説明

潜在捲縮性複合繊維とその製造方法、および繊維集合物、ならびに不織布

メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、第1成分の融点Tよりも高い融点Tを有する熱可塑性重合体から成る第2成分とを用いて、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出し、且つJIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じて、温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)で測定される単繊維乾熱収縮率が50%以上となり、同じ条件で初荷重を0.450mN/dtex(50mg/dtex)にして測定される単繊維乾熱収縮率が15%以上となるような潜在捲縮性複合繊維を構成する。この潜在捲縮性複合繊維は、低い温度で捲縮を発現し、かつ熱接着性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱加工時における収縮性および捲縮発現性に優れ、かつ良好な熱接着性を有する潜在捲縮性複合繊維に関する。また、本発明は、当該潜在捲縮性複合繊維を用いた収縮性または伸縮性に優れた繊維集合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、伸縮性を有する不織布を製造するのに用いられる潜在捲縮性複合繊維が種々提案されている。例えば、特開平2−191720号公報(特許文献1)では、Q値が5未満、メルトフローレートが15〜200g/10minのポリプロピレンを第1成分とし、融点が133〜145℃のエチレン−プロピレンを第2成分とし、並列型、または第1成分を芯に第2成分を鞘にした偏心芯鞘型に配置した複合繊維が提案されている。特開平2−53916号公報(特許文献2)では、密度0.958g/cm以上の高密度ポリエチレンを第1成分とし、ポリブチレンテレフタレートを第2成分とし、並列型、または第1成分を鞘に第2成分を芯にした偏心芯鞘型に配置した複合繊維が提案されている。特開2001−40531号公報(特許文献3)では、特定の融点を有するプロピレン共重合体を第1成分とし、ポリエチレンを第2成分とし、第2成分を鞘側に配置した偏心鞘芯型複合繊維が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平2−191720号公報
【特許文献2】特開平2−53916号公報
【特許文献3】特開2001−40531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の潜在捲縮性複合繊維は、実用上なお改善の余地を有するものである。例えば、特許文献2で提案された複合繊維は、2つの成分の中心が一致しない断面形態の不均衡を利用して捲縮を発現させようとするものであり、十分な捲縮発現性を有していない。そのため、これを含む繊維ウェブは、十分に収縮しない。特許文献1および特許文献3で提案された複合繊維は、高い捲縮発現性を有するものの、低い温度での捲縮発現性が低く、十分に捲縮を発現させたい場合には、高い温度で繊維ウェブを加工する必要があった。あるいは、従来の潜在捲縮性複合繊維は、低温度で高い捲縮発現性を示すものの、繊維が完全に捲縮した状態(即ち、それ以上捲縮が進行しない状態)に至らないことがある。そのような複合繊維は、不織布を作製するときのカード通過性等の工程性が悪いという不都合を有する。
【0005】
このように、これまでに提案されてきた潜在捲縮性複合繊維は、低温加工性の点でさらに改良を要するものであった。本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、高い潜在捲縮性を有し、かつ低温度で短時間の加工により捲縮を完全に発現し、さらに不織布を作製するときのカード通過性等の工程性に優れた潜在捲縮性複合繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、繊維の収縮発現に寄与する成分、即ち加熱されたときに専ら収縮する成分をエチレン・α−オレフィン共重合体とし、これが繊維表面の一部または全部を占める複合繊維を構成することにより、上記課題を解決できると考えた。その結果、下記の条件を満たす複合繊維が、低温度での捲縮発現性が良好であって、且つ熱接着性繊維としても使用可能であることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、第1成分の紡糸後の融点Tfよりも高い紡糸後の融点Tfを有する熱可塑性重合体から成る第2成分とから成る複合繊維であって、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出しており、JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じて、
(1)温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)で測定される単繊維乾熱収縮率が50%以上であり、
(2)温度100℃、時間15分間、初荷重0.450mN/dtex(50mg/d)で測定される単繊維乾熱収縮率が15%以上である
潜在捲縮性複合繊維である。
【0008】
上記2つの条件で測定される乾熱収縮率が、それぞれ上記特定の値以上である複合繊維は、低温度(具体的には100〜120℃程度)にて、良好に捲縮し、かつ完全に捲縮する。また、第1成分であるエチレン・α−オレフィン共重合体が繊維表面の一部を占めているため、良好な熱接着性を示す。この潜在捲縮性複合繊維は、100℃程度で高度に収縮するエチレン・α−オレフィン共重合体を収縮成分として使用し、エチレン・α−オレフィン共重合体よりも収縮性の低い成分を第2成分として使用している。かかる構成は、従来にないものである。
【0009】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、紡糸前の融点Tが100〜125℃の範囲内にあり、密度が0.90〜0.93g/cmの範囲内にあり、Q値が1.5〜8の範囲内にあり、且つ紡糸前のメルトインデックスが1〜15g/10minの範囲内にあるエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、Tよりも高い紡糸前の融点Tを有する熱可塑性重合体から成る第2成分とを、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出するように複合紡糸する方法により好ましくは製造される。特定の融点、密度、Q値およびMIを有するエチレン・α−オレフィン共重合体を使用することによって、低温での捲縮発現性に優れた潜在捲縮性複合繊維を得ることが可能となる。
【0010】
