の液体物検査装置は、例えば、飲料物が腐敗すると流体粘度が変化するので、飲料物などの製品検査を非接触で行うこともできる。さらに、液体物への振動の与え方は、機械的な振動や音波による振動だけではなく、熱、光、X線等の放射線、又はマイクロ波などを液体物に与えて液体物の表面を振動させてもよい。
【0052】
次に、具体的な実施例として、エタノールの希釈度による粘度の変化について説明する。図8は、エタノール30%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性であり、図9は、エタノール50%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性であり、図10はエタノール70%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性であり、何れも、横軸は時間、縦軸は見かけの誘電率の減衰桁数を表わしている。図8〜図10から分かるように、エタノール30%のときの見かけの誘電率の減衰係数(包絡線の傾き)は、0.27(Decade/Sec)であり、エタノール50%のときの見かけの誘電率の減衰係数は、0.37(Decade/Sec)であり、エタノール70%のときの見かけの誘電率の減衰係数は、0.40(Decade/Sec)である。このことから、エタノール濃度が30%から70%までの間は濃度が濃いほど流体粘度が高いことが分かる。
【0053】
図11は、液体物の種類ごとの粘性係数、減衰係数、及び減衰係数×10の特性値を示す図表である。また、図12は、図11に示す各特性値をプロットした特性グラフであり、横軸は液体物の種類を表わし、縦軸は各特性値を表わしている。尚、図12において、粘性係数(a)は理論値であり、減衰係数(b)は測定値である。また、減衰係数×10(c)は、減衰係数(b)の測定値を10倍に拡大して減衰係数(b)の変化の程度を顕著にした値である。
【0054】
すなわち、図11の図表に示すように、液体物(物質)の種類として、水、エタノール30%、エタノール50%、エタノール70%、エタノール100%、及びIPAをサンプリングし、それぞれの液体物について粘性係数、減衰係数、及び減衰係数×10の特性
値を示している。図11の図表に示す特性値を特性グラフで表わすと図12のようになり、それぞれの特性値の違いが一目で分かる。
【0055】
すなわち、図12に示すように、各液体物の粘性係数(a)は理論値をプロットしている。また、各液体物の減衰係数(b)の測定値は値が小さいので、減衰係数(b)を10倍して減衰係数×10の特性値(c)をプロットしている。減衰係数×10の特性値(c)から分かるように、水は減衰係数が最も小さいので(すなわち、見かけの誘電率の遥動成分が最も減衰しにくいので)、粘性係数(a)は最も小さい。
【0056】
エタノールについては、エタノール濃度が50%から70%に上昇するに従って減衰係数×10の特性値(c)は大きくなるが、これらの中間濃度よりエタノール濃度が薄くなったり(例えば、エタノール濃度が30%になったり)、濃くなったり((例えば、エタノール濃度が100%になったり)すると、減衰係数×10の特性値(c)は小さくなるので、粘性係数(a)も小さくなる。このような減衰係数に変化に比例して各濃度におけるエタノールの粘性係数(a)もほぼ比例して変動している。
【0057】
また、IPA(イソプロピルアルコール)は、減衰係数×10の特性値(c)が最も高い値を示しているので、粘性係数(a)もそれなりに高い値を示している。すなわち、図12から分かるように、各液体物の見かけの誘電率の減衰特性は、ほぼ各液体物の粘性係数に比例しているので、各液体物の見かけの誘電率の減衰特性を計測すれば、各液体物の粘性係数を推定することができるので、結果的にそれぞれの液体物を同定することが可能となる。
【0058】
以上説明したように、本発明の液体物検査装置によれば、誘電率の計測は液体物と静電容量センサとの間にガラス瓶やペットボトルや紙パックなどの誘電体が介在していても、それらは固定値あるので、液体物の遥動によって生じる静電容量値の変化分を計測するのに何ら支障をきたさない。従って、本発明の液体物検査装置によれば、ボトルに入った液体物を該ボトルから取り出すことなく、液体物がボトルにはいったまま静電容量値及び流体粘度の測定を行うことができる。
【0059】
また、液体物検査装置に使われているような静電容量センサを使用することにより、ボトルの大きさや形状に関係なく静電容量値の変化分を計測することができる。言い換えると、計測に必要なのは静電容量値の変化分(すなわち、見かけの誘電率の遥動信号の時間的変化)であり、絶対的な数値の精度は必要ない。従って、ボトルの種類に起因するボトルの形状や厚さ等の変化は計測精度の低下要因とはならない。
【0060】
また、静電容量センサによる誘電率の測定と粘性値(流体粘度)の計測値とを組み合わせることにより、液体爆発物などの容器内の液体をほぼ正確に同定することが可能である。
【0061】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の液体物検査装置は、ボトルなどの容器に充填された液体物をそのままの状態で迅速且つ正確に同定することができるので、空港や関税などにおける顧客の手荷物検査等に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 静電容量センサ
2a、2b 電極板
3a、3b 検出端子
4 誘電体
5 ボトル
