説明

炎症性疾患の処置のための還元アルキル−糖モノマー含有医薬

【課題】炎症性機序調節剤を含んでなる、化粧料用組成物の提供。
【解決手段】水酸基がC−C40のアルコキシ基によって置換されている少なくとも1つの還元アルキル−糖モノマーを含んでなる化合物を含む化粧料用組成物。還元糖は、好ましくはラムノース、フコースおよびグルコースを含む群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、新規な還元アルキル−糖モノマー、ならびに医薬、特に抗炎症薬(agent)としてのそれらの使用に関する。
【0002】
背景技術
炎症反応は、ウイルスもしくは細菌などの病原体によるかまたは化学的もしくは物理的攻撃によるそれらの細胞または血管組織に対する攻撃に直面した生物の免疫系による応答である。痛みを伴うことの多い炎症は一般に治癒応答である。しかしながら、ある場合(関節リウマチ、クローン病、自己免疫疾患など)において、それが最初の刺激より深刻な結果をもたらすことがある。
【0003】
接触過敏反応は、細胞病変または炎症反応の起始部の細胞上または組織中に存在する抗原に対して向けられる特異的免疫反応である。これらの過敏反応は、病原微生物に対する防御機構の枠組みの中でまたはアレルギー反応の場合において発現する可能性がある。それらの反応は、炎症反応において主たる役割を担う内皮細胞は言うまでもなく、種々のタイプの細胞、特に皮膚細胞および特定の白血球を利用する。
【0004】
介在する細胞間相互作用には、一般にリガンドと受容体間の特異的認識現象が含まれる。過去20年間に、フコースおよびラムノースのような特定の糖により特異的認識を確保することが可能なタンパク質などの多くの細胞表面受容体が同定された。
【0005】
レクチンは、特に炎症プロセス時の細胞間の接着および認識現象において極めて重要な役割を果たす真核細胞の膜内に埋め込まれているタンパク質である。膜レクチンは、特にエンドサイトーシス、複合糖質の細胞内輸送および内皮透過性に関与している。さらに、これらのタンパク質、多くの場合、膜貫通型タンパク質は、特異的抗原認識(細胞外ドメイン)および細胞活性化(細胞内ドメイン)にも寄与している。レクチンは、特定の糖、特にラムノースを特異的に認識することができる。
【0006】
多年にわたり、アルキル多糖(CmGn(式中、mはアルキル鎖の炭素数であり、nは親水性頭部を構成するグルコシド単位の数である))が関心を集めた非イオン性界面活性剤群であった。例えば、グルコースと脂肪アルコールから工業的に作製されたアルキルポリグルコシド(APG)は、それらの申し分のない皮膚耐性から洗浄力および美容ケアにおいて数多くの用途を提供する。
【0007】
刊行物「"Cosmetic use formulation containing pentyl rhamnoside and cetyl rhamnoside," J. P. Houlmont et al., International Journal of Cosmetic Science, 2001, 23, 363-368」には、ペンチルおよびセチルラムノシドの、それぞれ、界面活性剤の共剤および界面活性剤としての合成および使用、ならびに化粧料用製剤へのそれらの適性について記載されている。これらのアルキルラムノシド(CおよびC16のもの)は、酸触媒の存在下、好適なアルコール中でのL−ラムノースのアセチル化によって直接作製される。これらのアルキルラムノシドは、生体適合性があり、高い毒性がないことが記載されている。
【0008】
欧州特許出願EP 0804923には、少なくとも2つの異なる糖単位とC−C24の飽和アルキル鎖によって置換された少なくとも1つのヒドロキシル基を含む多糖アルキルエーテルを含んでなる組成物について記載されている。この組成物によって、紫外線から皮膚を防御することができる。
【0009】
欧州特許出願EP 0804924には、少なくとも2つの異なる糖単位とC−C24の飽和アルキル鎖によって置換された少なくとも1つのヒドロキシル基からなる少なくとも1つの多糖アルキルエーテルを含む、皮膚において香料を長持ちさせることを目的とする組成物について記載されている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、式I:
【化1】

(式中、Rは、C−C40、好ましくはC−C24のアルキル基を表す)
のアルキル−ラムノースまたはアルキル−フコースのモノマー(下式
【化2】

および
【化3】

の生成物を除くそのあらゆる異性体型を含む)に関する。
【0011】
は、有利にはC−C12、好ましくはC−Cのアルキル基を表す。
本発明の有利な変形によれば、Rはペンチル、オクチル、デシルおよびウンデシルからなる群から選択される基を表す。
