説明

点火動作検査機能を有するエンジン用点火装置、エンジン用点火装置の点火動作検査装置及び点火動作検査機能を有するエンジン用点火装置の高圧コード

【課題】点火プラグで火花放電が生じているか否かの検査と、点火プラグで生じている放電の極性の検査とを行う機能を備えたエンジン用点火装置を提供する。
【解決手段】点火コイル2Aと点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路2Bとを備えて、点火コイルの二次コイルがエンジンの気筒に取りつけられた点火プラグPLに高圧コード1を通して接続されるエンジン用点火装置において、点火コイルの二次コイルw2とエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグPLとの間をつなぐ回路の途中に点火動作検知部103が挿入されている。点火動作検知部103は、互いに逆並列接続されて点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードLED1,LED2を備えていて、これらの発光ダイオードの発光を外部から目視し得るように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを点火するエンジン用点火装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン用点火装置は、点火コイルと、該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路と、一次電流制御回路に点火信号を与える時期(点火時期)を制御する点火時期制御部とにより構成される。一次電流制御回路は、コンデンサに蓄積しておいた電荷を点火時期に点火コイルの一次コイルを通して放電させるコンデンサ放電式の回路や、点火コイルの一次コイルに流しておいた電流を点火時期に遮断する電流遮断式の回路からなっている。一次電流制御回路は、点火信号が与えられたときに点火コイルの一次電流に急激な変化を生じさせて、点火コイルの二次コイルに点火用の高電圧を誘起させる。この高電圧は高圧コードを通して点火プラグに印加されるため、点火プラグで火花放電が生じ、エンジンが点火される。
【0003】
エンジンを始動することができなかったり、エンジンがストールしたりする故障が生じた場合、その故障の原因の1つとして、点火装置で何らかの異常が生じて、エンジンの点火が正常に行われなくなったことが考えられる。従来、点火装置の異常の有無を検査する際には、点火プラグをエンジンから外した状態でエンジンの始動操作を行って、点火プラグの放電ギャップで火花が飛ぶか否かを確認していた。
【0004】
しかしながら、この方法では、点検の際にいちいち点火プラグをエンジンから外す必要があるため、点検作業に手間がかかり、面倒であった。
【0005】
なお特許文献1に示されているように、点火プラグから外した点火装置の高圧コードをそのまま接続し得る形状の高圧コード接続端子と、この高圧コード接続端子に接続された非接地側の放電電極と、この放電電極に対向させられた接地側放電電極と、両放電電極を収納したケースと、接地側放電電極を接地電位部に接続する接地線とを備えて、該ケースに放電電極間のギャップを観察するための窓を設けた構造の検査具が提案されている。
【0006】
この検査具により点火装置の検査を行う際には、先ず点火装置の高圧コードを点火プラグから外して、外した高圧コードを検査具の高圧コード接続端子に接続し、接地側放電電極に接続された接地線をアース電位部に接続する。この状態で、エンジンの始動操作を行って、ケースの覗き窓から放電電極で火花が飛ぶかどうかを観察する。
【0007】
またエンジンを点火する点火装置ではなく、燃焼装置のバーナに点火する点火装置に用いられるものではあるが、火花放電を利用した点火装置の点火動作を確認する装置として、特許文献2に記載されたものがある。この確認装置では、点火装置に直列に放電管を挿入して、点火プラグで火花放電が行われたときに生じる該放電管の発光を確認することにより、点火プラグで火花が生じているか否かの確認を行うようにしている。
【特許文献1】特開平11−74058号公報
