説明

液晶表示装置およびその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スイッチング素子に金属−絶縁体−金属構造(以下MIMと記す)や薄膜トランジスタ(以下TFTと記す)を用いたアクティブマトリクス方式の液晶表示装置において、配線材料であるタンタル(以下Taと記す)膜と酸化インジウムスズ膜(以下ITOと記す)などの透明導電体を積層する部分の構造と製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】今日、高品位な画質が得られるアクティブマトリクス方式の液晶表示装置のスイッチング素子として、TFTや、ダイオードや、MIM素子などが用いられている。TFTのゲート電極や配線材料、MIM素子の電極や配線材料には、陽極酸化法で容易に高品質の絶縁膜を形成できるTa膜が多く使われる。
【0003】ところで、画素電極および配線材料として用いられている酸化インジウムスズを、Ta上にスパッタリング法などで積層して熱処理を行うと、Taの酸素親和力が大きいためITOからTaに酸素が拡散する。このためTaとITOの界面では、Ta側に絶縁性の酸化タンタル層が形成されて接触抵抗が高くなる。一方、ITO側は界面付近で酸素が欠乏するので、インジウムの析出層やインジウムの低級酸化物層が形成され、Ta膜とITO膜の密着性が低下する。そこでTa配線とITO配線を接続するのに、Ta層とITO層の間にバリア層として他の金属を設けることや、陽極酸化処理などの方法で酸化タンタル層を形成し、Ta層とITO層を酸化タンタル層をはさんで容量結合することなどが行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Ta膜とITO膜の間にバリア層として他の金属を設ける方法では、バリア層のパターンニング工程が必要となって製造工程が複雑化する。また、酸化物層をはさんで容量結合で接続する方法では、例えばMIM素子の非対称性を補正するための直流バイアス(オフセット)駆動がやりにくいという不都合がある。本発明の目的は、この問題を解決して、複雑な製造工程によらずにTa膜とITO膜の密着性を改善し、Ta膜とITO膜を抵抗を低くして直流結合することのできる配線接続部の構造と製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明では液晶表示装置におけるTa膜とITO膜の積層部において、Ta膜の表面あるいは下層に窒化層を形成して、その上にITO膜を積層し、この窒化層を介してTa膜とITO膜を導通させる構造を取る。さらに、Ta膜の下層に窒化層を形成する構造においては、Ta膜の上面に陽極酸化を施して絶縁体を形成し、その上にITO膜を積層する構造を取るものもある。
【0006】Ta膜の表面に窒化層を設ける構造の製造方法は、ガラス基板上にスパッタリング法によりTaからなる金属を形成する工程と、金属表面に窒化層を形成する工程と、フォトエッチング処理により窒化層と金属をパターンニングする工程と、金属と透明導電体の接続部にはレジストを施し素子部にはレジストを施さずに陽極酸化を行い、素子部に絶縁体を形成する工程と、透明導電体を形成する工程よりなる。金属表面に窒化層を形成する工程は、基板の表示領域をレジストマスクで覆って行うこともある。また、金属表面に窒化層を形成する工程と、フォトエッチング処理により窒化層と金属をパターンニングする工程は、順序を入れ替えてもよい。
【0007】Ta膜の下層に窒化層を設ける構造の製造方法は、ガラス基板上に窒化層を形成する工程と、スパッタリング法によりTaからなる金属を形成する工程と、フォトエッチング処理により窒化層と金属をパターンニングする工程と、金属と透明導電体の接続部にはレジストを施し素子部にはレジストを施さずに陽極酸化を行い、素子部に絶縁体を形成する工程と、透明導電体を形成する工程よりなる。さらに、金属上面に絶縁体を設ける場合には、金属形成後に陽極酸化を行って絶縁体を形成してから、フォトエッチングによるパターンニングを行う。
