説明

熱処理装置および熱処理方法

【課題】基板にフラッシュ光を照射して均一に加熱することができる熱処理装置および熱処理方法を提供する。
【解決手段】冷却プレート72に載置された支持リング71によって半導体ウェハーWの周縁部下面が支持される。半導体ウェハーWは、レジスト膜11が形成された表面を下面に向けて支持リング71に支持される。支持リング71は、炭化ケイ素などのフラッシュ光に対して不透明な材質にて形成される。支持リング71に支持された半導体ウェハーWの上面(裏面)にフラッシュランプFLからフラッシュ光が照射される。フラッシュ光照射によって急激に昇温した裏面から表面に熱伝導が生じ、レジスト膜11が加熱される
。また、支持リング71によってフラッシュ光が半導体ウェハーWの表面の周縁部に回り込むのを防止することができ、半導体ウェハーWを均一に加熱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハーや液晶表示装置用ガラス基板等の薄板状の精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置および熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極めて短時間にて半導体ウェハーを加熱するアニール技術として、近年フラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、その表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。このような極めて短時間の加熱処理は、例えばイオン打ち込み法によって半導体ウェハーに注入された不純物の活性化処理を行うのに好適である。
【0003】
一方、上記のような極めて短時間の加熱処理よりももう少し長時間(数10ミリ秒〜数100ミリ秒)の加熱処理に対する要望も強い。このような要望を満足するため、特許文献1には、絶縁ゲートバイポーラトランジスタを用いてフラッシュランプに流れる電流をオンオフ制御することにより発光時間を延ばし、加熱処理時間を数10ミリ秒以上とする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−70948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フラッシュランプを用いて数10ミリ秒〜数100ミリ秒程度の加熱処理を行うと、半導体ウェハー表面の周縁部の温度が中央部よりも高くなるという表面温度分布の不均一が生じることが判明した。これは、フラッシュ光照射時に、一部のフラッシュ光が半導体ウェハーの側方を回り込んで周縁部下面に到達することに起因している。加熱処理時間が数ミリ秒以下の極めて短時間であれば、周縁部下面に到達したフラッシュ光による熱影響が上面に伝わる前に加熱処理が完了するのであるが、加熱時間が数10ミリ秒以上となると、その熱影響が加熱処理中に上面に伝わるために温度分布が不均一となるのである。
【0006】
また、一般にフラッシュ光が照射される半導体ウェハーの表面にはパターンが形成されていることが多い。パターンが形成されていると、半導体ウェハーの表面における光吸収率が不均一となるため、均一な照度分布にてフラッシュ光を照射したとしても、表面の温度分布に不均一が生じることがあった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基板にフラッシュ光を照射して均一に加熱することができる熱処理装置および熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内に設けられ、基板の周縁部下面を支持する環状部材と、前記環状部材に支持された前記基板の上面にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、を備え、前記環状部材は前記フラッシュランプから照射されるフラッシュ光に対して不透明な材質にて形成されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理装置において、前記環状部材の外周形状は、前記基板の周縁形状よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る熱処理装置において、前記チャンバー内に設けられて前記環状部材を載置し、前記環状部材に支持された前記基板を冷却する冷却プレートをさらに備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明に係る熱処理装置において、前記環状部材は、前記基板の裏面を上面に向けて支持し、前記フラッシュランプは、前記基板の裏面にフラッシュ光を照射することを特徴とする。
【0012】
また、請求項5の発明は、請求項4の発明に係る熱処理装置において、前記フラッシュランプの放射照度は1×108W/m2以下であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6の発明は、請求項1または請求項2の発明に係る熱処理装置において、前記チャンバー内に設けられて前記環状部材を載置し、前記環状部材に支持された前記基板を加熱する加熱プレートをさらに備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係る熱処理装置において、前記環状部材は、前記基板の表面を上面に向けて支持し、前記フラッシュランプは、前記基板の表面にフラッシュ光を照射することを特徴とする。
【0015】
また、請求項8の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、基板をチャンバー内に収容し、環状部材によって前記基板の周縁部下面を支持する支持工程と、前記環状部材に支持された前記基板の上面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するフラッシュ照射工程と、を備え、フラッシュ光に対して不透明な材質にて形成された前記環状部材によって、前記基板の周縁部下面に前記フラッシュランプから照射されるフラッシュ光が回り込むのを防止することを特徴とする。
【0016】
また、請求項9の発明は、請求項8の発明に係る熱処理方法において、前記環状部材を載置する冷却プレートによって前記基板を冷却しつつフラッシュ光の照射を行うことを特徴とする。
【0017】
また、請求項10の発明は、請求項9の発明に係る熱処理方法において、前記支持工程では、前記環状部材が前記基板の裏面を上面に向けて支持し、前記フラッシュ照射工程では、前記基板の裏面にフラッシュ光を照射することを特徴とする。
【0018】
