説明

熱転写ラベルの加減圧転写工法

【課題】熱転写ラベルを被着体に転写する際に、強く加圧ができない完成品などの被着体に対して、加圧および/または減圧を利用して一定の圧力で正確に熱圧着できる加減圧転写工法を提供する。
【解決手段】熱板5の加熱端面と被着体20との間に熱転写ラベル22を介在させ、熱板の加熱端面、熱転写ラベルおよび被着体を含む空間40を密閉状態にしてから減圧化するとともに、熱転写ラベルを配置する被着体の背後の空間を密閉状態にしてから加圧化し、被着体の表面を熱板に吸着させると同時にその表面を熱板に圧着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写ラベルを被着体に転写する際に、強く加圧ができない完成品などの被着体に対して、加圧および/または減圧を利用して一定の圧力で正確に熱圧着できる加減圧転写工法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱転写ラベルを被着体に転写するには、従来、実公昭54−8711号や特開平8−244204号などに開示するように、固定ベース台の上に被着体および熱転写ラベルを重ね合わせて、その上方から150℃程度に加熱した可動熱板を押し当てる方法で行なわれている。通常の熱転写ラベルは、転写圧力が1kg/cm程度必要であり、標準的な寸法のラベル(50×100mm)の場合では、約50kg/cmの圧力で布地などの被着体に熱板を強く押し当てる。
【0003】
この熱板の押圧の際に、被着体が完成品になった服飾品または自動車のサンバイザであると、被着体である服飾品ではワッペンや発泡材などからなる芯材が存在し、サンバイザでは表皮内側の細い金属フレームや表皮の裏面に存在する生地の縫い目などにより、被着体の厚みが部分的に異なっている。このように被着体に部分的に凹凸が生じていると、熱転写ラベルの表面全域に均一な圧力が掛からず、該転写ラベルの熱圧着が不完全になることが多い。
【0004】
一方、この場合において熱転写ラベルを十分に圧着するために、より高い加熱温度で長時間高圧で熱転写すると、被着体の内部発泡材または裏面の材料を変形したり熱損傷を与えることが生じやすい。その故に、現状の熱転写作業では、服飾品の裁断パーツまたはサンバイザの表皮単独に熱転写ラベルをまず転写してから、転写済みの各パーツを組み合わせ、全体の縫製を行って完成品を生産している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭54−8711号公報
【特許文献2】特開平8−244204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
服飾品や自動車のサンバイザの生産工場において、裁断パーツおよび表皮単独にラベルを熱転写してから縫製を行って完成品を製造すると、生産工程中に加工不良が発生して中間品を廃棄すると、最初のラベル転写作業が無意味になり、熱圧着済みの転写ラベルが無駄になってしまう。また、多品種少量生産では、転写模様の有無や変更によって裁断パーツ数が激増して生産管理が煩雑になり、縫製間違いが多発するおそれがあるので、多品種少量生産への対応を考慮し、完成品を得た後の最終工程において熱転写ラベルを転写することがを望まれている。
【0007】
一方、熱転写ラベルを被着体に圧着させるための設備つまり熱転写機は、熱と圧力と時間を正確にコントロールする機能が必要であり、圧力に関しては熱転写ラベルの寸法に依存し、通常、圧力3〜2000kg/cmの出力を有している。転写ラベル用の熱転写機の出力は、寸法50×100mmの標準的な熱転写ラベルの場合であると、50kg/cm以上に達すし、この種の大出力の熱転写機では、機械フレームの強度を高めた設計を要するうえに、100kg以上の大型で高重量になって50万円以上の高価な設備になってしまう。このため、経費節減を重要視するユーザーは、標準寸法以上の転写ラベル用の熱転写機についても、その販売コストをダウンすることを強く要求している。
【0008】
熱転写ラベルの転写圧力条件つまり指定転写圧力は、一般に約1kg/cmであり、単位面積当たりの加圧力を確実に管理することが要求されるけれども、熱転写ラベルの形状および面積はさまざまであり、形状と面積を確認したうえで、熱転写機器の押し付け力を決定することを要する。エアシリンダ駆動の熱転写機器の場合には、転写される押し付け面積を計算してから、熱板の推力(=押し付け面積×指定転写圧力)を求め、次に使用しているエアシリンダの径からシリンダピストン面積を求め、この熱板の推力とシリンダピストン面積から所望のエアシリンダの空気圧(=熱板の推力/シリンダピストン面積)を求めている。これらの措置は、多品種少量の製品を扱う生産現場では実に煩雑であり、ラベル交換のたびに面積測定、計算、空気圧の調整を行っているため、計算ミスや調整忘れなどが時には発生し、製品納入後に品質問題になることがある。
【0009】
