説明

測定装置、測定方法および測定プログラム

【課題】比較的簡単な構成および手順で、血管経路に生じる動脈瘤の有無および/または大きさを評価できる測定装置、測定方法および測定プログラムを提供する。
【解決手段】測定装置は、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の第1の計測位置、および、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の第2の計測位置において、それぞれの脈波信号を検出するための検出手段と、脈波信号の間の周波数特性を比較することで比較結果を算出するための比較手段と、比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断するための判断手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管経路に発生し得る動脈瘤を評価するための測定装置、測定方法および測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
血管経路上に生じる病変の一つとして動脈瘤が挙げられる。このような動脈瘤のうち、特に腹部に生じる大動脈瘤(aortic aneurysm)は、初期症状がなく、磁気共鳴断層撮影(MRI:Magnetic Resonance Imaging)、コンピュータ断層撮影(CT:Computed Tomography)、超音波診断などによる検査において偶発的に発見される以外は、腹部が脈動するなど破裂寸前の状況で発見されることが多い。そのため、健康診断などの機会に気軽に行なわれる検査により早期発見されることが望まれている。
【0003】
大動脈瘤を検出するための装置として、特開平05−023335号公報(特許文献1)は、超音波を利用して診断する装置を開示している。また、特開2007−222626号公報(特許文献2)は、X線CTやMRI等による複数の画像データを比較することで特異部として病変を検出する方法などを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−023335号公報
【特許文献2】特開2007−222626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1が開示する超音波診断装置では、動脈瘤が存在する可能性のもと大動脈を順次計測しなければならない。また、特許文献2が開示する方法では、X線CTやMRI等による全身の血管画像が撮影されていることが前提となっている。このような従来技術によれば、動脈瘤を検査するための装置や検査内容が大掛かりとなってしまう。そのため、時間や費用などの理由から、定期健康診断などの検査項目として動脈瘤の検査を採用することは現実的ではなく、その結果、深刻な事態に至る前に大動脈瘤を発見することは容易ではない。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、比較的簡単な構成および手順で、血管経路に生じる動脈瘤の有無および/または大きさを評価できる測定装置、測定方法および測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある局面に係る測定装置は、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の第1の計測位置、および、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の第2の計測位置において、それぞれの脈波信号を検出するための検出手段と、脈波信号の間の周波数特性を比較することで比較結果を算出するための比較手段と、比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断するための判断手段とを含む。
【0008】
好ましくは、比較手段は、第1の計測位置と第2の計測位置との間の伝達関数を算出するための手段を含む。
【0009】
さらに好ましくは、判断手段は、伝達関数の位相差特性における位相のばらつき度合いに基づいて、動脈瘤の有無を判断する。
【0010】
あるいはさらに好ましくは、比較手段は、脈波信号について周波数ごとの位相遅れ時間を算出するための手段を含み、判断手段は、算出された周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて算出される位相角に対して、伝達関数の位相差特性が交差する回数に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断する。
【0011】
さらに好ましくは、判断手段は、算出された周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて算出される位相角に対して、伝達関数の位相差特性が交差する周波数間隔に基づいて、動脈瘤の大きさを判断する。
【0012】
あるいは好ましくは、比較手段は、脈波信号について周波数ごとの位相遅れ時間を算出するための手段を含み、判断手段は、算出された周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて算出される位相角に対して、伝達関数の位相差特性が交差する周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断する。
【0013】
あるいは好ましくは、判断手段は、伝達関数のゲイン特性において極値が生じる周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断する。
【0014】
好ましくは、比較手段は、脈波信号の間の脈波伝播速度についての周波数特性を算出するための手段を含む。
【0015】
さらに好ましくは、判断手段は、脈波伝播速度についての周波数特性における脈波伝播速度のばらつき度合いに基づいて、動脈瘤の有無を判断する。
【0016】
あるいはさらに好ましくは、判断手段は、脈波伝播速度についての周波数特性における脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断する。
【0017】
本発明の別の局面に係る測定方法は、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の第1の計測位置、および、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の第2の計測位置において、それぞれの脈波信号を検出するステップと、脈波信号の間の周波数特性を比較することで比較結果を算出するステップと、比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断するステップとを含む。
【0018】
本発明の別の局面に係る測定プログラムは、コンピュータに、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の第1の計測位置、および、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の第2の計測位置において、それぞれの脈波信号を検出するステップと、脈波信号の間の周波数特性を比較することで比較結果を算出するステップと、比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、比較的簡単な構成および手順で、血管経路に生じる動脈瘤の有無および/大きさを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態において採用した動脈瘤のモデルを示す図である。
【図2】本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部における内半径の影響の評価結果を示す図である。
【図3】本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部における内半径の影響の評価結果を示す図である。
【図4】本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部における長さの影響の評価結果を示す図である。
【図5】本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部における長さの影響の評価結果を示す図である。
【図6】本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部におけるヤング率の影響の評価結果を示す図である。
【図7】本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部におけるヤング率の影響の評価結果を示す図である。
【図8】全身動脈の脈波伝播モデルを示す模式図である。
【図9】セグメント番号65の腹動脈(Abdominal aorta)の内半径Rを変化させたときの伝達関数P/Pのゲイン線図および位相線図である。
【図10】動脈瘤の内半径を50mmに固定した上で、その長さを順次長くしたときの伝達関数P/Pのゲイン線図および位相線図である。
【図11】動脈瘤の内半径を50mmに固定した上で、全体のヤング率を変化させたときの伝達関数P/Pのゲイン線図および位相線図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る測定装置の概略構成図である。
【図13】実施の形態1に係る動脈瘤を検出するための処理を実現する機能ブロックを示す模式図である。
【図14】複数の被験者から実際に取得された測定信号から算出された位相線図を示す図である。
【図15】実施の形態1に係る動脈瘤の判断に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図16】実施の形態2に係る動脈瘤を検出するための処理を実現する機能ブロックを示す模式図である。
【図17】実施の形態2に係る位相角設定部によって設定される位相角(基準の位相差特性)を説明するための図である。
【図18】実施の形態2に係る動脈瘤の判断に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図19】実施の形態3に係る動脈瘤を検出するための処理を実現する機能ブロックを示す模式図である。
【図20】実施の形態3に係る判断部における判断処理を説明するための図である。
【図21】実施の形態3に係る動脈瘤の判断に係る処理手順を示すフローチャートである。
【図22】実施の形態4に係る動脈瘤を検出するための処理を実現する機能ブロックを示す模式図である。
【図23】複数の被験者から実際に取得された測定信号から算出された脈波伝播速度(PWV)を示す図である。
【図24】実施の形態4に係る動脈瘤の判断に係る処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0022】
[A.概要]
本実施の形態に係る測定方法は、動脈瘤を、弾性管路の部分的な拡張に見立てて、透過する脈波の損失に着目したものである。このような動脈瘤のモデルを、全身動脈の脈波伝播モデルに適用することで、周波数特性の変化から、動脈瘤の有無および/または大きさ(内半径および長さ)を評価する。
【0023】
このような周波数特性は、例えば、下肢(被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の計測位置)と、上肢(被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の計測位置)とにおいてそれぞれ計測された脈波信号に基づいて算出される。
【0024】
[B.脈波伝達モデルに基づく解析]
<b1:モデル化>
本実施の形態においては、被験者の血管経路を複数区間に区切り、各区間を一次元線形分布定数モデル化することで、血管経路を示す伝達関数を算出する。この伝達関数は、脈波が血管を伝播する力学的なモデルから解析的に算出される。
【0025】
動脈瘤は、血管経路(動脈)の途中で内径が大きくなる病変である。内径が大きくなった血管経路の範囲では、血管経路の特性インピーダンスが変化する。この現象は、音波に対するリアクタンス型消音器で生じる現象と同様であり、伝播する脈波が低減することになる。本実施の形態においては、この現象を利用して動脈瘤を検出する。但し、血管経路は弾性管路であるため、内径の変化によって、特性インピーダンスだけでなく、脈波伝播速度も変化する点がリアクタンス型消音器とは異なっている。本実施の形態においては、このような脈波伝播速度の変化も考慮して、動脈瘤が存在する範囲を伝播する脈波が透過する際の損失(透過損失)に主として着目する。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態において採用した動脈瘤のモデルを示す図である。図1(A)は断面図を示し、図1(B)は側面図を示す。
【0027】
図1を参照して、本実施の形態においては、3つの区間を有する血管経路を想定し、その中間部に動脈瘤が生じているものとする。すなわち、動脈瘤が(1−2)区間に発生しているとし、その両側の(0−1)区間および(2−3)区間(以下、両者を「周辺部」とも称する。)については、健全な血管経路であるとする。この(1−2)区間は、内径が拡張された弾性管路としてのモデルである。
【0028】
図1において、中間部である(1−2)区間について、長さをd、ヤング率をE、内半径をR、外半径をRAo、壁厚をhとする。また、周辺部である(0−1)区間および(2−3)区間について、長さをそれぞれl,l、ヤング率をE、内半径をR、外半径をRBo、壁厚をhとする。また、点0および点3は、無反射端とする。なお、以下の解析においては、各区間における位置は、点0からの距離x(紙面右方向が正)を用いて示す。
【0029】
<b2:数学的解析>
次に、図1に示すようなモデルにおいて、心臓から送出される脈波の伝播に係る力学的および物理的な観点から、数学的な解析を行なう。
【0030】
(0−1)区間の圧力p01(x,t)は、点0における進行波圧力pf1および後退波圧力pr1、点0からの距離x、周辺部の伝播定数γを用いて、次の式(1)で表わすことができる。
【0031】
【数1】