【特許文献2】特開平8−105626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示された検査具を用いれば、点火装置の一次電流制御回路と点火コイルと高圧コードとからなる部分が正常であるか否かを検査することができる。しかしながら、この検査具は、高圧コードをエンジンの気筒に取りつけた点火プラグから外した状態で、検査具の放電ギャップを通して放電を行わせることにより点火装置の動作をチェックするものであるため、エンジンの気筒に取りつけられた点火プラグで正常に火花放電が生じているか否かを確認することはできない。従ってこの検査具は、エンジンの気筒に取りつけられている点火プラグの放電電極が汚損していたり、消耗していたりして、点火プラグで火花放電が生じることができない状態にある可能性があるときに、それを確認する目的には用いることができない。
【0009】
また、特許文献2に示された確認装置をエンジン用点火装置に応用した場合、点火プラグで火花放電が生じているか否かを知ることができるが、この確認装置では、点火プラグで生じている火花放電がマイナスDC放電か、プラスDC放電か、或いはAC放電かを検査することができない。
【0010】
エンジン用点火装置では、点火装置の構成により、点火プラグで生じている火花放電をマイナスDC放電としたり、プラスDC放電としたり、或いはAC放電としたりする。通常は、放電効率を高くするために、点火プラグでマイナスDC放電を行わせるように点火装置が構成されることが多いが、多気筒エンジンを点火する点火装置では、エンジン側の要請により、すべての気筒でマイナスDC放電を行わせるのではなく、一部の気筒でプラスDC放電を行わせるように設計される場合もある。また点火コイルとして、二次コイルの一端及び他端がそれぞれ異なる気筒の点火プラグに接続される同時発火コイルを用いる場合には、二次コイルの一端及び他端にそれぞれ接続される2つの点火プラグの内の一方ではマイナスDC放電が行われ、他方ではプラスDC放電が行われる。この場合、マイナスDC放電及びプラスDC放電を行わせる気筒は、エンジンを設計する際に予め決められている。
【0011】
上記のように、エンジンの点火装置では、点火プラグで生じさせる放電の極性が予め定められているが、点火コイルの一次コイルと一次電流制御回路との間の回路の結線が誤っていると、点火プラグで生じる放電の極性が所期の極性と逆の極性になり、そのままの状態でエンジンが運転されると、エンジンから十分な性能を引き出すことができない。従って、エンジン用の点火装置では、点火装置をエンジンに装着した状態で、点火プラグで所期の極性の放電が行われているか否かを確認することができるようにしておくことが好ましい。
【0012】
上記のように、特許文献1に示された検査具では、エンジンの気筒に取りつけられている点火プラグで火花放電が生じているか否かの確認を行うことができなかった。また特許文献2に記載された確認装置をエンジン用の点火装置に応用した場合には、点火装置をエンジンに取りつけた状態で点火プラグに生じる放電の極性が正しいか否かを検査することができなかった。
【0013】
本発明の目的は、エンジンの気筒に取りつけられている点火プラグで火花放電が生じているか否かの検査と、点火プラグで生じている放電の極性の検査とを行うための情報を提供する機能を備えたエンジン用点火装置を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、エンジンの気筒に取りつけられている点火プラグで火花放電が生じているか否かの検査と、点火プラグで生じている放電の極性の検査とを行うための情報を提供する機能を備えたエンジン用点火装置の検査装置を提供することにある。
【0015】
本発明の更に他の目的は、エンジンの気筒に取りつけられている点火プラグで火花放電が生じているか否かの検査と、点火プラグで生じている放電の極性の検査とを行うための情報を提供する機能を備えたエンジン用点火装置の高圧コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、点火コイルと該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路とを備えて、点火コイルの二次コイルがエンジンの気筒に取りつけられた点火プラグに高圧コードを通して接続されるエンジン用点火装置に係わるものである。
【0017】
本発明に係わる点火装置においては、点火コイルの二次コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間をつなぐ回路の途中に点火動作検知部が挿入されている。点火動作検知部は、互いに逆並列接続されて点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えていて、該1対の発光ダイオードの発光を外部から目視し得るように構成されている。