【0012】
本発明の範囲内において、「アルキル−ラムノースモノマー」は「アルキル−ラムノシド」と同義的に使用され、「アルキル−フコースモノマー」は「アルキル−フコシド」と同義的に使用される。
【0013】
ラムノースまたはフコースは左旋性または右旋性立体配置のものであり得る。本発明の有利な変形によれば、ラムノースまたはフコースは左旋性立体配置のものである。
ラムノースまたはフコースはα−またはβ−アノマー型であり得る。本発明のもう1つの有利な変形によれば、ラムノースまたはフコースはα−アノマー型である。
【0014】
本発明はまた、水酸基、有利にはアノマー水酸基が、C−C40、好ましくはC−C24のアルコキシ基によって置換されている少なくとも1つの還元−糖モノマーからなる医薬にも関する。本発明の範囲内において、水酸基がアルコキシ基によって置換されているこれらの還元−糖モノマーを還元アルキル−糖と呼ぶ。還元アルキル−糖は、次の一般式:
【化4】

(式中、Rは基−CHまたは基−CHOHを表し、RはC−C40、好ましくはC−C24のアルキル基を表す)
のものである。
【0015】
本発明において、「還元糖」とは、それが直鎖型である場合には、アノマー炭素によって媒介された遊離アルデヒド官能基を示す糖を意味すると解される。還元糖は、還元糖についてのフェーリング試験により溶液中で証明することができる。還元糖の例としては、特にグルコース、フルクトース、マルトース、ガラクトースおよびラクトースが挙げられる。
【0016】
本発明の範囲内において、還元糖は、有利にはラムノース、フコースおよびグルコースからなる群から選択される。
ラムノース、フコースまたはグルコースは左旋性または右旋性立体配置のものであり得る。本発明の有利な変形によれば、ラムノース、フコースまたはグルコースは左旋性立体配置のものである。
【0017】
ラムノース、フコースまたはグルコースはα−またはβ−アノマー型であり得る。本発明のもう1つの有利な変形によれば、ラムノース、フコースまたはグルコースはα−アノマー型である。
【0018】
本発明の有利な変形によれば、アルコキシ基は、5〜12個の炭素原子、好ましくは5〜8個の炭素原子を含む。従って、Rは、有利には、C−C12、好ましくはC−Cのアルキル基を表す。本発明の有利な変形によれば、Rはペンチル、オクチル、デシルおよびウンデシルからなる群から選択される基を表す。
【0019】
本発明は、アルキル基を有する還元糖がモノマー型のみであるという事実によって特徴付けられる。
【0020】
前記還元アルキル−糖モノマー、特に本発明のアルキル−ラムノース、アルキル−フコースまたはアルキル−グルコースモノマーは、還元糖、特にラムノース、フコースまたはグルコースと、アルキル鎖長に対応する多数の原子を有するアルコールとの縮合反応により、還元糖の水酸基の保護または脱保護段階を行わない1段階反応で合成することができる。
【0021】
用いる合成法は、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸(PTSA)を使用する標準的なフィッシャー反応である。この反応は、「ワンポット」(one-pot)法で実施される。すなわち、この反応は、溶媒を用いず、試薬(還元糖、特にラムノース、フコースまたはグルコース、アルコールおよび酸触媒)を一緒に入れるため、媒質は不均質型である。
【0022】
還元−糖混合物、特にラムノース、フコースまたはグルコース、アルコールおよび酸触媒は、有利には加熱下、場合によっては温度20℃〜120℃、さらに有利には35℃〜75℃にて攪拌下で反応させる。糖が分解しないように温度が高すぎてはならず、特に120℃を超えてはならない。混合物は、有利には5分〜24時間、さらに有利には3時間混合する。
【0023】
アノマー官能基(anomenic function)は最も反応性が高く、共鳴によってカルボカチオンが安定化することから、アルコールは1位にのみ付加される。
【0024】
合成生成物においては、溶媒として、還元糖、特にラムノース、フコースまたはグルコースに対し約2倍のモル比で過剰のアルコールが使用されるため、反応媒質は反応終了時に均質相になっている。酸触媒としては、有機溶媒に溶解するPTSAなどの比較的強いブレンステッド酸が選択される。従って、強すぎる硫酸や塩酸は水溶性であるために使用することができず、一方、カルボン酸ではそうできるほどの強さがない。水は付加反応よりもむしろ逆加水分解反応をさらに有利に進めるため、水の存在下での作業は避ける必要がある。
【0025】
