説明

液圧回転機の損傷検出装置

【課題】液圧回転機を稼働することなく液圧回転機内部の摺動部材の損傷を検出できる液圧回転機の損傷検出装置を提供する。
【解決手段】液圧回転機と、蓄圧装置と、液圧回転機の少なくとも1つ以上の給排ポートと蓄圧装置の吐出側とを接続する油路の連通または遮断を切換える切換弁と、給排ポートのポート圧力を計測する第1圧力計測手段と、ケース内圧を計測する第2圧力計測手段と、内部の摺動部材の損傷状態を検出する損傷状態検出手段とを備え、損傷状態検出手段は、液圧回転機の停止を検知する停止検知手段と、蓄圧装置から液圧回転機の給排ポートへ作動油を導入する切換弁駆動手段と、第1圧力計測手段で計測したポート圧力から所定の関数を演算し基準内圧値を算出する第1演算手段と、第1演算手段で算出した基準内圧値と第2圧力計測手段で計測されたケース内圧値とを比較演算する第2演算手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧回転機の損傷検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液圧回転機である油圧ポンプにおける故障部位を簡素な構成で特定する為に、油圧ポンプの内部圧力と吐出圧力とを検出し、これらの検出値に基づいて油圧ポンプ内部の摺動部材の摩耗状態を診断する油圧ポンプの診断装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−77804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した油圧ポンプの診断装置は、油圧ポンプの吐出圧力を検出するために油圧ポンプを稼動させる必要がある。このことは、例えば、停止時に油圧ポンプ内部の摺動部材が損傷していた場合であっても、油圧ポンプの診断のための稼働を必要とするため、油圧ポンプ内部の摺動部材の損傷をさらに拡大してしまう虞があった。
【0005】
また、油圧ポンプ稼働時における油圧ポンプ内部圧力と吐出圧力の検出値は、絶えず動的に変動するため、例えば、小さな損傷を示唆する油圧ポンプ内部圧力の小さな変化が生じたとしても、これを検知するのは困難であった。この結果、例えば、ある程度まで摩耗状態や損傷が進行しないと油圧ポンプ内部の摺動部材の損傷を診断できないという問題があった。
【0006】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、液圧回転機を稼働することなく液圧回転機内部の摺動部材の損傷を検出できる液圧回転機の損傷検出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、少なくとも2つ以上の給排ポートを備える液圧回転機の損傷検出装置であって、作動油を蓄圧する蓄圧装置と、前記液圧回転機の少なくとも1つ以上の給排ポートと前記蓄圧装置の吐出側とを接続する油路の連通または遮断を切換える切換弁と、前記液圧回転機の給排ポートのポート圧力を計測する第1圧力計測手段と、前記液圧回転機のケース内圧を計測する第2圧力計測手段と、前記液圧回転機内部の摺動部材の損傷状態を検出する損傷状態検出手段とを備え、前記損傷状態検出手段は、前記液圧回転機の停止を検知する停止検知手段と、前記蓄圧装置から前記液圧回転機の給排ポートへ作動油を導入する切換弁駆動手段と、前記第1圧力計測手段で計測した前記ポート圧力から所定の関数を演算し基準内圧値を算出する第1演算手段と、前記第1演算手段で算出した前記基準内圧値と前記第2圧力計測手段で計測した前記ケース内圧値とを比較演算する第2演算手段とを備えたものとする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記損傷状態検出手段で検出した前記液圧回転機内部の摺動部材の損傷状態を報知する報知手段を更に備えたことを特徴とする。
【0009】
更に、第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記液圧回転機は、可変容量機構を備える可変容量形であって、前記可変容量機構により前記液圧回転機の押しのけ容積を最小にする逆回転防止手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記切換弁は、前記液圧回転機の全ての給排ポートと前記蓄圧装置を連通可能としたことを特徴とする。
【0011】
更に、第5の発明は、第1乃至第4の発明のいずれかにおいて、前記液圧回転機のケース内圧を測定する前記第2圧力測定手段は、前記液圧回転機のドレンを排出するドレンポート又は前記ドレンポートとタンクを接続するドレン配管に可変絞り機構を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第1乃至第4の発明のいずれかにおいて、前記蓄圧装置は、液圧アクチュエータからの戻り油の圧力エネルギーを蓄圧する蓄圧手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液圧回転機を稼動することなく停止状態において、蓄圧装置から液圧回転機に供給される圧油の液圧回転機の吸排ポートにおけるポート圧力とケース内部の圧力とを計測することにより、液圧回転機の内部の損傷を安全かつ正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態が適用される油圧ポンプ側部断面図である。
