説明

減速機付油圧駆動装置の検査兼用潤滑油供給装置

【課題】 減速機組込み室3aのエア漏れ検出と、減速機組込み室3aへの潤滑油供給とを、連続的に実行できるようにする。
【解決手段】 減速機組込み室3aのエア漏れを検出するときに、エアノズル19で軸突出孔1cをふさぐとともに、潤滑油供給孔14は弁手段としてのチェック弁24で密閉しておく。したがって、エアノズル19から圧縮空気を供給するときには、減速機組込み室3aは、欠陥的なエア漏れがない限り密閉状態に保たれる。そして、エア漏れがないことが確認できたら、エア開放電磁切換弁21を開位置にして減速機組込み室3aを大気に開放すると同時に、潤滑油供給用電磁切換弁23を開位置に切り換えて、潤滑油供給ポンプPoから潤滑油を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばクローラを駆動するための減速機付油圧駆動装置のリークを検査する検査機能を備えた潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
減速機付油圧駆動装置として、特許文献1に示すものが従来から知られている。この減速機付油圧駆動装置Aは、例えば、クローラ式車両の走行駆動装置として用いられ、モータ機構に減速機構を連係することによって、高トルクを出力するようにしている。
この従来の減速機付油圧駆動装置Aを、図2〜4を用いて詳しく説明する。
モータハウジング1には、その外周に設けたベアリング2を介して、底板を設けた筒状の回転駆動体3を回転自在に組み付けるとともに、これらモータハウジング1と回転駆動体3とが相まって、回転駆動体3内に減速機組込み室3aを形成している。そして、上記ベアリング2よりも外寄りに一対のシールリング4,4および一対のOリング5,5からなるフローティングシール6を設け、ハウジング1と回転駆動体3との組み付け部分から油漏れが生じないようにしている。このようにした回転駆動体3に設けた減速機組込み室3aには、回転軸7aを設けた遊星ギアからなる減速機構7を組み込んでいる。
【0003】
上記のように減速機構7を組み込んだ減速機組込み室3aには、減速機構7の焼き付きなどを防止するために潤滑油を充填するが、上記したフローティングシール6は、この潤滑油の漏洩を防止するものである。
【0004】
一方、上記モータハウジング1にはモータ組込み室1aを設けるとともに、このモータ組込み室1aにアキシャル斜板モータからなるモータ機構8を組み込んでいる。また、このモータハウジング1には軸受装着孔1bを設け、この軸受装着孔1bに設けた軸受9でモータ機構8のモータ軸8aの先端を回転自在に支持している。さらに、上記モータハウジング1には軸突出孔1cを形成し、この軸突出孔1cから減速機構7の回転軸7aを突出させるとともに、上記モータ軸8aの先端に、前記減速機構7の回転軸7aの先端を挿入して固定し、モータ軸8aと回転軸7aとが一体回転する構成にしている。
なお、上記軸受装着孔1b内であって、軸受9よりも減速機組込み室3a側に、シール部材10を装着し、減速機組込み室3aに充填した上記潤滑油がモータ組込み室1a側に漏れないようにしている。
【0005】
また、回転駆動体3とは反対側におけるモータ組込み室1aの開口部分は、モータ機構8を制御するバルブを組み込んだバルブケース11でふさぐとともに、このバルブケース11に設けた軸受12でモータ軸8aの基端を回転自在に支持している。
【0006】
次に、上記減速機付油圧駆動装置の組み付け手順を説明する。
まず、回転駆動体3の減速機組込み室3aに減速機構7を組み込むとともに、この回転駆動体3にはモータハウジング1を組み付けるが、この段階では、モータハウジング1にはモータ機構8を組み込んでいない。このようにモータハウジング1と回転駆動体3とを組み付けたとき、図3に示すようにベアリング2およびフローティングシール6も組み付けられた状態にしておく。したがって、モータハウジング1と回転駆動体3とは相対回転自在に保たれるとともに、それらの組み付け部分はフローティングシール6で液密にシールされることになる。
