説明

炭素繊維ストランド、そのチョップ及びそれら製造方法

【課題】熱分解ガスの発生量が少なく、集束性に優れる炭素繊維ストランドを提供する。
【解決手段】炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡されている炭素繊維ストランドであって、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解ガスの発生量が少なく、集束性に優れる炭素繊維ストランド、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維ストランドは、サイズ剤を用いて集束させてなる、樹脂成型品等の補強用の繊維束である。炭素繊維ストランドは、例えば熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の製造等に用いられ、炭素繊維ストランドを用いて、シート・モールディング・コンパウンド(SMC法)、バルク・モールディング・コンパウンド(BMC)法、ハンドレイアップ法等により複合材料が製造される。
【0003】
また、炭素繊維ストランドは、熱可塑性樹脂、特にエンジニアリングプラスチックをマトリックス樹脂とする複合材料の製造に多用される。
【0004】
上記炭素繊維ストランドは、通常単繊維数3,000本(3K)乃至50,000本(50K)程度の単繊維がエマルジョン系サイズ剤で束状に集束されている。
【0005】
上記炭素繊維ストランドを長さ1〜10mmに切断した炭素繊維チョップは、樹脂ペレットと共に直接射出成型機に投入され、射出成形されたり、或は樹脂ペレットあるいは樹脂パウダーとともに押出機で溶融混練されて予めペレット化され、このペレットを射出成形する等の方法により、複合材料が製造される。
【0006】
炭素繊維チョップは、射出成型機やペレット製造用の押出機等に定量的かつ安定的に供給できるように、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の種々のサイズ剤により集束されている。サイズ剤の付着量は、通常2〜20質量%の場合が多い。
【0007】
上記サイズ剤が付着した炭素繊維ストランドと熱可塑性樹脂とを用いて、これらを押出し、射出成形する場合、又は上記ペレットを製造する場合、炭素繊維ストランドに付着したサイズ剤が、高温の押出機、射出成形機のシリンダー内部で熱変性され、その結果シリンダー内で熱分解ガスが発生し易い。その結果、成形性、作業性等が悪化する問題がある。
【0008】
一方、エマルジョン系サイズ剤が通常量付着した炭素繊維チョップドストランドを、予め押出温度、又は射出成形温度以上の高温で熱処理した炭素繊維チョップドストランドが提案されている(特許文献1)。この炭素繊維チョップドストランドの場合は、前記分解ガスの発生量は低下する。しかし、この熱処理はかなり長時間を要するため、炭素繊維チョップドストランドの生産性は低下する。
【0009】
特許文献2には、炭素繊維ストランドを10〜70(1/m)の交絡処理をした後、1〜10%のエマルジョン系サイズ剤を付与する炭素繊維ストランドの製造方法が開示されている。なお、特許文献2の実施例、比較例に記載されているエマルジョン系サイズ剤付着量は、3%のみである。この炭素繊維ストランドは、交絡数が少ないので、エマルジョン系サイズ剤の付着量を3%よりも少量にすると、押出し機等のホッパー内でばらけてファイバーボールを形成しやすい。従って、実際には、エマルジョン系サイズ剤付着量は、3%以上にする必要がある。しかし、この場合は、前記分解ガスの発生量を低減させることは期待できない。
【特許文献1】特開平10−1877号公報(請求項2)
【特許文献2】特開2000−248432号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、上記問題を解決するために種々検討しているうちに、炭素繊維ストランドの交絡数を極端に高くすることに想到した。即ち、本発明者は以下のように考えた。炭素繊維ストランドの交絡数が極端に高い場合は、簡単に開繊されたり、ばらけたりし難い。従って、サイズ剤の付着量を低減でき、その結果炭素繊維チョップを用いて樹脂成型をする場合、押出し機等のシリンダー内における分解ガス発生量は低減される。なお、分解ガス発生量は、後述する所定の加熱条件におけるサイズ剤付着量の減少量に比例する。従って本発明においては分解ガス発生量の指標としてサイズ剤を付与した炭素繊維ストランドを加熱した際の質量減少率を用いる。
