説明

測定装置および検査装置

【課題】測定対象体における所定部位間についての電気的パラーメータの高精度の測定を一層迅速に実行する。
【解決手段】直流信号S1の印加によって回路基板100における導体パターン101,101間を流れる電流Iをフィードバック方式で電流−電圧変換するI/V変換部3と、I/V変換部3によって変換された出力信号S2および直流信号S1の電圧に基づいて導体パターン101,101間の絶縁抵抗Rsを測定する制御部5とを備え、I/V変換部3は、電流−電圧変換の帰還インピーダンスとして一対のダイオード32a,32bが接続されて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流信号の印加によって測定対象体を流れる電流をフィードバック方式で電流−電圧変換する変換回路を備えた測定装置、およびその測定装置を備えた検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、特開2001−91562号公報において出願人が開示した検査装置が知られている。この検査装置は、複数のレンジ抵抗を有してプローブ間を流れる電流を電圧変換するレンジ抵抗回路、およびレンジ抵抗の切替えによる入力レンジの切替制御(オートレンジ機能)や絶縁良否の判定処理などを実行する制御回路などを備えて、回路基板等に対する絶縁検査を実行可能に構成されている。この検査装置を用いて、例えば、回路基板における一対の導体パターンに対する絶縁検査を行う際には、これらの導体パターンにプローブを介して検査電圧を印加して、導体パターン間を流れる電流を電圧変換して電圧信号を生成して、その電圧信号をA/D変換した電圧データ、および検査電圧の電圧値に基づいて絶縁抵抗値を演算する。
【0003】
この場合、導体パターン間にはある程度の容量が存在するため、電圧の印加開始時に大きな電流が流れる。このため、この検査装置では、制御回路が、まず、レンジ抵抗回路を切替制御して、最大の入力レンジとしての最も抵抗値の低いレンジ抵抗に切り替える。この際に、導体パターン間を流れる電流はその容量の充電が完了するまで時間の経過と共に徐々に減少する。次いで、制御回路は、その電流の電流値が所定の基準値まで低下したときに、レンジ抵抗回路を切替制御して、次の入力レンジとしての次に抵抗値の低いレンジ抵抗に切り替える。以下、制御回路は、測定に適した低い入力レンジとなるまでレンジ抵抗回路に対する切替制御を繰り返し実行する。この検査装置では、制御回路がこのような切替制御を実行することにより、導体パターン間に大きな電流が流れるときには抵抗値の低いレンジ抵抗に切り替えられる。したがって、レンジ抵抗による電流制限を抑えることができるため、その容量が短時間で充電される結果、絶縁抵抗値を演算可能な状態により短時間で到達させることが可能となる。また、絶縁抵抗値の演算時には絶縁抵抗(絶縁抵抗値)の測定に適した入力レンジとしての抵抗値の高いレンジ抵抗に切り替えられるため、絶縁抵抗値を高精度(正確)に演算することが可能となる。したがって、この検査装置では、回路基板の導体パターンに対する絶縁検査を迅速かつ高精度で行うことが可能となっている。
【特許文献1】特開2001−91562号公報(第2−5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記の検査装置には、改善すべき以下の課題がある。すなわち、この検査装置では、絶縁検査(つまり絶縁抵抗の測定)の迅速化および高精度化を図るために検査時において入力レンジの切替制御を実行している。しかしながら、迅速化を図るために実行している入力レンジの切替制御であるにも拘わらず、その制御を実行する時間が絶縁抵抗の測定時間として最低限必要となるため、絶縁抵抗の測定のさらなる迅速化が困難となっている。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、測定対象体における所定部位間についての電気的パラーメータの高精度の測定を一層迅速に実行し得る測定装置、およびその測定装置を備えた検査装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく請求項1記載の測定装置は、直流信号の印加によって測定対象体における所定部位間を流れる電流をフィードバック方式で電流−電圧変換する変換回路と、当該変換回路によって変換された電圧および前記直流信号の電圧に基づいて前記所定部位間についての電気的パラーメータとして当該所定部位間の抵抗を測定する測定部とを備えた測定装置であって、前記変換回路は、前記電流−電圧変換の帰還インピーダンスとして非線形抵抗素子が接続されて構成されている。