5a 液体物
5b 表面波
5c 空気
6 テーブル
【技術分野】
【0001】
本発明は液体物検査装置に関するものであり、特に、ボトルなどの容器に収納された液体物を同定するための検査を行う液体物検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体物はそれぞれの種類によって流体粘度(以下、単に粘度と言う場合もある)が異なるので、液体物の粘度を測定することによって該液体物を同定することができる。そこで、液体物の粘度を非接触で測定する方法として、液体物の表面に気体を吹きつけ、その液体物に生じた表面波が消滅するまでの時間を光電センサやハイスピードカメラで測定する方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この場合、当然のことながら粘度の高い液体ほど表面波(以下、単に波と言う場合もある)の消滅時間は短い。尚、液体物の表面に波を生成させる方法は、気体の他に音波やレーザ光や電界などを液体物に印加する方法等もある。
【0003】
また、低周波の音を連続的に液体物に印加することにより、液体物の表面に定常的に生じる波の高さから液体の粘度を測定する方法も知られている。すなわち、液体の表面に低周波振動音を加えることによって生じた液面振動の振幅をレーザ変位計及びオシロスコープなどで観測し、その液面振動の振幅の大きさから液体物の粘度を推定して該液体物を同定している(例えば、特許文献2参照)。この場合、当然のことながら粘度の高い液体ほど、定常的に生じる表面振動による波の高さ(振幅)は小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−85639号公報
【特許文献2】特開2007−256276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2の技術は、液体物の粘度を非接触で測定することができるという特徴はあるが、測定対象となる液体物に対して、直接、気体を吹き付けたり低周波音を印加したりするため、蓋を被せたボトルなどの容器に充填された液体物の粘度を測定することはできない。また、測定対象となる液体物に対して高精度に位置決めして気体を吹き付けたり低周波音を印加したりするため、特別に設けたベンチの上に液体物のサンプルを固定して載置し、正確な位置決めをしてから光電センサやハイスピードカメラ、又は低周波音源などを設置しなければならないので、液体物の粘度を測定するための準備作業にかなりの時間がかかってしまう。従って、これらの技術は、空港や港湾のなどにおいて顧客の手荷物検査を行う検査装置としては利用しにくい。また、上記特許文献1及び2の技術は、液体物の表面波を観測するのに光学系を利用しているので、液体物を収納するボトルなどの容器が不透明な場合は液体物の表面波を観測することができない。さらに、上記特許文献1及び2の技術は、液体物の表面に生じた波をカメラやレーザ光線などで計測するために厳密な位置決めを行う必要がある。そのため、流れ製品(製造ライン)において液体内容物を高速で検査したり、不特定多数の入場顧客の手荷物(ボトルなど)を高速でチェックしたりするための測定装置として応用することは困難である。
【0006】
そこで、ボトルなどの容器が不透明であっても該容器に収納された液体物を高速且つ簡便に検査するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、被測定対象液体物を検査するための液体物検査装置であって、前記被測定対象液体物の近傍に設置されて、該被測定対象液体物の静電容量値を測定し、該静電容量値から前記被測定対象物に固有の誘電率を求める静電容量センサと、前記被測定対象液体物に物理的振動を与え、該物理的振動に伴う液体物の遥動の時間的な減衰特性を、前記静電容量センサが測定した見かけの誘電率の過度応答特性により算出し、算出された前記減衰特性から前記被測定対象液体物の流体粘度を推定する流体粘度推定手段とを備え、前記静電容量センサが求めた前記誘電率と流体粘度推定手段が推定した流体粘度との少なくとも一つの物理量に基づいて前記被測定対象液体物を検査することを特徴とする液体物検査装置を提供する。
【0008】
この構成によれば、液体物検査装置は、好適な実施形態としては、静電容量センサが求めた被測定対象液体物の誘電率と、該被測定対象液体物に過度的な振動を与えたときに発生する表面波の減衰特性から推定される流体粘度とによって、前記被測定対象液体物を同定している。従って、誘電率が近似な液体物(例えば、水と過酸化水素)であっても、それぞれの液体物によって流体粘度が異なるので、個々の液体物(例えば、水と過酸化水素)をほぼ正確に同定することができる。但し、被測定対象液体物の誘電率あるいは流体粘度の何れかの物理量によって被測定対象液体物を同定することもできる。このとき、新たな構成要素を追加することなく、液体物の誘電率測定に用いた静電容量センサをそのまま利用して、その静電容量センサによって液体物の表面波の遥動に起因して発生する見かけの誘電率を測定し、この見かけの誘電率の時間的な減衰特性から該液体物の流体粘度を推定している。言い換えると、流体粘度推定手段は、誘電率測定に用いた静電容量センサによる誘電率の観測時間中における見かけの誘電率の減衰傾向によって液体物の流体粘度を推定することができるので、新たな構成要素を追加する必要は全くない。
【0009】