【0032】
また、体積流量q01(x,t)は、周辺部の特性インピーダンスZ0Bを用いて、次の式(2)で表わすことができる。
【0033】
【数2】

【0034】
同様に、(1−2)区間の圧力p12(x,t)および体積流量q12(x,t)は、進行波圧力pf2および後退波圧力pr2、中心部の特性インピーダンスZ0A、点0からの距離x、中間部の伝播定数γを用いて、それぞれ次の式(3)および(4)で表わすことができる。
【0035】
【数3】

【0036】
さらに、(2−3)区間の圧力p23(x,t)および体積流量q23(x,t)は、進行波圧力pf3、点0からの距離x、周辺部の伝播定数γを用いて、それぞれ次の式(5)および(6)で表わすことができる。なお、点3が無反射端であるとの条件下では後退波圧力が存在しないので、進行波圧力pf3のみを考慮すればよい。
【0037】
【数4】

【0038】
次に、各区間の接続部における圧力および体積流量についての連続性の条件から、以下の式を導出できる。
【0039】
すなわち、点1の接続部において、(0−1)区間側の圧力と(1−2)区間側の圧力とは等しくなるので、上述の式(1)および式(3)から、次の式(7)が成立する。
【0040】
【数5】

【0041】
また、点1の接続部において、(0−1)区間側の体積流量と(1−2)区間側の体積流量についても等しくなるので、上述の式(2)および式(4)から、次の式(8)が成立する。
【0042】
【数6】

【0043】
同様に、点2の接続部において、(1−2)区間側の圧力と(2−3)区間側の圧力とは等しくなるので、上述の式(3)および式(5)から、次の式(9)が成立する。
【0044】
【数7】

【0045】
また、点2の接続部において、(1−2)区間側の体積流量と(2−3)区間側の体積流量についても等しくなるので、上述の式(4)および式(6)から、次の式(10)が成立する。
【0046】
【数8】

【0047】
ここで、式(10)を特性インピーダンスに着目して整理した上で、式(9)との和をとる。そして、(1−2)区間の進行波圧力pf2を2−3間の進行波圧力pf3を用いて表わすと、次の式(11)となる。
【0048】
【数9】

【0049】
また、式(9)を、(1−2)区間の後退波圧力pr2について解いて、式(11)に代入すると、次の式(12)となる。
【0050】
【数10】

【0051】
次に、式(7)および式(8)を(0−1)区間の進行波圧力pf1に着目して整理すると、それぞれ次の式(13)および式(14)となる。
【0052】
【数11】

【0053】
式(13)および式(14)の和から進行波圧力pf1を求め、式(11)および式(13)を代入して整理すると、次の式(15)となる。
【0054】
【数12】

【0055】
式(15)は、(0−1)区間の進行波圧力pf1と(2−3)区間の進行波圧力pf3との関係を示すものであり、この関係式から点0から点3への透過損失を算出できる。すなわち、点0から点3への透過損失Tは、それぞれの点での進行波のエネルギー比率により、次の式(16)で表わすことができる。
【0056】
【数13】

【0057】
この式(16)に式(15)を代入することで、次の式(17)となる。
【0058】
【数14】

【0059】
血管経路中の脈波伝播速度cについて、文献1(佐藤博則、井関雄士、宇津野秀夫、松久寛、山田啓介、澤田勝利、弾性管路における脈波伝播特性の同定(Identification of Pulse Wave Propagation Characteristics in Viscoelastic Tube)、日本機械学会論文集(B編)76巻766号(2010)、pp.961-969)に示すような、厚肉弾性管路のコンプライアンスより導出した、弾性管路の流体と管壁とを合わせた等価的な体積弾性率の式を導入する。この体積弾性率の式を代入すると、血管経路中の脈波伝播速度cは、次の式(18)となる。
【0060】
【数15】

【0061】
ここで、中間部である(1−2)区間の脈波伝播速度をc、周辺部である(0−1)区間および(2−3)区間の脈波伝播速度をcとして、外半径Rおよび内半径Rをそれぞれ置き換えるとともに、壁厚を分母に集約して、壁厚と内半径との比に着目すると、次の式(19)および式(20)となる。
【0062】
【数16】

【0063】
したがって、中間部の伝播定数γおよび周辺部の伝播定数γは、角周波数ωについて、次の式(21)および式(22)で表わすことができる。
【0064】
【数17】

【0065】
また、体積流量に関する特性インピーダンスZは、断面積Sのとき、次の式(23)で表わすことができる。
【0066】
【数18】

【0067】
中間部である(1−2)区間の特性インピーダンスをZ0A、周辺部である(0−1)区間および(2−3)区間の特性インピーダンスをZ0Bとすると、式(19)および式(20)を用いて、次の式(24)および式(25)を導出できる。
【0068】
【数19】

【0069】
<b3:中間部の形状と透過損失との関係>
次に、動脈瘤を模した中間部の形状(内半径および長さ)が変化することによる影響について検討する。これは、後述するように、動脈瘤の大きさと実際に観測される脈波との関係をモデル上において評価することを意味する。以下では、中間部の内半径R、ヤング率E、長さdがそれぞれ変化した場合の透過損失への影響を検討する。
【0070】
(i)内半径Rの変化
まず、内半径Rの変化について検討する。ここで、式変形および評価の便宜上、周辺部((0−1)区間および(2−3)区間)の内半径Rに対する中間部((1−2)区間)の内半径Rの比αを導入する。すなわち、比αは、次の式(26)のように表わすことができる。
【0071】
【数20】

【0072】
この際、周辺部の内半径に対する壁厚の比h/Rと、中心部の内半径に対する壁厚の比h/Rとが等しく、かつ、一定であると仮定すると、脈波伝播速度も等しくなる。この場合、式(24)は、式(26)により、次の式(27)のように変形できる。
【0073】
【数21】

【0074】
これらの式を式(17)に代入すると、次の式(28)となる。
【0075】
【数22】

【0076】
さらに、周辺部の伝播定数γと中間部の伝播定数γとも等しいので、次の式(29)を導出できる。
【0077】
【数23】

【0078】
したがって、整数mについて、次の式(30)が満たされる場合に、透過損失Tは極大値Tmaxをとる。
【0079】
【数24】

【0080】
この透過損失Tの極大値Tmaxは、次の(31)式のようになる。
【0081】
【数25】

【0082】
以上の解析により、次のような特徴的挙動が存在することがわかる。
(1)透過損失Tの極大値は、周辺部の内半径Rに対する中間部の内半径Rの比αの増加に伴って大きくなる。
【0083】
(2)周辺部と中間部との間でヤング率が等しい場合には、透過損失Tに影響を与えない。
【0084】
(ii)長さdの変化
次に、動脈瘤を模した中間部の長さdの変化について検討する。長さdは、上述の式(21)より中間部の伝播定数γに影響を与えず、かつ、上述の式(24)より中間部の特性インピーダンスZ0Aにも影響を与えない。したがって、式(30)に式(22)を代入して、角周波数ωについて解くと、次の式(32)を導出できる。
【0085】
【数26】

【0086】
すなわち、透過損失Tは、式(32)を満たす角周波数ωごとに極大値をとる。ここで、式変形および評価の便宜上、透過損失Tが極大値をとる周波数間隔を「基本周波数」と称する。この周波数間隔(基本周波数)は、脈波伝播速度cと長さdとの比によって定まる。
【0087】
(iii)ヤング率の変化
次に、ヤング率の変化について検討する。ここで、式変形および評価の便宜上、周辺部((0−1)区間および(2−3)区間)のヤング率に対する中間部((1−2)区間)のヤング率の比αを導入する。すなわち、比αは、次の式(33)のように表わすことができる。
【0088】
【数27】

【0089】
このヤング率の比αを式(19)に代入すると、次の式(34)を導出できる。
【0090】
【数28】

【0091】
この式(34)から、中間部における脈波伝播速度cは、次の式(35)のように表わすことができる。
【0092】
【数29】

【0093】
同様に、中間部の特性インピーダンスZ0Aについても、式(24)より、次の式(36)のように表わすことができる。
【0094】
【数30】

【0095】
さらに、式(21)より、次の式(37)を導出できる。
【0096】
【数31】

【0097】
周辺部のヤング率に対する中間部のヤング率の比の平方根は、脈波伝播速度および特性インピーダンスについての、周辺部と中間部との比に等しい。これらを式(17)に代入すると、透過損失Tは、次の式(38)のように表わすことができる。
【0098】
【数32】

