説明

溶接ロボット制御装置及び溶接ロボットの制御方法

【課題】 複数の教示ステップが含まれる作業プログラムによって制御される溶接ロボットの制御装置において、必要十分なプリフロー時間を確保することのできる溶接ロボット制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明の溶接ロボット10の制御装置20は、溶接トーチ16を動作開始位置から溶接開始位置に移動させるための複数の教示ステップを実行して、溶接開始位置に移動後にアークを発生させ溶接を行うものであって、複数の教示ステップの各教示ステップに対応する溶接トーチ16の動作を制御するのに要する時間と、予め設定されたプリフロー制御時間とに基づいて、溶接トーチ16が溶接開始位置に移動する以前のシールドガスの噴出タイミングを算出し、この噴出タイミングでシールドガスを噴出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ワークに対して溶接を行う溶接ロボット制御装置及び溶接ロボットの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに対して溶接を行う際、溶接点の周囲をガスによりシールドして、ガス雰囲気中においてアークを発生させるガスシールド溶接が用いられている。このガスシールド溶接においては、ガスを発生させるタイミングがアークを発生させるタイミングより所定時間(以下、「プリフロー時間」という。)早められた、いわゆるプリフロー制御が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−216567号公報。
【0004】
上記公報の技術は、作業者が溶接開始を指令すると、直ちに溶接を実行する場合についてのものである。より詳細には、最初の溶接スイッチ操作をガス噴出指令とし、2回目の溶接スイッチ操作を溶接指令とすることでプリフロー制御時間を任意に変化可能にするものである。
【0005】
一方、ワークに対して自動で溶接を行う溶接ロボットが広く用いられているが、この溶接ロボットにおいても、ガスシールド溶接が用いられ、良好な溶接を行う目的でプリフロー制御が採用されている。溶接ロボットでは、溶接トーチを溶接位置に移動させてから溶接動作を開始し、所定の範囲を溶接する一連の工程が自動制御される。このため、プリフロー時間の設定も自動制御プログラムの中で予め設定されている。
【0006】
プリフロー制御が採用されたガスシールド溶接の具体的な手順としては、図8に示すように、溶接ロボットの溶接トーチ51を動作開始点Aから溶接開始点Bに到達させた後(図8(a) 参照)、溶接トーチ51を停止させた状態で、予め設定されたプリフロー時間だけシールドガスを放出し(図8(b) 参照)、プリフロー時間経過後に、アークを発生させる(図8(c) 参照)。
【0007】
プリフロー制御におけるプリフロー時間としては、所定の時間(例えば0.1〜0.5秒)が予め設定されている。これは、シールドガスが流体であるために、シールドガスが放出されてからガス流量が一定になるまでにある程度の時間を要するからである。このプリフロー時間が十分でないと、ガスシールド効果が不十分となり、溶接点に溶接不良が生じることがある。また、アークを発生させるために流す電流を周期的に変化させる、いわゆるパルス制御溶接法では、溶接開始時のシールド効果が十分でないと、溶滴移行が不安定になり溶接不良が生じることがある。そのため、溶接開始時のプリフロー時間の確保は、ガスシールド溶接において重要な事項のひとつである。
【0008】
ところで、近年の溶接ロボットを用いた溶接作業は概ね自動化され、サイクルタイム(一つのワークを生産(溶接作業を含む)するのに必要な時間)をできる限り最短化することにより、生産性を向上させるべく努力が図られている。
【0009】
例えば、動作開始点から溶接開始点への溶接トーチの移動は、通常一定の速度で行われるが、最近では、この溶接トーチの移動時間の短縮化が図られている。また、溶接プロセス自体を高速化して、サイクルタイムの改善が進められている。
【0010】
したがって、図8に示したような溶接手順では、プリフロー制御が実行されている間は、溶接トーチは停止したままの状態であって溶接が行われておらず、時間のロスになるため、以下のような方法も提案されている。すなわち、図9に示すように、溶接トーチ51が溶接開始点Bに到達する前の移動中において、所定のタイミングで予めシールドガスを放出する(図9(a) 参照)。そして、溶接トーチ51が溶接開始点Bに到達した後、即座にアークを発生させる(図9(b) 参照)。このように、溶接トーチ51の移動中にプリフロー制御を行うようにすれば、溶接トーチ51の移動時間を利用して予めシールドガスを放出することができ、すなわち、プリフロー時間を確保することができ、サイクルタイムの改善を図ることができる。