【図2】本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。
【図3】本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態の処理内容を示すフローチャート図である。
【図4】本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態におけるポート圧力とケース内圧の関係を示す特性図である。
【図5】本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第2の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。
【図6】本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第3の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。
【図7】本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第4の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。
【図8】本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第5の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の液圧回転機の損傷検出装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態が適用される油圧ポンプ側部断面図、図2は本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図、図3は本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態の処理内容を示すフローチャート図、図4は本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態におけるポート圧力とケース内圧の関係を示す特性図である。
【0017】
本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態が適用される油圧ポンプ1は、図1に示すように、ケース2と、カバー3と、軸受4a、4bと、回転軸5と、ロータ6と、ピストン8と、シュー9と、斜板10と、弁部材11とを備えて構成されている。
【0018】
ケース2は、内部にその他の部品を収容し、作動油を吸入する吸入ポート12と、作動油を吐出する吐出ポート13と、ケース内部の作動油を排出するためのドレンポート15とを備え、カバー3により閉塞されている。
回転軸5は、ケース2に固定された軸受4aとカバー3に固定された軸受4bにより回転可能に支持されている。ロータ6は、複数のシリンダ7を備え回転軸5と一体に回転可能に設けられている。ピストン8は、ロータ6の各シリンダ7に挿入され、往復運動可能に設けられ、突出側の端部には斜板10と摺接するシュー9を備えている。斜板10は、ケース2に傾転可能に支持され、シュー9の端面が円軌道を描いて摺接するように設けられている。弁部材11は、ロータ6の端面と摺接し、吸入ポート12および吐出ポート13とシリンダ7との連通/遮断を切り替える連通ポート14を備え、ケース2に固定されている。
【0019】
本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態の油圧回路を図2に示す。図2において、油圧ポンプ1の吸入ポート12とドレンポート15は、それぞれ吸入配管27とドレン配管28を介してタンク22に接続されている。油圧ポンプ1の吐出ポート13は、吐出配管26を介して図示しない各アクチュエータに作動油を供給する制御弁23に接続されている。
【0020】
蓄圧装置25は、例えば、アキュムレータ等で構成され、作動油を蓄圧すると共に、蓄圧された作動油を必要に応じて吐出可能とするものである。蓄圧装置25の吐出側は、油路の連通/遮断を切り替える2ポート2位置型の切換弁24を介して吐出配管26に接続されている。吐出配管26には、油圧ポンプ1の吐出ポート13における作動油のポート圧力を計測するための圧力計29が設けられていて、第1圧力計測手段を構成している。ドレン配管28には、油圧ポンプ1のケース2の内圧を計測するための圧力計30が設けられていて、第2圧力計測手段を構成している。さらに圧力計29と圧力計30の出力信号は信号処理装置31に入力されている。また、信号処理装置31からは、運転室のモニタ等の報知装置40へ診断内容を表す信号が出力されている。
