説明

液体計量充填装置

【課題】高引火性揮発ガスを発生させる有機溶剤を扱う上で摺動機構を用いないという従来例の好ましい点を継承しつつ、計量完了時に瞬間的に減圧室を浮子にて閉塞して有機ガスが室内に漏れ出ないようにすることをその課題とする。
【解決手段】減圧室11は、気体出入管路13が設けられ、その内径が浮子20の移動可能にて浮子20の外径と等しく形成された上部11uと、浮子20の外径よりも大きく、連通孔22を介して液体計量部21に連通し、内周面に浮子20を上部11uにガイドするガイド突条24が形成された下部11dとに分かれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車の修理工場や一般の機械装置の洗浄用として使用される有機洗浄剤の詰め替え式の再充填缶に有機溶剤を計量して再充填するための液体計量充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の修理工場や一般の機械装置の洗浄用として使用される有機洗浄剤として、アルコールやアセトンなどの高引火性液体が使用される。その一つの再充填装置として特許文献1に記載されるような定量ポンプBが提案されている。図5には、その主要部を抜粋している。
【0003】
この定量ポンプBは引火性の高い有機溶剤Lを計量するために、機械的な摺動部を設けていない構造で、具体的には、加圧エア導入によるベンチュリ作用を利用して内部に減圧領域を形成させるエア導入部1と、この減圧状態のエア導入部1に吸引路2を介して連通され、エア導入部1によって減圧される減圧室3と、貯蔵タンク(図示せず)から有機溶剤Lを吸引する吸引口(図示せず)及び計量された有機溶剤Lを再充填缶(図示せず)に吐出充填する吐出口(図示せず)が設けられたシリンダ部(図示せず)と、減圧室3とシリンダ部とを繋ぐ連通管4と、減圧室3内に配置されたフロート(浮子)5とを備え、エア導入部1に加圧エアを導入することにより減圧室3内及びシリンダ部内が減圧され、それによって吸引口から液体計量部内にアルコールやアセトンなどの高引火性有機溶剤Lが吸引され、吸引された有機溶剤Lがさらに連通管4を通って減圧室3内に導入されることによってフロート5が浮揚して吸引路2を塞ぎ、それによって一定量の引火性液体である有機溶剤Lが吸引保持され、そして、エア導入部1への加圧エアの供給を停止することによって減圧室3内を減圧状態から開放し、シリンダ部内の引火性液体である有機溶剤Lを吐出口から吐出させて再充填缶に充填するものである。
【0004】
この方法では機械的な摺動部分がなく高引火性液体である有機溶剤Lの吸引計量には優れているものの、計量時におけるフロートによる吸引路2の閉塞が、エア導入部1による減圧室の減圧に伴う高引火性有機溶剤Lの水位上昇とこれによるフロート浮揚、フロート5の吸引路の開口部に設けられたOリング6への密着によって行われるため、図5に示すように、有機溶剤L内にその下部が沈んでいるフロート5がOリング6と密着する時に、有機溶剤LがOリング6とフロート5との間の僅かな隙間7から吸引路2内に吸い込まれ、エア導入部1を通ってエア導入部1の排気口(図示せず)から外部(室内)に液状或いはスプレー状で放出され、室内に健康を害する虞のある有機ガスの臭いが立ち込めるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−299840
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、高引火性揮発ガスを発生させる有機溶剤を扱う上で摺動機構を用いないという従来例の好ましい点を継承しつつ、計量完了時に瞬間的に減圧室をフロート(浮子)にて閉塞して有機溶剤そのものは勿論、有機ガスも室内に殆ど漏れ出ないようにすることをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の液体計量充填装置Aは、
(1-a) 圧力切替装置30に接続され、圧力切替装置30の減圧時に所定量の被計量液体Lを吸引し、被計量液体Lを非減圧時に被充填用容器17に吐出充填する液体計量充填装置Aにおいて、
(1-b) その天井部12に設けられた気体出入管路13を介して圧力切替装置30に接続され、吸引された被計量液体Lの水位と共に上下動する浮子20が内部に収納された減圧室11と、