また、請求項11の発明は、請求項10の発明に係る熱処理方法において、前記フラッシュランプの放射照度は1×108W/m2以下であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項12の発明は、請求項8の発明に係る熱処理方法において、前記環状部材を載置する加熱プレートによって前記基板を加熱しつつフラッシュ光の照射を行うことを特徴とする。
【0020】
また、請求項13の発明は、請求項12の発明に係る熱処理方法において、前記支持工程では、前記環状部材が前記基板の表面を上面に向けて支持し、前記フラッシュ照射工程では、前記基板の表面にフラッシュ光を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1から請求項7の発明によれば、フラッシュ光に対して不透明な材質にて形成された環状部材にて基板の周縁部下面を支持し、その基板の上面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するため、フラッシュ光が基板の側方を回り込んで周縁部下面に到達するのを防止することができ、基板にフラッシュ光を照射して均一に加熱することができる。
【0022】
特に、請求項2の発明によれば、環状部材の外周形状が基板の周縁形状よりも大きいため、フラッシュ光の回り込みを確実に防止することができる。
【0023】
特に、請求項3の発明によれば、環状部材に支持された基板を冷却する冷却プレートを備えるため、複数の基板間での温度履歴を均一にすることができる。
【0024】
特に、請求項4の発明によれば、基板の裏面にフラッシュ光を照射するため、フラッシュ光吸収に対するパターン依存性を抑制して基板をより均一に加熱することができる。
【0025】
特に、請求項5の発明によれば、フラッシュランプの放射照度は1×108W/m2以下であるため、基板の跳躍を防止してフラッシュ光の回り込みを確実に防止することができる。
【0026】
また、請求項8から請求項13の発明によれば、フラッシュ光に対して不透明な材質にて形成された環状部材によって基板の周縁部下面を支持し、その基板の上面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射し、基板の周縁部下面にフラッシュ光が回り込むのを防止するため、基板にフラッシュ光を照射して均一に加熱することができる。
【0027】
特に、請求項9の発明によれば、冷却プレートによって基板を冷却しつつフラッシュ光の照射を行うため、複数の基板間での温度履歴を均一にすることができる。
【0028】
特に、請求項10の発明によれば、基板の裏面にフラッシュ光を照射するため、フラッシュ光吸収に対するパターン依存性を抑制して基板をより均一に加熱することができる。
【0029】
特に、請求項11の発明によれば、フラッシュランプの放射照度は1×108W/m2以下であるため、基板の跳躍を防止してフラッシュ光の回り込みを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る熱処理装置の要部構成を示す図である。
【図2】支持リングの斜視図である。
【図3】フラッシュランプの駆動回路を示す図である。
【図4】保持部に保持された半導体ウェハーをフラッシュ加熱する状態を示す図である。
【図5】第2実施形態の熱処理装置の要部構成を示す図である。
【図6】第2実施形態の半導体ウェハーをフラッシュ加熱する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0032】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る熱処理装置1の要部構成を示す図である。この熱処理装置1は、基板としての略円形の半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射して加熱処理を行うフラッシュランプアニール装置である。第1実施形態では、フォトレジストが塗布された半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射してレジスト膜の焼成処理(塗布後ベーク処理)や露光後の加熱処理(ポストエクスポージャーベーク)を行う。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0033】
熱処理装置1は、主たる構成として、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6と、チャンバー6内にて半導体ウェハーWを保持する保持部7と、保持部7に対して半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載部4と、チャンバー6内の半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射するフラッシュ照射部5と、チャンバー6内に処理ガスを供給するガス供給部8と、チャンバー6から排気を行う排気部2と、を備えている。また、熱処理装置1は、これらの各部を制御して半導体ウェハーWの加熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0034】
チャンバー6は、フラッシュ照射部5の下方に設けられており、略円筒状の内壁を有するチャンバー側部63、および、チャンバー側部63の下部を覆うチャンバー底部62によって構成される。また、チャンバー側部63およびチャンバー底部62によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。チャンバー6の上部開口にはチャンバー窓61が装着されて閉塞されている。
【0035】
チャンバー6の天井部を構成するチャンバー窓61は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ照射部5から出射されたフラッシュ光を熱処理空間65に透過する石英窓として機能する。チャンバー6の本体を構成するチャンバー底部62およびチャンバー側部63は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されている。
【0036】
また、熱処理空間65の気密性を維持するために、チャンバー窓61とチャンバー側部63とは図示省略のOリングによってシールされている。すなわち、チャンバー窓61の下面周縁部とチャンバー側部63との間にOリングを挟み込み、これらの隙間から気体が流出入するのを防いでいる。
【0037】
チャンバー側部63には、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部66が設けられている。搬送開口部66は、図示を省略するゲートバルブによって開閉可能とされている。搬送開口部66が開放されると、図外の搬送ロボットによってチャンバー6に対する半導体ウェハーWの搬入および搬出が可能となる。また、搬送開口部66が閉鎖されると、熱処理空間65が外部との通気が遮断された密閉空間となる。
