説明

焼成炉内におけるコーティング発生箇所の予測方法

【課題】本発明は数値流体力学(CFD)を用いて焼成炉内におけるコーティング発生箇所を予測する方法を提供する。
【解決手段】吸熱反応を伴うクリンカーの焼成反応について、焼成炉内の温度分布をCFDの適用により解析して、焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法であり、焼成炉の形状及び寸法に基づいてメッシュの作成を行う工程1と、工程1によって得られたメッシュに対して、対象となる吸熱反応における原料温度と吸熱量の関係をガウス関数で近似し、原料が焼成炉の内壁上を層として移動すると仮定して、焼成炉内での温度分布情報を含むシミュレーション結果を算出するCFD解析工程2と、CFD解析工程2によって得られた温度分布情報に基づいて、コーティングの発生箇所を予測する工程3とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成炉内におけるコーティング発生箇所の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウムサルフォアルミネート(3CaO・3Al23・CaSO4)やカルシウムアルミネート(CaO・Al23)、フッ化カルシウム(CaF2)、及びセメント等は融点が1,000[℃]〜1,300[℃]の低融点化合物であり、これらは原料として石灰石が使用されることが多く、アルミナ、蛍石、珪石、石膏等のその他の原料と調合し、焼成することでクリンカーとして得られる(特開平05−097484号公報、特開平08−310845号公報、特開2007−320843号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−097484号公報
【特許文献2】特開平08−310845号公報
【特許文献3】特開2007−320843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら低融点化合物をロータリーキルンなどの焼成炉で焼成すると、次第に圧力障害が起こり、燃焼空気量が不足し、原料供給量を抑制せざるを得ず、又、不完全燃焼を呈する為、COガスが発生した段階で、爆発を回避する為、キルンの運転を停止しなければならなくなる事象が生じていた。これは、オリフィス状のコーティングがキルン内壁に徐々に成長し、キルン内の断面積を狭めていたことが原因であった。
【0005】
焼成炉内でコーティングが成長する箇所はランダムではなく、特定箇所において成長することが経験的に分かっている。例えば、ロータリーキルンではキルン出口からキルンの長さ方向に所定距離だけ離れた箇所に集中的に成長する。従って、コーティングの成長箇所を事前に計算によって予測することができれば、焼成炉の設計や保守管理上有利であろう。しかしながら、コーティングの成長箇所を予測する方法は従来知られておらず、経験的な勘に頼らざるを得ないのが現状であった。
【0006】
そこで、本発明は数値流体力学(CFD)を用いて焼成炉内におけるコーティング発生箇所を予測する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、コーティング発生は、原料として使用する石灰石の脱炭酸反応が原因であることを突き止めた。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、コーティング発生のメカニズムは、以下のように推察される。脱炭酸反応は吸熱反応である。焼成炉内ではバーナーに近づくにつれて温度が上昇していくが、脱炭酸反応が生じると、吸熱反応によって周囲の熱を奪うため、脱炭酸反応が生じない場合に比べて温度上昇が緩やかとなる。その後、石灰石の脱炭酸が終了すると、吸熱による熱の消費が行われなくなるため、抑制されていた温度上昇が急激に生じることとなる。この急激な温度上昇範囲にクリンカーの融点が含まれていると、急激に多量の液相が発生して、コーティングを成長させていると考えられる。
【0008】
本発明者は、上記メカニズムに基づき、焼成炉内での急激な温度上昇を汎用熱流体解析ソフトウェアを用いてシミュレーションすることを試みたが、計算結果が収束する吸熱モデルの構築が難しいことが分かった。そこで、本発明者は更に検討を重ね、吸熱反応のモデル化に工夫をし、吸熱量分布関数としてガウス関数を用いることが有効であることを知見した。そして、シミュレーションによって得られた焼成炉内の温度分布からみて、急激な温度上昇を示す箇所がコーティングの発生箇所に合致することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は一側面において、吸熱反応を伴うクリンカーの焼成反応について、焼成炉内の温度分布をCFDの適用により解析して、焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法であり、