【0007】
上記のようにモータ機構8を組み込む前のモータハウジング1と、回転駆動体3とを組み付けたら、図3に示すようにモータ組込み室1aの開口を密閉板13でふさぐが、このときにはシール部材10を装着していないので、モータ組込み室1aと減速機組込み室3aとは連通状態を持っている。
なお、上記のように密閉板13で上記モータ組込み室1aの開口をふさいだときには、モータハウジング1に形成された潤滑油供給孔14もふさがれるようにしている。したがって、密閉板13によって、モータ組込み室1aおよび減速機組込み室3aのそれぞれが密閉されることになる。
【0008】
上記のようにした密閉板13にはエア供給孔15が形成され、このエア供給孔15から圧縮空気を供給できるようにしている。そして、エア供給孔15から導かれた圧縮空気は、軸受装着孔1bを介して減速機組込み室3aに導かれる。したがって、フローティングシール6が十分機能していなければ、そこにエア漏れが発生する。このときエア漏れがあるか否かは、後で説明する装置を用いて検出し、上記フローティングシール6のシール機能をチェックする。もし、シール機能に問題がなければ、図4に示すように、上記密閉板13をモータハウジング1から取り外すとともに、上記潤滑油供給孔14にプラグ16を取り付けて、このプラグ16を、電磁切換弁17を介して潤滑油供給ポンプPoに接続する。そして、電磁切換弁17を図示の閉位置から開位置に切り換えて、回転駆動体3の減速機組込み室3aに潤滑油を供給する。
【0009】
上記のようにして回転駆動体3の減速機組込み室3aに潤滑油を充填したら、潤滑油供給孔14からプラグを取り外して、当該潤滑油供給孔14をふさぐとともに、モータハウジング1の軸受装着孔1bにシール部材10と軸受9を装着し、その後に、モータ組込み室1aにモータ機構8を組み込み、モータ軸8aと回転軸7aとを一体回転可能に連結する。
このようにして組み込まれたモータ機構8のモータ軸8aが軸受9,12で支持されるとともに、モータ軸8aの周囲がシール部材10でシールされる。
そして、最後にモータ組込み室1aの開口をバルブケース11で密閉してこの減速機付油圧駆動装置の組み付けを終了する。
【0010】
次に、フローティングシール6のシール機能をチェックするリーク検出機構について説明する。
リーク検出機構101は、エアポンプPaを備えるとともに、このエアポンプPaには、検査通路102と、比較通路103とをパラレルに接続している。これら両通路102,103には図示しないレギュレータ等を設けて、両通路102,103に供給されるエアの圧力が一定に保たれるようにしている。
また、両通路102,103には電磁切換弁104,105を設けるとともに、この電磁切換弁104,105を切り換え制御することによって、両通路102,103を開閉するようにしている。
【0011】
そして、上記検査通路102は、密閉板13のエア供給孔15に接続し、エアポンプPaから供給される圧縮空気を、上記エア供給孔15に導いている。したがって、エアポンプPaから圧縮空気を供給すれば、当該圧縮空気が、検査通路102およびエア供給孔15を介してモータ組込み室1aおよび減速機組込み室3aに導かれる。
一方、上記比較通路103には、マスターMを接続しているが、このマスターMは、検査対象となる減速機付油圧駆動装置と同型であって、リーク検査に合格した減速機付油圧駆動装置である。また、リーク検出機構101には、検査通路102と比較通路103との差圧を検出する差圧検出手段106を設けている。
【0012】
そして、エアポンプPaから圧縮空気を所定時間供給し続けて、検査対象である減速機付油圧駆動装置A内すなわちモータ組込み室1aおよび減速機組込み室3a内を加圧するとともに、マスターMにも圧縮空気を供給し続けて、マスターMの内部を加圧する。
【0013】
上記のようにして検査対象である減速機付油圧駆動装置AとマスターMとを所定時間加圧したら、電磁切換弁104,105を切り換えて、両通路102,103を閉じる。そして、両通路102,103を閉じてから所定時間が経過したら、差圧検出手段106が両通路102,103の差圧を検出する。
