説明

減衰力調整式油圧緩衝器

【目的】 油圧緩衝器のピストンロッドの作動周波数が高いとき、減衰力特性を自動的にソフト側に切換える。
【構成】 シリンダ1にピストンロッド3を連結したピストン2を嵌装する。シリンダ上室1aとシリンダ下室1bとを連通するバイパス通路7にスプール弁19を設ける。スプール21の一端側の室20a を連通路22を介して、他端側の室20b をオリフィス通路23を介してシリンダ下室1bに連通させる。室20b 内にはガス室29を設ける。減衰力は、比例ソレノイドアクチュエータ11でスプール21を駆動することにより調整できる。また、ピストンロッド3の作動周波数が低いときは、オリフィス通路23による圧力損失が小さいので室20a と室20b とは同圧力となりスプール21に軸方向の推力が作用しない。作動周波数が高いとオリフィス23による圧力損失で室20a よりも室20b が低圧となり、この圧力差によりスプール21が移動して減衰力特性が自動的にソフト側に切換わる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車等の車両の懸架装置に用いられる減衰力調整式油圧緩衝器の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車等の車両の懸架装置に装着される油圧緩衝器には、路面状況、走行状況等に応じて乗り心地や操縦安定性をよくするために減衰力を適宜調整できるようにした減衰力調整式油圧緩衝器がある。
【0003】従来、この種の油圧緩衝器は、例えば図3に示すように、シリンダ1内にピストン2が摺動可能に嵌装されており、シリンダ1内がピストン2によりシリンダ上室1aとシリンダ下室1bの2室に画成されている。ピストン2には、ピストンロッド3の一端側が連結されており、ピストンロッド3の他端側はシリンダ1の外部まで延ばされている。また、シリンダ1の底部とピストン2との間にフリーピストン4が摺動可能に嵌装されており、シリンダ1の底部側にガス室1cが形成されている。そして、シリンダ上室1aおよびシリンダ下室1bには油液が封入されており、ガス室1cには、ピストンロッド3の伸縮にともなうシリンダ上室1aおよびシリンダ下室1b内の体積変化を吸収するため、また、キャビテーションを防止するために高圧ガスが封入されている。
【0004】ピストン2には、シリンダ上室1aからシリンダ下室1bへの油液の流通を許容し減衰力を発生させる伸び側主油液通路5およびシリンダ下室1bからシリンダ上室1aへの油液の流通を許容し減衰力を発生させる縮み側主油液通路6が設けられている。
【0005】ピストン2およびピストンロッド3には、シリンダ上室1aとシリンダ下室1bとを連通するバイパス通路7が設けられている。バイパス通路7には、その通路面積を調整するスプール弁8(流量制御弁)が設けられている。スプール弁8のスプール9は、ばね10によって閉弁側へ付勢されており、ピストンロッド3内に設けられた比例ソレノイドアクチュエータ11のソレノイド12に通電することによりプランジャ13に押圧されて開弁側へ移動するようになっている。そして、ソレノイド12への通電電流に応じてバイパス通路7の通路面積を連続的に変化させられるようになっている。なお、図中、14はスプール9の両端側に形成されたドレン室を連通してスプール9に作用するスラスト方向の力をバランスさせるための連通路、15はドレン室の圧力をシリンダ上室1aへ逃がすための逆止弁、16,17,18はシール部材である。
【0006】この構成により、比例ソレノイドアクチュエータ11のソレノイド12に通電しない場合、スプール弁8のスプール9がばね10の付勢力により閉弁位置にあるのでバイパス通路7が遮断される。よって、ピストンロッド3の伸縮にともない、シリンダ1内の油液が伸び側主油液通路5または縮み側主油液通路6のみを流通して移動することにより大きな減衰力が発生する。