【0011】
一方、シリンダー内で混練されている炭素繊維チョップは炭素繊維が短く折られて炭素繊維チョップから離脱し、容易に溶融樹脂中に分散していく。その結果、得られる成型品は炭素繊維が充分均一に分散されたものになる。
【0012】
本発明は、上記発想を基礎として完成するに至ったものである。
【0013】
従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決する炭素繊維ストランド、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
〔1〕 炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡されている炭素繊維ストランドであって、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランド。
〔2〕 炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡されている炭素繊維ストランドであって、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着してなり、チョップを製造した際のチョップのフリーファイバー率が8%以下であり、300℃で30分加熱による質量減少率が0.5%以下である炭素繊維ストランド。
〔3〕 炭素繊維同士を交絡数80〜200/mで互いに交絡する交絡工程と、交絡した炭素繊維ストランドにサイズ剤を付与するサイズ剤付与工程と、サイズ剤を付与した炭素繊維ストランドを200〜400℃のヒートローラーと接触させて前記サイズ剤の低温分解成分を分解除去する分解除去工程とを有する、炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡され、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランドの製造方法。
〔4〕 炭素繊維ストランドにサイズ剤を付与するサイズ剤付与工程と、前記サイズ剤を付与した炭素繊維ストランドの炭素繊維同士を交絡数80〜200/mで互いに交絡する交絡工程と、サイズ剤を付与した炭素繊維ストランドを200〜400℃のヒートローラーと接触させて前記サイズ剤の低温分解成分を分解除去する分解除去工程とを有する、炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡され、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランドの製造方法。
〔5〕 サイズ剤浴中で炭素繊維同士を交絡数80〜200/mで交絡すると共にサイズ剤を付与するサイズ剤付与工程と、前記サイズ剤を付与した炭素繊維ストランドを200〜400℃のヒートローラーを接触させて前記サイズ剤の低温分解成分を分解除去する分解除去工程とを有する、炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡され、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランドの製造方法。
〔6〕 〔3〕〜〔5〕の何れかで製造された炭素繊維ストランドを所定長さで切断する炭素繊維チョップの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭素繊維ストランドは、交絡数が高いので、従来と比較して小量のサイズ剤の付着量で充分炭素繊維を集束できる。本炭素繊維ストランドは、サイズ剤の付着量が0.1〜1.5質量%と少ないので、高温時においてサイズ剤の分解に基因して生じる炭素繊維ストランドの質量減少率が少ない。即ち、生成する熱分解ガスの量が少ない。従って、本炭素繊維ストランドを切断して得られる炭素繊維チョップを補強材とする複合材料を高温の押出機、射出成形機を用いて製造する場合に、シリンダー内部で熱分解ガスの発生が少なく、高品位の複合材料を簡単に製造できる。本発明の製造方法によれば、上記優れた特性を有する炭素繊維ストランド及び炭素繊維チョップを安価に製造することができる。
【0016】