【0099】
この式(38)によれば、周辺部のヤング率に対する中間部のヤング率の比が増加することで、脈波伝播速度が高まり、これに伴って透過損失の基本周波数が大きくなることがわかる。また、周辺部のヤング率に対する中間部のヤング率の比が増加することで、特性インピーダンスが高まり、これに伴って境界での反射係数が小さくなり、その結果、透過損失が減少することがわかる。
【0100】
<b4:検証結果>
(i)透過損失のシミュレーション
次に、上述した透過損失Tを示す式に基づいて、脈波が動脈瘤を通過することにより生じる透過損失の変化について検討する。上述の式(17)より、点0と点3との間の圧力p,pの透過損失を計算して、脈波伝播への影響を求める。ここでは、腹部に生じる大動脈瘤を想定し、腹動脈(Abdominal aorta)に近い値として、次の表1に示す諸元を採用した。
【0101】
【表1】

【0102】
まず、中間部((1−2)区間)の内半径の影響について検討する。図2および図3は、本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部における内半径の影響の評価結果を示す図である。
【0103】
図2には、他のパラメータおよび壁厚を一定にしつつ、中間部の内半径を変化させたときの透過損失(周波数特性)の変化を示す。図3には、上述の式(31)に従って、透過損失の変化を周辺部の内半径に対する中間部の内半径の比αをパラメータとして示す図である。
【0104】
図2および図3によれば、周辺部の内半径に対する中間部の内半径の比αが増加することで、透過損失Tが増加することがわかる。一方で、比αは、透過損失Tの基本周波数については影響を与えないことがわかる。
【0105】
次に、中間部((1−2)区間)の長さの影響について検討する。図4および図5は、本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部における長さの影響の評価結果を示す図である。図4および図5に示す評価結果においては、中間部の内半径Rを20mmに固定した。
【0106】
図4には、中間部の内半径Rを20mmに固定した上で、中間部の長さdを変化させたときの点0と点3との間の圧力p,pの透過損失(周波数特性)の変化を示す。図5には、上述の式(32)に従って、中間部の長さdと極小値をとる周波数間隔(基本周波数)との関係を示す。
【0107】
図4および図5によれば、中間部の長さ(管路)が長くなることで、基本周波数が低くなることがわかる。一方で、中間部の長さは、透過損失Tについては影響を与えないことがわかる。
【0108】
次に、中間部((1−2)区間)のヤング率の影響について検討する。図6および図7は、本実施の形態に係る透過損失の計算式に従って算出された中間部におけるヤング率の影響の評価結果を示す図である。図6および図7に示す評価結果においては、中間部の内半径Rを20mmに固定した。
【0109】
図6には、中間部の内半径Rを20mmに固定した上で、中間部のヤング率Eを変化させたときの点0と点3との間の圧力p,pの透過損失(周波数特性)の変化を示す。図7には、上述の式(38)に従って、中間部のヤング率Eと極小値をとる周波数間隔(基本周波数)との関係を示す。
【0110】
図6および図7によれば、中間部のヤング率が増加することで、透過損失Tが減少することがわかる。また、基本周波数は、中間部のヤング率の平方根に比例することがわかる。
【0111】
(ii)全身動脈の脈波伝播モデルを用いたシミュレーション
次に、全身動脈の脈波伝播モデルを用いて、上述の伝達関数に現れる特徴について検討する。より具体的には、血管壁および血液の粘性の影響、血管径のテーパの影響、血管の分岐および末梢の影響、伝達関数測定点の影響を含めた場合でも、動脈瘤が検出可能であることを確認する。
【0112】
図8は、全身動脈の脈波伝播モデルを示す模式図である。図8に示す全身動脈の脈波伝播モデルは、文献2(Avolio A.P.、“Multi-branched model of human arterial system”、Medical and Biological Engineering and Computing、Vol. 18 (1980)、pp. 709-718)、および、文献3(佐藤博則、井関雄士、宇津野秀夫、松久寛、山田啓介、澤田勝利、人体動脈多分岐モデルの精緻化(An Elaborated Multi-branched Model of Human Arteries)、日本機械学会論文集(C編)、77巻779号(2011)、pp. 2695-2710)などに基づくものである。
【0113】
動脈瘤による脈波伝播への影響を確認するため、長さdの異なる腹部の大動脈瘤を想定した。より具体的には、次の表2に示すように、3通りの大動脈瘤を仮定した。表2中のセグメント番号は、大動脈瘤が存在する番号を示す。例えば、セグメント番号が「50」および「65」の例は、図8に示す全身動脈の脈波伝播モデルにおいて、セグメント番号が「50」および「65」の区間に亘って、大動脈瘤が存在することを意味する。
【0114】
【表2】

【0115】
表2に示す各例について、内半径R、長さd、全体のヤング率を変化させて、上肢と下肢との間の脈波の伝達関数P/Pを算出した。この伝達関数P/Pは、脈波信号である測定信号Pa(t)およびPb(t)をそれぞれフーリエ変換(周波数変換)して得られるフーリエ信号Pa(f)およびPb(f)を用いて、次の式(39)のように定義できる。
【0116】
【数33】