また、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、第1成分の紡糸後の融点Tfよりも高い紡糸後の融点Tfを有する熱可塑性重合体から成る第2成分とから成り、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出している複合繊維であって、当該複合繊維で目付30g/mのウェブを形成し、これを100℃で12秒間熱処理(具体的には熱風吹き付け処理)したときのウェブ面積収縮率が80%以上となる潜在捲縮性複合繊維としても特定される。
【0011】
本発明の繊維集合物は、前記潜在捲縮性複合繊維、または前記製造方法により得られた潜在捲縮性複合繊維を20mass%以上含有し、潜在捲縮性複合繊維において潜在捲縮を発現していることを特徴とする。この繊維集合物は、潜在捲縮を低温度で発現させて得られるものであるため、伸縮性あるいは収縮性に優れるとともに、高温度に曝されていないために良好な風合いを有する。また、この繊維集合物は、潜在捲縮性複合繊維の表面に露出している第1成分がエチレン・α−オレフィン共重合体であるため、良好な熱接着性を有する。したがって、この繊維集合物は、当該繊維集合物を複数層重ねて、または他のシート状物と重ね合わせて、潜在捲縮性複合繊維の熱接着により一体化した積層体を構成するのに適している。本発明の繊維集合物は、好ましくは不織布である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、熱収縮性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を第1成分とし、これが繊維表面の少なくとも一部を占めるように構成したものであり、100℃にて高い乾熱収縮率を示す。即ち、この潜在捲縮性複合繊維は、低温で捲縮を発現しやすい性質を有する。したがって、この潜在捲縮性複合繊維は、低い熱加工温度下で、高度な捲縮を発現し、且つ完全に捲縮を発現した状態に到達する。また、繊維表面の一部をエチレン・α−オレフィン共重合体が占めるために、この繊維は熱接着性繊維としても良好に機能する。
【0013】
本発明の潜在捲縮性複合繊維を用いた繊維集合物は、熱処理を施されて、潜在捲縮性複合繊維において高度な捲縮が発現しているものである。このような繊維集合物は、本発明の潜在捲縮性複合繊維を含む繊維ウェブを比較的低い温度(100〜120℃程度)で加工することにより得られる。そのため、この繊維集合物は、捲縮の発現により得られる特性(例えば、伸縮性)を有することに加えて、熱加工後も柔軟な風合いを維持するという特徴を有する。さらに、本発明の潜在捲縮性複合繊維が熱接着性を有するために、この繊維集合物を複数積層し、またはこの繊維集合物を他のシート状物(例えば紙)等に積層して、熱処理(例えば、ヒートシール加工)を施すことにより、層間が繊維の熱接着により一体化された積層体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、第1成分が熱収縮性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を含む。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体とは、エチレン及び炭素数が3〜12のα−オレフィンから成るものである。炭素数が3〜12のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ドデセン−1及びこれらの混合物を挙げることができる。これらのうち、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルヘキセン−1及びオクテン−1が特に好ましく、ブテン−1及びヘキセン−1がさらに好ましい。本発明の潜在捲縮性複合繊維を構成するエチレン・α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含有量は、1〜10モル%であることが好ましく、2〜5モル%であることがより好ましい。α−オレフィン含有量が少ないと、本発明の潜在捲縮性複合繊維で不織布を構成したときに、不織布の柔軟性が損なわれることがある。α−オレフィンの含有量が多くなると、結晶性が悪くなり、繊維化の際に繊維同士が融着する可能性がある。合成繊維製造の分野において、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPEと略される)と称されるものもまた、本発明でいうエチレン・α−オレフィン共重合体に含まれ、本発明において好ましく用いられる。
【0015】
第1成分において使用されるエチレン・α−オレフィン共重合体は、より具体的には、密度が0.90〜0.93g/cmの範囲内にあり、融点(紡糸前)Tが100〜125℃の範囲内にあり、Q値が1.5〜8の範囲内にあるエチレン・α−オレフィン共重合体である。融点TおよびQ値がこれらの範囲内にあるエチレン・α−オレフィン共重合体は、高い熱収縮性を有し、本発明の複合繊維に良好な捲縮発現性を付与する。Q値は、好ましくは1.5〜3.5の範囲内にあり、より好ましくは2〜3.2の範囲内にあり、さらにより好ましくは2〜3の範囲内にある。特に好ましくは、密度が0.91〜0.925g/cmの範囲内にあり、Tが103〜122℃の範囲内にあり、Q値が2〜3の範囲内にあるエチレン・α−オレフィン共重合体が第1成分として使用される。なお、紡糸前のエチレン・α−オレフィン共重合体の融点を、DSCにより得た融解熱量曲線から求める場合には、曲線に二以上のピークが出現することがある。その場合には、最大のピークを示す温度を、融解ピーク温度、即ち融点とする。本発明を構成する他の樹脂についても同様とする。
【0016】
第1成分がエチレン・α−オレフィン共重合体以外の成分を含む場合には、第1成分はエチレン・α−オレフィン共重合体を少なくとも50mass%含むことが好ましい。エチレン・α−オレフィン共重合体の割合が50mass%未満であると、第1成分の熱収縮性が不十分となることがある。好ましくは、第1成分は、実質的にエチレン・α−オレフィン共重合体のみから成ることが好ましい。ここで、「実質的に」という用語は、安定剤等の添加剤が含まれる場合には、エチレン・α−オレフィン共重合体の割合が完全には100mass%とならないことを考慮して使用している。
【0017】
エチレン・α−オレフィン共重合体のメルトインデックス(MI)は、紡糸性を考慮すれば、一般的に1〜20g/10minの範囲内にあることが好ましい。潜在捲縮性複合繊維の捲縮発現性は、第1成分のMIが低いほど大きくなる傾向にある。また、潜在捲縮性複合繊維の捲縮発現性は、第1成分のMIと第2成分のMI(またはMFR)との差が大きい程、大きくなる傾向にある。しかし、両者の差が大きすぎる場合には、繊維化することが困難となる。そこで、エチレン・α−オレフィン共重合体のMIは、第2成分のメルトインデックスまたはメルトフローレートとの差が5〜30となるように選択することが好ましい。ここで、メルトインデックス(MI)は、JIS−K−7210(条件:190℃、荷重21.18N(2.16kg))に準じて測定される。メルトフローレートは、230℃で測定されるメルトインデックスに相当する。