【0007】
また、請求項2記載の測定装置は、直流信号の印加によって測定対象体における所定部位間を流れる電流をフィードバック方式で電流−電圧変換する変換回路と、当該変換回路によって変換された電圧に基づいて前記所定部位間についての電気的パラーメータとして前記電流を測定する測定部とを備えた測定装置であって、前記変換回路は、前記電流−電圧変換の帰還インピーダンスとして非線形抵抗素子が接続されて構成されている。
【0008】
また、請求項3記載の測定装置は、請求項1または2記載の測定装置において、前記変換回路は、その抵抗値が互いに異なる複数の線形抵抗素子を備えて構成され、前記線形抵抗素子のいずれか1つ以上を前記非線形抵抗素子に代えて前記帰還インピーダンスとして切り換え接続する接続回路を備えている。
【0009】
また、請求項4記載の測定装置は、請求項3記載の測定装置において、前記電流の変化の度合いが所定値以下となったときに前記変換回路によって変換された電圧の値に基づいて前記帰還インピーダンスとして接続させるべき前記線形抵抗素子を決定すると共に前記接続回路を制御して当該決定した線形抵抗素子を当該帰還インピーダンスとして接続させる制御部を備えている。
【0010】
また、請求項5記載の検査装置は、請求項1から4のいずれかに記載の測定装置と、当該測定装置によって測定された前記電気的パラメータに基づいて前記所定部位間に対する電気的検査を実行する検査部とを備えて構成されている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の測定装置では、電流−電圧変換の帰還インピーダンスとして非線形抵抗素子を接続したことにより、測定対象体における所定部位間を流れる電流が大きくなったときには、非線形抵抗素子の抵抗値が小さくなる。この場合、例えば、測定対象体としての回路基板における一対の導体パターン間の抵抗を測定する際に、直流信号の印加開始時において導体パターン間に存在する容量を充電する電流が流れることによって導体パターン間を流れる電流が大きくなったときには、帰還インピーダンスとしての非線形抵抗素子の抵抗値を十分に小さくすることができる。このため、非線形抵抗素子による電流制限を最小限度に抑えることができる結果、その容量の充電を迅速に完了することができる。したがって、この測定装置によれば、レンジ切替制御が不要となるため、その制御に要する時間分だけ抵抗の測定時間を短縮することができる結果、所定部位間の抵抗を一層迅速に測定することができる。また、その容量を充電する電流は時間の経過と共に減少する。この場合、その容量の充電が完了して導体パターン間を流れる電流が小さくなったときには、非線形抵抗素子の抵抗値が大きくなるため、変換回路が導体パターン間を流れる小さな電流を測定に適した大きな電圧に変換する結果、導体パターン間の抵抗を高精度で測定することができる。したがって、この測定装置によれば、所定部位間における高精度な抵抗の測定を一層迅速に実行することができる。
【0012】
また、請求項2記載の測定装置では、電流−電圧変換の帰還インピーダンスとして非線形抵抗素子を接続したことにより、測定対象体における所定部位間を流れる電流が大きくなったときには、非線形抵抗素子の抵抗値が小さくなる。この場合、例えば、測定対象体としての回路基板における一対の導体パターン間を流れる電流を測定する際に、直流信号の印加開始時において導体パターン間に存在する容量を充電する電流が流れることによって導体パターン間を流れる電流が大きくなったときには、帰還インピーダンスとしての非線形抵抗素子の抵抗値を十分に小さくすることができる。このため、非線形抵抗素子による電流制限を最小限度に抑えることができる結果、その容量の充電を迅速に完了することができる。したがって、この測定装置によれば、レンジ切替制御が不要となるため、その制御に要する時間分だけ電流の測定時間を短縮することができる結果、所定部位間を流れる電流を一層迅速に測定することができる。また、その容量を充電する電流は時間の経過と共に減少する。この場合、その容量の充電が完了して導体パターン間を流れる電流が小さくなったときには、非線形抵抗素子の抵抗値が大きくなるため、変換回路が導体パターン間を流れる小さな電流を測定に適した大きな電圧に変換する結果、この測定装置によれば、導体パターン間を流れる電流の高精度な測定を一層迅速に実行することができる。
【0013】
