説明

熱転写シート及び画像形成方法

【課題】感熱転写方式の画像形成装置を用いて、熱転写インクリボンにより鮮明なインク画像を形成することができ、加熱圧着により被転写布などの被転写体上にインク画像を転写し、溶融密着させることができる熱転写シートを提供すること。
【解決手段】
基材シート上に、加熱により溶融して被転写体に接着する熱可塑性樹脂を含有する熱転写層が設けられ、さらに、該熱転写層上に、ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを重量比5:95〜95:5の割合で含有する樹脂組成物のコーティング層からなる受像層が設けられた多層構成を有する熱転写シート、並びに該熱転写シートを用いて被転写体上にインク画像を熱転写刷る画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱転写方式の画像形成装置を用いて、熱転写インクリボンによりインク画像を形成することができ、さらに、加熱圧着により、被転写布などの被転写体上にインク画像を転写することができる熱転写シートに関する。また、本発明は、該熱転写シートを用いた被転写体上への画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱転写方式のプリンタ、タイプライタ、ワードプロセッサなどの画像形成装置は、文字、図柄、文様などの画像を形成するために広く用いられている。感熱転写方式により画像を形成するには、感熱転写方式の画像形成装置により熱転写インクリボンを印字用紙などの被転写材の表面に密着させるとともに、熱転写インクリボンの裏面からサーマルヘッドを接触させて、所望の画像を印字用紙などの被転写材上に形成する。サーマルヘッドは、多数の発熱素子を有しており、画像形成装置に入力された画像情報(パターン信号)に基づいて、所定の発熱素子を発熱させるように構成されている。
【0003】
熱転写インクリボンは、一般に、支持体上に熱転写インク層を形成した構成を有しており、サーマルヘッドを支持体側の表面(裏面)から接触させて所定の発熱素子を発熱させると、熱転写インク層の所定のインク要素が溶融して被転写材上に熱転写される。溶融したインク要素は、直ちに冷却固化するため、インク画像が被転写材上に定着される。
【0004】
熱転写シートは、一般に、基材シート上に熱可塑性樹脂からなる熱転写層を設けた層構成を有しており、該熱転写層が熱転写インクの受像層となる。熱転写シートは、感熱転写方式の画像形成方法において用いられる被転写材の一種であるが、その受像層上に形成された熱転写画像を、さらに他の被転写体上に熱転写することができる機能を有するものである。そのため、熱転写層は、再転写層と呼ばれることがある。
【0005】
感熱転写方式の画像形成装置を用いて、熱転写シートの熱転写層上にインク画像を形成し、次いで、該熱転写シートを熱転写層側の面で被転写体と接触させ、基材シート側から加熱圧着すると、インク画像を形成した熱転写層が被転写体上に熱転写される。被転写体としては、様々な材質のものがあるが、布類などの被転写布が代表的なものである。加熱圧着するには、アイロンやホットプレスなどの加熱圧着手段を採用することができる。加熱圧着後、基材シートを剥離すれば、インク画像と熱転写層を構成する熱可塑性樹脂とが被転写体上に残る。この被転写体は、熱転写シートに熱転写されたインク画像を、さらに熱転写することから、最終被転写体と呼ばれることがある。
【0006】
従来、熱転写シートとして、基材シート上に、溶融温度が60〜250℃の熱可塑性樹脂または該熱可塑性樹脂と接着性向上剤との樹脂組成物を用いて再転写層(熱転写層)を形成したものが提案されている(特許文献1)。この特許文献1の実施例では、再転写層を形成する熱可塑性樹脂として、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が用いられている。
【0007】
ところが、エチレン−酢酸ビニル共重合体から形成された熱転写層は、布類などの被転写布に対する熱融着性に優れるものの、熱転写インクリボンの種類によっては印字性が著しく低下することが判明した。特に、バインダーとしてポリエステル樹脂を含有する熱転写インク層を設けた熱転写インクリボンを用いると、エチレン−酢酸ビニル共重合体から形成された熱転写層の表面に満足な印字ができず、連続印字すると、画像のカスレがひどくなる。
【特許文献1】特開平2−249692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、感熱転写方式の画像形成装置を用いて、熱転写インクリボンにより鮮明なインク画像を形成することができ、さらに、加熱圧着により、被転写布などの被転写体上にインク画像を転写し、溶融密着させることができる熱転写シートを提供することにある。
【0009】
