説明

温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物

【目的】 食料品の加熱保存による変質の確認および医療用品の滅菌状態の確認に広く利用できるように、印刷される文字の変色条件を調整できるインクジェットプリンタ用インキ組成物を提供する。
【構成】 0.1〜5重量%の染料、3〜30重量%の樹脂、0.5〜5重量%の導電性付与物質および60〜95重量%の溶剤を主成分として含むインクジェットプリンタ用インキ組成物を食品等の品質管理に使用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェットプリンタによる印刷に適し、印刷後に温度履歴により変色するインキ組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】熱によって昇華する染料を含んでいるインキ組成物で印刷すると、印刷された図柄や文字が温度履歴により変色する。このため前記インキ組成物で医療品や食料品に図柄等を印刷して、高圧蒸気で一定時間加熱して滅菌処理すると、図柄等の変色により滅菌状態を視覚的に確認することができる。
【0003】医療品等に印刷する手段のひとつとしてインクジェットプリンタで文字を直接印刷する方法がある。インクジェットプリンタとは、加圧および振動により20〜300μm前後の金属製またはガラス製ノズル先端部から、インキを微細粒子として噴射させ、被印字物に記録する装置である。インクジェットプリンタを使用すると曲部面に高速で容易に印字できる。このため、紙製のラベルを張り付けにくい飲料缶や食品の包装等の各種製品にインキをマーキングできるようになった。
【0004】特開昭56−36557号公報、特開昭56−36558号公報、特開昭64−1777号公報、特開平01−26685号公報、特開平02−97575号公報、特開平02−97576号公報、特開平04−1280号公報にはインクジェットプリンタ用インキ組成物が医療、食品分野で滅菌・殺菌処理の確認に利用されていることが記載されている。インクジェットプリンタ用インキ組成物の中の染料が熱、水または水蒸気の存在により昇華することで、印刷された文字が変色し食品等の滅菌状態が確認される。他に、特開平05−87105号公報にはインクジェットプリンタ用インキ組成物が縫製分野でチャコの代わりに使用されていることが記載されている。この組成物の中の染料は、高温かつ短時間で昇華し布に情報を残さない。
【0005】食品分野で、飲料が入った缶等を加温販売した場合、長期間にわたって加熱しているために飲料が熱によって変質することがあった。昇華型染料を含んだインキ組成物で飲料缶に表示される文字を印刷しても、飲料の保存条件である乾熱温度50〜100℃の範囲では、染料が昇華しないことがあり正確な管理ができなかった。このため前記温度範囲で変色し、しかも飲料の変質条件に合わせて文字の変色条件が調整可能なインクジェットプリンタ用インキ組成物の開発が待ち望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、食料品の加熱保存による変質の確認および医療用品の滅菌状態の確認に広く利用できるように、印刷される文字の変色条件を調整できるインクジェットプリンタ用インキ組成物を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するためになされた本発明の温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物は、0.1〜5重量%の染料、3〜30重量%の樹脂、0.5〜5重量%の導電性付与物質および60〜95重量%の溶剤を主成分として含んでいるものである。
【0008】染料は熱により昇華または分解する。染料には、色を特定する指数であるカラーインデックス番号が11020、11110、11360、12010、12055、12100、12150、26150、42090、50040、60505、60725、61100、61565、Solvent Red14,146、Solvent Blue35,95,149、Solvent Violet33、Disperse Red88,110,112,137、Disperse Blue44,149,183,266、Basic Red39で示されるもの、オーリン、クロルフェノールレッド、チモールブルー、テトラブロモフェノールブルー、ブロモクレゾールグリーン、ブロモクレゾールパープル、ブロムクロルレッド、ブロムチモールブルーが挙げられる。これらは単独で使用しても、複数種混合して使用してもよい。
【0009】染料の量はインキ総重量に対して0.1〜5重量%が望ましい。0.1重量%未満の場合にはインクジェットプリンタによる印字が不鮮明となり、5重量%を越える場合には熱による変色色差が少なくなる。
【0010】樹脂には、例えばアミノ樹脂、アルキド樹脂、キシレン樹脂、ニトロセルロース、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、ロジンエステル、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂が挙げられる。これらは単独で使用しても、混合して使用してもよい。
【0011】樹脂の量はインキ総重量に対して3〜30重量%が望ましい。樹脂量が3重量%未満の場合には飲料缶等の被印字物へのインクの付着力が弱くなり、30重量%を越える場合にはインキの粘度が高くなりインクジェット印刷がしにくくなる。
【0012】導電性付与物質はインクジェットプリンターで印字するために必要な帯電性をインキに付与する。導電性付与物質には、例えばリチウム塩、チオシアン酸塩、塩カリウム塩が挙げられる。具体的にリチウム塩には硫酸リチウム、酢酸リチウム、塩化リチウムが挙げられ、チオシアン酸塩にはチオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸ナトリウムが挙げられ、カリウム塩には臭化カリウム、ヨウ化カリウムが挙げられる。これらは単独で使用しても、混合して使用してもよい。
【0013】導電性付与物質の量はインキ総重量に対して0.5〜5重量%が望ましい。0.5重量%未満のときはインキを帯電偏向させるのに必要な導電性を与えることができない。5重量%を越えるとインキ中に溶解しなくなり、インクジェット印刷に適さなくなる。
【0014】溶剤はインキの乾燥性を調整するものであり、染料、樹脂、導電性付与物質を溶解する。溶剤には、例えばアルコール類、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、ケトンが挙げられる。具体的にアルコール類にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールが挙げられ、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類にはエチレングリコール、モノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルが挙げられ、ケトンにはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが挙げられる。これらは単独で使用しても、混合して使用してもよい。
【0015】溶剤の量はインキ総重量に対して60〜95重量%であることが望ましい。60重量%未満のときは溶剤が染料、樹脂等を溶かすことができず、95重量%を越えると染料の濃度が低くなり変色が起こらなくなる。
【0016】インクジェットプリンタ用インキ組成物は、前記の染料、樹脂、導電性付与物質および溶剤以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤には、例えば助色剤が挙げられる。助色剤は耐熱性が良好で熱により変色しない染料である。助色剤を混合することにより、印字の色や変色後のインキの発色を保つことができる。このような目的に使用できる助色剤として具体的にはC.I.Solvent Red 117がある。
【0017】インクジェットプリンタ用インキ組成物の製造方法は以下の通りである。先ず、染料、樹脂、導電性付与物質、溶剤、その他の添加剤を混合し撹拌する。その後、不溶分を濾別して温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物を得る。
【0018】
【作用】本発明のインクジェットプリンタ用インキ組成物で印刷された文字は、インキ組成物に含まれている染料が加熱により昇華して変色する。染料の熱昇華速度は、染料と樹脂との組み合わせや添加量を変えることで変化する。食料品等の保存温度で文字が変色するように染料と樹脂との組み合わせを調整することで、このインキ組成物は幅広い条件で使用できる。
【0019】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。
【0020】表1に示される配合組成に従い、溶剤に樹脂を加えて溶解させ、さらに染料、導電性付与物質を加え、充分に撹拌し混合する。混合した組成物を0.5μmのガラス繊維虜紙を用いて吸引濾過し不溶物を除去して、実施例1〜11まで温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物を11種類調製した。
【0021】
【表1】