また、請求項3記載の測定装置では、接続回路が、その抵抗値が互いに異なる複数の線形抵抗素子のいずれか1つ以上を非線形抵抗素子に代えて帰還インピーダンスとして切り換え接続する。したがって、この測定装置によれば、接続回路が電気的パラーメータの測定時に非線形抵抗素子よりも抵抗値の温度依存性の低い線形抵抗素子を変換回路の帰還インピーダンスとして接続することで、電流を高精度で電流−電圧変換することができるため、電気的パラメータをより高精度で測定することができる。
【0014】
また、請求項4記載の測定装置では、制御部が、所定部位間を流れる電流の変化の度合いが所定値以下となったときに変換回路によって変換された電圧の値に基づいて帰還インピーダンスとして接続させるべき線形抵抗素子を決定すると共に決定した線形抵抗素子を帰還インピーダンスとして接続させる。したがって、この測定装置によれば、電気的パラメータの測定に適した線形抵抗素子が帰還インピーダンスとして自動的に接続されるため、電気的パラメータの測定効率を向上させることができる。
【0015】
また、請求項5記載の検査装置では、検査部が測定装置によって測定された電気的パラメータに基づいて所定部位間に対する電気的検査を実行する。この場合、測定装置が所定部位間についての高精度な電気的パラメータの測定を一層迅速に実行するため、この検査装置によれば、所定部位間に対する高精度な電気的検査を迅速に実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る測定装置および検査装置の最良の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0017】
最初に、基板検査装置1の構成について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1に示す基板検査装置1は、本発明に係る検査装置の一例であって、信号生成部2、I/V変換部3、A/D変換部4、制御部5、記憶部6、操作部7および表示部8を備え、例えば、回路基板100(本発明における測定対象体)における一対の導体パターン101間(本発明における所定部位間)に対する電気的検査としての絶縁抵抗検査および短絡検査を実行可能に構成されている。なお、実際には、回路基板100には複数組の導体パターン101が形成されているが、発明の理解を容易とするため、同図では、一対の導体パターン101だけを図示している。
【0019】
信号生成部2は、制御部5から出力される制御信号S5に従い、所定電圧の直流信号S1を生成して、プローブ11を介して出力する。I/V変換部3は、本発明における変換回路に相当し、図2に示すように、オペアンプ31、2つのダイオード32a,32b(以下、区別しないときには「ダイオード32」ともいう)、3つの抵抗33a,33b,33c(以下、区別しないときには「抵抗33」ともいう)、接続回路34およびコンデンサ35を備えて構成されている。オペアンプ31は、一対の導体パターン101間に対する直流信号S1の印加によって導体パターン101間を流れる電流Iをフィードバック方式で電流−電圧(I/V)変換して、その電流Iの電流値に電圧値が比例する出力信号S2を生成してA/D変換部4に出力する。この場合、このオペアンプ31を含むI/V変換部3の変換利得は、変換利得決定用の帰還インピーダンスとしてダイオード32が接続されているときには、電流Iの大きさに応じてダイオード32の抵抗値が変化するため、電流Iの大きさに応じて変化する。ダイオード32a,32bは、本発明における帰還インピーダンスとしての非線形抵抗素子に相当し、接続回路34によってオペアンプ31の負帰還経路に接続される。また、図2に示すように、ダイオード32aのアノードおよびダイオード32bのカソードはI/V変換部3の入力部(オペアンプ31のマイナス入力部)に接続されると共にダイオード32aのカソードおよびダイオード32bのアノードは接続回路34における1つのスイッチ回路を介してI/V変換部3の出力部(オペアンプ31の出力部)に接続されている。したがって、信号生成部2が正の直流信号S1を出力したときには、電流IはI/V変換部3の入力部側から出力部側を流れるため、電流Iはダイオード32aを流れ、信号生成部2が負の直流信号S1を出力したときには、電流IはI/V変換部3の出力部側から入力部側に流れるため、電流Iはダイオード32bを流れる。
【0020】
