説明

熱伝導性高分子成形体及びその製造方法

【課題】電気絶縁性、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができるとともに、良好な熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱伝導性高分子成形体は、熱液晶性高分子を主成分とする熱液晶性組成物から得られる。この熱伝導性高分子成形体は、加熱溶融状態の熱液晶性組成物に磁場又は電場を印加することによって、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を一定方向に配向制御させている。そして、熱伝導性高分子成形体の熱伝導率(λ)を熱液晶性高分子から得られる成形体の熱伝導率(λ)よりも高くなるように形成している。その熱伝導率(λ)は、0.7〜20W/(m・K)である。さらに、熱液晶性高分子は、(A)全芳香族ポリエステル及び(B)全芳香族ポリエステルアミドのうち少なくとも一種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱伝導性高分子成形体及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、電気絶縁性、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができるとともに、良好な熱伝導性を得ることができる熱伝導性高分子成形体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器においては高性能化、小型化、軽量化等に伴って半導体パッケージの高密度実装化、LSIの高集積化及び高速化等が行われている。これらに伴って、各種の電子部品において発生する熱が増大するため、電子部品から熱を効果的に外部へ放散させる熱対策が非常に重要な課題になっている。このような熱対策として、プリント配線基板、半導体パッケージ、筐体、ヒートパイプ、放熱板、熱拡散板等の放熱部材には、金属、セラミックス、高分子組成物等の放熱材料からなる熱伝導性成形体が適用されている。
【0003】
これらの放熱部材の中でも、高分子組成物からなる熱伝導性成形体(以下、熱伝導性高分子成形体という。)は、任意の形状に成形加工し易く、軽量であることから広く利用されている。
【0004】
熱伝導性高分子成形体を構成する高分子組成物は、樹脂、ゴム等の高分子マトリックス材料中に、熱伝導率の高い熱伝導性充填剤を配合したものが知られている。熱伝導性充填剤としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英等の金属酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、金、銀、銅等の金属、炭素繊維、黒鉛等が用いられている。
【0005】
一方、電子部品の実装工程及び使用時の高い温度環境でも変形が生じない耐熱性が要求される用途には、マトリックスの樹脂としては成形加工性が良好で耐熱性に優れる熱液晶性高分子を用いた高分子組成物及び熱伝導性高分子成形体が提唱されている。例えば、特開昭62−100577号公報には、特定の熱伝導性充填剤と熱液晶性高分子を含む熱伝導性に優れる組成物が開示されている。また、特開平5−271465号公報には、熱伝導性充填剤として50〜90重量%のジルコンと50〜10重量%の熱液晶性高分子を含む熱伝導性に優れる電気絶縁性組成物が開示されている。さらに、特表2001−523892号公報には、20〜80重量%の炭素繊維などの熱伝導性充填剤と80〜20重量%の熱液晶性高分子などを含む組成物が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来の技術における熱伝導性高分子組成物には、熱液晶性高分子に加えて熱伝導性充填剤が多量に配合されていた。そして、熱伝導性充填剤によって熱液晶性高分子が有する電気絶縁性、低密度等の優れた特徴が損なわれてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、電気絶縁性、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができるとともに、良好な熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明の熱伝導性高分子成形体では、熱液晶性高分子を主成分とする熱液晶性組成物から得られる熱伝導性高分子成形体であって、加熱溶融状態の前記熱液晶性組成物に磁場又は電場を印加することによって、熱伝導率(λ)を前記熱液晶性高分子から得られる成形体の熱伝導率(λ)よりも高くなるように形成したものである。
【0009】
請求項2に記載の発明の熱伝導性高分子成形体では、熱液晶性高分子のみ、又は熱液晶性高分子と該熱液晶性高分子100重量部に対して5重量部以下の熱伝導性充填剤とを含有する熱液晶性組成物、から得られる熱伝導性高分子成形体であって、熱伝導率(λ)が0.7〜20W/(m・K)であるものである。
【0010】
請求項3に記載の発明の熱伝導性高分子成形体では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、熱液晶性高分子が(A)全芳香族ポリエステル及び(B)全芳香族ポリエステルアミドのうち少なくとも一種であるものである。
【0011】
請求項4に記載の発明の熱伝導性高分子成形体では、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、密度が1.10g/cm以上、1.50g/cm未満であるものである。
【0012】
請求項5に記載の発明の熱伝導性高分子成形体では、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、シート状をなし、厚さ方向の熱伝導率(λ1T)が0.7〜20W/(m・K)であるものである。
【0013】
請求項6に記載の発明の熱伝導性高分子成形体の製造方法では、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法において、前記熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物を加熱溶融させて、溶融状態の熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物に磁場発生手段又は電場発生手段によって磁場又は電場を一定方向に印加させた後、冷却固化させたものである。