特に炭素繊維ストランドの製造の際に、ヒートローラーと接触させる分解除去工程を採用する場合は耐熱性が高く、且つ集束性が高く、チョップにした際のフリーファイバー率8%以下で、成形性、作業性に優れる炭素繊維ストランドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の炭素繊維ストランドは炭素繊維の単繊維が複数集束されてなる。
【0019】
炭素繊維ストランドを構成する単繊維は、特に制限がなく、各種の公知の炭素繊維を用いることが出来る。例えば、レーヨン、ポリアクリロニトリル、ピッチ、リグニン、炭化水素ガスを用いて製造された炭素繊維や黒鉛質繊維等が例示される。これらの中でも、ポリアクリロニトリルを原料とするアクリル系炭素繊維が、強度、弾性率等の物性の良さ、及び入手の容易さの点で好ましい。
【0020】
炭素繊維径は特に限定されないが、汎用性、製造コスト、性能の点で4〜10μmが好ましく、4〜8μmがより好ましい。
【0021】
炭素繊維ストランドを構成する単繊維の集束数は3000〜50000本が好ましく、12000〜24000本がより好ましい。
【0022】
炭素繊維ストランドを構成する単繊維は、炭素繊維ストランド内で単繊維相互間で交絡されている。交絡数は、80〜200/mで、100〜180/mが好ましく、105〜170/mがより好ましい。交絡数が80/m未満の場合は、集束性が不足し、押出し機等のホッパー内でばらけてファイバーボールを形成しやすくなる。交絡数が200/mを超える場合は、特に問題は生じないが、交絡数を増やす利点が無い。
【0023】
炭素繊維ストランドには、エマルジョン系サイズ剤又は溶媒系のサイズ剤が付着している。環境上の観点等から、エマルジョン系サイズ剤が好ましい。エマルジョン系サイズ剤の付着量は分散媒を除く正味のサイズ剤として0.1〜1.5質量%であり、0.1〜1.2質量%が好ましく、0.1〜1質量%未満がより好ましい。エマルジョン系サイズ剤の付着量は、可能な限り少ない方が好ましい。成型時の熱分解ガスの発生量を低減できるからである。
【0024】
エマルジョン系サイズ剤は、複合材料を製造する際に用いるマトリックス樹脂との相溶性の高いものが好ましい。エマルジョン系サイズ剤はマトリックス樹脂の種類に応じ適宜選択することが好ましい。
【0025】
公知のエマルジョン系サイズ剤としては、エポキシ樹脂系、ポリアミド樹脂系、ウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系、ポリイミド樹脂系、フェノール樹脂系等のサイズ剤が例示される。これらのサイズ剤のうちでも、耐熱性が高いものが好ましい。耐熱性が高いサイズ剤としては、大気中で300℃で30分間加熱した時の質量減少率が %以下のものが好ましく、 %以下のものがより好ましい。ポリアミド樹脂は、高靭性で集束性に優れ、また通常融点を持つため、マトリックス樹脂への炭素繊維ストランドの分散性を良好にする。
【0026】
本炭素繊維ストランドは、サイズ剤の付着量が従来と比較して少ないので耐熱性が高く、大気中で300℃で30分間加熱したときの質量減少率は、0.5%以下である。特に後述するヒートローラーと接触してサイズ剤の低温分解成分を分解除去する工程を採用する場合は、更に低い質量減少率を示すストランドが得られる。上記炭素繊維ストランドを公知の方法で切断することにより、炭素繊維チョップが製造される。
【0027】
炭素繊維チョップの長さは、3〜15mmで、5〜10mmが好ましい。長さが3mm未満の炭素繊維チョップは、複合材料を製造する場合、マトリックスとなる合成樹脂に対する補強性能が不足する。15mmを超える炭素繊維チョップは、ホッパーからシリンダーへの供給安定性が低下するため好ましくない。炭素繊維チョップの嵩密度は高く、250g/L以上で、好ましくは350g/L以上である。更に、フリーファイバー率は8%以下、好ましくは2%以下で、より好ましくは1%以下である。
【0028】
上記炭素繊維ストランドは、何れの方法で製造しても良いが、以下に示す方法で製造することが好ましい。
【0029】
(炭素繊維ストランドの製造方法)
第1の製造方法
本炭素繊維ストランドの第1の製造方法においては、出発原料の炭素繊維束は、前記炭素繊維ストランドの説明において既に述べたように、種々の原料で製造された長尺の炭素繊維からなる単繊維を、3000〜50000本集束してなる連続した炭素繊維束である。
【0030】
この炭素繊維束は、先ず交絡処理工程において、交絡処理される。交絡処理は、繊維束に対して直角方向から空気等の流体を高速で吹き付けることにより行われる。交絡処理により、炭素繊維束は、前述のように、交絡数が80〜200/mになる。交絡処理自体は公知のものである。