このとき、検査対象である減速機付油圧駆動装置の回転駆動体3からエア漏れがあれば、検査通路102内の圧力が、比較通路103内の圧力よりも低くなり、検査通路102内と、比較通路103内との差圧が大きくなる。
そして、差圧検出手段106が検出する差圧が、予め設定した許容範囲を超えた場合には、検査対象の減速機組込み室3aにリークがあると判断して、部品の交換や組み付け作業をやり直す。一方、上記差圧が許容範囲内にあれば、検査対象はリーク検査に合格したことになる。
【0014】
上記のように回転駆動体3のリーク検査が終了したら、次に、モータ組込み室1aに、前記したようにモータ機構8を組み込むとともに、この組込み室1aの開口をバルブケース11でふさぐ。このときには、モータ組込み室1aと減速機組込み室3aとは、シール部材10で完全に区画されている。
上記の状態でモータ組込み室1aに圧縮空気を供給して、モータ組込み室1aにリークがあるか否かを検査する。なお、この検査装置も、図3に示したリーク検出機構101を用いるとともに、マスターMとの間での差圧を検出してリークの有無を判定する。
リーク検査によって、モータハウジング1にリークがなければ、モータ組込み室1aに作動油を充填する。
【0015】
なお、上記のようにモータ組込み室1aのリークを検査するのは、次の理由からである。例えば、モータハウジング1に複数の巣があって、それらが連続している場合に、モータ組込み室1aに充填した作動油が、減速機組込み室3aに漏れて前記潤滑油と混ざり合ってしまう。
しかし、作動油と潤滑油とでは、それらの成分や特性が全く異なるため、減速機組込み室3aに作動油が流れ込めば、この作動油が潤滑油に混合してしまい、潤滑油が本来有している潤滑性能が損なわれてしまう。逆に、減速機組込み室3aからモータ組込み室1aに潤滑油が流れ込めば、当該潤滑油が作動油中に混合してしまい、作動油が本来有している圧力伝達性能が損なわれてしまう。そこで、モータ組込み室1aのリーク検査を実行して、作動油と潤滑油の混合を防止するようにしている。
【特許文献1】特開平7−305746号公報
【特許文献2】特開平8−313384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のようにした従来の装置では、減速機組込み室3aのリーク検査をするために、まず、モータハウジング1の開口を密閉板13でふさがなければならない。
そして、検査が終了した段階で、この密閉板13を取り外すとともに、潤滑油供給孔14にプラグ16を取付け、当該プラグを潤滑油供給ポンプPoに接続してから、潤滑油を供給しなければならない。
したがって、従来のリーク検査装置では、減速機組込み室3aのリーク検査終了から、減速機組込み室3aに潤滑油を注入するまでに、間をおかずに連続的に作業することができなかった。このように間をおかずに連続的な作業ができない分、作業時間が長くなるという問題があった。
【0017】
また、従来の装置では、回転駆動体3のリークを検査するとき、モータ組込み室1aに圧縮空気を供給して、その圧力を減速機組込み室3aに導くようにしているので、モータ組込み室1aと減速機組込み室3aとの圧力は同じになる。したがって、モータハウジング1に、例えば、複数の巣による連続気泡があっても、回転駆動体3のリーク検査時にはそれをチェックすることができない。
【0018】
そのために、モータハウジング1に漏れがあるかどうかは、モータ組込み室1aにモータ機構8を組み込んで、このモータ組込み室1aの開口をバルブケース11でふさいでから実行するリーク検査工程時でしか発見することができない。
しかし、モータ組込み室1aにモータ機構8を完全に組み込んでから、モータ組込み室1aのリークが発見されたときには、モータ機構8をモータ組込み室1aから外して、そのリークの原因を突き止めてから、それを補修しなければならない。
【0019】