【0008】上記の製造方法において、金属表面に窒化層を形成する方法は、窒素プラズマ処理、または窒素ガスを導入する反応性スパッタリング法、または窒化タンタルをターゲットとするスパッタリング法、窒素雰囲気中での熱処理、またはN2 をドーピングガスとするイオン注入法である。
【0009】
【実施例】本発明による液晶表示装置の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の液晶表示装置のアクティブ基板1の概略図で、破線で囲った表示領域3に多数の信号線、スイッチング素子、画素電極が形成されており、信号線は配線15によって基板上に実装された駆動用IC(16)に接続されている。図2は図1の表示領域3内の一つの画素電極の周辺を示す。信号線2は表面の一部に絶縁層の形成された金属で、本発明の実施例においては材料にタンタル(Ta)を用い、破線11で囲ったMIM素子部を介して、画素電極である透明導電体10に接続されている。図3はMIM素子部の拡大図である。図4は図1の配線15におけるTa/ITO接続部を示し、破線部が金属のTa、実線部が透明導電体のITOである。図4のような接続部が図1の配線15群の各線の中間部にあって、接続部より表示領域3側が金属の信号線による配線、駆動用IC(16)側が透明導電体10による配線である。このように配線15として別種の導体を連結するのは、金属の信号線が表面に自然酸化膜を生じて駆動用IC(16)やフレキシブル回路基板等を接続するのに適しないため、これらの回路部品を安定な導電体であるITOに接続するのが一般だからである。図4にて接続部は必ずしも局部的でなく、配線15に沿ってかなりの長さに亘る場合もある。なお、図2の方形部分も透明導電体10であるが、こちらは画素電極であって、図4における配線の透明導電体10と同一材料、同一工程で同時に形成されるものの、図4の配線とは別の部分である。また、図4にて金属配線に「6,7または6,7,11」と符号が付してあるのは、後述の説明に対応するものである。以下の各実施例において、MIM素子部については図3のA−A線における工程順の断面図、Ta/ITO接続部については図4R>4のB−B線における工程順の断面図を参照しながら説明する。
【0010】まず、本発明の第1の実施例について、図3のA−A線におけるMIM素子部の工程順の断面図を図5(a)〜(e)に示す。また、図4のB−B線における配線のTa/ITO接続部の工程順の断面図を図6(a)〜(e)に示す。
【0011】第1の実施例において、Ta/ITO接続部は図6(e)に示す構造を取る。ガラス基板5の上の金属6のTaは、上面に窒化タンタル(TaNx)の窒化層7を設けてパターンニングされ、その上を透明導電体10のITOが被覆している。
【0012】この構造によれば、金属6のTaは上面で窒化層7をはさんで透明導電体10のITOに接合し、側面でITOと直接に接合する。側面では金属6とITOの界面に酸化膜が形成されて高抵抗になる。しかし窒化層7を介した上面は、酸化膜が形成されないので抵抗が十分低い接合になる。
【0013】次に、上記の構造を得るための製造方法を説明する。図5(a)と図6(a)に示すように、ガラス基板5の上に金属6としてTaをスパッタリング法により厚さ250nmに形成する。
【0014】次に、下記の条件で金属6に窒素プラズマ処理を施し、図5(b)と図6(b)のように、金属6のTa表面に窒化タンタルの窒化層7を形成する。窒素プラズマ処理は、金属6のTa膜形成後に真空を破らずに行ってもよく、一度大気中に出した後に行ってもよい。
ガス種 :窒素ガスガス圧 :1mTorrRf投入電力 :0.08W/cm2処理時間 :1〜30min処理温度 :室温(特に加熱せず)
【0015】次に、図5(c)と図6(c)に示すように、通常のフォトリソグラフィ処理とリアクティブイオンエッチング(以下RIEと略す)処理により、金属6のTaと窒化層7を同時にパターンニングする。ここで、窒化層7の膜厚は数nm〜数10nmと薄いので、金属6のパターンニング工程にはなんら影響ない。
【0016】次に、図6(d)と図5(d)に示すように、Ta/ITO接続部にはレジスト8を被覆し、MIM素子部にはレジストを施さずに、クエン酸0.1%水溶液中で35Vの電圧を印加して陽極酸化を行い、図5(d)のごとく金属6の表面に絶縁体9の五酸化タンタル(Ta2 O5 )を厚さ70nmに形成する。この場合、窒化層7は前述のように充分薄いので、絶縁体9の形成に影響しない。
