説明

渦巻きコイル

【課題】低コストで製造できると共に渦電流損に起因する高周波損失を低減できる渦巻きコイルを提供する。
【解決手段】扁平につぶした形状で且つ素線が絶縁されている編組線または素線が絶縁されている平編線を、その長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻くか、又は、その短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いた渦巻きコイル。
【効果】普通の編組線または普通の平編線を用いるため、低コストに製造でき、高周波損失を低減できる。長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたコイルは、丸線に比べて同じコイル径に対する巻数を多くすることが出来る。短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたコイルは、同じ断面積の丸線を用いる場合に比べてコイル厚を薄くすることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦巻きコイルに関し、さらに詳しくは、低コストで製造できると共に主に渦電流損に起因する高周波損失を低減できる渦巻きコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、素線を複数本用いて形成した、右回りの螺旋からなる円管状の右螺旋部と左回りの螺旋からなる円管状の左螺旋部とが混在した集合線を加圧して平坦状としたコイル導線を、その長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻回した誘導加熱調理器用加熱コイルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−115368号公報(請求項12,[0043],図12)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の誘導加熱調理器用加熱コイルでは、平坦状としたコイル導線を、その長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻回しているため、加熱対象(例えば鍋)のサイズに起因するコイルの外径上の制約があっても、加熱に必要なアンペアターンを1層で確保できる。
しかし、コイル導線が、素線を複数本用いて形成した、右回りの螺旋からなる円管状の右螺旋部と左回りの螺旋からなる円管状の左螺旋部とが混在した集合線を加圧して平坦状とした特殊構造であり、製造コストが高くなってしまう問題点がある。
【0004】
一方、非接触給電装置用コイル(例えば携帯電話機に使用される非接触の充電装置)では、機器の薄型化、小型化の要求のため、平角線の渦巻きコイルが使用されるが、電力伝送効率を上げるため高周波(例えば100kHz〜1MHz)で駆動されることから渦電流損が増加し、コイルの発熱が大きくなる問題点がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、低コストで製造できると共に主に渦電流損に起因する高周波損失を低減できる渦巻きコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点では、本発明は、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする渦巻きコイルを提供する。
上記構成において、扁平につぶした形状の幅/厚さは2以上とする。
上記第1の観点による渦巻きコイルでは、特殊構造の集合線ではなく、扁平につぶした形状の普通の編組線または普通の平編線を用いるため、低コストに製造でき、高周波損失を低減できる。そして、長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻くため、丸線に比べて同じコイル径に対する巻数を多くすることが出来る。
【0007】
第2の観点では、本発明は、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする誘導加熱用渦巻きコイルを提供する。
上記構成において、扁平につぶした形状の幅/厚さは2以上とする。
上記第2の観点による誘導加熱用渦巻きコイルでは、特殊構造の集合線ではなく、扁平につぶした形状の普通の編組線または普通の平編線を用いるため、低コストに製造でき、高周波損失を低減できる。そして、長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻くため、加熱対象(例えば鍋)のサイズに起因するコイルの外径上の制約があっても、加熱に必要なアンペアターンを1層で確保できる。従って、複数層巻きした場合の近接効果による高周波損失の増加、放熱性の低下、コイル厚さの増加といった不都合が生じず、誘導加熱用として好適である。尚、ここでいう近接効果とは、近接した導体がつくる交流磁界によって導体内に渦電流が発生し高周波での実効抵抗が増加する現象を意味する。
【0008】
第3の観点では、本発明は、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする非接触型給電装置用渦巻きコイルを提供する。
上記構成において、扁平につぶした形状の幅/厚さは2以上とする。
上記第3の観点による非接触型給電装置用渦巻きコイルでは、特殊構造の集合線ではなく、扁平につぶした形状の普通の編組線または普通の平編線を用いるため、低コストに製造でき、高周波損失を低減できる。そして、長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻くため、給電対象(例えば携帯電話)のサイズに起因するコイルの外径上の制約があっても、加熱に必要なアンペアターンを1層で確保できる。従って、複数層巻きした場合の近接効果による高周波損失の増加、放熱性の低下、コイル厚さの増加といった不都合が生じず、非接触型給電装置用として好適である。尚、ここでいう近接効果とは、近接した導体がつくる交流磁界によって導体内に渦電流が発生し高周波での実効抵抗が増加する現象を意味する。
【0009】
第4の観点では、本発明は、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする渦巻きコイルを提供する。
上記構成において、扁平につぶした形状の幅/厚さは2以上とする。
上記第4の観点による渦巻きコイルでは、特殊構造の集合線ではなく、扁平につぶした形状の普通の編組線または普通の平編線を用いるため、低コストに製造でき、高周波損失を低減できる。そして、短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻くため、同じ断面積の丸線を用いる場合に比べてコイル厚を薄くすることが出来る。
【0010】
第5の観点では、本発明は、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする非接触型給電装置用渦巻きコイルを提供する。
上記構成において、扁平につぶした形状の幅/厚さは2以上とする。