【0011】
上記溶接作業に用いられる溶接ロボットは、予め決められた作業プログラムによって動作し、その作業プログラムには、複数の教示ステップが含まれている。教示ステップは、溶接ロボットの一連の移動や動作等をある所定の単位動作ごとに区切って表したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、溶接ロボットによって溶接が行われる場合、溶接トーチは、動作開始点から溶接開始点まで移動されるのであるが、この移動動作も教示ステップに含まれる。しかしながら、動作開始点から溶接開始点に到達するまでに複数の教示ステップが定められており、溶接開始直前に実行される教示ステップの動作所要時間が比較的短い場合、すなわち、プリフロー時間の方が当該教示ステップの動作所要時間より長い場合には、十分なプリフロー時間を確保することができず、溶接不良を生じさせる原因となっていた。
【0013】
本願発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、複数の教示ステップが含まれる作業プログラムによって制御される溶接ロボットの制御装置において、必要十分なプリフロー時間を確保することのできる溶接ロボット制御装置を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0015】
本願発明の第1の側面によって提供される溶接ロボット制御装置は、溶接トーチを動作開始位置から溶接開始位置に移動させるための複数の教示ステップを実行して、前記溶接開始位置に移動後にアークを発生させ溶接を行う溶接ロボットの制御装置であって、前記複数の教示ステップの各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間と、予め設定されたプリフロー制御時間とに基づいて、前記溶接トーチが溶接開始位置に移動する以前のシールドガスの噴出タイミングを算出し、前記噴出タイミングで前記シールドガスを噴出させることを特徴としている(請求項1)。なお、上記「動作開始位置」としては、ワークの一連の溶接作業においてアークを発生させない区間があり、その後再びアークを発生させる区間がある場合、アークを発生させない区間においてプリフロー制御を行うとき、アークを発生させない区間の先頭位置をも含むものとする。
【0016】
この構成によれば、複数の教示ステップの各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間と、予め設定されたプリフロー制御時間とに基づいて、溶接トーチが溶接開始位置に移動する以前のシールドガスの噴出タイミングを算出し、この噴出タイミングでシールドガスを噴出させるので、複数の教示ステップにわたってプリフロー制御を行うことができ、必要十分なプリフロー時間を確保することができる。したがって、良好な溶接を行うことができる溶接ロボットの制御方法を提供することができる。
【0017】
好ましい実施の形態によれば、前記各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間を積算し、その積算された時間と前記予め設定されたプリフロー制御時間とを比較することにより、前記溶接トーチがシールドガスを噴出すべき教示ステップを抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された教示ステップにおいて前記溶接トーチのシールドガスの噴出タイミングを算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された噴出タイミングにおいて前記溶接トーチのシールドガスを噴出させる噴出手段と、を備えるとよい(請求項2)。
【0018】
本願発明の第2の側面によって提供される溶接ロボットの制御方法は、溶接トーチを動作開始位置から溶接開始位置に移動させるための複数の教示ステップを実行して、前記溶接開始位置に移動後にアークを発生させ溶接を行う溶接ロボットの制御方法であって、前記複数の教示ステップの各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間と、予め設定されたプリフロー制御時間とに基づいて、前記溶接トーチが溶接開始位置に移動する以前のシールドガスの噴出タイミングを算出し、前記噴出タイミングで前記シールドガスを噴出させる工程を含むことを特徴としている(請求項3)。