【0017】次に、Ta/ITO接続部のレジスト8を剥離した後、図5(e)と図6(e)に示すように、透明導電体10としてITOをスパッタリング法で厚さ200nmに形成して熱処理を行い、通常のフォトエッチング処理によりITOをパターンニングして素子を完成する。
【0018】図7は、前記の窒化条件で金属6を窒素プラズマ処理した処理時間と、Ta/ITOの剥離荷重の関係を示すグラフである。剥離荷重はスクラッチテスタSST−101(島津製作所製)を用いたスクラッチ試験で求めた。試験は次の条件で行った。
Ta膜厚 :250nmITO膜厚 :200nm試験法 :定速負荷試験カートリッジ先端径 :15μm負荷速度 : 1μm/s振幅 :50μm送り速度 :20μm
【0019】図7のグラフにおいて、横軸は窒素プラズマ処理時間、縦軸は剥離荷重である。ここで処理時間0minは、窒素プラズマ処理を行っていないサンプルのデータである。グラフから分かるように、窒素プラズマ処理を行うことによって剥離を生じる荷重が大きくなり、処理時間を長くするにつれて剥離荷重が増加する。すなわち、窒素プラズマ処理はTa/ITOの密着力改善に有効である。
【0020】図9に示すように、金属6と透明導電体10が20×20μm2 の面積で重なるように設けたモニタパターンを用い、次の条件でTa/ITOの接触抵抗の評価を行った。
Ta膜厚 :250nmITO膜厚 :200nmモニタ形状 :20×20μm2 のTa/ITO積層パターンの46個直列接続抵抗測定 :モニタパターンに電圧10Vを印加したときの抵抗値
【0021】図8は、Ta膜形成後に真空を破らずに行った窒素プラズマ処理時間とTa/ITOの接触抵抗の関係を示すグラフである。横軸は窒素プラズマ処理時間、縦軸は抵抗値を対数で表したものである。グラフから分かるように、約1minのプラズマ処理時間で、抵抗値が5桁ほど小さくなる。
【0022】第2の実施例として、図5および図6の窒化層7の形成を、窒素ガスを導入する反応性スパッタリング法により下記の条件で行った。この場合にも実施例1と同様な効果が得られた。
ガス圧 :1mTorr窒素ガス流量 :12〜24sccm温度 :300℃
【0023】図10は、図9のモニタパターンを用いて、実施例2におけるTa/ITOの接触抵抗を評価した結果のグラフである。評価条件は、実施例1の場合と同様である。グラフの横軸は窒素ガスの導入量、縦軸はモニタ抵抗の抵抗値を対数で表したものである。グラフから分かるように、導入窒素ガスの流量が約20sccmで、抵抗値は6桁ほど小さくなる。
【0024】なお、窒素ガスを導入する反応性スパッタリング法で金属のTa上に窒化層を形成する場合、MIM素子の特性に影響を与えずにTa/ITO接続部の接触抵抗だけを改善するためには、窒化層7の膜厚を数nm〜数10nmにする必要がある。
【0025】第3の実施例として、図5および図6の窒化層7の形成を、窒化タンタル(TaN)ターゲットを用いたスパッタリング法により下記の条件で行った。この場合にも先の各実施例と同様な効果が得られた。
ガス種 :アルゴンガス圧 :1mTorr温度 :300℃
【0026】第4の実施例として、図5および図6の窒化層7の形成を、窒素雰囲気中で金属6のTaを下記の条件で熱処理することにより行った。この場合にも先の各実施例と同様な効果が得られた。
ガス圧 :5atm温度 :500℃処理時間 :1hr
【0027】さらに、窒化層7の形成にはN2 をドーピングガスとしたイオン注入法を用いてもよい。典型的な条件例は下記のごとくである。
加速電圧 :50kVドーズ量 :1×1016ion/cm2
【0028】第5の実施例は、第1の実施例で用いた窒素プラズマ処理を、金属であるTaのパターンニング後に行ったものであり、第1の実施例と同様な効果が得られた。第5の実施例について、先の図3のA−A線におけるMIM素子部の工程順の断面図を図11(a)〜(e)に示す。また、先の図4のB−B線における配線のTa/ITO接続部の工程順の断面図を図12(a)〜(e)に示す。