請求項2記載の発明は、上記流体粘度推定手段が、上記見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数処理して得られた減衰係数から該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数処理した減衰係数を用いて液体物の流体粘度を推定している。すなわち、流体粘度推定手段は、見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数表現した包絡線の勾配によって液体物の流体粘度を推定しているので、より定量的に液体物の流体粘度を推定することができる。従って、より高精度に液体物の種類を同定することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、上記流体粘度推定手段が、上記被測定対象液体物に定常的な振動が与えられたとき、上記被測定対象液体物の遥動の振幅の大きさから該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、被測定対象液体物に過度的な振動を加えるのではなく、定常的な振動が与えても該被測定対象液体物の流体粘度を推定することができる。すなわち、被測定対象液体物に定常的な振動を与えた場合は、該被測定対象液体物に定常的な表面波が発生するので、この表面波の振幅の大きさから前記被測定対象液体物の流体粘度を推定することができる。
【0013】
請求項4記載の発明は、上記流体粘度推定手段が、上記被測定対象液体物に一時的な振動が与えられたときに、上記静電容量センサの測定した静電容量値の変動分の時間的な減衰特性から、該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、流体粘度推定手段は、静電容量センサが測定した静電容量値の時間的変動分から求めた見かけの誘電率の減衰特性を用いなくても、該静電容量センサが測定した静電容量値の時間的変動分そのものの減衰特性から被測定対象液体物の流体粘度を推定することができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明は、好適な実施形態としては、静電容量センサが求めた液体物の誘電率と、該液体物に過度的な振動を与えたときに発生する表面波の減衰特性から推定される流体粘度とによって液体物を同定しているので、誘電率が近似な液体物であっても該液体物をほぼ正確に同定することができる。尚、被測定対象液体物の誘電率あるいは流体粘度の何れかの物理量によって被測定対象液体物を同定することもできる。
【0016】
請求項2記載の発明は、流体粘度推定手段が、見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数処理した減衰係数を用いて液体物の流体粘度を推定しているので、請求項1記載の発明の効果に加えて、より定量的に液体物の流体粘度を推定することができるので、さらに高精度に液体物の種類を同定することができる。
【0017】
請求項3記載の発明は、液体物に定常的な振動が与えても該液体物の流体粘度を推定することができるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、例えば、飲料物生産工場の生産ラインにおいて、ボトルなど充填された飲料物の製品チェックを流れ作業の中で行うことができる。
【0018】
請求項4記載の発明は、流体粘度推定手段が、静電容量センサの測定した静電容量値の時間的変動分の減衰特性から液体物の流体粘度を推定しているので、請求項1記載の発明の効果に加えて、より簡易的に液体物を同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の液体物検査装置によって液体物の誘電率を測定する静電容量センサの概念を示す説明図。
【図2】図1に示す静電容量センサ1の原理に基づいて、誘電体の代わりに液体物が充填されたボトルを配置した状態を示す説明図。
【図3】ボトルの過度的な振動によって発生する見かけの誘電率の時間的変化を示す特性図。
【図4】見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値E(t)を示す特性図。
【図5】ボトルに対して定常的に振動を加えたときに発生する見かけの誘電率の変化を示す特性図。
【図6】粘性係数の異なる3種類の液体の粘性を評価した特性図。
【図7】3種類の液体の誘電率と粘度との関係を示す特性図。
【図8】エタノール30%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性。
【図9】エタノール50%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性。
【図10】タノール70%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性。
【図11】液体物の種類ごとの粘性係数、減衰係数、及び減衰係数×10の特性値を示す図表。
【図12】図11に示す各特性値をプロットした特性グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、ボトルなどの容器が不透明であっても該容器に収納された液体物を高速且つ簡便に検査するという目的を達成するために、被測定対象液体物を検査するための液体物検査装置であって、前記被測定対象液体物の近傍に設置されて、該被測定対象液体物の静