【0018】
上記のように、互いに逆並列接続されて高圧コードを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えた点火動作検知部が点火コイルの二次コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間をつなぐ回路の途中に挿入されていると、点火プラグで火花放電が生じたときに放電電流がいずれかの発光ダイオードを通して流れ、放電電流が流れた方の発光ダイオードが発光する。即ち、点火プラグでマイナスDC放電が生じたときには、1対の発光ダイオードのうち、カソードが点火プラグ側に向いた発光ダイオードが発光し、点火プラグでプラスDC放電が生じたときには、アノードが点火プラグ側に向いた発光ダイオードが発光する。またAC放電が生じているときには、双方の発光ダイオードが交互に発光する。従って、本発明によれば、点火プラグで火花放電が生じているか否かを知ることができるだけでなく、点火プラグで生じている放電の極性をも知ることができる。
【0019】
上記の点火動作検知部は、エンジンの運転中常時動作させておくようにしてもよいが、点火動作検知部に1対の発光ダイオードの逆並列回路を側路するバイパススイッチを設けて、エンジンの定常運転時には該バイパススイッチを閉じることにより放電電流が発光ダイオードの逆並列回路を通ることなく流れるようにしておき、点火動作の確認を行う際にのみ該バイパススイッチを開いて、点火動作検知部を機能させるようにしてもよい。
【0020】
上記点火動作検知部は、点火コイルの外装部に取りつけておいてもよく、点火コイルと点火プラグとを接続する高圧コードの途中に挿入しておいてもよい。
【0021】
上記点火動作検知部は、エンジンの点火動作の検査を行う場合にのみ機能させるようにしてもよく、エンジンの定常運転時にも機能させるようにしてもよい。エンジンの定常運転時に点火動作検知部の機能を停止させる場合には、点火動作検知部の発光ダイオードの逆並列回路を側路するバイパススイッチを点火動作検知部に設けて、エンジンの定常運転時にこのバイパススイッチを閉じるようにすればよい。
【0022】
本発明はまた、点火コイルと該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路とを有するエンジン用点火装置の点火動作が正常に行われているか否かを検査する検査装置の形で具体化することもできる。
【0023】
本発明に係わる検査装置は、点火コイルの二次コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間をつなぐ回路の途中に挿入される点火動作検知部を備えている。点火動作検知部は、互いに逆並列接続されて点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えて、該1対の発光ダイオードの発光を外部から目視し得るように構成される。
【0024】
本発明の好ましい態様では、上記点火動作検知部が、点火コイルの二次コイルと点火プラグとの間を接続する高圧コードの途中に挿入される。しかしながら、本発明はこのように構成する場合に限定されるものではなく、上記点火動作検知部を点火コイルの外装部分(ケースやモールド部)に設けることもできる。
【0025】
本発明はまた、点火コイルと該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路とを有するエンジン用点火装置の点火コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間を接続するエンジン用点火装置の高圧コードの形で具体化することもできる。
【0026】
本発明に係わる高圧コードは、点火コイルの二次コイルに一端が接続される点火コイル側コードと、点火プラグに一端が接続される点火プラグ側コードと、点火コイル側コードの他端と点火プラグ側コードの他端との間に接続された点火動作検知部とを備えていて、これら点火コイル側コードと点火動作検知部と点火プラグ側コードとが直列に接続されることにより構成される。点火動作検知部は、互いに逆並列接続されて高圧コード及び点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えていて、1対の発光ダイオードの発光を外部から目視し得るように構成される。
【0027】