【0117】
上肢および下肢における脈波は、典型的には、それぞれ上腕動脈および前脛骨動脈に任意の検出装置を装着することで取得できる。すなわち、下肢における脈波は、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の計測位置において検出され、上肢における脈波は、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の計測位置において検出される。
【0118】
図9〜図11は、全身動脈の脈波伝播モデルを用いたシミュレーションにより得られた伝達関数の結果を示す図である。
【0119】
図9は、セグメント番号65の腹動脈(Abdominal aorta)の内半径Rを変化させたときの伝達関数P/Pのゲイン線図および位相線図を示す。図9において、「Base」とは、腹動脈の内半径Rを全身動脈の脈波伝播モデルに規定されている5.7mmに設定した場合を意味する。すなわち、大動脈瘤が存在しない状態に相当する。
【0120】
図9に示すように、内半径Rの増加により、伝達関数P/Pのゲインが減少している。これは、周辺部の内半径に対する中央部(拡張部)の内半径の比の増加に応じて、透過損失Tが増加することと一致する。
【0121】
図10は、動脈瘤の内半径を50mmに固定した上で、その長さを順次長くしたときの伝達関数P/Pのゲイン線図および位相線図を示す。より具体的には、表2に示すケース(1)〜(3)に示すように、セグメント番号65の腹動脈のみに動脈瘤が存在している状態から、動脈瘤が存在する範囲を、セグメント番号50の腹動脈、セグメント番号34の胸動脈(Thoracic aorta)へと順次追加することにより、中央部(拡張部)の長さdを変化させた。図10において、「Base」とは、中央部(拡張部)の長さdが「0」である場合を意味する。すなわち、大動脈瘤が存在しない状態に相当する。
【0122】
図10に示すように、基本周波数は、中央部(拡張部)の長さdに比例して低く(狭く)なっている一方で、透過損失には変化がない。また、位相線図においても、基本周波数ごとに位相が180度変化していることがわかる。
【0123】
図11は、動脈瘤の内半径を50mmに固定した上で、全体のヤング率を変化させたときの伝達関数P/Pのゲイン線図および位相線図を示す。より具体的には、セグメント番号50および65の腹動脈の内半径をいずれも50mmに固定した上で、全体のヤング率を1、2、3倍にそれぞれ変化させた。図11において、「Base」は大動脈瘤が存在しない状態に相当する。
【0124】
図11に示すように、ヤング率が増加することにより、脈波伝播速度が高くなり、それによって基本周波数が高く(広く)なっている一方で、透過損失の極大値および極小値には変化がない。
【0125】
<b5:まとめ>
以上のような解析的アプローチによれば、動脈瘤を検出するために、以下のような点に着目すればよいと言える。
【0126】
・透過損失Tは、周辺部の内半径と中間部の内半径との比αの増加に伴って増加する。
【0127】
・透過損失Tは、周辺部のヤング率と中間部のヤング率との比αの増加に伴って減少するが、全体のヤング率の影響は受けない。
【0128】
・極値(極大値/極小値)が生じる周波数間隔である基本周波数は、動脈瘤の長さdに反比例する。
【0129】
・基本周波数は、脈波伝播速度と動脈瘤の長さとの比で定まる。
したがって、動脈瘤の存在は、透過損失Tの大きさおよび基本周波数により推定でき、動脈瘤の大きさ(内径および長さ)は、全体のヤング率の計測により推定できる。
【0130】
本実施の形態においては、検査装置および検査手法を簡素化する観点から、被験者の動脈上の2つの計測点においてそれぞれ脈波信号を検出し、これらの検出された脈波信号の間の周波数特性を比較することで、動脈瘤の動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を検出する。
【0131】
それぞれの脈波信号は、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の計測位置(典型的には、前脛骨動脈)、および、被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の計測位置(典型的には、上腕動脈)において検出されることが好ましい。これは、検出された脈波信号の一方が動脈瘤の影響を受けないようにすることで、動脈瘤の動脈瘤の有無および大きさをより正しく検出するためである。このような脈波信号を用いることで、特に、腹部大動脈瘤や胸部大動脈瘤の検出に有効である。
【0132】
より具体的には、本実施の形態においては、それぞれの脈波信号から伝達関数を算出し、この算出した伝達関数に基づいて、以下のような観点から、動脈瘤の有無および大きさを検出する。
【0133】
1.伝達関数のゲイン(振幅)比に基づいて、動脈瘤の内径を推定する。
2.伝達関数のゲイン(振幅)が極値(極大値/極小値)をとる周波数間隔(基本周波数)に基づいて、動脈瘤の長さを推定する。このとき、伝達関数の位相変化は、基本周波数に対応する。
【0134】
3.動脈瘤が存在しないと考えられる健常な部位(例えば、心臓と頸動脈との間など)において脈波伝播速度を計測することで、動脈瘤の長さの推定精度を向上できる。
【0135】
[C.装置構成]
次に、上述したような解析的な検討に基づいて、被験者の動脈瘤の有無および/または大きさを検出するための具体的な装置構成について説明する。
【0136】
図12は、本発明の実施の形態に係る測定装置100の概略構成図である。
図12を参照して、測定装置100は、処理部2と、表示部4と、操作部6と、測定部20a,20bとを含む。
【0137】
処理部2は、測定装置100全体の制御を行なう装置であり、代表的に、CPU(Central Processing Unit)10と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)14とを含むコンピュータで構成される。
【0138】
CPU10は、演算処理部に相当し、ROM12に予め格納されているプログラムを読出して、RAM14をワークメモリとして使用しながら、当該プログラムを実行する。
【0139】
処理部2には、表示部4および操作部6が接続されている。表示部4は、ユーザによる各種設定の入力を促したり、処理部2からの演算結果を表示したりする。これに対して、ユーザは、表示部4に表示される内容を確認しながら操作部6を操作して、所望の設定入力や操作を行なう。なお、表示部4は、一例として、LED(Light Emitting Diode)やLCD(Liquid Crystal Display)などからなる。
【0140】
より具体的には、処理部2は、測定部20a,20bに対して測定指令を与えるとともに、当該測定指令に応答して測定された測定信号Pa(t),Pb(t)を受信し、当該測定信号Pa(t),Pb(t)に基づいて、後述するような本実施の形態に係る処理を実行する。
【0141】
測定部20a,20bは、被験者200の所定の測定部位に装着された押圧カフ(空気袋)24a,24bの内圧(以下、「カフ圧」という)を加圧して、それぞれの測定部位における脈波の時間波形を測定する。すなわち、測定信号Pa(t)およびPb(t)は、それぞれ押圧カフ24aおよび24bが装着された位置の脈波信号になる。後述するように、処理部2は、測定信号Pa(t)と測定信号Pb(t)との間の周波数特性を利用して処理を実行するので、処理部2からは、測定部20aおよび20bが互いに同期して測定信号を測定できるように、測定指令が同時に与えられる。
【0142】
より詳細には、例えば、押圧カフ24aおよび24bは、それぞれ被験者200の足首部(好ましくは、前脛骨動脈の周辺)および上腕部(好ましくは、上腕動脈の周辺)に装着され、それぞれ配管22aおよび22bを介して測定部20aおよび20bから供給される空気によって加圧される。この加圧によって、押圧カフ24aおよび24bは対応の測定部位に押圧され、当該測定部位の脈波に応じた圧力変化がそれぞれ配管22aおよび22bを介して測定部20aおよび20bへ伝達される。
【0143】
測定部20a,20bは、この伝達される圧力変化を検出することで、測定部位の脈波の時間波形を測定する。なお、測定信号Pa(t)およびPb(t)の所定の周波数成分(一例として、0〜20[Hz])に対して演算処理を行なうことが好ましいので、測定信号Pa(t)およびPb(t)の測定周期(サンプリング周期)は、この周波数成分に応じた時間間隔(一例として、25msec)より短くすることが好ましい。
【0144】
このような測定動作を実行するために、測定部20aは、圧力センサ28aと、調圧弁26aと、圧力ポンプ25aと、配管27aとを含む。圧力センサ28aは、配管22aを介して伝達される圧力変動を検出するための検出部位である。一例として、圧力センサ28aは、単結晶シリコンなどの半導体チップ上に所定間隔で配列された複数のセンサエレメントを含む。調圧弁26aは、圧力ポンプ25aと押圧カフ24aとの間に介挿され、測定時に押圧カフ24aを加圧に用いられる圧力を所定の範囲に維持する。圧力ポンプ25aは、処理部2からの測定指令に応じて作動し、押圧カフ24aを加圧するための加圧空気を供給する。
【0145】
同様に、測定部20bは、圧力センサ28bと、調圧弁26bと、圧力ポンプ25bと、配管27bとを含む。各部の構成については、測定部20aと同様である。
【0146】
本実施の形態では、生体信号である脈波信号を、脈波によって生じる圧力変化を圧力カフを用いて測定することで取得する構成について説明するが、例えば、被験者200の測定部位に微少の一定電流を流すとともに、脈波の伝播に応じて生じるインピーダンス(生体インピーダンス)の変化によって生じる電圧変化を脈波信号として取得してもよい。
【0147】
[D.動脈瘤の判断ロジック(実施の形態1)]
<d1:概要>
実施の形態1として、それぞれ検出された脈波信号から、押圧カフ24aが装着された計測位置(被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の計測位置)と、押圧カフ24bが装着された計測位置(被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の計測位置)との間の圧力の伝達関数を算出し、この算出した伝達関数を用いて、動脈瘤の有無および/または大きさを検出する構成について説明する。実施の形態1においては、伝達関数に関する位相差特性のばらつき度合いに基づいて、動脈瘤の有無を検出する。上述したように、伝達関数の位相線図では、基本周波数ごとに位相が180度変化することになる。基本周波数が低い(狭い)場合には、より多くの頻度でこの位相が生じることになる。また、基本周波数は、動脈瘤の長さに反比例するので、基本周波数が相対的に低い(狭い)場合には、動脈瘤が存在する確率が高いといえる。したがって、ばらつき度合いが大きいほど、動脈瘤が存在する確率が高いと判断できる。
【0148】
より具体的には、実施の形態1においては、測定信号Pa(t)およびPb(t)をそれぞれ周波数変換して位相特性を算出し、さらに、周波数ごとに位相差を算出することで、伝達関数P/Pの位相差特性(∠(P/P))を算出する。なお、便宜上、それぞれフーリエ信号Pa(f)およびPb(f)を用いて、次の式(40)のように定義できる位相特性Φa(f)およびΦb(f)を用いて説明する。
【0149】
【数34】