焼成炉の形状及び寸法に基づいてメッシュの作成を行う工程1と、
工程1によって得られたメッシュに対して、対象となる吸熱反応における原料温度と吸熱量の関係をガウス関数で近似し、原料が焼成炉の内壁上を層として移動すると仮定して、焼成炉内での温度分布情報を含むシミュレーション結果を算出するCFD解析工程2と、
CFD解析工程2によって得られた温度分布情報に基づいて、コーティングの発生箇所を予測する工程3と、
を含む方法である。
【0010】
本発明に係る焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法の一実施形態においては、ガウス関数がQ=A×EXP(−(T原料−T中心)2/δ2)(ここで、Q:セルの吸熱量、A:セルの最大吸熱量、T原料:原料層の中心温度、T中心:吸熱ピークトップの生じる温度[℃]、δ:分布の広がりを表す定数[℃]として表され、T中心及びδは吸熱量分布の実測値に基づいて設定され、Aはセルの吸熱量の総和が、対象となる吸熱反応及び原料の投入量に基づいて計算される総吸熱量に一致するように決定される。)
【0011】
本発明に係る焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法の別の一実施形態においては、工程2において使用するガウス関数は、吸熱量分布の実測値に基づいてT原料が一定温度以上のときにQ=0とする。
【0012】
本発明に係る焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法の更に別の一実施形態においては、焼成炉がロータリーキルンであり、解析空間を軸対象2次元としてメッシュ作成する。
【0013】
本発明に係る焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法の更に別の一実施形態においては、クリンカーが、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)、カルシウムアルミネート(CaO・Al23)、フッ化カルシウム(CaF2)、及びセメントの何れかのクリンカーから選択される。
【0014】
本発明に係る焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法の更に別の一実施形態においては、クリンカーが、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)が化学組成としてCaO、CaSO4、Al23からなり、生成鉱物がCaO、CaSO4、3CaO・3Al23・CaSO4(Yeelimite、或いは、Hauyneと称され、CAS No.12005−25−3で定義される化学物質)からなるカルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)を含有する。
【0015】
本発明に係る焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法の更に別の一実施形態においては、吸熱反応が炭酸カルシウムの脱炭酸反応を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)やカルシウムアルミネート(CaO・Al23)、フッ化カルシウム(CaF2)、及びセメント等の低融点化合物の焼成時に、焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例でシミュレートしたロータリーキルンの寸法及び形状を示した断面図である。
【図2】DSCによる実測値に基づいた実施例の脱炭酸反応の吸熱量分布関数のグラフである。
【図3】本発明の実施例で使用した吸熱量分布関数のグラフである。
【図4】CSAの焼成をシミュレートした際の、CFD計算によって得られたキルン出口からの長さ[m]と温度[℃]の関係である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0019】
