説明

熱交換器及び熱搬送システム

【課題】 摩擦抵抗を低減する界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体に用いた場合でも、媒体流路での流動摩擦抵抗を低減させたままで、熱交換時の伝熱特性を向上させることができる熱交換器を提供すること。
【解決手段】 界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体として用いて熱交換を行う熱交換器。この熱交換器は、熱交換を行うための伝熱管11と、伝熱管11の上流側に配設されたミキサー手段20とを備え、ミキサー手段20は伝熱管11に送給される熱搬送媒体を攪拌する。界面活性剤水溶液では、界面活性剤は、疎水基部を中心に外周を親水基部が取り巻くように自己集合して棒状ミセルを形成するが、この界面活性剤水溶液を攪拌して剪断力を与えると、ミセルの絡まりが解きほぐされ、粘弾性は発現しなくなり、その結果、その伝熱特性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体として用いて熱交換を行う熱交換器及びそれを用いた熱搬送システムに関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、地域冷暖房システムにおいては、熱を供給する熱供給側プラント及び熱を利用する熱利用側プラントが離れて設けられ、これらプラントの間を通して熱搬送媒体が循環され、熱(温熱及び/又は冷熱)は熱搬送媒体、例えば水を介して搬送される。大きな冷暖房システムでは、熱供給側プラント及び熱利用側プラント(例えば、熱を利用するビル)を通して熱搬送媒体を循環させるための媒体流路(例えば、配管から構成される)の長さは、数km以上になり、熱搬送媒体として水を用いた場合に、媒体流路を通して水を循環させるためのポンプの動力は、かなり大きくなり、水を搬送するために消費されるコストは、地域冷暖房システムのランニングコスト(電気代)の約60〜70%と言われている。
【0003】このようなことから、最近、ポンプの動力を低減させる有効な方法として、粘弾性を示す界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体として用いることが提案されている。界面活性剤水溶液を熱搬送媒体として用いた場合、以下の理由により、流動摩擦抵抗を著しく低減させることができると言われている。即ち、媒体流路を流動する水に、例えば所定の陽イオン性界面活性剤と例えばサリチル酸ナトリウムとを数10〜数1000ppm溶解させると、界面活性剤は、水中で疎水基部を中心にして外周に親水基部を配置してミセル(会合体)を形成し、そのミセルが、棒状の形態をなして高次に絡まり、粘弾性を示すと言われている。このような特性を示す界面活性剤及び水搬送配管内の摩擦低減方法として、例えば、特公平3−76360号公報、特公平4−6231号公報、特公平5−47534号公報、特開平8−311431号公報等に開示されるものが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の界面活性剤を添加した水溶液の特性として、流動摩擦抵抗を減少することができる反面、その伝熱特性が低下することが知られている。このため、界面活性剤を添加した水溶液を地域冷暖房システムやビル空調システム等の熱搬送システムに用いた場合、流動摩擦抵抗の減少により熱搬送媒体を搬送するための動力が削減され、省エネルギー型熱搬送システムを構築することができるが、熱供給側プラント及び熱利用側プラントの空調機等に設置されている熱交換器での伝熱性能が低下する。この結果、界面活性剤を添加した水溶液を用いた熱搬送システムでは、界面活性剤を添加していない従来の熱搬送媒体(即ち、水又は配管等の機器材料の腐食を防止する添加物を溶解した水溶液)を用いた熱搬送システムと比較して、熱供給側プラント及び熱利用側プラント内の熱交換器の伝熱部分の面積が大きくなり、熱交換器が大型化するという問題がある。
【0005】本発明の目的は、流動摩擦抵抗を低減する界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体に用いた場合でも、媒体流路での流動摩擦抵抗を低減させたままで、熱交換時の伝熱特性を向上させることができる熱交換器及びそれを用いた熱搬送システムを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討を行い、種々の実験を行った結果、界面活性剤を添加した水溶液の伝熱性能は、熱交換器の伝熱管の熱交換を行う部分を流れる熱搬送媒体の流れの乱れ状態に大きく影響を受け、この流れの乱れ状態により大きく変化することを見出し、さらに、熱搬送媒体の流れの乱れを生成するための物理的エネルギーに着目し、本発明を完成するに至った。