抵抗33a〜33cは、本発明における帰還インピーダンスとしての線形抵抗素子に相当し、図2に示すように、一端がI/V変換部3の入力部に接続されると共に他端が接続回路34における1つのスイッチ回路を介してI/V変換部3の出力部にそれぞれ接続されている。この場合、抵抗33a〜33cは、絶縁抵抗検査において、接続回路34によってダイオード32a,32bに代えていずれか1つがオペアンプ31の負帰還経路に切り換え接続される。また、抵抗33a〜33cは、その抵抗値が互いに異なり、例えば、抵抗33aは、0.1μA以上1μA未満程度の電流Iが流れているときに、後段に接続されているA/D変換部4の入力レンジに対して適当な電圧値の出力信号S2に変換するように、その抵抗値が例えば1MΩに規定されている。同様にして、抵抗33bは、1μA以上10μA未満程度の電流用としてその抵抗値が例えば100kΩに規定され、抵抗33cは、10μA以上100μA未満程度の電流用としてその抵抗値が例えば10kΩに規定されている。
【0021】
接続回路34は、例えば複数のアナログスイッチを備えて構成され、制御部5から出力される制御信号S3に従い、一対のダイオード32a,32b、または抵抗33a〜33cのうちのいずれか1つをI/V変換部3におけるI/V変換の変換利得決定用の帰還インピーダンスとして、つまりオペアンプ31の負帰還経路に切り換え接続させる。コンデンサ35は、発振防止用のコンデンサであって、オペアンプ31の負帰還経路内に接続回路34と並列に接続されている。
【0022】
A/D変換部4は、I/V変換部3から出力される出力信号S2をアナログ−デジタル(A/D)変換して生成した電圧値データDvを制御部5に出力する。制御部5は、本発明における測定部、制御部および検査部として機能し、信号生成部2、I/V変換部3、記憶部6および表示部8を制御する。具体的には、制御部5は、操作部7の操作によって回路基板100に対する絶縁抵抗検査の開始を指示されたときには、図3に示す絶縁抵抗検査処理50を実行する。この絶縁抵抗検査処理50では、制御部5は、A/D変換部4から出力される電圧値データDvに基づき、一対の導体パターン101間を流れる電流Iを所定周期で測定(算出)すると共に、電流Iの変化率(本発明における「変化の度合い」の一例)Rcを所定周期で算出する。また、制御部5は、算出した変化率Rcが所定の基準値(本発明における所定値)S以下となったときに、電圧値データDvに基づいて帰還インピーダンスとして接続させるべき抵抗33を決定すると共に、接続回路34を制御して、決定した抵抗33をI/V変換部3の帰還インピーダンスとして接続させる。この場合、制御部5は、絶縁抵抗検査として、抵抗33を接続させた後の電圧値データDv、および直流信号S1の電圧値に基づいて一対の導体パターン101間の絶縁抵抗(図2参照:本発明における「電気的パラメータ」の一例)Rsの値を算出すると共に絶縁抵抗Rsの値を示す抵抗値データDrを生成して記憶部6に記憶させる。
【0023】
また、制御部5は、操作部7の操作によって回路基板100に対する短絡検査の開始を指示されたときには、図5に示す短絡検査処理60を実行する。なお、この短絡検査処理60では、上記した絶縁抵抗検査ほど精度が要求されないため、制御部5は、抵抗33に対する切換接続処理を実行することなく、ダイオード32を帰還インピーダンスとして接続したままの状態で絶縁抵抗Rsの値を算出すると共に、算出した値に基づいて短絡検査を実行して検査結果を示す検査データDtを生成して記憶部6に記憶させる。
【0024】
記憶部6は、制御部5の制御に従い、利得データDg、抵抗値データDr、基準抵抗値データDrs、基準値データDsおよび検査データDtを記憶する。ここで、利得データDgは、帰還インピーダンスとしてダイオード32が接続された状態における出力信号S2の示す電圧値とその際の変換利得との対応関係を特定可能なデータで構成され、基準抵抗値データDrsは、一対の導体パターン101間が短絡しているか否かを判別する際の基準となる基準抵抗値(例えば100Ω)を示すデータで構成されている。また、基準値データDsは、浮遊容量Cs(図2参照)の充電が完了したか否かを判別する際の基準となる基準値S(例えば1%)を示すデータで構成されている。操作部7は、使用者によって操作された操作内容に応じた指示信号S4を制御部5に出力する。表示部8は、制御部5の制御に従って各種の測定値等や検査結果を表示する。
【0025】
次に、基板検査装置1を用いた回路基板100に対する絶縁抵抗検査および短絡検査の検査方法について、図面を参照して説明する。
【0026】
