説明

溶接機用電源装置における高周波スタータ構造体

【課題】コイルと制御発振回路の間の熱伝導を抑えることと電気絶縁とを両立させて、コンパクトに構成し、アーク溶接機における高周波スタータ構造体を製作容易な構成で安価に提供する。
【解決手段】
第1の窪みと第2の窪みを有するケースに、高周波コイルと制御発振回路ユニットを個別に、各窪みに埋め込んで、モールド樹脂で充填し、発熱部である高周波コイルと制御発振回路ユニットとの最短間にケース下部から楔型に形成した空気断熱層を具備した高周波スタータ構造体とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,溶接機用等の電源装置における高周波スタータ構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波電力を溶接電流に重畳させてアーク溶接をスタートさせる溶接機用電源装置においては,高周波電力生成手段を高周波スタータ構造体と呼んでいて、溶接機用電源装置にコンパクトに収容でき電気的に安全な部品として、例えば図2に示すような構造体にしている。
【0003】
【特許文献1】「特開2002−285217号」公報「高電圧電源装置の火花間隙装置」の段落(0014)に次の記述がある。「高周波高電圧電源をプリント配線基板のような回路基板に組み立てた状態を示した」、「感電を防止する為に基板の上面に全電子部品を覆って絶縁物がモールドされている」と記載されていて、この電源を用いた火花放電装置とその関連技術が開示されている。従来のこの種の高周波スタータ構造体について図2によって説明する。ケース1に高周波コイル2と制御発振回路ユニット3とが充填材4で埋め込まれていて、接続端子5が挿入され半田付けされる印刷配線板6に対して固定される。ケース1は樹脂成型品であり、高周波コイル2は、例えば直径3ミリの銅線をターン数6〜15ターンされていて外形の全長60〜100ミリ、直径20〜30ミリに形成されて両端を接続端子5として半田付けし易い端子形状に加工している。制御発振回路ユニット3は小型配線板にトランジスタなどの電子部品が装着されて形成されている。充填材4は例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂など電気絶縁性の合成物である。
【0004】
前記電気絶縁性の合成物である充填材4は熱伝導性が0.2×kcal/mh℃程度のものが多い。長時間通電していると高周波コイル2の熱が制御発振回路ユニット3に伝わって行く。制御発振回路ユニット3は温度の変化による周波数の変化を抑えたいので、高周波コイルの発熱によって温度が上昇するのを避けることが要求される。一方、この高周波生成構造体は出来るだけコンパクトに形成されることが求められていて、高周波コイル2と制御発振回路ユニット3との間隔Lを長い寸法にしないで解決したい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高周波コイルと制御発振回路の間隔Lを短い寸法で熱伝導を抑えることが要求されている。この構造体の充填材の熱伝導を抑えることである。しかも、電気絶縁と両立させることが必要でコンパクトに構成することである。製作コストを抑えて安価に提供できるようにする事もこの発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
間隔Lを短い寸法で熱伝導を抑えることが要求されている。合成樹脂と空気の熱伝導率の違いに着目した。例えばフェノール樹脂は空気の熱伝導率の10倍である。エポキシ樹脂は空気の20倍の熱伝導率を有する(機械工学便覧;日本機械学会、および、プラスチックハンドブック;朝倉書店による)ので、間隔寸法を空気にすれば10分の1、20分の1に短縮できることに着目した。
【0007】
製作コストを抑えて提供することがもう一つの課題であるから、コイルと制御発振回路ユニットとを独立したケースにモールド樹脂で充填することと、製作工数の増加を避けて解決することを両立させる、この2つの命題に対する解としては、構造体を、「ケースの中間部位に空気断熱層を形成させること、を特徴とする構造体」にすることである。
【0008】
請求項1に関しては、
第1の窪みと第2の窪みを有するケースに、高周波コイルと制御発振回路ユニットを個別に、各窪みに埋め込んで、各窪みに対してモールド樹脂で充填し、発熱部である高周波コイルと制御発振回路ユニットとの最短距離間に空気断熱層を形成したことを特徴とする高周波スタータ構造体とした。
請求項2に関しては、
第1の窪みと第2の窪みを有する一つのケースに、高周波コイルと制御発振回路ユニットを個別に各窪みに埋め込んでモールド樹脂で充填し、印刷配線板で高周波コイルと制御発振回路ユニットとを電気接続して、高周波コイルと制御発振回路ユニット発熱部である高周波コイルと制御発振回路ユニットとの間に空気断熱層を楔型に形成したことを特徴とする高周波スタータ構造体とした。
請求項3に関しては、
