説明

熱分析試料容器の密封治具

【課題】密封容器を形成するアルミ製の試料容器および蓋の表面には酸化皮膜ができており、そのままの状態で圧接することができないため、試料容器および蓋に破断や亀裂を発生させることなく、表面の酸化皮膜を物理的に破壊する手段を提供する。
【解決手段】試料容器11および蓋12の圧接の際、水平方向荷重と同時に垂直方向荷重を負荷、または水平方向荷重を負荷した直後に垂直方向荷重を負荷する圧接器を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析に用いる熱分析試料容器の密封治具に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析装置(DSCなど)は、被測定試料と基準試料とを加熱炉内において同じ条件下で加熱したとき、両試料間に生じる温度差から被測定試料の熱的性質を解析するものである。
【0003】
熱分析に用いられる試料には、液体試料や蒸気圧の高い試料、またはそれらが含まれている試料がある。それらの試料は、測定中に蒸発の潜熱が奪われるため、例えばDSC曲線の目的のピークが小さい場合は蒸発のピークに隠れてしまったり、見かけ上のベースラインが歪曲する。このような試料の分析時、試料容器を用いて作成された密封試料を用いる。
【0004】
図4は、従来の熱分析試料容器の密封治具の概要を示したものである。熱分析試料容器の密封治具70は、コの字形のスタンド64のベース部64aの装着孔64cに固定ダイス61を取り付け、スタンド64のアーム部64bの孔64dに、移動ダイス62を固定した可動ブロック66を取り付けたものである。さらに、可動ブロック66は、アンギュラ玉軸受67を介してねじ軸63と回転自在に結合されている。
【0005】
ねじ軸63は、スタンド64に形成されたねじ孔64eに螺合され、ねじ軸63の上端に固定されたハンドル65の回転により上下動する。可動ブロック66の上端の軸部66bには、背面合わせの2個のアンギュラ玉軸受67の内径が止め輪69によって取り付けられ、アンギュラ玉軸受67の外径は、ねじ軸63の孔63aにプレート68およびスクリュウ74によって固定されている。また、可動ブロック66は、軸に平行な長溝66aに挿入されたピン75によって回転止めされた状態で、スタンド64の孔64dに上下スライド自在に挿入されている。したがって、ハンドル65を回すと可動ブロック66は上下方向にのみ移動する。
【0006】
図5は、本発明の実施例である熱分析試料容器の密封治具による試料容器の圧接の概要を示したものである。密封治具70で密封容器を作成する場合、試料容器71に試料73を入れて蓋72を被せ、固定ダイス61の上に載置する。次に、移動ダイス62を下動させることにより、固定ダイス61および移動ダイス62の外周フランジ61aおよび62aの合わせ部P2を圧接して容器を密封する。
【0007】
特許文献1には、「シリンダの面積差を利用して、小さな力で確実な密封を行う熱分析試料容器の密封治具」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10―311810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
密封容器を形成するアルミ製の試料容器71および蓋72の表面には酸化皮膜ができており、そのままの状態で圧接することはできない。そのため、強い圧力をかけて母材を変形させ、表面の酸化皮膜を物理的に破壊する必要がある。しかしながら、強い圧力をかけると母材の変形だけでなく破断が発生する場合や、容器が変形する場合がある。そのため、母材が変形しやすいよう熱処理を施すことも考慮されるが、硬度を適正値にコントロールすることは困難である。したがって、試料容器の酸化被膜を容易に除去し確実に圧接することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、固定ダイスおよび移動ダイスを備え、内部に被測定試料を入れた容器と蓋を、前記固定ダイスと前記移動ダイス間に水平にセットし、前記移動ダイスを前記固定ダイス側に移動し荷重を負荷することにより前記容器と蓋を圧接密封する熱分析試料容器の密封治具において、前記移動ダイスにより前記固定ダイス側に水平方向荷重と同時に垂直方向荷重を負荷、または水平方向荷重を負荷した直後に垂直方向荷重を負荷する圧接器を備えたものである。
【0011】
また、本発明は、前記水平方向荷重と同時に前記垂直方向荷重を負荷する手段として、前記固定ダイスおよび前記移動ダイスを配設したスタンドを備え、前記スタンド下部に固定された前記固定ダイスと、前記スタンド上部に設けられたねじ孔と噛み合うねじ軸と、前記ねじ軸の下部先端に固定された前記移動ダイスを備えたものである。
【0012】
また、本発明は、前記水平方向荷重を負荷した直後に前記垂直方向荷重を負荷する手段として、前記固定ダイスおよび前記移動ダイスを配設したスタンドを備え、前記スタンド下部にばねを介して、前記固定ダイスの上下動に対して回転可能に支持された前記固定ダイスと、前記スタンド上部に設けられたねじ孔と噛み合うねじ軸と、前記ねじ軸の下部先端に上下動および回転自在に支持されるとともに、回転止め状態に配設された前記移動ダイスを備えたものである。