電容量値を測定し、該静電容量値から前記被測定対象物に固有の誘電率を求める静電容量センサと、前記被測定対象液体物に物理的振動を与え、該物理的振動に伴う液体物の遥動の時間的な減衰特性を、前記静電容量センサが測定した見かけの誘電率の過度応答特性により算出し、算出された前記減衰特性から前記被測定対象液体物の流体粘度を推定する流体粘度推定手段とを備え、前記静電容量センサが求めた前記誘電率と流体粘度推定手段が推定した流体粘度との少なくとも一つの物理量に基づいて前記被測定対象液体物を検査するように構成したことによって実現した。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の好適な一実施例を図1乃至図12に従って詳細に説明するが、まず、本発明に係る液体物検査装置の概要について述べる。各々の液体物はそれぞれ固有の誘電率を有している。例えば、可燃性液体であるガソリンや灯油(両者を合わせて、以下、単に油という)の誘電率は2〜3であり、水の誘電率は80程度であるので、誘電率を測定することによって水と可燃性液体(油)とを区別して同定することは可能である。ところが、安全な水(H2O)と爆発の危険性がある過酸化水素(H2O2)とは、酸素分子が多いか少ないかだけの違いであるので、誘電率は何れもほぼ80程度である。従って、誘電率を測定しただけでは、水と過酸化水素とを区別(同定)することは難しい。しかしながら、水と過酸化水素は粘度が異なるので、該粘度を測定することによって水と過酸化水素をそれぞれ同定することができる。そこで、本発明では、静電容量センサのみを使用することによって、液体物の誘電率の測定と、該液体物の流体粘度(粘度)の推定とを併せて行うことにより、あらゆる液体物の種類の同定を行うことを特徴としている。
【0022】
すなわち、本発明は、液体物を収納するボトルなどの容器の近傍に静電容量センサを設置し、該静電容量センサが測定した液体物の静電容量値から該液体物に固有の誘電率を求める。さらに、その静電容量センサが測定した静電容量値(又は、見かけの誘電率)が、大きな誘電率を有する水溶性の液体の遥動によって変動することを利用し、外部からボトルなどの容器に与えられた振動によって発生した静電容量値(又は、見かけの誘電率)の遥動の時間的な消滅の様子、あるいは、継続的な容器の振動による静電容量値(又は、見かけの誘電率)の変位から液体物の粘度を推定する。言い換えると、外部から容器に所定の振動を与えたとき、流体粘度の大きい液体物ほど該液体物の表面に発生する波の高さ(振幅)が小さいので、静電容量値(又は見かけの誘電率)の変動分の振幅が小さくかつ振幅の消滅時間も短い。
【0023】
このとき、外部からボトルなどの容器に与える振動は、該容器を静電容量センサの近傍に置くときに自然的に発生する過度的な振動でもよいし、意図的に外部から該容器へ連続振動又は衝撃を与えてもよい。尚、液体物は、水溶性である方が誘電率が大きいために該誘電率の絶対値が大きいので計測がし易いが、必ずしも水溶性である必要はない。
【0024】
図1は、本発明の液体物検査装置によって液体物の誘電率を測定する静電容量センサの概念を示す説明図である。図1に示すように、静電容量センサ1は、2枚の電極板2a、2bが対向して配置されていて、それぞれの電極板2a、2bから各検出端子3a、3bが取り出されている。このような構成の静電容量センサ1において、対向した電極板2a、2bの間に誘電率εの誘電体4を密着して介在させる。このとき、2枚の電極板2a、2bの面積はそれぞれSであり、対向する2枚の電極板2a、2bの間隔はtである。
【0025】
図1に示すような構成において、静電容量センサ1が測定する静電容量値Cは次の式(1)で表される。
C=ε×(S/t) (1)
【0026】
従って、2枚の電極板2a、2bの間に介在された誘電体4の誘電率は次の式(2)に
よって求められる。
ε=C×(t/S) (2)
【0027】
このようにして求められた誘電率εは、それぞれの物体(液体物)に固有の定数であるので式(2)によって求められた誘電率εから物体(液体物)を同定することができる。
【0028】
図2は、図1に示す静電容量センサ1の原理に基づいて、誘電体4の代わりに液体物が充填されたボトルを配置した状態を示す説明図である。図2に示すように、テーブル6の上に配置された電極板2a、2bの間にボトル5を介在させる。ここで、ボトル5に充填された液体物5aの誘電率はεである。尚、ボトル5がガラス容器であるか、ペットボトル容器であるか、あるいは紙容器であるかによって、それぞれの容器の誘電率は異なるが、これらの容器の誘電率は固定値であるので、ボトル4を振動させることによって発生する静電容量値の変動分を測定する場合は、容器が持つ固有値の誘電率は無視することができる。
【0029】
すなわち、図2に示す静電容量センサ1において、誘電率εの液体物5aが充填されたボトル5は、電極板2a、2bの間のテーブル6の上に、小さな衝撃を加えて(ドンと)配置されるか、又はテーブル6の上にボトル5が置かれた後に外部から該ボトル5に対して定常的な振動が加えられる。
【0030】
このとき、静電容量センサ1は、前述の式(1)によってボトル5に充填された液体物5aの静電容量値Cを求め、さらに、前述の式(2)によって該液体物5aの誘電率εを求める。
【0031】
また、このとき同時に、静電容量センサ1は、電極板2a、2bの間に小さな衝撃を加えてボトル5が配置された瞬間から、又は、外部からボトル5に対して定常的な振動が加えられたときから、前述の式(1)に従って静電容量値Cの時間的な変化を測定する。すなわち、図2に示すように、小さな衝撃を加えて配置されたボトル5内の液体物5aは、図2に示すような表面波5bが発生している。このような表面波5bが発生している状態で、静電容量センサ1が液体物5aの静電容量値Cを測定すると、その静電容量値Cは表面波5aの波高値(振幅)にほぼ比例して変化する。