【0018】
より具体的には、第2成分が15〜30程度のMFRを有する場合、エチレン・αオレフィン共重合体のMIは、1〜15g/10minであることが好ましく、3〜15g/10minであることがより好ましく、3〜10g/10minであることがさらにより好ましい。
【0019】
上述した、密度、融点、Q値、およびMIを有するエチレン・α−オレフィン共重合体としては、メタロセン触媒により重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体(具体的には直鎖状低密度ポリエチレン樹脂)が挙げられる。より具体的には、宇部興産(株)製のユメリットEX3335、ユメリットEX3322、ユメリットZM064、およびユメリットEX3224、日本ポリエチレン(株)製のカーネルKF480、ならびに日本ポリエチレン(株)製のハーモレックスNH725A等を第1成分として使用できる。あるいは、第1成分は、密度、融点、Q値およびMIが上述した範囲内にある限りにおいて、メタロセン触媒により重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体と、チーグラー・ナッタ触媒により重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体を混合したものであってよい。
【0020】
第1成分の紡糸後の融点Tfは、105℃〜125℃の範囲内にあることが好ましく、110℃〜120℃の範囲内にあることがより好ましい。
【0021】
本発明の潜在捲縮性複合繊維において、第2成分は、第1成分の紡糸後の融点Tfよりも高い紡糸後の融点Tfを有する熱可塑性樹脂から成る。TfはTfよりも10℃以上高いことが好ましく、15℃以上高いことがより好ましい。TfとTfとの差が小さいと、良好な捲縮発現を得られないことがある。
【0022】
第2成分として使用可能な樹脂として、例えば、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびその共重合体などのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66、およびその共重合体などのポリアミド樹脂、ならびにポリプロピレン、およびポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂などが挙げられる。第2成分は、これらから選択される2以上の樹脂が混合されたものであってもよい。このうち、ポリプロピレンは、紡糸性、繊維の捲縮発現性、および樹脂自身が有する収縮性等の点から、第2成分として特に好ましく用いられる。なお、第2成分は、収縮するとしてもその度合は、第1成分よりも小さい。したがって、第2成分は、本発明の潜在捲縮性複合繊維に剛性を付与し、繊維のカード通過性等を確保する役割をする。
【0023】
第2成分として使用されるポリプロピレンは、好ましくは4以下、より好ましくは3.5以下、さらにより好ましくは3.2以下のQ値を有する。Q値が小さいほど、得られる潜在捲縮性複合繊維の捲縮発現性が良好となる傾向にある。
【0024】
また、第2成分として使用されるポリプロピレンは、好ましくは、10〜30g/10minのMFRを有する。前述のように、MFRは、JIS−K−7210(条件:230℃、荷重21.18N(2.16kg))に準じて測定される。MFRが10g/10min未満であると、延伸性が悪いことがあり、MFRが30g/10minを越えると紡糸性が悪くなることがある。
【0025】
上記したQ値およびMFRを有するポリプロピレンとしては、例えば、日本ポリプロ(株)製のSA03DおよびSA2Dがある。
【0026】
あるいは、第2成分は、ポリエステル樹脂であってよい。第2成分をポリエステル樹脂とする場合には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリトリメチレンテレフタレート(PTT)から選択される2種または3種のポリエステル樹脂を混合して使用すると、繊維の収縮性が向上し、好ましい。PETと、PBTおよび/またはPTTとを混合する場合、PETとPET以外のポリエステル樹脂(即ち、PBTおよび/またはPTT)との混合比(質量比)は、PET:PET以外のポリエステル樹脂=30:70〜80:20であることが好ましく、40:60〜70:30であることがより好ましい。PETとPET以外のポリエステル樹脂とを混合する場合に、PET以外のポリエステル樹脂の混合割合が小さいと、繊維の収縮性が低下する傾向にあり、PET以外のポリエステル樹脂の混合割合が大きいと、繊維自体の剛性が小さくなり、カード通過性が低下する傾向にある。
【0027】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出している断面構造を有することが好ましい。そのような断面構造として、第1成分が鞘成分、第2成分が芯成分であって、第2成分(芯成分)の重心位置が繊維の重心位置からずれている偏心鞘芯型断面、および並列型断面が挙げられる。そのような断面構造によれば、収縮性に優れ、かつ捲縮発現性に優れた複合繊維を得ることができる。
【0028】
潜在捲縮性複合繊維が、偏心鞘芯型複合繊維である場合、第2成分の偏心率は、20〜60%の範囲内にあることが好ましく、30〜50%の範囲内にあることがより好ましい。ここでいう偏心率とは、次式で定義される。
【数1】

【0029】
第2成分の偏心率が20%未満であると、低温加工時における十分な収縮性が得られず、捲縮発現性が得られない。偏心率が60%を超えると、第1成分と第2成分の樹脂比率においてバランスが極端に悪くなり、原綿段階で立体捲縮が高度に発現し、高速カードでウェブを作製することが困難となる(即ち、高速カード性が悪くなる)。
【0030】
このように、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、特にエチレン・α−オレフィン共重合体のMIと、偏心率とを調整することにより、良好な形態のものとして得ることができる。即ち、それらの要素を適切に選択して製造することにより、カード通過性などの工程性に優れるとともに、ウェブ状態にして熱処理に付したときに、捲縮を発現して高い面積収縮率で収縮する繊維を得ることができる。
【0031】
潜在捲縮性複合繊維が、並列型複合繊維である場合、第1成分の繊維周面長さに対する露出率は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらにより好ましい。露出率が20%未満であると、収縮性が不十分となる恐れがあり、また、この繊維を熱接着性繊維として使用する場合に、良好な熱接着性を確保できないことがある。カード通過性を考慮すると、露出率は50%以上であることが好ましく、露出率は100%であることが特に適している。なお、露出率が100%である場合には、実質的に前記偏心型断面の複合繊維となる。