【0007】即ち、本発明は、界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体として用いて熱交換を行う熱交換器であって、前記熱搬送媒体との間で熱交換を行うための伝熱管と、前記伝熱管の上流側に配設されたミキサー手段と、を備え、前記ミキサー手段は前記伝熱管に送給される熱搬送媒体を攪拌し、攪拌状態の熱搬送媒体が前記伝熱管を通して流れることを特徴とする。
【0008】本発明に従えば、熱交換器が熱交換を行うための伝熱管と、伝熱管の上流側に配設されたミキサー手段を備えているので、ミキサー手段にて攪拌された熱搬送媒体が攪拌された状態で伝熱管を通して流れる。一般に、界面活性剤を添加した水溶液では、疎水基部と親水基部からなる界面活性剤が、疎水基部を中心に外周を親水基部が取り巻くように自己集合して棒状ミセルを形成し、この棒状ミセルが高次に絡まることにより粘弾性を示す。この界面活性剤水溶液を攪拌して剪断力を与えると、ミセルの絡まりが解きほぐされ、粘弾性は発現しなくなり、このような状態が数秒間継続する。従って、ミキサー手段によって攪拌することによって、攪拌状態の熱搬送媒体(界面活性剤水溶液)が伝熱管を通して流れ、この攪拌状態ではミセルの絡まりが解きほぐされている故に、伝熱特性が低下せず、その結果、熱搬送媒体によって搬送された熱(温熱及び/又は冷熱)は伝熱管を介して熱交換され、熱交換器における熱交換効率を改善することができる。
【0009】また、本発明では、前記伝熱管の上流側に接続された媒体流路を更に含み、前記ミキサー手段は、前記伝熱管の熱交換部の上流端から上流側10m以内の媒体流路に配設され、単位重量当たり5J/kg以上の出力エネルギーを熱搬送媒体に与えることを特徴とする。
【0010】本発明に従えば、伝熱管の熱交換部の上流端から上流側10m以内の媒体流路にミキサー手段が配設され、このミキサー手段が5J/kg以上の出力エネルギーを熱搬送媒体に付与するので、熱搬送媒体に充分な剪断力を作用させることができ、攪拌状態、即ちミセルの絡まりが解きほぐされた状態の熱搬送媒体が伝熱管を通して流れ、かくして、熱搬送媒体の熱を伝熱管を介して効率良く熱交換することができる。
【0011】また、本発明では、前記ミキサー手段が、モーター攪拌機、超音波ホモジナイザー又は渦巻きポンプのいずれかであることを特徴とする。本発明に従えば、ミキサー手段がモータ攪拌機、超音波ホモジナイザー又は渦巻きポンプから構成されるので、熱搬送媒体を攪拌して所望の剪断力を作用させることができる。
【0012】更に、本発明では、界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体として用いる熱搬送システムであって、熱搬送媒体に熱を供給する熱供給側プラントと、熱搬送媒体によって搬送される熱を利用する熱利用側プラントと、前記熱供給側プラントからの熱搬送媒体を前記熱利用側プラントに送給するための媒体送給流路と、前記熱利用側プラントからの熱搬送媒体を前記熱供給側プラントに戻す媒体戻り流路と、を備え、前記熱供給側プラント及び前記熱利用側プラントの少なくとも一方には、熱搬送媒体を加熱又は冷却するための請求項1〜3記載の熱交換器が装備されていることを特徴とする。
【0013】本発明に従えば、熱搬送媒体として界面活性剤水溶液を用いるとともに、熱供給側プラント及び熱利用側プラントの少なくとも一方に上述した熱交換器を装備しているので、媒体送給流路及び媒体戻り流路を流れるときには、界面活性剤水溶液は、棒状ミセルが絡むようになって粘弾性を示し、これによって流動摩擦抵抗が小さくなり、熱搬送媒体を送給するための動力を抑えることができる。また、上記熱交換器の伝熱管を通して流れるときには、界面活性剤水溶液は、攪拌状態で棒状ミセルが解きほぐされて粘弾性を示さなくなり、これによって、熱搬送媒体の伝熱特性が大きくなり、熱搬送媒体の熱を伝熱管を介して効率良く熱交換することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して、本発明に従う熱交換器及びこれを備えた熱搬送システムの一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施の形態の熱交換器を備えた熱搬送システムの一例を簡略的に示す簡略図であり、図2は、図1の熱搬送システムにおける熱交換器の一部を示す部分斜視図であり、図3は、図2の熱交換器に設けられたミキサー手段及びその近傍を示す部分断面図である。尚、以下の説明では、本発明の熱搬送システムをビル等の空調を行う空調システムに適用して説明するが、このような空調システムに限定されず、地域冷暖房システム、ごみ焼却場、工場等の排熱システム、河川水、海水、下水処理水等の温度差エネルギーを利用した熱利用システム等にも同様に適用することができる。