【0007】比例ソレノイドアクチュエータ11のソレノイド12に通電すると、スプール9がばね10の弾性力に抗して開弁側へ移動し、バイパス通路7がその通電電流に応じた通路面積で連通される。よって、ピストンロッド3の伸縮にともないシリンダ1内の油液がバイパス通路7を流通して移動することにより、その通路面積に応じて小さな減衰力が発生する。このようにして、ソレノイド12への通電電流に応じて減衰力特性をハード側(減衰力大)からソフト側(減衰力小)の間で連続的に調整することができる。
【0008】また、センサおよび制御装置を用いて、路面状況、走行状況等に応じて上記減衰力調整式油圧緩衝器の減衰力特性を自動的に切換えることにより乗り心地および操縦安定性を向上させるようにしたサスペンション制御装置がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この種のサスペンション制御装置においては、一般に走行中の油圧緩衝器のピストンロッドの作動周波数は1Hz以下から数10Hz程度におよぶため、油圧緩衝器の減衰力特性の切換には高い応答性が要求される。例えば、車両が路面の突起を通過する際、車体の突上げを緩和するために油圧緩衝器の減衰力特性をハード側からソフト側に切換える場合、車輪が突起にのり上げる際のばね上あるいはばね下の加速度等を検出し制御装置により制御信号を出力して、ハード側の減衰力により車体に大きな突上げが生じる前に、減衰力特性をソフト側へ迅速に切換える必要がある。
【0010】しかしながら、上記従来の減衰力調整式油圧緩衝器では、一般に、比例ソレノイドアクチュエータ11の応答周波数が10Hz以下であるため、制御装置の出力信号を受けて油圧緩衝器の減衰力特性がハード側からソフト側へ切換わる前に車体に突上げが生じてしまうことがあるという問題がある。
【0011】本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ピストンロッドの作動周波数が高い、すなわちピストンロッドの作動速度が大きいとき、減衰力特性を自動的に迅速にソフト側に切換えることができる減衰力調整式油圧緩衝器を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、第1の発明は、油液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装され前記シリンダ内を2室に画成するピストンと、一端側が前記ピストンに連結され他端側が前記シリンダの外部まで延ばされたピストンロッドと、前記シリンダ内の2室を連通させる減衰力発生機構を有する主油液通路と、前記シリンダ内の2室を連通するバイパス通路と、該バイパス通路の通路面積を調整するスプール弁と、該スプール弁のスプールを駆動するアクチュエータとを備えてなる減衰力調整式油圧緩衝器において、前記スプール弁の弁ハウジング内の前記スプールの両端側に前記スプールが通路面積を開く方向に摺動したときに拡張される一端側の室と同方向の摺動で圧縮される他端側の室とを形成し、該他端側の室に前記油液よりも体積弾性係数が小さな物質を設け、前記スプールの一端側の室と前記シリンダ内の2室の内の一方の室とを連通する連通路を設け、前記スプールの他端側の室と前記シリンダ内の一方の室とを連通させるオリフィス通路を設けたことを特徴とする。
【0013】また、第2の発明は、油液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装され前記シリンダ内を2室に画成するピストンと、一端側が前記ピストンに連結され他端側が前記シリンダの外部まで延ばされたピストンロッドと、前記シリンダ内の2室を連通させる減衰力発生機構を有する主油液通路と、前記シリンダ内の2室を連通するバイパス通路と、該バイパス通路の通路面積を調整するスプール弁と、該スプール弁のスプールを駆動するアクチュエータとを備えてなる減衰力調整式油圧緩衝器において、前記スプール弁の弁ハウジング内の前記スプールの両端側にスプールが通路面積を開く方向に摺動したときに圧縮される一端側の室と同方向の摺動で拡張される他端側の室とを形成し、前記一端側の室に前記油液よりも体積弾性係数が小さな物質を設け、前記スプールの両端の2室を連通するオリフィス通路を設け、前記スプールの他端側の室を前記シリンダ内の2室の内の一方の室に連通させる油液通路を設けたことを特徴とする。