【0029】第5の実施例においては、Ta/ITO接続部は図12(e)に示す構造を取る。ガラス基板5の上の金属6のTaは、パターンニング後に全表面に窒化タンタル(TaNx)の窒化層7が形成され、その上を透明導電体10のITOが被覆している。
【0030】この構造によれば、金属6のTaは窒化層7をはさんで透明導電体10のITOと積層されるので、接合部に酸化膜が形成されず抵抗が十分低くなる。金属6の配線幅が数μm以下であって、透明導電体10のITOからの酸素拡散が側面を通して起こることが問題となる場合、この実施例の構造は特に有効である。
【0031】次に、上記の構造を得るための製造方法を説明する。図11(a)と図12(a)に示すように、ガラス基板5の上に金属6としてTaをスパッタリング法により厚さ250nmに形成する。
【0032】次に、図11(b)と図12(b)に示すように、通常のフォトリソグラフィ処理とRIE処理により、金属6のTaをパターンニングする。
【0033】次に、図11(c)と図12(c)に示すように、第1の実施例と同様な条件で金属6に窒素プラズマ処理を施し、金属6のTa表面に窒化層7を形成する。
【0034】次に、図12(d)と図11(d)に示すように、Ta/ITO接続部にはレジスト8を被覆し、MIM素子部にはレジストを施さずに、クエン酸0.1%水溶液中で35Vの電圧を印加して陽極酸化を行い、図11(d)のごとく金属6の表面に絶縁体9のTa2 O5 を厚さ70nmに形成する。この場合、窒化層7は充分薄いので、絶縁体9の形成に影響しない。
【0035】次に、Ta/ITO接続部のレジスト8を剥離した後、図11(e)と図12(e)に示すように、透明導電体10としてITOをスパッタリング法で厚さ200nmに形成し、通常のフォトエッチング処理によりパターンニングして素子を完成する。
【0036】第6の実施例として、図11および図12の窒化層7の形成を、窒素雰囲気中で金属6のTaを第4の実施例の場合と同様の条件で熱処理して行った。この場合にも先の各実施例と同様な効果が得られた。
【0037】第1の実施例あるいは第5の実施例において、配線接続部のタンタル電極表面に窒化層を作るためにタンタル表面に窒素プラズマ処理を行うと、図5(c)や図11(c)に示すように、MIM素子部の金属電極6の表面にも窒化層7が形成される。前述のように、通常、この窒化層7は十分薄いので、次工程の陽極酸化処理による絶縁体9の形成に影響しない。しかしながら、図6(e)あるいは図12(e)に見られるTa/ITO接続部の特性向上を重視して窒化の度合いを強めるような場合には、MIM素子部の金属電極6の表面における窒化層7の形成により、完成したMIM素子の方の特性が不十分なものになることがあり得る。そのような不具合を避けるには、先の図1に示した表示領域3にレジストマスクを施してから窒化処理を行う。そうすれば窒化は配線接続部のタンタル電極表面のみで行われて、MIM素子部は影響を受けることがなく、Ta/ITO接続部のための最良の窒化条件を選ぶことができる。レジストマスクは単に表示部を覆う形であればよいから、複雑なマスクは不要である。
【0038】次に、以上の各実施例のように窒化層をTa膜の表面に設けるのではなく、基板上に窒化層を設ける構造を説明する。そのような構造である第7の実施例について、先の図3のA−A線におけるMIM素子部の工程順の断面図を図13(a)〜(d)に示す。また、先の図4のB−B線における配線のITO/Ta接続部の工程順の断面図を図14(a)〜(d)に示す。
【0039】第7の実施例においては、Ta/ITO接続部は図14(d)に示す構造を取る。ガラス基板5の上の窒化タンタル(TaNx)からなる窒化層7の上に金属6のTaが積層されてパターンニングされ、その上を透明導電体10のITOが被覆している。
【0040】この構造によれば、金属6のTaは上面および側面で透明導電体10のITOに接合し、下面で窒化層7に接合する。そして窒化層7は側面で透明導電体10と接合する。金属6と透明導電体10の直接の接合面12では、接合の界面に酸化膜が形成されて高抵抗になる。一方、窒化層7の側面と透明導電体10の接合面14では酸化膜が形成されないので低抵抗になる。また、金属6と窒化層7の接合面13も金属導電性を示す材料の積層なので低抵抗である。従って、金属6のTaと透明導電体10の主要な電流経路は、金属6/窒化層7/透明導電体10となり、電気的に低抵抗の接続部が得られる。