(1-c) 連通孔22が穿設された隔壁23を介して減圧室11下に設けられ、被計量液体Lを吸引する液体吸引管路16及び吸引して計量された被計量液体Lを吐出して被充填用容器17に吐出充填する計量液体充填管路19が設けられた液体計量部21とで構成され、
(1-d) 減圧室11は気体出入管路13が設けられ、その内径が浮子20の移動可能にて浮子20の外径と等しく形成された上部11uと、浮子20の外径よりも大きく、連通孔22を介して液体計量部21に連通し、内周面に浮子20を上部11uにガイドするガイド突条24が形成された下部11dとに分かれていることを特徴とする。
【0008】
請求項2は、請求項1に記載の液体計量充填装置Aの浮子20の形状に関し、浮子20は中空球形或いは天井部12側の頭部が半球形、胴部20bが円筒状の砲弾型で、内部が空洞状態に形成されている事を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の液体計量充填装置Aにあっては、減圧室11が上部11uと下部11dとに分かれ、上部11uの内径が浮子20の外径と等しく形成され、下部11dが浮子20の外径よりも大きくて、その内周面に浮子20を上部11uにガイドするガイド突条24が形成されているので、減圧により減圧室11内に被計量液体Lが流入して、浮子20を上部11uに向けて浮き上がらせ、浮子20の外周面が上部11uの下部側開口縁内周に一致し、上部11uに入り込もうとした処(この時点が計量完了時点である。)で、浮子20の外周面と上部11uの下部側開口縁内周との隙間tが極く僅かであるため閉塞されて、この隙間tから空気が上部11u側に極く僅かしか流入せず、前記隙間tからの極く僅かの空気流入量に比べて圧力切替装置30による大量の吸引によって、該吸引と共に上部11u内の減圧度が急速に高まって浮子20が上部11u内に急速に吸い込まれ、瞬間的に上部11uに開口する気体出入管部13を閉じ、被計量液体Lの吸い込みは勿論、上部11uからの有機ガスの匂いの流出も計量完了と殆ど同時に遮断することになり、これにより室内への有機ガスの漏れも殆どなくなる。
【0010】
請求項2のように、浮子20を砲弾型にしておくと、浮子20の側面の直線部分20cが上部11u内に引き込まれたとき、上部11uの内周面との近接長さが長くなって、中空球体の場合に比べて当該部分の閉塞がより完全に行われる。またこの長い直線部分20cにより、浮子20が減圧室11内でフラフラせず、正確に上下動することになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明装置の液体吸引時の縦断面図
【図2】本発明装置の液体吸引途中の主要部の縦断面図
【図3】本発明装置の液体吸引完了状態の主要部の縦断面図
【図4】本発明装置の減圧室の横断面図
【図5】従来例の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図示実施例により詳述する。液体計量充填装置Aは、中空円筒状の充填装置本体10を有しており、減圧室11が内部に形成された本体上部10aと、液体計量部21が内部に形成された本体下部10bとに分かれ、気密用Oリング25を介して気密状にて接続されている。
【0013】
本体上部10a内の減圧室11は、下面が開口しており、内部に浮子20が収納され、その開口下面は、複数の連通孔22が穿設された隔壁23で覆われ、浮子20を閉じ込んでいる。
【0014】
減圧室11の内部は、上部11uと下部11dとに上下に分割されている。上部11uの天井部12には、吸引管部27が穿設され、上部11uの内径は、浮子20が移動可能にて浮子20の外径と極く僅かな隙間を設けた状態で形成されている。吸引管部27の天井開口縁には、閉塞用Oリング26が嵌め込まれている。
【0015】
下部11dは、その内径が上部11uの内径よりも大きくて上部11uと同心円に形成され(従って、上部11uも下部11dもいずれも横断面は円形である。)、その内周面に所定の間隔で複数のガイド突条24が下部11dの軸方向に平行に突設されている。そして、ガイド突条24の先端を結ぶ内周円は、上部11uの内径と等しく、浮子20がスムーズに上部11uと下部11dとの間を移動できるようになっている。上部11uの天井面までの高さは、浮子20が砲弾型の場合は、その半球状の頭部20aの半径高さよりも大きく、浮子20の頭部20a全体が上部11u内に収納されるようになっている。浮子20が中空球形の場合は、その外周面に対する半径より大きくなっている。
