説明

照明器具用反射板

【課題】反射層の変色を抑制できる照明器具用反射板を提供する。
【解決手段】基材11と、銀を含み入射する可視光を反射する反射面を有する反射層である銀膜14と、銀膜14における反射面の反対側に配置され、かつ400nm以下の波長の光をカットする非反射面側保護層13と、を有する。この照明器具用反射板10は、基材11のUV劣化を抑制し、かつ耐光性を向上させることができ、これにより、銀膜14の変色を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明器具用反射板に関する。
【背景技術】
【0002】
銀は可視光反射性に優れるため、照明器具用反射板に使用されている。特にダウンライトのような深い形状を有する反射板においては、繰り返し光の反射が行われるため、銀のように反射率の高い材料を反射板として利用することは、非常に有効である。
【0003】
図4は、従来の照明器具用反射板100を示す。この照明器具用反射板100は、トップコート層101、ITO(インジウム錫酸化物)102、銀膜103、アンダーコート層104、基材105を有し、これらの構成要素が上層から下層に上記の順に積層されている。
【0004】
しかし、銀膜103は化学的に不安定な物質であるため、変色しやすいという問題があった。銀膜が変色した照明器具用反射板100は、外観が悪くなるだけでなく、反射率が低下することにより、照明効率が著しく低下する。
【0005】
銀の変色メカニズムについては、これまでも様々な研究がなされているが、光、特にUV(紫外線)、熱、および大気中の水分や亜硫酸ガス、硫化水素、アンモニア等のガスが変色の主な原因であるとされ、これらの変色原因が相互に作用することにより、銀が硫化銀や酸化銀等の褐色や黒色化合物に変化すると考えられている。
【0006】
すなわち、図5に示すように、アンダーコート層104あるいは基材に達したUVは、アンダーコート層104あるいは基材の樹脂を劣化させ、ヒドロキシラジカル(・OH)や、パーオキシラジカル(・OR)を生成させる。発生したラジカルによって生成する銀酸化物により、変色が発生していると推定される。
【0007】
特許文献1には、銀の薄膜に波長が325nm付近のUV領域に透過率の「窓」が存在し、その「窓」を透過したUVが銀との界面付近のアンダーコートを劣化させることが記載されている。
なお、本発明者によって、銀膜の膜厚が薄い場合、波長が320nm付近のUV領域に透過率の「窓」が存在することを確認した。光源として用いられる蛍光ランプやHID(High Intensity Discharge)ランプにも、320nmのUVが存在することが知られている。
【0008】
図6は、一例として蛍光ランプのUV強度特性を示したものである。UV−Aである波長365nmのピークのほかに、銀膜の透過率の「窓」の領域に近い、UV−Bである波長315nmのピークが存在していることが判る。
【0009】
したがって、銀膜を透過した320nm付近のUVによるアンダーコート層あるいは基材の劣化を防ぐためには、銀膜に透過率の「窓」を作らないよう、十分に厚い銀膜を形成すればよい。
【0010】
しかし、図7に示すように、一般的な照明器具110は、反射板115が立体形状を有しているものが多く、内面全面に厚い銀膜を均一に形成することは、製造上極めて困難であるという課題がある。
なお、図7中の符号111は本体、112はインバータ、113はソケット、114はランプ、116は板ばねである。
【0011】
図8は、図7に示した照明器具110における反射板115の内面にスパッタリング法を用いて銀膜を形成した際の、反射板115の位置による膜厚分布である。反射板115の下部と上部ではおよそ6〜10倍もの膜厚差が生じており、光源であるランプ114に近く、UV強度の高い反射板115の上部になるほど、透過率の「窓」を生じさせる膜厚となることが判る。
【0012】
また、特許文献2には、銀膜を透明酸化物膜で挟み込むことにより、耐熱性、耐湿性が向上することが記載されている。上記透明酸化物膜として、ITO、ZnO(酸化亜鉛)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、およびSnO(錫系酸化物)の金属酸化物、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、タンタル酸化物、ケイ素窒化物、アルミニウム窒化物、チタン窒化物、並びにタンタル窒化物が挙げられている。また、上記の膜厚は、1〜20nmとされている。
【0013】
照明器具用反射板は、高強度のUVを含む光が照射されるため、耐候性の向上が不可欠である。図9に示すように、銀膜の膜厚が170nm程度以下になると、波長320nmをピークとする透過率の「窓」が現れる。すなわち、光源から放射されたUVが銀膜を透過し、アンダーコート層あるいは基材表面に達することになる。銀膜の膜厚が薄くなるとともに、「窓」は波長域、透過率ともに増大する。したがって、アンダーコート層あるいは基材のUV負荷が増大する。
【0014】
なお、図9は、石英基板上に純度99.99%の銀をスパッタリング法により形成した銀膜における銀膜透過スペクトルの膜厚依存性を示す図であり、横軸はUVの波長を示し、縦軸は透過率を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭61−154942号公報(3頁左上欄)
【特許文献2】特開2001−296412号公報(請求項6、段落0030)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の照明器具用反射板は、銀膜が変色するという問題があった。
【0017】