【0032】
前記第1成分と前記第2成分の複合比率は、容積比で3:7〜7:3の範囲であることが好ましい。より好ましい容積比の範囲は、4:6〜6:4である。第1成分の割合が3未満であると、収縮が不十分となる場合があり、第1成分の割合が7を超えると、高速カード性が悪くなり、生産性が低下する場合がある。
【0033】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、前記エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、前記高融点成分である熱可塑性重合体から成る第2成分とから成る複合繊維であって、JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じて、温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)で測定される単繊維乾熱収縮率が50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上であり、同じ条件で初荷重を0.450mN/dtex(50mg/dtex)にして測定される単繊維乾熱収縮率が15%以上、好ましくは20%以上である、潜在捲縮性複合繊維である。
【0034】
初荷重は、加熱の前後に繊維長を測定するときに加えられる荷重である。初荷重が0.018mN/dtex(2mg/d)であると、荷重が小さいために、発現した立体捲縮が維持された状態で加熱後の繊維長を測定することができる。したがって、この単繊維乾熱収縮率は、立体捲縮発現に起因する収縮の度合い(即ち、見かけの収縮の度合い)を示す指標といえる。一方、初荷重0.450mN/dtex(50mg/dtex)であると、繊維が荷重により強く引っ張られて、繊維に発現した立体捲縮が比較的「伸ばされた」状態で、加熱後の繊維長が測定される。即ち、この単繊維乾熱収縮率は、加熱による繊維そのものの収縮の度合いを示す。本発明の潜在捲縮性複合繊維は、これら2つの初期荷重で測定される単繊維乾熱収縮率が上記の範囲を満たすことにより、優れた立体捲縮発現性を有し、熱加工時の温度が低温であっても捲縮を良好に発現すると考えられる。即ち、100℃での単繊維乾熱収縮率が高いことによって、不織布製造の省エネルギー化を図ることが可能となり、また、高速生産が可能となる。なお、ここで、「低温」とは、約100〜約120℃の範囲内にある温度をいう。本発明の潜在捲縮性複合繊維は、そのような低い温度でも、ウエブ(目付30g/m)の面積収縮率が80%以上となるような潜在捲縮を発現する。
【0035】
本発明の潜在捲縮性複合繊維の実用性の有無は、例えば、JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じて、温度120℃、時間15分間、初荷重0.450mN/dtexで単繊維乾熱収縮率を測定することにより知ることができる。この条件にて測定される単繊維乾熱収縮率が例えば50%程度、好ましくは60%程度であれば、温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)で測定される単繊維乾熱収縮率が50%程度であっても、110℃〜120℃程度の温度で捲縮を十分に発現する。
【0036】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、JIS−L−1015に準じて測定される捲縮率が8〜17%であることが好ましく、11〜15%であることがより好ましい。捲縮率が17%を超えると、原綿段階で立体捲縮が高度に発現してしまうため、高速カード通過時において開繊不良、シリンダーへの巻き付き、あるいは地合ムラ(クラウディ)が発生する傾向にある。捲縮率が8%未満であると、カード通過性が悪くなり、不織布等の製造に適さない。捲縮率は、繊維の高速カード性を決定する重要な因子であり、延伸倍率、機械捲縮数、機械捲縮率、およびアニーリング処理温度などによって調整することが可能である。即ち、本発明によれば、高い捲縮発現性を有する複合繊維を、原綿段階の捲縮率が8〜17%程度となるように構成できる。これは、従来の潜在捲縮性複合繊維では達成することが困難であった特徴である。
【0037】
本発明の潜在捲性縮複合繊維は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、融点Tが100〜125℃の範囲内にあるエチレン・α−オレフィン共重合体と、Tよりも好ましくは40℃以上高い融点Tを有する熱可塑性樹脂を準備する。次いで、エチレン・α−オレフィン共重合体を第1成分とし、前記高融点の熱可塑性樹脂を第2成分として、常套の溶融紡糸機を用いて複合紡糸し、繊度が3dtex以上、50dtex以下の範囲内にある紡糸フィラメントを作製する。紡糸フィラメントの引取繊度が3dtex未満であると、糸切れ等が生じて繊維生産性が低下する。紡糸フィラメントの引取繊度が50dtexを越えると十分な延伸ができず、ネッキングにより均質な繊度の繊維が得られない。
【0038】
次いで、紡糸フィラメントを公知の延伸処理機を用いて延伸処理して、延伸フィラメントを得る。延伸処理は、延伸温度を60℃〜(T1−10)℃の範囲内にある温度に設定して実施することが好ましい。第2成分がポリプロピレンである場合には、特に延伸温度を80〜100℃の範囲内にある温度に設定することが好ましい。延伸倍率は、2倍以上とすることが好ましく、3〜5倍とすることがより好ましい。延伸方法は、温水または熱水中で実施する湿式延伸法、あるいは乾式延伸法のいずれであってもよい。
【0039】
延伸処理条件は、得られる繊維の単繊維伸度を決定する因子の1つであり、単繊維伸度は、捲縮発現性および発現した捲縮の安定性を決定する因子の1つとなることがある。例えば、同一の又は類似するポリマーを使用して延伸処理条件以外の他の繊維製造条件を同じにして製造した繊維を比較すると、延伸処理条件の相違、即ち単繊維伸度の相違が、捲縮発現性および発現した捲縮の安定性に影響を及ぼすことがある。延伸温度が60℃未満であると、繊維を構成するポリマー(即ち、第1成分および第2成分)が安定化されず、原綿段階で捲縮が発現しやすくなる、あるいは繊維集合物において発現した捲縮が不安定になることがある。延伸温度が95℃を越えると、捲縮が発現しにくくなる。延伸倍率が2倍未満であると、単繊維伸度が小さくなり、良好な捲縮発現性を得られないことがある。一方、延伸倍率が5倍を越えると、原綿段階で捲縮が発現しやすく、高速カード性が悪くなることがある。
【0040】