【0038】
第1実施形態において、チャンバー6内に設けられた保持部7は、支持リング71および冷却プレート72を備える。図2は、支持リング71の斜視図である。同図に示すように、支持リング71は円環形状(リング状)の板状部材である。円環形状の支持リング71の外径は半導体ウェハーWの直径(本実施形態ではφ300mm)よりも大きい。すなわち、支持リング71の外周形状は、半導体ウェハーWの周縁形状よりも大きい。また、支持リング71の内径は半導体ウェハーWの直径よりも若干小さい。このため、支持リング71は、その内周部分にて半導体ウェハーWの周縁部下面を全周にわたって支持することができる。
【0039】
支持リング71は、フラッシュ照射部5のフラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光に対して不透明な材質、つまりフラッシュ光を透過しない材質にて形成される。このようなフラッシュ光に対して不透明な材質としては、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)などを採用することができる。また、焼結体であれば窒化アルミニウム(AlN)もフラッシュ光に対して不透明な材質として用いることができる。
【0040】
図1に戻り、冷却プレート72は、金属製(例えば、アルミニウム)の略円板形状の部材であり、チャンバー6内に設けられて支持リング71を載置する。冷却プレート72の直径は、支持リング71の外径と概ね等しい。冷却プレート72は、図示を省略する冷却機構(例えば、水冷管やペルチェ素子など)を内蔵しており、該冷却機構によって冷却プレート72が冷却される。また、冷却プレート72の内部には図示省略の温度センサも配設されている。温度センサは、冷却プレート72の温度を測定し、その測定結果を制御部3に伝達する。
【0041】
冷却プレート72の上面周縁部に支持リング71が載置され、その支持リング71によって半導体ウェハーWが水平姿勢(主面の法線方向が鉛直方向に沿う姿勢)に支持される。半導体ウェハーWは、その中心軸が支持リング71の中心軸と一致するように支持される。円環形状の支持リング71は、半導体ウェハーWの周縁部下面を支持するため、半導体ウェハーWの内側領域下面と冷却プレート72の上面との間には所定間隔のギャップが形成される。このギャップの間隔は支持リング71の厚さと等しい。なお、半導体ウェハーWの内側領域とは、半導体ウェハーWの主面のうち周縁部を除く領域である。
【0042】
冷却プレート72に載置された支持リング71によって支持される半導体ウェハーWは、冷却プレート72によって所定温度に冷却され、その温度に維持される。支持リング71に支持された半導体ウェハーWを温調する際には、上記の温度センサにより計測される冷却プレート72の温度が予め設定された所定の温度となるように、冷却プレート72に内蔵された冷却機構が制御部3によって制御される。すなわち、制御部3による冷却プレート72の温度制御はフィードバック制御であり、より具体的にはPID(Proportional,Integral,Derivative)制御により行われる。
【0043】
保持部7の冷却プレート72よりも下方には移載部4が設けられている。移載部4は、複数本(本実施の形態では3本)のリフトピン44と、リフトピン44を昇降するエアシリンダ45と、を備える。3本のリフトピン44の上端高さ位置は同一水平面内に含まれる。3本のリフトピン44はエアシリンダ45によって一括して鉛直方向に沿って昇降される。各リフトピン44は、冷却プレート72に上下に貫通して設けられた挿通孔の内側に沿って昇降する。エアシリンダ45が3本のリフトピン44を上昇させると、各リフトピン44の先端が冷却プレート72の上面から突出し、支持リング71の上面よりも高い位置にまで上昇する。また、エアシリンダ45が3本のリフトピン44を下降させると、各リフトピン44の先端が冷却プレート72の挿通孔の内部に埋入し、冷却プレート72の下面よりも下方に下降する。
【0044】
ガス供給部8は、チャンバー6内の熱処理空間65に処理ガスを供給する。ガス供給部8は、処理ガス供給源81とバルブ82とを備えており、バルブ82を開放することによって熱処理空間65に処理ガスを供給する。ガス供給部8が供給する処理ガスとしては、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などの不活性ガス、または、酸素(O2)、水素(H2)、塩素(cl2)、水蒸気(H2O)、塩化水素(Hcl)、オゾン(O3)、アンモニア(NH3)などの反応性ガスを用いることができる。なお、処理ガス供給源81としては、熱処理装置1内に設けられた気体タンクと送給ポンプとで構成するようにしても良いし、熱処理装置1が設置される工場の用力を用いるにようにしても良い。
【0045】
排気部2は、排気装置21およびバルブ22を備えており、バルブ22を開放することによって排気口23からチャンバー6内の雰囲気を排気する。排気口23は、保持部7を囲繞するようにチャンバー側部63に形成されたスリットである。排気口23が形成される高さ位置は、支持リング71に支持される半導体ウェハーWと同じ高さ位置以下であり、半導体ウェハーWよりもやや下方が好ましい。保持部7を取り囲むように形成されたスリット状の排気口23から排気部2が排気を行うことによって、保持部7に保持される半導体ウェハーWの周囲から均等に気体の排出が行われることとなる。
【0046】
排気装置21としては、真空ポンプや熱処理装置1が設置される工場の排気ユーティリティを用いることができる。排気装置21として真空ポンプを採用し、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく密閉空間である熱処理空間65の雰囲気を排気すると、チャンバー6内を真空雰囲気にまで減圧することができる。また、排気装置21として真空ポンプを用いていない場合であっても、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく排気を行うことにより、チャンバー6内を大気圧よりも低い気圧に減圧することができる。
【0047】
フラッシュ照射部5は、チャンバー6の上方に設けられている。フラッシュ照射部5は、複数本(本実施形態では30本であるが、図1では図示の便宜上11本のみ記載)のフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。フラッシュ照射部5は、チャンバー6内にて支持リング71に支持される半導体ウェハーWに石英のチャンバー窓61を介してフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する。