【0013】
また、本発明は、前記容器および蓋と接触する前記移動ダイスおよび前記固定ダイスの当たり面に、微小な凹凸を形成する加工処理を施すことができる。
【0014】
また、本発明は、前記加工処理が、ショットピーニング、サンドブラスト、目立またはダイアモンド砥粒の電着であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
水平方向荷重を負荷することにより、効果的に酸化皮膜を除去することができるので、試料容器と蓋とを安定的に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例である熱分析試料容器の密封治具の概要を示す。
【図2】本発明の実施例である熱分析試料容器の密封治具による試料容器の圧接の概要を示す。
【図3】本発明の他の変形実施例である熱分析試料容器の密封治具の概要を示す。(a)に試料容器密封前、(b)に試料容器密封時を示す。
【図4】従来の熱分析試料容器の密封治具の概要を示す。
【図5】従来の熱分析試料容器の密封治具による試料容器の圧接の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施例である熱分析試料容器の密封治具の概要を示したものである。また、図2に本発明の実施例である熱分析試料容器の密封治具による試料容器の圧接の概要を示す。熱分析試料容器の密封治具10は、コの字形のスタンド4と、スタンド4のベース部4aの装着孔4cに装着された固定ダイス1と、スタンド4のアーム部4bのねじ孔4eに螺合したねじ軸3と、ねじ軸3に固定された移動ダイス2と、を備える。
【0018】
密封治具10で密封容器を作成する場合、試料容器11に試料13を入れて蓋12を被せ、固定ダイス1の上に水平に載置する。次に、ハンドル5を回してねじ軸3を回転させると、ねじ作用によってねじ軸3は回転しながら下方向に移動する。したがって、ねじ軸3に固定された移動ダイス2も回転しながら下方向に移動する。
【0019】
回転しながら下方向に移動してきた移動ダイス2の外周フランジ2aが、蓋12に接触し蓋12に垂直方向荷重と水平方向荷重を与える。図2に示す圧接箇所の拡大図によって、圧接の状態を説明する。外周フランジ2aおよび固定ダイスの外周フランジ1aの当たり面2bおよび1bには、ショットピーニング、サンドブラスト、目立またはダイアモンド砥粒の電着等によって、微小な凹凸が作られていて、滑りにくくしてある。
【0020】
したがって、当たり面1bと試料容器11、および当たり面2bと蓋12の接触面は、試料容器11と蓋12の接触面より滑りにくいため、移動ダイスの回転により試料容器11と蓋12の接触面に水平方向荷重による滑りが発生して酸化皮膜が破壊される。さらに移動ダイスが下動し垂直方向荷重も増大してくると、接触面に滑りを発生させる水平方向荷重よりも接触面の摩擦力が大きくなり、ある段階で滑りは停止する。そのあとさらに垂直方向荷重が増大し、外周フランジ1aおよび2aの合わせ部P1で圧接されて試料容器が密封される。
【0021】
図3は、本発明の他の変形実施例である熱分析試料容器の密封治具の概要を示したものである。(a)に試料容器密封前、(b)に試料容器密封時の状態を示す。図3(a)において、熱分析試料容器の密封治具30は、コの字形のスタンド24と、スタンド24のベース部24aの装着孔24cに、上下動に対して回転可能に挿入および支持された固定ダイス21と、スタンド24のアーム部24bのねじ孔24eに螺合したねじ軸23と、ねじ軸23にアンギュラ玉軸受27を介して回転自在に支持された可動ブロック26と、可動ブロック26に固定された移動ダイス22と、を備える。
【0022】
ねじ軸23は、スタンド24に形成されたねじ孔24eに螺合され、ねじ軸23の上端に固定されたハンドル25の回転により上下動する。可動ブロック26の上端の軸部26bには、背面合わせの2個のアンギュラ玉軸受27の内径が止め輪29によって取り付けられ、アンギュラ玉軸受27の外径は、ねじ軸23の孔23aにプレート28およびスクリュウ34によって固定されている。
【0023】
また、可動ブロック26は、軸に平行な長溝26aにはまり込んだアーム部24bに固定されたピン35によって回転止めされた状態で、スタンド24の孔24dに上下スライド自在に取り付けられている。したがって、ハンドル25を回すと可動ブロック26は上下方向のみ移動する。
【0024】
また、ベース部24aの装着孔24cに挿入された固定ダイス21は、上下動するとき、固定ダイス21に設けられた螺旋状長溝21bがベース部24aに固定されたピン36に沿って回転することができる。ベース部24aの装着孔24gに、ばね座38とばね受け39の間にばね37を圧縮して装着し、ばね座38は図示しないスクリュウによってベース部24aに固定される。ばね受け39は、上下方向に移動可能で固定ダイス21が下動するとばね37が圧縮されながら下方向に変位する。
【0025】