得られた延伸フィラメントには、所定量の繊維処理剤が付着させられ、クリンパー(捲縮付与装置)で機械捲縮が与えられる。前記機械捲縮における捲縮数は、12〜19山/25mmの範囲内にあることが好ましい。捲縮数が12山/25mm未満であると、カードでのシリンダーへの巻き付き及び風綿が発生しやすいために、高速カード通過性が悪い。さらに、繊維同士の交絡度合いを示すウェブ強力も低く、カード工程でのトラブルが発生し易い傾向にある。捲縮数が19山/25mmを超えると、カード工程での開繊不良によるネップ、クラウディなど地合いムラが発生しやすくなる。捲縮数は、13〜17山/25mmの範囲内にあることがより好ましく、14〜17山/25mmの範囲内にあることがさらにより好ましい。
【0041】
捲縮付与後のフィラメントに40℃〜100℃の範囲内にある温度で数秒〜約30分間、アニーリング処理を施す。繊維処理剤を付着させた後でアニーリング処理を実施する場合、アニーリング処理温度を50℃〜80℃の範囲内にある温度とし、処理時間を5分以上として、アニーリング処理を実施すると同時に繊維処理剤を乾燥させることがより好ましい。アニーリング処理を上記温度範囲に設定して実施することにより、複合繊維の結晶化を抑制して、原綿段階での立体捲縮の発現を低く抑え、捲縮率および単繊維乾熱収縮率を所望の範囲に調整することが可能である。
【0042】
前記アニーリング処理終了後、フィラメントは用途等に応じて、繊維長が30mm〜100mmとなるように切断される。本発明の潜在捲縮性複合繊維は、必要に応じて長繊維の形態で使用してよい。
【0043】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、これでウェブを形成したときのウェブの熱収縮挙動が従来の繊維とは異なり、当該熱収縮挙動によって特定され得るものである。具体的には、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、第1成分の融点Tよりも高い融点Tを有する熱可塑性重合体から成る第2成分とから成り、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出している複合繊維であって、当該複合繊維で目付30g/mのウェブを形成し、これを100℃で12秒間熱処理したときのウェブ面積収縮率が80%以上となる潜在捲縮性複合繊維としても特定される。即ち、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、比較的低い温度および短い時間で潜在捲縮を良好に発現するものである。また、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、上記のようにウェブを熱処理した後、さらに熱処理を続けても、ウェブがさらに収縮しにくいという特徴をも有する。ここでの熱処理は、いわゆる熱風吹き付け法(エアースルー法)を指す。
【0044】
本発明の潜在捲縮性複合繊維を上記のようにウェブの熱収縮挙動によって特定する場合、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、より好ましくは、ウェブのタテ方向(即ち機械方向)に対するヨコ方向の収縮率の比が、0.6以上になるものとして特定される。前述のように、本発明の潜在捲縮性複合繊維は、第1成分が溶融または軟化する前の、束縛のない状態で、捲縮を発現し得るので、ウェブのタテおよびヨコ方向の収縮率の差が従来の繊維で構成したウェブと比較して小さくなる。
【0045】
以上において説明した本発明の潜在捲縮性複合繊維は、繊維集合物中に20mass%以上含有され、潜在捲縮を発現させることにより、伸縮性あるいは収縮性に優れ、風合いの良好な繊維集合物を形成する。繊維集合物としては、織編物、不織布などが挙げられる。
【0046】
続いて、本発明の繊維集合物の具体的な一例として不織布を、その製造方法とともに説明する。前記不織布は、前記潜在捲縮性複合繊維を20mass%以上含有するようにカードウェブを作製し、前記カードウェブを熱処理し、潜在捲縮を発現させることにより得ることができる。前記不織布には、潜在捲縮性複合繊維以外に他の繊維を混綿したり、積層してもよい。当該他の繊維は、例えば、コットン、シルク、ウール、麻、パルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、およびアクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系などの合成繊維から1種または複数種の繊維を用途などに応じて選択するとよい。
【0047】
前記不織布を製造するに際して用いられるカードウェブとしては、パラレルウェブ、セミランダムウェブ、ランダムウェブ、クロスウェブ、クリスクロスウェブなどが挙げられ、異なる種類の繊維ウェブを2種類以上積層してもよい。また、繊維間を絡合させるために、繊維ウェブには必要に応じて熱処理前および/または熱処理後にニードルパンチ処理や水流交絡処理等の二次加工を施してもよい。特に、ニードルパンチ処理や水流交絡処理のように、構成する繊維同士を三次元的に交絡する方法によれば、後述する熱処理によって潜在捲縮性複合繊維の立体捲縮が発現したときに、繊維同士が適度に拘束されているため、高度な伸長回復性を有し、好ましい。
【0048】
前記繊維ウェブには、公知の熱処理手段により熱処理を施す。熱処理手段としては、熱風吹き付け法および熱圧着法から選ばれた少なくとも1種の熱処理方法を用いることが好ましい。前記熱処理方法における熱処理温度等の熱処理条件は、採用する熱処理方法に応じて適宜設定される。例えば、熱風吹き付け法(エアースルー法)を採用する場合、熱処理温度は、潜在捲縮性複合繊維の立体捲縮が発現する温度に設定するとよいが、好ましくは、90〜130℃の範囲、より好ましくは100〜120℃の範囲内にある温度に設定される。
【0049】
得られた不織布は、収縮性または伸縮性に優れ、嵩高く、柔軟な風合いを有するから、オムツなどの衛生材料、パップ剤や包帯などの医療(用途)材料、ウェットティッシュ、ワイパー、緩衝材、包装材料、スポンジ状不織布材料等の用途に好適である。
【0050】
本発明の繊維集合物、特に不織布は、本発明の潜在捲縮性複合繊維の第1成分を熱接着させて、熱接着不織布としてよい。また、本発明の繊維集合物は、この繊維集合物同士を重ね合わせて、あるいは他のシート状物(例えば紙)と重ね合わせて、例えばヒートシールまたはエンボスのような熱加工処理を施して一体化し、積層体を構成するのに適している。このとき、本発明の繊維集合物においては潜在捲縮性繊維がほぼ完全に捲縮を発現しているから、熱加工時に、繊維集合物がさらに収縮して、シワや破れを生じることがない。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の内容について実施例により具体的に説明する。なお、使用した第1成分および第2成分の融点TおよびT、紡糸後の第1成分の融点Tf、単繊維強伸度、捲縮数、捲縮率、単繊維乾熱収縮率、不織布の面積収縮率、地合いおよび工程性は、以下のように測定した。
【0052】