【0014】
請求項7に記載の発明の熱伝導性高分子成形体の製造方法では、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法において、前記熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物を加熱溶融させてシート状に成形し、溶融状態の熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物における厚さ方向に磁場発生手段又は電場発生手段によって磁場又は電場を印加させた後、冷却固化させたものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における熱伝導性高分子成形体は、熱液晶性高分子を主成分とする熱液晶性組成物から得られるものである。この熱伝導性高分子成形体は、加熱溶融状態の熱液晶性組成物に磁場又は電場を印加することによって、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を一定方向に配向制御させている。そして、熱伝導性高分子成形体の熱伝導率(λ)を熱液晶性高分子から得られる成形体の熱伝導率(λ)よりも高くなるように形成したものである。
【0016】
まず、熱液晶性組成物について説明する。
熱液晶性組成物の主成分である熱液晶性高分子は、熱可塑性を有する高分子であって、加熱溶融すると、ある温度範囲で光学的異方性溶融相を示す液晶状態となる高分子(サーモトロピック液晶高分子)である。熱液晶性高分子は、液晶状態において高分子の分子鎖が規則的に配列することによって光学的異方性溶融相を示すものである。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。
【0017】
熱液晶性高分子は細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖を有するものから構成される。そして、同軸又は平行のいずれかの関係にある複数の分子鎖は、連鎖伸長結合を有している。
【0018】
熱液晶性高分子の具体例としては、熱液晶性ポリエステル、熱液晶性ポリエステルアミド、熱液晶性ポリエステルエーテル、熱液晶性ポリエステルカーボネート、熱液晶性ポリエステルイミド等が挙げられる。また、熱液晶性高分子の分類としては、主鎖型の熱液晶性高分子、側鎖型の熱液晶性高分子及び複合型の熱液晶性高分子等が挙げられる。主鎖型の熱液晶性高分子は、液晶構造発現のもととなるメソゲン基が主鎖に入ったものいい、ポリエステルのコポリマー(ポリエチレンテレフタレートとヒドロキシ安息香酸のコポリマー等)、ヒドロキシナフトエ酸とヒドロキシ安息香酸のコポリマー等が挙げられる。側鎖型の熱液晶性高分子は、メソゲン基が側鎖に入ったものをいい、エチレン系やシロキサン系等の主鎖にメソゲン基が側鎖として連なった構造を繰り返し単位として含むものである。複合型の熱液晶性高分子は、主鎖型と側鎖型が複合されたものをいう。
【0019】
熱液晶性ポリエステルとしては、例えば全芳香族ポリエステル(A)が挙げられる。全芳香族ポリエステルとは、一般に芳香族カルボン酸と芳香族アルコールとのエステルをいう。本実施形態における全芳香族ポリエステルは、光学的異方性溶融相を形成しないセグメント部分を脂肪族又は脂環族の酸とアルコールによるエステルで構成することも可能である。また、本実施形態における全芳香族ポリエステルは、全芳香族ポリエステルそれ自体が光学的異方性溶融相を形成する場合、脂肪族又は脂環族の酸とアルコールによるエステルで構成することも可能である。さらに、本実施形態における全芳香族ポリエステルは、セグメント部分が光学的異方性溶融相を形成するのであれば、そのセグメント部分を脂肪族又は脂環族の酸とアルコールによるエステルで構成することも可能である。
【0020】
全芳香族ポリエステルの構成成分としては、(a)芳香族ジカルボン酸系化合物及び脂環族ジカルボン酸系化合物の少なくとも一種、(b)芳香族ヒドロキシカルボン酸系化合物の少なくとも一種、(c)芳香族ジオール系、脂環族ジオール系及び脂環族ジオール系化合物の少なくとの一種、(d)芳香族ジチオール系、芳香族チオフェノール系及び芳香族チオールカルボン酸系化合物の少なくとも一種、(e)芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミン系化合物の少なくとも一種、等が挙げられる。これらの成分(a)〜(e)は単独で構成してもよいが、多くは(a)及び(c)、(a)及び(d)、(a)、(b)及び(c)、(a)、(b)及び(e)、(a)、(b)、(c)及び(e)等のように組み合わせて構成される。
【0021】
芳香族ジカルボン酸系化合物(a)としては、芳香族ジカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、4,4′−トリフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェノキシブタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−4,4′−ジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテル−3,3′−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−3,3′−ジカルボン酸、ジフェニルエタン−3,3′−ジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸誘導体は、芳香族ジカルボン酸にアルキル、アルコキシ及びハロゲン等の置換基を導入したものであって、クロロテレフタル酸、ジクロロテレフタル酸、ブロモテレフタル酸、メチルテレフタル酸、ジメチルテレフタル酸、エチルテレフタル酸、メトキシテレフタル酸、エトキシテレフタル酸等が挙げられる。
【0022】
脂環族ジカルボン酸系化合物(a)としては、脂環族ジカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。脂環族ジカルボン酸誘導体は、脂環族ジカルボン酸にアルキル、アルコキシ、ハロゲン等の置換基を導入したものであって、トランス−1,4−(2−メチル)シクロヘキサンジカルボン酸トランス−1,4−(2−クロル)シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