【0048】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が支持リング71に支持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0049】
図3は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLと、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)96とが直列に接続されている。また、図3に示すように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備えるとともに、入力部33に接続されている。入力部33としては、キーボード、マウス、タッチパネル等の種々の公知の入力機器を採用することができる。入力部33からの入力内容に基づいて波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、その波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を発生する。
【0050】
フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から高電圧を印加することができる。トリガー回路97がトリガー電極91に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
【0051】
IGBT96は、ゲート部にMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)を組み込んだバイポーラトランジスタであり、大電力を取り扱うのに適したスイッチング素子である。IGBT96のゲートには制御部3のパルス発生器31からパルス信号が印加される。IGBT96のゲートに所定値以上の電圧(Highの電圧)が印加されるとIGBT96がオン状態となり、所定値未満の電圧(Lowの電圧)が印加されるとIGBT96がオフ状態となる。このようにして、フラッシュランプFLを含む駆動回路はIGBT96によってオンオフされる。IGBT96がオンオフすることによってフラッシュランプFLと対応するコンデンサ93との接続が断続される。
【0052】
コンデンサ93が充電された状態でIGBT96がオン状態となってガラス管92の両端電極に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97がトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には両端電極間の放電によってガラス管92内に電流が瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0053】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を保持部7の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されて梨地模様を呈する。
【0054】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、図3に示したように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備える。上述のように、入力部33からの入力内容に基づいて、波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、それに従ってパルス発生器31がIGBT96のゲートにパルス信号を出力する。
【0055】
次に、上記構成を有する熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0056】
まず、図示省略のゲートバルブが開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入される。第1実施形態において、処理対象となる半導体ウェハーWは、表面にフォトレジストが塗布されてレジスト膜が形成された半導体基板である。フォトレジストの塗布は、例えば、熱処理装置1とは別に設置されたスピンコータを用いて回転塗布によって行えば良い。
【0057】
表面にレジスト膜が形成された半導体ウェハーWを保持した搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入し、保持部7の直上(正確には、半導体ウェハーWの中心軸と支持リング71の中心軸とが一致する位置)にて停止する。続いて、3本のリフトピン44が冷却プレート72の貫通孔よりもさらに上昇してハンドから半導体ウェハーWを受け取る。その後、搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出するとともに、搬送開口部66が閉鎖されることによりチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。そして、半導体ウェハーWを支持する3本のリフトピン44が下降して冷却プレート72の挿通孔の内部に埋入する。リフトピン44が下降する過程において、半導体ウェハーWはリフトピン44から支持リング71に渡されて支持される。半導体ウェハーWは、その中心軸が支持リング71の中心軸と一致するように支持される。よって、支持リング71は、半導体ウェハーWの全周にわたって周縁部下面を支持する。
【0058】
ここで、半導体ウェハーWの表面とはデバイスが形成される主面であり、裏面とはその反対側の面である。デバイスが形成される半導体ウェハーWの表面には、レジスト膜などの種々の薄膜が形成されるとともに露光処理によってパターン形成もなされる。半導体ウェハーWの裏面には、通常は膜形成もパターン形成もなされない(但し、表面に膜形成がなされた結果として不可避的に裏面にも膜形成がなされることはある)。一方、半導体ウェハーWの下面とは鉛直方向の下側を向いている面であり、上面とは上側を向いている面である。よって、半導体ウェハーWの表面が上面を向いていることもあり、下面を向いていることもある。
【0059】
第1実施形態においては、半導体ウェハーWの裏面が上面を向いた状態でチャンバー6内に搬入される。従って、半導体ウェハーWの裏面が上面を向いた状態(つまり、レジスト膜が下面を向いた状態)にて支持リング71によって支持される。レジスト膜が形成された半導体ウェハーWの表面においては、予めエッジ部除去処理によって周縁部のレジスト膜が剥離されている。よって、支持リング71の内周部分はレジスト膜が除去された半導体ウェハーWの表面周縁部と当接し、レジスト膜とは直接には接触しない。また、半導体ウェハーWが支持リング71に支持された状態において、半導体ウェハーWの内側領域下面と冷却プレート72の上面との間には所定間隔のギャップが形成されるため、その内側領域に形成されたレジスト膜は冷却プレート72とも接触しない。従って、レジスト膜と何らかの部材との接触による発塵が防止される。
