説明

液晶組成物

【目的】 室温を含む広い温度範囲で反強誘電性スメクティック相を有し、低電圧で高速動作が可能な液晶組成物の提供。
【構成】


で示される化合物を含有し、室温域で反強誘電性のスメクティック液晶相を示す液晶組成物。(R1 はC1〜30アルキル基;R2 はC2〜20アルキル基;X1 は−O−、−OCO−、−COO−、−OCO2 −、−CO−;X2 、X3 は−OCO−、−COO−、−CH2 O−、−OCH2 −;k、m、nは0,1;ZはCF3 ,CH3 ;A1 、A2 は0〜2の窒素原子で置換された炭素6員環の基、又はそれらの同種、異種の炭素6員環の2〜3個がパラ位で直接又は、−COO−、−OCO−、−CH2 O−、−OCH2 −のいずれかの結合基を介して連結した基、又はそれらの基の環の水素原子がフッ素、メチル基、エチル基のいずれかで置換された基である。)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は表示体、ライトバルブ等に用いられる液晶組成物、更に詳しくは電気光学特性の改善された新規液晶組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】反強誘電性液晶の三状態間スイッチングは、従来の表面安定化強誘電性液晶(SSFLC)に見られるいくつかの本質的問題点を解消する方法の一つとして期待され活発に研究が進められている。(A.D.L.Chandani et al.: Jpn. J. Appl.Phys., 27, L729 (1988)、A.D.L.Chandani et al.: Jpn. J. Appl. Phys., 28, L1265 (1988)等。)
【0003】上記の三状態間スイッチングの主な特徴としては、(1)図4に示すような、電圧印加による反強誘電−強誘電相転移には、直流電圧に対する急峻なしきい値特性がある。
(2)反強誘電−強誘電相転移は図4に示すような幅の広い光学的ヒステリシスをともなうため、反強誘電相あるいは強誘電相を選択した後にバイアス電圧を印加しておけば、選択された状態を保持する事が出来る。
(3)電場誘起強誘電相における二つの配向状態を光学的に等価にする事が出来る。
(4)液晶内の電荷の偏りを防ぐ事が出来るため、SSFLCにみられる様な電気光学特性の経時変化が無い。
等が挙げられる。これらの特性を用いれば単純マトリクスにおいてデューティー比の制限なく時分割駆動ができる。
【0004】反強誘電液晶を用いた表示原理を図3を用いて説明する。図3(a)に示すように、反強誘電相での光軸OAはスメクティック相と直交している。図3(b)の如く透明電極4、5と液晶配向膜9、10を設けた2枚のガラス基板1、2間に液晶層6を挟持して成るセルを、互いに偏光軸の直交する偏光板11、12間において光軸OAがいずれかの偏光軸に平行となる様に設置すると素子は遮光状態(仮にOFF)となる。この状態において、図4の履歴特性の印加電圧の絶対値が|V(A−F)t|以下の電圧パルスを印加しても光透過率の変化は僅かであり、OFF状態を保持することが出来る。一方、絶対値が|V(A−F)s|以上の電圧パルスを印加した場合、パルスの極性に応じてそれぞれ図3R>3(a)に示すように、光軸はOF(+)及びOF(−)、自発分極はPs(+)及びPs(−)を有する強誘電相(+)と強誘電相(−)へ転移する。光軸が偏光軸と角度θ(+)またはθ(−)をなすため光透過状態(仮にON)となる。角度θ(+)とθ(−)が等しいので両者は光学的に等価として扱う事ができる。このような性質を示す液晶相は、4 −(1 −methylheptyloxycarbonyl )phenyl 4, −octyloxybiphenyl−4 −carboxylate (MHPOBC)において最初に発見され、反強誘電性カイラルスメクティックC相(SCA* 相)と呼ばれている。既に報告されている化合物、液晶組成物の例としては特開平1−213390号がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来の技術は以下に述べる様な二つの課題を持っている。一つは反強誘電相状態の安定性に関する課題である。一般的には直流電圧に対して急峻なしきい値特性を持つと言われており、マルチプレックス駆動において反強誘電相状態を選択した後に一方極性のバイアス電圧を印加した場合反強誘電相状態が保持出来ると考えられている。しかしながら、反強誘電相の状態に対して絶対値がしきい値以下(図4における|V(A−F)t|以下)の電界を印加しても、電界強度に応じて見かけのティルト角が変化して光透過率に影響を及ぼす事が知られている。(M.Johno et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 29. L107 (1990))。この現象は反強誘電相−強誘電相転移における相転移前駆現象といわれ、素子のコントラスト比を低下させ応用的見地からは好ましくない。
【0006】もう一つの課題は、強誘電状態から反強誘電状態への緩和速度が逆方向のスイッチングに於ける応答速度と比較して遅い事及びその緩和速度に温度依存性がみられるという問題である。緩和時間の遅さは液晶表示装置の電気特性として応答速度の遅さにつながり画面のちらつきの原因になる。従来の技術によれば、使用する液晶材料の応答特性にあわせて走査周波数を低く設定せざるを得ないため、画面のスクロールやポインティングデバイスの移動がスムースに行えないという問題点が生じていた。本発明は上記課題を解決するためのものであり、その目的とするところは、安定で且つ電気光学特性に優れた液晶組成物及び電気光学素子を提供するところにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、(1)
【化2】