上記高圧コードは、エンジンの定常運転時にも用いることができ、点火動作の検査を行う場合にのみ用いることもできる。上記高圧コードをエンジンの定常運転時にも接続したままにする場合には、点火動作検知部の発光ダイオードの逆並列回路を側路するバイパススイッチを点火動作検知部に設けておくことが好ましい。
【0028】
上記のように、本発明を高圧コードの形で具体化すると、多気筒エンジンにおいて、マイナス放電を行わせる気筒とプラス放電を行わせる気筒とが決められている場合に、エンジンの各気筒の点火プラグと各気筒に対応する点火コイルの二次コイルとの間を接続する高圧コードとして本発明に係わる高圧コードを用いることにより、各気筒の点火プラグで生じている火花放電の極性の検査を容易に行うことができる。
【0029】
上記のように、本発明を高圧コードの形で具体化すると、既存の点火装置にも本発明を容易に適用することができる。
【0030】
本発明をいずれの形態で具体化する場合も、点火プラグで生じる火花放電の極性の確認を容易にするため、点火動作検知部に設ける1対の発光ダイオードとしては、発光色が異なるものを用いる(例えば、プラスDC放電を表示する発光ダイオードとして赤色発光ダイオードを用い、マイナスDC放電を表示する発光ダイオードとして青色発光ダイオードを用いる)ことが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、互いに逆並列接続されて高圧コードを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えた点火動作検知部を点火コイルの二次コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間をつなぐ回路の途中に挿入するようにしたので、点火プラグで火花放電が生じたときにいずれかの発光ダイオードを通して放電電流を流して、該発光ダイオードを発光させることができる。従って、点火動作検知部の発光ダイオードの発光の有無を確認することにより、点火プラグで火花放電が生じているか否かを調べることができる。
【0032】
また本発明によれば、点火プラグでマイナスDC放電が生じているときには、1対の発光ダイオードのうち、カソードが点火プラグ側に向いた発光ダイオードを発光させ、点火プラグでプラスDC放電が生じているときには、アノードが点火プラグ側に向いた発光ダイオードを発光させ、点火プラグでAC放電が生じているときには、双方の発光ダイオードを交互に発光させることができるため、点火プラグで火花放電が生じているか否かを知ることができるだけでなく、点火プラグで生じている放電の極性を簡単に知ることができるという利点が得られる。
【0033】
更に本発明において、1対の発光ダイオードとして発光色が異なるものを用いた場合には、点火プラグで発生している放電の極性の識別を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1は、点火コイルと該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路とを有するエンジン用点火装置の点火コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間を接続するエンジン用点火装置の高圧コードに本発明を適用した実施形態を示したものである。本実施形態の高圧コード1は、点火コイルの二次コイルに一端が接続される点火コイル側コード101と、点火プラグに一端が接続される点火プラグ側コード102と、点火コイル側コード101の他端と点火プラグ側コード102の他端との間に接続された点火動作検知部103とからなっていて、点火コイル側コード101と点火動作検知部103と点火プラグ側コード102とが直列に接続されている。
【0035】
点火コイル側コード101は、心線を絶縁被覆してなる高耐圧電線101aと、電線101aの一端に接続された点火コイル側コネクタ101bとからなっている。図示の点火コイル側コネクタ101bは、樹脂モールド品からなっていて電線101aの絶縁被覆に基端部が一体化されたグリップ部101b1と、このグリップ部内に後端部が埋設されて電線101aの心線に接続された雄形接触子101b2とを有する雄形コネクタからなっていて、雄形接触子101b2が、図示しない点火コイルの二次コイルの一端に接続された雌形の出力コネクタに抜き差し可能に接続される。
【0036】