【0041】次に上記の構造を得るための製造方法を説明する。図13(a)と図14(a)に示すように、ガラス基板5の上に窒化タンタル(TaNx)からなる窒化層7を、窒素ガスを導入するTaの反応性スパッタリング法により厚さ50nmに形成する。この窒化層7の形成は下記の条件で行う。
導入ガス :アルゴン+窒素全圧 :1.0mTorr窒素分圧 :0.3mTorr基板加熱温度 :300℃投入電力 :1.7kW
【0042】次に、下記の条件により、窒化層7上にTaからなる金属6を200nmの膜厚に形成する。
導入ガス :アルゴン全圧 :1.0mTorr基板加熱温度 :300℃投入電力 :1.7kW
【0043】次に、図13(b)と図14(b)に示すように、通常のフォトリソグラフィとRIE処理により、窒化層7と金属6のTaを同時にパターンニングする。
【0044】次に、図14(c)と図13(c)に示すように、Ta/ITO接続部にはレジスト8を被覆し、MIM素子部にはレジストを施さずに、クエン酸0.1%水溶液中で35Vの電圧を印加して陽極酸化を行い、図13(c)のごとく金属6と窒化層7の表面に絶縁体9の五酸化タンタル(Ta2 O5 )を厚さ70nmに形成する。
【0045】次に、Ta/ITO接続部のレジスト8を剥離した後、図13(d)と図14(d)に示すように、透明導電体10としてITOをスパッタリング法で厚さ200nmに形成して熱処理を行い、通常のフォトエッチングによりITOをパターンニングして素子を完成する。
【0046】先の図9のモニタパターンにより、下記の条件で接続抵抗の評価を行った。
TaNx膜厚: 50nmTa膜厚 :200nmITO膜厚 :200nmモニタ形状 :20×20μm2 のTaNx/Ta/ITO積層パターンの46個直列接続ただし、導通は主に側壁のTaNx/ITO部で取られる。
抵抗測定 :モニタに10〔V〕の電圧を印加したときの抵抗値
【0047】この測定による抵抗値は約100kΩであった。TaNx層を設けずにTa膜厚を250nm、ITO膜厚を250nmとしたTa/ITO構造の同一モニタパターンにおける抵抗値と比較して、5桁程度小さくなることが分かった。
【0048】第8の実施例として、図13および図14の窒化層7の形成を、窒化タンタル(TaN)ターゲットを用いたスパッタリングにより、下記の条件で行った。この場合にも実施例7と同様な効果が得られた。
ガス種 :アルゴンガス圧 :1mTorr温度 :300℃
【0049】次に、第9の実施例について、先の図3のA−A線におけるMIM素子部の工程順の断面図を図15R>5(a)〜(d)に示す。また、先の図4のB−B線における配線のITO/Ta接続部の工程順の断面図を図1616(a)〜(d)に示す。
【0050】第9の実施例においては、Ta/ITO接続部は図16(d)に示す構造を取る。ガラス基板5の上の窒化タンタル(TaNx)からなる窒化層7の上に金属6のTaが積層され、さらに第2の絶縁体11が積層されてパターンニングされ、その上を透明導電体10のITOが被覆している。
【0051】この構造によれば、金属6のTaは上面で第2の絶縁体11を介して透明導電体10のITOに接合し、側面で透明導電体10に直接に接合し、下面で窒化層7に接合する。そして窒化層7は側面で透明導電体10と接合する。金属6の上面と透明導電体10の間は第2の絶縁体11があるため高抵抗になり、また、金属6と透明導電体10の直接の接合面12においては、接合の界面に酸化膜が形成されて高抵抗になる。一方、窒化層7の側面と透明導電体10の接合面14では、酸化膜が形成されないので低抵抗になる。また、金属6と窒化層7の接合面13も、金属導電性を示す材料の積層なので低抵抗である。従って、金属6のTaと透明導電体10の主要な電流経路は、金属6/窒化層7/透明導電体10となり、電気的に低抵抗の接続部が得られる。