第1の窪みと第2の窪みを有するケースに、高周波コイルと制御発振回路ユニットを個別に、各窪みに埋め込んで、充填最上部位は連結した形状にモールド樹脂で充填し、発熱部である高周波コイルと制御発振回路ユニットとの間に空気断熱層を楔型に形成したことを特徴とする高周波スタータ構造体とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高周波スタータ構造体は熱伝導の為に絶縁材の厚み方向に寸法を大きくするのを避けて、外形をコンパクトにまとめることができる。充填最上部位は連結した形状に、モールド樹脂で充填したことによって充填作業工程が短縮され、性能は劣らない効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の実施の形態を示す構造図である。この図に従って説明する。ケース1は第1の窪み8と第2の窪み9とを空気断熱層7を挟む形状にエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの電気絶縁物で形成されている。例えば第1の窪み8には制御発振回路ユニット3を、第2の窪み9には高周波コイル2を、シリコーン樹脂などの充填材4で埋め込まれている。充填される電気部位の接続端子5が溶接電源装置の制御部などを形成する印刷配線板6に開けられた孔に挿入されて半田付けされ装着される。充填材4は第1の窪み8と第2の窪み9に対して流し込まれて楔型の空気断熱層で区切られた二つの窪みを満たして、更に最上部位まで満たして最上部位で繋がってしまうまで満たした方が、途中で止めるよりも作業工程が単純化されて能率があがるが、どちらの場合も性能は同等である。
【0011】
前記二つの窪みの充填材上面に水平面の差が生じたときは、充填不足が生じないように充填量管理をすることが、1つのケースに対して2回必要になってくる。
【0012】
前記二つの窪みの中、一方の窪み8の上方に充填機のノズルを配置して充電する工程の終末段階に、もう一つの窪み9に充填材がオーバーフローして充填を進行して行く。窪み9の充填終末期に、窪み8の充填上面と同等になって二つの窪みの充填最上部位が繋がったときを、充填ストップの時点として工程管理するならば、どちらの窪みにも充填不足が生じないので有効である。
【0013】
このように,ケース1の形状を窪み二つ連結した容器構造にした為,各窪み毎に独立した二つのケースで一セットにする場合より、ケース成型加工の工数が全体として短縮され、また在庫管理にも部品点数が削減されたので、管理工数が削減できる効果がある。溶接電源装置の制御部などを形成する印刷配線板6に組み付ける場合にも二つのケース構造にする場合より、コンパクトにまとめることができた。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明による高周波スタータ構造体を溶接用電源装置に組み込むときは、狭い電源装置筐体の空間にも収容できて全体としてコンパクトな溶接用電源となるから、溶接現場での扱いが容易になる。工数の削減で、製作コストの削減にも寄与でき安価に提供できるので工業価値が高く、省資源にも貢献できた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による実施の形態を示す構造図。
【図2】従来の高周波スタータ構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0016】
1 ケース
2 高周波コイル
3 制御発振回路ユニット
4 充填材
5 接続端子
6 印刷配線板
7 空気断熱層
8 第1の窪み
9 第2の窪み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の窪みと第2の窪みを有するケースに、高周波コイルと制御発振回路ユニットを個別に、各窪みに埋め込んで、各窪みに対してモールド樹脂で充填し、発熱部である高周波コイルと制御発振回路ユニットとの最短距離間に空気断熱層を形成したことを特徴とする溶接機用電源装置における高周波スタータ構造体。
【請求項2】
第1の窪みと第2の窪みを有する一つのケースに、高周波コイルと制御発振回路ユニットを個別に各窪みに埋め込んでモールド樹脂で充填し、印刷配線板で、高周波コイルと制御発振回路ユニットとを電気接続して、高周波コイルと制御発振回路ユニット発熱部である高周波コイルと制御発振回路ユニットとの間に空気断熱層を楔型に形成したことを特徴とする溶接機用電源装置における高周波スタータ構造体。
【請求項3】
第1の窪みと第2の窪みを有するケースに、高周波コイルと制御発振回路ユニットを個別に、各窪みに埋め込んで、充填最上部位は連結した形状にモールド樹脂で充填し、発熱部である高周波コイルと制御発振回路ユニットとの間に空気断熱層を楔型に形成したことを特徴とする溶接機用電源装置における高周波スタータ構造体。

【図1】
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【図2】
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