【0016】
下部11dの下面には、隔壁23が装着されており、隔壁23には、複数の連通孔22が穿設され、穿設された連通孔22は、浮子20の外径より大きい同心円上にてガイド突条24と浮子20の外径との間で且つ隣接するガイド突条24間に配置されている。
【0017】
浮子20は、図の実施例の場合は、頭部20aが半球形、胴部20bが円筒状の砲弾型であり、胴部20bの外側面(直線部分20c)は直線状であって内部が空洞状態に形成され、下面が開口している。胴部20bの外側面は、浮子20の中心軸に平行な直線である。勿論、浮子20の形状は、このような砲弾型に限られず、図示していないが中空球形或いは縦長長円形の回転体などその他の浮子20として適切な形状ものが選定される。なお、浮子20や液体計量充填装置Aの材質は、有機溶剤に侵されない金属材料で形成されていることが好ましい。また、前記砲弾型浮子20に関し、下面開口でなく中空下面閉塞状のものとしてもよいことは言うまでもない。
【0018】
本体下部10bには、上面開口の空洞が形成されており、この部分が液体計量部21となる。そして、その底部14内或いは図のように管を介して逆止弁15が設けられている。逆止弁15内には、逆止ボール15aが収納されている。必要があれば、図示しないバネで閉塞方向に押圧するようにしてもよい。逆止弁15の先端には、液体吸引管部16が取り付けられ、その先端は、液体収納容器28に挿入されている。
【0019】
更に、本体下部10bの側面下部に計量液体充填管部19が設けられており、被充填用容器17にその先端が接続され、計量された被計量液体である有機溶剤Lを充填するようになっている。計量液体充填管部19の途中には、排出側開閉弁18が設けられている。
【0020】
圧力切替装置30は、本実施例では、ベンチュリ作用を利用する公知の構成のものが使用される。勿論、圧力切替装置30は、減圧室11内を減圧状態にするという役目だけなので、排気ポンプのような減圧装置に接続された減圧源を用いても良い。
【0021】
以下、圧力切替装置30を簡単に説明すると、入り口から奥に向かうに連れてその断面積が次第に減少する入口側ノズル孔31イを有する入口側ノズル部31と、入口側ノズル部31の出口側内に螺入され、内部にその先端から入り口に向かって次第にその断面積を増大する出口側ノズル孔32イを有する出口側ノズル部32とで構成され、入口側ノズル孔31イの小断面出口部分31aと出口側ノズル孔32イの小断面入口部分32aとの対向部分に間隙33が設けられ、この間隙33に通孔34が形成され、この通孔34と液体計量充填装置Aの本体上部10aの吸引管部27とが連通管35で接続され、通孔34、吸引管部27及び連通管35で気体出入管路13を構成する。
【0022】
前記入口側ノズル孔31イの小断面出口部分31aと出口側ノズル孔32イの小断面入口部分32aとの対向部分を含むその近傍部分が圧力切替装置30に加圧空気を供給したときに減圧領域Pを形成する。そして、圧力切替装置30の入口側ノズル部31の入り口には加圧配管36が接続され、これに入口側開閉弁37が設置されている。
【0023】
用いられる被計量液体Lはどのような液体でもよいが、ここでは自動車や機械などの洗浄用の有機溶剤が対象となる。
【0024】
次に、本発明の作用について説明する。液体計量充填装置Aの液体吸引管路16の先端を液体収納容器28に挿入し、計量液体充填管部19の先端を被充填用容器17に接続して排出側開閉弁18を閉じる。この状態で圧力切替装置30の入口側開閉弁37を開放して圧力切替装置30に加圧空気を供給すると、周知のベンチュリ作用により内部に減圧領域Pが形成され、これに接続されている減圧室11の空気が引かれて減圧室11の内部が急激に減圧される。この減圧により連通孔22を介して減圧室11に連通している液体計量部21も急速に減圧される。
【0025】
この時点では、浮子20は自重の方が気体出入管路13を通って排出される気流による吸引力よりも大きいので、浮子20は吸い上げられず、隔壁23上に静置された状態を保つ。従って、液体計量部21内の空気は連通孔22、ガイド突条24間の通路24a(図4)、浮子20の頭部20aを沿って流れ、気体出入管部13を通って圧力切替装置30に吸い込まれ、次第に減圧度を高める。そして液体収納容器28の有機溶剤Lに加わる大気圧との気圧差が逆止ボール15aの重量より大となった時、逆止弁15の逆止ボール15aが液体吸引管路16内の有機溶剤Lに押し上げられて浮き上がり、液体収納容器28から有機溶剤Lが液体計量部21内に吸い込まれる。