各水酸基は、理論的な見方をすれば、保護剤不在により別のものと反応してグリコシド結合を形成し、その結果として重合度を高める可能性があるが、還元−糖モノマー、特にアルキル−ラムノース、アルキル−フコースまたはアルキル−グルコースの自己縮合は制限されるか、排除される。この自己縮合の排除は、6−デオキシ糖(特にラムノース、フコース)には1位の水酸基がなく、その位置にメチル基を有していることによると考えられる。6−デオキシ糖のメチル基は、炭素6に存在する極めて反応性に富む水酸基を排除することによって、および炭素4付近に立体構造問題を与えることによってアルキル−単糖の形成を有利に進めるであろう。
【0026】
この合成により、還元アルキル−糖の総てにおいて、立体構造問題を最小限にし、そうすることによって、最も熱力学的に安定なα−アノマー立体配置がもたらされる。特に、大部分のアルキル−ラムノシドでは、この合成によりα−アノマーがもたらされる。アルキル−フコシドのα/βアノマー比は約2である。
【0027】
本発明の有利な変形によれば、縮合反応中に生成する水は物理的にまたは化学的に排除する。合成中に生成する水を排除するための物理技術の例としては、特に蒸留または吸着剤の使用が挙げられる。合成中に生成する水を排除するための化学技術の例としては、特に乾燥剤が挙げられる。
【0028】
縮合反応中に生成する水は、有利には炭酸塩、硫酸塩、塩化カルシウム、五酸化リン、モレキュラーシーブスまたはこれらの種々の乾燥剤の組合せからなる群から選択される乾燥剤によって排除する。乾燥剤は、反応媒質に直接加えることができる。
【0029】
本発明の変形によれば、縮合反応は不活性ガス(例えば、アルゴンまたは窒素)雰囲気下、大気圧にて実施する。
【0030】
本発明のもう1つの変形によれば、縮合反応は減圧にて実施する。
【0031】
本発明の有利な変形によれば、縮合反応終了時に混合物をより低い温度、反応温度より数℃低い温度〜0℃、好ましくは周囲温度にし、それを還元アルキル−糖モノマー、特にアルキル−ラムノース、アルキル−フコースまたはアルキル−グルコースモノマーを溶解可能な溶媒、有利にはジクロロメタンに溶かす。酸触媒は、弱塩基、好ましくは重炭酸塩で1分〜24時間、有利には30分間中和する。
【0032】
生成物は、鎖長に応じ、最短鎖の場合にはカラムクロマトグラフィーにより、または他の化合物の場合にはソックスレー抽出により精製する。非常に高い純度が求められる場合には2つの方法を組み合わせてもよい。
【0033】
ソックスレー抽出(Soxhlet extraction)による精製の原理は、未精製の反応生成物(還元アルキル−糖、特にアルキル−ラムノシド、アルキル−フコシドまたはアルキル−グルコシド、残留アルコール、PTSA、還元糖、特にラムノース、フコースまたはグルコース)とクロマトグラフィーシリカとの重量比約1:4での混合およびこの混合物の抽出カートリッジへの充填で構成されており、加熱固体−液体抽出法と連続クロマトグラフィー法とを結び付けている。
【0034】
還元アルキル−糖モノマー、特にアルキル−ラムノース、アルキル−フコースまたはアルキル−グルコースモノマーのこの合成法での重量収率は、40%を上回る。
【0035】
本発明の医薬は、有利には炎症性機序を調節することを目的とする。
【0036】
該医薬は、特に皮膚および/または粘膜のアレルギー、炎症もしくは免疫反応または病変の予防または処置を目的とする。本発明の医薬はまた、炎症ストレスに関連する免疫応答を抑制することも目的とする。
【0037】
本発明の医薬は、特に白血球(例えば、ヒト顆粒球、特にヒト好中球および肥満細胞)の活性化を抑制することを目的とする、前もって生成された、免疫反応のメディエーターの放出を妨げる医薬である。該医薬はまた、循環リンパ球と内皮細胞の接着抑制も可能にし、そうすることによってこれらの白血球の炎症部位への移行を抑制する。該医薬はさらに、白血球の補充および経内皮通過に寄与する、ケラチノサイトからのサイトカイン、Tリンパ球およびランゲルハンス細胞のアクチベーター(例えば、IL−1およびTNF−α)または接着分子(例えば、ICAM−1およびVCAM)の分泌抑制も可能にする。本発明の医薬はまた、ケラチノサイト過形成現象の抑制薬でもある。
【0038】
本発明の医薬はまた、皮膚の樹状細胞による抗原プロセシング、抗原提示細胞、すなわち、皮膚の樹状細胞およびランゲルハンス細胞の成熟、ならびにリンパ球と抗原提示細胞間の認識現象の抑制薬でもある。
【0039】
従って、本発明の医薬は、アトピー性および/または接触湿疹、炎症性皮膚疾患、刺激性皮膚炎、座瘡、自己免疫疾患、例えば、乾癬、光免疫抑制、白斑、粃糠疹、強皮症、関節リウマチ、クローン病および移植片拒絶からなる群から選択される疾病の予防または処置を目的とする。
【0040】
本発明の医薬はまた、老化に伴う慢性的な炎症問題およびそれらの影響の予防および処置も目的とする。該医薬は、特にアナフィラキシー過敏症、皮膚の色素異常症、皮膚の血管過剰増生および炎症性亀裂からなる群から選択される疾病の予防または処置を目的とする。