(TおよびTの測定)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用し、サンプル量を5.0mgとして、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/minの降温スピードで冷却した後、10℃/minの昇温スピードで融解させて、第1および第2成分それぞれについて融解熱量曲線を得、得られた融解熱量曲線より、融点TおよびTをそれぞれ求めた。
【0053】
(TfおよびTfの測定)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用し、サンプル量を6.0mgとして、10℃/minの昇温スピードで常温から200℃まで昇温して、繊維を融解させて、得られた融解熱量曲線からTfおよびTfを求めた。
【0054】
(強度、伸度)
JIS−L−1015に準じ、引張試験機を用いて、試料のつかみ間隔を20mmとしたときの繊維切断時の荷重値および伸びを測定し、それぞれ単繊維強度、単繊維伸度とした。
【0055】
(捲縮数、捲縮率)
JIS−L−1015に準じて測定した。
【0056】
(単繊維乾熱収縮率)
JIS−L−1015に準じ、つかみ間隔を100mmとし、処理温度100℃、処理時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)および0.450mN/dtex(50mg/d)における乾熱収縮率をそれぞれ測定した。さらに、処理温度を120℃とし、初荷重を0.450mN/dtexとして同様に乾熱収縮率を測定した。
【0057】
(ウェブ面積収縮率)
ウェブ面積収縮率を以下の方法で測定した。
(1)セミランダムカード機で目付約30g/mのカードウェブを作製し、タテ20cm×ヨコ20cm角の大きさに切断する。収縮処理前のウェブの寸法(cm)を測定する。
(2)エアスルー熱処理機を用い、熱処理温度100℃、風速1.5m/sec(上吹き)の条件下で、カードウェブをフリー状態で熱処理して収縮させる。熱処理時間は、12秒に設定した。
(3)収縮後のウェブの寸法(cm)を測定する。
(4)面積収縮率を下記式から算出する。
【数2】

【0058】
さらに、収縮前後のタテ寸法の変化量を、収縮前タテ寸法で除して得た値に、100を乗じてタテ方向の寸法変化率を求めた。同様にして、ヨコ方向の寸法変化率を求めた。得られたこれらの値から、タテ方向の収縮率に対するヨコ方向の収縮率の比を算出した。
【0059】
(工程性)
ローラー型カード機を用い、ライン速度80m/minで、目付約15g/mのカードウェブを排出したときのカードウェブの地合い、風綿の発生(フライ)、静電気、および巻き付きの有無を確認し、下記の基準で判断した。
○:カードウェブの地合い、風綿の発生、静電気、および巻き付きのいずれも良好。
△:カードウェブの地合い、風綿の発生、静電気、および巻き付きのうち、1つが不良。
×:カードウェブの地合い、風綿の発生、静電気、および巻き付きのうち、2つ以上が不良。
【0060】
(試料1)
鞘成分(第1成分)として、メタロセン触媒を用いて重合した2種類のLLDPE1および2を5:5(質量比)の割合で混合したものを使用した。ここで、LLDPE1は、融点が118℃、密度が0.918g/cm、MIが4g/10min、Q値が2.6であって、α−オレフィンとしてヘキセン−1を3.1mol%含むLLDPE(宇部興産(株)製、商品名ユメリットEX3335)であり、LLDPE2は、融点が118℃、密度が0.918g/cm、MIが10g/10min、Q値が2.6であって、α−オレフィンとしてヘキセン−1を3.1mol%含むLLDEP(宇部興産(株)製、商品名ユメリットEX3322)である。両者を混合することにより、第1成分のMIは全体として7g/10minとなった。芯成分(第2成分)として融点が164℃、MFRが30g/10min、Q値が3.0のポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、商品名SA03D)を用いた。これらの2つの成分を偏心鞘芯型複合ノズルを用い、第1成分/第2成分の複合比(容積比)を5/5として、鞘成分の紡糸温度を250℃、芯成分の紡糸温度を270℃として溶融押出し、偏心率42%、繊度6.7dtexの紡糸フィラメントを得た。
【0061】
前記紡糸フィラメントを90℃の熱水中で3.8倍に延伸し、繊度2.2dtexの延伸フィラメントとした。次いで、繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて機械捲縮を付与した。そして、65℃に設定したエアスルー熱処理機にて約15分間、弛緩した状態でアニーリング処理と乾燥処理を同時に施し、フィラメントを51mmの繊維長に切断して、潜在捲縮性複合繊維を短繊維の形態で得た。
【0062】
(試料2)
鞘成分として、試料1の製造で使用したLLDPE1のみを使用して、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表1に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0063】
(試料3)
鞘成分として、試料1の製造で使用したLLDPE2のみを使用して、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表1に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0064】
(試料4)
鞘成分として、試料1の製造で使用したLLDPE1のみを使用し、芯成分として、融点が164℃、MFRが15g/10min、Q値が3.0のポリプロピレン2(日本ポリプロ(株)製のSA2D)を使用して、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表1に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0065】
(試料5)
鞘成分として、α−オレフィンとしてヘキセン−1を2.8mol%含むLLDEPであって、融点が109℃、密度が0.918g/cm、MIが4g/10min、Q値が2.2である、メタロセン触媒を用いて重合したLLDPE3(日本ポリエチレン(株)製、商品名カーネルKF−480)を使用し、芯成分として、試料5の製造で使用したポリプロピレン2を使用して、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表1に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0066】
(試料6)