絶縁抵抗検査時には、検査対象の回路基板100を基板検査装置1にセットすると共に基板検査装置1を起動させる。次いで、操作部7を操作して、上記した基準値Sを例えば「1%」に設定する。この際に、操作部7が、設定された基準値Sに対応する指示信号S4を出力し、制御部5が、操作部7から出力された指示信号S4に従って基準値データDsを生成して記憶部6に記憶させる。
【0027】
次いで、操作部7を操作して、絶縁抵抗検査の開始を指示する。これに応じて、制御部5は、図3に示す絶縁抵抗検査処理50を開始する。この絶縁抵抗検査処理50では、制御部5は、まず、図外のプローブ駆動部を制御して、図2に示すように、信号生成部2に接続されたプローブ11を所定の導体パターン101(以下、この導体パターン101を「導体パターン101a」ともいう)に接触させると共に、I/V変換部3に接続されたプローブ11を導体パターン101aに隣接する導体パターン101(以下、この導体パターン101を「導体パターン101b」ともいう)に接触させる(ステップ51)。続いて、制御部5は、接続回路34に対して制御信号S3を出力して、一対のダイオード32a,32bを帰還インピーダンスとして接続させる。次いで、制御部5は、信号生成部2に対して制御信号S5を出力して、信号生成部2に接続されたプローブ11に所定電圧(正電圧)の直流信号S1を出力させる。この際に、同図に示すように、導体パターン101a,101b間には絶縁抵抗Rsおよび浮遊容量Csが構成されると共に、導体パターン101a,101b間に直流信号S1の印加に起因する電流Iが流れる。この場合、直流信号S1の印加開始時において浮遊容量Csを充電する大きな電流が流れるため、電流Iは、図4に示すように、直流信号S1の印加直後の時間t1で最も大きくなる。このため、浮遊容量Csおよび絶縁抵抗Rsを流れる大きな電流Iは、I/V変換部3の入力部から出力部に向けて負帰還経路を流れる結果、ダイオード32bには流れず、ダイオード32aを流れる。したがって、ダイオード32aの抵抗値が小さくなって、帰還インピーダンスとして接続されたダイオード32aによる電流Iに対する電流制限が最小限度に抑えられるため、浮遊容量Csが素早く充電される。
【0028】
この際に、I/V変換部3のオペアンプ31が、電流Iをフィードバック方式でI/V変換して、その電流値に電圧値が比例する出力信号S2を生成して出力し、A/D変換部4が、I/V変換部3から出力された出力信号S2をA/D変換して生成した電圧値データDvを出力する。また、制御部5は、A/D変換部4によって出力された電圧値データDv、および記憶部6に記憶されている利得データDgに基づき、その時点における電流Iの値を所定周期(例えば10μs)で算出する。具体的には、制御部5は、まず、記憶部6から利得データDgを読み出して、電圧値データDvの示す電圧値に対応するI/V変換部3の変換利得を特定する。次いで、制御部5は、特定した変換利得と電圧値データDvの示す電圧値とに基づいて電流Iの値を算出する。
【0029】
続いて、制御部5は、図4に示すように、その時点(例えば、同図に示す時間tb)に算出した電流Ibの値について、それよりも所定周期分だけ前の時間taに算出した電流Iaの値を基準とした変化率Rc(=100×(Ia−Ib)/Ia)を算出する(ステップ52)。次いで、制御部5は、基準値データDsを読み出すと共に、算出した変化率Rcが基準値データDsの示す基準値S(この場合1%)以下であるか否かを判別する(ステップ53)。この場合、直流信号S1の印加開始直後は、図4に示すように、電流Iは大きく減少する。この際には、変化率Rcが大きいため、制御部5は、変化率Rcが基準値S以下ではないと判別して、ステップ52における変化率Rcの算出処理を繰り返し実行する。
【0030】
続いて、時間の経過に伴い、浮遊容量Csの充電が進行するため、図4に示すように、電流Iおよび変化率Rcは減少する。また、浮遊容量Csの充電が完了した後には絶縁抵抗Rsをだけに電流が流れるため、電流Iは変化しなくなり、変化率Rcはほぼゼロとなる。例えば、浮遊容量Csの充電が完了した後の時点(例えば、同図に示す時間td)に算出された電流Idの値について、それよりも所定周期分だけ前の時間tcに算出された電流Icの値を基準とした変化率Rc(=100×(Ic−Id)/Ic)は、ほぼゼロとなる。したがって、浮遊容量Csの充電が完了した後の時点では、制御部5は、変化率Rcが基準値S以下であると判別して、その時点における電圧値データDvに基づいて帰還インピーダンスとして接続すべき抵抗33を決定する(ステップ54)。具体的には、制御部5は、その抵抗33が帰還インピーダンスとして接続されたときの変換利得で変換された出力信号S2がA/D変換部4の入力レンジに対して適当な大きさとなるものを抵抗33a〜33cの中から決定する。続いて、制御部5は、接続回路34を制御して、決定した抵抗33をダイオード32に代えて帰還インピーダンスとして接続させる(ステップ55)。この場合、この基板検査装置1では、接続回路34がダイオード32よりも抵抗値の温度依存性の低い抵抗33を帰還インピーダンスとして接続することで、I/V変換部3によって電流Iが高精度でI/V変換される。また、制御部5が電流Iの測定に適した抵抗33を帰還インピーダンスとして自動的に接続させるため、電流Iの測定効率が向上させることが可能となる。