【0014】また、第3の発明は、油液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装され前記シリンダ内を2室に画成するピストンと、一端側が前記ピストンに連結され他端側が前記シリンダの外部まで延ばされたピストンロッドと、前記シリンダ内の2室を連通させる減衰力発生機構を有する主油液通路と、前記シリンダ内の2室を連通するバイパス通路と、該バイパス通路の通路面積を調整するスプール弁と、該スプール弁のスプールを駆動するアクチュエータとを備えてなる減衰力調整式油圧緩衝器において、前記スプール弁の弁ハウジング内の前記スプールの両端側にスプールが通路面積を開く方向に摺動したときに圧縮される一端側の室と同方向の摺動で拡張される他端側の室とを形成し、前記一端側の室に前記油液よりも体積弾性係数が小さな物質を設け、前記スプールの両端の2室を連通するオリフィス通路を設け、前記スプールの他端側の室を前記シリンダ内の2室の内で圧力の高い一方の室に選択的に連通させるとともに他方の室との連通を遮断するシャトル弁を設けたことを特徴とする。
【0015】
【作用】このように構成したことにより、第1の発明では、ピストンロッドの作動にともないシリンダ内の一方の室が加圧されると、その圧力により油液がシリンダ内の一方の室から連通路およびオリフィス通路を介してスプールの両端側の室内に流入する。このとき、ピストンロッドの作動速度が小さい場合は、オリフィス通路による圧力損失がほとんどないためスプールの両端の2室はほぼ同圧力となりスプールに推力が作用しない。また、ピストンロッドの作動速度が大きい場合は、オリフィス通路による圧力損失が大きくなりスプールの一端側の室の圧力が他端側の室の圧力より低くなるので、この圧力差によりスプールがバイパス通路を開く方向に移動する。
【0016】また、第2の発明では、ピストンロッド作動にともないシリンダ内の一方の室が加圧されると、その圧力により油液がシリンダ内の一方の室から油液通路を介してスプールの他端側の室内に、さらに、オリフィス通路を介してスプールの一端側の室内に流入する。このとき、ピストンロッドの作動速度が小さい場合は、オリフィス通路による圧力損失がほとんどないためスプールの両端の2室はほぼ同圧力となりスプールに推力が作用しない。また、ピストンロッドの作動速度が大きい場合は、オリフィス通路による圧力損失が大きくなりスプールの一端側の室の圧力が他端側の室の圧力より低くなるので、この圧力差によりスプールがバイパス通路を開く方向に移動する。
【0017】また、第3の発明では、ピストンロッド作動にともないシリンダ内の一方の室が加圧されると、シャトル弁機構によって前記シリンダ内の一方の室がスプールの他端側の室に連通され、その圧力により油液がシリンダ内の一方の室からシャトル弁機構を介してスプールの他端側の室内に、さらに、オリフィス通路を介してスプールの一端側の室内に流入する。このとき、ピストンロッドの作動速度が小さい場合は、オリフィス通路による圧力損失がほとんどないためスプールの両端の2室はほぼ同圧力となりスプールに推力が作用しない。また、ピストンロッドの作動速度が大きい場合は、オリフィス通路による圧力損失が大きくなりスプールの一端側の室の圧力が他端側の室の圧力より低くなるので、この圧力差によりスプールがバイパス通路を開く方向に移動する。
【0018】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】本発明の第1実施例について図1を用いて説明する。なお、本実施例は、図3に示す従来例に対して、ピストン2およびピストンロッド3の内部構造のみが異なるので、以下、同様の部材には同一の番号を付し異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0020】図1に示すように、ピストン2およびピストンロッド3に設けられたバイパス通路7には、その通路面積を調整するスプール弁19(流量制御弁)が設けられている。スプール弁19は、バイパス通路7の途中に配置された弁ハウジング20にスプール21が摺動可能に密に嵌装されており(なお、図面上は構成を理解しやすいようにするため、弁ハウジング20とスプール21の大径部との間は隙間をもって図示されている)、スプール21が図に示す位置にあるときバイパス通路7の連通を遮断し、図中、下方に移動するにつれてバイパス通路7の通路面積が大きくなるようになっている。