【0019】
好ましい実施の形態によれば、前記各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間を積算し、その積算された時間と前記予め設定されたプリフロー制御時間とを比較することにより、前記溶接トーチがシールドガスを噴出すべき教示ステップを抽出する工程と、前記抽出された教示ステップにおいて前記溶接トーチのシールドガスの噴出タイミングを算出する工程と、算出された噴出タイミングにおいて前記溶接トーチのシールドガスを噴出させる工程と、を含むとよい(請求項4)。
【0020】
本願発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0022】
図1は、本願発明に係る溶接ロボットの制御装置を含む制御システムを示す構成図である。この制御システムは、溶接ロボットに設けられた溶接トーチによりワークに対して溶接を行うものであり、特にこの制御システムでは、溶接トーチが動作開始点から溶接開始点に到達するまでに予めシールドガスを溶接トーチの周囲に発生させる、いわゆるプリフロー制御が行われる。
【0023】
制御システムは、溶接ロボット10と、ロボット制御装置20と、溶接電源装置30と、ガスボンベ40とによって大略構成されている。
【0024】
溶接ロボット10は、ワークWに対して例えばアーク溶接を自動で行うものである。溶接ロボット10は、フロア等の適当な箇所に固定されるベース部材11と、それに複数の軸を介して連結された複数のアーム12と、リンク部材13と、複数のモータ14(一部図示略)と、ワイヤ送給装置15とによって概略構成されている。溶接ロボット10は、最も先端側に設けられたアーム12の先端部に、溶接トーチ16を備えている。
【0025】
溶接ロボット10は、ロボット制御装置20によって駆動制御され、モータ14等が回転駆動されることにより、溶接トーチ16は、左右前後に移動自在とされている。
【0026】
溶接トーチ16は、溶加材としての例えば直径1mm程度のワイヤ17を内装し、ワイヤ送給装置15によって送り出されたワイヤ17の先端とワークWとの間にアークを発生させてその熱でワイヤ17を溶着させることにより、ワークWに対して溶接を施すものである。
【0027】
溶接トーチ16の内部には、例えば図2に示すように、不活性ガス、あるいは炭酸ガス等のシールドガスを放出するための放出路18が形成されている。このシールドガスは、ガスボンベ40から供給され、ガス電磁弁41(後述)を介して放出路18を通じて放出されることにより、上述したプリフロー制御に用いられる。
【0028】
モータ14は、複数のアーム12の両端又は片端に設けられ、ロボット制御装置20からの駆動命令により回転駆動し、複数のアーム12及び溶接トーチ16を移動させる。モータ14には、図示しないエンコーダが設けられている。エンコーダの出力は、ロボット制御装置20に与えられ、ロボット制御装置20では、エンコーダの出力によって溶接トーチ16の現在位置を認識する。
【0029】
ワイヤ送給装置15は、所定のタイミングで溶接トーチ16に対してワイヤ17を送り出すための装置である。
【0030】
ロボット制御装置20は、溶接ロボット10の動作を制御するためのものである。ロボット制御装置20は、予め記憶されている作業プログラム及び図示しないエンコーダからの座標情報等に基づいて、溶接ロボット10のモータ14を駆動制御して、溶接トーチ16を動作開始点からワークWの溶接点、その溶接点から他の溶接点、あるいは溶接点から退避位置に移動させる。
【0031】
溶接電源装置30は、図示しない溶接電源を備えており、この溶接電源によって溶接トーチ16とワークW(母材)との間に高電圧が供給される。溶接電源装置30には、ガス電磁弁41が接続されており、ガス電磁弁41は、溶接電源装置30による開閉制御され、ガスボンベ40から供給されるシールドガスを溶接点に放出するのを許可又は禁止する。
【0032】
図3は、ロボット制御装置20の内部構成を示すブロック図である。ロボット制御装置20は、マイクロコンピュータ及びメモリ等によって構成されており、より詳細には、作業プログラム解析部21、メモリ部22、軌道計画部23、軌道スタック24、サーボ制御部25、サーボ駆動部26、現在位置監視部27、及び溶接制御部28によって構成されている。