【0041】
本発明の変形によれば、該医薬は組成物または香料のアレルゲン性および/または刺激性を低減することを目的とする。
【0042】
本発明の医薬は、有利には0.001重量%〜50重量%の還元アルキル−糖を含有する。
【0043】
本発明の医薬は、いずれの経路による投与に対しても製剤することができる。該医薬は、有利には、局所、経口、皮下、注射、直腸および膣経路により投与することを目的として製剤化される。
【0044】
医薬が経口経路により投与することを目的として製剤される場合、前記医薬は水溶液、エマルション剤、錠剤、ゼラチンカプセル剤、カプセル剤、散剤、粒剤、液剤または経口懸濁剤の形態で与えられる。
【0045】
医薬が皮下経路により投与することを目的として製剤される場合、前記医薬または前記組成物は注射用滅菌アンプル剤の形態で与えられる。
【0046】
医薬が直腸の経路により投与することを目的として製剤される場合、前記医薬は坐剤の形態で与えられる。
【0047】
医薬が膣経路により投与することを目的として製剤される場合、前記医薬は膣坐剤の形態で与えられる。
【0048】
本発明の医薬は局所適用が好ましい。従って、該医薬は、例えば、水溶液、白もしくは有色のクリーム剤、ポマード、乳剤、ローション剤、ゲル剤、軟膏剤、漿液、ペースト剤、泡沫剤、エアゾール剤またはスティック剤の形態となるように製剤される。
【0049】
本発明の医薬の投与量は、疾病の処置を受ける人の体重と年齢によって変動する。当然、各患者の用量は医師によっても調整される。
【0050】
本発明はまた、敏感であるか、炎症を起こしているか、耐性がないか、アレルギー体質であるか、老化しているか、危険な徴候を示しているか、皮膚バリア障害を示しているか、皮膚の発赤を示しているかまたは内因性老化、外因性老化もしくはホルモン老化に関連する非病理学的免疫学的不均衡を示している、皮膚および/または粘膜の化粧処置のための方法であって、皮膚および/または粘膜に、水酸基、有利にはアノマー水酸基がC−C40、好ましくはC−C24のアルコキシ基によって置換されている少なくとも1つの還元−糖モノマーを含んでなる組成物を適用することからなる方法にも関する。
【0051】
本発明はまた、皮膚の自然老化を遅延させ、かつ/または外的攻撃を受けた皮膚の促進老化を予防する、特に皮膚の光老化を予防するための化粧処置方法であって、皮膚に、水酸基、有利にはアノマー水酸基がC−C40、好ましくはC−C24のアルコキシ基によって置換されている少なくとも1つの還元−糖モノマーを含んでなる組成物を適用することからなる方法にも関する。
【0052】
本発明の化粧処置方法において適用される化粧料用組成物は、有利には0.001重量%〜50重量%の還元アルキル−糖を含有する。還元糖は、有利にはラムノース、フコースおよびグルコースからなる群から選択される。
【0053】
ラムノース、フコースまたはグルコースは左旋性または右旋性立体配置のものであり得る。本発明の有利な変形によれば、ラムノース、フコースまたはグルコースは左旋性立体配置のものである。
【0054】
ラムノース、フコースまたはグルコースはα−またはβ−アノマー型であり得る。本発明のもう1つの有利な変形によれば、ラムノース、フコースまたはグルコースはα−アノマー型である。
【0055】
本発明の有利な変形によれば、アルコキシ基は5〜12個の炭素原子、好ましくは5〜8個の炭素原子を含む。本発明の有利な変形によれば、Rは、ペンチル、オクチル、デシルおよびウンデシルからなる群から選択される基を表す。
【0056】
本発明の範囲内において、還元アルキル−糖は、前述の方法によるかまたは当業者に公知の任意の他の方法により調製することができる。
【0057】
化粧料用組成物が局所経路により投与することを目的として製剤される場合、前記組成物は、例えば、水溶液、白もしくは有色のクリーム剤、ポマード、乳剤、ローション剤、ゲル剤、軟膏剤、漿液、ペースト剤、泡沫剤、エアゾール剤、シャンプー剤またはスティック剤の形態で与えられる。
【0058】
本発明の他の特徴および利点は、以下に示す実施例での説明により明らかとなる。これらの実施例では、次の図面を参照する。これらの図面および実施例は、本発明を例示することを目的とするものであり、いかなる場合においてもその範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【実施例】
【0059】
実施例1: ドデシル−ラムノシドの合成法
乾燥剤(CaCl)トラップを備えた冷却器にセットされた100ml二口丸底フラスコに、アルゴン下、2gのラムノース(1当量)および2モル当量(4.6g)の脂肪アルコール(ドデシルアルコール)を入れる。
【0060】