鞘成分として、α−オレフィンとしてヘキセン−1を3.5mol%含むLLDEPであって、融点が120℃、密度が0.918g/cm、MIが7g/10min、Q値が2.9である、メタロセン触媒を用いて重合したLLDPE4(宇部興産(株)製、商品名ユメリットZM064)を使用し、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表2に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0067】
(試料7)
鞘成分として、α−オレフィンとしてヘキセン−1を4.8mol%含むLLDEPであって、融点が120℃、密度が0.929g/cm、MIが9g/10min、Q値が7.0である、メタロセン触媒を用いて重合したLLDPEとチーグラー・ナッタ触媒を用いて重合したLLDPEとの混合LLDPEとして販売されている、LLDPE5(日本ポリエチレン(株)製、商品名ハーモレックスNH725A)を使用し、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表2に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0068】
(試料8)
鞘成分として、融点が124℃、密度が0.920g/cm、MIが20g/10min、Q値が4.0である、メタロセン触媒を用いて重合したLLDPE6(住友化学(株)製、商品名スミカセンGA801)を使用し、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表2に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0069】
(試料9)
鞘成分として、α−オレフィンとしてヘキセン−1を3.1mol%を含むLLDEPであって、融点が118℃、密度が0.918g/cm、MIが20g/10min、Q値が2.6である、メタロセン触媒を用いて重合したLLDPE7(宇部興産(株)製、商品名ユメリットEX3224)を使用し、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表2に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0070】
(試料10)
鞘成分として、試料1の製造で使用したものと同じであるLLDPE1および2の混合物を使用し、芯成分として、融点が250℃、極限粘度値(IV値)が0.64のポリエチレンテレフタレート(東レ(株)製、T200E)を使用して、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表2に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0071】
(試料11)
鞘成分として、試料7の製造で使用したLLDPE4を使用した。芯成分として、融点が250℃、極限粘度値(IV値)が0.64のポリエチレンテレフタレート(東レ(株)製、T200E)と融点が224℃、極限粘度値(IV値)が0.875のポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名ジュラネックス500FP)とを質量比で5:5の割合で混合したものを使用した。これらの2つの成分を用いて、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表2に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0072】
(試料12)
鞘成分として、試料7の製造で使用したLLDPE4を使用した。芯成分として、融点が250℃、極限粘度値(IV値)が0.64のポリエチレンテレフタレート(東レ(株)製、T200E)と融点が224℃、極限粘度値(IV値)が0.69のポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチックス(株)製、商品名ジュラネックス300FP)とを質量比で5:5の割合で混合したものを使用した。これらの2つの成分を用いて、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表2に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0073】
(試料13)
鞘成分として、融点が129℃、密度が0.956g/cm、MIが12g/10min、Q値が5.6である高密度ポリエチレンであって、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合したもの(日本ポリエチレン(株)製、商品名HE481)を使用し、芯成分として、融点が164℃、MFRが26g/10minのポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、SA1H)を使用して、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表3に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0074】
(試料14)
エアスルー熱処理機の設定温度(即ち、アニーリング処理と乾燥処理の温度)を60℃にしたこと以外は、試料13の製造方法と同様の製造方法で、表3に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0075】
(試料15)
鞘成分として、試料13の製造で使用した高密度ポリエチレンを使用し、芯成分として、試料10の製造で使用したポリエチレンテレフタレートを使用して、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表3に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0076】
(試料16)
エアスルー熱処理機の設定温度(即ち、アニーリング処理と乾燥処理の温度)を60℃にしたこと以外は、試料15の製造方法と同様の製造方法で、表3に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0077】
(試料17)
鞘成分として、試料8の製造で使用したLLDPE6を使用し、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表3に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
【0078】
(試料18)
鞘成分として、試料9の製造で使用したLLDPE7を使用し、試料1を製造するときに採用した手順と同様の手順に従って、表3に示す条件で潜在捲縮性複合繊維を得た。
試料1〜18として得た短繊維の物性を表1〜3に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