【0032】
その理由は次の通りである。すなわち、液体物5aの誘電率εは一定の値であるが、液体物5aを振動させたとき、該液体物5aの表面波5bの谷間には、誘電率がε0=1の空気5cが存在している。従って、液体物5aの表面付近においては、電極板2a、2bの間に、見かけ上、(ε+ε0)の誘電体が介在されていることになる。言い換えると、液体物5aの表面付近においては、誘電率の遥動成分である見かけの誘電率(ε+ε0)の誘電体が電極板2a、2bの間に介在されていることになる。従って、以下の説明では、液体物5aの表面波5bによって生じる誘電率の遥動成分を『見かけの誘電率』ということにする。やがて、表面波5bが減衰して液体物5aの表面が平坦になると、液体物5aの表面付近においては該液体物5aに固有の誘電率εとなる。
【0033】
すなわち、ボトルの振動によって液体物5aの表面に表面波5bが発生している間は見かけの誘電率(ε+ε0)となり、表面波5bが減衰して無くなると液体物5aに固有の誘電率εとなる。言い換えると、電極板2a、2bに介在された液体物5aの見かけの誘電率ε1は、表面波5bの振幅に比例して変化することになる。従って、前述の式(1)に当てはめると、静電容量値Cは表面波5aの振幅に比例して変化すると言える。このことから、見かけの誘電率ε1の時間的な変化、又は静電容量値Cの時間的な変化を観測すれば、表面波5bそのものの時間的な変化を観測していることになるので、液体物5aの粘度を推定することができる。例えば、液体物5aの粘度が高ければ表面波5bの減衰時
間が短いので、見かけの誘電率ε1(又は、静電容量値C)の減衰時間も短い。このことから、見かけの誘電率ε1(又は、静電容量値C)の減衰時間を測定すれば、液体物5aの粘度を判定して該液体物5aを同定することができる。
【0034】
図3は、ボトルの過度的な振動によって発生する見かけの誘電率の時間的変化を示す特性図であり、横軸は時間tの経過、縦軸は見かけの誘電率ε1の変化を表わしている。すなわち、図3は、図2に示す静電容量センサ1の電極板2a、2bの間に小さな衝撃を加えてボトル5を配置したときの見かけの誘電率ε1の時間的変化を示す特性図である。
【0035】
図3に示すように、時刻t0において、ボトル5をテーブル6の上に置いた直後に液体物5aの表面波5bの振幅が最大となるので見かけの誘電率ε1は最大値を示す。このようにして、液体物5aの表面波5bの振幅に比例して見かけの誘電率ε1が揺動する。そして、時間tの経過によって液体物5aの表面波5bの振幅が小さくなるので見かけの誘電率ε1も小さくなり、時刻t1において表面波5bの振幅がゼロのなると液体物5aに固有の誘電率εとなる。
【0036】
このようにして、見かけの誘電率ε1の減衰傾向(すなわち、単位時間あたりに見かけの誘電率ε1が減衰する桁数)が時間の経過によってどのように変化するかを定量的に観測することにより、液体物5aの流体粘度を推定して該液体物5aを同定することができる。このような見かけの誘電率ε1の減衰傾向を定量的に判断するためには、見かけの誘電率ε1の減衰傾向を対数表現する必要がある。
【0037】
言い換えると、見かけの誘電率ε1の時間的変動信号をε1(t)、充分に時間が経過した後の誘電率信号をε1(∞)とすると、見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値(E(t)は、次の式(3)によって表わすことができる。
E(t)=log(|ε1(t)−ε1(∞)|) (3)
【0038】
ここで、見かけの誘電率ε1の時間的変動信号ε1(t)から充分に時間が経過した後の誘電率信号ε1(∞)を引算する理由は、オフセット分を除去して、正味の見かけの誘電率ε1の時間的変動成分のみを取り出すためである。また、ε1(t)−ε1(∞)の絶対値をとる理由は、図3に示したように見かけの誘電率ε1は、時間の経過によって液体物5aの誘電率εに対してプラス/マイナスに振れるため、見かけの誘電率ε1の絶対値成分のみを取り出すためである。
【0039】
すなわち、前述の式(3)によって、見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値(E(t)を求めることにより、見かけの誘電率ε1が単位時間当たりにどのような桁数で減衰して行くかという減衰傾向を定量的に把握することができる。そして、この見かけの誘電率ε1の減衰傾向から液体物5の粘度を推定することができる。
【0040】
図4は、見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値E(t)を示す特性図であり、横軸は時間、縦軸は誘電率の減衰桁数を表わしている。尚、縦軸の減衰桁数は、0.1から1E−14(10−14)までの桁数を示している。すなわち、図4に示すように、見かけの誘電率ε1の減衰傾向を対数処理して対数表現値(E(t)で表わすことにより、該対数表現値(E(t)の時間的な包絡線の傾き(減衰係数)ρを求めることができる。この減衰係数ρは、(E(t)〔Decade/Sec〕)で表わされるので、見かけの誘電率ε1の減衰傾向の対数表現値E(t)が1秒当たりで何桁減衰しているかを判定することができる。従って、この減衰係数ρから液体物5aの流体粘度を推定することができる。