本発明の他の課題は、バインダーとしてポリエステル樹脂を含有する熱転写インク層が支持体上に設けられた熱転写インクリボンを用いて鮮明な画像を形成することができ、布類などの最終被転写体にインク画像を転写することができる画像形成方法を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、基材シート上に、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの加熱により溶融して被転写体に接着(溶融密着)することができる熱転写層を形成し、さらに、該熱転写層上に、インク受像層として、ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを含有する樹脂組成物のコーティング層を設けた他層構成の熱転写シートに想到した。
【0011】
本発明の熱転写シートは、バインダーとしてポリエステル樹脂を含有する熱転写インク層が支持体上に設けられた熱転写インクリボンを用いた場合であっても、鮮明な画像を形成することができ、しかも布類などの最終被転写体にインク画像を転写し、溶融密着させることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、基材シート(A)上に、加熱により溶融して被転写体に接着する熱可塑性樹脂を含有する熱転写層(B)が設けられ、さらに、該熱転写層(B)上に、ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを重量比5:95〜95:5の割合で含有する樹脂組成物のコーティング層からなる受像層(C)が設けられた多層構成を有する熱転写シートが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、下記工程1〜4:
(1)感熱転写方式の画像形成装置を用いて、バインダーとしてポリエステル樹脂を含有する熱転写インク層が支持体上に設けられた熱転写インクリボンを、熱転写インク層側の表面で請求項1記載の熱転写シートの受像層表面に密着させるとともに、熱転写インクリボンの支持体側の表面にサーマルヘッドを接触させて、感熱転写方式により該受像層表面にインク画像を形成する工程1、
(2)該熱転写シートを、インク画像を形成した受像層側の表面で、被転写体と接触させる工程2、
(3)加熱手段により、該熱転写シートの基材シート(A)上から加熱圧着して、インク画像を形成した受像層(C)と熱転写層(B)とを被転写体上に熱転写させる工程3、及び
(4)該熱転写シートから基材シートを剥離する工程4
を含む画像形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、感熱転写方式の画像形成装置を用いて、熱転写インクリボンにより鮮明なインク画像を形成することができ、さらに、加熱圧着により、被転写布などの被転写体上にインク画像を転写し、溶融密着させることができる熱転写シートが提供される。また、本発明によれば、バインダーとしてポリエステル樹脂を含有する熱転写インク層が支持体上に設けられた熱転写インクリボンを用いて鮮明な画像を形成することができ、布類などの最終被転写体にインク画像を転写することができる画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の熱転写シートを構成する基材シートとしては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などの合成樹脂フィルムもしくはシート;上質紙、アート紙、コート紙、グラシン紙、模造紙、水溶性紙などのセルロース繊維紙;合成紙、ラミネート紙;などが挙げられる。基材シートには、必要に応じて、シリカ、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどの充填剤を含有させることができる。
【0016】
基材シートとしては、一般に、アイロンやホットプレス等による加熱圧着時に、溶融または分解しないだけの耐熱性を有するものが用いられる。基材シートが合成樹脂フィルムまたはシートである場合には、熱転写層を構成する熱可塑性樹脂の溶融温度よりも20℃以上高い溶融温度を有する耐熱性に優れたものが好ましい。
【0017】
基材シートには、必要に応じて、コロナ放電処理やマット処理などの表面処理を行うことができる。基材シートの厚みは、特に限定されないが、機械的強度や耐熱性、画像形成装置(プリンター)内での搬送性の観点から、通常10〜300μm、好ましくは20〜250μm、より好ましくは50〜200μmである。
【0018】
本発明の熱転写シートにおける熱転写層を構成する熱可塑性樹脂としては、膜成形性を有し、かつ、加熱により布類などの被転写体に接着するものであればよく、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリ塩素化オレフィン樹脂、ポリブチラール樹脂、アイオノマー樹脂、ポリウレタンが挙げられる。また、熱可塑性樹脂として、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴムなどのゴム系樹脂を用いてもよい。