【0052】次に上記の構造を得るための製造方法を説明する。図15(a)と図16(a)に示すように、ガラス基板5の上に窒化タンタル(TaNx)からなる窒化層7を、窒素ガスを導入するTaの反応性スパッタリング法により厚さ50nmに形成する。窒化層7の形成条件は実施例7の場合と同じである。
【0053】次に、実施例7と同様にして、窒化層7上にTaからなる金属6を200nmの膜厚に形成する。
【0054】次に、クエン酸0.1%水溶液中で5Vの電圧を印加して陽極酸化を行い、金属6のTa表面に第2の絶縁体11として五酸化タンタル(Ta2 O5 )を厚さ10nmに形成する。
【0055】次に、図15(b)と図16(b)に示すように、通常のフォトリソグラフィとRIE処理により、窒化層7の窒化タンタルと金属6のTaと第2の絶縁体11を同時にパターンニングする。
【0056】次に、図16(c)と図15(c)に示すように、Ta/ITO接続部にはレジスト9を被覆し、素子部にはレジストを施さずに、クエン酸0.1%水溶液中で35Vの電圧を印加して陽極酸化を行い、図15(c)のごとく窒化層7と金属6の表面に絶縁体9のTa2 O5 を厚さ70nmに形成する。先の第2の絶縁体11は絶縁体9より低い電圧で陽極酸化されたので、絶縁体9の特性に影響しない。
【0057】次に、Ta/ITO接続部のレジスト8を剥離した後、図15(d)と図16(d)に示すように、透明導電体10としてITOをスパッタリング法で厚さ200nmに形成して熱処理を行い、通常のフォトエッチングによりITOをパターンニングして素子を完成する。
【0058】先の図9のモニタパターンにより、下記の条件で接続抵抗の評価を行った。
TaNx膜厚: 50nmTa膜厚 :200nmITO膜厚 :200nmモニタ形状 :20×20μm2 のTaNx/Ta/Ta2 O5 /ITO積層パターンの46個直列接続ただし、導通は主に側壁のTaNx/ITO部で取られる。
抵抗測定 :モニタに10〔V〕の電圧を印加したときの抵抗値
【0059】この測定による抵抗値は実施例7の場合と同様に約100kΩであった。TaNx層を設けずにTa膜厚を250nm、ITO膜厚を250nmとしたTa/ITO構造の、同一モニタパターンにおける抵抗値と比較して、5桁程度小さくなることが分かった。
【0060】さらに、実施例9では金属/透明導電体接続部の上部のTa/ITO間に、第2の絶縁体11のTa2 O5 層が形成されている。このためTaとITOの密着力が改善される。先に[従来の技術]の項で、従来、Ta/ITOの接合界面にインジウムの低級酸化物層などが形成されて、Ta膜とITO膜の密着力が低下することを述べた。前記の各実施例では、Ta/ITO境界に窒化層を設けて低級酸化物層の形成を防ぐことにより、密着力を高めている。実施例9で、酸化物層である第2の絶縁体11を設けることにより密着力が改善されるのでは、酸化物層の影響が先の記述と異なるという印象を受けるかもしれない。しかし原理はまだ十分解明されていないが、Ta/ITO接続部に副次的に発生する低級酸化物層と、実施例9のように陽極酸化により意図的に形成された酸化物層は性質が異なり、前者はTa/ITO接続部の密着力を弱めるが、後者は強化することが発明者らの実験で明らかになっている。陽極酸化による酸化物層のバリア効果によって低級酸化物層の形成が防止され、密着力が増加するのである。
【0061】実施例9におけるITOの剥離荷重を、前出のスクラッチテスタSST−101を用いたスクラッチ試験で求めた。試験は次の条件で行った。
Ta膜厚 :200nmTa2 O5 膜厚 : 50nmITO膜厚 :200nm試験法 :定速負荷試験カートリッジ先端径:15μm負荷速度 : 1μm/s振幅 :50μm送り速度 :20μm
【0062】この測定の結果、金属/透明導電体接続部の上部の剥離荷重は40〔gf〕以上であり、Ta膜厚250〔nm〕、ITO膜厚200〔nm〕としてTa/ITOを直接積層したサンプルの、同一の測定条件での剥離荷重0.5〔gf〕と比較して80倍以上の大幅な密着力改善が見られた。
【0063】第10の実施例として、図15および図16R>6の窒化層7の形成を、窒化タンタルターゲットを用いたスパッタリング法により第3の実施例の場合と同様の条件で行った。この実施例においても実施例9と同様な効果が得られた。