芳香族ヒドロキシカルボン酸系化合物(b)としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸誘導体は、芳香族ヒドロキシカルボン酸にアルキル、アルコキシ、ハロゲン等の置換基を導入したものであって、3−メチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジメエチル−4−ヒドロキシ安息香酸、3−メトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−5−メチル−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−5−メトキシ−2−ナフトエ酸、2−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−クロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、2,5−ジクロロ−4−ヒドロキシ安息香酸、3−ブロモ−4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−5−クロロ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−7−クロロ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−5,7−ジクロロ−2−ナフトエ酸等が挙げられる。
【0024】
芳香族ジオール系化合物(c)としては、芳香族ジオール及びその誘導体が挙げられる。芳香族ジオールとしては、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、3,3′−ジヒドロキシジフェニル、4,4′−ジヒドロキシトリフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ナフタレンジオール、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、3,3′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,6−ナフタレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。芳香族ジオール誘導体は、芳香族ジオールにアルキル、アルコキシ、ハロゲン等の置換基を導入したものであって、クロロハイドロキノン、メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、フェノキシハイドロキノン、4−クロロレゾルシン、4−メチルレゾルシン等が挙げられる。
【0025】
脂環族ジオール系化合物(c)としては、脂環族ジオール及びその誘導体が挙げられる。脂環族ジオールとしては、トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、シス−1,4−シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロヘキサンジメタノール、トランス−1,3−シクロヘキサンジオール、シス−1,2−シクロヘキサンジオール、トランス−1,3−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。脂環族ジオール誘導体は、脂環族ジオールにアルキル、アルコキシ、ハロゲン等の置換基を導入したものであって、トランス−1,4−(2−メチル)シクロヘキサンジオール、トランス−1,4−(2−クロロ)シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
【0026】
脂肪族ジオール系化合物(c)としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の直鎖状又は分岐状脂肪族ジオールが挙げられる。
【0027】
芳香族ジチオール系化合物(d)としては、ベンゼン−1,4−ジチオール、ベンゼン−1,3−ジチオール、2,6−ナフタレン−ジチオール、2,7−ナフタレン−ジチオール等が挙げられる。
【0028】
芳香族チオフェノール系化合物(d)としては、4−メルカプトフェノール、3−メルカプトフェノール、6−メルカプトフェノール等が挙げられる。
芳香族チオールカルボン酸系化合物(d)としては、4−メルカプト安息香酸、3−メルカプト安息香酸、6−メルカプト−2−ナフトエ酸、7−メルカプト−2−ナフトエ酸等が挙げられる。
【0029】
芳香族ヒドロキシアミン系化合物(e)としては、4−アミノフェノール、N−メチル−4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、3−メチル−4−アミノフェノール、2−クロロ−4−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4′−ヒドロキシジフェニル、4−アミノ−4′−ヒドロキシジフェニルエーテル、4−アミノ−4′−ヒドロキシジフェニルメタン、4−アミノ−4′−ヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−エチレンジアニリン等が挙げられる。
【0030】
芳香族ジアミン系化合物(e)としては、1,4−フェニレンジアミン、N−メチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N′−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリン)、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、4,4′−ジアミノジフェノキシエタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン(メチレンジアニリン)、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(オキシジアニリン)等が挙げられる。
【0031】