また点火プラグ側コード102は、心線を絶縁被覆してなる高耐圧電線102aと、電線102aの一端に接続された点火プラグ側コネクタ102bとからなっている。図示の点火プラグ側コネクタ102bは、樹脂モールド品からなっていて基端部が電線102aの絶縁被覆に一体化されたグリップ部102b1と、グリップ部102b1の先端に一体に形成されたプラグキャップ102b2とからなるL形のコネクタ本体と、プラグキャップ102b2内に設けられて電線102aの心線に接続された雌形の接触子102b3とを備えている。この点火プラグ側コネクタは、そのプラグキャップ102b2をエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグの非接地側端子(雄形接触子)に被せた状態で配置されて、接触子102b3が点火プラグの非接地側端子に電気的に接触させられる。
【0037】
点火動作検知部103は、図2に示したように、互いに逆並列接続されて高圧コード及び点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードLED1及びLED2からなる検知回路103aを、樹脂モールド品からなるケース103b内に収納したものからなっている。ここで、発光ダイオードLED1を第1の発光ダイオードとし、発光ダイオードLED2を第2の発光ダイオードとする。
【0038】
図示の例では、ケース103bの少なくとも発光ダイオードLED2及びLED2の発光部LE1及びLE2を覆う部分が透明又は半透明に形成されることにより、発光ダイオードLED1及びLED2の発光を外部から目視し得るように構成されている。ケース103bは、電線101aの絶縁被覆及び電線102aの絶縁被覆に一体化されていて、発光ダイオードLED1のアノードと発光ダイオードLED2のカソードとの共通接続点につながる検知回路103aの一方の端子t1及び発光ダイオードLED1のカソードと発光ダイオードLED2のアノードとの共通接続点につながる検知回路103aの他方の端子t2がそれぞれケース103b内で電線101a及び102aの心線に電気的に接続されている。
【0039】
なお、点火動作検知部103は、互いに逆並列接続されて点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えて、該1対の発光ダイオードの発光を外部から目視し得るように構成されればよく、発光ダイオードの実装の仕方は任意である。例えば、発光ダイオードLED1及びLED2はそれぞれの発光部LE1及びLE2をケース103bの外部に露呈させた状態で設けてもよい。
【0040】
発光ダイオードLED1及びLED2としては、発光色が同じものを用いてもよいが、放電の極性の判別を容易にするためには、発光ダイオードLED1及びLED2として、発光色が異なるものを用いる(例えば、プラスDC放電を表示する発光ダイオードLED2として赤色発光ダイオードを用い、マイナスDC放電を表示する発光ダイオードLED1として青色発光ダイオードを用いる)ことが好ましい。
【0041】
図3は上記の高圧コード1を用いた点火装置2の構成例を示している。図示の点火装置2は、点火コイル2Aと、点火コイル2Aの一次電流を制御する一次電流制御回路2Bと、一次電流制御回路2Bに点火信号Siを与える時期を制御する図示しない点火時期制御部と、高圧コード1とにより構成される。また、点火動作検知部103により、点火コイルと該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路とを有するエンジン用点火装置の点火動作が正常に行われているか否かを検査する検査装置が構成されている。
【0042】
点火コイル2Aは、一次コイルw1と二次コイルw2とを鉄心に巻装したものからなっている。図2に示した例では、一次コイルw1の一端p1と二次コイルw2の一端s1とが共通に接続されて、その共通接続点が接地されている。この例では、一次コイルw1と二次コイルw2とが逆方向に巻回されていて、一次コイルw1に電圧が誘起したときに該一次誘起電圧と逆位相の電圧が二次コイルw2に誘起するようになっている。
【0043】
図示の一次電流制御回路2Bは、コンデンサ放電式の一次電流制御回路で、点火コイルの一次コイルの他端p2に一端が接続されて図示しない充電用電源の出力電圧Veにより一方の極性に充電される点火用コンデンサCiと、コンデンサCiの他端と接地間にカソードを接地側に向けて接続されたサイリスタThiと、コンデンサCiと一次コイルw1との接続点と接地間にカソードを接地側に向けて接続されたダイオードDiとを備えている。点火コイル2Aの二次コイルw2の他端s2に接続された雌形コネクタに、高圧コード1の点火コイル側コネクタ101bが接続され、エンジンの気筒に取り付けられた点火プラグPLの非接地側の端子に高圧コード1の点火プラグ側コネクタ102bが接続されている。