本発明では吸熱反応を伴うクリンカーの焼成反応を対象とする。クリンカーとは、一種又は二種以上の鉱物を含有する粉砕物をその成分の一部が溶融する(半融状態)まで焼成し、全体を塊状に焼きしめたものであり、その種類に特に制限はない。例示的には、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)、カルシウムアルミネート(CaO・Al23)、フッ化カルシウム(CaF2)、及びセメント等のクリンカーが挙げられる。カルシウムサルフォアルミネートは、典型的には化学組成としてCaO、CaSO4、及びAl23からなり、主要鉱物としてCaO、CaSO4、3CaO・3Al23・CaSO4(Yeelimite、或いは、Hauyneと称され、CAS No.12005−25−3で定義される化学物質)を含有する物質である。
焼成時に吸熱反応が生じるか否かはクリンカーの原料に依存するが、例えば、原料として炭酸カルシウムを使用したときの脱炭酸反応、原料として石膏(CaSO4・2H2O)などの水和物を使用したときの脱水反応によって生成した水の蒸発などが挙げられる。
【0020】
工程1では、解析対象となる焼成炉の形状及び寸法に基づいて、メッシュの作成を行う。メッシュの作成は、「GAMBIT」(ANSYS社)、「ICEM CFD」(ANSYS社)、「NXI−DEAS」(Siemens PLM Software社)、
FEMAP(Siemens PLM Software社)、PATRAN(MSC.Software社)などの市販のソフトウェアを使用することができる。メッシュは二次元又は三次元で作成可能であるが、ロータリーキルンの場合のように、焼成炉が軸対称の形状をしている場合には、解析空間を軸対象2次元としてメッシュ作成すれば簡便に予測精度の高いメッシュが作成できる。メッシュの形状には三角形メッシュや四角形メッシュなどがあるが、計算精度と安定性の理由により四角形メッシュが好ましい。
【0021】
工程2では、工程1によって得られたメッシュに対して、対象となる吸熱反応における温度と熱流の関係をガウス関数で近似し、原料が焼成炉の内壁上を層として移動すると仮定して、焼成炉内での温度分布情報を含むシミュレーション結果を算出するCFD解析を行う。“原料が焼成炉の内壁上を層として移動する”とは、原料がキルンなどの燃焼炉の壁に一定の厚さ・速度を保ち、付着したまま燃焼炉の出口に移動するということであり、燃焼反応(ガス層)と吸熱反応(原料層)の間で熱交換を行う移動層モデルである。
【0022】
CFD解析は、「FLUENT」(ANSYS社)、「PHOENICS」(Concentration Heat and Momentum Limited社)、「STAR−CD」(CD−adapco社)などの汎用熱流体解析ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0023】
当該ソフトウェアにより、解析対象となる焼成炉内の焼成反応について、乱流モデル、燃焼モデル及び輻射モデルを設定し、運転条件(初期条件、境界条件、物性値など)を与えることで、質量保存、運動量保存及びエネルギー保存の各方程式に対する数値解を求めることができるので、焼成炉内での温度分布情報を含むシミュレーション結果を算出することが可能となる。質量保存式(連続の式)は、密度をρ、速度ベクトルをUとして、∂ρ/∂t+∇・(ρU)=0、∇=∂/∂x+∂/∂y+∂/∂zで表される。運動量保存式はナビエ・ストークス方程式に対応し、ρ・∂U/∂t+ρ・U・(∇U)=−∇・P+ρΣYi・fiで表される。ここで、Yiは化学種iの質量分率、fiは化学種iに作用する外力、Pは応力テンソルであり、P=(p+(2/3μ−Κ)(∇・U))・U−μ・((∇U)+(∇U)T)である。pは圧力、μとΚは粘性係数と体積粘性係数をそれぞれ示している。また、Uと上付き添え字Tは単位テンソル及びテンソルの配置を表している。内部エネルギーに関してエネルギーの保存式を書くと、ρ∂Et/∂t+ρU・(∇Et)=−∇・q−P・(∇U)+ρΣYi・fi・Viである。ここで、Et:内部エネルギーを示す。
【0024】
乱流モデルとしては、Re平均(時間平均)モデルであるRANS(Reynolds-Averaged Navier-Stokes Simulation)を好適に適用することができる。RANSとしては渦粘性モデルの他、レイノルズ応力の輸送を解くモデル(RSMモデル)を適用することができる。渦粘性モデルとしては、Johnson-King、Spalart-Allmaras及びBaldwin-Barthなどの1方程式モデル、k-ε、k-ω、k-τなどの2方程式モデルが挙げられる。RSMモデルとしては、Gibson-LaunderやSSGが挙げられる。
