説明

液化ガスタンクの断熱構造

【課題】タンク2の外面を覆う合成樹脂発泡体の断熱部材1が、前記タンク2の外面側に立設されたスタッドボルト3に突き刺されて取り付けられた液化ガスタンクの断熱構造において、温度変化に伴う断熱部材1の伸縮に伴うクラックの発生を防止することができ、しかも安価な価格で容易に構築することができる液化ガスタンクの断熱構造を提供する。
【解決手段】断熱部材1を、相互に一体化することなく、それぞれ1本のスタッドボルト3のみに突き刺し、上下の積み重ね位置を千鳥にずらせて複数枚重ねて設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液化プロパンガス、液化エチレンガス、液化天然ガスなどの液化ガスの輸送や備蓄に用いられる液化ガスタンクの断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液化ガスタンクの断熱構造としては、特許文献1に記載されているように、断熱部材を、それぞれタンクの外面に立設した複数のスタッドボルトに突き刺し、タンクを覆って取り付けた構造が知られている。断熱部材は、下部防熱部材と上部防熱部材を一体化したもので、下部防熱部材は補強繊維を含有させた硬質ポリウレタンやフェノール樹脂の発泡体などで構成されており、上部防熱部材は硬質ポリウレタン、フェノール樹脂、ポリスチレンの発泡体などで構成されている。下部防熱部材と上部防熱部材は、発泡時の自己接着作用又は接着剤により一体化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2720322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の断熱構造には、次のような問題がある。
【0005】
(1)各断熱部材が複数のスタッドボルトによって固定されているので、温度変化に伴う伸縮により、スタッドボルトで固定した部分に力が作用し、クラックが発生しやすい。クラックは、断熱性を低下させる原因となる。
【0006】
(2)断熱部材の内面はタンク内に収納している液化ガスにより極めて低い温度に晒される反面、断熱部材の外面は外気温に近い温度であり、両者間に大きな温度差を生じる。上記従来の断熱構造で用いる断熱部材は、低温となる下部防熱部材を熱伸縮しにくい材質としているが、厚さ方向に一体となっているので、内面と外面の温度差により、厚さ内に剪断力が作用しやすく、やはりクラックが発生する原因となる。
【0007】
(3)断熱部材の製造時に、下部防熱部材と上部防熱部材を一体化する工程が必要となり、断熱部材の製造に手間がかかると共に、各断熱部材を複数のスタッドボルトにナットをねじ込んで締め付けて取り付けているので、ナットをねじ込んで締め付けるスタッドボルトの本数が多く、構築に手間がかかる。これらはコストアップの原因となる。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、温度変化に伴う断熱部材の伸縮に伴うクラックの発生を防止することができ、しかも安価で容易に構築することができる液化ガスタンクの断熱構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的のために、タンクの外面を覆う合成樹脂発泡体の断熱部材が、前記タンクの外面側に立設されたスタッドボルトに突き刺されて取り付けられた液化ガスタンクの断熱構造において、
前記断熱部材が、相互に一体化されることなく、それぞれ1本のスタッドボルトのみに突き刺されて、上下に複数枚重ねて取り付けられた板状体で、しかも上下方向に相隣接する断熱部材が互いに千鳥に重ねられていることを特徴とする液化ガスタンクの断熱構造を提供するものである。
【0010】
上記本発明は、前記断熱部材が、その表裏に、表裏共に縦又は横いずれか同じ方向に並列され、しかも表裏で形成位置をずらせた圧縮溝を有していると共に、該圧縮溝の並列方向に圧縮された状態で取り付けられていること、
左右方向に相隣接する前記断熱部材の圧縮溝の並列方向が縦方向と横方向交互に入れ換えられていること
をその好ましい態様として含むものである。
【0011】
なお、本発明において、上下方向とは断熱部材の積み重ね方向をいい、左右方向とは同じ積み重ね位置(高さ)における断熱部材の並列方向をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明における断熱部材は、相互に一体化されることなく、それぞれ1本のスタッドボルトのみに突き刺されて取り付けられているので、各断熱部材の伸縮はスタッドボルトに拘束されない。従って、温度変化に伴って伸縮しても無理な力が加わることがなく、クラックの発生を防止することができる。また、上下方向についても、複数枚が一体化されることなく重ねられているので、内面側の断熱部材と外面側の断熱部材はそれぞれ自由に伸縮することができ、内面と外面に大きな温度差があっても、厚さ内に大きな剪断力が作用することを防止することができる。
【0013】
ところで、本発明における断熱部材は上記のように自由に伸縮可能であることから、収縮により、相隣接する断熱部材間に隙間を生じ、断熱力が低下する恐れがある。しかし、本発明における断熱部材は、上下に千鳥に重ねられていることから、隙間が内面から外面へと連続した状態で形成されにくく、断熱力の低下を最小限に抑制することができる。
【0014】