【0044】
図3に示した点火装置においては、点火動作に先立って、図示しない充電用電源の出力電圧Veにより点火用コンデンサCiがダイオードDiと一次コイルw1との並列回路を通して図示の極性に充電される。次いでエンジンの点火時期が到来すると、図示しない点火時期制御部からサイリスタThiのゲートに点火信号Siが与えられる。これによりサイリスタThiが導通するため、点火用コンデンサCiに蓄積された電荷がサイリスタThiと点火コイル2Aの一次コイルw1とを通して放電し、この放電電流により、一次コイルw1に高い電圧が誘起する。この電圧は、点火コイルの一次、二次間の昇圧比により昇圧され、点火コイル2Aの二次コイルw2に点火用の高電圧が誘起する。この高電圧は、点火動作検知部103を通して点火プラグPLに印加される。
【0045】
このとき点火プラグPLが正常であると、点火プラグPLの放電ギャップにマイナスDC放電(点火プラグの放電ギャップ間でマイナスイオンが接地電極側から非接地電極側に移動する放電)が生じ、カソードが点火プラグ側を向いた第1の発光ダイオードLED1と高圧コードとを通して図示の矢印方向に放電電流iが流れる。このときカソードが点火プラグ側を向いた第1の発光ダイオードLED1が発光するため、点火プラグPLで火花放電が生じていることを確認することができる。また発光ダイオードLED1及びLED2のうち、第1の発光ダイオードLED1が発光したことから、点火プラグでマイナスDC放電が生じていることを知ることができる。点火プラグPLの汚損や、一次電流制御回路2Bの故障などにより、点火プラグで火花放電が発生しないときには、発光ダイオードLED1及びLED2の双方が発光しない。従って、エンジンの始動操作を行っても発光ダイオードLED1及びLED2が発光しないときに、点火装置で何らかの異常が生じているために、飛び火しないことを知ることができる。
【0046】
図3に示した点火装置において、点火コイルの一次側の結線を逆にして一次コイルの一端p1を点火用コンデンサCiの一端に接続し、他端p2を接地すると、図4に示すような回路構成になる。この場合は、点火用コンデンサCiの電荷が放電して点火コイルの二次コイルに高電圧が誘起した際に、点火プラグPLの放電ギャップにプラスDC放電(点火プラグの放電ギャップ間でマイナスイオンが非接地電極側から接地電極側に移動する放電)が生じ、アノードが点火プラグ側に向いた第2の発光ダイオードLED2を通して図示の矢印方向の放電電流i′が流れる。このとき発光ダイオードLED2が発光するため、点火プラグPLで火花放電が生じていることを確認することができる。また発光ダイオードLED1及びLED2のうち、第2の発光ダイオードLED2が発光したことから、点火プラグでプラスDC放電が生じていることを知ることができる。
【0047】
また図5に示したように、ダイオードDiをサイリスタThiの両端に逆並列接続した構成をとる場合には、点火用コンデンサCiの電荷がサイリスタThiと一次コイルw1とを通して放電した後、図示と逆方向に充電されたコンデンサCiの電荷が一次コイルw1とダイオードDiとを通して放電するため、点火コイルの二次コイルに交流波形の点火用高電圧が誘起し、点火プラグPLでAC放電が生じる。このとき発光ダイオードLED1及びLED2の双方が発光することから、点火プラグでAC放電が生じていることを知ることができる。
【0048】
また図6は、点火コイル2Aを同時発火コイルとして用いる場合の構成を示したものである。この場合は、点火コイルの一次コイルw1の一端p1と二次コイルw2の一端s1とを切り離して一次コイルw1の一端を接地し、二次コイルw2の両端をそれぞれエンジンの異なる気筒の点火プラグPL1及びPL2の非接地側端子に異なる高圧コード1を通して接続する。その他の構成は、図3に示した例と同様である。
【0049】
この場合、点火プラグPL1及びPL2が正常であるとすると、点火用コンデンサCiの電荷が放電した際に点火コイルの二次コイルに誘起する高電圧により、点火プラグPL1ではマイナスDC放電が生じ、点火プラグPL2ではプラスDC放電が生じる。従って、点火プラグPL1に接続された高圧コードの点火動作検知部103では、第1の発光ダイオードLED1が発光し、点火プラグPL2に接続された高圧コードの点火動作検知部103では、第2の発光ダイオードLED2が発光する。