また、乱流モデルとして非定常のナビエ・ストークス方程式を空間平均化したLES(Large Eddy Simulation)や、モデル化を用いず直接ナビエ・ストークス方程式を計算するDNS(Direct Numerical Simulaition)を使用することもできるが、膨大なメモリ及び計算時間を要する。
【0025】
燃焼モデルとしては反応速度をモデル化する手法と反応の成分変化をモデル化する手法があり、前者のモデルとしてはアレニウス型モデル、渦消散モデル、及び渦拡散モデルなどが挙げられ、後者のモデルとしては素反応モデル、総括反応モデル及び層流火炎片モデルなどが挙げられる。
【0026】
輻射モデルとしては、DTRM(Discrete Transfer Radiation Model)、P1(P-1 radiation model)、Rosseland model、DO(Discrete Ordinates model)、S2S(Surface-to-Surface Radiation model)、MC(Monte Carlo model)等が挙げられる。
【0027】
運転条件としては、シミュレーションした場合に、出熱として原料のヒートアップ顕熱、潜熱、反応熱に加えて、放熱を加えた全熱量に対して、燃焼反応熱、及び原料、空気等の比熱から求められる入熱が等価となる様にヒートバランス、マテリアルバランスを与える。例えば、キルンとしては、キルンでの熱交換を目的とする為、キルン入口より水を含む場合のある原料を回転キルンに対して供給すると共に、キルン出口でバーナーでの一次空気、クーラーからの二次空気により燃料を燃焼させ得られた輻射、対流、熱伝達による熱量によりキルン内で脱水、脱炭酸、融解、物質生成等の化学反応が進行する。燃焼空気は、キルン出口以降の誘引ファンにより導入され、これら化学反応は原料とキルン燃焼排ガスの向流操作により進行する。この為、この場合の運転条件としては脱水、脱炭酸、融解、物質生成等の化学反応が完全に行われる熱量の供給が求められる。キルン全体のヒートバランス、マテリアルバランスはこれらの条件を満足する様に求められる。
【0028】
対象となる吸熱反応における温度と吸熱量の関係を表す吸熱反応モデルとしては、ガウス関数を用いる。これにより、計算結果が容易に収束するようになる。例示的には、ガウス関数がQ=A×EXP(−(T原料−T中心)2/δ2)(ここで、Q:セルの吸熱量、A:セルの最大吸熱量、T原料:原料層の中心温度、T中心:吸熱ピークトップの生じる温度[℃]、δ:分布の広がりを表す定数[℃]として表され、T中心及びδは吸熱量分布の実測値に基づいて設定され、Aはセルの吸熱量の総和が、対象となる吸熱反応及び原料の投入量に基づいて計算される総吸熱量に一致するように決定される。)を使用することができる。
【0029】
対象となる吸熱反応における吸熱量分布、すなわち温度と吸熱量の関係は、例えばDSC(示差走査熱量測定)やDTA(示差熱分析)により得ることができ、これにより吸熱ピークトップが生じる温度や目標となるδを設定することが可能である。ただし、当初よりδを目標値に設定すると計算結果が収束しにくいので、計算の初期はδを大きく(Aを小さく)設定しておき、計算結果が収束することを確認しながら徐々にδを目標値に達するまで徐々に小さく(Aを大きく)していくことが好ましい。
【0030】
当初から吸熱反応モデルをCFD解析に組み入れると計算結果が収束しにくいので、吸熱反応が生じないと仮定した場合の焼成炉内での原料層の中心温度の分布情報を含む温度分布情報をCFD解析し、これに対して上記の吸熱反応モデルを用いた吸熱量を計算に加えることが好ましい。収束計算については、上記汎用熱流体解析ソフトウェア外で行うことができる。
【0031】
より精度の高い予測を行うためには、ガウス関数を用いて計算結果を一度収束させた後に、DSCなどによる吸熱量分布実測値に基づいて吸熱流が0となる温度を設定し、“T原料”が一定温度以上のときにQ=0とする関数に置き換え、改めてCFDによる数値解を求めることが好ましい。
【0032】