【0031】
次いで、制御部5は、絶縁抵抗検査を実行する(ステップ56)。具体的には、制御部5は、まず、ステップ54で決定した抵抗33が帰還インピーダンスとして接続されたI/V変換部3の変換利得を特定すると共に、特定した変換利得と電圧値データDvの示す電圧値とに基づいて電流Iの値を算出する。続いて、制御部5は、算出した電流Iの値と直流信号S1の電圧値とに基づいて導体パターン101a,101b間の絶縁抵抗Rsの値(絶縁抵抗値)を算出する。次いで、制御部5は、算出した絶縁抵抗値を示す抵抗値データDrを生成して検査結果として記憶部6に記憶させると共に、算出した絶縁抵抗値を表示部8に表示させて、導体パターン101a,101b間に対する絶縁抵抗検査を終了する。
【0032】
次いで、制御部5は、回路基板100における全ての導体パターン101に対する絶縁抵抗検査を終了したか否かを判別する(ステップ57)。この場合、制御部5は、全ての導体パターン101に対する検査を完了していないときには、ステップ51〜56の処理を繰り返し実行し、全ての導体パターン101に対する検査を完了したときには、絶縁抵抗検査処理50を終了する。
【0033】
一方、この基板検査装置1を用いて回路基板100に対する短絡検査を実行するときには、検査対象の基板検査装置1をセットして、基準抵抗値を例えば「100Ω」に設定すると共に、短絡検査の開始を指示する。これに応じて、制御部5は、基準抵抗値データDrsを生成して記憶部6に記憶させると共に、図5に示す短絡検査処理60を開始する。この短絡検査処理60では、制御部5は、まず、絶縁抵抗検査処理50におけるステップ51〜53の処理と同様にして、ステップ61〜63において、一対のプローブ11を一対の導体パターン101a,101bに接触させて、電流Iの値および電流Iの変化率Rcを算出すると共に、算出した変化率Rcが基準値データDsの示す基準値S(この場合1%)以下であるか否かを判別する。この際に、変化率Rcが大きいときには、制御部5は、変化率Rcが基準値S以下ではないと判別して、ステップ62における変化率Rcの算出処理を繰り返し実行する。
【0034】
続いて、浮遊容量Csの充電が完了して電流Iが小さくなったときにはダイオード32の抵抗値が高くなるため、I/V変換部3は、導体パターン101a,101b間を流れる小さな電流Iを測定に適した大きな電圧に変換した出力信号S2を出力する。この際には、変化率Rcがほぼゼロとなるため、制御部5は、変化率Rcが基準値S以下であると判別して、短絡検査を実行する(ステップ64)。具体的には、制御部5は、まず、ステップ56の処理と同様にして、導体パターン101a,101b間の絶縁抵抗Rsの値を算出する。続いて、制御部5は、基準抵抗値データDrsを読み出すと共に、算出した絶縁抵抗Rsの値と基準抵抗値データDrsの示す基準抵抗値とを比較する。この場合、制御部5は、算出した抵抗値が基準抵抗値以上のときには導体パターン101a,101b間の絶縁状態が良好であると判別し、算出した抵抗値が基準抵抗値を下回るときには導体パターン101a,101b間が短絡して絶縁状態が不良であると判別する。次いで、制御部5は、導体パターン101a,101bについての判別結果(絶縁良好または短絡)を示す検査データDtを記憶部6に記憶させると共に、判別結果を表示部8に表示させて、導体パターン101a,101b間に対する短絡検査を終了する。
【0035】
次いで、制御部5は、回路基板100における全ての導体パターン101に対する短絡検査を終了したか否かを判別する(ステップ65)。この場合、制御部5は、全ての導体パターン101に対する検査を完了していないときには、ステップ61〜64の処理を繰り返し実行し、全ての導体パターン101に対する検査を完了したときには、短絡検査処理60を終了する。
【0036】