【0150】
そして、この算出した伝達関数に関する位相差特性における位相のばらつき度合いに基づいて、対象の血管経路に動脈瘤が存在するか否かを判断する。以下、このような処理を実現するための具体的な構成例について説明する。
【0151】
<d2:機能構成>
図13は、実施の形態1に係る動脈瘤を検出するための処理を実現する機能ブロックを示す模式図である。図13に示す各機能ブロックは、典型的には、処理部2のCPU10(図12)がROM12などに予め格納されているプログラムに従って演算処理を実行することで実現される。
【0152】
図13を参照して、実施の形態1に係る処理部2は、周波数変換部30a,30bと、比較部40と、判断部50と、出力部60とを含む。
【0153】
周波数変換部30aおよび30bは、それぞれ時間波形である測定信号Pa(t)およびPb(t)を所定期間にわたって受信し、当該受信した測定信号Pa(t)およびPb(t)を周波数領域の情報に変換する。代表的に、周波数変換部30aおよび30bは、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を用いて、周波数変換を行なう。なお、高速フーリエ変換に限らず、時間領域の信号をフーリエ級数などの周波数領域の信号に変換するものであれば、いずれの変換アルゴリズムを用いてもよい。
【0154】
実施の形態1においては、周波数変換部30aおよび30bは、周波数領域の情報として、位相特性Φa(f)およびΦb(f)を出力する。より具体的には、周波数変換部30aは、測定信号Pa(t)の各周波数成分についての位相を示す位相特性Φa(f)を算出し、算出した位相特性Φa(f)を比較部40へ出力する。同様に、周波数変換部30bは、測定信号Pb(t)の各周波数成分についての位相を示す位相特性Φb(f)を算出し、算出した位相特性Φb(f)を比較部40へ出力する。
【0155】
比較部40は、脈波信号である測定信号Pa(t)およびPb(t)の間の周波数特性(実施の形態1においては、位相差特性)を比較することで、各周波数における位相差を比較結果として算出する。より具体的には、比較部40は、位相差特性算出部40aを含む。位相差特性算出部40aは、各周波数について、位相特性Φa(f)と位相特性Φb(f)との差を算出することで、周波数ごとに位相差を示す位相差特性(位相特性Φa(f)−位相特性Φb(f))を算出する。
【0156】
なお、測定信号Pa(t)と測定信号Pb(t)との間の各周波数成分についての位相差をプロットすると、位相線図は、±180°を境界とした不連続点を有する。これは、所定の周波数以上の周波数成分において、1周期(360°)以上の位相差が生じていることを意味する。そこで、位相差特性算出部40aは、このような位相線図の不連続点に対して、1または2以上の周期に相当する単位(n×360°)で補正を行なった上で、実測の位相差特性を算出する。
【0157】
位相差特性算出部40aは、位相特性Φa(f)と位相特性Φb(f)との差である、周波数fに対応する位相差Aを位相線図上にプロットする。なお、周波数fは、低周波側から数えてi番目の周波数成分である。位相線図の不連続点に上記補正がなされることで、プロットされる位相線図が連続化する。位相差特性算出部40aは、位相線図上にプロットされる位相差Aを用いて回帰直線を算出する。この回帰直線の傾き([deg/Hz])が位相線特性に相当する。この位相線特性の傾きは、位相差特性の周波数についての変化量に相当する偏角φを用いて、傾きgexp=tan(φexp)として定義できる。
【0158】
位相差特性算出部40aは、この算出した比較結果(位相差特性)を判断部50へ出力する。すなわち、比較部40(位相差特性算出部40a)は、押圧カフ24aが装着された計測位置と、押圧カフ24bが装着された計測位置との間の圧力の伝達関数(少なくとも、位相差特性)を算出することになる。
【0159】
判断部50は、この比較部40において算出された比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無を判断する。より具体的には、判断部50は、算出された伝達関数に関する位相差特性における位相のばらつき度合いに基づいて、動脈瘤の有無を判断する。
【0160】
図14は、複数の被験者から実際に取得された測定信号から算出された位相線図を示す図である。すなわち、比較部40からは、図14(A)〜(C)に示すような位相差特性が出力される。判断部50は、図14(A)〜(C)に示すそれぞれの位相差特性に対して、位相のばらつき度合いを評価する。一例として、判断部50は、公知の方法によって決定される回帰線をそれぞれ設定するとともに、当該設定された回帰線からのずれ量をばらつき度合いとして算出する。そして、判断部50は、この算出されたばらつき度合いが所定のしきい値を超えるか否かを判断する。算出されたばらつき度合いが所定のしきい値を超える場合には、検査対象の血管経路上に、無視できない動脈瘤が存在していると判断される。
【0161】
図14(A)〜(C)に示される回帰線は、測定された周波数ごとの位相を統計処理することで算出されてもよい。判断部50は、統計処理部50aを含み、統計処理部50aは、位相のばらつき度合いを評価するための回帰線を決定するとともに、決定された回帰線に基づいて位相のばらつき度合いを算出する。あるいは、位相差特性に対して、最小二乗法などの方法を用いて回帰線を決定してもよい。さらにあるいは、動脈瘤が存在しないと考えられる健常な部位(例えば、心臓と頸動脈との間など)において脈波伝播速度を計測し、その計測した脈波の伝搬速度から本来的な位相差特性を算出し、この算出した本来的な位相差特性から回帰線を決定してもよい。
【0162】
また、ばらつき度合いについても、周波数ごとに回帰線からのずれ量を積算することで算出してもよいし、回帰線と位相差特性との間の総面積から算出してもよい。さらに、標準偏差といった公知の方法で、ばらつき度合いを算出してもよい。
【0163】
再度、図13を参照して、出力部60は、判断部50における判断結果を表示部4(図12)に表示させる。
【0164】
<d3:処理手順>
次に、実施の形態1に係る動脈瘤の判断に係る処理手順について説明する。
【0165】
図15は、実施の形態1に係る動脈瘤の判断に係る処理手順を示すフローチャートである。図15を参照して、ユーザによる操作部6(図12)などに対する操作に応答して、CPU10は、測定部20a,20bに対して測定指令を与え、測定部20a,20bが被験者200に装着された押圧カフ24a,24bにおける脈波信号の測定を開始する(ステップS100)。
【0166】
次に、CPU10は、測定部20a,20bで測定される時間波形である測定信号Pa(t),Pb(t)から周波数領域の位相特性Φa(f),Φb(f)を算出する(ステップS102)。そして、CPU10は、位相特性Φa(f)と位相特性Φb(f)との間の各周波数における位相差に基づいて位相差特性を算出する(ステップS104)。
【0167】
続いて、CPU10は、算出された位相差特性に対して回帰線を設定し(ステップS106)、当該設定した回帰線に基づいて、位相差特性のばらつき度合いを算出する(ステップS108)。
【0168】
その後、CPU10は、算出した位相差特性のばらつき度合いを予め定められたしきい値と比較し、ばらつき度合いが当該しきい値より大きいか否かを判断する(ステップS110)。
【0169】
ばらつき度合いが当該しきい値より大きい場合(ステップS110においてYESの場合)には、CPU10は、被験者200の心臓から押圧カフ24a,24bが装着された計測位置までの血管経路上に動脈瘤などの所定の病変が存在する可能性があるとして、その評価結果を表示部4に出力させる(ステップS112)。そして、測定処理は終了する。これに対して、ばらつき度合いが当該しきい値より小さい場合(ステップS110においてNOの場合)には、CPU10は、被験者200の心臓から押圧カフ24a,24bが装着された計測位置までの血管経路上に動脈瘤などの所定の病変が存在する可能性は低いとして、その評価結果を表示部4に出力させる(ステップS114)。そして、測定処理は終了する。
【0170】
<d4:利点>
本実施の形態によれば、被験者の下肢および上肢からそれぞれ脈波信号を測定するだけで、動脈瘤などの病変の有無を判断することができる。そのため、より簡素な構成で、かつ、より簡単な手順で、動脈瘤についての診断を行なうことができる。また、本実施の形態によれば、比較的高い精度で検出できる脈波信号の位相信号を用いて、動脈瘤などの病変の有無を判断するので、判断精度を高めることができる。
【0171】
[E.動脈瘤の判断ロジック(実施の形態2)]
<e1:概要>
実施の形態2においては、上述の実施の形態1と同様に、それぞれ検出された脈波信号から、押圧カフ24aが装着された計測位置(被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の計測位置)と、押圧カフ24bが装着された計測位置(被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の計測位置)との間の圧力の伝達関数を算出し、この算出した伝達関数を用いて、動脈瘤の有無および/または大きさを検出する構成について説明する。実施の形態2においては、脈波信号についての周波数ごとの位相遅れ時間に基づいて、基準の位相差特性を算出する。より具体的には、脈波信号についての周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて、位相線図における位相角を算出する。そして、この基準の位相差特性と伝達関数に関する位相差特性とが交差する回数、または、交差する周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および大きさを検出する。上述したように、伝達関数の位相線図では、基本周波数ごとに位相が180度変化することになる。基本周波数が低い(狭い)場合には、より多くの頻度でこの位相が生じることになる。また、基本周波数は、動脈瘤の長さに反比例するので、基本周波数が相対的に低い(狭い)場合には、動脈瘤が存在する確率が高いといえる。したがって、被験者の血管経路の状態から生じるであろう位相遅れを基準として、この基準の特性特性からのずれに基づいて、動脈瘤の存在およびその大きさ(内径および長さ)を推定できる。