【0019】
熱転写層を構成する熱可塑性樹脂の溶融温度(融点,Tm)は、通常50〜250℃、好ましくは55〜200℃、より好ましくは60〜130℃である。熱可塑性樹脂の溶融温度が低すぎると、熱転写方式の画像形成装置を用いて印字したとき、サーマルヘッドの熱によって溶融し、その上に設けた受像層の画像が乱れる。熱可塑性樹脂の溶融温度が高すぎると、加熱圧着時に被転写体に溶融密着するのが困難になる。
【0020】
熱転写層を形成する熱可塑性樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、エチレン−酢酸ビニル共重合体がより好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニル含有率が7〜40重量%で、メルトフローレートが2〜20g/10分のものが好ましい。
【0021】
熱転写層を形成する熱可塑性樹脂には、必要に応じて、石油樹脂、ロジン、水添ロジン、ロジンエステル、ケトン樹脂、フェノール樹脂などの粘着付与樹脂;植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックス、樹脂系ワックスなどのワックス;リン酸エステル、フタル酸エステルなどの可塑剤;カオリン、タルク、酸化チタンなどの充填剤;酸化防止剤、油脂、界面活性剤などを添加してもよい。
【0022】
熱転写層は、基材シートの片面に、溶融押出法やコーティング法によって形成することが好ましく、Tダイからの溶融押出法により形成することが好ましい。熱転写層の厚みは、通常3〜200μm、好ましくは5〜150μm、より好ましくは10〜100μmである。熱転写層の厚みが薄すぎると、熱転写が困難になる。熱転写層の厚みが厚すぎると、インク画像の鮮明性が低下し、加熱圧着時の熱伝導性が低下し、さらに、被転写体が布類の場合には、熱転写画像の風合いが低下する。
【0023】
本発明の熱転写シートの受像層は、ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを重量比5:95〜95:5の割合で含有する樹脂組成物のコーティング層である。ポリエステル樹脂としては、融点が通常60〜260℃、好ましくは70〜200℃の熱可塑性ポリエステル樹脂であることが望ましい。
【0024】
ポリエステル樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、脂環族ポリエステル樹脂、共重合ポリエステル樹脂などがあり、飽和ポリエステル樹脂であることが好ましい。ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合により合成される。
【0025】
ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、及びそれらの低級アルキルエステル;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカ二酸などの脂肪族ジカルボン酸、及びこれらの低級アルキルエステル;シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、及びこれらの低級アルキルエステル;などが挙げられる。低級アルキルエステルとしては、ジメチルエステル、ジエチルエステルなど、炭素数1〜5の低級アルキルエステルが好ましい。
【0026】
ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール;ポリオキシアルキレングリコールなどの二価グリコール;シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールSなどの脂環族ジオール;などを挙げることができる。
【0027】
市販のポリエステル樹脂としては、例えば、東洋紡社製の商品名「バイロン200」、「バイロン500」などの脂肪族ポリエステル樹脂;ユニチカプラスチック社製の商品名「エリーテルUE3380」などの飽和共重合ポリエステル樹脂を挙げることができる。
【0028】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和酸単量体で変性して、カルボキシル基を導入したものである。不飽和酸単量体による変性法としては、共重合法、グラフト法、これらの併用法などがある。酸変性ポリオレフィン樹脂は、有機溶剤に溶解するものが好ましい。市販の酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、三菱化学社製の商品名「サーフレンP−1000」、「アドマーOF551」、「アドマーNF550」;三菱樹脂社製の商品名「モディックS525」などが挙げられる。