熱液晶性ポリエステルアミドとしては、例えば全芳香族ポリエステルアミド(B)が挙げられる。全芳香族ポリエステルアミドとしては、芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族アミノカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸、芳香族オキシアミノ化合物及びこれらの誘導体から選ばれる二種以上の構成成分から組み合わせられるものが挙げられる。
【0032】
これらの熱液晶性高分子の中でも、熱伝導率(λ)の高い熱伝導性高分子成形体が容易に得られることから、好ましくは全芳香族ポリエステル(A)及び全芳香族ポリエステルアミド(B)のうち少なくとも一種、さらに好ましくは全芳香族ポリエステル(A)である。
【0033】
熱液晶性組成物には、耐熱性、成形加工性等を改良するためにその他の高分子を少量配合することができる。その他の高分子としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン、アクリル系高分子、ポリサルホン、シリコーン系高分子、ハロゲン系高分子、オレフィン系高分子等が挙げられる。
【0034】
また、熱液晶性組成物には必要に応じて顔料、染料、蛍光増白剤、分散剤、安定剤、紫外線吸収剤、エネルギー消光剤、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤、溶剤等を少量添加することも可能である。
【0035】
さらに、熱液晶性組成物には熱伝導性高分子成形体の熱伝導性を向上させるために熱伝導性充填剤を少量配合することも可能である。熱伝導性充填剤としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、金属被覆樹脂、炭素繊維、黒鉛化炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、球状黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ、ウィスカー状カーボン、マイクロコイル状カーボン、ナノコイル状カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が挙げられる。金属としては、銀、銅、金、白金、ジルコン等、金属酸化物としては酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等、金属窒化物としては窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等、金属炭化物としては炭化ケイ素等、金属水酸化物としては水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの熱伝導性充填剤の配合量は、熱液晶性高分子100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下である。ここで、熱液晶性高分子にこれらの熱伝導性充填剤を配合すると、得られる熱伝導性高分子成形体の熱伝導率(λ)を高めることができるが、熱伝導性高分子成形体の密度を上昇させるとともに、電気絶縁性が損なわれるおそれがある。従って、熱液晶性組成物は実質的に熱伝導性充填剤を含有しないことが好ましい。さらに、熱液晶性高分子のみから熱伝導性高分子成形体を得ることが最も好ましい。
【0036】
次に、熱伝導性高分子成形体について説明する。
熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物から熱伝導性高分子成形体を得るには、成形装置によって熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物を加熱溶融させるとともに、磁場発生手段又は電場発生手段によって磁場又は電場を印加する。そして、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を一定方向に配向制御させる。次に、所定の熱伝導率(λ)になるまで冷却固化することによって熱伝導性高分子成形体を得ることができる。
【0037】
磁場発生手段としては、永久磁石、電磁石、超電導磁石、コイル等が挙げられる。そして、磁場発生手段によって発生する磁場の磁束密度が高いほど、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を配向させることができ、より高い熱伝導率(λ)を有する熱伝導性高分子成形体を得ることができる。磁場の磁束密度は、好ましくは1〜20テスラ(T)、さらに好ましくは2〜20T、最も好ましくは3〜20Tである。この磁束密度が1T未満であると、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を十分に配向させることができないおそれがあり、高い熱伝導率(λ)を有する熱伝導性高分子成形体が得られにくい。一方、磁束密度が20Tを超える磁場は、実用上得られにくい。この磁束密度の範囲が3〜20Tであると、高い熱伝導率(λ)を有する熱伝導性高分子成形体が得られるとともに、実用的である。
【0038】
成形装置としては、射出成形装置、押出成形装置、プレス成形装置等の合成樹脂を加熱成形する装置を用いることができる。熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物は、シート状、フィルム状、ブロック状、粒状、繊維状等の様々な形状の熱伝導性高分子成形体に成形することができる。この熱伝導性高分子成形体は、プリント配線基板、半導体パッケージ、筐体、ヒートパイプ、放熱板、熱拡散板等の放熱部材に適用することができ、各種電子部品で発生する熱を伝導伝熱させ、電子機器の外部に放熱することができるものである。
【0039】
熱伝導性高分子成形体の熱伝導率(λ)は、熱液晶性高分子の分子鎖が一定方向に配向していることによって、その分子鎖方向に極めて大きくなるものであって、好ましくは0.7〜20W/(m・K)、さらに好ましくは1.0〜10W/(m・K)、最も好ましくは2.0〜10W/(m・K)である。この熱伝導率(λ)が0.7W/(m・K)未満であると、電子部品から発生する熱を効果的に外部へ伝えることが困難になるおそれがある。一方、20W/(m・K)を超える熱伝導性高分子成形体を得るのは熱液晶性高分子の物性を考慮すると困難である。
【0040】