【0041】
このようにして、静電容量センサ1によって、前述のように液体物5aに固有の誘電率εを測定すると共に、液体物5aの振動によって発生する見かけの誘電率ε1の対数表現
値E(t)の減衰係数(包絡線の傾き)ρから該液体物5aの粘度を推定することにより、該液体物5aをほぼ正確に同定することができる。すなわち、見かけの誘電率ε1の減衰時間が短かいほど液体物5aの流体粘度が高くなる傾向にあって、見かけの誘電率ε1の対数表現値E(t)の減衰係数ρが大きくなり、見かけの誘電率ε1の減衰時間tが長いほど液体物5aの流体粘度が低くなる傾向にあって、見かけの誘電率ε1の対数表現値E(t)の減衰係数ρが小さくなる。このことから、静電容量センサ1によって見かけの誘電率ε1の減衰時間を測定することにより、ボトル4に充填された液体物5aの流体粘度を正確に推定することができる。
【0042】
尚、前述の式(1)及び式(2)から分かるように、見かけの誘電率ε1の変化は静電容量値Cの変化に比例するので、図3における見かけの誘電率ε1の時間的な変化を静電容量値Cの時間的な変化と置き換えてもよい。すなわち、図3の縦軸の見かけの誘電率ε1を静電容量値Cと置き換えてもよい。
【0043】
図5は、ボトルに対して定常的に振動を加えたときに発生する見かけの誘電率の変化を示す特性図であり、横軸は時間tの経過、縦軸は見かけの誘電率ε1を表わしている。すなわち、図5は、図2に示す静電容量センサ1の電極板2a、2bの間に配置したボトル5に対して、外部から定常的な振動を加えたときの見かけの誘電率ε1の時間的経過を示している。
【0044】
ボトル5に対して外部から定常的な振動を加えると、液体物5aの表面波5bは一定の振幅を示すので、図5示すように、見かけの誘電率ε1の振幅Aは時間の経過に関わらず一定値を示している。このとき、見かけの誘電率ε1の振幅Aは、液体物5aの流体粘度が低いほど大きく、流体粘度が高いほど小さくなる傾向にあるので、見かけの誘電率ε1の振幅Aを観測して、該見かけの誘電率ε1の振幅Aを測定することによって該液体物5aの粘度を推定することができる。このようにして、静電容量センサ1によって、前述のように液体物5aの誘電率εを測定すると共に、見かけの誘電率ε1の定常的な振幅Aを観測することによって粘度を推定することで、該液体物5aをほぼ正確に同定することができる。
【0045】
図6は、粘性係数の異なる3種類の液体の粘性を評価した特性図であり、横軸に粘性係数(mP・S)、縦軸に減衰係数(又は、減衰定数)(Decade/Sec)を表わしている。すなわち、図6は、前述の図4で示した手法によって、3種類の液体(水、エタノール、及びIPA(イソプロピルアルコール))における見かけの誘電率ε1の対数表現値E(t)の減衰係数ρを求めて、それぞれの液体の粘性を評価した特性図である。
【0046】
図6に示すように、水は粘性係数がほぼ0.9(mP・S)、減衰係数がほぼ0.2(Decade/Sec)であり、エタノールは粘性係数がほぼ1.1(mP・S)、減衰係数がほぼ0.3(Decade/Sec)であり、IPAは粘性係数がほぼ1.6(mP・S)、減衰係数がほぼ0.6(Decade/Sec)であって、これらの特性値をプロットすると、それぞれの液体の粘度(粘性係数)と減衰係数(減衰定数)がリニアな関係にあることが分かる。このことから、ある液体物の減衰係数を求めれば該液体物の粘度を推定することができる。尚、このような減衰係数を計測するのではなく、前述したように、定常的な振動における見かけの誘電率変化の振幅を計測しても液体物の粘度を推定することができる。
【0047】
図7は、3種類の液体の誘電率と粘度との関係を示す特性図であり、横軸に誘電率、縦軸に粘度を表わしている。図7に示すように、3種類の液体として、油、水、及び過酸化水素を選択した場合、油の誘電率2〜3程度であって、水の誘電率は80程度であるので、静電容量センサによって両者の誘電率を計測すれば油と水を区別することができる。ところが、水と過酸化水素は何れも誘電率が80程度であるので、静電容量センサによって
両者の誘電率を計測しただけでは水と過酸化水素を区別することはできない。
【0048】
そこで、前述した液体物の粘度を求める手法により、水と過酸化水素とを個別にボトルに入れてそれぞれ遥動させ、それぞれの誘電率の遥動成分である見かけの誘電率を求め、さらに、この見かけの誘電率の時間的減衰特性を対数処理した減衰係数を求めることにより、水と過酸化水素のそれぞれの流体粘度を推定することができる。従って、このようにして推定されたそれぞれの粘度から水と過酸化水素とを特定することが可能となる。すなわち、図7に示すように、水よりも過酸化水素の方が粘度が高いので、粘度を推定することによって水と過酸化水素を特定することが可能となる。
【0049】
以上を要約すると、液体物検査装置において、静電容量センサによって液体物の誘電率を計測しただけでは誘電率が近似な液体物(例えば、水と過酸化水素)を区別することができなかった。ところが、液体物の誘電率の計測と粘度の推定とを組み合わせて行うことにより、誘電率が近似な液体物であっても粘度の相違によって個々の液体物をほぼ確実に特定することができる。
【0050】