【0172】
実施の形態2は、実施の形態1に比較して、主として、基準の位相差特性を算出する処理、および、基準の特性特性からのずれを評価する処理が異なっている。そのため、以下の説明では、主としてこのような相違点について説明する。
【0173】
<e2:機能構成>
図16は、実施の形態2に係る動脈瘤を検出するための処理を実現する機能ブロックを示す模式図である。図16に示す各機能ブロックは、典型的には、処理部2のCPU10(図12)がROM12などに予め格納されているプログラムに従って演算処理を実行することで実現される。
【0174】
図16を参照して、実施の形態2に係る処理部2は、周波数変換部30a,30bと、周波数選択部31a,31bと、比較部41と、判断部51と、出力部60とを含む。周波数変換部30a,30bおよび出力部60については、図13において説明したので、詳細な説明は繰り返さない。
【0175】
周波数選択部31a,31bは、脈波信号についての周波数ごとの位相遅れ時間を算出するために、それぞれ測定信号Pa(t),Pb(t)に含まれる特定の周波数成分のみを抽出して比較部41へ出力する。周波数選択部31a,31bは、いわばバンドパスフィルタとして機能する。ここで、周波数選択部31a,31bは、互いに同一の周波数成分をそれぞれ抽出する必要があるので、連係して抽出する周波数を同期する。
【0176】
比較部41は、実施の形態1において説明した位相差特性算出部40aに加えて、位相遅れ時間算出部41aを含む。位相遅れ時間算出部41aは、周波数選択部31a,31bからそれぞれ抽出される測定信号Pa(t),Pb(t)に含まれる特定の周波数成分を互いに比較することで、脈波信号について周波数ごとの位相遅れ時間を算出する。
【0177】
判断部51は、実施の形態1において説明した統計処理部50aに加えて、位相角設定部51aを含む。位相角設定部51aは、位相遅れ時間算出部41aが算出した周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて、位相角を算出する。この位相角は、被験者の血管経路の状態から生じるであろう位相遅れを示すものである。
【0178】
図17は、実施の形態2に係る位相角設定部51aによって設定される位相角(基準の位相差特性)を説明するための図である。図17(A)〜(C)に示すように、位相角設定部51aによって算出される位相角βに基づいて、基準の位相差特性が設定される。この位相角βは、位相線図における傾きを示す。
【0179】
判断部51は、位相角設定部51aによって設定される基準の位相差特性に対して、位相差特性算出部40aによって算出される脈波信号についての位相差特性が交差する状況に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを評価する。
【0180】
上述したように、伝達関数の位相線図では、基本周波数ごとに位相が180度変化することになる。基本周波数が低い(狭い)場合には、より多くの頻度でこの位相が生じることになる。また、基本周波数は、動脈瘤の長さに反比例するので、基本周波数が相対的に低い(狭い)場合には、動脈瘤が存在する確率が高いといえる。したがって、基準の位相差特性に対して、脈波信号についての位相差特性が交差する回数が多いほど、動脈瘤が存在する確率が高いと判断できる。また、基本周波数は動脈瘤の長さに反比例するので、基本周波数が相対的に低い(狭い)場合には、より長い動脈瘤が存在することが推定できる。
【0181】
また、基準の位相差特性と脈波信号についての位相差特性とが交差する周波数間隔は、上述の基本周波数そのものであるので、この交差する周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを推定することもできる。
【0182】
すなわち、実施の形態2において、判断部51は、周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて算出される位相角に対して伝達関数の位相差特性が交差する回数に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを判断する。あるいは、判断部51は、周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて算出される位相角に対して伝達関数の位相差特性が交差する周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを判断する。
【0183】
なお、測定信号Pa(t),Pb(t)から算出される位相差特性には誤差が含まれる場合があるので、特定の周波数成分を用いたり、位相差特性に対して補間処理などを行なったりして、誤差の影響を小さくしてもよい。
【0184】
<e3:処理手順>
次に、実施の形態2に係る動脈瘤の判断に係る処理手順について説明する。
【0185】
図18は、実施の形態2に係る動脈瘤の判断に係る処理手順を示すフローチャートである。なお、図18に示すフローチャートにおいては、図15に示すフローチャートと同一の処理については、同一のステップ番号を付している。
【0186】
図18を参照して、ユーザによる操作部6(図12)などに対する操作に応答して、CPU10は、測定部20a,20bに対して測定指令を与え、測定部20a,20bが被験者200に装着された押圧カフ24a,24bにおける脈波信号の測定を開始する(ステップS100)。
【0187】
次に、CPU10は、測定部20a,20bで測定される時間波形である測定信号Pa(t),Pb(t)から周波数領域の位相特性Φa(f),Φb(f)を算出する(ステップS102)。そして、CPU10は、位相特性Φa(f)と位相特性Φb(f)との間の各周波数における位相差に基づいて位相差特性を算出する(ステップS104)。このステップS102およびS104の処理と並行して、あるいは、連続して、CPU10は、測定信号Pa(t),Pb(t)についての周波数ごとの位相遅れ時間を算出する(ステップS105)。
【0188】
続いて、CPU10は、ステップS105において算出した周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて、位相線図における位相角を算出するとともに、算出された位相差特性に対して基準の位相差特性を設定する(ステップS107)。そして、CPU10は、基準の位相差特性と伝達関数に関する位相差特性とが交差する位置を探索し(ステップS109)、探索した交差する位置の数(交差の回数)および/または交差する位置の間の間隔(交差する周波数間隔)を算出する(ステップS111)。
【0189】
続いて、CPU10は、ステップS111において算出した情報に基づいて、動脈瘤が存在する可能性を示す条件を満足するか否かを判断する(ステップS113)。より具体的には、CPU10は、ステップS111において算出した交差の回数が所定のしきい回数を超えるか否か、あるいは、ステップS111において算出した交差する周波数間隔が所定のしきい周波数を下回るか否かを判断する。
【0190】
動脈瘤が存在する可能性を示す条件を満足する場合(ステップS113においてYESの場合)には、CPU10は、被験者200の心臓から押圧カフ24a,24bが装着された計測位置までの血管経路上に動脈瘤などの所定の病変が存在する可能性があるとして、その評価結果を表示部4に出力させる(ステップS115)。さらに、CPU10は、ステップS111において算出した交差する周波数間隔の値に基づいて、存在することが推定される動脈瘤の大きさを示す情報を表示部4に出力させる(ステップS117)そして、測定処理は終了する。
【0191】
これに対して、動脈瘤が存在する可能性を示す条件を満足しない場合(ステップS110においてNOの場合)には、CPU10は、被験者200の心臓から押圧カフ24a,24bが装着された計測位置までの血管経路上に動脈瘤などの所定の病変が存在する可能性は低いとして、その評価結果を表示部4に出力させる(ステップS119)。そして、測定処理は終了する。
【0192】
<e4:利点>
本実施の形態によれば、被験者の下肢および上肢からそれぞれ脈波信号を測定するだけで、動脈瘤などの病変の有無を判断することができる。そのため、より簡素な構成で、かつ、より簡単な手順で、動脈瘤についての診断を行なうことができる。また、本実施の形態によれば、動脈瘤の有無に加えて、その大きさについても推定できるので、存在が推定される動脈瘤の進行状況についても推定することができる。
【0193】
[F.動脈瘤の判断ロジック(実施の形態3)]
<f1:概要>
実施の形態3においても、上述の実施の形態1および2と同様に、それぞれ検出された脈波信号から、押圧カフ24aが装着された計測位置(被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の計測位置)と、押圧カフ24bが装着された計測位置(被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の計測位置)との間の圧力の伝達関数を算出し、この算出した伝達関数を用いて、動脈瘤の有無および/または大きさを検出する構成について説明する。実施の形態3においては、伝達関数のゲイン特性において極値が生じる周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを検出する。上述したように、伝達関数のゲイン線図において、極値(極大値/極小値)が生じる周波数間隔が基本周波数であり、この基本周波数は、動脈瘤の長さに反比例するので、基本周波数が相対的に低い(狭い)場合には、動脈瘤が存在する確率が高いといえる。
【0194】
そこで、実施の形態3においては、測定信号Pa(t)およびPb(t)をそれぞれ周波数変換してゲイン特性を算出し、さらに、周波数ごとにゲイン比を算出することで、伝達関数P/Pのゲイン特性(|P/P|)を算出する。なお、便宜上、それぞれフーリエ信号Pa(f)およびPb(f)を用いて、次の式(41)のように定義できるゲイン特性Ga(f)およびGb(f)を用いて説明する。
【0195】
【数35】

