説明

温泉水を用いた染色性木質系材料、およびその製造方法

【課題】温泉水を使った安全・安心な、また経済性に優れた染色性木質系材料の製造方法を提供する。
【解決手段】タンニン化合物を含有している木質系材料を、鉄化合物を主体に含む遷移金属イオンの水溶液に浸漬させることによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉水を用いた染色性木質系材料、及び染色性木質系材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来木質系材料を着色する技法としては、木質性材料に直接着色する素地着色法と、塗料に着色剤を混合して着色する塗膜着色法がある。素地着色法としては、染料系着色剤を溶媒に溶解させ、木質系材料に染色させる方法であるが、溶媒に有機系溶媒を使うか、水系溶媒を使うかによって、染料の種類を変え染色する。この方法では、木質表面層の毛羽立ちを抑えるために、有機溶媒系染色が有効であるが、危険性を有すること、ブリードが起きやすいことなどが知られている。同方法の内、水系染色として、木質系材料をアルカリ染料あるいは直接染料を用いて染色する方法があるが、セルロースに対して染色するために、高温・高圧の染色方法を用いて染色しなくてはいけないため、大型装置が必要で、高処理費用であることが知られている。
【0003】
また、顔料系着色剤を染料の代わりに含浸させる方法もあり、この方法では1次粒子まで細かくした顔料を展色剤とともに含浸させることによって、耐光性の良い着色物が得られることが知られている。
【0004】
一方、塗膜着色法としてはニカワなどの高分子系糊剤に有色の顔料を混合し、木質系材料の表面に塗布することにより色を表現することが知られている。近代では、同様な考え方から酢酸ビニル、塩化ビニル、あるいはアクリル酸などの透明性樹脂に有色性顔料を混合し、様々な色を表現した塗料を準備し、これを塗布することで木質系材料に色を付けている。
【0005】
更に、木質系材料に柿渋と表現される複合タンニン酸を塗布することで、色が出ることも知られているが、これはむしろ防虫、防かびのために使用するとされ、木質系材料の染色と使い分けられている。
【0006】
草木染めに代表される繊維染色では、草木の煮汁で染色した後に、媒染と称して様々な金属イオンを含んだ溶液に着けることで色変化、堅牢度向上を行わせる方法が知られている。これは、植物の色素を抽出し、これを繊維に染色させた後、染料色素を繊維に沈着させるために、金属イオンを含む媒染溶液に浸漬させるもので、染料と金属イオンが反応し、繊維上で反応物が沈着すると共に、染料が金属との反応で分解しづらくなることを狙ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−140483
【特許文献2】特開平7−34387
【特許文献3】特開平5−222683
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】林産試月報 「化学薬品着色法によるヤチダモ材の埋れ木調仕上げ」1979年6月
【非特許文献2】木のデザイン図鑑 P413 2001年1月発行 (株)エクスナレッジ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、木質系材料を着色するには、染料を使って、有機溶媒を使って含浸させるか、もしくは水系では高温高圧の染色条件で処理するか、あるいは非常に細かくした顔料を含浸させることが必要である。いずれも、発色させるには、染料又は顔料を使用しなくてはいけなく、またその為の困難な処理作業が必要となっている。
【0010】
水系染色では、通常木質系材料を均一に染色するために、室温状態の染色溶液に界面活性剤、芒硝等のアルカリ剤を添加し、温度を調整しながら、最終的には90℃以上の温度で数十分間処理し、冷却、洗浄を行わなければいけない。そのため多大な労力と処理費用が掛かるという問題があった。
【0011】
有機溶媒系染色では、溶解させる溶媒が身体に及ぼす影響を軽減させるために処理環境の維持と、木質系材料への有機溶媒の含浸速度の速さのために均一濃度にするために低濃度染色溶液から徐々に濃度を上げ、要求色に合わせる必要があった。そのため、多大な労力と環境維持のための費用投資が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明は、上記課題に対し対処されたもので、請求項1に係わる発明では、タンニン化合物を含有している木質系材料を、鉄化合物を主体に含む遷移金属イオンの水溶液に浸漬させることによって得られることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に係わる発明における染色性木質系材料は、タンニン化合物は、縮合型タンニン群あるいは加水分解性タンニン群を含む、もしくは両性質群のタンニンであり、木材に含有しているものか、あるいは別に木材に前記タンニン化合物を含侵させることを特徴とする。
【0014】
更に、請求項3に係わる発明では、木質木材に含有するタンニン化合物は、木材に0.01〜1重量%であり、木材に含有しているものか、あるいは別に木材に前記タンニン化合物を含侵させることを特徴とする。
【0015】