したがって、上記連続気泡がモータハウジング1に形成されていた場合には、モータハウジング1にモータ機構8を組み込んだり、バルブケース11を取り付けたりする作業が無駄になるばかりか、それを取り外す作業まで必要となり、極めて作業効率が悪くなるという問題があった。
この発明の目的は、減速機組込み室のリーク検査終了から、減速機組込み室に潤滑油を注入するまでに、間をおかずに連続的に作業ができる装置を提供することである。
また、他の目的は、減速機付油圧駆動装置の組み付け作業が完了する前の段階で、モータハウジングのリークを発見できるようにして、作業効率を高められる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明は、モータハウジングに、底板を設けた筒状の回転駆動体を回転自在にはめるとともに、これら回転駆動体とモータハウジングとが相まって、回転駆動体内に減速機組込み室を区画形成するする。一方、上記モータハウジングに設けたモータ組込み室にはモータ機構を組み込み、上記減速機組込み室には減速機構を組み込み、これら両組込み室は、モータハウジングに形成した軸受装着孔を介して連通させ、モータ機構のモータ軸を上記軸受装着孔に設けた軸受に支持させている。そして、このモータ軸の回転力を、減速機構を介して回転駆動体に伝達する一方、モータハウジングと回転駆動体との組み付け部分をシールして減速機組込み室を液密にしてなる減速機付油圧駆動装置の検査兼用潤滑油供給装置を前提にするものである。
【0021】
第1の発明は、上記の装置を前提にしつつ、エア供給孔を形成するとともに、少なくとも減速機組込み室を密閉する密閉手段と、この密閉された減速機組込み室に圧縮空気を供給するエアポンプと、圧縮空気が供給された減速機組込み室の圧力変化を検出するとともに、検査終了時に減速機組込み室を大気に開放するリーク検出機構と、モータハウジングに形成した潤滑油供給孔に潤滑油を供給する潤滑油供給ポンプと、この潤滑油供給孔と潤滑油供給ポンプとの間に設けられるとともに、潤滑油供給孔から潤滑油供給ポンプ側への流体の流通を阻止する弁手段と、潤滑油供給ポンプを潤滑油供給孔に連通させたり、その連通を遮断したりする潤滑油供給用切換弁と、リーク検出機構が減速機組込み室を大気に開放したとき潤滑油供給用切換弁を連通状態に切り換える制御手段とを備えた点に特徴を有する。
【0022】
第2の発明は、リーク検出機構に、密閉された減速機組込み室を大気に開放するエア開放電磁切換弁を設ける一方、潤滑油供給ポンプを潤滑油供給孔に連通させたり、その連通を遮断したりする潤滑油供給用切換弁を電磁切換弁とし、上記制御手段は、エア開放電磁切換弁および潤滑油供給用電磁切換弁の開閉を制御するとともに、エア開放電磁切換弁を開位置に切換えると同時もしくはほぼ同時に潤滑油供給用電磁切換弁を開位置に切換える構成にした点に特徴を有する。
【0023】
第3の発明は、その制御手段が、減速機組込み室のエア漏れ許容限度基準を記憶し、検査対象である減速機付油圧駆動装置のエア漏洩が上記エア漏れ許容限度基準以内にあるかどうかを判定する一方、そのエア漏洩が上記エア漏れ許容限度基準以内にあると判定したとき、エア開放電磁切換弁および潤滑油供給用電磁切換弁を同時もしくはほぼ同時に切り換える機能を備えた点に特徴を有する。
第4の発明は、その制御手段が、手動操作でエア開放電磁切換弁および潤滑油供給用電磁切換弁の開閉を制御する構成にした点に特徴を有する。
第5の発明は、上記密閉手段が、モータ組込み室と減速機組込み室とを連通させる軸受装着孔のみを密閉する構成にした点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0024】
第1の発明によれば、減速機組込み室を密閉手段で密閉して、リーク検出機構をセットするとともに、潤滑油供給孔に潤滑油供給ポンプを接続しておけば、リーク検査が終了した時点で、潤滑油を減速機組込み室に供給することができる。言い換えると、リーク検査作業と潤滑油供給作業とを、間をおかずに連続的に実施することができるので、作業時間を短縮することができる。