【0021】ピストンロッド3には、弁ハウジング20内のスプール21の両端側に形成される2つの室20a ,20b の内、スプール21が通路面積を開く方向に摺動したときに拡張される一端側の室20a (図中、スプール21の上方の室)とシリンダ下室1b側のバイパス通路7とを連通する流通抵抗が充分小さい連通路22が設けられている。また、ピストン2には、前記弁ハウジング20内の2室の内、スプール21が通路面積を開く方向に摺動したときに圧縮される他端側の室20b (図中、スプール21の下方の室)とシリンダ下室1bとを連通するオリフィス通路23および油液通路24が設けられている。油液通路24には、室20b からシリンダ下室1b側への流通のみを許容する逆止弁25が設けられている。弁ハウジング20の室20b 内には、スプール21を閉弁側へ付勢するばね26が設けられており、ピストンロッド3には、スプール21をばね26の弾性力に抗して開弁側へ移動させる比例ソレノイドアクチュエータ11が設けられている。
【0022】また、スプール21の室20b 側の端部には、凹部27が形成されており、凹部27内にゴム等でできたのダイヤフラム28によって加圧ガスを密封してガス室29が設けられている。そして、ガス室29内のガスの体積弾性係数Kはによって室20a および室20b 内に導かれる油液の体積弾性係数Kよりも小さくなるようになっている。ここで、体積弾性係数Kとは、弾性体(ガスも含む)の全表面に働く一様な応力p(ここでは油液の油圧)と、それによって生じる体積ひずみεv (ガスの体積変化も含む)との比をいい、次式によって表される。
K=p/εv ……(1)
【0023】以上のように構成した第1実施例の作用について次に説明する。
【0024】弁ハウジング20の室20a は流通抵抗が充分小さい連通路22によりシリンダ下室1bに連通されているので、室20a 内の油液の圧力は、伸び、縮み行程とも常にシリンダ下室1b内の油液の圧力に等しくなる。一方、室20b は、オリフィス通路23によりシリンダ下室1bに連通されているので、室20b とシリンダ下室1bとの間の油液の圧力の伝達は圧力変動の周波数に依存する。すなわち、シリンダ下室1b内の油液の圧力の変動の周波数が低い、すなわちピストンロッド3の作動速度が小さい場合、オリフィス23による圧力損失が小さいため、シリンダ下室1b内の油液の圧力は室20b 内に伝わりやすく、シリンダ下室1b内の油液の圧力の変動の周波数が高い、すなわちピストンロッド3の作動速度が大きい場合、オリフィス23による圧力損失が大きいため、シリンダ下室1b内の油液の圧力は室20b 内に伝わりにくい。
【0025】したがって、ピストンロッド3の伸縮の周波数が低い(速度が小さい)場合、縮み行程時は、ピストンロッド3のシリンダ1内への侵入にともない、シリンダ下室1b内の油液が加圧されて縮み側主油液通路6およびバイパス通路7が連通状態のときにはバイパス通路7を通ってシリンダ上室1aに流入する。同時に、シリンダ下室1b内の油液が、オリフィス通路23を通って弁ハウジング20の室20b 内へ流入しガス室29を圧縮しながらその圧力を上昇させる。また、シリンダ下室1b内の油液の圧力がバイパス通路7および連通路22によって弁ハウジング20の室20aへ伝えられる。このとき、ピストン速度が小さくシリンダ下室1b内の油液の圧力変動の周波数が低いため、オリフィス通路23による圧力損失がほとんど生じないので、スプール21の両端の室20a と室20b とは同圧力となりスプール21に軸方向の推力が生じない。