【0029】
受像層を構成するポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂との重量比は、5:95〜95:5、好ましくは20:80〜80:20、より好ましくは25:75〜75:25である。ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを上記重量比で含有する樹脂組成物のコーティング層を受像層とすることにより、熱転写インクの密着性に優れた画像を形成することができる。特に、バインダーとしてポリエステル樹脂を含有するインク層が設けられた熱転写インクリボンを用いて、熱転写方式により、受像層上にインク画像を形成した場合、ポリオレフィン樹脂の割合が小さすぎても、酸変性ポリオレフィン樹脂の割合が小さすぎても、インク画像の密着性が低下する。受像層上に形成したインク画像の密着性が悪いと、周囲の物品等との接触により、画像の劣化や脱落が生じやすくなる。
【0030】
ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを含有する樹脂組成物は、酢酸エチルなどのエステル系溶剤;メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤;トルエンなどの芳香族炭化水素系溶剤;これらの混合溶剤などの有機溶剤に溶解させてコーティング液とする。コーティング液の固形分濃度は、通常1〜30重量%、好ましくは2〜15重量%である。
【0031】
受像層は、コーティング液を熱転写層の表面にコーティングし、乾燥させることにより形成する。塗布量は、固形分基準で、通常1.0〜5.0g/m、好ましくは1.0〜3.0g/m、特に好ましくは1.2〜2.5g/mである。この塗布量が少なすぎると、印字性が低下したり、画像形成時に熱転写シートの受像層と熱転写インクリボンとが部分的に熱融着したりする。この塗布量が多すぎると、その上に形成したインク画像を被転写布(布類)に熱転写したとき、熱転写画像が洗濯時に剥がれやすくなり、耐洗濯性が低下する。
【0032】
図1に断面図を示すように、本発明の熱転写シート1は、基材シート11上に熱転写層12が形成され、さらに該熱転写層12上に受像層13が形成された多層構造を有している。本発明の熱転写シートを用いて、布類(布生地、衣類など)などの被転写布にインク画像を熱転写するには、先ず、感熱転写方式の画像形成装置を用いて、熱転写インクリボンを、熱転写インク層側の表面で熱転写シートの受像層表面に密着させるとともに、熱転写インクリボンの支持体側の表面にサーマルヘッドを接触させて、感熱転写方式により該受像層表面にインク画像を形成する。
【0033】
次に、図2に示すように、受像層13上にインク画像14が形成された熱転写シート2を、インク画像14を形成した受像層13側の表面で、被転写布3と接触させる。アイロンやホットプレス等の加熱手段4により、該熱転写シート2の基材シート11上から加熱圧着して、インク画像14を形成した受像層13と熱転写層12とを被転写体上に熱転写させる。最後に、該熱転写シート2から基材シート11を剥離する。熱転写層12は、加熱溶融して被転写布3の表面部に熱融着し、受像層13上に形成されたインク画像14を被転写布に固着させる。受像層は、ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂との樹脂組成物から形成されているため、同様に、被転写布の表面部に熱融着するが、その際、インク画像が乱れることなく、鮮明な画像が熱転写される。
【0034】
熱転写インクリボンとしては、バインダーとしてポリエステル樹脂を含有するインク層が設けられたものが好適に用いられる。このような熱転写インクリボンと本発明の熱転写シートを組み合わせて、カートリッジにすることが好ましい。
【0035】
被転写体としては、布類、ガラス、金属、紙、各種物品などを用いることができるが、布類などの被転写布を用いることが好ましい。被転写布としては、布生地、衣類など任意である。被転写布などの不透明な被転写体に熱転写する場合には、熱転写インクリボンを用いて、熱転写シートの受像層上に鏡像を形成すれば、熱転写によって鏡像が反転したインク画像を被転写体上に形成することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各種特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0037】
(1)印字性
市販の熱転写方式の画像形成装置(キングジム社製、商品名「デプラSR−920」;印字機)と熱転写インクリボンを使用し、印字濃度を変えて熱転写シート上に印字を行った。該熱転写インクリボンは、バインダーとしてポリエステル樹脂(軟化点61℃)、着色剤としてカーボンブラックを含有する厚み7μmのインク層が形成されたものである。印字濃度は、「−3」(印字濃度が薄い)、「普通」(印字濃度が標準)、及び「+3」(印字濃度が濃い)の3段階で変化させた。印字性は、以下の4段階で評価した。