【0033】
メモリ部22には、溶接ロボット10の動作が定められた作業プログラムが格納されている。この作業プログラムは、溶接ロボットの一連の移動や動作等をある所定の単位動作ごとに区切って表した複数の教示ステップから構成されている。例えば、教示ステップには、溶接ロボット10の溶接トーチをあるポジションから別のポジションに移動させる命令によって構成される。また、教示ステップには、そのような移動命令とともに、溶接を開始させる溶接開始命令やプリフロー制御を開始するプリフロー開始命令が含まれている。
【0034】
作業プログラム解析部21は、メモリ部22に格納されている作業プログラムを教示ステップごとに読み出し、その内容を解析するものである。例えば、作業プログラム解析部21は、作業プログラム中に含まれている軌道命令(座標、速度情報等のデータからなる)を読み出し、それを軌道計画部23に通知する。
【0035】
軌道計画部23は、作業プログラム解析部21から送られる各種の動作命令を軌道スタック24に格納するものである。また、軌道計画部23は、軌道スタック24に格納された動作命令を読み出し、それに基づいて溶接トーチ16の軌道計画を立案して、モータ14の回転角や回転速度等の情報をサーボ制御部25に対して通知する。さらに、軌道計画部23は、後述するように、プリフロー制御を開始する教示ステップを求めるとともに、教示ステップの動作所要時間を参照してプリフロー制御を開始するタイミングを求める。
【0036】
なお、軌道計画部23には、記憶領域としてテンポラリエリア23aが設けられており、このテンポラリエリア23aには、プリフロー時間の値が必要に応じて記憶される。
【0037】
軌道スタック24は、いわゆる先入れ先出し(FIFO:first-in first-out)用のメモリからなり、軌道計画部23から送られた軌道命令を格納するものである。
【0038】
サーボ制御部25は、軌道計画部23から送られる軌道計画に基づいて、モータ14を回転駆動すべく駆動信号をサーボ駆動部26に送るものである。また、サーボ制御部25は、図示しないエンコーダからの出力を取得して、現在位置監視部27にその情報を送るものである。
【0039】
サーボ駆動部26は、サーボ制御部25からの指令に基づいて各モータ14に対して駆動指令を出力するものである。
【0040】
現在位置監視部27は、モータ14に設けられた図示しないエンコーダからの検出信号により、溶接トーチ16の現在位置を監視するものである。
【0041】
溶接制御部28は、現在位置監視部27からの各種命令に基づいて溶接電源装置30によって溶接トーチ16による溶接及びシールドガスの放出を行わせるものである。具体的には、溶接制御部28は、現在位置監視部27からのプリフロー開始命令に基づいて溶接電源装置30に対してシールドガスを放出させるための制御信号を出力する。溶接電源装置30は、この制御信号に基づいてガス電磁弁41の開閉制御を行う。また、溶接制御部28は、現在位置監視部27からの溶接開始命令に基づいて溶接電源装置30によって溶接が行われるための制御信号を出力する。
【0042】
サーボ駆動部26は、サーボ制御部25からの駆動信号に基づいて各種モータ14に対して駆動信号を送るものである。
【0043】
次に、本実施形態の作用について、図4及び図5に示すフローチャート並びに図6に示す教示ステップとプリフロー制御との時間的関係を示す図を参照して説明する。
【0044】
まず、自動運転が開始されると、作業プログラム解析部21は、メモリ部22に格納されている作業プログラムを読み出し、作業プログラムを教示ステップごとに解析する(S1)。次いで、作業プログラム解析部21は、教示ステップ中に含まれる軌道命令を軌道計画部23に通知する(S2)。この軌道命令には、溶接トーチ16の移動すべき位置座標や移動速度等の情報が含まれている。
【0045】
軌道計画部23は、作業プログラム解析部21から軌道命令が送られると、その軌道命令を教示ステップごとに軌道スタック24に格納する(S3)。そして、軌道計画部23は、この軌道命令に基づいて軌道計画を立案する(S4)。すなわち、溶接トーチ16の移動すべき位置座標や移動速度等の情報に基づいて、溶接トーチ16の移動する軌道における、各モータ14の回転速度、回転の開始タイミング及び回転の停止タイミング等を決定する。そして、軌道計画部23は、この立案された軌道計画をサーボ制御部25に通知する(S5)。
【0046】