第2の発明によれば、エア開放電磁切換弁を開位置に切り換えたとき、潤滑油供給用電磁切換弁を切り換えて、潤滑油を減速機組込み室に供給できるので、作業の連続性を効率よく保つことができる。
【0025】
第3の発明によれば、制御手段が減速機組込み室の漏洩状態を判定して、エア開放電磁切換弁および潤滑油供給用電磁切換弁を切り換え制御するので、作業の自動化を進めることができる。
第4の発明によれば、当該装置のコストアップを阻止することができる。
【0026】
第5の発明によれば、減速機組込み室のリーク検査をするとき、密閉手段を軸受装着孔のみに密接させて、圧縮空気を減速機組込み室に直接供給するようにしたので、減速機組込み室自体のリークはもちろん、この減速機組込み室を形成するモータハウジングのリークも検出することができる。言い換えると、モータハウジングにモータ機構やバルブケース等を組み付ける前に、モータハウジングのリークを発見することができる。また、例えば、モータハウジングに複数の巣があってそれらが連続してリーク孔を形成しているなど、モータハウジングに材質的な欠陥があるような場合に、それを発見しやすくなる。
このようにモータハウジングにリークが検出されたときには、当該ハウジングを回転駆動体から外すだけで、その補修作業に取り掛かることができ、作業効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1を用いて、この発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態では、上記従来で説明したのと同じ減速機付油圧駆動装置を前提にしたものである。したがって、従来と同じ構成については従来と同じ符号を付するとともに、減速機付油圧駆動装置Aの詳細な説明は省略する。
【0028】
図1に示すように、リーク検出機構101を構成するエアポンプPaは、電磁切換弁118を介して検査通路102と比較通路103とに接続している。そして、上記電磁切換弁118は、非励磁状態でノーマル位置である閉位置を保ち、励磁状態で上記両通路102,103に同時に連通する開位置を保つようにしている。このようにした電磁切換弁118は、制御手段Cと電気的に接続され、制御手段Cの電気信号に応じて切り換わるものである。
【0029】
上記検査通路102には、この発明の密閉手段である円筒状のエアノズル19を接続しているが、このエアノズル19は、その先端に開口部19aを形成するとともに、その開口部周囲にシール部材20を設けている。また、上記開口部19aとは反対端にはエア供給孔19bを形成し、このエア供給孔19bを前記した検査通路102に接続している。
また、この円筒状のエアノズル19は、その外径を軸受装着孔1bの内径よりも小さく、かつ、軸突出孔1cよりも大きくするとともに、この開口部19aを、上記軸突出孔1cを囲むようにして密接させると、その密接部分はシール部材20でシールされるようにしている。
【0030】
そして、回転駆動体3の減速機組込み室3aに減速機構7を組み込むとともに、この回転駆動体3に、モータハウジング1をはめるが、この段階では、当該モータハウジング1にはモータ機構8を組み込んでいない。
上記の状態で、エアノズル19の開口部19aを上記軸突出孔1cの周囲に密接させるとともに、エアポンプPaからの圧縮空気を減速機組込み室3aに直接供給する。この状態では、モータハウジング1のモータ組込み室1aが大気に開放された状態で、エアポンプPaからの圧縮空気が減速機組込み室3aに供給されることになる。
【0031】
一方、比較通路103にはマスターMを接続するとともに、両通路102,103間には差圧検出手段106を接続しているが、これらマスターMおよび差圧検出手段106は従来と全く同じ構成である。ただし、この実施形態の差圧検出手段106は、その検出情報を上記制御手段Cに入力するようにしている。