【0015】図1において、図示の熱搬送システムは、熱を供給する熱供給側プラント1と、ビル等の熱を利用する熱利用側プラント2と、これら両プラント1,2を接続する媒体送給流路3及び媒体戻り流路4と備え、熱を搬送する熱搬送媒体は熱供給側プラント1、媒体送給流路3、熱利用側プラント2及び媒体戻り流路4を通して循環される。媒体送給流路3及び媒体戻り流路4は、例えば配管から構成される。この実施形態では、熱供給側プラント1は、冷熱を発生する冷凍機5を備え、この冷凍機5にて発生した冷熱が熱搬送媒体を介して熱供給側プラント1から熱利用側プラント2に搬送される。
【0016】熱搬送媒体は、界面活性剤を添加した水溶液(例えば水、水に防錆剤等を添加したもの等)が用いられ、添加される界面活性剤は、流動摩擦抵抗を低減させる特性を有する陽イオン系界面活性剤である。この熱搬送システムでは、熱搬送媒体は、冷凍機5に装備された熱交換器(後述する)で冷却され、熱供給側プラント1から媒体送給流路3を通して熱利用側プラント2へ搬送される。そして、冷却された熱搬送媒体は、熱利用側プラント2で冷房用の冷熱として利用され、冷熱利用後の熱搬送媒体(加熱された熱搬送媒体)が、媒体戻り流路4を通して熱供給側プラント1に戻され、熱供給側プラント1で再び冷却され、熱搬送媒体はこのようにして冷熱を搬送する。
【0017】次に、図2を参照して、冷凍機4の内部に装備される熱交換器について説明すると、冷凍機5内で発生する冷熱を熱搬送媒体に伝達する部分は蒸発器と呼ばれ、その内部には、シェルアンドチューブ型熱交換器10が備えられている。このシェルアンドチューブ型熱交換器10は、相互に平行に軸線方向(図2において左右方向)に延びる複数本の伝熱管11を備え、複数本の伝熱管11を覆うよう円筒状のシェル12が設けられている。シェル12の両端には端壁13(図2及び図3において一方のみ示す)が設けられている。一方の端壁13には接続管部14が設けられ、この接続管部14が媒体戻り流路4に接続され、他方の端壁(図示せず)には接続管部15が設けられ、この接続管部15が媒体送給流路3に接続される。複数本の伝熱管11が収容されるシェル12内は減圧下に保持される。複数本の伝熱管11の各々には放熱フィンが設けられているが、図2及び図3においてはこれら放熱フィンは省略して示している。
【0018】熱搬送媒体は、矢印16で示すように、一方の接続管部14から流入した後分流して複数本の伝熱管11内を流れ、その後他方の接続管部15から矢印17で示すように流出する。一方、シェル12内では、吸収式冷凍機5の場合には水(又は電動式ターボ冷凍機の場合にはフロン液)が連続的に噴水され、水(又はフロン液)が複数本の伝熱管11の外周面をたれ落ちながら蒸発(気化)し、伝熱管11内を流れる熱搬送媒体は、水(又はフロン液)の気化熱により冷却され、冷却された熱搬送媒体が、接続管部15から媒体送給流路3を通して熱利用側プラント2の熱交換器(図示せず)に供給され、熱利用側プラント2の熱交換器にて熱交換されて冷房用の冷熱として利用される。尚、熱搬送媒体は、媒体送給流路3に配設されたポンプ(図示せず)により送給される。
【0019】この熱交換器10には、更に、熱搬送媒体を攪拌して剪断力を付与するためのミキサー手段20が設けられている。主として図3を参照して、ミキサー手段20は、熱交換器10の伝熱管11に流入する熱搬送媒体を攪拌して物理的エネルギーを付与し、攪拌状態の熱搬送媒体が熱交換器10の複数本の伝熱管11を流れるようになる。図示の形態では、シェル12の一方の端壁13に接続された接続管部14には支持突部21が設けられ、この支持突部21に挿入孔が設けられている。ミキサー手段20はモータ攪拌機22から構成され、そのモータ23の出力軸24が支持突部21の挿入孔を通して接続管部14内に挿入され、挿入された先端部に攪拌羽根25が取り付けられている。