尚、ここで、誘電率の計測と流体粘度の推定とを組み合わせて行う場合、流体粘度の推定方法は、必ずしも前述のような見かけの誘電率の時間的減衰特性を利用する方法に限定されるものではない。例えば、液体物の表面波を光学的に観測して流体粘度を推定する方法を用いてもよいし、連続音を液体物に印加して表面波に定常的に生じる波の高さから流体粘度を推定する方法を用いてもよい。すなわち、液体物の流体粘度を推定する方法はどのような方法でも構わないが、液体物の誘電率と流体粘度とを用いて該液体物を同定する方法であれば、本発明の液体物検査装置に適用されることは言うまでもない。
【0051】
また、本発明の液体物検査装置は、例えば、飲料物が腐敗すると流体粘度が変化するので、飲料物などの製品検査を非接触で行うこともできる。さらに、液体物への振動の与え方は、機械的な振動や音波による振動だけではなく、熱、光、X線等の放射線、又はマイクロ波などを液体物に与えて液体物の表面を振動させてもよい。
【0052】
次に、具体的な実施例として、エタノールの希釈度による粘度の変化について説明する。図8は、エタノール30%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性であり、図9は、エタノール50%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性であり、図10はエタノール70%のときの見かけの誘電率の対数処理減衰特性であり、何れも、横軸は時間、縦軸は見かけの誘電率の減衰桁数を表わしている。図8〜図10から分かるように、エタノール30%のときの見かけの誘電率の減衰係数(包絡線の傾き)は、0.27(Decade/Sec)であり、エタノール50%のときの見かけの誘電率の減衰係数は、0.37(Decade/Sec)であり、エタノール70%のときの見かけの誘電率の減衰係数は、0.40(Decade/Sec)である。このことから、エタノール濃度が30%から70%までの間は濃度が濃いほど流体粘度が高いことが分かる。
【0053】
図11は、液体物の種類ごとの粘性係数、減衰係数、及び減衰係数×10の特性値を示す図表である。また、図12は、図11に示す各特性値をプロットした特性グラフであり、横軸は液体物の種類を表わし、縦軸は各特性値を表わしている。尚、図12において、粘性係数(a)は理論値であり、減衰係数(b)は測定値である。また、減衰係数×10(c)は、減衰係数(b)の測定値を10倍に拡大して減衰係数(b)の変化の程度を顕著にした値である。
【0054】
すなわち、図11の図表に示すように、液体物(物質)の種類として、水、エタノール30%、エタノール50%、エタノール70%、エタノール100%、及びIPAをサンプリングし、それぞれの液体物について粘性係数、減衰係数、及び減衰係数×10の特性
値を示している。図11の図表に示す特性値を特性グラフで表わすと図12のようになり、それぞれの特性値の違いが一目で分かる。
【0055】
すなわち、図12に示すように、各液体物の粘性係数(a)は理論値をプロットしている。また、各液体物の減衰係数(b)の測定値は値が小さいので、減衰係数(b)を10倍して減衰係数×10の特性値(c)をプロットしている。減衰係数×10の特性値(c)から分かるように、水は減衰係数が最も小さいので(すなわち、見かけの誘電率の遥動成分が最も減衰しにくいので)、粘性係数(a)は最も小さい。
【0056】
エタノールについては、エタノール濃度が50%から70%に上昇するに従って減衰係数×10の特性値(c)は大きくなるが、これらの中間濃度よりエタノール濃度が薄くなったり(例えば、エタノール濃度が30%になったり)、濃くなったり((例えば、エタノール濃度が100%になったり)すると、減衰係数×10の特性値(c)は小さくなるので、粘性係数(a)も小さくなる。このような減衰係数に変化に比例して各濃度におけるエタノールの粘性係数(a)もほぼ比例して変動している。
【0057】
また、IPA(イソプロピルアルコール)は、減衰係数×10の特性値(c)が最も高い値を示しているので、粘性係数(a)もそれなりに高い値を示している。すなわち、図12から分かるように、各液体物の見かけの誘電率の減衰特性は、ほぼ各液体物の粘性係数に比例しているので、各液体物の見かけの誘電率の減衰特性を計測すれば、各液体物の粘性係数を推定することができるので、結果的にそれぞれの液体物を同定することが可能となる。
【0058】
以上説明したように、本発明の液体物検査装置によれば、誘電率の計測は液体物と静電容量センサとの間にガラス瓶やペットボトルや紙パックなどの誘電体が介在していても、それらは固定値あるので、液体物の遥動によって生じる静電容量値の変化分を計測するのに何ら支障をきたさない。従って、本発明の液体物検査装置によれば、ボトルに入った液体物を該ボトルから取り出すことなく、液体物がボトルにはいったまま静電容量値及び流体粘度の測定を行うことができる。
【0059】
また、液体物検査装置に使われているような静電容量センサを使用することにより、ボトルの大きさや形状に関係なく静電容量値の変化分を計測することができる。言い換えると、計測に必要なのは静電容量値の変化分(すなわち、見かけの誘電率の遥動信号の時間的変化)であり、絶対的な数値の精度は必要ない。従って、ボトルの種類に起因するボトルの形状や厚さ等の変化は計測精度の低下要因とはならない。
【0060】
また、静電容量センサによる誘電率の測定と粘性値(流体粘度)の計測値とを組み合わせることにより、液体爆発物などの容器内の液体をほぼ正確に同定することが可能である。
【0061】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の液体物検査装置は、ボトルなどの容器に充填された液体物をそのままの状態で迅速且つ正確に同定することができるので、空港や関税などにおける顧客の手荷物検査等に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 静電容量センサ