被染色木質材料としては、木料の丸太、突板、積層され接着剤で一体化された合板、MDFであって、木材の種類としては杉、檜、イタヤカエデ、樫、カツラ、桐、栗、ケヤキ、チーク、オールナットの中から選ぶことが出来る。タンニン酸の含有量が木質系材料によって異なることから、それぞれの材料の違いによって異なる着色が可能となる。
【0016】
請求項5では、鉄化合物を主体に含む遷移金属イオンの水溶液は、鉄分のイオンを0.001〜0.01重量%であり、水溶液には、含まれるナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、銅イオンからなる群から選ばれる陽イオンと、フッソイオン、塩素イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオンの陰イオンから選ばれる陰イオンと、メタケイ酸、メタホウ酸とからなる非溶解成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの染色性木質系材料で、本発明の処理により、材料に特殊なつやと着色を生み出すことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかのように、本発明に係わる被着色材は、従来の木質系材料の着色物と異なり、人為的な化合物を特に使用せずとも特殊なつやのある一定濃度の着色物を得ることが可能で、安心・安全な家具・建具材料として提供することが可能である。また、その発色は、美観に優れ、独特な深みある着色であり、つやのある天然木の肌触りそのものを維持している。
【0018】
本発明に係わる着色方法は、木質系材料そのものが有する縮合型タンニン群あるいは加水分解性タンニン群を含む、もしくは両性質群のタンニンと温泉水中に含まれる金属イオンとの化学的な反応によって行われるが、いずれも天然物を反応物として利用し、反応後の洗浄も水道水のみで行われるので、着色材もしくは染料・化学薬品等を使用することがないことから安全で、しかも常温で反応を行わせることが可能であることから経済性に優れた方法である。
【0019】
また、突板でも厚板でも着色が可能で、着色むらもないこと、更に木の種類や、木の部位の違いによって様々な着色を行わせることが可能なことから、着色バリエーションも豊富な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係わる基本的な着色方法の1つである。乾燥させた被着色材を遷移金属イオン水溶液に浸漬させ、染色性木質系材料を得る。
【図2】本発明に係わる基本的な染色方法の1つであって、乾燥させた被着色材を一定濃度のタンニン酸溶液に浸漬含浸させた後、遷移金属イオンを含む水溶液に浸漬させる。
【図3】船小屋温泉の鉱泉水の成分を表す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明で使用されている温泉水は、いわゆる温泉法 第二条に定義されるもので、図3に示されるような様々な含有物が存在している。
【実施例1】
【0022】
被着色材である国産杉の心材部分の0.6mmに薄くスライスされた突板を30℃に加熱保持し、これを常温の温泉水に30分程度浸漬させる。ここで使用する突板の厚みは、2mm以下の厚みが望ましい、厚みが増すと被着色材の中心部分に浸透しづらくなるために色むらが発生しやすくなる。また、ここで使用した温泉水は福岡県筑後市の船小屋温泉から得られる含鉄炭酸塩水であって、地下より排出されてから12時間以内の炭酸が含有される温泉水を使用することが望ましい。また、突板は空気内において30℃に保持され、温泉水が浸透しやすい条件に維持させることが肝要である。ここで、使用される温泉水は図3に示す成分を含有しており、筑後市船小屋温泉から得られる。
常温で浸漬された突板は、常温の水道水で水洗し、室内で乾燥を行い、完成となる。
得られる突き板は黒褐色に全体が均一の着色し、つやのある優れた染色性を示す。
【実施例2】
【0023】
被着色材である国産杉の心材部分の0.6mmに薄くスライスされた突板を 被着色材中に含浸し、材中に含まれるタンニンとの融合によって着色しやすくするため、30℃に加熱保持し、十分に被着色材を乾燥させた。これを、30℃に保温した温泉水に3時間浸漬させ、着色を進行させる。ここで着色時間は、温泉水の温度によって変化し、温泉水が30℃程度の時にはおよそ5時間程度で高濃度着色が可能となる。また、60℃まで加熱した温泉水の場合着色時間が短くて済み、約30分程度で同程度の高濃度着色が可能となる。但し、温泉水を高温にすると含有する炭酸ガスが気化し、独特なつやのある染色となりがたくなること、また高温度にすると突板の場合には膨潤、膨張が起こり、亀裂発生が起こりやすくなることから十分に注意することが肝要である。
得られた被着色材は実施例1同様に水道水で水洗し、室内で乾燥させる。
【実施例3】
【0024】
被着色材である国産杉の心材部分の0.6mmに薄くスライスされた突板を天日乾燥させ常温に保持させた。得られた突板を、常温に冷却された温泉水に24時間浸漬させ、その後水道水で十分に洗浄し、乾燥させた。何ら人為的な行為を施すことなくとも、着色は十分に進行し、実施例2で得られた高濃度着色材が得られた。この間、着色途中で水洗・乾燥を行うことによって、低濃度着色材を得ることも可能で、途中であることによって、堅牢度低下が見受けられることもなかった。
【実施例4】
【0025】
被着色材である国産杉の辺部分を0.6mmに薄くスライスさせ、十分に天日乾燥させた後、常温の温泉水に24時間浸漬させた。得られた辺材部分の着色材は心材部分の着色材と比較したところ、浸漬が同時間でも着色が薄く、意匠性に変化を与えることが可能となった。