【0031】
本発明において、交絡数は、フックドロップ法による交絡値(CF値)で定義される。フックドロップ法による交絡値の測定方法は以下の通りである。
すなわち、炭素繊維ストランドの下端に200gの重りを付けて垂下げる。この炭素繊維ストランドに10gの重りを付けた鉤針を刺し、落下する距離を測定する。50回測定し、最大の値から大きい順に10個、最小の値から小さい順に10個を除き、残る30個の測定値の平均値をX(cm)とする。下式(1)より交絡値(CF値)が算出される。
CF値=100/X (1/m) (1)
交絡処理された炭素繊維ストランドには、次いでサイズ剤付与工程において、サイズ剤の正味量として、0.1〜1.5質量%のサイズ剤が付着する。サイズ剤は、エマルジョン系サイズ剤又は溶媒系サイズ剤が好ましい。サイズ剤は前述のように公知のものが使用できる。これらのサイズ剤のうちでも、耐熱性が高いサイズ剤が好ましい。
【0032】
エマルジョン系サイズ剤の付与方法は、スプレー法、液浸法、転写法等の既知の方法を採択し得るが、液浸法が汎用性、効率性、付着の均一性に優れるので好ましい。
【0033】
液浸法においては、炭素繊維ストランドをエマルジョン系サイズ剤液に浸漬する際に、エマルジョン系サイズ剤液中に設けられた液没ローラ又は液浸ローラを用いて開繊と絞りが繰り返され、ストランドの中心部までエマルジョン系サイズ剤が含浸されるようにすることが好ましい。
【0034】
エマルジョン系サイズ剤が水エマルジョン形態の場合、炭素繊維ストランドに付着されるサイズ量を適正化する上で、エマルジョン系サイズ剤の濃度は1〜100g/L、25℃での溶液粘度は0.1〜100ポアズに調節されることが好ましい。エマルジョン系サイズ剤が付与される際のエマルジョン系サイズ剤の浴温度は0〜50℃が好ましい。エマルジョン系サイズ剤の付着量を制御するため、エマルジョン系サイズ剤の付与された後、スクイズ処理工程が設けられていても良い。
【0035】
サイズ剤が付着した炭素繊維ストランドは、次いで乾燥される。乾燥は、80〜120℃の乾熱空気中に炭素繊維ストランドを通過させる方法が例示される。
【0036】
この様にして製造される本炭素繊維ストランドは、サイズ剤の付着量が従来の炭素繊維ストランドと比較し、0.1〜1.5質量%と大きく低減されている。このため、この炭素繊維ストランドは、300℃で30分間加熱時の質量減少率が0.5質量%以下と小さい。
【0037】
なお、第1の製造方法においては、交絡処理を行った後、サイズ剤を付与したが、これに限られず、サイズ剤を付与した後交絡処理をするようにしても良い。
【0038】
第2の製造方法
第2の製造方法においては、先ずサイズ剤付与交絡工程において、炭素繊維ストランドに0.1〜1.5質量%のサイズ剤を付与しながら交絡を同時に行う。
【0039】
サイズ剤付与交絡工程においては、サイズ浴中のサイズ剤液に炭素繊維ストランドを浸漬しながら、サイズ剤液の液流を炭素繊維ストランドに噴射することにより、サイズ剤の付与と、交絡とを同時に行う。その後、サイズ剤が付与され、交絡された炭素繊維ストランドは、乾燥される。乾燥条件は前述の通りである。その他の製造条件は第1の製造方法と同様である。
【0040】
第3の製造方法
第3の製造方法においては、上記第1、第2の製造方法で製造する本発明の炭素繊維ストランドを、更にヒートローラーと接触させて前記サイズ剤中に含まれる低温分解成分を分解除去させる(分解除去工程)。
【0041】
ヒートローラーの温度は200〜400℃が好ましく、250〜350℃がより好ましい。ヒートローラーとの接触時間は、30〜120秒が好ましく、30〜60秒がより好ましい。ヒートローラーは1本でも良いが必要により複数本のローラーを連設し、炭素繊維ストランドを複数本のローラーと順次接触するようにしても良い。
【0042】
炭素繊維ストランド中のサイズ剤量は、この分解除去工程により減少する。従って、第3の製造方法においては、原料の炭素繊維ストランドにサイズ剤を付与する際には、予めサイズ剤の減少量を見込んで、1.5質量%以上、好ましくは1.6〜2質量%の余分のサイズ剤を付与しておいても良い。第3の製造方法においては、この余分のサイズ剤は、ヒートローラーで加熱分解されて、本発明のサイズ剤付着量の範囲0.1〜1.5質量%内に収る。
【0043】