サーボ制御部25では、軌道計画部23によって通知された軌道計画に基づいて、各モータ14の回転制御を行う。すなわち、サーボ駆動部26に対して、モータ14の角度、回転速度等の制御信号を伝達する。サーボ駆動部26は、サーボ制御部25からのこれらの制御信号により、各モータ14を回転駆動させる。
【0047】
一方、作業プログラム解析部21は、読み出した教示ステップに溶接開始命令が含まれているか否かを判別する(S6)。作業プログラム解析部21によって教示ステップに溶接開始命令が含まれていないと判別される場合(S6:NO)、ステップS1に戻り、次の教示ステップを解析する。
【0048】
また、作業プログラム解析部21は、ステップS6において、教示ステップ中に溶接開始命令が含まれていると判別した場合(S6:YES)、軌道計画部23にプリフロー開始時間算出要求コマンドと、溶接開始要求コマンドとを通知する(S7)。
【0049】
今、ここで、図6に示すように、作業プログラムには、動作開始点からワークWの溶接点に移動するまでに、3つの教示ステップ(第1ないし第3教示ステップA1,A2,A3)が含まれているとすると、これら第1ないし第3教示ステップA1,A2,A3における軌道命令がそれぞれ軌道スタック24に格納される。図6に示す例では、3つ目の第3教示ステップA3に溶接開始命令が含まれている。以下、図6に示す例に基づいて説明する。
【0050】
軌道計画部23は、プリフロー開始時間算出要求コマンドが作業プログラム解析部21から送られると、プリフロー制御を開始させる教示ステップを認識する処理と、プリフロー制御の開始時間を算出する処理とを行う(S8)。
【0051】
まず、軌道計画部23は、プリフロー時間Tの値をテンポラリエリア23aに格納する(S9)。プリフロー時間T(図6参照)は、シールドガスによるシールド効果を確保するための必要十分な時間であり、予め定められてメモリ部22に記憶されている。
【0052】
軌道計画部23は、軌道スタック24に最も直前に格納された教示ステップの軌道命令を参照する。図6に示す例によれば、第1ないし第3教示ステップA1,A2,A3のうち、最も直前に軌道スタック24に格納された第3教示ステップA3の軌道命令を参照する。
【0053】
次いで、軌道計画部23は、第3教示ステップA3の軌道命令における移動所要時間T3を算出する(S10)。軌道計画部23は、算出した移動所要時間T3と予め定めるプリフロー時間Tとを比較し、算出した移動所要時間T3がプリフロー時間Tより小さいか否かの判別処理を行う(S11)。
【0054】
ステップS11において、算出した移動所要時間T3がプリフロー時間Tより小さいと判別した場合(S11:YES)、軌道計画部23は、プリフロー時間Tから算出した移動所要時間T3を差し引いた残り時間(T−T3)を算出する(S12)。そして、軌道計画部23は、それを新たにプリフロー時間としてテンポラリエリア23aに格納するとともに、軌道スタック24に第3教示ステップA3より一つ前に格納された第2教示ステップA2の軌道命令を参照する(S13)。
【0055】
そして、ステップS10に戻り、再び、その第2教示ステップA2における所要移動時間T2を算出し、その所要移動時間T2と新たに置き換えたプリフロー時間(T−T3)とを比較する(S11)。
【0056】
ステップS11において、算出された移動所要時間T2が新たなプリフロー時間(T−T3)より大きいと判別した場合(S11:NO)、軌道計画部23は、移動所要時間T2を算出した第2教示ステップA2の参照番号と、テンポラリエリア23aに格納されているプリフロー時間(T−T3)とをプリフロー開始時間算出要求コマンドとして、現在位置監視部27に通知する(S14)。このことは、プリフロー制御を開始する教示ステップが第2教示ステップA2であることを示している。
【0057】
また、軌道計画部23は、溶接開始命令を含んでいた第3教示ステップA3の参照番号を溶接開始要求コマンドとして現在位置監視部27に通知する(S15)。
【0058】
なお、このロボット制御装置20では、上記したような教示ステップの所要時間やプリフロー時間に基づいてプリフロー制御を開始する教示ステップを求める処理と、実際に溶接トーチ16が教示データに基づいて動作制御される処理とは、ある時間差が生じるように制御される。溶接トーチ16の教示データに基づく動作制御がリアルタイムあるいはそれに近い速度で処理されると、プリフロー制御を開始する教示ステップを求める処理が算出することができなくなるからである。
【0059】