2a、2b 電極板
3a、3b 検出端子
4 誘電体
5 ボトル
5a 液体物
5b 表面波
5c 空気
6 テーブル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象液体物の種類を同定するための液体物検査装置であって、
前記被測定対象液体物の近傍に設置されて、該被測定対象液体物の静電容量値を測定し、該静電容量値から前記被測定対象物に固有の誘電率を求める静電容量センサと、
前記被測定対象液体物に表面波を発生させて、前記表面波の遥動の時間的な減衰特性から該被測定対象液体物の流体粘度を推定する流体粘度推定手段とを備え、
前記静電容量センサが求めた前記誘電率と流体粘度推定手段が推定した流体粘度とに基づいて前記被測定対象液体物を同定することを特徴とする液体物検査装置。
【請求項2】
上記流体粘度推定手段は、上記被測定対象液体物に過度的な振動が与えられたとき、該被測定対象液体物の表面波の遥動に起因して発生する見かけの誘電率の時間的な減衰特性から該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置。
【請求項3】
上記見かけの誘電率の時間的な減衰特性は、上記静電容量センサが所定の時間に亘って上記被測定対象液体物の静電容量値を測定して求められることを特徴とする請求項2記載の液体物検査装置。
【請求項4】
上記流体粘度推定手段は、上記見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数処理して得られた減衰係数から該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項2又は3記載の液体物検査装置。
【請求項5】
上記流体粘度推定手段は、上記被測定対象液体物に定常的な振動が与えられたとき、上記被測定対象液体物の表面波の振幅の大きさから該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置。
【請求項6】
上記流体粘度推定手段は、上記被測定対象液体物に過度的な振動が与えられたとき、上記静電容量センサの測定した静電容量値の変動分の時間的な減衰特性から、該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置。
【請求項1】
被測定対象液体物の種類を同定するための液体物検査装置であって、
前記被測定対象液体物の近傍に設置されて、該被測定対象液体物の静電容量値を測定し、該静電容量値から前記被測定対象物に固有の誘電率を求める静電容量センサと、
前記被測定対象液体物に表面波を発生させて、前記表面波の遥動の時間的な減衰特性から該被測定対象液体物の流体粘度を推定する流体粘度推定手段とを備え、
前記静電容量センサが求めた前記誘電率と流体粘度推定手段が推定した流体粘度とに基づいて前記被測定対象液体物を同定することを特徴とする液体物検査装置。
【請求項2】
上記流体粘度推定手段は、上記被測定対象液体物に過度的な振動が与えられたとき、該被測定対象液体物の表面波の遥動に起因して発生する見かけの誘電率の時間的な減衰特性から該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置。
【請求項3】
上記見かけの誘電率の時間的な減衰特性は、上記静電容量センサが所定の時間に亘って上記被測定対象液体物の静電容量値を測定して求められることを特徴とする請求項2記載の液体物検査装置。
【請求項4】
上記流体粘度推定手段は、上記見かけの誘電率の時間的な減衰特性を対数処理して得られた減衰係数から該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項2又は3記載の液体物検査装置。
【請求項5】
上記流体粘度推定手段は、上記被測定対象液体物に定常的な振動が与えられたとき、上記被測定対象液体物の表面波の振幅の大きさから該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置。
【請求項6】
上記流体粘度推定手段は、上記被測定対象液体物に過度的な振動が与えられたとき、上記静電容量センサの測定した静電容量値の変動分の時間的な減衰特性から、該被測定対象液体物の流体粘度を推定することを特徴とする請求項1記載の液体物検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−133342(P2011−133342A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292882(P2009−292882)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000220000)東京ガス・エンジニアリング株式会社 (15)
【出願人】(594119461)株式会社日放電子 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000220000)東京ガス・エンジニアリング株式会社 (15)
【出願人】(594119461)株式会社日放電子 (2)
【Fターム(参考)】
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