本発明は、前述した課題を解決するためになされたものであり、銀膜の変色を抑制できる照明器具用反射板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の照明器具用反射板は、基材と、銀を含み入射する可視光を反射する反射面を有する反射層と、反射層における反射面の反対側に配置され、かつ400nm以下の波長の光をカットする非反射面側保護層と、を有する。
【0019】
ここで、反射層における反射面側に配置される反射面側保護層を有し、非反射面側保護層および反射面側保護層は、ともに酸化インジウムスズ(ITO)であり、非反射面側保護層の膜厚が反射面側保護層の膜厚以上である。
【0020】
また、非反射面側保護層は、インジウムが酸化インジウムInOとして形成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、銀膜の変色を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る実施形態の照明器具用照明板を示す断面図
【図2】層内に酸素を導入せず形成したITO膜の透過スペクトルを示すグラフ
【図3】実施例および比較例の耐候性試験の結果を示す表
【図4】従来の反射板を示す断面図
【図5】銀の変色メカニズムを説明する図
【図6】蛍光ランプの紫外線強度特性を示すグラフ
【図7】銀蒸着反射板を有する照明器具を示す図
【図8】銀の位置による膜厚を示す図
【図9】銀膜透過スペクトルの膜厚依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態の照明器具用反射板について、図面を参照して説明する。図1は、実施形態の照明器具用反射板10を示す。この反射板10は、アンダーコート層12と反射層である銀膜14との間に、UVカット層として、波長400nm以下の波長をカットする層、すなわち、非反射面側保護層13を形成することにより、銀膜14を透過するUV、特に波長320nm付近をカットし、基材11およびアンダーコート層12を保護する。これにより、銀膜14の変色を抑制できる。
【0024】
すなわち、この反射板10は、基材11、アンダーコート層12、非反射面側保護層13、銀膜14、反射面側保護層15、トップコート層16とを備え、これらの構成要素が上記の順に下層から上層に積層されている。
【0025】
基材11は、アルミ、鉄、マグネシウム、亜鉛等の金属、合金や、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)、PPO(ポリフェニレンオキサイド)、又はPEI(ポリエーテルイミド)等のプラスチック等によって形成されている。基材11の成形方法は、材質や反射材の形状により、公知の成形方法によって成形できる。但し、表面は可能な限り滑らかで、清浄な面とするのが好ましい。また、成形時に付着した、離型剤やガスマーク、滑剤、オイル等は、物理的手段によって除去しておくのが望ましい。
【0026】
アンダーコート層12は、基材11と非反射面側保護層13との密着性を向上させ、基材11の平滑性を向上させる目的で形成される。基材11と非反射面側保護層13との密着性や平滑性が十分に確保されるならば、アンダーコート層12を省略できる。アンダーコート層12には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等からなる公知の塗膜を用いることができる。塗装方法は、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート等、公知の塗装方法を適用できる。また、硬化方法は、熱、UV、電子線等の公知の手段を用いることができる。
【0027】
非反射面側保護層13は、ITOにより形成されている。形成方法は、スパッタリング法の他、真空蒸着法等の物理的手法、あるいはスプレー法やCVD法等の化学的手段でもよい。一般的に、ITO製膜時、酸素を含むガス雰囲気中にてスパッタリングを行い、透明なInを形成させるが、非反射面側保護層13においては、酸素ガスを導入せず、UVカット性能の高いInOを形成させる。
【0028】
図2は、酸素導入を行わず、形成したITO膜の透過スペクトルを示す。組成をX線光電子分光(XPS)により分析した結果、In(インジウム):O(酸素):Sn(錫)の元素比率は、およそ10:10:1であり、InがほぼInOとして形成され、微量の酸化錫がドープされていることが確認できる。
【0029】
非反射面側保護層13のITO膜は、波長400nm以下のUVを十分にカットするため、膜厚100〜1000nm程度、より好ましくは膜厚500nm〜1000nm程度とする。この非反射面側保護層13は、銀膜14の反射面14Aの反対側に配置されている。
【0030】
銀膜14は、銀もしくは銀を主体とする合金を膜厚20〜1000nm程度形成したものである。形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD法でもよく、また、銀鏡反応のような化学的析出法でもかまわない。
【0031】
また、銀もしくは銀を主体とする合金が最表層に20nm以上の厚さで積層されていれば、基材側の組成は耐熱性や密着性を高める目的で、銀以外の金属、例えば、アルミニウムや銅、ニッケル等の他の元素が含まれていてもよい。
【0032】
反射面側保護層15は、ITO、In、SnO、ZnO等の透明酸化物を用いることができる。その中でも、スパッタリング装置を用いる場合には、スパッタリングしやすく、透明性が高く、かつ、非反射面側保護層13と同材料であるITOを3〜30nmの膜厚で形成することが製造上好ましい。長期耐候性、ガスバリヤ性と透明性を両立させるため、7〜15nmの膜厚がより好ましい。
【0033】
また、透明性確保のため、反射面側保護層15は、非反射面側保護層13と比較して薄く形成されている。ITOの酸化度合いは問わないが、反射面側保護層15の成膜中、銀膜14の酸化による変色を防止するため、スパッタ層内に酸素ガスを導入することなく成膜するのが好ましい。