【0026】伸び行程時は、ピストンロッド3のシリンダ1内からの退室にともない、シリンダ上室1a内の油液が加圧されて伸び側主油液通路5およびバイパス通路7が連通状態のときにはバイパス通路7を通ってシリンダ下室1bに流入する。同時に、シリンダ下室1bの減圧によりガス室29が膨張し、その分の油液が弁ハウジング20の室20b から逆止弁25を開いて油液通路24を通ってシリンダ下室1bに流入する。また、室20a 内の油液の圧力は、連通路22およびバイパス通路7によってシリンダ下室1bへ伝えられる。よって、スプール21の両端の室20a と室20b とは圧力差を生じないので、スプール21に軸方向の推力が生じない。
【0027】このように、伸び縮み行程時ともに、スプールの両端の室20a ,20b の圧力がバランスしているため、スプール21は、比例ソレノイドアクチュエータ11のみにより移動されるので、図3に示す従来例と同様に、ソレノイド12への通電電流に応じてスプール21が移動する。
【0028】次に、ピストンロッド3の伸縮の周波数が高い(速度が大きい)場合、縮み行程時は、ピストンロッド3のシリンダ1内への侵入にともない、シリンダ下室1b内の油液が加圧されて縮み側主油液通路6およびバイパス通路7が連通状態のときにはバイパス通路7を通ってシリンダ上室1aに流入する。同時に、シリンダ下室1b内の油液が、オリフィス通路23を通って弁ハウジング20の室20b 内へ流入しガス室29を圧縮しながらその圧力を上昇させる。また、シリンダ1b内の油液の圧力は、バイパス通路7および連通路22によって弁ハウジング20の室20a へ伝えられる。このとき、ピストン速度が大きくシリンダ下室1b内の油液の圧力変動の周波数が高いため、オリフィス通路23による圧力損失が大きいので、その分、室20b の圧力が室20a の圧力よりも低くなり、この圧力差によりスプール21がばね26の付勢力に抗して移動してバイパス通路7の通路面積を広げる。このようにして、減衰力特性が自動的にソフト特性側に切換わる。ここで、スプール21は、ピストンロッド3の作動によって発生する油圧により駆動されるのでスプール弁19の切換に応答遅れが生じることがない。その後、スプール21は、シリンダ下室1b内の油液がオリフィス通路23を通って室21b 内に徐々に流入することにより、ばね26の弾性力と比例ソレノイドアクチュエータ11の推進力とがバランスする位置に復帰する。
【0029】伸び行程時は、上記伸縮の周波数が低い場合と同様に、ピストンロッド3のシリンダ1内からの退室にともない、シリンダ上室1a内の油液が加圧されて伸び側主油液通路5およびバイパス通路7が連通状態のときにはバイパス通路7を通ってシリンダ下室1bに流入する。同時に、シリンダ下室1bの減圧によりガス室29が膨張し、その分の油液が弁ハウジング20の室20b から逆止弁25を開いて油液通路24を通ってシリンダ下室1bに流入する。また、室20a 内の油液の圧力は、連通路22によってシリンダ下室1bへ伝えられる。よって、スプール21の両端の室20a と室20b とは圧力差を生じないので、スプール21に軸方向の推力が生じない。したがって、ソレノイド12への通電電流に応じてスプール21が移動して減衰力を調整することができる。
【0030】以上のように、本実施例の減衰力調整式油圧緩衝器は、通常は、図3に示す従来のものと同様に、ソレノイド12への通電電流に応じて減衰力特性をハード側(減衰力大)からソフト側(減衰力小)の間で連続的に調整することができ、縮み行程時にピストンロッドの作動周波数が高いとき、減衰力特性が自動的に迅速にソフト側に切換わる。その結果、走行中の車両が路面の突起を通過する際等に、減衰力特性が自動的に迅速にソフト側に切換わるので車体の突上げ等を緩和することができる。
【0031】なお、本実施例では、比例ソレノイドアクチュエータ11のプランジャ13とスプール21とを別体としているが、これらを一体としてもよい。このようにした場合、プランジャ13とスプール21とが離間することによって比例ソレノイドアクチュエータ11の作動に対するスプール21の応答性が低下することがない。