【0050】
上記のように、互いに逆並列接続されて高圧コードを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードLED1及びLED2を備えた点火動作検知部103を点火コイルの二次コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間をつなぐ回路の途中に挿入しておくと、点火プラグでマイナスDC放電が生じたときには、1対の発光ダイオードのうち、カソードが点火プラグ側に向いた発光ダイオードLED1が発光し、点火プラグでプラスDC放電が生じたときには、アノードが点火プラグ側に向いた発光ダイオードLED2が発光し、またAC放電が生じているときには、双方の発光ダイオードが交互に発光するため、点火プラグで火花放電が生じているか否かを知ることができるだけでなく、点火プラグで生じている放電の極性をも知ることができる。
【0051】
上記の説明では、単気筒エンジン用の点火装置を例にとっているが、多気筒エンジンにおいて、マイナス放電を行わせる気筒とプラス放電を行わせる気筒とが決められている場合に、エンジンの各気筒の点火プラグと各気筒に対応する点火コイルの二次コイルとの間を接続する高圧コードとして本発明に係わる高圧コードを用いると、各気筒の点火プラグで生じている火花放電の極性の検査を容易に行うことができる。
【0052】
上記の高圧コードをエンジンに常時取りつけておくようにする場合、点火動作検知部103は、エンジンの運転中常時動作させておくようにしてもよいが、図7(A)に示したように、点火動作検知部103に1対の発光ダイオードLED1及びLED2の逆並列回路を側路するバイパススイッチSWを設けて、エンジンの定常運転時にはこのバイパススイッチを閉じることにより放電電流が発光ダイオードLED1及びLED2の逆並列回路を通ることなく流れるようにしておき、点火動作の確認を行う際にのみバイパススイッチSWを開いて、点火動作検知部を機能させるようにしてもよい。
【0053】
なお点火動作が正常に行われているか否かの検査を行う場合にのみ点火動作検知部を備えた高圧コード1を用いて点火コイルの二次コイルを点火プラグに接続し、検査が終了した後は、点火動作検知部を有しない通常の高圧コードを用いて点火コイルと点火プラグとの間を接続するようにしてもよいのはもちろんである。
【0054】
また、上記点火動作検知部103は、点火コイルの二次コイルと点火プラグとの間を接続する回路の途中に挿入されていればよいので、点火動作検知部を点火装置の一部として扱う場合、または検査装置の構成要素として扱う場合、点火動作検知部103は必ずしも高圧コードの途中に挿入する必要はなく、点火コイルの外装部などに点火動作検知部を取りつけておくようにしてもよい。
【0055】
逆並列接続された一対の発光ダイオードにより構成された点火動作検知部103を点火コイルと点火プラグとの間をつなぐ回路の途中に挿入した場合、点火プラグが正常であれば、点火コイルの二次コイルに高電圧が誘起したときにいずれかの発光ダイオードを通して放電電流が流れて、点火動作検知部の両端に印加される電圧がダイオードの順方向電圧まで低下させられるため、発光ダイオードに高い逆方向電圧が印加されて、発光ダイオードが破損するのを防ぐことができる。
【0056】
これに対し、点火プラグに異常が生じていて、飛び火しない場合には、発光ダイオードLED1及びLED2のいずれかに点火用高電圧が逆方向に印加されるため、発光ダイオードが破損するおそれがある。このような事態が生じるのを防ぐためには、図7(B)に示したように、バリスタVR等の保護素子(サージ電圧吸収素子)を点火動作検知部の発光ダイオードLED1,LED2の逆並列回路の両端に並列に接続しておくのが好ましい。
【0057】
上記の例では、点火動作検知部103が、点火コイルの二次コイルと点火プラグとの間を接続する高圧コードの途中に挿入されている。しかしながら、本発明はこのように構成する場合に限定されるものではなく、上記点火動作検知部を点火コイルの外装部分(ケースやモールド部)に設けることもできる。
【0058】
上記の例では、一次電流制御回路2Bとしてコンデンサ放電式の回路を用いたが、点火コイルの一次コイルに流しておいた電流を点火時期に遮断することにより点火コイルの二次コイルに点火用の高電圧を誘起させる電流遮断型等、他の形式の一次電流制御回路を用いる場合にも本発明を適用できるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係わる高圧コードの構成例を示した側面図である。