本発明で用いる断熱部材はそれぞれバラバラの板状体で、一体化する必要がない。従って、断熱部材の製造工程における一体化工程が不要となる。加えて、本発明における各断熱部材は、それぞれ1本のスタッドボルトで取り付けられているので、1枚の断熱部材を複数のスタッドボルトを用いて取り付ける場合に比してスタッドボルトの数が少なくて済む。また、スタッドボルトの本数が少ない分、スタッドボルトへねじ込むナットの数も減るので、施工の手間が軽減される。これらのことから、本発明の断熱構造は、その構築コストを低廉に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造の一例を示す図で、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図2】本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造における最下段の断熱部材を設置した状態を示す図で、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図3】本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造における2段目の断熱部材を設置した状態を示す図で、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図4】本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造における断熱部材の設置を完了した状態を示す図で、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図5】本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造の他の例に用いる断熱部材の側面図で、(a)は圧縮前の状態を示す図、(b)は圧縮後の状態を示す図である。
【図6】本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造の他の例における断熱部材の配列状態を示す平面図である。
【図7】図5に示す断熱部材を設置する場合に用いる補助具を示す図で、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。なお、以下に参照する図面において、同じ符号は同様の構成要素を示す。
【0017】
まず、図1(a),(b)に基づいて、本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造の一例を説明する。
【0018】
図示されるように、多数の板状の断熱部材1が、タンク2の外面に熔接などで立設されたスタッドボルト3に突き刺されて設置されている。
【0019】
断熱部材1は、合成樹脂発泡体で構成されている。断熱部材1を構成する合成樹脂発泡体としては、例えばポリスチレン、硬質ポリウレタン、フェノール樹脂などの発泡体を用いることができる。これらの中でも、吸水性が低く、断熱性、機械的強度に優れることから、ポリスチレンの発泡体が好ましく、特に押出発泡成形品が好ましい。
【0020】
断熱部材1は、相互に一体化されることなく、タンク2の外面に沿って設置されており、それぞれ1本のスタッドボルト3のみに突き刺されて、上下に複数枚重ねて取り付けられている。各断熱部材1に突き刺されているスタッドボルト3は1本のみであるので、各断熱部材1は、熱による伸縮がスタッドボルト3で拘束されないものとなっている。また、上下方向に相隣接する断熱部材1は互いに千鳥に位置をずらせて重ねられている。このため、下側の断熱部材1同士の継ぎ目と、上側の断熱部材1同士の継ぎ目との位置がずれており、上下の継ぎ目が長さ方向に重なって連通することによる断熱性の低下を防止できるようになっている。
【0021】
各断熱部材1の平面形状は、通常は正方形であるが、他の矩形形状とすることもできる。各断熱部材1には、断熱部材1の対角線の長さをLとした時に、一つのコーナー部から、当該コーナー部を起点とする対角線に沿ってL/4だけ内側へ入った位置にスタッドボルト3が突き刺されて貫通している。断熱部材1のこのような位置をスタッドボルト3が貫通していることにより、千鳥に位置がずらされて重ねられた断熱部材1に対してそれぞれ1本のスタッドボルト3を貫通させることができる。
【0022】
本例では、上下に4枚の断熱部材1が重ねられているが、重ねる枚数は、各断熱部材1の厚さや要求される断熱性などに応じて選択することができる。本例における最上段の断熱部材1には、断熱部材1を直射日光や外力から保護するための表面材4が付設されている。表面材4としては、例えばガルバリウム鋼板などの金属板を用いることができる。また、最上段の断熱部材1の上面には、スタッドボルト3の先端部に対応する位置に凹部5が形成されており、この凹部5内でスタッドボルト3の先端にナット6をねじ込んで締め付けることで、積み重ねた断熱部材1をタンク2との間に挟み付けて固定している。凹部5内は、ナット6の締め付け後に注入した断熱性充填材7で満たされており、スタッドボルト3の熱橋化が抑制されている。断熱性充填材7としては、現場発泡型のポリウレタンを用いることができる。断熱性充填材7が満たされた凹部5上は蓋材8で閉鎖されている。蓋材8としては前記表面材4と同様の金属板を用いることができる。表面材4同士間の継ぎ目や、表面材4と蓋材8間の継ぎ目は、例えば金属テープなどでシールしておくことが好ましい。
【0023】
断熱部材1としては、前記のように、ポリスチレンの押出発泡成形品が好ましいが、最も低温に晒される最下段の断熱部材1は、熱伸縮量が小さいフェノール樹脂の発泡体で構成した板状体とすることが好ましい。また、最下段の断熱部材1は、ガラス繊維などの補強材を混入したフェノール樹脂の発泡体で構成することがより好ましい。
【0024】