【0196】
なお、ゲイン特性Ga(f)およびGb(f)として対数値(デシベル[dB])を用いた場合には、ゲイン特性Ga(f)とゲイン特性Gb(f)との周波数ごとの差分がゲイン特性となる。
【0197】
そして、この算出した伝達関数のゲイン特性において極値(極大値/極小値)が生じる周波数間隔に基づいて、対象の血管経路に動脈瘤が存在するか否かを判断する。また、動脈瘤の大きさ(長さ)を推定する。以下、このような処理を実現するための具体的な構成例について説明する。
【0198】
<f2:機能構成>
図19は、実施の形態3に係る動脈瘤を検出するための処理を実現する機能ブロックを示す模式図である。図19に示す各機能ブロックは、典型的には、処理部2のCPU10(図12)がROM12などに予め格納されているプログラムに従って演算処理を実行することで実現される。
【0199】
図19を参照して、実施の形態3に係る処理部2は、周波数変換部32a,32bと、比較部42と、判断部52と、出力部60とを含む。
【0200】
周波数変換部32aおよび32bは、それぞれ時間波形である測定信号Pa(t)およびPb(t)を所定期間にわたって受信し、当該受信した測定信号Pa(t)およびPb(t)を周波数領域の情報に変換する。代表的に、周波数変換部32aおよび32bは、高速フーリエ変換(FFT)を用いて、周波数変換を行なう。なお、高速フーリエ変換に限らず、時間領域の信号をフーリエ級数などの周波数領域の信号に変換するものであれば、いずれの変換アルゴリズムを用いてもよい。
【0201】
実施の形態3においては、周波数変換部32aおよび32bは、周波数領域の情報として、ゲイン特性Ga(f)およびGb(f)を出力する。より具体的には、周波数変換部32aは、測定信号Pa(t)の各周波数成分についてのゲインを示すゲイン特性Ga(f)を算出し、算出したゲイン特性Ga(f)を比較部42へ出力する。同様に、周波数変換部32bは、測定信号Pb(t)の各周波数成分についてのゲインを示すゲイン特性Gb(f)を算出し、算出したゲイン特性Gb(f)を比較部42へ出力する。
【0202】
比較部42は、脈波信号である測定信号Pa(t)およびPb(t)の間の周波数特性(実施の形態3においては、ゲイン特性)を比較することで、各周波数におけるゲイン比を比較結果として算出する。より具体的には、比較部42は、ゲイン特性算出部42aを含む。ゲイン特性算出部42aは、各周波数について、ゲイン特性Ga(f)とゲイン特性Gb(f)との比(または、差)を算出することで、周波数ごとにゲイン比を示すゲイン特性を算出する。比較部42において算出された比較結果(ゲイン特性)は、判断部52へ出力される。すなわち、比較部42は、押圧カフ24aが装着された計測位置と、押圧カフ24bが装着された計測位置との間の圧力の伝達関数(少なくとも、ゲイン特性)を算出することになる。
【0203】
判断部52は、この比較部42において算出された比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無を判断する。より具体的には、判断部52は、算出された伝達関数のゲイン特性において極値(極大値/極小値)が生じる周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを判断する。
【0204】
図20は、実施の形態3に係る判断部52における判断処理を説明するための図である。比較部42からは、図20に示すようなゲイン特性が出力される。判断部52は、図20に示すようなゲイン特性における極値(極大値および極小値)を探索する。このような極値の探索方法としては、公知の方法を採用することができる。そして、判断部52は、このように探索された隣接する極値の間の周波数間隔を基本周波数として算出する。なお、何らかの測定誤差によって、極値が存在する位置によって、周波数間隔が変動する場合もあるが、このような場合には、複数の周波数間隔の平均などを基本周波数に設定してもよい。
【0205】
そして、判断部52は、この算出した基本周波数の大きさに基づいて、検査対象の血管経路上に、無視できない動脈瘤が存在しているか否かを判断するとともに、動脈瘤が存在している可能性が高いと判断された場合には、その大きさを基本周波数から推定する。典型的には、判断部52は、算出した基本周波数が予め定めたしきい値と比較して、当該しきい値を下回っている場合に、動脈瘤が存在している可能性が高いと判断する。
【0206】
<f3:処理手順>
次に、実施の形態3に係る動脈瘤の判断に係る処理手順について説明する。
【0207】
図21は、実施の形態3に係る動脈瘤の判断に係る処理手順を示すフローチャートである。なお、図21に示すフローチャートにおいては、図15に示すフローチャートと同一の処理については、同一のステップ番号を付している。
【0208】
図21を参照して、ユーザによる操作部6(図12)などに対する操作に応答して、CPU10は、測定部20a,20bに対して測定指令を与え、測定部20a,20bが被験者200に装着された押圧カフ24a,24bにおける脈波信号の測定を開始する(ステップS100)。
【0209】
次に、CPU10は、測定部20a,20bで測定される時間波形である測定信号Pa(t),Pb(t)から周波数領域のゲイン特性Ga(f),Gb(f)を算出する(ステップS122)。そして、CPU10は、ゲイン特性Ga(f)とゲイン特性Gb(f)との間の各周波数におけるゲイン比に基づいてゲイン特性を算出する(ステップS124)。
【0210】
続いて、CPU10は、算出されたゲイン特性に生じる極値(極大値および極小値)を探索するとともに、探索された隣接する極値の間の周波数間隔を基本周波数として算出する(ステップS126)。
【0211】
その後、CPU10は、算出した基本周波数を予め定められたしきい値と比較し、基本周波数が当該しきい値より小さいか否かを判断する(ステップS128)。
【0212】
基本周波数が当該しきい値より小さい場合(ステップS128においてYESの場合)には、CPU10は、被験者200の心臓から押圧カフ24a,24bが装着された計測位置までの血管経路上に動脈瘤などの所定の病変が存在する可能性があるとして、その評価結果を表示部4に出力させる(ステップS130)。さらに、CPU10は、基本周波数の大きさに基づいて、存在することが推定される動脈瘤の大きさを示す情報を表示部4に出力させる(ステップS132)。そして、測定処理は終了する。これに対して、基本周波数が当該しきい値より大きい場合(ステップS128においてNOの場合)には、CPU10は、被験者200の心臓から押圧カフ24a,24bが装着された計測位置までの血管経路上に動脈瘤などの所定の病変が存在する可能性は低いとして、その評価結果を表示部4に出力させる(ステップS134)。そして、測定処理は終了する。
【0213】
<f4:利点>
本実施の形態によれば、被験者の下肢および上肢からそれぞれ脈波信号を測定するだけで、動脈瘤などの病変の有無を判断することができる。そのため、より簡素な構成で、かつ、より簡単な手順で、動脈瘤についての診断を行なうことができる。また、本実施の形態によれば、基本周波数を直接的に算出できるので、動脈瘤の大きさの推定をより高い精度で行なうことができる。
【0214】
[G.動脈瘤の判断ロジック(実施の形態4)]
<g1:概要>
実施の形態4においては、それぞれ検出された脈波信号の間の脈波伝播速度についての周波数特性を算出し、この算出した脈波伝播速度についての周波数特性における、脈波伝播速度のばらつき、および/または、脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを検出する。
【0215】
脈波伝播速度は、実施の形態1において用いた位相差特性に対応する特徴量を示すものであり、また、実施の形態2において用いた位相遅れ時間に対応する特徴量を示すものである。そのため、脈波伝播速度は、位相差特性や位相遅れ時間と同様の周波数についての特徴量を示すことになる。
【0216】
そこで、実施の形態4においては、上述の実施の形態1または2と同様の判断手法を用いて、脈波伝播速度についての周波数特性から動脈瘤の有無および/または大きさを検出する。
【0217】
<g2:機能構成>
図22は、実施の形態4に係る動脈瘤を検出するための処理を実現する機能ブロックを示す模式図である。図22に示す各機能ブロックは、典型的には、処理部2のCPU10(図12)がROM12などに予め格納されているプログラムに従って演算処理を実行することで実現される。
【0218】
図22を参照して、実施の形態4に係る処理部2は、周波数選択部31a,31bと、比較部43と、判断部53と、出力部60とを含む。
【0219】
周波数選択部31a,31bは、脈波信号についての周波数ごとの脈波伝播速度(PWV)を算出するために、それぞれ測定信号Pa(t),Pb(t)に含まれる特定の周波数成分のみを抽出して比較部43へ出力する。周波数選択部31a,31bは、いわばバンドパスフィルタとして機能する。ここで、周波数選択部31a,31bは、同一の周波数成分をそれぞれ抽出する必要があるので、互いに連係して抽出する周波数を同期させる。
【0220】
比較部43は、脈波信号である測定信号Pa(t)およびPb(t)の間の脈波伝播速度についての周波数特性を比較結果として算出する。比較部40は、PWV算出部43aを含む。PWV算出部43aは、測定信号Pa(t)およびPb(t)を所定期間にわたって受信し、周波数ごとに時間軸上に表われるそれぞれの脈波波形の出現時間差を伝播時間差Tdとして算出する。すなわち、周波数選択部31aおよび31bは、測定信号Pa(t)およびPb(t)のうち、選択された周波数成分に対応する時間波形をPWV算出部43aへ出力するので、脈波波形の出現時間差が周波数ごとの伝播時間差Tdとなる。
【0221】
そして、PWV算出部43aは、被験者200の心臓から押圧カフ24aおよび24bが装着された測定部位までのそれぞれの血管経路の距離La,Lbまたはその距離の差△Lを取得しておき、距離の差△Lを伝播時間差Tdで除算することで周波数ごとの脈波伝播速度(PWV)を算出する。PWV算出部43aは、算出された周波数ごとの脈波伝播速度(PWV)を判断部53へ出力する。
【0222】
このように、比較部43(PWV算出部43a)は、脈波信号の間の脈波伝播速度についての周波数特性を算出することになる。
【0223】
判断部53は、比較部43において算出された脈波信号の間の脈波伝播速度についての周波数特性に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを判断する。より具体的には、判断部53は、算出された脈波伝播速度についての周波数特性における、脈波伝播速度のばらつき度合い、および/または、脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを判断する。
【0224】
図23は、複数の被験者から実際に取得された測定信号から算出された脈波伝播速度(PWV)を示す図である。すなわち、比較部43からは、図23(A)〜(C)に示すような脈波伝播速度についての周波数特性が出力される。判断部53は、図23(A)〜(C)に示すそれぞれの位相差特性に対して、脈波伝播速度のばらつき度合い、および/または、脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔を評価する。
【0225】
典型的には、判断部53は、公知の方法によって決定される回帰線をそれぞれ設定するとともに、当該設定された回帰線からのずれ量をばらつき度合いとして算出する。図23(A)には、設定される回帰線の一例を示す。そして、判断部53は、この算出されたばらつき度合いが所定のしきい値を超えるか否かを判断する。算出されたばらつき度合いが所定のしきい値を超える場合には、検査対象の血管経路上に、無視できない動脈瘤が存在していると判断される。