第3の製造方法で製造する炭素繊維ストランドは、300℃で30分間加熱する際に、第1、又は第2の製造方法で製造する炭素繊維ストランドよりも更に低い質量減少率を示す。
【0044】
(炭素繊維チョップの製造方法)
本発明の炭素繊維チョップは、上記炭素繊維ストランドの製造方法により製造される炭素繊維ストランドを所定の長さに切断することにより製造される。
【0045】
炭素繊維チョップの長さは、3〜15mmで、3〜10mmが好ましい。長さが3mm未満の炭素繊維チョップは、複合材料を製造する場合、補強性能が不足する。15mmを超える炭素繊維チョップは、シリンダー内で切断される割合が増加し、特に長くする利点はない。
【0046】
切断方法としては、ロービングカッター等のロータリー式カッターや、ギロチンカッター等の通常用いられているカッターを適宜用いることが出来る。
【0047】
本発明の炭素繊維ストランドは、各種熱可塑性樹脂の補強材として公知の各種用途に使用できる。
【0048】
本発明の炭素繊維チョップは、各種熱可塑性樹脂と混練してペレット化し、これを成形することにより各種複合材料を製造できる。或は、炭素繊維チョップとマトリックスになる熱可塑性樹脂とを、成型機のホッパーに直接供給し、成型することにより、複合材料を製造できる。
【0049】
複合材料のマトリックス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール等の汎用エンジニアリングプラスチックが多く採用される。また、ポリプロピレンやABS等の汎用プラスチックやポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性の芳香族ポリエステル等の耐熱性ポリマー類も使用される。本発明の炭素繊維ストランド又は炭素繊維チョップが補強材として使用できるマトリックス樹脂は特に限定されないが、成型温度の高い汎用エンジニアリングプラスチックが特に好ましい。
【0050】
本炭素繊維ストランド又は炭素繊維チョップの、マトリックス樹脂に対する配合量は、特に制限が無く、製造される複合材料に応じて、通常の公知の配合量が適宜選択される。通常はマトリックス樹脂100質量部に対して5〜30質量部配合することが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0052】
各測定値は、下記方法により求めた。
【0053】
(エマルジョン系サイズ剤付着量)
サイズ剤の付着した炭素繊維ストランドを約5g採取し、質量(W1)を測定した。予め恒量にした坩堝の質量(W2)を量った後、前記炭素繊維ストランドを坩堝に入れ、窒素雰囲気下450℃±5℃に保たれた熱風循環式乾燥機内で30分熱処理を行った。坩堝ごとデシケーターに入れ室温まで冷却し、炭素繊維ストランドが入った坩堝の質量(W3)を測定した。サイジング剤付着量を次式(2)により求めた。
【0054】
サイズ剤付着量(%)=(W1+W2−W3)/(W3−W2)×100 (2)
(分解ガス発生量)
予め乾燥してあるルツボの質量を測定し(W1 mg)、これに約10gの炭素繊維ストランドを入れて、その質量を測定した(W2 mg)。この炭素繊維ストランドを入れたルツボを予め300℃に加温した熱風循環式の乾燥器(TABAIESPEC CORP.製STRH−100)の中に入れ、10分間熱処理した後、乾燥器から取り出す。このルツボをシリカゲル入りのデシケ−タ−中で室温まで自然冷却させた後、ルツボの質量を測定し(W3 mg)、質量減少率を次の式(3)により算出した。
【0055】
質量減少率(%)=[(W2 −W3)/(W2−W1)]×100 (3)
この質量減少率は、分解ガス発生量とみなすことができる。
【0056】
(フリーファイバー率)
500mlのビーカーに、その上方30cmの高さより、炭素繊維チョップを落としてビーカー上端を超えて山盛り状態になるまで充填した。その後、500mlのビーカーの上端以上に盛上がっている炭素繊維チョップをガラス棒を用いてすり切りまで除去し、このときの炭素繊維チョップ(W6 g)の質量を測定した。さらに、この炭素繊維ストランドを2000mlのメスシリンダーに移し、密閉し、メスシリンダーの軸を中心軸として、20分間25rpmで回転した。メスシリンダーの回転を停止し、試料を篩(チョップ長が1〜5mmの場合は5メッシュ、チョップ長が6〜10mmの場合は4メッシュ)に移し、試料が篩の目から落下しなくなるまで前後左右に動かして篩分けした。篩に残ったフリーファイバーを採取し、その質量(W7 g)を測定し、フリーファイバー発生率を次の式(4)により算出した。