試料1〜12の潜在捲縮性複合繊維は、いずれも単繊維乾熱収縮率が高く、低温(100℃)でも高いウェブ面積収縮率を得ることができた。特に、試料1〜6の繊維は、初荷重0.018mN/dtexで測定される単繊維乾熱収縮率がいずれも80%を越え、また、ウェブ収縮率比が0.6以上であり、良好なスパイラル状の捲縮を発現するものであった。これらの繊維は、MIが15以下であって、Q値が3未満である、メタロセン触媒を用いて重合した直鎖状低密度ポリエチレンをエチレン・α−オレフィン共重合体として使用して鞘成分を構成し、PPを使用して芯成分を構成したために、このように良好な結果が得られたと考えられる。
【0083】
試料7の繊維は、初荷重0.018mN/dtexで測定される単繊維乾熱収縮率が80%を越えていたが、ウェブ収縮率比が0.6未満であり、捲縮の発現性が試料1等と比較してやや劣っていた。しかし、試料7の繊維は、120℃にて初荷重0.450mN/dtexで測定される単繊維乾熱収縮率が大きく、120℃にて捲縮を良好に発現することが確認された。したがって、試料7の繊維は、110℃〜120℃で処理して使用するのに十分な実用性を有していた。同様のことは、試料8および試料9についても言える。
【0084】
芯成分をポリエステル樹脂とする試料10、11および12もまた、初荷重0.018mN/dtexで測定される単繊維乾熱収縮率は試料1ほど高くなかったが、50%は越えていた。また、試料11および12は、120℃にて初荷重0.450mN/dtexで測定される単繊維乾熱収縮率が大きく、110〜120℃程度で処理する潜在捲縮性繊維として十分な実用性を有していた。PETとPBTとの混合物を使用した試料11および12は、ウェブ面積収縮率およびウェブ収縮率比がPETのみを使用した試料10と比較して大きく、良好な捲縮を発現していた。
【0085】
試料13および15の複合繊維は、捲縮数および捲縮率が大きく、繊維化した段階で立体捲縮が一部発現していたために、カード通過性が悪かった。また、比較例13および15の複合繊維は、単繊維乾熱収縮率がマイナスとなり、面積収縮率も低かった。立体捲縮の発現を抑制するために、アニーリング(乾燥)処理の温度を60℃と低くして製造した試料14および16の複合繊維は、繊維化した段階での立体捲縮の発現は抑制されて良好なカード通過性を示したが、ウェブ面積収縮率がいずれも小さかった。試料17および18の繊維はそれぞれ、試料8および9の繊維と同じ鞘成分および芯成分を使用して製造したが、偏心率が小さかったために、良好な捲縮を発現することができなかったと考えられる。これは、試料17および18の作製に使用したLLDPE6および7は、他の試料を作製するのに使用したLLDPE1〜5と比較してMIが高いために収縮性に劣り、したがって偏心率の僅かな変化が捲縮の発現に影響を与えたと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の潜在捲縮性複合繊維は、熱収縮性と熱接着性を有する特定のLLDPEを使用することにより、低温度で捲縮を発現し、且つ熱接着性を有するので、嵩高で風合いの良好な繊維集合物(特に不織布)であって、他のシート状物に熱接着させ得る繊維集合物を製造するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、第1成分の紡糸後の融点Tfよりも高い紡糸後の融点Tfを有する熱可塑性重合体から成る第2成分とから成る複合繊維であって、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出しており、
JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じて、
(1)温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)で測定される単繊維乾熱収縮率が50%以上であり、
(2)温度100℃、時間15分間、初荷重0.450mN/dtex(50mg/d)で測定される単繊維乾熱収縮率が15%以上である
潜在捲縮性複合繊維。
【請求項2】
複合繊維の断面が、第1成分が鞘成分であり、第2成分が芯成分であって、第2成分の重心位置が繊維の重心位置からずれている偏心鞘芯型断面、または並列型断面である、請求項1に記載の潜在捲縮性複合繊維。
【請求項3】
エチレン・α−オレフィン共重合体がメタロセン触媒により重合された樹脂である、請求項1に記載の潜在捲縮性複合繊維。
【請求項4】
エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Q値)が、1.5〜8の範囲内にある、請求項1に記載の潜在捲縮性複合繊維。
【請求項5】
エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Q値)が、1.5〜3.5の範囲内にある、請求項4に記載の潜在捲縮性複合繊維。
【請求項6】
融点Tが100〜125℃の範囲内にあり、密度が0.90〜0.93g/cmの範囲内にあり、Q値が1.5〜8の範囲内にあり、且つ紡糸前のメルトインデックスが1〜15g/10minの範囲内にあるエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、融点Tよりも高い融点Tを有する熱可塑性重合体から成る第2成分とを、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出するように複合紡糸することを含む、潜在捲縮性複合繊維の製造方法。
【請求項7】
前記第1成分と前記第2成分とを、偏心鞘芯型または並列型断面となるように複合紡糸して紡糸フィラメントを得ること、60〜(T1−10)℃の範囲内にある温度で2倍以上で延伸すること、捲縮数12〜19山/25mmの範囲で機械捲縮を付与すること、ならびに40〜100℃の範囲内にある温度でアニーリング処理を施すことをさらに含む、請求項6に記載の潜在捲縮性複合繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の潜在捲縮性複合繊維を20mass%以上含有し、潜在捲縮性複合繊維において潜在捲縮が発現している、繊維集合物。
【請求項9】
請求項1に記載の潜在捲縮性複合繊維を20mass%以上含有し、潜在捲縮性複合繊維において潜在捲縮が発現している不織布。

【国際公開番号】WO2005/021850
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513454(P2005−513454)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012271
【国際出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【特許番号】特許第3995697号(P3995697)
【特許公報発行日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】