【0032】次に、本発明の第2実施例について図2を用いて説明する。なお、本実施例は、図3に示す従来例に対して、ピストン2およびピストンロッド3の構造のみが異なるので、以下、同様の部材には同一の番号を付し異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0033】図2に示すように、ピストン2およびピストンロッド3に設けられたバイパス通路7には、その通路面積を調整するスプール弁30(流量制御弁)が設けられている。スプール弁30は、バイパス通路7の途中に配置された弁ハウジング31にスプール32が密に摺動可能に嵌装されており、スプール32が図に示す位置にあるときバイパス通路7の連通を遮断し、図中、上方に移動するにつれてバイパス通路7の通路面積が大きくなるようになっている。
【0034】ピストンロッド3には、弁ハウジング31内のスプール32の両端側に形成される2つの室31a ,31b の内、スプール32が通路面積を開く方向に摺動したときに圧縮される一端側の室31a (図中、スプール32の上方の室)の上方には、ピストンロッド3内に軸方向に延びるように形成されたガス室33がダイヤフラム34を介して設けられている。そして、ガス室33には、ほぼ大気圧に等しい圧力のガスが封入されており、このガスの体積弾性係数Kは室31a および室31b 内に導かれる油液の体積弾性係数Kよりも小さくなっている。このガス室33には、後述するソレノイド42に通電するためのハーネス(図示せず)が挿通されて当該油圧緩衝器の外部まで延ばされている。なお、ガス室33は大気に開放するようにしてもよく、この場合はダイヤフラムの復元力により体積弾性係数が定まることになる。また、弁ハウジング31内の2室の内、スプール32が通路面積を開く方向に摺動したときに拡張される他端側の室31b (図中、スプール32の下方の室)と、シリンダ上室1aとを連通する油液通路35およびシリンダ下室1bとを連通する油液通路36が設けられており、油液通路35および36はシャトル弁37を介して室31b に接続されている。シャトル弁37は、油液通路35と36の内で油液の圧力の高い方と室31b とを連通させ他方を遮断するようになっている。
【0035】スプール32には、その両端の室31a と室31b とを連通する油液通路38が設けられ、油液通路38にはオリフィス39が設けられており、油液通路38とオリフィス39とでオリフィス通路を構成している。
【0036】弁ハウジング31の室31a 内には、スプール32を閉弁側へ付勢するばね40が設けられており、ピストン2のシリンダ下室1b側の端面には、スプール32をばね40の弾性力に抗して開弁側へ移動させる比例ソレノイドアクチュエータ41が設けられている。比例ソレノイドアクチュエータ41は、図3に示すソレノイドアクチュエータ11と同様に、ソレノイド42に通電することにより、その通電電流に応じた推力でプランジャ43によりスプール32を移動させるようになっている。
【0037】以上のように構成した第2実施例の作用について次に説明する。
【0038】ピストンロッド3の伸縮の周波数が低い(速度が小さい)場合、縮み行程時は、シリンダ下室1bが加圧されるので、シャトル弁37のボール37a が油液通路35を遮断して油液通路36により室31b とシリンダ下室1bとを連通させる。また、室31b と室31a とは油液通路38により連通されているので、シリンダ下室1b内の油液は油液通路36を通って室31b に流入し、さらに、油液通路38を通って室31a に流入してガス室33を圧縮する。このとき、シリンダ下室1b内の油液の圧力変動の周波数が低いので油液通路38を流通する油液に対してオリフィス39による圧力損失がほとんど生じないため、スプール32の両端の室31a と室31b とはほとんど同圧力となり、スプール32に軸方向の推力は生じない。
【0039】また、伸び行程時は、シリンダ上室1aが加圧されるので、シャトル弁37のボール37a が油液通路36を遮断して油液通路35により室31b とシリンダ上室1aとを連通させる。そして、上記縮み行程時と同様に、シリンダ上室1a内の油液は、ガス室33を圧縮して室31a および室31b 内に流入するが、スプール32の両端の室31aと室31b とはほとんど同圧力となり、スプール32に軸方向の推力は生じない。