さらに、この実施形態では、上記両通路102,103間にエア開放電磁切換弁21を接続している点が、従来と異なる。このエア開放電磁切換弁21は、ノーマル位置を保つ非励磁状態で上記両通路102,103を大気に開放させる開位置を保ち、励磁状態で上記両通路102,103と大気との連通を遮断する閉位置を保つようにしている。そして、このエア開放電磁切換弁21は、制御手段Cと電気的に接続され、制御手段Cの電気信号に応じて切り換わるものである。
【0032】
一方、モータハウジング1に形成した潤滑油供給孔14にはプラグ16を接続するとともに、このプラグ16に接続した潤滑油供給通路22を潤滑油供給ポンプPoに接続している。
そして、上記潤滑油供給通路22には、その上流側から順に潤滑油供給用電磁切換弁23およびこの発明の弁手段であるチェック弁24を設けている。
上記潤滑油供給用電磁切換弁23は、非励磁状態であるノーマル位置にあるとき閉位置を保ち、励磁状態にあるとき開位置を保つものである。そして、この潤滑油供給用電磁切換弁23は、制御手段Cと電気的に接続され、制御手段Cの電気信号に応じて切り換わるものである。
また、上記チェック弁24は潤滑油供給ポンプPoから潤滑油供給孔14への流通のみを許容するものである。言い換えると、潤滑油供給孔14から潤滑油供給ポンプPo方向への流体の流れを阻止するが、流体が気体であってもその流通を阻止する機能を備えている。
【0033】
さらに、上記した制御手段Cは、検査対象である減速機付油圧駆動装置Aのエア漏れ許容限度基準をあらかじめ記憶している。そして、差圧検出手段106で検出された差圧によって、当該検査対象の減速機付油圧駆動装置Aのエア漏れが、上記エア漏れ許容限度基準を満たしているかどうかを判定する機能を備えている。
【0034】
次に、検査対象である減速機付油圧駆動装置Aのエア漏れを検査するとともに、当該装置Aに潤滑油を供給するまでの作用を説明する。
まず、エアノズル19で軸突出孔1cをふさぐとともに、このエアノズル19を、検査通路102を介して電磁切換弁118に接続する。なお、このときには、比較通路103を介して電磁切換弁118にマスターMを接続しておくとともに、エア開放電磁切換弁21を励磁してそれを閉位置に切り換えておく。
また、潤滑油供給孔14にプラグ16を取り付けて、この潤滑油供給孔14を潤滑油供給通路22に接続する。このように潤滑油供給孔14を潤滑油供給通路22に接続すると、チェック弁24が機能して潤滑油供給孔14を密閉状態に保つ。
【0035】
上記のようにしてから制御手段Cを操作して電磁切換弁118を励磁するとともに、当該電磁切換弁118を閉位置から開位置に切り換える。電磁切換弁118が開位置に切り換われば、エアポンプPaから供給された圧縮空気がエアノズル19を介して減速機組込み室3aに供給される。なお、このときには、潤滑油供給孔14がチェック弁24で密閉されているので、減速機組込み室3aは、欠陥的なエア漏れがない限り密閉状態に保たれる。
また、上記エアポンプPaからの圧縮空気は、比較通路103を介してマスターMにも供給される。
【0036】
したがって、減速機組込み室3aに欠陥的なエア漏れがあれば、従来と同様に、検査通路102と比較通路103との間に差圧が発生し、その差圧は差圧検出手段106で検出されるとともに、その差圧情報が制御手段Cに入力される。
制御手段Cは、上記差圧情報に基づいて、検査対象の減速機組込み室3aのエア漏れが、エア漏れ許容限度基準と比較してその基準以内にあるかどうかを判定し、もしエア漏れ許容限度基準を超えている場合には、不合格信号を発信する。
【0037】
一方、エア漏れ許容限度基準以内にあれば、制御手段Cは、電磁切換弁118を非励磁状態にして閉位置に切り換え、エア開放電磁切換弁21を非励磁状態にして当該切換弁21を開位置に切り換えるとともに、潤滑油供給用電磁切換弁23を励磁して、閉位置から開位置に切り換える。
したがって、減速機組込み室3aはエアノズル19、検査通路102およびエア開放電磁切換弁21を介して大気に開放されると同時に、潤滑油供給ポンプPoから供給された潤滑油が、潤滑油供給孔14から減速機組込み室3aに供給される。