【0022】染料には、カラーインデックスがC.I.11110(三井東圧染料製、Miketon Fast Scalet B)、C.I.11360(オリエント化学工業製、Oil Brown GR)、C.I.12055(オリエント化学工業製、Oil Orange PR)、C.I.12100(東京化成製、オイルオレンジ SS)、C.I.26150(オリエント化学工業製、OilBlack HBB)、C.I.60505(オリエント化学工業製、Oplas Red 330)、C.I.Base Red 39(保土谷化学製、AIZEN Cathion Red BLH)、C.I.Disperse Red 137(三井東圧染料製、Miketon Discharge RedBB)、C.I.Solvent Blue 95(三菱化成製、Diaresin Blue P)、クロルフェノールレッド、C.I.SolventRed 117(三菱化成製、Diaresin Red H)、C.I.Solvent Blue 70(田岡化学製、Oleosol Fast Blue ELN)であるものを使用した。
【0023】樹脂には、ポリアミド樹脂(三洋化成工業製)、ロジン変性マレイン酸樹脂(日立化成ポリマー製、荒川化学製)、フェノール樹脂(昭和高分子製)、ブチラール樹脂(積水化学工業製)、ニトロセルロースを使用した。
【0024】表2に実施例で調整したインキ組成物の20℃での粘度、表面張力および比抵抗値を示す。
【0025】
【表2】


【0026】次に、実施例1〜11のインクジェットプリンタ用インキ組成物を缶体へ印字してみると、缶体に鮮明な印字が得られた。印字が施された缶体を恒温槽に入れ、所定の各温度で保存した。加熱温度に対する変色完了時間、染料の変色前後の発色を表3に示した。実施例1〜11の各インキ組成物中の染料は、温度×時間の積算エネルギーの付与により変色を起こすことがわかった。また、染料は徐々に変色し、表3に示されるような条件で色変化を完了した。
【0027】なお、実施例1〜11のインキ組成物を缶体に印字したが、紙や樹脂シートに印字してもかまわない。また、温熱条件での使用も可能である。
【0028】
【表3】


【0029】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明の温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物は、染料と樹脂との組合わせを変化させることで、印刷される文字の変色条件を、医療用品の滅菌状態および食品の保存温度に容易に合わせることができる。そのため、加温販売される飲料の品質管理や殺菌を必要とする医療用品の工程確認に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 0.1〜5重量%の染料、3〜30重量%の樹脂、0.5〜5重量%の導電性付与物質および60〜95重量%の溶剤を主成分として含むことを特徴とする温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物。
【請求項2】 前記染料の色を特定する指数であるカラーインデックス番号が11020、11110、11360、12010、12055、12100、12150、26150、42090、50040、60505、60725、61100、61565、Solvent Red14,146、Solvent Blue35,95,149、Solvent Violet33、Disperse Red88,110,112,137、Disperse Blue44,149,183,266、Basic Red39であり、染料が該カラーインデックス番号で示される群、オーリン、クロルフェノールレッド、チモールブルー、テトラブロモフェノールブルー、ブロモクレゾールグリーン、ブロモクレゾールパープル、ブロムクロルレッドおよびブロムチモールブルーから選ばれる少なくとも一種類であることを特徴とする請求項1に記載の温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物。
【請求項3】 前記樹脂がアミノ樹脂、アルキド樹脂、キシレン樹脂、ニトロセルロース、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、ロジンエステル、ロジン変性フェノール樹脂およびロジン変性マレイン酸樹脂から選ばれる少なくとも一種類であることを特徴とする請求項1に記載の温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物。
【請求項4】 前記導電性付与物質がリチウム塩、チオシアン酸塩およびカリウム塩から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物。
【請求項5】 前記溶剤がアルコール類、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類およびケトン類から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の温度履歴により変色するインクジェットプリンタ用インキ組成物。

【公開番号】特開平8−3494
【公開日】平成8年(1996)1月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−140520
【出願日】平成6年(1994)6月22日
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)