【0064】以上の各実施例で述べた製造工程は、MIM素子でなくTFTを用いたものの配線部にも応用可能であることは言うまでもない。窒化層の下地となる金属のTa膜は、窒素添加タンタルや、窒化タンタル、あるいはTaと他の金属の合金であってもよい。また、配線に用いる金属として、Taの他に酸素親和力の大きな金属、例えばNbを用いた場合にも有効である。透明導電体として、ITO以外にIn2 O3 、SnO2 、ZnOなどの酸化物を用いる場合も、本発明の製造方法は有効である。
【0065】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように、本発明によれば、液晶表示装置の駆動素子や配線の形成において、金属/透明導電体接続部に窒化層を介在させる構造とし、これによって製造工程を複雑にすることなく、また素子特性に大きな影響を与えることなく、金属と透明導電体の接触抵抗を低減している。さらに、金属と透明導電体の接合面に窒化層または絶縁体の存在する構造では、両者の密着力が大幅に改善され、表示品質の優れたアクティブマトリクス方式の液晶表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液晶表示装置のアクティブ基板の概略平面図である。
【図2】本発明の液晶表示装置の画素電極周辺の平面図である。
【図3】本発明の液晶表示装置のMIM素子部を拡大した平面図である。
【図4】本発明の液晶表示装置の配線におけるTa/ITO接続部を拡大した平面図である。
【図5】本発明の液晶表示装置の第1ないし第4の実施例のMIM素子部の製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の液晶表示装置の第1ないし第4の実施例のTa/ITO接続部の製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の液晶表示装置の製造方法におけるプラズマ処理時間と剥離荷重の関係を示すグラフである。
【図8】本発明の液晶表示装置の製造方法におけるプラズマ処理時間と抵抗値の関係を示すグラフである。
【図9】基板上の配線の抵抗値の測定に用いるモニタパターンである。
【図10】本発明の液晶表示装置の製造方法における窒素導入量と抵抗値の関係を示すグラフである。
【図11】本発明の液晶表示装置の第5および第6の実施例のMIM素子部の製造工程を示す断面図である。
【図12】本発明の液晶表示装置の第5および第6の実施例のTa/ITO接続部の製造工程を示す断面図である。
【図13】本発明の液晶表示装置の第7および第8の実施例のMIM素子部の構造と製造工程を示す断面図である。
【図14】本発明の液晶表示装置の第7および第8の実施例のTa/ITO接続部の構造と製造工程を示す断面図である。
【図15】本発明の液晶表示装置の第9および第10の実施例のMIM素子部の構造と製造工程を示す断面図である。
【図16】本発明の液晶表示装置の第9および第10の実施例のTa/ITO接続部の構造と製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
5 ガラス基板
6 金属
7 窒化層
8 レジスト
9 絶縁体
10 透明導電体
11 第2の絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 配線を構成する金属と透明導電体の接続部を、ガラス基板上のタンタルからなる金属と、金属表面に形成した窒化層と、金属と窒化層を被覆する透明導電体により構成し、窒化層を介して金属と透明導電体の電気的接続を得ることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】 請求項1に記載の液晶表示装置の製造方法であって、ガラス基板上にタンタルからなる金属を形成する工程と、金属表面に窒化層を形成する工程と、フォトエッチング処理により窒化層と金属をパターニングする工程と、配線部にレジストを施して陽極酸化を行い素子部に絶縁体を形成する工程と、透明導電体を形成する工程を有することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】 