【0040】したがって、ピストンロッド3の伸縮の周波数が低い場合、伸縮行程時共、図3に示す従来例と同様に減衰力を発生し、ソレノイド42への通電電流に応じてスプール32を移動して減衰力特性を調整することができる。
【0041】ピストンロッド3の伸縮の周波数が高い(速度が大きい)場合、ピストンロッド3の伸縮にともなう油液の流れは、上記周波数が低い場合と同様であるが、シリンダ上室1aおよびシリンダ下室1bの圧力変動の周波数が高いため、スプール32の油液通路38を流通する油液に対するオリフィス39による圧力損失が大きいので、その分、室31b の圧力が室31a の圧力よりも高くなり、この圧力差によりスプール32がばね40の付勢力に抗して移動してバイパス通路7の通路面積を広げる。このようにして、減衰力特性が自動的にソフト特性側に切換わる。ここで、スプール32は、ピストンロッド3の作動によって発生する油圧により駆動されるのでスプール弁30の切換に応答遅れが生じることがない。その後、スプール32は、室31a と31b とが油液通路38により連通されているため徐々に同圧力となるので、ばね40の弾性力と比例ソレノイドアクチュエータ41の推進力とがバランスする位置に復帰する。
【0042】したがって、ピストンロッドの作動周波数が高い場合、伸縮行程時ともに減衰力特性が自動的に迅速にソフト側に切換わるので、第1実施例に対してさらに乗り心地を向上させることができる。
【0043】また、ガス室33は、ピストンロッド3内に設けられているので、充分大きな容積とすることができ、ガス室33内に封入されたガスの体積弾性係数を小さく設定することができる。その結果、オリフィス39の通路面積の設定の自由度が増すので減衰力特性を自動的にソフト側に切換える作動周波数の設定の自由度を広げることができる。さらに、ガス室33内のガスが長期の使用によりの減少してもガス室の容積が大きいので、その変化は小さく体積弾性係数の変化への影響を小さくすることができる。
【0044】なお、上記第2実施例では、シリンダ上室1aと連通する油液通路35およびシリンダ下室1bと油液通路36を設け、シャトル弁37により油液通路35または36を他端側の室31b に選択的に連通、遮断するようにしたが、伸縮行程のいずれか一方の行程のみを自動的にソフト側に切換えるようにすればよい場合には、油液通路35または36のいずれか一方とシャトル弁37とを省略して構成するようにしてもよい。
【0045】さらに、上記両実施例において、体積弾性係数Kの小さな物質としてガスを用いたが、これに限られることなく、耐油性のゴム材料等で油圧の作用により弾性的に縮小変形するものを室20b または室31a に設け、これにより、スプール21またはスプール32のソフト側への自動切換を許すようにしてもよい。
【0046】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の減衰力調整式油圧緩衝器は、ピストンロッドの作動周波数(作動速度)に応じて、作動周波数が低い(速度が小さい)場合は、アクチュエータにより減衰力特性の調整を行い、作動周波数が高い(速度が大きい)場合は、ピストンロッドの作動にともなう油圧によって減衰力特性が自動的に、迅速にソフト特性側に切換わる。その結果、走行中の車両が路面の突起を通過する際等に、減衰力特性が自動的に迅速にソフト側に切換わるので車体の突上げ等を緩和することができ、乗り心地を向上させることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例の縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施例の縦断面図である。
【図3】従来の減衰力調整式油圧緩衝器の縦断面図である。
【符号の説明】
1 シリンダ
2 ピストン
3 ピストンロッド
5 伸び側主油液通路(主油液通路)