工程3では、CFD解析工程2によって得られた温度分布情報に基づいて、コーティングの発生箇所を予測する。工程2によって得られた温度分布情報をグラフ化すると、吸熱反応が大きい場合には、焼成炉内で温度が不連続的に急激に上昇する箇所が見られる。この急激な温度上昇範囲にクリンカーの融点が含まれていると、そこでは急激に多量の液相が発生して、コーティングが成長する始点になると予測することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明及びその利点の理解を容易にするための実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるべきではない。
【0034】
<例1.カルシウムサルフォアルミネート(CSA)焼成(実機運転):原料としてCaCO3使用>
以下の操業条件でCSAの焼成を行い、コーティングの成長箇所を確認した。
(1−1.原料組成)
表1に記載の各原料粉末を表1に記載の重量比率で混合して、17t/hの流量でロータリーキルンに供給して焼成し、CSAのクリンカーを製造した。
【表1】

【0035】
(1−2.キルンの運転条件)
図1は、焼成に使用したロータリーキルンの寸法及び形状を示した断面図である。キルンは、内径3.2[m]、長さ150[m]である。キルン出口に設置されたバーナーは、外径0.56[m]、キルン内への挿入長さ0.515[m]である。キルン断面積からバーナー断面積を引いた有効断面積は7.8[m2]であり、キルン出口から入る二次空気温度は約147[℃]である。
【0036】
キルンの外壁は内側の煉瓦と外側の鉄皮の二重構造となっており、煉瓦厚さ0.2[m]、鉄皮厚さ0.05[m]である。煉瓦は内側のSIC75及び外側のSK36の二層で構成されている。煉瓦の各層及び鉄皮の厚さ、熱伝導率、密度及び比熱(何れも公称値)を表2に示す。
【表2】

【0037】
燃料には、低位発熱量ΔHが28[MJ/kg]の微粉炭を使用した。バーナーへの燃料供給量は3.52[t/h]とした。よって、バーナーによる熱量は、28[MJ/kg]×3.52[t/h]=99[MJ/h]である。バーナーから徴粉炭と一緒に供給される一次空気量を15,666[Nm3/h]とし、バーナー周囲から供給される二次空気量を24,254[Nm3/h]とした。二次空気の空気温度は約420Kであった。
【0038】
上記の操業条件でCSAの焼成を続けたところ、キルン出口からの長さが約40[m]の箇所から出口に向かってコーティングが成長しているのが確認された。
【0039】
CSAクリンカーを実際のキルンにより製造した物質の分析結果を表3に示す。
X線回折の3相モデルによるリートベルト解析を行い、Brindleyの方法(Brindley, 1949)で鉱物組成を求めたところ、表3に示す値を得た。解析に用いたプログラムはRIETAN-FP(Izumi and Momma, 2007)である。
【0040】
【表3】

[参考分析] Brindley, G. W. (1949). “Quantitative X-ray analysis of crystalline substances or phases in their mixtures,”Bulletin de la Societe Chimique de France D59-63.
【0041】
得られたクリンカーは、化学組成としてCaO、CaSO4、Al23からなり、主要鉱物がCaO、CaSO4、3CaO・3Al23・CaSO4(Yeelimite、或いは、Hauyneと称され、CAS No.12005−25−3で定義される化学物質)からなるカルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)と、結晶学的に一致する。
【0042】
<例2.コーティング発生箇所予測(発明例)>
例1の操業をCFDによってシミュレートし、焼成時のキルン内の温度分布を求めた。まず、「GAMBIT2.1.6」(ANSYS社)使用し、上述したキルンの寸法及び形状の情報から、四角形メッシュを用いて領域を分割し、境界面を定義して、軸対称2次元でモデルの形状作成(メッシュ作成)を行った。その結果を「FLUENT ver6.3」(ANSYS社)に渡し、流入する燃料及び空気の条件、流出時の圧力(大気圧)、外壁材の物性、外壁放熱の境界条件、流体(空気)について密度などの物性値、流速、離散化手法の設定を行い、燃焼解析を行い、キルン中心軸上、原料層の中心等の温度分布を求めた。
【0043】
この際、バーナー火炎からの高温度流体と煉瓦内壁の間の熱の流れは乱流熱伝達であり、キルン煉瓦内壁放射率ε=1とした。また、キルン鉄皮と外気の熱伝達率は30[W/(m2・K)]であり、外気温度は約300[K]であるとした。原料は、キルンの壁に一定の厚さ・速度を保ち、付着したままキルン落ち口に移動すると仮定し、燃焼反応(ガス層)と吸熱反応(原料層)の間で熱交換を行う移動層モデルとした。原料の厚みは35mmと設定した。キルン内転動による固体相層の攪拌効果は考慮しなかった。