請求項2に記載の液晶表示装置の製造方法における金属表面に窒化層を形成する工程と、フォトエッチング処理により窒化層と金属をパターニングする工程の順序を入れ替えたことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項4】 請求項2または請求項3に記載の液晶表示装置の製造方法において、金属表面に窒化層を形成する工程は、窒素プラズマ処理、または窒素ガスを導入する反応性スパッタリング法、または窒化タンタルをターゲットとするスパッタリング法、窒素雰囲気中での熱処理、またはN2 をドーピングガスとするイオン注入法であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項5】 請求項4に記載の液晶表示装置の製造方法のうち、金属表面への窒化層形成工程が窒素プラズマ処理である製造方法の窒化層形成工程は、基板の表示領域をレジストマスクで覆って行うものであることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項6】 配線を構成する金属と透明導電体の接続部を、ガラス基板上の窒化タンタルからなる窒化層と、窒化層上のタンタルからなる金属と、窒化層と金属を被覆する透明導電体により構成し、下層の窒化層を介して金属と透明導電体の電気的接続を得ることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項7】 請求項6に記載の液晶表示装置の製造方法であって、ガラス基板上に窒化層を形成する工程と、タンタルからなる金属を形成する工程と、フォトエッチング処理により窒化層と金属をパターニングする工程と、配線部にレジストを施して陽極酸化を行い素子部に絶縁体を形成する工程と、透明導電体を形成する工程を有することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項8】 配線を構成する金属と透明導電体の接続部を、ガラス基板上の窒化タンタルからなる窒化層と、窒化層上のタンタルからなる金属と、金属上の酸化タンタルからなる絶縁体と、窒化層と金属と絶縁体を被覆する透明導電体により構成し、下層の窒化層を介して金属と透明導電体の電気的接続を得ることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項9】 請求項8に記載の液晶表示装置の製造方法であって、ガラス基板上に窒化層を形成する工程と、タンタルからなる金属を形成する工程と、陽極酸化を行い絶縁体を形成する工程と、フォトエッチング処理により窒化層と金属および絶縁体ををパターニングする工程と、配線部にレジストを施して陽極酸化を行い素子部に絶縁体を形成する工程と、透明導電体を形成する工程を有することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】 請求項7または請求項9に記載の液晶表示装置の製造方法において、ガラス基板上に窒化層を形成する工程は、窒素ガスを導入する反応性スパッタリング法、または窒化タンタルをターゲットとするスパッタリング法であることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【特許番号】特許第3363973号(P3363973)
【登録日】平成14年10月25日(2002.10.25)
【発行日】平成15年1月8日(2003.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−306322
【出願日】平成5年12月7日(1993.12.7)
【公開番号】特開平6−265941
【公開日】平成6年9月22日(1994.9.22)
【審査請求日】平成12年3月16日(2000.3.16)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【参考文献】
【文献】特開 平1−281437(JP,A)
【文献】特開 平1−102433(JP,A)
【文献】特開 平2−251823(JP,A)
【文献】特開 昭63−195687(JP,A)