【0060】
また、搬送開口部66が閉鎖されて熱処理空間65が密閉空間とされた後、バルブ82が開放されてガス供給部8から熱処理空間65に処理ガス(本実施形態では窒素ガス)を供給する。これとともに、バルブ22が開放されて排気部2が熱処理空間65から排気を行う。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65に窒素ガスの気流が形成され、保持部7に保持された半導体ウェハーWの周辺は窒素雰囲気とされる。なお、チャンバー6内の雰囲気置換効率を高める観点からは、処理ガスを供給することなく排気部2が熱処理空間65の排気を行って一旦大気圧よりも低い減圧雰囲気とした後に、ガス供給部8から処理ガスを供給するようにするのが好ましい。
【0061】
冷却プレート72は、制御部3によって予め所定温度に温調されている。半導体ウェハーWが支持リング71に支持されて冷却プレート72に近接保持されることにより、半導体ウェハーWに対する冷却プレート72による温調が開始され、半導体ウェハーWの温度が冷却プレート72の温調温度に近づく。
【0062】
半導体ウェハーWが支持リング71に支持されてから所定時間待機する。この間に表面に形成されたレジスト膜を含む半導体ウェハーWの全体が冷却プレート72の温度に温調される。そして、所定時間が経過した後に、制御部3の制御によりフラッシュ照射部5のフラッシュランプFLから半導体ウェハーWへ向けてフラッシュ光が照射される。フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット95によってコンデンサ93に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にて、制御部3のパルス発生器31からIGBT96にパルス信号を出力してIGBT96をオンオフ駆動する。
【0063】
パルス信号の波形は、パルス幅の時間(オン時間)とパルス間隔の時間(オフ時間)とをパラメータとして順次設定したレシピを入力部33から入力することによって規定することができる。このようなレシピをオペレータが入力部33から制御部3に入力すると、それに従って制御部3の波形設定部32はオンオフを繰り返すパルス波形を設定する。そして、波形設定部32によって設定されたパルス波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を出力する。その結果、IGBT96のゲートにはオンオフを繰り返すパルス信号が印加され、IGBT96のオンオフ駆動が制御されることとなる。具体的には、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはIGBT96がオン状態となり、パルス信号がオフのときにはIGBT96がオフ状態となる。
【0064】
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになるタイミングと同期して制御部3がトリガー回路97を制御してトリガー電極91に高電圧(トリガー電圧)を印加する。コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にてIGBT96のゲートにパルス信号が入力され、かつ、そのパルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されることにより、パルス信号がオンのときにはガラス管92内の両端電極間で必ず電流が流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0065】
このように、回路中にスイッチング素子たるIGBT96を接続してそのゲートにオンオフを繰り返すパルス信号を出力することにより、コンデンサ93からフラッシュランプFLへの電荷の供給をIGBT96によって断続してフラッシュランプFLに流れる電流を制御している。その結果、いわばフラッシュランプFLの発光がチョッパ制御されることとなり、コンデンサ93に蓄積された電荷が分割して消費され、極めて短い時間の間にフラッシュランプFLが点滅を繰り返す。但し、フラッシュランプFLに流れる電流値が完全に”0”になる前に次のパルスがIGBT96のゲートに印加されて電流値が再度増加するため、フラッシュランプFLが点滅を繰り返している間も発光出力が完全に”0”になるものではない。従って、比較的間隔の短いパルス信号がIGBT96に出力されているときには、その間フラッシュランプFLが連続して発光していることとなる。
【0066】
パルス信号の波形は、パルス幅の時間およびパルス間隔の時間を規定することによって任意に設定することができる。このため、IGBT96のオンオフ駆動も任意に制御することができ、比較的パルス間隔の短いパルス信号を多数設定することにより、フラッシュランプFLの発光時間を10ミリ秒〜1000ミリ秒にまで延ばすことができる。また、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光の照射エネルギーは1J/cm2〜100J/cm2である。
【0067】
第1実施形態においては、フラッシュランプFLの発光時間を数10ミリ秒としている。フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内の保持部7へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かう。このようなフラッシュ光の照射によって、半導体ウェハーWが加熱される。
【0068】
図4は、保持部7に保持された半導体ウェハーWをフラッシュ加熱する状態を示す図である。半導体ウェハーWの表面にはレジスト膜11が形成されている。半導体ウェハーWは、レジスト膜11が形成された表面を下面に向けて支持リング71に支持されている。その半導体ウェハーWの上面(第1実施形態では裏面)にフラッシュランプFLからフラッシュ光が照射される。フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、照射時間が極めて短く強度の強い閃光である。フラッシュランプFLからフラッシュ光が照射された半導体ウェハーWの裏面の温度は瞬間的に急上昇する。そして、急激に昇温した半導体ウェハーWの裏面から表面に向けて熱伝導が生じ、表面に形成されているレジスト膜11が加熱されるのである。
【0069】
このようにして、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWの裏面にフラッシュ光が照射されることにより、レジスト膜11が形成された半導体ウェハーWの表面の温度も急上昇し、その後急速に下降する。半導体ウェハーWの表面温度が上昇することによって、レジスト膜11から溶媒が蒸発し、レジスト膜11の焼成処理が実行される。なお、レジスト膜11の厚さは100nm以下と極めて薄いため、半導体ウェハーWの表面温度が短時間上昇するだけで焼成処理を完了させることができる。