A: 鮮明で優れた印字が形成されている、
B: 良好な印字が形成されている、
C: かすれた印字が形成されている、
D: 印字のかすれがひどく、かつ、連続印字ができない。
【0038】
(2)対CT貼付試験
熱転写シートの印字面に粘着テープ(ニチバン株式会社製、登録商標「セロテープ LP−18」;「CT」と略記)を載せ、ロールで圧着した後、手で急速に剥がし、印字したインクの取れ具合を以下の4段階で評価した。
A: 印字したインクが殆ど取れない、
B: 印字したインクの表面部分が僅かに取れる場合がある、
C: 印字したインクのかなりの部分が取れる、
D: 印字したインクの殆どが取れる。
【0039】
(3)耐洗濯性
前記と同様にして、印字濃度「普通」で印字した熱転写シートを、受像層側の面で被転写布の表面と接触させ、中温(約155℃)に調節したアイロンを圧着して、インク画像を形成した受像層と熱転写層とを被転写布に熱転写させ、該熱転写シートから基材シートを剥離した。被転写布としては、(i)綿100%の薄手の布、(ii)綿100%のジャージ、(iii)綿とポリエステルとの65/35の混紡布、(iv)綿とポリエステルとの35/65の混紡布、及び(v)麻と綿との混紡布の5種類を用いた。これらの被転写布を洗濯機で3回洗濯した後、転写層(インク画像を形成した受像層と熱転写層)の状態を目視で観察し、以下の4段階で評価した。
A: 転写層が取れていない、
B: 転写層が部分的に取れている、
C: 転写層のかなりの部分が取れている、
D: 転写層の殆どの部分が取れている。
【0040】
[実施例1]
厚み75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ポリエチレンテレフタレートフィルム#75)の片面に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量14重量%、メルトフローレート24g/10分、溶融温度65℃)をTダイから厚み20μmで溶融押出ラミネートした。
【0041】
他方、ポリエステル樹脂(ユニチカプラスチック社製、商品名「エリーテルUE3380」、飽和共重合ポリエステル樹脂)75重量部と酸変性ポリオレフィン樹脂(三菱化学社製、商品名「サーフレンP−1000」)25重量部とを、溶剤〔酢酸エチル/メチルエチルケトン/トルエン=2/2/1(重量比)の混合溶剤〕中に溶解させて、固形分濃度3.5重量%のコーティング液を調製した。
【0042】
このコーティング液を前記ラミネートフィルムのエチレン−酢酸ビニル共重合体層上にコーティングし、乾燥させた。このようにして、固形分基準での塗布量が2.01g/mのコーティング層(受像層)を形成した。このようにして作製した熱転写シートを用いて、諸特性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2〜3及び比較例1〜2]
受像層を形成する各樹脂成分の配合割合を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを作製し、同様に評価した。
【0044】
[比較例3]
コーティング層からなる受像層を形成しなかったラミネートフィルムを熱転写シートとして用いた。この場合、受像層として、エチレン−酢酸ビニル共重合体層を用いた。評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
(脚注)
(*1)ポリエステル樹脂(ユニチカプラスチック社製、商品名「エリーテルUE3380」)
(*2)酸変性ポリオレフィン樹脂(三菱化学社製、商品名「サーフレンP−1000」)
【0047】
<考察>
表1に示す結果から明らかなように、受像層を構成する樹脂成分がポリエステル樹脂単独の場合(比較例1)及び酸変性ポリオレフィン樹脂単独の場合(比較例2)には、いずれも対CT貼付試験の結果が悪く、熱転写シートの受像層の表面に印字したインクが取れやすく、印字後の取り扱いに注意が必要である。また、受像層を構成する樹脂成分が酸変性ポリオレフィン樹脂単独の場合(比較例2)には、被転写布の種類によっては、耐洗濯性が低下する。
【0048】
これに対して、受像層を構成する樹脂成分がポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂との組成物である場合(実施例1〜3)には、熱転写シートの受像層の表面に印字したインクが取れ難く、転写層の耐洗濯性が良好である。
【0049】
[実施例4〜7]
コーティング液の固形分濃度と塗布量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例2と同様にして熱転写シートを作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