このように、この基板検査装置1では、I/V変換の変換利得決定用の帰還インピーダンスとしてダイオード32を接続したことにより、電流Iが大きくなったときには、ダイオード32の抵抗値が小さくなる。この場合、絶縁抵抗Rsを測定する際に、直流信号S1の印加開始時において浮遊容量Csを充電する電流が流れることによって電流Iが大きくなったときには、帰還インピーダンスとしてのダイオード32の抵抗値を十分に小さくすることができる。このため、ダイオード32による電流制限を最小限度に抑えることができる結果、その浮遊容量Csの充電を迅速に完了することができる。したがって、この基板検査装置1によれば、レンジ切替制御が不要となるため、その制御に要する時間分だけ絶縁抵抗Rsの測定時間を短縮することができる結果、絶縁抵抗Rsを一層迅速に測定することができる。また、その浮遊容量Csを充電する電流Iは時間の経過と共に減少する。この場合、その浮遊容量Csの充電が完了して電流Iが小さくなったときには、ダイオード32の抵抗値が大きくなるため、I/V変換部3が導体パターン101間を流れる小さな電流Iを測定に適した大きな電圧に変換する結果、導体パターン101間の絶縁抵抗Rsを高精度で測定することができる。したがって、この基板検査装置1によれば、高精度な絶縁抵抗Rsの測定を一層迅速に実行することができる。
【0037】
また、この基板検査装置1では、接続回路34が、その抵抗値が互いに異なる複数の抵抗33a〜33cのいずれか1つをダイオード32に代えて帰還インピーダンスとして切り換え接続する。したがって、この基板検査装置1によれば、接続回路34が絶縁抵抗Rsの測定時にダイオード32よりも抵抗値の温度依存性の低い抵抗33をI/V変換部3の帰還インピーダンスとして接続することで、電流Iを高精度でI/V変換することができるため、絶縁抵抗Rsをより高精度で測定することができる。
【0038】
また、この基板検査装置1では、制御部5が、電流Iの変化率Rcが基準値S以下となったときに電圧値データDvに基づいて帰還インピーダンスとして接続させるべき抵抗33を決定すると共に決定した抵抗33を帰還インピーダンスとして接続させる。したがって、この基板検査装置1によれば、絶縁抵抗Rsの測定に適した抵抗33が帰還インピーダンスとして自動的に接続されるため、絶縁抵抗Rsの測定効率を向上させることができる。
【0039】
また、この基板検査装置1では、制御部5が算出した絶縁抵抗Rsに基づいて導体パターン101a,101b間に対する絶縁抵抗検査および短絡検査を実行する。したがって、この基板検査装置1によれば、制御部5が高精度な絶縁抵抗Rsの測定を一層迅速に実行するため、導体パターン101a,101b間に対する高精度な絶縁抵抗検査および短絡検査を迅速に実行することができる。
【0040】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、絶縁抵抗検査時に抵抗33のいずれかを帰還インピーダンスとして接続する例について上記したが、本発明はこれに限定されない。例えば、制御部5が複数の抵抗33を帰還インピーダンスとして接続させる構成を採用することもできる。また、非線形抵抗素子として一対のダイオード32a,32bを備えるI/V変換部3の構成例について上記したが、本発明はこれに限定されない。例えば、非線形抵抗素子としてダイオード32aのみを備えるI/V変換部を採用することもできる。この構成によれば、ダイオード32bが不要となるため、基板検査装置1を簡易に構成することができる。また、非線形抵抗素子としてのダイオード32a,32bおよび線形抵抗素子としての抵抗33a〜33cを帰還インピーダンスとして切り換え接続可能なI/V変換部3の構成例について説明したが、抵抗33a〜33cを用いることなく、非線形抵抗素子としてのダイオード32a,32bのみを帰還インピーダンスとして接続してI/V変換部3を構成することもできる。
【0041】
さらに、本発明における非線形抵抗素子としてダイオード32を備える構成について上記したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ダイオード32に代えてダイオード接続されたトランジスタを備える構成を採用することもできる。また、本発明における複数の線形抵抗素子として3つの抵抗33を備える構成例について上記したが、2つまたは4つ以上の任意の数の抵抗33を備える構成を採用することもできる。また、電流Iの変化の度合いとして、連続して算出された2つの電流Iの値の差分を一方の電流Iの値で除算して得られた変化率Rcを用いた例について上記したが、より簡易に、連続して算出された2つの電流Iの値の差分、つまり変化量を用いる構成を採用することもできる。