アルゴン下で維持した前記不均質混合物に0.1モル当量の酸触媒p−トルエンスルホン酸(PTSA)を加える。その媒質を70℃にて3時間攪拌する(磁気攪拌装置)。
反応後、その均質媒質を周囲温度まで冷却する。アルゴン下で攪拌した混合物にジクロロメタン溶液(20ml)およびスパチュラ1さじのNaHCOを加える。このようにして、その媒質を30分間放置する。
【0061】
その溶液を、次いでペーパーで濾過する。アルキル−ラムノシドを含む濾液(P2)を蒸発させ、粘性油状物に濃縮する。
このようにして、濾過後、P2 1.9gを回収し、シリカバッチ精製段階後、収率48%が達成されている。
【0062】
アルキル−ラムノシドの性質は、NMR、HPLCおよび質量分析により決定する。
質量分析はエレクトロスプレーにより実施されている。これらの分析は極性頭部の最大重合度が2であることを示す。
【0063】
250MHz NMR分析は、Brucker AC250 多核装置(Hの場合には250.13MHzで操作)においてCDClまたはDO中で行う。
クロマトグラフ分析は、C18グラフト化カラム(YMC-pack C18、平均孔径12nm、粒径5μm)およびLiChrospher 100 RP-8カラム(内径125×4mm)により逆相で実施する。選択する溶出剤はアセトニトリル−水(40−60)混合物であり、流速1.5ml/分、45℃にて使用する。検出器は、Sedex 45光散乱検出器である。
【0064】
これらの分析より、P2中に存在するアルキルラムノシドがドデシル−ラムノシドであると同定することが可能であった。
ペンチル−ラムノシド、オクチル−ラムノシド、デシル−ラムノシドおよびウンデシル−ラムノシドは、ドデシルアルコールを、それぞれ、ペンチルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコールおよびウンデシルアルコールに置き換えることによって同じ方法により合成することができた。
【0065】
実施例2: アルコールに対する糖の反応性
短鎖の直鎖アルコールの場合、アルコールに対する種々の糖の反応性は優れている。実際に、2つの化合物群、アルキル−ラムノシドおよびアルキル−グルコシドを考えるならば、ペンチル−糖で得られる結果は類似している。疎水性があまり高くないアルコールは、糖の優れた湿潤性によって良好な接触を確保するため、そうすることで反応性が高まる。より短鎖のアルコールで得られる収率は50%を上回ることが多い。
【0066】
鎖長が炭素数8より大きいアルコールの特定の場合、炭化水素鎖の長さが長くなるとアルキル−グルコシドの収率は非常に急速に低下する。実際に、アルコールの疎水性が高くなりすぎると、高度親水性グルコースとの接触が、確実に低下した。
【0067】
反応性のこのような低下は、ラムノースの場合にはかなり小さい(表1参照)。C12鎖の場合、アルキル−ラムノシドの収率はアルキル−グルコシドのものよりも約8倍高く、C16鎖の場合でも、6倍近く高い。
【0068】
【表1】

【0069】
表1では、略語Rhはラムノースを表し、略語Gluはグルコースを表す。従って、例えば、Rh−Cはペンチル−ラムノシドを表す。
【0070】
この反応性を説明する提示された理由の1つは、デオキシ−糖の疎水性がより高いことである。実際、6位のヒドロキシルを排除し、メチル基を存在させることによって、糖の疎水性を高めることが可能である。
【0071】
5位の炭素にメチル基を存在させることで、正の誘起効果により酸素の電子密度を高めることが可能であり、そうすることによって、反応機構において作用する中間体を安定化させることも可能である。従って、ラムノースは、脂肪アルコールに対してヘキソースよりも反応性が高い。
【0072】
実施例3: アルキル基鎖長の関数としてのアルキル−ラムノシドの物理的態様
、C、C、C10、C11の直鎖とオレイルを有するアルキル−ラムノシドは粘稠液形態である。
14、C16、C18およびC22の直鎖を有するアルキル−ラムノシドは固体形態である。
12の直鎖を有するアルキル−ラムノシドは高度に凝縮されたゲルである。
【0073】
実施例4: アルキル−ラムノシドの薬理学的解析
これらの炎症プロセスにおいて作用する種々の免疫細胞を研究した。それらの免疫細胞は皮膚の樹状細胞、内皮細胞、特定の白血球およびケラチノサイトである。
【0074】
1)細胞生存性の測定技術の原理
MTT[臭化3−(4,5−ジメチルジアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム]還元技術(Sigmaより販売)