(脚注)
(*1)ポリエステル樹脂(ユニチカプラスチック社製、商品名「エリーテルUE3380」)
(*2)酸変性ポリオレフィン樹脂(三菱化学社製、商品名「サーフレンP−1000」)
(*3)熱転写シートの受像層と熱転写インクリボンとが部分的に融着することがある。
【0052】
<考察>
表2に示す結果から明らかなように、コーティング層(受像層)の塗布量が少なくなると、熱転写シートの受像層と熱転写インクリボンとが部分的に融着する傾向を示し、逆に、塗布量が多くなると、被転写布の種類によっては、耐洗濯性が低下傾向を示す。したがって、塗布量は、1.0〜3.0g/mの範囲が好ましく、1.2〜2.5g/mの範囲がより好ましいことが分かる。
【0053】
[実施例8]
コーティング液を調製するのに使用するポリエステル樹脂を、ユニチカプラスチック社製の商品名「エリーテルUE3380」から、東洋紡社製の商品名「バイロン200」(脂肪族系ポリエステル樹脂、融点163℃)に代えたこと以外は、実施例2と同様にして熱転写シートを作製し、同様に評価した。結果を表3に示す。
【0054】
[実施例9]
コーティング液を調製するのに使用するポリエステル樹脂を、ユニチカプラスチック社製の商品名「エリーテルUE3380」から、東洋紡社製の商品名「バイロン500」(脂肪族系ポリエステル樹脂、融点114℃)に代えたこと以外は、実施例2と同様にして熱転写シートを作製し、同様に評価した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
(脚注)
(*4)ポリエステル樹脂(東洋紡社製、商品名「バイロン200」)
(*5)ポリエステル樹脂(東洋紡社製、商品名「バイロン500」)
(*6)酸変性ポリオレフィン樹脂(三菱化学社製、商品名「サーフレンP−1000」)
【0057】
<考察>
表3に示す結果から明らかなように、ポリエステル樹脂の種類を変えても、良好な印字性、対CT貼付試験結果、耐洗濯性を示す熱転写シートの得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の熱転写シートは、文字、絵柄、文様、写真、これらの組み合わせなどの画像を、布類(布生地、衣類など)などの被転写体に形成するのに好適に用いることができる。本発明の熱転写シートを用いると、家庭や商店、小規模事業所などにおいても、感熱転写方式のワープロ機などの画像形成装置を用いて所望のインク画像を形成し、アイロンなどの身近な加熱圧着手段により、布類などの上にインク画像を熱転写により形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明の熱転写シートの層構造を示す断面略図である。
【図2】図2は、本発明の熱転写シートを用いて、被転写布に画像を形成する方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1: 熱転写シート
2: 熱転写インクリボンで画像を形成した熱転写シート
3: 被転写布
4: アイロン
11: 基材シート
12: 熱転写層
13: 受像層
14: インク画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート(A)上に、加熱により溶融して被転写体に接着する熱可塑性樹脂を含有する熱転写層(B)が設けられ、さらに、該熱転写層(B)上に、ポリエステル樹脂と酸変性ポリオレフィン樹脂とを重量比5:95〜95:5の割合で含有する樹脂組成物のコーティング層からなる受像層(C)が設けられた多層構成を有する熱転写シート。
【請求項2】
下記工程1〜4:
(1)感熱転写方式の画像形成装置を用いて、バインダーとしてポリエステル樹脂を含有する熱転写インク層が支持体上に設けられた熱転写インクリボンを、熱転写インク層側の表面で請求項1記載の熱転写シートの受像層表面に密着させるとともに、熱転写インクリボンの支持体側の表面にサーマルヘッドを接触させて、感熱転写方式により該受像層表面にインク画像を形成する工程1、
(2)該熱転写シートを、インク画像を形成した受像層側の表面で、被転写体と接触させる工程2、
(3)加熱手段により、該熱転写シートの基材シート(A)上から加熱圧着して、インク画像を形成した受像層(C)と熱転写層(B)とを被転写体上に熱転写させる工程3、及び
(4)該熱転写シートから基材シートを剥離する工程4
を含む画像形成方法。
【請求項3】
被転写体が、布類である請求項3記載の画像形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−281674(P2006−281674A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106900(P2005−106900)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】