このように当該減速機付油圧駆動装置Aのエア漏れの検査が終了したと同時に、潤滑油が減速機組込み室3aに供給されるので、それらの作業工程が間をおくことなく連続的に実行されることになる。
【0038】
なお、モータハウジング1に連続する複数の巣があって、この巣を介して、減速機組込み室3aとモータ組込み室1aとが連通していれば、そこから圧縮空気が大気中に漏れることになる。なぜなら、エアノズル19で軸突出孔1cのみを密閉し、モータ組込み室1aは大気に開放されているからである。したがって、上記のように減速機組込み室3aとモータ組込み室1aとが複数の巣を介して連通していれば、減速機組込み室3aの圧力がマスターMの圧力よりも相対的に低くなる。この圧力の相対差を、制御手段Cで検出すれば、少なくとも減速機組込み室3aのいずれかにリークが発生していることがわかる。
【0039】
上記のようにマスターMとの間での差圧がエア漏れ許容限度基準を超えた場合に、その原因が、フローティングシール6等の構造的なリークか、あるいはモータハウジング1等の材質的な欠陥によるリークかのいずれかである。そこで、リークの原因が何であるかを追究し、それを補修することになるが、このときには、モータハウジング1を回転駆動体3から取り外して、その補修作業をすることになる。しかし、従来のようにモータ機構8を組み込んだ後にモータハウジング1を取り外す手間を考えれば、この実施形態の補修作業の方が効率的であることは明らかである。
【0040】
上記のように減速機組込み室3a側のリークを検査して異常がない場合、あるいは補修終了後には、前記潤滑油供給孔14をふさいでから、モータ組込み室1aにモータ機構8を組み込み、このモータ組込み室1aをバルブケース11でふさいで、全体の組付けを完了する。
そして、全体の組付けが完了したら、再び、モータ組込み室1aに、エアポンプPaから圧縮空気を供給し、そのリークを検出する。この場合の検査対象は、当該モータ組込み室1aをシールする部材や組付け状況の欠陥など構造的なリークとなる。
いずれにしても、この実施形態によれば、エアノズル19を、既存の軸受装着孔1bに密着させるだけでよいので、エアノズル19という簡単なツールを用いるだけで、目的のリーク検査が可能になる。
【0041】
なお、上記実施形態では、密閉手段としてエアノズル19を用いたが、従来と同様の密閉板13を用いてもよい。ただし、この場合にも、密閉板13でモータ組込み室1aを密閉しつつ、潤滑油供給孔14に潤滑油供給通路22を接続して潤滑油供給孔14を密閉しておかなければならない。潤滑油供給孔14を密閉しておかなければ、減速機組込み室3aに圧縮空気を供給したときに、この圧縮空気が潤滑油供給孔14から漏れてしまい、エア漏れの検査ができなくなるだけでなく、リーク検査と潤滑油供給作業とを連続的にできなくなるからである。
また、従来と同様の密閉板13を用いた場合には、モータハウジング1の巣によるリークを、減速機組込み室3aのリーク検査の段階で見出しにくくなる不便さは解消できない。
【0042】
さらに、この実施形態における制御手段Cは、リークの状況を判定する機能を持たせ、その漏れが許容限度基準以内にあれば、各電磁切換弁118,21,23を自動的に切り換えるようにしたが、制御手段Cを手動操作するようにしてもよい。また、個々の電磁切換弁118,21,23のすべてを手動操作可能にしてもよく、この場合には、手動操作手段がこの発明の制御手段を構成することになる。
さらにまた、この実施形態ではこの発明の弁手段としてチェック弁24を用いたが、潤滑油供給ポンプPoから潤滑油供給孔14への流通のみを許容し、その逆流を阻止するとともに、その逆流時における潤滑油供給孔14を密閉する機能さえあれば、どのような弁構造でもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この実施形態のリーク検査機能を備えた潤滑油供給装置を示す概念図である。
【図2】減速機付油圧駆動装置の断面図である。
【図3】従来のリーク検査装置の説明図である。