現在位置監視部27は、各モータ14に設けられている図示しないエンコーダによって溶接トーチ16の現在位置がどの教示ステップにおける位置にあるかを監視する(図5のS16)。そして、現在位置監視部27は、現在進行中の教示ステップにプリフロー開始トリガ要求コマンドが含まれ、かつ、図6に示すように、現在点aにおける溶接トーチ16において次の第3教示ステップA3に到達するまでの到達時間Taが新たに置換されたプリフロー時間(T−T3)より小さいか否かを判別する(S17)。
【0060】
次の第3教示ステップA3に到達するまでの到達時間Taが新たに置換されたプリフロー時間(T−T3)より小さくなった場合(S17:YES)、現在位置監視部27は、プリフロー制御の開始を溶接制御部28に通知する(S18)。これにより、溶接制御部28では、ガス電磁弁41が開かれ、シールドガスが放出され、プリフロー制御が開始される。
【0061】
次いで、現在位置監視部27は、現在進行中の教示ステップに溶接開始トリガ要求コマンドが含まれ、かつ溶接トーチ16が溶接点に到達したか否かを判別する(S19)。現在進行中の教示ステップに溶接開始トリガ要求コマンドが含まれ、かつ溶接トーチ16が溶接点に到達した場合(S19:YES)、現在位置監視部27は、溶接の開始を溶接制御部28に通知する。これにより、溶接制御部28は、溶接電源装置30にその旨を通知する(S20)。溶接電源装置30は、ワイヤ送給装置15にワイヤ17を送り出す旨の指示を出力し、これにより、ワイヤ送給装置15からワイヤ17が送給される。また、溶接電源装置30によって溶接トーチ16とワークWとの間に所定の電圧が印加されることにより、アークが発生し、溶接が開始される。
【0062】
このように、複数の教示ステップの中からプリフロー制御を開始する教示ステップを求めることにより、プリフロー制御を複数の教示ステップにわたって実行することができる。そのため、溶接開始直前に実行される教示ステップの動作所要時間が比較的短い場合でも、当該教示ステップの前に実行される他の教示ステップからプリフロー制御を開始することができる。したがって、シールド効果を奏するための必要十分なプリフロー時間を確保することができ、良好な溶接を行うことができる。
【0063】
上記では、プリフロー時間Tが、第3教示ステップA3における所要移動時間T3と、第2教示ステップA2における所要移動時間T2とを積算した時間(T2+T3)より短い場合を説明したが、例えば、図7に示すように、プリフロー時間Tが、上記した積算した時間(T2+T3)より長い場合もある。このような場合には、第3教示ステップA3における所要移動時間T3と、第2教示ステップA2における所要移動時間T2とを積算した時間(T2+T3)と、プリフロー時間とが比較され、溶接トーチ16がシールドガスを噴出すべき教示ステップを抽出してもよい。
【0064】
より具体的には、図4に示すフローチャートのステップS13において、第3教示ステップA3より一つ前に格納された第2教示ステップA2の軌道命令を参照する。次いで、ステップS10に戻り、再び、その第2教示ステップA2における所要移動時間T2を算出し、その所要移動時間T2と新たに置き換えたプリフロー時間(T−T3)とを比較する。
【0065】
ここで、プリフロー時間Tが、第2教示ステップA2及び第3教示ステップA3における所要移動時間(T2+T3)より長い場合には、算出された移動所要時間T2が新たなプリフロー時間(T−T3)より小さいと判別されるので、このようなときには、第3教示ステップA3における所要移動時間T3と、第2教示ステップA2における所要移動時間T2とを積算する。そして、プリフロー時間Tから積算された所要移動時間(T2+T3)を差し引き、残り時間(T−(T2+T3))を算出する。
【0066】
その後、この残り時間(T−(T2+T3))を新たなプリフロー時間Tとし、第2教示ステップA2より一つ前に格納された第1教示ステップA1における所要移動時間T1と、新たなプリフロー時間Tとを比較する。この比較結果において、算出された移動所要時間T1が新たなプリフロー時間(T−(T2+T3))より大きいと判別した場合、図4に示すフローチャートのステップS14に示したように、移動所要時間T1を算出した第2教示ステップA1の参照番号と、プリフロー時間(T−(T2+T3))とをプリフロー開始時間算出要求コマンドとして、現在位置監視部27に通知する。
【0067】