上記第5の観点による非接触型給電装置用渦巻きコイルでは、特殊構造の集合線ではなく、扁平につぶした形状の普通の編組線または普通の平編線を用いるため、低コストに製造でき、高周波損失を低減できる。そして、短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻くため、同じ断面積の丸線を用いる場合に比べてコイル厚を薄くすることが出来るので、非接触型給電装置用に好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の渦巻きコイルによれば、低コストで製造できると共に渦電流損に起因する高周波損失を低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1に係る渦巻きコイル100を示す平面図である。
この渦巻きコイル100は、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線を、その長辺の面が重なる方向に1層レコード巻きしたものである。例えば内径φi=50mm、外径φo=200mmである。
編組線は、外径0.08mmのエナメル線を16本編組したものである。
【0014】
図2は、図1のA−A’断面図である。
例えば、編組線を扁平につぶした形状の長辺w=0.96mm、短辺t=0.27mmである。
【0015】
図3は、リボン線をその長辺の面が重なる方向に1層レコード巻きした比較例の渦巻きコイルと、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線をその長辺の面が重なる方向に1層レコード巻きした本発明のコイルの周波数特性である。なお、Roは直流抵抗である。
本発明の渦巻きコイルでは、高周波領域になっても実効抵抗Rsの増加が小さくなっている。
【0016】
実施例1の渦巻きコイル100によれば次の効果が得られる。
(1)特殊構造の集合線ではなく、普通の編組線を用いるため、低コストに製造できる。
(2)扁平につぶした形状の編組線を用い、その長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻くため、丸線に比べて同じコイル径に対する巻数を多くすることが出来ると共に、高周波損失を低減できる。
(3)加熱対象(例えば鍋)のサイズに起因するコイルの外径上の制約があっても、加熱に必要なアンペアターンを1層で確保できる。従って、複数層巻きした場合の近接効果による高周波損失の増加、放熱性の低下、コイル厚さの増加といった不都合が生じず、誘導加熱用(例えば誘導加熱調理器用)として好適である。
(4)給電対象(例えば携帯電話)のサイズに起因するコイルの外径上の制約があっても、給電に必要なアンペアターンを1層で確保できる。従って、複数層巻きした場合の近接効果による高周波損失の増加、放熱性の低下、コイル厚さの増加といった不都合が生じず、非接触型給電装置用として好適である。
【実施例2】
【0017】
図4は、実施例2に係る渦巻きコイル200を示す平面図である。
この渦巻きコイル200は、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線を、その短辺の面が重なる方向に1層レコード巻きしたものである。例えば内径φi=5mm、外径φo=30mmである。
編組線は、外径0.08mmのエナメル線を16本編組したものである。
【0018】
図5は、図4のA−A’断面図である。
例えば、編組線を扁平につぶした形状の長辺w=0.96mm、短辺t=0.27mmである。
【0019】
図6は、リボン線をその短辺の面が重なる方向に1層レコード巻きした比較例の渦巻きコイルと、扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線をその短辺の面が重なる方向に1層レコード巻きした本発明のコイルの周波数特性である。なお、Roは直流抵抗である。
本発明の渦巻きコイルでは、高周波領域になっても実効抵抗Rsの増加が小さくなっている。
【0020】
実施例2の渦巻きコイル200によれば次の効果が得られる。
(1)特殊構造の集合線ではなく、普通の編組線を用いるため、低コストに製造できる。
(2)扁平につぶした形状の編組線を用い、その短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻くため、同じ断面積の丸線を用いる場合に比べてコイル厚を薄くすることが出来ると共に、高周波損失を低減できる。
(3)コイル厚を薄くすることが出来るから、小型軽量が要求される非接触型給電装置用(例えば非接触型携帯電話充電器用)として好適である。
【実施例3】
【0021】
コイル形状保持性の観点から、編組線の素線を融着線とするか、又は、編組線にまとめて融着層を焼き付けるのが好ましい。
【実施例4】
【0022】
絶縁を強化するために、編組線の外周に絶縁テープを巻いてからレコード巻きするか、又は、押出しにより編組線の外周に被覆樹脂被覆を形成してからレコード巻きしてもよい。
【実施例5】
【0023】
素線が絶縁された編組線の代わりに素線が絶縁された平編線を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の渦巻きコイルは、電磁誘導加熱装置用コイルや非接触給電装置用コイルなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1に係る渦巻きコイルを示す平面図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】比較例のコイルおよび実施例1に係る渦巻きコイルの実効抵抗Rsの周波数特性図である。
【図4】実施例2に係る渦巻きコイルを示す平面図である。
【図5】図4のA−A’断面図である。
【図6】比較例のコイルおよび実施例2に係る渦巻きコイルの実効抵抗Rsの周波数特性図である。
【符号の説明】
【0026】
100,200 渦巻きコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする渦巻きコイル。
【請求項2】
扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする誘導加熱用渦巻きコイル。
【請求項3】
扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその長辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする非接触型給電装置用渦巻きコイル。
【請求項4】
扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする渦巻きコイル。
【請求項5】
扁平につぶした形状であり且つ素線が絶縁された編組線または素線が絶縁された平編線をその短辺の面が重なる方向に渦巻き状に巻いたことを特徴とする非接触型給電装置用渦巻きコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−64856(P2009−64856A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229764(P2007−229764)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】