この技術は、生存している、代謝的に活性な細胞の定量化を非放射性手法により可能にする比色試験である。MTTは、電位依存的にミトコンドリアの膜に結合するカチオン性分子である。ミトコンドリアレベルでは、MTTはミトコンドリアデヒドロゲナーゼによってホルマザンブルーに還元される。従って、死細胞は透明なままであるが、これとは対照的に生細胞は青色に染まる。生存度の測定は、この後、自動読取装置を使用した光学濃度の測定によって実施する。
【0075】
しかしながら、この解析方法は非接着細胞(単球および樹状細胞)よりも接着細胞(ケラチノサイトタイプ)に適しているように思われる。そのため、解析する分化細胞に対するオリゴラムノシドの細胞毒性について判断するために別の研究、すなわち、ヨウ化プロピジウムの存在下でのフローサイトメトリーが構想された。
【0076】
XTTテトラゾリウム塩還元技術
これは細胞増殖および生(代謝的に活性な)細胞数の定量化を放射性同位元素の取込みを行わずに可能にする技術である。XTT(黄色)は、MTTと同じく、電位依存的にミトコンドリアの膜に結合するカチオン性分子である。
【0077】
ミトコンドリアレベルでは、XTTはミトコンドリアテトラゾリウムレダクターゼによってホルマザン(橙色)に還元される。この方法は、MTT法よりもコストは高いが、そのプロトコールでは色素を放出するためのSDSによる細胞の溶解を必要としない。実際、還元生成物は細胞内で溶解している。従って、この方法はより迅速である。死細胞は無色のままであるが、これとは対照的に生細胞は処理を行っていない場合も行った場合も有色となった。ホルマザン生成物のレベルは分光光度計を波長450nmにて使用することによって検出され、そのレベルは代謝的に活性な細胞の数に正比例している。
【0078】
2)毒性試験
形成外科処置後の匿名提供者由来のヒト皮膚生検材料からケラチノサイトを単離し、培養下においた。同じ生成物濃度で処理した4ウェルの光学濃度(吸光度)測定値の平均をとった。この平均を4つの対照ウェルで得た測定値の平均と比較した(スチューデントt検定−平均値の比較−有意差p<0.05の場合95%にて、p<0.01の場合99%にて)。
【0079】
処理した細胞の生存度を100%の対照(未処理の細胞)に対する割合として表す(OD 処置済/OD 対照×100)。
ラムノースは最高濃度のものでさえ細胞毒性を示さなかった(表2参照)。
【0080】
【表2】

【0081】
ペンチル−ラムノシドは2mg/mlより高い濃度で細胞毒性を示す(表3参照)。ホスファチジルコリン多層小胞体についての研究で、明らかに高い濃度、約70g/lでは、洗浄力の効果が証明されなかったことを考えれば、この毒性はアルキル−ラムノシドによる脂肪の分解に関する効果では説明がつかない。
【0082】
【表3】

【0083】
また、ウンデシル−ラムノースおよびオクタデシル−ラムノースに関しても毒性試験を実施した。それら結果を以下の表4に示す:
【0084】
【表4】

【0085】
内皮細胞を培養下におき、不死化し、それらの表現型を安定させた。研究した細胞系は虫垂内皮細胞、脳微小血管内皮細胞、腸間膜リンパ節内皮細胞、末梢リンパ節内皮細胞および皮膚微小血管内皮細胞であった。
【0086】
細胞毒性試験は、テトラゾリウム塩、MTTの変換による生化学的検査を利用して実施した。得られた結果は極めて明確であり、ペンチル−ラムノシドについては毒性が認められない(図1および2参照)。生存度は、実際には常に85%を超えており、このことは研究した総ての細胞系に当てはまる。
図1:ラムノースの存在下での末梢リンパ節に由来する内皮細胞の生存度。
図2:ペンチル−ラムノシドの存在下での末梢リンパ節に由来する内皮細胞の生存度。
【0087】
図において、インキュベーションの4時間(タンパク質合成の開始に必要な時間である)に対応した刺激ピークが現れたことに特に注目してほしい。このピークの存在は、細胞にはオリゴラムノシドに対して耐性があり(毒性がないということ)、それらを同化するということを示していることから、興味深い。これらの生成物は培養培地を富化させるように思われる。
これらの結果は他の内皮細胞系の場合でも同様である。
【0088】
3)前炎症性培地で培養したヒト細胞へのアルキル−ラムノシドの影響
PMA刺激によりNHKによって放出されるPGEのアッセイ
アルキル−ラムノシドを、細胞上清へのPGE放出の抑制剤として評価した。これらの生成物をNHKと1ng/mlのPMAの同時存在下においた。4ウェルのNHKへの刺激について各試験条件を評価した。
【0089】
略語NHKは正常なヒトケラチノサイトを意味する。
略語PMAはホルボール−12−ミリステート−13−アセテートを意味する。
以下の表5にまとめた結果は、各細胞上清(刺激したものまたは刺激していないもの)から得た処置24時間後の平均PGE濃度値(pg/ml)であり、細胞量(μgで表す)として報告された。
【0090】
【表5】

【0091】