【実施例5】
【0026】
被着色材である5mmの板材を30℃の乾燥機内で乾燥させ、十分に被着色材中の水分を抜いたのち、常温の温泉水に24時間浸漬させた。被着色材の含水率は、5mm程度の厚みのある板の場合には、20%未満であることが必要で、乾燥しすぎると厚板そのものに亀裂の発生があることから、乾燥しすぎないことも重要な要素である。この際、被着色材中の含水率が30%以上あると温泉水の含浸が進行しづらく、中心部分の着色が行えない。
得られた被着色材は水道水で洗浄させた後、室内で乾燥した。得られた板は、中心部分まで十分に着色しており、色むらはなかった。
【実施例6】
【0027】
被着色材である75mm×75mmの杉角材に温泉水をまんべんなく含浸させるために、一旦含水率が20%以下までに外気に当てながら乾燥させる。得られた被着色材を減圧加圧注入器へ入れ、一旦前排気によって−0.1Mpa程度まで減圧し、温泉水を注入、減圧浸漬を5〜20分間行い、その後常圧浸漬を10〜30分間行って、十分に含浸を進行させた。この結果、丸太状の被着色材の中心部分にも十分に着色が進行していた。その後、被着色材を水道水で十分に洗浄し、常温で乾燥を行った。本方法に用いた減圧加圧注入器を用いて、減圧後加圧を行った場合には温泉水の含浸時間が短縮されるが、着色状態には変化はなかった。
【実施例7】
【0028】
被着色材である0.6mmに薄くスライスされた国産杉材に、和光純薬(株)製タンニン酸5wt%水溶液を含浸させ、一旦乾燥させた後、常温の温泉水に5分間浸漬させた。その後、水道水で十分に洗浄した後、外気で乾燥させた。得られた突板は、タンニン酸水溶液に同じ時間浸漬させた突板に比べ、着色濃度が濃く、時間を短縮させることが出来た。但し、試薬を使用することから、若干の費用増となると予想される。このことによって、突板の物性が変化することは特になかった。
【0029】
ここで、使用する被着色材は、木質系材料であればよく、突板等が積層され接着剤で一体化された合板、あるいは檜、イタヤカエデ、樫、カツラ、桐、栗、ケヤキ、チーク、オールナットなどどのような木の種類であっても良い。この際、木に含まれる縮合型タンニン群あるいは加水分解性タンニン群、もしくは両性質群のタンニンが多く含まれるものの方が着色性は良い。また、着色濃度は時間と共にどの種類の木であっても一定濃度までは増加することは言うまでもない。また、タンニン酸などの試薬を複合化させることも可能であり、複合化させることによって濃度変化を起こさせることもできる。
【0030】
また、温泉水に人為的に金属イオンを添加し、濃色あるいは色の変化を与えることも可能で、これにより木質系被着色材の色、あるいは濃度のバリエーションを増加させることも可能となっている。但し、出来るだけ、安全・安心な材料を提供するには、温泉水にのみ浸漬させることが必要で、更にこのことによりエネルギー削減と共に低価格での処理が可能となっている。
【0031】
温泉水については、特に規制するものではないが、温泉法に従って規制されるものであれば、一定濃度の金属イオンが含有されることから温泉水の湧き出す箇所により、着色の具合が異なるが、本法によることは可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニン化合物を含有している木質系材料を、鉄化合物を主体に含む遷移金属イオンの水溶液に浸漬させることによって得られていることを特徴とする染色性木質系材料
【請求項2】
タンニン化合物は、縮合型タンニン群あるいは加水分解性タンニン群を含む、もしくは両性質群のタンニンであり、木材に含有しているものか、あるいは別に木材に前記タンニン化合物を含侵させることを特徴とする請求項1の染色性木質系材料
【請求項3】
木質木材に含有するタンニン化合物は、木材に0.1〜15重量%であり、木材に含有しているものか、あるいは別に木材に前記タンニン化合物を含侵させることを特徴とする請求項1、又は請求項2の染色性木質系材料
【請求項4】
被染色木質材料は、木料の丸太、突板、積層され接着剤で一体化された合板、MDFであって、木材の種類としては杉、檜、イタヤカエデ、樫、カツラ、桐、栗、ケヤキ、チーク、オールナットの中から選ばれていることを特徴とする請求項1、又は請求項3の染色性木質系材料
【請求項5】
鉄化合物を主体に含む遷移金属イオンの水溶液は、鉄分のイオンを0.001〜0.01重量%であり、水溶液には、含まれるナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、銅イオンからなる群から選ばれる陽イオンと、フッソイオン、塩素イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオンの陰イオンから選ばれる陰イオンと、メタケイ酸、メタホウ酸とからなる非溶解成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの染色性木質系材料


【図1】
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【図2】
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【図3】
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