【0070】
第1実施形態においては、半導体ウェハーWの裏面にフラッシュ光を照射している。半導体ウェハーWの裏面にはパターン形成がなされていない。このため、半導体ウェハーWの裏面における光吸収率は均一であり、フラッシュ光の吸収にパターン依存性が無く、均一な照度分布にてフラッシュ光を照射すれば半導体ウェハーWを均一に加熱することができる。なお、シリコンの半導体ウェハーWは1.1μmよりも短い波長の光はほぼ吸収するため、キセノンフラッシュランプFLからのフラッシュ光は半導体ウェハーW自体によってほとんど吸収される。従って、半導体ウェハーWの表面にパターンが形成されていたとしても、それによってフラッシュ光の吸収が影響を受けることは無い。また、フラッシュ光の紫外光成分が半導体ウェハーWを透過してレジスト膜11を感光するおそれも無い。
【0071】
また、フラッシュ光に対して不透明な円環形状の支持リング71によって半導体ウェハーWの周縁部下面が全周にわたって支持される。従って、半導体ウェハーWの側方を回り込もうとするフラッシュ光は支持リング71によって遮光されることとなり、そのような迷光が半導体ウェハーWの周縁部下面に到達することは無い。その結果、半導体ウェハーWの側方を回り込んで周縁部下面に到達したフラッシュ光がその周縁部下面を加熱することは無く、周縁部の温度が内側領域よりも高くなることは防がれ、半導体ウェハーWの表面の面内温度分布を均一にすることができる。
【0072】
半導体ウェハーWの裏面からのフラッシュ光照射によるレジスト膜11の焼成処理が終了した後においても、半導体ウェハーWは冷却プレート72によって冷却され続け、所定の温調温度に維持される。これにより、焼成処理後の半導体ウェハーWの降温速度を高めることができる。やがて、所定時間が経過した時点にて、3本のリフトピン44が上昇して処理後の半導体ウェハーWを持ち上げて支持リング71から離間させる。そして、搬送開口部66が開放されて搬送ロボットのハンドがチャンバー6内に進入し、半導体ウェハーWの直下にて停止する。続いて、3本のリフトピン44が下降して搬送ロボットのハンドに半導体ウェハーWを渡す。その後、半導体ウェハーWを受け取った搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出することにより半導体ウェハーWが搬出され、熱処理装置1におけるレジスト膜11の焼成処理が完了する。なお、搬送開口部66を開放する前に、チャンバー6内の熱処理空間65を大気雰囲気に置換するようにしても良い。
【0073】
第1実施形態においては、レジスト膜11が形成された半導体ウェハーWの表面の周縁部をフラッシュ光に対して不透明な支持リング71によって支持し、その半導体ウェハーWの裏面にフラッシュ光を照射している。パターン形成がなされていない裏面にフラッシュ光を照射することによって、フラッシュ光吸収のパターン依存性を無くして半導体ウェハーWを均一に加熱するとともに、フラッシュ光の紫外光成分によるレジスト膜11の感光も防止している。また、半導体ウェハーWの表面の周縁部を全周にわたって支持リング71にて支持しているため、フラッシュランプFLから照射されたフラッシュ光が半導体ウェハーWの表面の周縁部に回り込むのを防止することができ、半導体ウェハーWを均一に加熱することができる。また、半導体ウェハーWの側方を回り込んだ迷光によってレジスト膜11が感光するのを防止することができる。
【0074】
ここで、フラッシュランプFLの発光時間が数ミリ秒程度であるときには、半導体ウェハーWの周縁部下面(第1実施形態では表面)にフラッシュ光が回り込んで到達したとしても、その熱影響が上面に伝わる前にフラッシュ加熱が終了するため、迷光の影響は少ない。第1実施形態のように、IGBT96によってフラッシュランプFLに流れる電流を断続することによりフラッシュランプFLの発光時間を10ミリ秒以上1秒以下としたときには、周縁部下面に回り込んだフラッシュ光による熱影響がフラッシュ加熱が終了する前に上面に現れるため、不透明な支持リング71によって遮光する技術的意義は大きくなる。
【0075】
また、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光の放射照度が強すぎると、半導体ウェハーWの上面のみが急激に大きく昇温されて熱膨張する結果、半導体ウェハーWが上面を凸とするように反って支持リング71から飛び跳ねる可能性がある。半導体ウェハーWが支持リング71から飛び跳ねると、半導体ウェハーWの周縁部下面と支持リング71との間に隙間が生じるため、その隙間からフラッシュ光が入射し、当該周縁部下面に到達して温度分布均一性を損なうおそれがある。また、半導体ウェハーWは、上面を凸とするように反った後、その反りが戻る反動で逆に下面を凸とするように反る。このときに、半導体ウェハーWの表面に形成されたレジスト膜11が冷却プレート72に接触する可能性があり、レジスト膜11が汚染されるおそれもある。
【0076】
このため、フラッシュランプFLから照射するフラッシュ光の放射照度を1×108W/m2以下としている。フラッシュ光の放射照度が1×108W/m2以下であれば、半導体ウェハーWの上面が急激に熱膨張することに起因した跳躍を防止することができ、その結果迷光の入射を防止して半導体ウェハーWを均一にフラッシュ加熱することができるとともに、レジスト膜11の汚染も防止することができる。
【0077】
また、第1実施形態では、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面に形成されたレジスト膜11の焼成処理を行っている。フラッシュ光照射による加熱処理時間は1秒以下の極めて短時間である。ホットプレートに載置して加熱する従来の塗布後ベーク処理は、半導体ウェハーWが目標温度に到達するまでに少なくとも30秒以上を要していた。これと比較して、フラッシュ光照射による塗布後ベーク処理に要する時間は顕著に短時間であり、その結果として熱処理装置1におけるスループットを向上させることができる。
【0078】
さらに、第1実施形態においては、冷却プレート72に載置された支持リング71によって半導体ウェハーWを支持しており、その冷却プレート72によってフラッシュ光照射前後の半導体ウェハーWを所定温度に温調している。すなわち、冷却プレート72によって半導体ウェハーWを冷却しつつフラッシュ光照射を行っている。このため、連続して処理する複数の半導体ウェハーW間での温度履歴を均一にすることができる。また、フラッシュ加熱による保持部7およびチャンバー6への蓄熱を防止することができる。