【0042】
また、制御部5が電圧値データDvおよび直流信号S1の電圧値に基づいて本発明における電気的パラメータとしての絶縁抵抗Rsの値を算出する構成について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記の基板検査装置1において、制御部5が電圧値データDvに基づいて本発明における電気的パラメータとしての一対の導体パターン101を流れる電流Iの値を算出する構成を採用することもできる。この構成によれば、I/V変換の変換利得決定用の帰還インピーダンスとしてダイオード32を接続したことにより、上記の基板検査装置1と同様にして、レンジ切替制御が不要となるため、その制御に要する時間分だけ電流Iの測定時間を短縮することができる結果、導体パターン101a,101b間を流れる電流Iを迅速に測定することができる。また、I/V変換部3が導体パターン101a,101b間を流れる小さな電流Iを測定に適した大きな電圧に変換する結果、導体パターン101a,101b間を流れる電流Iを高精度で測定することができる。したがって、この構成によれば、高精度な電流Iの測定を一層迅速に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】基板検査装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】I/V変換部3の構成を示す回路図である。
【図3】絶縁抵抗検査処理50のフローチャートである。
【図4】基板検査装置1による検査時における電流Iの経過時間に対する電流値を示す電流特性図である。
【図5】短絡検査処理60のフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 基板検査装置
3 I/V変換部
5 制御部
32a,32b ダイオード
33a〜33c 抵抗
34 接続回路
100 回路基板
101 導体パターン
Dr 抵抗値データ
Dt 検査データ
I 電流
Rc 変化率
S 基準値
S1 直流信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流信号の印加によって測定対象体における所定部位間を流れる電流をフィードバック方式で電流−電圧変換する変換回路と、当該変換回路によって変換された電圧および前記直流信号の電圧に基づいて前記所定部位間についての電気的パラーメータとして当該所定部位間の抵抗を測定する測定部とを備えた測定装置であって、
前記変換回路は、前記電流−電圧変換の帰還インピーダンスとして非線形抵抗素子が接続されて構成されている測定装置。
【請求項2】
直流信号の印加によって測定対象体における所定部位間を流れる電流をフィードバック方式で電流−電圧変換する変換回路と、当該変換回路によって変換された電圧に基づいて前記所定部位間についての電気的パラーメータとして前記電流を測定する測定部とを備えた測定装置であって、
前記変換回路は、前記電流−電圧変換の帰還インピーダンスとして非線形抵抗素子が接続されて構成されている測定装置。
【請求項3】
前記変換回路は、その抵抗値が互いに異なる複数の線形抵抗素子を備えて構成され、
前記線形抵抗素子のいずれか1つ以上を前記非線形抵抗素子に代えて前記帰還インピーダンスとして切り換え接続する接続回路を備えている請求項1または2記載の測定装置。
【請求項4】
前記電流の変化の度合いが所定値以下となったときに前記変換回路によって変換された電圧の値に基づいて前記帰還インピーダンスとして接続させるべき前記線形抵抗素子を決定すると共に前記接続回路を制御して当該決定した線形抵抗素子を当該帰還インピーダンスとして接続させる制御部を備えている請求項3記載の測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の測定装置と、当該測定装置によって測定された前記電気的パラメータに基づいて前記所定部位間に対する電気的検査を実行する検査部とを備えて構成されている検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−315981(P2007−315981A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147529(P2006−147529)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】