【0021】
次に、本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態の動作を図1乃至図4を用いて説明する。
まず、動作の概要について説明する。油圧ポンプ1の停止を例えば、回転数等から判断する停止検知手段により検知した状態において、制御弁23を動作させて、吐出配管26を遮断する。次に、切換弁駆動手段により切換弁24を連通位置に切り替えて蓄圧装置25に蓄えられた圧油を吐出配管26へと導く。この結果、蓄圧装置25からの圧油の一部は、油圧ポンプ1の吐出ポート13とケース2の内部を結ぶ経路上の摺動部の隙間を通ってケース2の内部へと流れる。
【0022】
ここで摺動部の隙間とは、図1において、例えば、ロータ6と弁部材11の摺動部、ロータ6とピストン8の摺動部、シュー9と斜板10の摺動部のいずれか又は全ての摺動部の隙間ことである。
【0023】
油圧ポンプ1の吐出ポート13とケース2の内部を結ぶ経路上のいずれかの摺動部材が摩耗により損傷していると、油圧ポンプ1の吐出ポート13とケース2の内部を結ぶ経路の断面積が大きくなる。この経路の断面積が大きいほど、多くの圧油が油圧ポンプ1の吐出ポート13からケース2の内部へと流れるため、ケース2の内圧が増大する。
【0024】
本実施の形態において、液圧回転機の損傷検出装置は、圧力計29および30によって計測したポート圧力およびケース2の内圧に基づき、信号処理装置31で演算処理を行い油圧ポンプ1の摺動部材の摩耗を判定する。
【0025】
次に、信号処理装置31の処理内容等について図3及び図4を用いて説明する。
【0026】
まず、図3のステップ(S100)では、油圧ポンプ1の停止を確認する。具体的には、停止検知手段により、例えば、油圧ポンプ1の回転数等を取り込み、所定回転数と比較することで停止を判断する。本実施の形態における損傷検出装置は、液圧回転機である油圧ポンプ1が稼働していない状態で損傷検出することを特徴とするものであり、油圧ポンプ1の停止を前提条件としている。このステップ(S100)でYESと判断された場合には、ステップ(S101)に移り、NOと判断された場合は、YESと判断されるまで繰り返し行われる。
【0027】
ステップ(S101)では、ポート圧力Pおよびケース2の内圧Pdを測定する。具体的には、切換弁駆動手段により蓄圧装置25に蓄えられた圧油を油圧ポンプ1の吐出ポート13とケース2の内部へと導入し、圧力計29および圧力計30によって計測したポート圧力Pおよびケース2の内圧Pdの出力信号を信号処理装置31に入力している。
【0028】
ステップ(S102)では、ポート圧力Pに基づきfc(P)およびfd(P)を算出する。具体的には、信号処理装置31において、第1演算手段としてポート圧力Pを変数とする関数であるfc(P)とfd(P)とを算出している。図4にその特性を示している。ここで、関数fc(P)とfd(P)とは、ポート圧力値Pに対応する各基準内圧値を示している。
【0029】
ステップ(S103)では、ステップ(S102)で算出したfc(P)がステップ(S101)で測定したケース2の内圧Pdより大きいか否かの判断を行う。具体的には、信号処理装置31において、第2演算手段としてステップ(S102)で算出した基準内圧値とステップ(S101)で測定したケース2の内圧値Pdとの大小比較を演算する。
【0030】
ステップ(S103)で、fc(P)がケース2の内圧値Pdより大きい場合YESと判断されステップ(S105)に進み、ケース2の内圧値Pdと等しいか小さい場合NOと判断されてステップ(S104)へ進む。
【0031】
ステップ(S104)では、ステップ(S102)で算出したfd(P)がステップ(S101)で測定したケース2の内圧Pdより大きいか否かの判断を行う。具体的には、信号処理装置31において、第2演算手段としてステップ(S102)で算出した基準内圧値とステップ(S101)で測定したケース2の内圧値Pdとの大小比較を演算する。
【0032】
ステップ(S104)で、fd(P)がケース2の内圧Pdより大きい場合YESと判断されステップ(S106)に進み、ケース2の内圧Pdと等しいか小さい場合NOと判断されてステップ(S107)へ進む。
【0033】
ステップ(S105)は、ケース2の内圧Pdよりfc(P)が大きい場合である。この場合、信号処理装置31は、図4に示すように油圧ポンプ1の摺動部材は正常であると判断し、報知装置40へ摩耗状態正常を出力する。報知装置40は摩耗状態が正常であることを報知する。
【0034】