【図2】図1の高圧コードに設けられている点火動作検知部の構成を示した回路図である。
【図3】本発明に係わる点火装置の要部の構成例を示した回路図である。
【図4】本発明に係わる点火装置の要部の他の構成例を示した回路図である。
【図5】本発明に係わる点火装置の要部の更に他の構成例を示した回路図である。
【図6】本発明に係わる点火装置の要部の更に他の構成例を示した回路図である。
【図7】(A)及び(B)は本発明で用いる点火動作検知部の異なる構成例を示した回路図である。
【符号の説明】
【0060】
1 高圧コード
101 点火コイル側コード
101a 高耐圧電線
101b 点火コイル側コネクタ
102 点火プラグ側コード
102a 高耐圧電線
102b 点火プラグ側コネクタ
103 点火動作検知部
2 点火装置
2A 点火コイル
2B 一次電流制御回路
LED1 第1の発光ダイオード
LED2 第2の発光ダイオード
PL 点火プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火コイルと該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路とを備えて、前記点火コイルの二次コイルがエンジンの気筒に取りつけられた点火プラグに高圧コードを通して接続されるエンジン用点火装置において、
前記点火コイルの二次コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間をつなぐ回路の途中に点火動作検知部が挿入され、
前記点火動作検知部は、互いに逆並列接続されて前記点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えて、該1対の発光ダイオードの発光を外部から目視し得るように構成されていることを特徴とするエンジン用点火装置。
【請求項2】
前記1対の発光ダイオードとして、発光色が異なるものが用いられている請求項1に記載のエンジン用点火装置。
【請求項3】
点火コイルと該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路とを有するエンジン用点火装置の点火動作が正常に行われているか否かを検査する検査装置において、
前記点火コイルの二次コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間をつなぐ回路の途中に挿入される点火動作検知部を備え、
前記点火動作検知部は、互いに逆並列接続されて前記点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えて、該1対の発光ダイオードの発光を外部から目視し得るように構成されていることを特徴とするエンジン用点火装置の点火動作検査装置。
【請求項4】
前記点火動作検知部は、前記点火コイルの二次コイルと前記点火プラグとの間を接続する高圧コードの途中に挿入されている請求項3に記載のエンジン用点火装置の点火動作検査装置。
【請求項5】
前記1対の発光ダイオードとして、発光色が異なるものが用いられている請求項3また4に記載のエンジン用点火装置の点火動作検査装置。
【請求項6】
点火コイルと該点火コイルの一次電流を制御する一次電流制御回路とを有するエンジン用点火装置の前記点火コイルとエンジンの気筒に取り付けられた点火プラグとの間を接続するために用いる高圧コードであって、
前記点火コイルの二次コイルに一端が接続される点火コイル側コードと、前記点火プラグに一端が接続される点火プラグ側コードと、前記点火コイル側コードの他端と前記点火プラグ側コードの他端との間に接続された点火動作検知部とを備えて、前記点火コイル側コードと点火動作検知部と点火プラグ側コードとが直列に接続され、
前記点火動作検知部は、互いに逆並列接続されて前記高圧コード及び点火プラグを通して流れる電流が通電される1対の発光ダイオードを備えていて、前記1対の発光ダイオードの発光を外部から目視し得るように構成されていることを特徴とするエンジン用点火装置の高圧コード。
【請求項7】
前記1対の発光ダイオードとして、発光色が異なるものが用いられている請求項6に記載のエンジン用点火装置の高圧コード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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