【0079】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図5は、第2実施形態の熱処理装置1aの要部構成を示す図である。図5において、第1実施形態と同一の要素については図1と同一の符号を付している。この熱処理装置1aも基板としての略円形の半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射して加熱処理を行うフラッシュランプアニール装置である。第2実施形態では、イオン打ち込み法によって不純物が注入された半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射して不純物の活性化を行う。
【0080】
第1実施形態においては半導体ウェハーWを保持する保持部7に冷却プレート72を備えていたが、第2実施形態においては保持部7に半導体ウェハーWを加熱する加熱プレート74を備える。加熱プレート74は、金属製(例えば、アルミニウム)の略円板形状の部材であり、チャンバー6内に設けられて支持リング71を載置する。加熱プレート74は、図示を省略する加熱機構(例えば、ニクロム線などの抵抗発熱体)を内蔵しており、該加熱機構によって加熱プレート74が昇温される。また、加熱プレート74の内部には図示省略の温度センサも配設されている。温度センサは、加熱プレート74の温度を測定し、その測定結果を制御部3に伝達する。
【0081】
第2実施形態では、加熱プレート74の上面周縁部に支持リング71が載置され、その支持リング71によって半導体ウェハーWが水平姿勢に支持される。円環形状の支持リング71は、半導体ウェハーWの周縁部下面を支持するため、半導体ウェハーWの内側領域下面と加熱プレート74の上面との間には所定間隔のギャップが形成される。加熱プレート74に載置された支持リング71によって支持される半導体ウェハーWは、加熱プレート74によって所定温度に加熱され、その温度に維持される。
【0082】
第2実施形態の熱処理装置1aにおける残余の構成は第1実施形態の熱処理装置1と同じである。また、第2実施形態の熱処理装置1aにおける半導体ウェハーWの処理手順も第1実施形態と概ね同様である。但し、第2実施形態においては、処理対象となる半導体ウェハーWは、イオン打ち込み法によって表面に不純物が注入された半導体基板である。そのような表面に不純物が注入された半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入される。
【0083】
また、第2実施形態においては、第1実施形態とは逆に、半導体ウェハーWの表面が上面を向いた状態でチャンバー6内に搬入される。従って、不純物が注入された表面が上面を向いた状態にて半導体ウェハーWが支持リング71によって支持される。支持リング71は、半導体ウェハーWの裏面の周縁部に当接して支持する。
【0084】
加熱プレート74は、制御部3によって予め所定温度に温調されている。半導体ウェハーWは支持リング71に支持されて加熱プレート74に近接保持されることにより、所定温度(200℃ないし800℃程度)にまで予備加熱される。そして、所定時間が経過して半導体ウェハーWが所定温度にまで加熱された後、制御部3の制御によりフラッシュ照射部5のフラッシュランプFLから半導体ウェハーWへ向けてフラッシュ光が照射される。フラッシュ光の照射については第1実施形態と同様であり、IGBT96によってフラッシュランプFLへの電荷の供給を断続することにより、フラッシュランプFLの発光時間を数10ミリ秒にまで延ばしている。
【0085】
図6は、第2実施形態の半導体ウェハーWをフラッシュ加熱する状態を示す図である。半導体ウェハーWの表面にはパターン12が形成され、そのパターン12の例えばソース・ドレイン領域に不純物が注入されている。半導体ウェハーWは、パターン12が形成された表面を上面に向けて支持リング71に支持されている。その半導体ウェハーWを加熱プレート74によって加熱しつつ、半導体ウェハーWの上面(第2実施形態では表面)にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する。フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、照射時間が極めて短く強度の強い閃光である。フラッシュランプFLからフラッシュ光が照射された半導体ウェハーWの表面の温度は瞬間的に処理温度(1000℃以上)にまで急上昇し、それによって不純物の活性化処理が実行される。なお、フラッシュ光の照射時間は極めて短いため、不純物の熱による拡散は抑制することができる。
【0086】
第2実施形態においては、パターン12が形成された半導体ウェハーWの表面を上面に向けて支持リング71によって支持し、その半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光を照射している。フラッシュ光に対して不透明な円環形状の支持リング71によって半導体ウェハーWの周縁部下面が全周にわたって支持される。従って、半導体ウェハーWの側方を回り込もうとするフラッシュ光は支持リング71によって遮光されることとなり、そのような迷光が半導体ウェハーWの周縁部下面に到達することは無い。その結果、半導体ウェハーWの側方を回り込んで周縁部下面に到達したフラッシュ光がその周縁部下面を加熱することは無く、周縁部の温度が内側領域よりも高くなることは防がれ、半導体ウェハーWの表面の面内温度分布を均一にすることができる。よって、半導体ウェハーWの表面を均一に加熱することができる。
【0087】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、第1実施形態では、半導体ウェハーWの表面に形成されたレジスト膜11の焼成処理を行っていたが、これに代えて半導体ウェハーWの表面に金属膜を形成し、フラッシュ加熱によってシリサイド(例えば、ニッケルシリサイド)を形成するようにしても良い。また、第2実施形態では、半導体ウェハーWの表面に注入された不純物の活性化を行っていたが、これに代えてイオン注入時に導入された欠陥をフラッシュ加熱によって回復するようにしても良い。
【0088】
また、フラッシュ加熱の目的によっては、冷却プレート72に載置された支持リング71によって半導体ウェハーWの表面を上面に向けて支持するようにしても良いし、加熱プレート74に載置された支持リング71によって半導体ウェハーWの裏面を上面に向けて支持するようにしても良い。いずれのようにしても、フラッシュ光に対して不透明な円環形状の支持リング71によって半導体ウェハーWの周縁部下面を全周にわたって支持するため、フラッシュ光の回り込みを防止して半導体ウェハーWを均一に加熱することができる。
【0089】