【0020】この熱交換器10では、熱搬送媒体によって熱(冷凍機5の場合には冷熱)を搬送する、換言すると、伝熱管11を通して熱搬送媒体を流すとき、モータ攪拌機22が作動して攪拌羽根25が回動される。かくすると、攪拌羽根25が接続管部14を流れる熱搬送媒体を攪拌し、攪拌状態の熱搬送媒体が接続管部14及び複数本の伝熱管11を通して流れ、このように攪拌状態で流れることによって、伝熱管11における伝熱特性が改善され、気化熱による冷熱を熱搬送媒体に効率良く伝えることができる。このように伝熱特性が改善されるのは、次の理由によるものと考えられる。
【0021】一般に、界面活性剤を添加した水溶液では、疎水基部と親水基部からなる界面活性剤が、疎水基部を中心に外周を親水基部が取り巻くように自己集合して棒状のミセルを形成し、この棒状ミセルが高次に絡まることにより粘弾性を示し、この粘弾性によって流動摩擦抵抗が低下する一方、その伝熱特性が低下するようになる。このような界面活性剤水溶液を攪拌して剪断力を与えた攪拌状態では、棒状ミセルの絡まりが解きほぐされ、その結果、界面活性剤による粘弾性はほとんど発現しなくなり、粘弾性が発現しなくなることによって、流動摩擦抵抗は大きくなる一方、その伝熱特性が向上するようになる。この攪拌状態は、剪断力を受けた後も数秒間は維持されるが、その後ミセルの絡まりを解きほどく程度の剪断力を受けなければ、時間の経過とともに界面活性剤の分子は、再び自己集合して棒状のミセルを生成し、粘弾性が復活する。
【0022】上述したような熱搬送システムにおいては、冷凍機5内の熱交換器10における熱搬送媒体の滞留時間は、数秒間であるため、熱交換器10の伝熱管11の熱交換部(実際に熱交換が行われる部分)の手前で熱搬送媒体を攪拌させて剪断力を付与すればよく、このように攪拌することによって、界面活性剤水溶液のミセルの絡まりが解きほぐされた状態のまま(即ち、攪拌状態のまま)熱交換器10の複数本の伝熱管11内を通過するようになる。そして、これら伝熱管11を通過した後、界面活性剤水溶液中にて再びミセルの絡まりが発生して粘弾性が復活するようになる。このため、熱搬送媒体(即ち、界面活性剤水溶液)は媒体送給流路3及び媒体戻り流路4を流れるときには粘弾性を示して流動摩擦抵抗が小さくなり、また熱交換器10を流れるときには粘弾性をほとんど示さなくなって伝熱特性が改善され、かくして、界面活性剤水溶液を用いたことによる流動摩擦低減効果を維持しながら、熱交換器における伝熱特性の改善を図ることができる。
【0023】例えば、空調システムの熱供給側プラント1の冷凍機5に、一般的に使用される配管口径(内径)10〜20mmの範囲内の伝熱管を用い、1.0〜2.5m/sの流速範囲内で界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体として使用しても、水を熱搬送媒体として用いた場合と同等の伝熱性能(熱伝達率)を得ることができる。この結果、ミキサー手段20を備える熱交換器10を、図1に示す熱搬送システムに適用すると、伝熱管11以外の媒体流路(媒体送給流路3及び媒体戻り流路4等)では、従来と同様に界面活性剤を添加した水溶液の流動摩擦抵抗低減効果が得られ、これによりポンプ(図示せず)の動力を低減することができるとともに、熱供給側プラント1の熱交換器10内の伝熱管11の熱交換部では、水と同等の伝熱性能が得られ、熱搬送媒体と効率よく熱交換を行うことができ、熱交換器を小型化することが可能となる。また、ミキサー手段20の攪拌羽根25が接続管部14を流動する熱搬送媒体に直接的に剪断力を付与するので、攪拌羽根25から出力される剪断エネルギーを効率よく熱搬送媒体に伝達することができ、効率良く熱搬送媒体を攪拌することができる。
【0024】ミキサー手段20の配設位置は、上述した位置に限定されるものではなく、熱搬送媒体が攪拌状態で伝熱管11の熱交換部を流れるような位置に設けるようにすればよく、このような位置に配設することによって、伝熱管11の熱交換部における伝熱特性を向上させることができる。このようなことから、ミキサー手段20は伝熱管11の上流端(具体的には、その熱交換部の上流端)から上流側10m以内の媒体流路に設け、熱搬送媒体の単位重量当たり5J/kg以上の出力エネルギーを付与するようにするのが望ましく、このように構成することによって、伝熱管11の熱交換部を流れるときには水と同等程度の伝熱特性を得ることができ、またそれ以外の媒体流路を流れるときには所望の流動摩擦低減効果を得ることができる。
【0025】上述した実施形態では、ミキサー手段20としてモータ攪拌機22を用いているが、これに代えて、超音波を利用して熱搬送媒体に剪断力を付与して攪拌する超音波ホモジナイザーを用いるようにしてもく、或いは熱搬送媒体を攪拌送給するための渦巻きポンプを用いるようにしてもよい。