で示される少なくとも1種の化合物を含有し、室温域で反強誘電性のスメクティック液晶相を示す液晶組成物。但し、式中R1 は炭素数1〜30のアルキル基、R2 は炭素数2〜20のアルキル基、X1 は−O−、−OCO−、−COO−、−OCO2 −、−CO−のいずれかの結合基、X2 、X3 はそれぞれ独立して−OCO−、−COO−、−CH2 O−、−OCH2 −のいずれかの結合基、k、m、n、はそれぞれ独立して0又は1の整数、ZはCF3 又はCH3 、A1 、A2 はそれぞれ独立して、0ないし2個の窒素原子で置換された炭素6員環の基、又はそれらの同種、異種の炭素6員環の2〜3個がパラ位で直接又は、−COO−、−OCO−、−CH2 O−、−OCH2 −のいずれかの結合基を介して連結した基、又はそれらの基の環の水素原子がフッ素、メチル基、エチル基のいずれかで置換された基である。C* は光学活性中心を表す。
【0008】上記式で示される液晶組成物において、X1 、X2 、X3 はそれぞれ結合基であり、k、m、nが整数1をとるとき存在し、Oをとるとき存在せず隣接する基は直接に結合される。A1 、A2 は同種の基であっても異種の基であってもよく、炭素6員環の炭素原子が窒素原子で置換されない場合はベンセン環となり、2個の窒素原子で置換される場合は例えばピリミジン環となる。窒素原子で置換された又はされない炭素6員環が2〜3個パラ位で連結されていてもよく、連結の態様はそれらが直接結合される場合と結合基を介して結合される場合のいずれであってもよい。A1 、A2 の一例を
【化3】


に示すが、もちろんこれらの基に限られるものではない。
【0009】(2)本発明は、上記(1)の液晶組成物に強誘電性液晶相の下限温度近傍において自発分極値が100nC/cm2 以上の強誘電性スメクティック相を示す液晶化合物を混合した液晶組成物を特徴とする。なお、混合する量は0.1〜30重量%程度が好ましい。混合する液晶化合物の例としては、実施例に示す化合物10の物質の他、
【化4】


等の物質があるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0010】(3)さらに、本発明は、上記(1)の液相組成物と単独でネマティック相及び/又はスメクティック相を有し、化学構造式中に2個の芳香環を含む化合物を混合した液晶組成物であることを特徴とする。2個の芳香環を含む化合物の例としては、
【化5】