ペンチル−ラムノシドは濃度1mg/ml〜0.05mg/mlでより強い抑制(80%〜60%)を示している。その活性は0.02mg/mlまで低下している:29%抑制。
ペンチル−ラムノシドは濃度1mg/ml〜50μg/mlで60%〜80%の強い抑制を示している。
ウンデシル−ラムノシドは20μg/mlの範囲でペンチル−ラムノシドと同程度の活性を示し、同程度の炎症活性を与えることが示されている。
【0092】
4)内皮細胞とリンパ球間の接着
リンパ球と非活性化内皮細胞、特に皮膚に由来する内皮細胞系(HSkMEC)間の接着へのアルキル−ラムノシドの影響を評価した。これらの細胞を強力なアクチベーター、TNF−αの存在下においた。
【0093】
in vitroにおいて静止条件下で接着を行う。単層を得るために内皮細胞をウェルで培養した。細胞をアルキル−ラムノシドの存在下または不在下で5時間前処理した。ドデシル−ラムノシドは0.1容量%量の培養培地への溶解を要件とし、同様に、0.1%グリセロールを含有する対照も解析した。実際に、0.1%グリセロールはHSkMECへのリンパ球の接着を刺激する(31%)一方で、他の内皮細胞系に対しては効果はなかった。
【0094】
標識したリンパ球の懸濁液は、1内皮細胞に対し5リンパ球の比が得られる濃度とした。接着は周囲温度で30分間行った。標識は、膜または細胞生存性についての生物学的特性に影響を与えずに細胞の原形質膜の脂質と不可逆的に結合する。
【0095】
リンパ球の内皮細胞への接着をフローサイトメトリーにより定量した。
非活性化内皮細胞系への第1回接着試験では以下の結果が得られた。1.1mMペンチルラムノシドは、HPLNEC.B3へのリンパ球の接着の増加(37.9%)を促し、HMLNECへの接着においてはラムノースと比べて非常に高い増加を促す(96.7%)が、HSkMECへのリンパ球の接着においてはラムノースに対して37.3%の抑制効果を有し、HAPECおよびHBrMECに対しては全く効果がないかまたはごくわずかな効果しかない。
【0096】
1.5mMドデシル−ラムノシドは、HSkMECへのリンパ球の接着を34.2%減少させ、HAPECへの接着を44.1%増加させるが、HBrMEC、HPLNEC.B3およびHMLNECに対しては全く効果がない。
【0097】
以下の表5にまとめたリンパ球と活性化内皮細胞間の接着の結果は、3つの接着試験群より得たものである。
【0098】
【表6】

【0099】
1.5μMドデシル−ラムノシドの効果は、内皮細胞において63%の接着抑制であることが確認された。
【0100】
実施例5: 再生表皮におけるペンチル−ラムノシドの皮膚刺激性の評価
再生表皮における皮膚刺激性の評価は動物試験に代わる方法である。その原理は
- 乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出の定量化とMTTのテトラゾリウム塩への還元による細胞毒性の研究、
- インターロイキンIL1αおよびILの放出の定量化による炎症マーカーの研究
によって試験した生成物の刺激性の評価に基づいている。
これらの結果を以下の表6にまとめた。
【0101】
【表7】

【0102】
これらの結果は、濃度30%のペンチルラムノシドが弱刺激性物質であることを示している。
【0103】
実施例6: LLNA法によるペンチルラムノシドの感作性の研究
略語LLNAは局所リンパ節試験を意味し、この試験はモルモットを使用する感作性試験に代わる方法である。
【0104】
この試験では、耳のリンパ節におけるリンパ球の増殖を評価することによって試験物質の感作性を判定する。リンパ球の増殖は、トリチウム化メチルチミジンの取込みを測定することによって評価する。
これらの結果を以下の表7にまとめた。
【0105】
【表8】

【0106】
表7において、略語DPMは「壊変毎分」を意味し、ブランクは参照であり、DNCBはジニトロクロロベンゼン(感作対照)を意味する。
これらの結果は、濃度30%までのペンチル−ラムノシドが非感作性物質であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】ラムノースの存在下での末梢リンパ節に由来する内皮細胞の生存度。
【図2】ペンチル−ラムノシドの存在下での末梢リンパ節に由来する内皮細胞の生存度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基がC−C40のアルコキシ基によって置換されてなる、還元−糖モノマーの、医薬としての使用。
【請求項2】
還元−糖モノマー中の置換される水酸基がアノマー水酸基である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