6 縮み側主油液通路(主油液通路)
7 バイパス通路
11 比例ソレノイドアクチュエータ(アクチュエータ)
19 スプール弁
20 弁ハウジング
20a,20b 室
21 スプール
22 連通路
23 オリフィス通路
29 ガス室
30 スプール弁
31 弁ハウジング
31a,31b 室
32 スプール
33 ガス室
35 油液通路
36 油液通路
37 シャトル弁
38 油液通路(オリフィス通路)
39 オリフィス(オリフィス通路)
41 比例ソレノイドアクチュエータ(アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 油液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装され前記シリンダ内を2室に画成するピストンと、一端側が前記ピストンに連結され他端側が前記シリンダの外部まで延ばされたピストンロッドと、前記シリンダ内の2室を連通させる減衰力発生機構を有する主油液通路と、前記シリンダ内の2室を連通するバイパス通路と、該バイパス通路の通路面積を調整するスプール弁と、該スプール弁のスプールを駆動するアクチュエータとを備えてなる減衰力調整式油圧緩衝器において、前記スプール弁の弁ハウジング内の前記スプールの両端側に前記スプールが通路面積を開く方向に摺動したときに拡張される一端側の室と同方向の摺動で圧縮される他端側の室とを形成し、該他端側の室に前記油液よりも体積弾性係数が小さな物質を設け、前記スプールの一端側の室と前記シリンダ内の2室の内の一方の室とを連通する連通路を設け、前記スプールの他端側の室と前記シリンダ内の一方の室とを連通させるオリフィス通路を設けたことを特徴とする減衰力調整式油圧緩衝器。
【請求項2】 油液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装され前記シリンダ内を2室に画成するピストンと、一端側が前記ピストンに連結され他端側が前記シリンダの外部まで延ばされたピストンロッドと、前記シリンダ内の2室を連通させる減衰力発生機構を有する主油液通路と、前記シリンダ内の2室を連通するバイパス通路と、該バイパス通路の通路面積を調整するスプール弁と、該スプール弁のスプールを駆動するアクチュエータとを備えてなる減衰力調整式油圧緩衝器において、前記スプール弁の弁ハウジング内の前記スプールの両端側にスプールが通路面積を開く方向に摺動したときに圧縮される一端側の室と同方向の摺動で拡張される他端側の室とを形成し、前記一端側の室に前記油液よりも体積弾性係数が小さな物質を設け、前記スプールの両端の2室を連通するオリフィス通路を設け、前記スプールの他端側の室を前記シリンダ内の2室の内の一方の室に連通させる油液通路を設けたことを特徴とする減衰力調整式油圧緩衝器。
【請求項3】 油液が封入されたシリンダと、該シリンダ内に摺動可能に嵌装され前記シリンダ内を2室に画成するピストンと、一端側が前記ピストンに連結され他端側が前記シリンダの外部まで延ばされたピストンロッドと、前記シリンダ内の2室を連通させる減衰力発生機構を有する主油液通路と、前記シリンダ内の2室を連通するバイパス通路と、該バイパス通路の通路面積を調整するスプール弁と、該スプール弁のスプールを駆動するアクチュエータとを備えてなる減衰力調整式油圧緩衝器において、前記スプール弁の弁ハウジング内の前記スプールの両端側にスプールが通路面積を開く方向に摺動したときに圧縮される一端側の室と同方向の摺動で拡張される他端側の室とを形成し、前記一端側の室に前記油液よりも体積弾性係数が小さな物質を設け、前記スプールの両端の2室を連通するオリフィス通路を設け、前記スプールの他端側の室を前記シリンダ内の2室の内で圧力の高い一方の室に選択的に連通させるとともに他方の室との連通を遮断するシャトル弁を設けたことを特徴とする減衰力調整式油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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