【図4】従来の潤滑油供給装置の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
A 減速機付油圧駆動装置
1 モータハウジング
1a モータ組込み室
1b 軸受装着孔
3 回転駆動体
3a 減速機組込み室
7 減速機構
7a 回転軸
8 モータ機構
8a モータ軸
Po 潤滑油供給ポンプ
14 潤滑油供給孔
19 密閉手段であるエアノズル
19b エア供給孔
21 エア開放電磁切換弁
Pa エアポンプ
C 制御手段
23 潤滑油供給用電磁切換弁
24 弁手段としてチェック弁
101 リーク検出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータハウジングに、底板を設けた筒状の回転駆動体を回転自在にはめるとともに、これら回転駆動体とモータハウジングとが相まって、回転駆動体内に減速機組込み室を区画形成する一方、上記モータハウジングに設けたモータ組込み室にはモータ機構を組み込み、上記減速機組込み室には減速機構を組み込み、これら両組込み室は、モータハウジングに形成した軸受装着孔を介して連通させ、モータ機構のモータ軸を上記軸受装着孔に設けた軸受に支持させ、このモータ軸の回転力を、減速機構を介して回転駆動体に伝達する一方、モータハウジングと回転駆動体との組み付け部分をシールして減速機組込み室を液密にしてなる減速機付油圧駆動装置に対する検査機能を備えた潤滑油供給装置において、エア供給孔を備えるとともに、少なくとも減速機組込み室を密閉する密閉手段と、この密閉された減速機組込み室に圧縮空気を供給するエアポンプと、圧縮空気が供給された減速機組込み室の圧力変化を検出するとともに、検査終了時に減速機組込み室を大気に開放するリーク検出機構と、モータハウジングに形成した潤滑油供給孔に潤滑油を供給する潤滑油供給ポンプと、この潤滑油供給孔と潤滑油供給ポンプとの間に設けられるとともに、潤滑油供給孔から潤滑油供給ポンプ側への流体の流通を阻止する弁手段と、潤滑油供給ポンプを潤滑油供給孔に連通させたり、その連通を遮断したりする潤滑油供給用切換弁と、リーク検出機構が減速機組込み室を大気に開放したとき潤滑油供給用切換弁を連通状態に切り換える制御手段とを有する検査機能を備えた潤滑油供給装置。
【請求項2】
リーク検出機構には、密閉された減速機組込み室を大気に開放するエア開放電磁切換弁を設ける一方、潤滑油供給ポンプを潤滑油供給孔に連通させたり、その連通を遮断したりする潤滑油供給用切換弁を電磁切換弁とし、上記制御手段は、エア開放電磁切換弁および潤滑油供給用電磁切換弁の開閉を制御するとともに、エア開放電磁切換弁を開位置に切換えると同時もしくはほぼ同時に潤滑油供給用電磁切換弁を開位置に切換える構成にした請求項1記載の検査機能を備えた潤滑油供給装置。
【請求項3】
上記制御手段は、減速機組込み室のエア漏れ許容限度基準を記憶し、検査対象である減速機付油圧駆動装置のエア漏洩が上記エア漏れ許容限度基準以内にあるかどうかを判定する一方、そのエア漏洩が上記エア漏れ許容限度基準以内にあると判定したとき、エア開放電磁切換弁および潤滑油供給用電磁切換弁を同時もしくはほぼ同時に切り換える機能を備えた請求項2〜3に記載の検査機能を備えた潤滑油供給装置。
【請求項4】
上記制御手段は、手動操作でエア開放電磁切換弁および潤滑油供給用電磁切換弁の開閉を制御する構成にした請求項1記載の検査機能を備えた潤滑油供給装置。
【請求項5】
上記密閉手段は、モータ組込み室と減速機組込み室とを連通させる軸受装着孔のみを密閉する構成にした請求項1〜4のいずれかに記載の検査兼用潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−174567(P2009−174567A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11085(P2008−11085)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】