アルコキシ基が5〜12個の炭素原子を含んでなる、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
還元糖がラムノース、フコースおよびグルコースからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
医薬が、炎症性機序を調節することを目的とするものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
医薬が、皮膚および/または粘膜のアレルギー、炎症もしくは免疫反応または病変の予防または処置を目的とするものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
医薬が、炎症ストレスに関連する免疫応答を抑制することを目的とするものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
医薬が、白血球の活性化、ケラチノサイトからのサイトカインの分泌、ケラチノサイト過形成現象、皮膚の樹状細胞による抗原プロセシング、抗原提示細胞の成熟およびリンパ球と抗原提示細胞間の認識現象を抑制することを目的とするものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
医薬が、アトピー性および/または接触湿疹、炎症性皮膚疾患、刺激性皮膚炎、座瘡、自己免疫疾患、例えば、乾癬、光免疫抑制、白斑、粃糠疹、強皮症、関節リウマチ、クローン病および移植片拒絶からなる群から選択される疾病の予防または処置を目的とするものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
医薬が、老化に伴う慢性的な炎症問題およびそれらの影響の予防および処置を目的とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
医薬が、アナフィラキシー過敏症(anaphylactic sensitivities)、皮膚の色素異常症、皮膚の血管過剰増生および炎症性亀裂からなる群から選択される疾病の予防または処置を目的とするものである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
医薬が、組成物または香料のアレルゲン性および/または刺激性を低減することを目的とするものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
医薬が、0.001重量%〜50重量%の前記還元−糖モノマーを含有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
敏感であるか、炎症を起こしているか、耐性がないか、アレルギー体質であるか、老化しているか、危険な徴候を示しているか、皮膚バリア障害を示しているか、皮膚の発赤を示しているかまたは内因性老化、外因性老化もしくはホルモン老化に関連する非病理学的免疫学的不均衡を示している、皮膚および/または粘膜の化粧処置方法であって、
皮膚および/または粘膜に、水酸基、有利にはアノマー水酸基が、C−C40のアルコキシ基によって置換されている少なくとも1つの還元−糖モノマーを含んでなる組成物を適用することからなる、方法。
【請求項15】
皮膚の自然老化を遅延させ、かつ/または外的攻撃を受けた皮膚の促進老化を予防するための、特に皮膚の光誘導老化を予防するための化粧処置方法であって、
皮膚に、水酸基、有利にはアノマー水酸基が、C−C40のアルコキシ基によって置換されている少なくとも1つの還元−糖モノマーを含んでなる組成物を適用することからなる、方法。
【請求項16】
還元糖がラムノース、フコースおよびグルコースからなる群から選択される、請求項14または15に記載の化粧処置方法。
【請求項17】
アルコキシ基が5〜12個の炭素原子を含んでなる、請求項14〜16のいずれか一項に記載の化粧処置方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−229226(P2012−229226A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−137119(P2012−137119)
【出願日】平成24年6月18日(2012.6.18)
【分割の表示】特願2006−537367(P2006−537367)の分割
【原出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(500166231)ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク (30)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【Fターム(参考)】