次に、図2〜図5に基づいて本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造の構築手順を説明する。
【0025】
まず、図2(a),(b)に示されるように、タンク2の外面に立設されたスタッドボルト3に最下段の断熱部材1を突き刺して設置する。スタッドボルト3の突き刺し位置は、断熱部材1の対角線の長さをLとした時に、一つのコーナー部から、当該コーナー部を起点とする対角線に沿ってL/4だけ内側へ入った位置で、1枚の断熱部材1に1本のスタッドボルト3を突き刺す。また、最下段の断熱部材1の設置に先立って、断熱部材1の設置面の不陸を調整するための不陸調整材をタンク2の外面に付設することができる。この不陸調整材としては、通常合成樹脂系の接着性塗布材が用いられるので、不陸調整材を用いて最下段の断熱部材1をタンク2の外面に接着することもできる。
【0026】
次に、図3(a),(b)に示されるように、2段目の断熱部材1をスタッドボルト3に突き刺して、最下段の断熱部材1上に設置する。スタッドボルト3の突き刺し位置は上記と同様である。この時、最下段の断熱部材1と2段目の断熱部材1の位置を千鳥にずらせて重ねる。図3(b)において、実線は2段目の断熱部材1間の継ぎ目を示し、破線は最下段の断熱部材1間の継ぎ目を示す。
【0027】
断熱部材1をスタッドボルト3に突き刺して、下段の断熱部材1上に位置を千鳥にずらせて重ねる作業を繰り返し、図4(a),(b)に示されるように、表面材4及び凹部5を有する断熱部材1を最上段に設置する。断熱部材1の設置は、上下方向及び左右方向に隣接する断熱部材1同士を接着などで一体化することなく行う。そして、最上段の断熱部材1の凹部5内に突出したスタッドボルト3に必要に応じて座金等を差し込んだ後、ナット6をねじ込みんで締め付け、積み重ねた断熱部材1を押さえ付ける。ナット6のねじ込み後、凹部5内に断熱性充填材7を注入し、蓋材8を被せ、表面材4同士間の継ぎ目と、表面材4と蓋材8間の継ぎ目をそれぞれ必要に応じて金属テープなどで塞いで構築を完了する。
【0028】
次に、図5及び図6に基づいて、本発明に係る液化ガスタンクの断熱構造の他の例について説明する。
【0029】
本例に用いる断熱部材1’は、図5(a)に示されるように、その表裏に、表裏共に縦又は横いずれか同じ方向に並列され、しかも表裏で形成位置をずらせた圧縮溝9を有する板状体となっている。この圧縮溝9は、いわば断熱部材1’を蛇腹状にするもので、図5(b)に示すように、圧縮溝9の並列方向に押圧することで圧縮溝9が潰れ、断熱部材1’を容易に圧縮可能としている。
【0030】
上記圧縮溝9付きの断熱部材1’を用い、各断熱部材1’を圧縮溝9の並列方向に圧縮して配置すると共に、左右方向に隣接する断熱部材1’の圧縮溝9の並列方向が縦方向と横方向交互に入れ換えられるように配置する。このようにすると、断熱部材1’がタンク2(図1参照)内の液化ガスで冷却されて収縮しても、断熱部材1’が圧縮状態から復帰することで収縮を吸収し、左右方向に隣接する断熱部材1’同士間の継ぎ目が広がることを抑制することができる。
【0031】
上記圧縮溝9付きの断熱部材1’の設置は、例えば図7(a),(b)に示されるように、対向する圧縮用の傾斜面10を有するガイド枠11を用い、このガイド枠11内に断熱部材1を押し込むことで、圧縮して所定の位置へ押し込むことで行うことができる。対向する傾斜面10間の上部の間隔は圧縮前の断熱部材1’の間隔となっており、対向する傾斜面10間の下部の間隔は圧縮後の断熱部材1’の間隔となっている。圧縮した断熱部材1が弾性復帰することで作業が行いにくい場合には、断熱部材1の熱伸縮を許容する粘着力の粘着剤で仮止めしながら設置することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1,1’ 断熱部材
2 タンク
3 スタッドボルト
4 表面材
5 凹部
6 ナット
7 断熱性充填材
8 蓋材
9 圧縮溝
10 傾斜面
11 ガイド枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクの外面を覆う合成樹脂発泡体の断熱部材が、前記タンクの外面側に立設されたスタッドボルトに突き刺されて取り付けられた液化ガスタンクの断熱構造において、
前記断熱部材が、相互に一体化されることなく、それぞれ1本のスタッドボルトのみに突き刺されて、上下に複数枚重ねて取り付けられた板状体で、しかも上下方向に相隣接する断熱部材が互いに千鳥に重ねられていることを特徴とする液化ガスタンクの断熱構造。
【請求項2】
前記断熱部材が、その表裏に、表裏共に縦又は横いずれか同じ方向に並列され、しかも表裏で形成位置をずらせた圧縮溝を有していると共に、該圧縮溝の並列方向に圧縮された状態で取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の液化ガスタンクの断熱構造。
【請求項3】
左右方向に相隣接する前記断熱部材の圧縮溝の並列方向が縦方向と横方向交互に入れ換えられていることを特徴とする請求項2に記載の液化ガスタンクの断熱構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−11326(P2013−11326A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145321(P2011−145321)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000109196)ダウ化工株式会社 (69)
【Fターム(参考)】