乱流モデルとして標準k−εを用いた。
微粉炭燃焼モデルとして、黒瀬らのモデル(N.Hashimoto, R.Kurose,H.Tsuji, and H.Shirai;Energy & Fuels, Vol. 21, No. 4, 2007)を「FLUENT ver6.3」の保有するモデルに適用した。つまり、微粉炭の運動はラグランジュ的に逐次軌跡を追跡する(Discrete Phase Model、DPM)を用いた。また、微粉炭燃焼では、石炭粒子が揮発してガス化される過程と、ガス燃焼する揮発分燃焼過程と、揮発分放出後の残留チャー粒子の固体燃焼が行われるチャー燃焼過程からなるとされており、ガス化については1次のアレニウス反応速度式を用いた。ガス燃焼については2段階反応式に対して、反応速度は乱流の影響を渦消散モデルで加味したアレニウス式を用いた。固体分チャー燃焼については表面反応速度と拡散反応速度を加味したフィールズモデルを用いた。
輻射モデルとしてP1を用いた。
ガスの吸収係数については、WSGGM(Weighted Sum Gray Gases Model)を用い、各計算位置におけるCO2及びH2O濃度から計算した。
【0044】
キルン内では、脱炭酸反応(CaCO3→CaO+CO2;ΔH=−1783[kJ/CaCO3kg])のほか、水酸化アルミニウムの脱水反応(Al(OH)3→1/2Al23+3/2H2O)及び石膏の脱水反応(CaSO4・2H2O→CaSO4+2H2O)によって生成した水の蒸発(ΔH=−2258kJ/kg)が生じることによって、吸熱エンタルピーが発生する。原料中、CaCO3は39重量%、Al(OH)3は16重量%、CaSO4・2H2Oは45重量%であるので、原料1kgの焼成によって発生する吸熱エンタルピーは、脱炭酸反応の寄与分が695[kJ]であり、水は原料1kgから55.4g(Al(OH)3分)+94.2g(CaSO4・2H2O分)発生するので、水の蒸発の寄与分が125+213=338[kJ]である。よって、原料1kgを焼成することで1033[kJ]の吸熱エンタルピーが発生するとした。また、吸熱ピークトップが生じる温度をDSC(Differential scanning calorimetry)による脱炭酸反応のDSCによる測定結果から823℃とした。DSCの実測値に基づいた吸熱量分布関数を図2に示す。縦軸の「係数」は、吸熱量をその最大値で除して無次元化した値を指す。
【0045】
解析手順としては、まず、吸熱反応が生じないと仮定した場合の焼成炉内での原料層の中心温度の分布情報を含む温度分布情報をCFD解析した。次に、吸熱をモデル化するため、原料層の各セルに対して、温度の関数として次式:Q=A×EXP(−(T原料−T中心)2/δ2)(ここで、Q:セルの吸熱量[W/m3]、A:セルの最大吸熱量[W/m3]、T原料:原料層の中心温度[℃]、T中心:吸熱ピークトップの生じる温度[℃]、δ:分布の広がりを表す定数[℃])で表される吸熱量分布関数から計算される吸熱量をCFD解析に加えて温度分布の解析結果を変化させた。ここで、T中心はDSCの実測値に基づいて823℃と設定し、δはDSCの実測値に基づいて28℃と設定した。
Aはセルの吸熱量の総和が、総吸熱量(原料質量流量×脱炭酸単位熱量)=17000[kg原料/h]×1032[kJ/kg原料]=17,544,000[kJ/h)に一致するように、4.13MW/m3と決定した。
ただし、計算の初期はδを設定値よりも大きく(Aを小さく)設定しておき、計算結果が収束することを確認しながら徐々にδを目標値に達するまで徐々に小さく(Aを大きく)していった。収束計算については、プログラム外で行った。
【0046】
上記のモデルを使用することで、CFDの計算結果が収束した。次いで、DSCの実測値に基づいて吸熱ピークトップが生じる温度よりも約10K高い温度である1120K以上を0にした図3に記載の吸熱量分布関数(簡単のため、A=1のときのグラフを表したが、実際の計算で使用したAは4.20MW/m3である。)に置き換え、改めてCFDの計算を行った。なお、Aの値が先に得られた値より少し大きくなっているが、これは高温カットの分布に変えて計算すると、吸熱量が少し小さくなることから、A=4.13の対称形分布の吸熱量と等しくなるまでAを少しずつ大きくしていった結果、4.20でほぼ一致したということである。