【0026】また、例えば、上述した実施形態では、熱供給側プラント1の冷凍機5に本発明の熱交換器を適用して説明したが、本発明の熱交換器は、熱供給側プラント1の熱交換器に代えて、或いはこの熱交換器に加えて熱利用側プラント2の熱交換器(図示せず)にも同様に適用することができ、このように適用しても同様の作用効果が達成される。
【0027】実施例及び比較例本発明の熱交換器の伝熱特性を確認するために、次の通りの評価実験を行った。この評価実験には、図4に示す通りの評価装置を用いた。図4において、実験に用いた評価装置は、熱搬送媒体を溜める媒体タンク31と、熱搬送媒体の伝熱特性を計測するための伝熱特性計測部32と、媒体タンク31内の熱搬送媒体を送給するためのポンプ33と、を備えている。媒体タンク31とポンプ33とは配管34を介して接続され、ポンプ33と伝熱特性計測部32とは配管35を介して接続され、伝熱特性計測部32と媒体タンク31とは配管36を介して接続されている。媒体タンク31内には10℃に調整した熱搬送媒体が充填され、この熱搬送媒体がポンプ33の作用によって、配管34,35、伝熱特性計測部32及び配管36を通して循環される。
【0028】伝熱特性計測部32は、伝熱管37と、この伝熱管37の周りを覆う円管38とを備え、円管38は、ステンレス製の呼び径40Aのものである。伝熱管37と円管38とから構成される二重管の熱交換器の内側、即ち円管38と伝熱管37との間の環状空間部分には、伝熱管37の管壁の温度が8℃になるように、約2〜3℃の冷水が矢印で示すように常時流入され、この冷水により、伝熱管37内を通して流れる10℃の熱搬送媒体が冷却される。
【0029】本評価装置では、冷却時の伝熱管37の内側の伝熱特性として熱伝達率を算出した。尚、実際の冷凍機内の蒸発器と上記の評価装置とでは、伝熱管内を流動する熱搬送媒体を冷却する方式が異なるが、このような相違点は、伝熱管の外側に関するものであり、伝熱管の内側を流動する熱搬送媒体の伝熱特性に何ら影響するものではない。
【0030】また、熱搬送媒体としては、上水に亜硝酸系の配管腐食防錆剤クリサワーI−108(栗田工業株式会社製)を750ppm溶解した水溶液(以下、「従来型媒体」という)と、この従来型媒体にオレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライドを主成分とする界面活性剤エソカードO/12(ライオン株式会社製)を750ppm、サリチル酸ナトリウム(和光純薬株式会社製)を450ppm溶解した水溶液(以下、「界面活性剤媒体」という)とを使用し、両者による伝熱特性の相違を評価した。
【0031】実施例として、冷凍機の伝熱管として一般的に使用される平滑銅管(外径16mm、管厚さ1mm)を用い、この伝熱管を伝熱特性計測部32の伝熱管37として設置するとともに、この伝熱管37の熱交換部の手前に、即ち円管38の上端に近接してその上流に、ミキサー手段として株式会社日立製作所製ホモジナイザーを取り付け、その羽根部を伝熱管37に設けた挿入孔を通して挿入し、伝熱管37を流動する界面活性剤媒体に剪断力を直接的に付与した。そして、このような状態における界面活性剤媒体の熱伝達率(W/m・℃)とその流速(m/s)との関係を測定した。実施例の評価結果は、図5に黒丸で示す通りであった。尚、このとき、ホモジナイザーの羽根部を15000rpmで回転し、その出力を50Wとした。
【0032】比較例1として実施例と同様の銅管を使用し、実施例と同様にしてこの伝熱管を評価装置に設置した。また、熱搬送媒体として従来型媒体を用い、ホモジナイザーによる剪断力を付与せず、実施例と同様の条件でもって、従来型媒体の熱伝達率とその流速との関係を測定した。更に、比較例2として、実施例と同様の界面活性剤媒体を用い、ホモジナイザーによる剪断力を付与せず、比較例1と同様の条件でもって、界面活性剤媒体の熱伝達率とその流速との関係を測定した。従来型媒体を用いた比較例1の評価結果は、図5に白丸で示す通りであり、界面活性剤媒体を用いた比較例2の評価結果は、図5に白三角で示す通りであった。
【0033】図5に示すように、一般的な熱搬送システムで使用される熱搬送媒体の流速範囲は1.0〜2.0m/sであり、この流速範囲においては、界面活性剤媒体を攪拌せずに流す比較例2では伝熱特性が低下するが、界面活性剤媒体を攪拌して流す実施例では、伝熱特性は低下せず、従来型媒体を攪拌せずに流す比較例1と同等の伝熱特性を得ることができ、流動摩擦抵抗を低下させる界面活性剤を添加した熱搬送媒体を用いた場合、ミキサー手段により剪断力を付与することによって伝熱特性を改善することができることが確認できた。