もっとも、レジスト膜の焼成処理やシリサイド形成のように、処理温度が比較的低温で足りる場合には半導体ウェハーWの裏面を上面に向けて支持リング71によって支持し、半導体ウェハーWの裏面にフラッシュ光を照射するのが好ましい。パターン形成がなされていない裏面にフラッシュ光を照射すれば、フラッシュ光吸収のパターン依存性を無くして半導体ウェハーWを均一に加熱することができる。一方、不純物の活性化や欠陥回復のように、処理温度に比較的高温を必要とする場合には半導体ウェハーWの表面を上面に向けて支持リング71によって支持し、半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光を照射する必要がある。これは、半導体ウェハーWの裏面にフラッシュ光を照射したときの表面への熱伝導では、表面に直接フラッシュ光を照射するのに比較して高温に昇温するのが困難であるためである。
【0090】
また、保持部7に、加熱機構および冷却機構を備えた温調プレートを設け、その温調プレートに支持リング71を載置するようにしても良い。温調プレートは、フラッシュ加熱の目的に応じて、半導体ウェハーWの加熱または冷却を行う。
【0091】
また、支持リング71を冷却プレート72または加熱プレート74と同じ材質にて形成するようにしても良い。このようにすれば、支持リング71と冷却プレート72または加熱プレート74との温度均一性を向上させることができ、半導体ウェハーWをより均一に温調することができる。但し、支持リング71は少なくともフラッシュ光に対して不透明な材質でなければならない。同じ材質を使用するの場合には、支持リング71と冷却プレート72または加熱プレート74とを一体成型するようにしても良いし、別体としたものを積層するようにしても良い。
【0092】
また、第1実施形態のように、半導体ウェハーWの裏面にフラッシュ光を照射する場合、当該裏面に不可避的に形成されている膜(例えば、シリコン窒化膜)を剥離してから半導体ウェハーWをチャンバー6に搬入するようにしても良い。そのような膜を剥離することによって、半導体ウェハーWをより均一に加熱することができる。
【0093】
また、上記実施形態においては、フラッシュ照射部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。
【0094】
また、本発明に係る熱処理技術によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。ガラス基板のように矩形形状の基板であれば、支持リング71もそれに対応する四角形の環状部材とすれば良い。
【符号の説明】
【0095】
1,1a 熱処理装置
2 排気部
3 制御部
4 移載部
5 フラッシュ照射部
6 チャンバー
7 保持部
8 ガス供給部
11 レジスト膜
12 パターン
65 熱処理空間
71 支持リング
72 冷却プレート
74 加熱プレート
96 IGBT
FL フラッシュランプ
W 半導体ウェハー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内に設けられ、基板の周縁部下面を支持する環状部材と、
前記環状部材に支持された前記基板の上面にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、
を備え、
前記環状部材は前記フラッシュランプから照射されるフラッシュ光に対して不透明な材質にて形成されることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記環状部材の外周形状は、前記基板の周縁形状よりも大きいことを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の熱処理装置において、
前記チャンバー内に設けられて前記環状部材を載置し、前記環状部材に支持された前記基板を冷却する冷却プレートをさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項4】
請求項3記載の熱処理装置において、
前記環状部材は、前記基板の裏面を上面に向けて支持し、
前記フラッシュランプは、前記基板の裏面にフラッシュ光を照射することを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
請求項4記載の熱処理装置において、
前記フラッシュランプの放射照度は1×108W/m2以下であることを特徴とする熱処理装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2記載の熱処理装置において、
前記チャンバー内に設けられて前記環状部材を載置し、前記環状部材に支持された前記基板を加熱する加熱プレートをさらに備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
請求項6記載の熱処理装置において、
前記環状部材は、前記基板の表面を上面に向けて支持し、
前記フラッシュランプは、前記基板の表面にフラッシュ光を照射することを特徴とする熱処理装置。
【請求項8】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法であって、
基板をチャンバー内に収容し、環状部材によって前記基板の周縁部下面を支持する支持工程と、
前記環状部材に支持された前記基板の上面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するフラッシュ照射工程と、
を備え、
フラッシュ光に対して不透明な材質にて形成された前記環状部材によって、前記基板の周縁部下面に前記フラッシュランプから照射されるフラッシュ光が回り込むのを防止することを特徴とする熱処理方法。
【請求項9】
請求項8記載の熱処理方法において、
前記環状部材を載置する冷却プレートによって前記基板を冷却しつつフラッシュ光の照射を行うことを特徴とする熱処理方法。
【請求項10】
請求項9記載の熱処理方法において、
前記支持工程では、前記環状部材が前記基板の裏面を上面に向けて支持し、
前記フラッシュ照射工程では、前記基板の裏面にフラッシュ光を照射することを特徴とする熱処理方法。
【請求項11】
請求項10記載の熱処理方法において、
前記フラッシュランプの放射照度は1×108W/m2以下であることを特徴とする熱処理方法。
【請求項12】
請求項8記載の熱処理方法において、
前記環状部材を載置する加熱プレートによって前記基板を加熱しつつフラッシュ光の照射を行うことを特徴とする熱処理方法。
【請求項13】
請求項12記載の熱処理方法において、
前記支持工程では、前記環状部材が前記基板の表面を上面に向けて支持し、
前記フラッシュ照射工程では、前記基板の表面にフラッシュ光を照射することを特徴とする熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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