ステップ(S106)は、ケース2の内圧Pdよりfd(P)が大きい場合である。この場合、信号処理装置31は、図4に示すように油圧ポンプ1の摺動部材には小さな損傷が存在すると判断し、報知装置40へ摩耗状態は注意状態であることを出力する。報知装置40は摩耗状態が注意を要することを報知する。
【0035】
ステップ(S107)は、ケース2の内圧Pdよりfd(P)が等しいか小さい場合である。この場合、信号処理装置31は、図4に示すように油圧ポンプ1の摺動部材には大きな損傷が存在すると判断し、報知装置40へ摩耗状態は警告状態であることを出力する。報知装置40は摩耗状態が警戒を要することを報知する。
【0036】
上述した本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態によれば、液圧回転機である油圧ポンプ1を稼動することなく停止状態において、蓄圧装置25から油圧ポンプ1に供給される圧油の油圧ポンプ1における吸排ポートのポート圧力Pとケース2の内部の圧力Pdとを計測することにより、油圧ポンプ1の内部の損傷を安全かつ正確に検出することができる。
【0037】
また、上述した本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態によれば、液圧回転機である油圧ポンプ1を停止した状態で油圧ポンプ1の摺動部材の摩耗による損傷を検出できるので、損傷を拡大させることなく安全に検出することができる。
【0038】
更に、上述した本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態によれば、蓄圧装置25に蓄えられた静的な圧力により油圧ポンプ1の摺動部材の摩耗による損傷を検出するため、ケース2の内圧を静的に計測することができ、正確に損傷を検出することができる。
【0039】
また、上述した本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第1の実施の形態によれば、報知装置40により、例えば運転者に油圧ポンプ1の内部の損傷を報知するので、損傷の拡大を防止することができる。
【0040】
なお、報知装置40の態様としては、運転室のモニタ等で診断内容をオペレータ等に報知する例を説明したが、これに限るものではない。例えば、診断内容のデータをメーカあるいはユーザ等の機械を管理する基地局のホストコンピュータ等に送信して報知してもよい。また、報知とは、注意喚起等を目的とするものに限るものではなく、例えば、情報の蓄積を目的とするものであってもよい。
【実施例2】
【0041】
以下、本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第2の実施の形態を図面を用いて説明する。図5は本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第2の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。図5において、図1乃至図4に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
本実施の形態においては、液圧回転機である油圧ポンプ1を可変容量型とし、可変容量機構32を設けてある点が、上述した第1の実施の形態と異なる。その他の構成設備等は第1の実施の形態と同一である。第1の実施の形態において、切換弁24を連通状態に切り替えて蓄圧装置25に蓄えられた圧油を吐出配管26から油圧ポンプ1の吐出ポート13へと導くが、この際に油圧ポンプ1が逆回転してしまう虞がある。そこで、本実施の形態においては、逆回転防止手段を設けている。
【0042】
図5において、可変容量型の油圧ポンプ1は、可変容量機構32を備えている。可変容量機構32は図示しない制御装置等からの指令信号により制御されているが、本実施の形態においては、信号処理装置31からの指令によっても制御されている。
【0043】
まず、上述した油圧ポンプ1の逆回転の発生について説明する。
切換弁24を切り替えて蓄圧装置25の圧油を油圧ポンプ1の吐出ポート13へと導くと、モータ作用により油圧ポンプ1の回転軸5に(数1)の式に示すトルクTが発生する。
【0044】
【数1】

【0045】
ここで、Vgは押しのけ容積、ΔPは吐出ポート13の圧力と吸入ポート12の圧力の差圧、ηはトルク効率を示している。
【0046】
トルク効率ηは機器の構成により決まるものであり、ここでは機器固有の定数として扱う。一方、吸入ポート12はタンク22に接続されているため、吸入ポート12のポート圧力を無視した場合、ΔPは吐出ポート13のポート圧力と等しくなる。トルク効率ηを定数とし、ΔPを吐出ポート13のポート圧力とすると、油圧ポンプ1の回転軸5に生じるトルクTは油圧ポンプ1の吐出ポート13のポート圧力と押しのけ容積Vgによって決まることになる。
【0047】
つまり、押しのけ容積Vgが小さければ、トルクTも小さくなる。したがって、切換弁24を切り替えて蓄圧装置25の圧油を油圧ポンプ1の吐出ポート13へ導く前に、可変容量機構32により油圧ポンプ1の押しのけ容積Vgを最小にすることで、蓄圧装置25からの圧油の導入により油圧ポンプ1の回転軸5に生じるトルクTを最小にすることができる。