その結果、キルン出口からの長さ[m]と、温度[℃]の関係について図4に示すグラフが得られた。「中心軸上」はキルンの中心軸に沿った温度を指し、「原料表面」は原料層がキルン中心軸側の流体と接する表面の温度を指し、「原料中心」は原料層の中心の温度を指し、「煉瓦表面」は煉瓦が原料層と接する表面の温度を指し、「外壁上」はキルン外壁の温度を指す。キルン出口からの長さが約40[m]の箇所で、「原料表面」、「原料中心」及び「煉瓦表面」の温度が約1300℃から約1100℃まで急激に上昇する箇所が見られる。この付近の温度は、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)の融点に一致する。よって、この付近から、脱炭酸反応が顕著に発生し、キルン内の急激な温度低下を招き、液相の出現によりコーティングが成長すると予測される。この予測結果は、実機運転におけるコーティング発生箇所と合致した。
【0047】
<例3.コーティング発生箇所予測(比較例)>
吸熱をモデル化するための吸熱量分布関数として、吸熱ピークが生じる温度を頂点とする二次関数を使用したほかは例2の発明例と同様にCFDの計算を行った。この場合、計算結果は振動し、収束させることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸熱反応を伴うクリンカーの焼成反応について、焼成炉内の温度分布をCFDの適用により解析して、焼成炉内でのコーティングの発生箇所を予測する方法であり、
焼成炉の形状及び寸法に基づいてメッシュの作成を行う工程1と、
工程1によって得られたメッシュに対して、対象となる吸熱反応における原料温度と吸熱量の関係をガウス関数で近似し、原料が焼成炉の内壁上を層として移動すると仮定して、焼成炉内での温度分布情報を含むシミュレーション結果を算出するCFD解析工程2と、
CFD解析工程2によって得られた温度分布情報に基づいて、コーティングの発生箇所を予測する工程3と、
を含む方法。
【請求項2】
ガウス関数がQ=A×EXP(−(T原料−T中心)2/δ2)(ここで、Q:セルの吸熱量、A:セルの最大吸熱量、T原料:原料層の中心温度、T中心:吸熱ピークトップの生じる温度[℃]、δ:分布の広がりを表す定数[℃])として表され、T中心及びδは吸熱量分布の実測値に基づいて設定され、Aはセルの吸熱量の総和が、対象となる吸熱反応及び原料の投入量に基づいて計算される総吸熱量に一致するように決定される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程2において使用するガウス関数は、吸熱量分布の実測値に基づいてT原料が一定温度以上のときにQ=0とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
焼成炉がロータリーキルンであり、解析空間を軸対象2次元としてメッシュ作成する請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
クリンカーが、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)、カルシウムアルミネート(CaO・Al23)、フッ化カルシウム(CaF2)、及びセメントの何れかのクリンカーから選択される請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
クリンカーが、カルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)が化学組成としてCaO、CaSO4、Al23からなり、生成鉱物がCaO、CaSO4、3CaO・3Al23・CaSO4(Yeelimite、或いは、Hauyneと称され、CAS No.12005−25−3で定義される化学物質)からなるカルシウムサルフォアルミネートCSA(Calciumsulfoaluminate)を含有する請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
吸熱反応が炭酸カルシウムの脱炭酸反応を含む請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−242019(P2012−242019A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113953(P2011−113953)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】