ここで、熱液晶性高分子に磁場又は電場を印加せずに成形した熱液晶性高分子から得られる成形体の熱伝導率(λ)は、高くても0.5W/(m・K)程度である。本実施形態における熱伝導性高分子成形体の熱伝導率(λ)は熱液晶性高分子から得られる成形体の熱伝導率(λ)よりも高くなっている。なお、熱液晶性高分子から得られる成形体は、本実施形態における熱伝導性高分子成形体と同じ成形方法かつ同じ条件で成形されたものであって、磁場又は電場が印加されていないものをいう。熱伝導率の差(λ−λ)は、好ましくは0.2〜19.8W/(m・K)、さらに好ましくは0.5〜9.8W/(m・K)、最も好ましくは1.5〜9.8W/(m・K)である。この熱伝導率の差(λ−λ)が0.2W/(m・K)未満であると、熱伝導性が十分に得られていないと考えられる。一方、19.8W/(m・K)を超える熱伝導性高分子成形体を得るのは熱液晶性高分子の物性を考慮すると困難である。
【0041】
この熱伝導性高分子成形体の密度は、好ましくは1.10g/cm以上、1.50g/cm未満、さらに好ましくは1.20g/cm以上、1.50g/cm未満、最も好ましくは1.20g/cm以上、1.45g/cm未満である。この密度が1.50g/cm以上であると、電子機器等の適用物を軽量化することが困難となるおそれがある。一方、1.10未満である熱伝導性高分子成形体を得るのは、熱液晶性高分子の物性を考慮すると困難である。
【0042】
この熱伝導性高分子成形体の体積抵抗率は、好ましくは1×10〜1×1020Ω・cm、さらに好ましくは1×10〜1×1018Ω・cm、最も好ましくは1×1012〜1×1018Ω・cmである。この体積抵抗率が1×10Ω・cm未満であると、十分な電気絶縁性が得られないおそれがある。一方、1×1020Ω・cmを超える熱伝導性高分子成形体を得るのは、熱液晶性高分子の物性を考慮すると困難である。
【0043】
この熱伝導性高分子成形体をシート状に成形する場合、その厚さは好ましくは0.02〜10mm、さらに好ましくは0.1〜7mm、最も好ましくは0.2〜5mmである。この厚さが0.02mm未満であると、適用物に適用する際、操作性が悪くなるおそれがある。一方、10mmを超えると、電子機器等の適用物を軽量化することが困難となるおそれがある。
【0044】
続いて、熱伝導性高分子成形体の製造方法について図1〜図3に基づいて詳細に説明する。図1に示すように、熱伝導性高分子成形体としてのシート状の熱伝導性シート11は、プリント配線基板、放熱シート等の放熱部材として電子機器等に適用することができるものである。
【0045】
まず、熱伝導性シート11の厚さ方向(図1におけるZ軸方向)に熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を配向させる場合について説明する。
図2に示すように、金型12aの内部には、キャビティ13aがシート状に形成されている。また、金型12aの上下には磁場発生手段としての一対の永久磁石14aが配設され、永久磁石14aによって発生する磁場の磁力線M1は、キャビティ13aの厚さ方向に一致するようになっている。
【0046】
まず、このキャビティ13aに溶融状態の熱液晶性組成物15を充填させる。ここで、金型12aには図示しない加熱装置が備えられ、キャビティ13aに充填された熱液晶性組成物15を溶融状態に維持できるようになっている。そして、永久磁石14aによってキャビティ13aに充填された加熱溶融状態の熱液晶性組成物15に磁場を印加する。このとき、磁力線M1は、シート状の熱液晶性組成物15の厚さ方向に一致するため、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖をシート状の熱液晶性組成物15の厚さ方向に配向することができる。この配向状態で熱液晶性組成物15を冷却固化させて、金型12aから取り出すと熱液晶性組成物15の剛直な分子鎖が厚さ方向に配向した熱伝導性シート11を得ることができる。この熱伝導性シート11の厚さ方向の熱伝導率(λ1T)は、上記熱伝導率(λ)の理由によって、好ましくは0.7〜20W/(m・K)、さらに好ましくは1.0〜10W/(m・K)、最も好ましくは2.0〜10W/(m・K)である。この熱伝導性シート11は厚さ方向の熱伝導性が要求される回路基板材料、半導体パッケージ用の放熱シート等に適用することができる。
【0047】
次に、熱伝導性シート11の面内方向(図1におけるX軸方向、Y軸方向等)に熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を配向させる場合について説明する。
図3に示すように、金型12bに形成されるキャビティ13bの面内方向に磁力線M2が一致するように、一対の永久磁石14bを金型12bの両側方に対向させて配設する。そして、永久磁石14bによってキャビティ13bの内部に充填された加熱溶融状態の熱液晶性組成物15に磁場を印加する。このとき、磁力線M2はシート状の熱液晶性組成物15の面内方向に一致するため、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を熱液晶性組成物15の面内方向に配向することができる。この配向状態で熱液晶性組成物15を冷却固化させ、金型12bから取り出すと、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖が面内方向に配向した熱伝導性シート11を得ることができる。この熱伝導性シート11の面内方向の熱伝導率(λ1P)は、上記熱伝導率(λ)の理由によって、好ましくは0.7〜20W/(m・K)、さらに好ましくは1.0〜10W/(m・K)、最も好ましくは2.0〜10W/(m・K)である。この熱伝導性シート11は面内方向に熱伝導性が要求される回路基板材料、半導体パッケージ用の放熱シート等に適用することができる。
【0048】
さて、熱伝導性高分子成形体を製造する場合、熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物は加熱溶融され、磁場又は電場が印加される。そして、熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物は所定の熱伝導率(λ)になるまで冷却固化され、熱伝導性高分子成形体は得られる。このとき、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖は、磁力線と平行方向に配向制御される。従って、得られる熱伝導性高分子成形体の熱伝導性を向上することができる。
【0049】