【0048】
蓄圧装置25の圧油により油圧ポンプ1の回転軸5に生じるトルクTを油圧ポンプ1の回転軸5を回転させるのに必要なトルクより小さくすれば、油圧ポンプ1の回転軸5が逆回転するのを防止できる。
【0049】
したがって、本実施の形態においては、逆回転防止手段を設け、制御弁23を動作させて、吐出配管26を遮断した後で、切換弁24を連通状態に切り替えて蓄圧装置25に蓄えられた圧油を油圧ポンプ1の吐出ポート13へと導く前に、信号処理装置31から可変容量機構32へ押しのけ容積Vg最小指令を出力している。
【0050】
上述した本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第2の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様な効果を得ることができるとともに、可変容量機構32により液圧回転機である油圧ポンプ1の押しのけ容積を最小にすることで、蓄圧装置25からの圧油により油圧ポンプ1の回転軸5に生じるトルクを最小にし、油圧ポンプ1の回転軸5が逆回転するのを防ぐことができる。
【実施例3】
【0051】
以下、本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第3の実施の形態を図面を用いて説明する。図6は本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第3の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。図6において、図1乃至図5に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
第2の実施の形態においては、可変容量機構32により液圧回転機の回転軸が逆回転するのを防ぐ逆回転防止手段について説明したが、本実施の形態においては、同様に液圧回転機の回転軸が逆回転するのを防ぐ他の実施例について説明する。したがって、以下に言及する構成設備以外のその他の構成設備等は第2の実施の形態と同一である。
【0052】
図6において、蓄圧装置25は、油路の連通/遮断を切換える4ポート2位置型の切換弁24Aを介して吐出配管26と吸入配管27とに接続されている。制御弁23には、同様に油路の連通/遮断を切換える切換弁24Aを介して吐出配管26が接続されている。また、蓄圧装置25からの圧油がタンク22に流入しないように吸入配管27のタンク22側の経路上に逆止弁33が設けられている。
【0053】
次に、本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第3の実施の形態の動作を図6を用いて説明する。
油圧ポンプ1が停止した状態において、切換弁24Aを連通位置に切り替えて蓄圧装置25に蓄えられた圧油を吐出配管26および吸入配管27へと導く。この結果、蓄圧装置25からの圧油は、油圧ポンプ1の吐出ポート13および吸入ポート12に導かれる。蓄圧装置25からの圧油の一部は、油圧ポンプ1の吸入ポート12とケース2の内部を結ぶ経路上の摺動部の隙間を通ってケース2の内部へと流れる。
【0054】
油圧ポンプ1の吸入ポート12とケース2の内部を結ぶ経路上の摺動部材が摩耗により損傷していると、油圧ポンプ1の吸入ポート12とケース2の内部を結ぶ経路の断面積が大きくなり、この経路の断面積が大きいほど、多くの圧油が油圧ポンプ1の吸入ポート12からケース2の内部へ流れるため、ケース2の内圧が増大する。また、吐出ポート13の圧力と吸入ポート12の圧力が等しくなるため、第2の実施の形態における(数1)の式におけるΔPはほぼゼロとなる。このため、蓄圧装置25からの圧油の流入によって油圧ポンプ1の回転軸5に生じるトルクもほぼゼロとなる。
【0055】
したがって、本実施の形態においては、第2の実施の形態のような逆回転防止手段を設ける必要はない。
【0056】
上述した本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第3の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様な効果を得ることができるとともに、以下の作用効果を奏する。
(1)液圧回転機である油圧ポンプ1の全ての給排ポート12,13に蓄圧装置25の圧油を導くことで、油圧ポンプ1の全ての給排ポート12,13とケース2の内部を結ぶ経路上の摺動部材の摩耗による損傷を検出することができる。
(2)液圧回転機である油圧ポンプ1の全ての給排ポート12,13に蓄圧装置25の圧油を導くことで、油圧ポンプ1の回転軸5のトルクが相殺され、油圧ポンプ1の回転軸5が逆回転するのを防ぐことができる。
【実施例4】
【0057】