(但し、RおよびR′はそれぞれ独立に炭素数2〜20程度の直鎖又は分岐構造を有するアルキル基、アルコキシ基等である。)などがあるが(六角形内にHを表示したものはシクロヘキサン環を示す。)、これらの構造を基に種々の結合基、置換基を導入した多数の液晶化合物が存在し、本発明に適用可能な化合物は上記に限定されるものではない。
【0011】(4)相転移系列が、高温側から等方相−スメクティックA相−反強誘電性スメクティック相、或いは等方相−スメクティックA相−カイラルスメクティックC相−反強誘電性スメクティック相である事を特徴とする。
【0012】
【作用】上記一般式の化合物を主成分として用いる事によりSCA* 相の実用的な温度範囲を確保し、液晶分子の配向に必要な相転移系列を整えるものである。強誘電性液晶相の下限温度近傍において自発分極値が100nC/cm2 以上の化合物は、組成物のしきい値電圧を低下させるとともに相転移前駆現象の効果を抑制する作用を持つ。また、化学構造式中に2個の芳香環を含む化合物は組成物の粘度を低下させる作用を持ち、強誘電相から反強誘電相への緩和時間を短縮するのに有効な成分である。
【0013】液晶組成物の相転移系列を高温側から等方相−スメクティックA相−反強誘電性スメクティック相、あるいは等方相−スメクティックA相−カイラルスメクティックC相−反強誘電性スメクティック相とすることにより、液晶組成物を等方相において素子に封入し冷却するプロセスにおいて、液晶分子はスメクティックA相の発現時に一軸性の配向状態をとり、低温側の相に転移しても層方向が維持されるため、面内で光軸の揃った均一な配向の反強誘電性スメクティック相を得ることが可能となる。
【0014】
【実施例】以下、具体的な実施例により本発明の詳細を説明する。試料としては、透明電極上にポリイミド配向膜を形成しラビング法による一軸性配向処理を施してギャップ1.7〜2.0μmとしたセルに本実施例の液晶組成物を加熱封入、徐冷し環境温度を反強誘電性カイラルスメクティックC相(SCA* 相)の温度範囲に保持した物を用いた。素子の構造は図3(b)に示されるものである。マルチプレックス駆動時の電気光学特性を評価する為に図1の駆動波形を上記素子に印加して各電圧レベルVW 、Vb 及びVd とパルス幅を最適化した時のコントラスト比ION/IOFF を測定した。図1(a)は走査電極に印加する電圧波形、図1(b)は信号電極に印加する電圧波形、図1(c)は液晶のセグメントに印加される電圧波形、図1(d)はセグメントの透過率の変化を示す図であり、いずれも横軸は時間を示す。また、強誘電相から反強誘電相への緩和時間は、図2(a)に示すように飽和値以上の電圧±VS を印加した後に電界を0レベルにして同図(b)のTd で表される値を測定した。
【0015】(実施例1)以下の重量%の組成により、液晶組成物を得た。
【化6】


で示される化合物(以下「化合物6」という。)を30。
【化7】


で示される化合物(以下「化合物7」という。)を20。
【化8】


で示される化合物(以下「化合物8」という。)を50。降温時の相転移温度は、I(77.1)SA (59.3)SCA*であった。かっこ内は相転移温度(℃)を示し、Iは等方相、SA はスメクティックA相、SCA* は反強誘電性カイラルスメクティックC相を示す。常誘電相−反強誘電相転移温度Tc は59.3℃である。
【0016】I( )SA ( )SCA* なる標記は、組成物の相転移系列が等方相(I)−スメクティックA相(SA )−反強誘電性カイラルスメクティックC相(SCA*)である事を表す。SCA* 相はカイラルスメクティックC相(SC * )の一形態であり自然な状態では双極子モーメントが隣接する層間で打ち消し合った反強誘電性を示すが、飽和値以上の電界が印加された状態では自発分極が誘起されて強誘電性を示す。電界印加によって強誘電性を示した状態は通常の強誘電性カイラルスメクティックC相(SC * )に等しい。また、カイラルスメクティックC相の高温域では強誘電性のみを示し、低温域で反強誘電性を示す場合も知られている(例えば公知物質としては前記のMHPOBC)。この場合の相転移系列は、等方相−スメクティックA相−カイラルスメクティックC相(SC * )−反強誘電性カイラルスメクティックC相(SCA* )となるが、SC * −SCA* 転移は通常の顕微鏡観察では識別出来ない事が多い。本発明実施例の組成物についてもこれら2種類の相系列を有していると考えられる。
【0017】30℃(換算温度TC −30℃=29.3℃)において図1の駆動波形により動作させたところ、VW =22v、Vd =3v、Vb =13v、パルス幅100μsなる設定においてION/IOFF =15であった。応答緩和時間Td =2.2ms、みかけのティルト角θ=35°であった。素子の透過光量Iは、I=I0 sin2 (2θ)sin2 (πΔnd/λ)
の式に従って、みかけのティルト角θに依存するので、θが45°以下で大きいほど、光利用効率の良い表示素子であることを示す。
【0018】(実施例2)以下の重量%の組成により、液晶組成物を得た。化合物6を90。
【化9】