ここで、熱液晶性組成物は実質的に熱液晶性高分子から構成され、熱伝導性充填剤を含有していない。ここで、熱液晶性組成物に熱伝導性充填剤を含有させると、その成形体の熱伝導性は熱伝導性充填剤によって向上される。しかし、熱伝導性充填剤の含有量の増加に伴って、成形体の密度が上昇される。本実施形態の熱伝導性高分子成形体は、実質的に熱伝導性充填剤を含有していないため、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができる。
【0050】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ この実施形態の熱伝導性高分子成形体においては、熱液晶性高分子を主成分とする熱液晶性組成物から得られる。この熱伝導性高分子成形体は、加熱溶融状態の熱液晶性組成物に磁場又は電場を印加することによって、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を一定方向に配向制御させている。そして、熱伝導性高分子成形体の熱伝導率(λ)を熱液晶性高分子から得られる成形体の熱伝導率(λ)よりも高くなるように形成している。よって、熱液晶性組成物には熱伝導性充填剤を配合する必要がないか、配合するとしてもその配合量は極少量とすることができる。従って、電気絶縁性、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができるとともに、良好な熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体を得ることができる。
【0051】
・ この実施形態の熱伝導性高分子成形体においては、熱液晶性高分子のみから得られ、熱伝導率(λ)が0.7〜20W/(m・K)である。又は、熱液晶性高分子と、該熱液晶性高分子100重量部に対して5重量部以下の熱伝導性充填剤とを含有する熱液晶性組成物から得られ、熱伝導率(λ)が0.7〜20W/(m・K)である。従って、電気絶縁性、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができるとともに、良好な熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体を得ることができる。
【0052】
・ この実施形態の熱伝導性高分子成形体においては、熱液晶性高分子が(A)全芳香族ポリエステル及び(B)全芳香族ポリエステルアミドのうち少なくとも一種である。このように構成した場合、光学的異方性溶融相を容易に発現させることができる。また、これらの熱液晶性高分子の成形加工性は良好であって、種々の形状に容易に成形することができる。従って、熱伝導率(λ)の高い熱伝導性高分子成形体を容易に得ることができる。
【0053】
・ この実施形態の熱伝導性高分子成形体においては、密度が1.10g/cm以上、1.50g/cm未満である。従って、電子機器等の適用物の軽量化に対して貢献することができる。
【0054】
・ この実施形態の熱伝導性高分子成形体においては、熱伝導性シートとしてシート状に成形されるとともに、熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導率(λ1T)が0.7〜20W/(m・K)である。このように構成した場合、回路基板材料、放熱シート等、シート状であってその厚さ方向に高い熱伝導性が要求される用途に容易に適用することができる。
【0055】
・ この実施形態の熱伝導性高分子成形体においては、磁場発生手段によって発生する磁場の磁束密度が高いほど、熱液晶性高分子の剛直な分子鎖を配向させることができ、より高い熱伝導率(λ)を有する熱伝導性高分子成形体を得ることができる。従って、磁場の磁束密度を変化させることによって、様々な熱伝導率(λ)の熱伝導性高分子成形体を容易に得ることができる。
【0056】
・ この実施形態の熱伝導性高分子成形体の製造方法においては、熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物を加熱溶融させて、加熱溶融状態の熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物に磁場発生手段によって磁場を印加している。その後、熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物が冷却固化されることによって熱伝導性高分子成形体は製造されている。この製造方法によると、電気絶縁性、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができるとともに、良好な熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体を容易に得ることができる。
【0057】
・ この実施形態の熱伝導性高分子成形体の製造方法においては、熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物をシート状に加熱溶融させて、磁場発生手段によって磁場を厚さ方向に印加している。この製造方法によると、シート状で厚さ方向に高い熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体を容易に得ることができる。
【0058】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
熱液晶性高分子としての全芳香族ポリエステル(ユニチカ株式会社製、ロッドランLC5000、構成単位:テレフタル酸と4−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコール)のペレットを脱湿乾燥し、射出成形によって、縦50mm×横50mm×厚み2mmのシート状成形体を作製した。このシート状成形体を、温度340℃に加熱したキャビティに入れて磁束密度2.5Tの磁場中で溶融させた。このとき、磁力線の方向はシート状成形体の厚さ方向とした。同磁場中で20分間保持した後、室温まで冷却固化させて熱伝導性高分子成形体としての厚さ2mmの熱伝導性シートを作製した。
(実施例2〜実施例4)
実施例1と同様に、全芳香族ポリエステルを射出成形したシート状成形体を作製した。磁束密度を5T、10T及び15Tに変更した以外は実施例1と同様に熱伝導性高分子成形体を作製した。
(比較例1)
実施例1と同様にシート状成形体を作製した。このシート状成形体を、温度340℃に加熱したキャビティに入れて磁場を印加せずに溶融させた。溶融状態で20分間保持した後、室温まで冷却固化させて厚さ2mmの熱液晶性高分子成形体を作製した。