このように、プリフロー時間Tが複数の教示ステップの所要移動時間の積算値より大きい場合には、それを考慮して、溶接トーチ16がシールドガスを噴出すべき教示ステップを抽出するようにすればよい。なお、以上の説明では、教示ステップは、3つの場合を示したが、教示ステップの数はこれに限定されるものではない。また、プリフロー時間Tは、3つ以上の複数ステップにおける所要移動時間の積算値と比較されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本願発明に係る溶接ロボットの制御装置を含む制御システムを示す構成図である。
【図2】溶接トーチの要部断面図である。
【図3】ロボット制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【図4】本願発明の作用を説明するためのフローチャートである。
【図5】本願発明の作用を説明するためのフローチャートである。
【図6】教示ステップとプリフロー制御との時間的関係を示す図である。
【図7】教示ステップとプリフロー制御との他の時間的関係を示す図である。
【図8】従来のプリフロー制御を説明するための図である。
【図9】従来の他のプリフロー制御を説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
10 溶接ロボット
16 溶接トーチ
17 ワイヤ
20 ロボット制御装置
21 作業プログラム解析部
22 メモリ部
23 軌道計画部
24 軌道スタック
25 サーボ制御部
27 現在位置監視部
28 溶接制御部
30 溶接電源装置
41 ガス電磁弁
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを動作開始位置から溶接開始位置に移動させるための複数の教示ステップを実行して、前記溶接開始位置に移動後にアークを発生させ溶接を行う溶接ロボットの制御装置であって、
前記複数の教示ステップの各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間と、予め設定されたプリフロー制御時間とに基づいて、前記溶接トーチが溶接開始位置に移動する以前のシールドガスの噴出タイミングを算出し、前記噴出タイミングで前記シールドガスを噴出させることを特徴とする、溶接ロボット制御装置。
【請求項2】
前記各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間を積算し、その積算された時間と前記予め設定されたプリフロー制御時間とを比較することにより、前記溶接トーチがシールドガスを噴出すべき教示ステップを抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された教示ステップにおいて前記溶接トーチのシールドガスの噴出タイミングを算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された噴出タイミングにおいて前記溶接トーチのシールドガスを噴出させる噴出手段と、を備える、請求項1に記載の溶接ロボット制御装置。
【請求項3】
溶接トーチを動作開始位置から溶接開始位置に移動させるための複数の教示ステップを実行して、前記溶接開始位置に移動後にアークを発生させ溶接を行う溶接ロボットの制御方法であって、
前記複数の教示ステップの各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間と、予め設定されたプリフロー制御時間とに基づいて、前記溶接トーチが溶接開始位置に移動する以前のシールドガスの噴出タイミングを算出し、前記噴出タイミングで前記シールドガスを噴出させる工程を含むことを特徴とする、溶接ロボットの制御方法。
【請求項4】
前記各教示ステップに対応する溶接トーチの動作を制御するのに要する時間を積算し、その積算された時間と前記予め設定されたプリフロー制御時間とを比較することにより、前記溶接トーチがシールドガスを噴出すべき教示ステップを選出する工程と、
前記選出された教示ステップにおいて前記溶接トーチのシールドガスの噴出タイミングを算出する工程と、
算出された噴出タイミングにおいて前記溶接トーチのシールドガスを噴出させる工程と、を含む、請求項3に記載の溶接ロボットの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−21241(P2006−21241A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203477(P2004−203477)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】