【0034】
トップコート層16は、銀膜14および薄い反射面側保護層15を保護する目的で形成され、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等からなる公知の塗膜が用いられる。塗布方法は、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート等、公知の方法から選択される。また、硬化方法は、熱、UV、電子線等の公知の手段を用いることが可能である。
【0035】
次に、この照明用器具反射板10の作用を説明する。400nm以下の波長を含む光が光線から発せられると、銀膜14を透過したUVは、非反射面側保護層13でカットされる。可視光線の光は、銀膜14の表面で反射される。したがって、銀膜14を透過して、アンダーコート層12、および基材11へ達するUVはなく、アンダーコート層12および基材11の劣化を防止できるとともに、耐光性を向上させることができる。これにより、銀膜14に変色が発生せず、銀膜14が長期間変色から保護される。
【0036】
(実施例1)
(照明器具用反射板の作製)
基材:アルミ製平板を2−プロパノールを含ませた脱脂綿で拭き取り、清浄な表面の基材を形成した。
アンダーコート層:エポキシ変性アクリルメラミン塗料(久保孝ペイント株式会社製)を乾燥後、膜厚が5μmになるようにスプレー塗装した後、140℃にて30分焼付乾燥させることによって形成した。
【0037】
非反射面側保護層:錫が5%ドープされたITOターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法により、500nmの膜厚で形成した。成膜時、酸素分圧を2×10−2Paとした。
【0038】
銀膜:純度99.9%の銀からなるターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により、100nmの膜厚で形成した。
【0039】
反射面側保護層:錫が5%ドープされたITOターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法により、10nmの膜厚で形成した。成膜時、スパッタ層内への酸素導入は行わなかった。
【0040】
トップコート層:アクリルメラミン塗料(久保孝ペイント株式会社製)を乾燥後、膜厚が5μmになるようスプレー塗装した後、160℃にて40分焼き付き乾燥させることで、形成した。
【0041】
(実施例2)
非反射面側保護層の成膜時、スパッタリング層内への酸素導入は行わず、膜厚が500nmのITO膜を形成した。その他は、実施例1と同様の条件にて、照明器具用反射板を作製した。
【0042】
(比較例1)
非反射面側保護層の膜厚を5nmとし、その他は、実施例2と同様の条件にて、照明器具用反射板を作製した。
【0043】
(比較例2)
実施例1,2と同様に、非反射面側保護層を形成しない照明器具用反射板を作製した。
【0044】
(評価方法)
光線反射率:上記によって得られた照明器具用反射板について、自記分光光度計を用いて波長555nmにおける全光線反射率を測定した。
耐候性:得られた反射鏡を、120℃雰囲気の恒温層内で2mW/cm2のUV強度によって、120日間、水銀灯照射を行った。その後、自記分光光度計を用いて波長555nmにおける全光線反射率を測定した。また、トレーシングペーパをサンプルにかぶせて、外観を観察した。
【0045】
図3は評価結果を示す。図3から判るように、実施例1,2は、いずれも銀膜に変色が発生しておらず、本願発明の効果が認められた。
なお、比較例1,2は、いずれも褐色の変色が認められた。
【0046】
本実施形態の照明器具用反射板10は、アンダーコート層12および基材11のUV劣化を抑制し、かつ耐光性を向上できる。これにより、銀膜14が変色するのを抑制できる。
【0047】
また、銀膜14の上層および下層のITO膜である反射面側保護層15および非反射面側保護層13によって耐熱性・耐湿性が向上するのみでなく、銀膜14の下層である非反射面側保護層13のITO膜の厚膜化によって、UVカット性能が高まり、アンダーコート層12および基材11の劣化が抑制され、照明器具用反射板の耐光性向上が可能である。
【0048】
また、銀膜14の下層である非反射面側保護層13のITO膜中、インジウムをInOとして形成することにより、更なる耐光性向上が可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 照明器具用反射板
11 基材
13 非反射面側保護層
14 銀膜
15 反射面側保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
銀を含み入射する可視光を反射する反射面を有する反射層と、
前記反射層における前記反射面の反対側に配置され、かつ400nm以下の波長の光をカットする非反射面側保護層と、を有する照明器具用反射板。
【請求項2】
請求項1に記載の照明器具用反射板において、
前記反射層における前記反射面側に配置される反射面側保護層を有し、前記非反射面側保護層および前記反射面側保護層は、ともに酸化インジウムスズ(ITO)であり、前記非反射面側保護層の膜厚が反射面側保護層の膜厚以上である照明器具用反射板。
【請求項3】
請求項2に記載の照明器具用反射板において、
前記非反射面側保護層はインジウムが酸化インジウムInOとして形成される照明器具用反射板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−47856(P2012−47856A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187949(P2010−187949)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】