本発明は、熱転写ラベルの転写工程と手段に関する前記の問題点を改善するために提案されたものであり、服飾品などの厚みを有する完成品にも熱転写ラベルを正確に熱圧着できる加減圧転写工法を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、熱転写に際して高温・高圧を必要としないので、被着体の裏面や内部に存在する素材について、熱と力による変形および損傷を殆ど与えずに転写できる加減圧転写工法を提供することである。本発明の別の目的は、比較的小型、軽量で安価な熱転写機を用いて大判の熱転写ラベルを熱圧着できる加減圧転写工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る減圧転写工法は、熱板を有する熱転写機を用いて熱転写ラベルを被着体に熱圧着する際に、熱板の加熱端面と被着体との間に熱転写ラベルを介在させ、熱板の加熱端面、熱転写ラベルおよび被着体を含む空間を密閉状態にしてから、この空間を減圧化して被着体の表面を熱板に吸着させることにより、熱転写ラベルを被着体の表面に押し付け、該熱転写ラベルに実質的に熱と圧力を加えることで熱圧着する。
【0011】
本発明に係る加圧転写工法は、熱板を有する熱転写機を用いて熱転写ラベルを被着体に熱圧着する際に、熱板の加熱端面と被着体との間に熱転写ラベルを介在させ、熱転写ラベルを配置する被着体の背後の空間を密閉状態にしてから、この空間を加圧化して被着体の表面を熱板に圧着させることにより、熱転写ラベルを被着体の表面に押し付け、該熱転写ラベルを熱と圧力を加えることで熱圧着すればよい。
【0012】
本発明に係る加減圧転写工法は、熱板を有する熱転写機を用いて熱転写ラベルを被着体に熱圧着する際に、熱板の加熱端面と被着体との間に熱転写ラベルを介在させ、熱板の加熱端面、熱転写ラベルおよび被着体を含む空間を密閉状態にしてから減圧化するとともに、転写ラベルを配置する被着体の背後の空間を密閉状態にしてから加圧化し、被着体の表面を熱板に吸着させると同時にその表面を熱板に圧着させることにより、熱転写ラベルを被着体の表面に押し付け、該熱転写ラベルを熱と圧力を加えることで熱圧着すればよい。
【0013】
本発明に係る加減圧転写工法において、被着体の通気性を低下させるために、該被着体の裏面に樹脂コーティングまたはフィルムを貼着すると好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る加減圧転写工法は、従来のように熱転写ラベルを被着体に熱圧着するのではなく、被着体側を熱転写ラベルの方へ吸着および/または押し付けるので、服飾品または自動車のサンバイザのように、ラベルを熱転写する生地や表皮の裏面に芯地または発泡材の穴や細長い金属部品などが存在しても、ラベルに均一な圧力を付与して熱転写することができる。この加減圧転写工法を利用すると、縫い目や厚みが部分的に異なる複雑な形状の服飾品または自動車のサンバイザであっても、被着体にラベル全体を均等且つ強固に熱転写できる。
【0015】
本発明に係る加減圧転写工法は、高温の熱板を被着体に長時間押し付けるのではなく、常温の被着体を熱転写ラベルの方へ押し付けるので、該被着体内部への熱伝導が相当に小さい。したがって、この加減圧転写工法では、被着体の裏面や内部に存在する材料に、熱と力による変形および損傷を殆ど与えずに熱転写できる。
【0016】
本発明に係る加減圧転写工法は、服飾品または自動車のサンバイザなどの完成品に熱転写ラベルの転写が行なえ、生産工程の最終で熱転写ラベルを貼り付けることができるため、裁断パーツ数が転写模様の有無や変更で増えることがなく、転写模様の誤りによる縫製間違いも解消する。この加減圧転写工法により、近年の被着体の多品種少量生産に容易に対応可能となる。
【0017】
本発明に係る加減圧転写工法を利用すると、熱転写ラベルの熱圧着に際して、従来の熱転写機のようなフレームの強度を高めた設計が不要になり、熱転写機を小型、軽量で安価に製造できる。したがって、寸法50×100mmに達する熱転写ラベルの場合において、50kg/cm以上の高圧力を必要とする熱転写作業においても、小型、軽量で安価な熱転写機を用いて熱転写作業を実施できる。また、本発明の加減圧転写工法を実現する転写用機材は、単純な構成であるので従来の熱転写機に組み込むことも容易であり、例えば、ジャパンポリマーク社製の熱転写機T80、T100、S50(商品名)へ取り付けることもできる。この結果、1台の熱転写機によって、本発明の加減圧転写工法を従来の転写方法と切り替えて実施することが可能になる。
【0018】
本発明に係る加減圧転写工法を利用すると、熱転写ラベルの形状や面積が変わっても、単位面積当たりの押し付け圧力が変化しないため、指定される転写圧力が一定の熱転写ラベルについては熱転写機の圧力調整が不要になる。つまり、標高0m付近における減圧転写工法では、減圧0hpaで常にほぼ1kg/cmの転写圧力が得られることになり、また、加圧転写工法では、加圧空気圧そのものの値が転写圧力になるので、圧力管理が非常に分かりやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る減圧転写工法を実施するための熱転写機の要部を示す概略断面図である。