【0057】
フリーファイバー発生率(%)=(W7/W6)×100 (4)
実施例1〜5
上記製造方法により、本発明の炭素繊維ストランドを製造した。表1に記載するように、炭素繊維径が7μm、24k(24000本の単繊維を集束)の炭素繊維ストランドにウレタン系エマルジョン系サイズ剤を付与した。付着量は、サイズ剤の正味量で、分散媒は含まない。
【0058】
次に、炭素繊維ストランドをヒートローラーと接触させ表1に記載の熱処理条件で加熱処理した。
【0059】
次に、高圧空気を用いてエマルジョン系サイズ剤を付与した炭素繊維束の交絡処理をした。
【0060】
交絡処理は、ドーナツ状のリングの内周面に、直径2mmの穴を内周に沿って60度離れて6箇配置した交絡処理器のリング中をサイズ剤を付与した炭素繊維ストランドを通過させ、空気を吹き付けることにより行った。
【0061】
製造した炭素繊維ストランドを6mmの長さに切断した。得られた炭素繊維チョップを用いて、フリーファイバー率(%)、分解ガス発生量(%)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0062】
比較例1〜2
実施例と同様にして、フリーファイバー率(%)と分解ガス発生量(%)を測定した。結果を表1にまとめた。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡されている炭素繊維ストランドであって、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランド。
【請求項2】
炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡されている炭素繊維ストランドであって、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着してなり、チョップを製造した際のチョップのフリーファイバー率が8%以下であり、300℃で30分加熱による質量減少率が0.5%以下である炭素繊維ストランド。
【請求項3】
炭素繊維同士を交絡数80〜200/mで互いに交絡する交絡工程と、交絡した炭素繊維ストランドにサイズ剤を付与するサイズ剤付与工程と、サイズ剤を付与した炭素繊維ストランドを200〜400℃のヒートローラーと接触させて前記サイズ剤の低温分解成分を分解除去する分解除去工程とを有する、炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡され、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランドの製造方法。
【請求項4】
炭素繊維ストランドにサイズ剤を付与するサイズ剤付与工程と、前記サイズ剤を付与した炭素繊維ストランドの炭素繊維同士を交絡数80〜200/mで互いに交絡する交絡工程と、サイズ剤を付与した炭素繊維ストランドを200〜400℃のヒートローラーと接触させて前記サイズ剤の低温分解成分を分解除去する分解除去工程とを有する、炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡され、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランドの製造方法。
【請求項5】
サイズ剤浴中で炭素繊維同士を交絡数80〜200/mで交絡すると共にサイズ剤を付与するサイズ剤付与工程と、前記サイズ剤を付与した炭素繊維ストランドを200〜400℃のヒートローラーを接触させて前記サイズ剤の低温分解成分を分解除去する分解除去工程とを有する、炭素繊維の単繊維が3000〜50000本集束されて交絡され、交絡数が80〜200/mで、サイズ剤が0.1〜1.5質量%付着している炭素繊維ストランドの製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5の何れかで製造された炭素繊維ストランドを所定長さで切断する炭素繊維チョップの製造方法。



【公開番号】特開2010−126840(P2010−126840A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302992(P2008−302992)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】