(比較例2)
全芳香族ポリエステル(ユニチカ株式会社製 ロッドランLC5000、構成単位:テレフタル酸と4−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコール)100重量部に対して、熱伝導性充填剤として酸化アルミニウム粉末(昭和電工株式会社製)30重量部と窒化ホウ素粉末(電気化学工業株式会社製)5重量部を混合した組成物を得た。この組成物を押出機に投入し、溶融混練することによってペレットを作製した。このペレットを脱湿乾燥し、射出成形によって、縦50mm×横50mm×厚み2mmのシート状成形体を作製した。このシート状成形体を、温度340℃に加熱したキャビティに入れて磁場を印加せずに溶融させた。溶融状態で20分間保持した後、室温まで冷却固化させて厚さ2mmの熱伝導性高分子成形体を作製した。
(比較例3)
熱液晶性高分子として全芳香族ポリエステル(ユニチカ株式会社製 ロッドランLC5000、構成単位:テレフタル酸と4−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコール)100重量部に対して、熱伝導性充填剤として球状黒鉛粒子(大阪ガスケミカル株式会社製)80重量部と炭素繊維粉末(ペトカ株式会社製)20重量部を混合した組成物を得た。この組成物を押出機に投入し、溶融混練することによってペレットを作製した。このペレットを脱湿乾燥し、射出成形によって、縦50mm×横50mm×厚み2mmのシート状成形体を作製した。このシート状成形体を、温度340℃に加熱したキャビティに入れて磁場を印加せずに溶融させた。溶融状態で20分間保持した後、室温まで冷却固化させて厚さ2mmの熱伝導性高分子成形体を作製した。
【0059】
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた熱伝導性高分子成形体及び熱液晶性高分子成形体の密度をASTM D−257に準拠する方法で測定した。また、熱伝導率はレーザーフラッシュ法によって測定した。さらに、導電性をASTMD−257に準拠する体積固有抵抗率を測定することによって評価した。
【0060】
実施例1〜4の結果を表1、比較例1〜3の結果を表2に示す。
【0061】
【表1】



【0062】
【表2】



表1に示すように、実施例1〜4の熱伝導性高分子成形体は、熱伝導率(λ)がいずれも0.7W/(m・K)以上であり、良好な熱伝導性を示している。また、熱伝導性充填剤を配合していないため、熱伝導性高分子成形体の密度は熱液晶性高分子の密度(1.39g/cm)と同等の小さい値を示していることがわかる。さらに、熱伝導性充填剤を配合していないため、熱伝導性高分子成形体は、その体積抵抗率が熱液晶性高分子の体積抵抗率(5×1016Ω・cm)と同等の高い値を示し、良好な電気絶縁性を有していることがわかる。また、実施例1〜4の磁束密度と熱伝導率(λ)を比較すると、磁束密度を高くするに伴って、熱伝導率(λ)が比例的に向上することがわかる。
【0063】
表2に示すように、比較例1の熱液晶性高分子成形体は、密度が小さく、体積抵抗率が高いが、熱伝導率(λ)が0.30W/(m・K)未満を示し、熱伝導性をほとんど有していないことがわかる。比較例2の熱伝導性高分子成形体には、熱伝導性充填剤として電気絶縁性を有する酸化アルミニウムと窒化ホウ素が配合されている。従って、熱伝導率及び体積抵抗率は高い値を示すが、密度も高くなってしまうため、適用物の軽量化を損ねる結果となる。比較例3の熱伝導性高分子成形体には、熱伝導性充填剤として導電性を有する球状黒鉛粒子と炭素繊維粉末が配合されている。従って、熱伝導率は高い値を示すが、体積抵抗率が10未満であって電気絶縁性が十分に得られていないだけでなく、密度も高くなっている。
【0064】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・ 前記永久磁石は、金型を挟むように一対配設されているが、一方の永久磁石を省略してもよい。
【0065】
・ 前記永久磁石は、S極とN極とが互いに対向するように一対配設されているが、S極同士又はN極同士が対向するように配設してもよい。
・ 前記磁力線は、直線状であるが、曲線状、矩形でもよい。また、前記永久磁石は磁力線が一方向に延びるように配設されているが、磁力線が二方向以上に延びるように永久磁石を配設してもよい。
【0066】
・ 前記熱伝導性シートの少なくとも一面に、適用物に貼り合わせるための粘着層を設けてもよい。この構成によると、熱伝導性シートの粘着層を適用物に貼り合わせることによって熱伝導性シートを適用物に容易に固定することができる。
【0067】
・ 前記実施形態においては、熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物に磁場を印加することによって熱液晶性高分子の分子鎖を一定方向に配向させている。その他に、電極、スライダック等を備えた電場発生手段によって溶融状態の熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物に電場を印加することによって、熱液晶性高分子の分子鎖を一定方向に配向させてもよい。しかし、分子鎖を効率的に配向できるとともに、配向制御が容易であることから、磁場発生手段によって磁場を印加する方が好ましい。
【0068】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(1) 前記熱伝導率(λ)と前記熱液晶性高分子から得られる成形体の熱伝導率(λ)との差(λ−λ)が0.2〜19.8W/(m・K)であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体。
【0069】
(2) シート状をなし、面内方向の熱伝導率(λ1p)が0.7〜20W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1から請求項4及び上記(1)のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体。このように構成した場合、面内方向の熱伝導性が要求される回路基板材料、半導体パッケージ用の放熱シート等に適用することができる。
【0070】