以下、本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第4の実施の形態を図面を用いて説明する。図7は本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第4の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。図7において、図1乃至図6に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
第4の実施の形態には、第3の実施の形態において、液圧回転機のケース2の内圧調整手段を更に設けたものである。したがって、以下に言及する構成設備以外のその他の構成設備等は第3の実施の形態と同一である。
【0058】
図7において、油圧ポンプ1のドレンポート15とタンク22とを接続するドレン配管28には、その経路上に油路の断面積を変更可能とする可変絞り機構34が設けられている。
【0059】
次に、本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第4の実施の形態の動作を図7を用いて説明する。
油圧ポンプ1が停止した状態において、切換弁24Aを連通位置に切り替えて蓄圧装置25に蓄えられた圧油を吐出配管26および吸入配管27へと導く。この結果、蓄圧装置25からの圧油は、油圧ポンプ1の吐出ポート13および吸入ポート12とケース内部を結ぶ経路上の摺動部の隙間を通ってケース2の内部に流れ、ケース2の内部からドレン配管28を通ってタンク22へと流れる。ここで、可変絞り機構34が設けられていない場合、吐出ポート13および吸入ポート12とケース2の内部を結ぶ経路上の摺動部の隙間を通ってケース内部に流れてきた蓄圧装置25からの圧油はドレンポート15からそのままタンク22へと流れてしまうため、ケース2の内圧は低い値となってしまう場合がある。
【0060】
このため、例えば、ケース2の内圧が、ドレン配管28に設置された圧力計30の計測可能範囲以下の場合には、ケース2の内圧を検出できなくなるという問題が生じる。そこで、本実施の形態においては、ドレン配管28の経路上に可変絞り機構34を設け、この絞り量を調整することでドレン配管28における圧力損失を調整可能とした。可変絞り機構34の絞り量を大きくすると、ドレン配管28の圧力損失が大きくなり、ケース2の内圧を圧力計30にて精度良く計測できる圧力範囲内に設定することができる。
【0061】
具体的には、工場等で事前に、可変絞り機構34の最適な絞り量の特性と設定値を決めておく。通常は、可変絞り機構34は絞らない状態で運用する。ポート圧力およびケース2の内圧を測定する前に可変絞り機構34を上述した所定の絞り量に調整し、絞り量を調整した後のポート圧力およびケース2の内圧を計測する。この結果、これらの圧力が正確に計測できるようになり、圧力測定の精度が向上するので、摺動部材の損傷が精度良く検出できるようになる。
【0062】
また、ポート圧力が低くてもケース2の内圧を上げることが可能となるため、油圧ポンプ1の給排ポート12,13に加えるポート圧力を高圧にする必要がなくなる。
【0063】
上述した本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第4の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様な効果を得ることができるとともに、以下の作用効果を奏する。
(1)可変絞り機構34により液圧回転機である油圧ポンプ1のケース2の内圧を調整することで、油圧ポンプ1のケース2の内圧を精度良く計測できる。
(2)液圧回転機である油圧ポンプ1の給排ポート12,13に加える圧力が小さくても、ケース2の内圧を上げることができるため、給排ポート12,13に加える圧力を低く抑えることができ安全に油圧ポンプ1の摩耗による損傷を検出することができる。
【実施例5】
【0064】
以下、本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第5の実施の形態を図面を用いて説明する。図8は本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第5の実施の形態の油圧回路を示す油圧回路図である。図8において、図1乃至図7に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
第5の実施の形態には、第4の実施の形態において、蓄圧装置25へ蓄圧するための蓄圧手段を更に設けたものである。したがって、以下に言及する構成設備以外のその他の構成設備等は第4の実施の形態と同一である。
【0065】
図8において、本発明の液圧回転機の損傷検出装置は、第4の実施の形態を構成する設備の他に、制御弁23と管路により接続されて駆動制御されるアクチュエータ35と、アクチュエータ35と制御弁23とを接続する管路に設けられ、アクチュエータ35から排出される圧油を蓄圧装置25へ蓄圧するために供給する蓄圧装置制御弁36とを備えている。