【0026】
液体計量部21及び減圧室11内の減圧の上昇に伴って液体計量部21内の有機溶剤Lの水位が次第に上昇し、ついには連通孔22を通って減圧室11内に入り込む。そして、さらに減圧室11内での水位(液面)の上昇に伴い、遂には浮子20が隔壁23から離れて天井部12に向かって上昇していく。
【0027】
水位上昇と共に上昇した浮子20の頭部20aが減圧室11の上部11u内に入り、胴部20bが上部11uの下面開口縁にさしかかると、上部11uの内径と胴部20bの外径とが挿脱可能な状態で一致しているので、胴部20bで上部11uの下面開口縁が閉塞されることになる(図2)。胴部20bと上部11uの下面開口縁との隙間tは極く狭いものの胴部20bが上部11u内に殆ど抵抗なく挿入される程度のものである。そして、浮子20の頭部20a全体が減圧室11の上部11u内に入り込んだ状態(図3)の狭い上部11uが圧力切替装置30の吸引により急速に減圧されて上部11u内に浮子20が瞬間的に吸い込まれ、浮子20の頭部20aが吸引管部27の開口に填め込まれた閉塞用Oリング26に吸着にて密着し、上部11uを閉塞する。これにより水位の上昇が止まり、計量が完了する。
【0028】
次に、圧力切替装置30の加圧エア側の開閉弁37を閉じ、液体計量部21の排出側開閉弁18を開くと、圧力切替装置30内に空気が入り、これが気体出入管部13に入り込んで大気圧とする。一方、上部11u内は減圧状態にあるから、その圧力差により浮子20が閉塞用Oリング26からわずかに離れる。すると、この僅かな隙間から気体出入管部13内の大気が上部11u内に入り込み内圧を高める。これにより、減圧室11内の被計量液体Lを押し下げる圧力と、液体収納容器28内の被計量液体Lを押し上げる圧力とが共に等しい大気圧になり、被計量液体Lを押し上げる力はゼロとなって逆止弁15の逆止ボール15aが沈下し、液体吸引管路16を閉じて液体収納容器28への被計量液体Lの逆流を止め、同時に開かれていた排出側開閉弁18を介して計量液体充填管路19から液体計量部21内の被計量液体Lが排出されて被充填用容器17に充填される。
【符号の説明】
【0029】
A 液体計量充填装置
L 被計量液体
t 隙間
11 減圧室
11u 上部
11d 下部
12 天井部
13 気体出入管路
16 液体吸引管路
17 被充填用容器
19 計量液体充填管路
20 浮子
21 液体計量部
22 連通孔
23 隔壁
24 ガイド突条
30 圧力切替装置
33 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1-a) 圧力切替装置に接続され、圧力切替装置の減圧時に所定量の被計量液体を吸引し、被計量液体を非減圧時に被充填用容器に吐出充填する液体計量充填装置であって、
(1-b) その天井部に設けられた気体出入管路を介して圧力切替装置に接続され、吸引された被計量液体の水位と共に上下動する浮子が内部に収納された減圧室と、
(1-c) 連通孔が穿設された隔壁を介して減圧室下に設けられ、被計量液体を吸引する液体吸引管路及び吸引して計量された被計量液体を吐出して被充填用容器に吐出充填する計量液体充填管路が設けられた液体計量部とで構成され、
(1-d) 減圧室は気体出入管路が設けられ、その内径が浮子の移動可能にて浮子の外径と等しく形成された上部と、浮子の外径よりも大きく、連通孔を介して液体計量部に連通し、内周面に浮子を上部にガイドするガイド突条が形成された下部とに分かれていることを特徴とする液体計量充填装置。
【請求項2】
浮子は中空球形或いは天井部側の頭部が半球形、胴部が円筒状の砲弾型で、内部が空洞状態に形成されている事を特徴とする請求項1に記載の液体計量充填装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−255606(P2010−255606A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109599(P2009−109599)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000114709)ヤック株式会社 (22)
【Fターム(参考)】