(3) 請求項1から請求項5及び上記(1)のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法において、前記熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物を加熱溶融させてシート状に成形し、シート状をなす溶融状態の熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物に対して面内方向に磁場発生手段又は電場発生手段によって磁場又は電場を印加させた後、冷却固化させたことを特徴とする熱伝導性高分子成形体の製造方法。
【0071】
(4) 請求項1から請求項5及び上記(1)のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の熱伝導性制御方法において、前記熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物が印加される磁場又は電場の方向によって、熱伝導率(λ)を向上させる方向を制御することを特徴とする熱伝導性高分子成形体の熱伝導性制御方法。この制御方法によると、特定の方向に熱伝導性を向上させた熱伝導性高分子成形体を容易に得ることができる。
【0072】
【発明の効果】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
請求項1及び請求項2に記載の発明の熱伝導性高分子成形体によれば、電気絶縁性、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができるとともに、良好な熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体を得ることができる。
【0073】
請求項3に記載の発明の熱伝導性高分子成形体によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加え、熱伝導率の高い熱伝導性高分子成形体を容易に得ることができる。
【0074】
請求項4に記載の発明の熱伝導性高分子成形体によれば、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明の効果に加え、電子機器等の適用物の軽量化に対して貢献することができる。
【0075】
請求項5に記載の発明の熱伝導性高分子成形体によれば、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明の効果に加え、シート状でその厚さ方向に高い熱伝導性が要求される用途に容易に適用することかできる。
【0076】
請求項6に記載の発明の熱伝導性高分子成形体の製造方法によれば、電気絶縁性、低密度等の熱液晶性高分子の特徴を十分に生かすことができるとともに、良好な熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体を容易に得ることができる。
【0077】
請求項7に記載の発明の熱伝導性高分子成形体の製造方法によれば、シート状で厚さ方向に高い熱伝導性を有する熱伝導性高分子成形体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態における熱伝導性シートを示す斜視図。
【図2】厚さ方向に高い熱伝導性を有する熱伝導性シートの製造方法を示す概念図。
【図3】面内方向に高い熱伝導性を有する熱伝導性シートの製造方法を示す概念図。
【符号の説明】
11…熱伝導性高分子成形体としての熱伝導性シート、12a、12b…金型、13a、13b…キャビティ、14a、14b…磁場発生手段としての永久磁石、M1、M2…磁力線、15…熱液晶性組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱液晶性高分子を主成分とする熱液晶性組成物から得られる熱伝導性高分子成形体であって、加熱溶融状態の前記熱液晶性組成物に磁場又は電場を印加することによって、熱伝導率(λ)を前記熱液晶性高分子から得られる成形体の熱伝導率(λ)よりも高くなるように形成したことを特徴とする熱伝導性高分子成形体。
【請求項2】
熱液晶性高分子のみ、又は熱液晶性高分子と該熱液晶性高分子100重量部に対して5重量部以下の熱伝導性充填剤とを含有する熱液晶性組成物、から得られる熱伝導性高分子成形体であって、熱伝導率(λ)が0.7〜20W/(m・K)であることを特徴とする熱伝導性高分子成形体。
【請求項3】
熱液晶性高分子が(A)全芳香族ポリエステル及び(B)全芳香族ポリエステルアミドのうち少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性高分子成形体。
【請求項4】
密度が1.10g/cm以上、1.50g/cm未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体。
【請求項5】
シート状をなし、厚さ方向の熱伝導率(λ1T)が0.7〜20W/(m・K)であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法において、前記熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物を加熱溶融させて、溶融状態の熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物に磁場発生手段又は電場発生手段によって磁場又は電場を一定方向に印加させた後、冷却固化させたことを特徴とする熱伝導性高分子成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱伝導性高分子成形体の製造方法において、前記熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物を加熱溶融させてシート状に成形し、溶融状態の熱液晶性高分子又は熱液晶性組成物における厚さ方向に磁場発生手段又は電場発生手段によって磁場又は電場を印加させた後、冷却固化させたことを特徴とする熱伝導性高分子成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2004−43629(P2004−43629A)
【公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−202550(P2002−202550)
【出願日】平成14年7月11日(2002.7.11)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】