図3(a)は試料容器密封前の状態を示したものである。ハンドル25の回転につれて、回転しながら下方向に移動するねじ軸23とアンギュラ玉軸受27を介して結合された可動ブロック26は、長溝26aにはまり込んだピン35によって回転が制限されており、可動ブロック26に固定された移動ダイス22は下方向に移動する。下方向に移動してきた移動ダイス22が、固定ダイス21にセットされた蓋12に接触する。
【0026】
移動ダイス22がさらに下方向に移動することにより、移動ダイス22の押し下げ力が、圧縮して装着されたばね37の圧縮力を越えると、螺旋状長溝21aがピン36に案内されて固定ダイス21が回転しながら下方向に移動する。このとき、ばね37の圧縮力の反力を受けて、試料容器31と蓋32は互いに押し付けられる。回転しない移動ダイス22に接触している蓋32と回転しながら下方向に移動する固定ダイス21に接触している試料容器31の間に、相対的な滑りが発生して互いの面が擦れ合い酸化被膜が破壊される。
【0027】
なお、固定ダイス21および移動ダイス22の外周フランジ2aおよび22aの当たり面には、図2で説明したものと同じ微小な凹凸が形成されていて、滑りにくくしてある。また、ばね37の圧縮力は、試料容器の酸化被膜除去に有効な値に設定される。
【0028】
図3(b)には、移動ダイス22をさらに下方向に移動させたとき、固定ダイス21の首部21cがベース部24aの面24fに当たった状態を示している。この状態で、固定ダイス21は回転を停止してベース部24aに強く付勢されており、さらにハンドル25を回していくと試料容器31と蓋32の接触面の垂直方向荷重も増大し最終的に圧接され、試料容器は密封される。したがって、本変形実施例では、水平方向荷重を負荷し終わった直後に垂直方向荷重が負荷されて圧接が行われる。
【0029】
図1から図5において使用された同一の符号で示されたものは、同一物を表し、同じ機能を有するものである。また、図中の試料容器と蓋の大きさは、他の構成要素との関係で、解り易くするために誇張して示されている。
【符号の説明】
【0030】
1、21、61 固定ダイス
1a、2a、21a、22a、61a、62a 外周フランジ
1b、2b 当たり面
2、22、62 移動ダイス
3、23、63 ねじ軸
4、24、64 スタンド
4a、24a、64a ベース部
4b、24b、64b アーム部
4c、24c、24g、64c 装着孔
4e、24e、64e ねじ孔
5、25、65 ハンドル
10、30、70 密封治具
11、31、71 試料容器
12、32、72 蓋
13、73 試料
21b 螺旋状長溝
21c 首部
23a、24d、63a、64d 孔
24f 面
26、66 可動ブロック
26a 66a 長溝
26b、66b 軸部
27、67 アンギュラ玉軸受
28、68 プレート
29、69 止め輪
34、74 スクリュウ
35、36、75 ピン
37 ばね
38 ばね座
39 ばね受け
75 ピン
P1、P2 合わせ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ダイスおよび移動ダイスを備え、内部に被測定試料を入れた容器と蓋を、前記固定ダイスと前記移動ダイス間に水平にセットし、前記移動ダイスを前記固定ダイス側に移動し荷重を負荷することにより前記容器と蓋を圧接密封する熱分析試料容器の密封治具において、前記移動ダイスにより前記固定ダイス側に水平方向荷重と同時に垂直方向荷重を負荷、または水平方向荷重を負荷した直後に垂直方向荷重を負荷する圧接器を備えたことを特徴とする熱分析試料容器の密封治具。
【請求項2】
前記水平方向荷重と同時に前記垂直方向荷重を負荷する手段として、前記固定ダイスおよび前記移動ダイスを配設したスタンドを備え、前記スタンド下部に固定された前記固定ダイスと、前記スタンド上部に設けられたねじ孔と噛み合うねじ軸と、前記ねじ軸の下部先端に固定された前記移動ダイスを備えたことを特徴とする請求項1に記載の熱分析試料容器の密封治具。
【請求項3】
前記水平方向荷重を負荷した直後に前記垂直方向荷重を負荷する手段として、前記固定ダイスおよび前記移動ダイスを配設したスタンドを備え、前記スタンド下部にばねを介して、前記固定ダイスの上下動に対して回転可能に支持された前記固定ダイスと、前記スタンド上部に設けられたねじ孔と噛み合うねじ軸と、前記ねじ軸の下部先端に上下動および回転自在に支持されるとともに、回転止め状態に配設された前記移動ダイスを備えたことを特徴とする請求項1に記載の熱分析試料容器の密封治具。
【請求項4】
前記容器および蓋と接触する前記移動ダイスおよび前記固定ダイスの当たり面に、微小な凹凸を形成する加工処理を施したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱分析試料容器の密封治具。
【請求項5】
前記加工処理が、ショットピーニング、サンドブラスト、目立またはダイアモンド砥粒の電着であることを特徴とする請求項4に記載の熱分析試料容器の密封治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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