【0226】
また、判断部53は、脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および/または大きさを判断してもよい。図23(B)および(C)では、脈波伝播速度に周期的変動が生じている。判断部53は、このような脈波伝播速度の周期的変動について、その変動周期、すなわち変動の周波数間隔を算出する。この変動の周波数間隔は、上述の基本周波数に相当し、この基本周波数の大きさに基づいて、動脈瘤の存在および/または長さを評価できる。判断部53は、算出した変動の周波数間隔に基づいて、検査対象の血管経路上に、無視できない動脈瘤が存在しているか否かを判断するとともに、動脈瘤が存在している可能性が高いと判断された場合には、その大きさを変動の周波数間隔から推定する。
【0227】
<g3:処理手順>
次に、実施の形態4に係る動脈瘤の判断に係る処理手順について説明する。
【0228】
図24は、実施の形態4に係る動脈瘤の判断に係る処理手順を示すフローチャートである。なお、図24に示すフローチャートにおいては、図15に示すフローチャートと同一の処理については、同一のステップ番号を付している。
【0229】
図24を参照して、ユーザによる操作部6(図12)などに対する操作に応答して、CPU10は、測定部20a,20bに対して測定指令を与え、測定部20a,20bが被験者200に装着された押圧カフ24a,24bにおける脈波信号の測定を開始する(ステップS100)。
【0230】
次に、CPU10は、測定信号Pa(t),Pb(t)についての周波数ごとの伝播時間差を算出する(ステップS140)とともに、被験者の心臓から押圧カフ24aおよび24bが装着された測定部位までのそれぞれの血管経路の差を伝播時間差で除算することで周波数ごとの脈波伝播速度を算出する(ステップS142)。
【0231】
続いて、CPU10は、ステップS142において算出した周波数ごとの脈波伝播速度から算出される脈波伝播速度についての周波数特性に対して、脈波伝播速度のばらつき度合いを算出する(ステップS144)。このステップS144の処理と並行して、あるいは、連続して、CPU10は、ステップS142において算出した周波数ごとの脈波伝播速度から算出される脈波伝播速度についての周波数特性に対して、脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔を算出する(ステップS146)。なお、ステップS144およびS146の一方のみを行なうようにしてもよい。
【0232】
続いて、CPU10は、ステップS144および/またはS146において算出した情報に基づいて、動脈瘤が存在する可能性を示す条件を満足するか否かを判断する(ステップS148)。
【0233】
より具体的には、CPU10は、ステップS144において算出した脈波伝播速度のばらつき度合いが所定のしきい度合いを超えるか否か、あるいは、ステップS146において算出した脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔が所定のしきい周波数を下回るか否かを判断する。
【0234】
動脈瘤が存在する可能性を示す条件を満足する場合(ステップS148においてYESの場合)には、CPU10は、被験者200の心臓から押圧カフ24a,24bが装着された計測位置までの血管経路上に動脈瘤などの所定の病変が存在する可能性があるとして、その評価結果を表示部4に出力させる(ステップS150)。さらに、CPU10は、ステップS146において算出した脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔の値に基づいて、存在することが推定される動脈瘤の大きさを示す情報を表示部4に出力させる(ステップS152)そして、測定処理は終了する。
【0235】
これに対して、動脈瘤が存在する可能性を示す条件を満足しない場合(ステップS148においてNOの場合)には、CPU10は、被験者200の心臓から押圧カフ24a,24bが装着された計測位置までの血管経路上に動脈瘤などの所定の病変が存在する可能性は低いとして、その評価結果を表示部4に出力させる(ステップS154)。そして、測定処理は終了する。
【0236】
<g4:利点>
本実施の形態によれば、被験者の下肢および上肢からそれぞれ脈波信号を測定するだけで、動脈瘤などの病変の有無を判断することができる。そのため、より簡素な構成で、かつ、より簡単な手順で、動脈瘤についての診断を行なうことができる。また、本実施の形態によれば、従来から診断に利用されている脈波伝播速度(PWV)を利用できるので、既存の診断手法との調和が容易である。
【0237】
[H.その他の形態]
本実施の形態に係る血管経路に発生し得る動脈瘤を評価するための測定方法を、プログラムの実行によって実現してもよい。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどのコンピュータ読取可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0238】
なお、本実施の形態に係るプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本実施の形態に係るプログラムに含まれ得る。
【0239】
また、本実施の形態に係るプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本実施の形態に係るプログラムに含まれ得る。
【0240】
提供されるプログラム製品は、ハードディスクなどのプログラム格納部にインストールされて実行される。なお、プログラム製品は、プログラム自体と、プログラムが記録された記録媒体とを含む。
【0241】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0242】
本実施の形態は、比較的簡単な構成および手順で動脈瘤のスクリーニングや大きさの推定が可能であり、腹部大動脈瘤や胸部大動脈瘤などの検出に利用でき、また、既存の医療機器に搭載するなどの産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0243】
2 処理部、4 表示部、6 操作部、10 CPU、12 ROM、14 RAM、20a,20b 測定部、22a,22b,27a,27b 配管、24a,24b 押圧カフ、25a,25b 圧力ポンプ、26a,26b 調圧弁、28a,28b 圧力センサ、30a,30b,32a,32b 周波数変換部、31a,31b 周波数選択部、40,41,42,43 比較部、40a 位相差特性算出部、41a 位相遅れ時間算出部、42a ゲイン特性算出部、43a 算出部、50 判断部、50a 統計処理部、51a 位相角設定部、60 出力部、100 測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の第1の計測位置、および、前記被験者の心臓から前記動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の第2の計測位置において、それぞれの脈波信号を検出するための検出手段と、
前記脈波信号の間の周波数特性を比較することで比較結果を算出するための比較手段と、
前記比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断するための判断手段とを備える、測定装置。
【請求項2】
前記比較手段は、前記第1の計測位置と前記第2の計測位置との間の伝達関数を算出するための手段を含む、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記伝達関数の位相差特性における位相のばらつき度合いに基づいて、動脈瘤の有無を判断する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記比較手段は、前記脈波信号について周波数ごとの位相遅れ時間を算出するための手段を含み、
前記判断手段は、算出された周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて算出される位相角に対して、前記伝達関数の位相差特性が交差する回数に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記判断手段は、算出された周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて算出される位相角に対して、前記伝達関数の位相差特性が交差する周波数間隔に基づいて、動脈瘤の大きさを判断する、請求項4に記載の測定装置。
【請求項6】
前記比較手段は、前記脈波信号について周波数ごとの位相遅れ時間を算出するための手段を含み、
前記判断手段は、算出された周波数ごとの位相遅れ時間の平均に基づいて算出される位相角に対して、前記伝達関数の位相差特性が交差する周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項7】
前記判断手段は、前記伝達関数のゲイン特性において極値が生じる周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項8】
前記比較手段は、前記脈波信号の間の脈波伝播速度についての周波数特性を算出するための手段を含む、請求項1に記載の測定装置。
【請求項9】
前記判断手段は、前記脈波伝播速度についての周波数特性における脈波伝播速度のばらつき度合いに基づいて、動脈瘤の有無を判断する、請求項8に記載の測定装置。
【請求項10】
前記判断手段は、前記脈波伝播速度についての周波数特性における脈波伝播速度に生じる変動の周波数間隔に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断する、請求項8に記載の測定装置。
【請求項11】
被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の第1の計測位置、および、前記被験者の心臓から前記動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の第2の計測位置において、それぞれの脈波信号を検出するステップと、
前記脈波信号の間の周波数特性を比較することで比較結果を算出するステップと、
前記比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断するステップとを含む、測定方法。
【請求項12】
測定プログラムであって、前記測定プログラムは、コンピュータに、
被験者の心臓から動脈瘤の発生が予想される部分を経た血管経路の第1の計測位置、および、前記被験者の心臓から前記動脈瘤の発生が予想される部分とは異なる部分を経た血管経路の第2の計測位置において、それぞれの脈波信号を検出するステップと、
前記脈波信号の間の周波数特性を比較することで比較結果を算出するステップと、
前記比較結果に含まれる周波数についての所定の特徴量に基づいて、動脈瘤の有無および大きさの少なくとも一方を判断するステップとを実行させる、測定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−94264(P2013−94264A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237583(P2011−237583)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、財団法人京都高度技術研究所、「京都環境ナノクラスター」再委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】