【0034】
【発明の効果】本発明の請求項1の熱交換器及び請求項4の熱搬送システムによれば、熱交換器の伝熱管の上流側にミキサー手段が配設されているので、ミキサー手段にて攪拌された熱搬送媒体が攪拌された状態で伝熱管を通して流れる。この攪拌状態では界面活性剤水溶液のミセルの絡まりが解きほぐされ、それ故に、伝熱特性が低下せず、その結果、熱搬送媒体によって搬送される熱を伝熱管を介して効率良く熱交換することができる。
【0035】また、本発明の請求項2の熱交換器によれば、伝熱管の上流端から上流側10m以内の媒体流路にミキサー手段が配設され、このミキサー手段が5J/kg以上の出力エネルギーを熱搬送媒体に付与するので、熱搬送媒体に剪断力を作用させて充分に攪拌することができ、これによって、界面活性剤水溶液のミセルの絡まりを解きほぐした状態で熱搬送媒体を熱交換器の伝熱管を通して流動させることができる。
【0036】また、本発明の請求項3の熱交換器によれば、ミキサー手段がモータ攪拌機、超音波ホモジナイザー又は渦巻きポンプから構成されるので、熱搬送媒体を攪拌して剪断力を作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態の熱交換器を備えた熱搬送システムの一例を簡略的に示す簡略図である。
【図2】図1の熱搬送システムにおける熱交換器の一部を示す部分斜視図である。
【図3】図2の熱交換器に設けられたミキサー手段及びその近傍を示す部分断面図である。
【図4】熱搬送媒体の伝熱性能を評価するための評価装置を示す簡略図である。
【図5】熱搬送媒体の速度とその熱伝達率との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 熱供給側プラント
2 熱利用側プラント
3 媒体送給流路
4 媒体戻り流路
5 冷凍機
10 熱交換器
11 伝熱管
12 シェル
20 ミキサー手段
22 モータ攪拌機
25 攪拌羽根

【特許請求の範囲】
【請求項1】 界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体として用いて熱交換を行う熱交換器であって、前記熱搬送媒体との間で熱交換を行うための伝熱管と、前記伝熱管の上流側に配設されたミキサー手段と、を備え、前記ミキサー手段は前記伝熱管に送給される熱搬送媒体を攪拌し、攪拌状態の熱搬送媒体が前記伝熱管を通して流れることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】 前記伝熱管の上流側に接続された媒体流路を更に含み、前記ミキサー手段は、前記伝熱管の熱交換部の上流端から上流側10m以内の媒体流路に配設され、単位重量当たり5J/kg以上の出力エネルギーを熱搬送媒体に与えることを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】 前記ミキサー手段が、モーター攪拌機、超音波ホモジナイザー又は渦巻きポンプのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2記載の熱交換器。
【請求項4】 界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体として用いる熱搬送システムであって、熱搬送媒体に熱を供給する熱供給側プラントと、熱搬送媒体によって搬送される熱を利用する熱利用側プラントと、前記熱供給側プラントからの熱搬送媒体を前記熱利用側プラントに送給するための媒体送給流路と、前記熱利用側プラントからの熱搬送媒体を前記熱供給側プラントに戻す媒体戻り流路と、を備え、前記熱供給側プラント及び前記熱利用側プラントの少なくとも一方には、熱搬送媒体を加熱又は冷却するための請求項1〜3記載の熱交換器が装備されていることを特徴とする熱搬送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2003−269884(P2003−269884A)
【公開日】平成15年9月25日(2003.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−67883(P2002−67883)
【出願日】平成14年3月13日(2002.3.13)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)