【0066】
本実施の形態において、例えば、アクチュエータ35で駆動している被駆動部材に外部から力が加わると、この外部からの力によりアクチュエータ35から強制的に圧油が排出されることになる。蓄圧装置制御弁36は、このアクチュエータ35から排出された圧油を蓄圧装置25へ供給制御することで、蓄圧装置25の蓄圧を制御している。
【0067】
上述した本発明の液圧回転機の損傷検出装置の第5の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様な効果を得ることができるとともに、以下の作用効果を奏する。
(1)アクチュエータ35から排出される圧油を蓄圧装置制御弁36で制御し、蓄圧装置25に蓄圧することで、アクチュエータ35から排出された圧油のエネルギーを液圧回転機の損傷を検出するためのエネルギーとして再利用することができる。
【0068】
なお、上述した本発明の実施の形態においては、油圧機器に関する損傷検出装置について説明したが、これに限るものではない。例えば、水圧など他の液圧による機器に対しても本発明は適用することができる。
【0069】
また、上述した本発明の実施の形態においては、回転運動を液圧に変換するポンプについて説明したが、これに限るものではない。例えば、液圧を回転運動に変換するモータなど他の液圧回転機に対しても本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 油圧ポンプ
2 ケース
3 カバー
4 軸受
5 回転軸
6 ロータ
8 ピストン
9 シュー
10 斜板
11 弁部材
12 吸入ポート
13 吐出ポート
15 ドレンポート
22 タンク
23 制御弁
24 切換弁
25 蓄圧装置
29 圧力計
30 圧力計
31 信号処理装置
32 可変容量機構
33 逆止弁
34 可変絞り機構
35 アクチュエータ
36 蓄圧装置制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つ以上の給排ポートを備える液圧回転機の損傷検出装置であって、作動油を蓄圧する蓄圧装置と、前記液圧回転機の少なくとも1つ以上の給排ポートと前記蓄圧装置の吐出側とを接続する油路の連通または遮断を切換える切換弁と、前記液圧回転機の給排ポートのポート圧力を計測する第1圧力計測手段と、前記液圧回転機のケース内圧を計測する第2圧力計測手段と、前記液圧回転機内部の摺動部材の損傷状態を検出する損傷状態検出手段とを備え、
前記損傷状態検出手段は、前記液圧回転機の停止を検知する停止検知手段と、前記蓄圧装置から前記液圧回転機の給排ポートへ作動油を導入する切換弁駆動手段と、前記第1圧力計測手段で計測した前記ポート圧力から所定の関数を演算し基準内圧値を算出する第1演算手段と、前記第1演算手段で算出した前記基準内圧値と前記第2圧力計測手段で計測した前記ケース内圧値とを比較演算する第2演算手段とを備えた
ことを特徴とする液圧回転機の損傷検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の液圧回転機の損傷検出装置において、
前記損傷状態検出手段で検出した前記液圧回転機内部の摺動部材の損傷状態を報知する報知手段を更に備えた
ことを特徴とする液圧回転機の損傷検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液圧回転機の損傷検出装置において、
前記液圧回転機は、可変容量機構を備える可変容量形であって、
前記可変容量機構により前記液圧回転機の押しのけ容積を最小にする
逆回転防止手段を備えた
ことを特徴とする液圧回転機の損傷検出装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液圧回転機の損傷検出装置において、
前記切換弁は、前記液圧回転機の全ての給排ポートと前記蓄圧装置を連通可能とした
ことを特徴とする液圧回転機の損傷検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液圧回転機の損傷検出装置において、
前記液圧回転機のケース内圧を測定する前記第2圧力測定手段は、前記液圧回転機のドレンを排出するドレンポート又は前記ドレンポートとタンクを接続するドレン配管に可変絞り機構を備えた
ことを特徴とする液圧回転機の損傷検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液圧回転機の損傷検出装置において、
前記蓄圧装置は、液圧アクチュエータからの戻り油の圧力エネルギーを蓄圧する蓄圧手段を備えた
ことを特徴とする液圧回転機の損傷検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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