で示される化合物(以下「化合物9」という。)を5。
【化10】


で示される化合物(以下「化合物10」という。)を5。化合物9はネマティック相、化合物10はスメクティック相を示す化合物であり、化合物10の自発分極値PS は240nC/cm2 である。降温時の相転移温度は、I(72.4)SA (62.9)SCA*であった。30℃(TC −30℃=32.9℃)において図1の駆動波形により動作させたところ、VW =18v、Vd =3v、Vb =10vパルス幅150μsからなる設定においてION/IOFF =23が得られた。応答緩和時間Td =1.8ms。見かけのティルト角θ=31°であった。
【0019】(実施例3)以下の重量%の組成により、液晶組成物を得た。化合物6を70。化合物8を10。
【化11】


で示される化合物を10。化合物9を5。化合物10を5。降温時の相転移温度は、I(72.3)SA (58.9)SCA*であった。30℃(TC −30℃=28.9℃)において図1の駆動波形により動作させたところ、VW =17v、Vd =2v、Vb =10vパルス幅150μsからなる設定においてION/IOFF =20が得られた。応答緩和時間Td =1.2msであった。
【0020】(実施例4)以下の重量%の組成により、液晶組成物を得た。化合物6を40。化合物7を26。化合物8を13。
【化12】


で示される化合物を15。化合物10を6。降温時の相転移温度は、I(68.4)SA (55.8)SCA*であった。30℃(TC −30℃=25.8℃)において図1の駆動波形により動作させたところ、VW =22v、Vd =3v、Vb =14v、パルス幅120μsからなる設定においてION/IOFF =20が得られた。応答緩和時間Td =1.7ms。見かけのティルト角θ=32°であった。
【0021】
【発明の効果】本発明によれば、良好な配向を得る様な相転移系列を有し、室温を含む広い温度範囲で安定な反強誘電性スメクティック相を示す液晶組成物を提供する事が出来た。電気光学特性が改善されたため表示体として用いた場合に高コントラストが実現でき、高速走査が可能である。本発明は高精細液晶表示装置やライトバルブ、空間光変調器などへの応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例の評価に用いた駆動電圧波形を表す図。
【図2】本発明実施例の評価に用いた駆動電圧波形を表す図。
【図3】本発明実施例に用いた素子の概略図。
【図4】本発明実施例に用いた素子の電気光学特性を説明する図。
【符号の説明】
OA 反強誘電相における光軸
OF(+) 強誘電相(+)における分子配向方向(光軸)
OF(−) 強誘電相(−)における分子配向方向(光軸)
1、2 ガラス基板
3 スペーサ材
4、5 透明電極
6 液晶層
9、10 液晶配向膜
11、12 偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】


で示される少なくとも1種の化合物を含有し、室温域で反強誘電性のスメクティック液晶相を示すことを特徴とする液晶組成物。但し、式中R1 は炭素数1〜30のアルキル基、R2 は炭素数2〜20のアルキル基、X1 は−O−、−OCO−、−COO−、−OCO2 −、−CO−のいずれかの結合基、X2 、X3 はそれぞれ独立して−OCO−、−COO−、−CH2 O−、−OCH2 −のいずれかの結合基、k、m、n、はそれぞれ独立して0又は1の整数、ZはCF3 又はCH3 、A1 、A2 はそれぞれ独立して、0ないし2個の窒素原子で置換された炭素6員環の基、又はそれらの同種、異種の炭素6員環の2〜3個がパラ位で直接又は、−COO−、−OCO−、−CH2 O−、−OCH2 −のいずれかの結合基を介して連結した基、又はそれらの基の環の水素原子がフッ素、メチル基、エチル基のいずれかで置換された基である。
【請求項2】 請求項1記載の液晶組成物に、強誘電性液晶相の下限温度近傍において自発分極値が100nC/cm2 以上の強誘電性スメクティック相を示す液晶化合物を混合したことを特徴とする液晶組成物。
【請求項3】 請求項1記載の液晶組成物に2個の芳香環を有しかつネマティック相及び/又はスメクティック相を示す液晶化合物を混合したことを特徴とする液晶組成物。
【請求項4】 相転移系列が、高温側から等方相−スメクティックA相−反強誘電性スメクティック相、又は等方相−スメクティックA相−カイラルスメクティックC相−反強誘電性スメクティック相を示すことを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平5−216003
【公開日】平成5年(1993)8月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−47849
【出願日】平成4年(1992)2月4日
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(000006057)三菱油化株式会社 (9)