【図2】図1の減圧転写工法でシート状の被着体に転写する状態を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る加圧転写工法を実施するための熱転写機の要部を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る加減圧転写工法を実施するための熱転写機の要部を示す概略断面図である。
【図5】本発明に係る加減圧転写工法を実施するための別の熱転写機の要部を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る加減圧転写工法を実施するためのさらに別の熱転写機の要部を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る加減圧転写工法で用いる熱転写ラベルの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る加減圧転写工法に関して、使用可能な熱転写ラベル2(図1)は、少なくとも図柄層および熱溶着性の接着層を有していればよく、その典型的な層構成例を図7に示す。図7に例示の熱転写ラベル42は、ポリエステルなどの離型フィルム44と、該フィルム上に逆向きに印刷した図柄層46と、白色バックアップ層などの中間層48と、被着体の表面状態に応じた厚みを有する接着層50とを有する。層46,48,50は、例えば、スクリーン印刷法によって積層し、所望の文字、模様や図形に応じた独自の平面形状に定めてもよい。
【0021】
熱転写ラベル42において、耐摩耗性の透明保護層(図示しない)を離型フィルム44と図柄層46との間に積層してもよく、該保護層は耐摩擦性の優れた樹脂からなる。
【0022】
接着層50を構成する熱溶融性の接着剤は、例えば、市販の熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、クロロプレン系樹脂などの1種または混合物からなる。接着層50について、被着体11が平滑な表面であれば、熱可塑性樹脂溶液などを用いてその厚みは10〜20μmであり、被着体11が凹凸があるラフな表面であれば、凹凸の隙間に接着層の樹脂が入り込むので、その厚みは100〜200μであると好ましい。
【0023】
熱転写ラベル42は、柔軟な被着体11と同様に柔軟性を有することが望ましい。熱転写ラベル42は、熱転写の際に、被着体11の下側または上側に配置し、接着層50を被着体11と近接させる。離型フィルム44は、図柄層46などの熱転写が完了した後に直ちにまたは冷却後に剥離すればよい。
【0024】
一方、被着体11は、服飾品や自動車のサンバイザにおける布地または軟質プラスチックシートのように、加熱・加圧時の熱転写で凹凸が生じる柔軟な素材からなる。弾性変形しにくい金属、ガラス、木材、硬質プラスチックなどは、本発明工法を適用する必要性が存在しない。
【0025】
被着体11において、その表側と裏側と間に気圧差を発生させ、減圧空間16(図1)および/または高圧空間40(図4)を形成するために、該被着体の通気性が相当に低いことが必要である。被着体11は、それ自体に通気性があって表側と裏側と間に気圧差があまり発生しないならば、該被着体の裏面に任意のコーティングを施したりまたはフィルムを貼着しなければならない。被着体11に貼着したフィルムは、加減圧工法の完了後に剥離することも可能である。
【0026】
本発明は、厳密には減圧工法、加圧工法、加減圧工法の3工法に分類することができる。それぞれの工法について説明すると下記の通りである。
【0027】
(1)減圧工法(図1および図2参照)
減圧工法では、熱板5の周囲に空間16を形成し、環状枠材7をパッキンとして熱板5の外周に配置する。熱転写の際に、被着体11を環状枠材7に密着させ、熱板5の周囲の空間16を減圧する。減圧の結果、大気圧の力で被着体11を熱板5に押し付け、該被着体11と熱板5との間に位置する熱転写ラベル2および被着体11に熱と圧力を加え、該ラベルを被着体11に熱圧着する。
【0028】
減圧工法は、標高0mにおける標準の大気圧が1013hPa(0.1MPa=約1.0kg/cm)であることに意味がある。この大気圧の元で、熱板5周囲の密封空間16を減圧化すれば、被着体11は大気圧によって熱板5に押し付けられる。この際に、熱板周囲の空間16が0hPaまで減圧化されれば、約1.0kg/cmの圧力で被着体11が押し付けられることを意味する。
【0029】
減圧工法の問題点は、押し付け圧力が大気圧に左右されることである。一般に、大気圧は低気圧で最低980hPaおよび高気圧で最高1050hPaであり、減圧0hPaの条件を達成しても、0.98〜1.05kg/cmの変動があり、しかも最大に減圧しても、1.05kg/cm以上の圧力が得られない。前者の圧力変動は、この程度であれば熱転写作業の際に問題にはならない。一方、後者の最大圧力が1.05kg/cmにすぎないことは、1kg/cm以上の高圧力を必要とする熱転写作業では対応できず、大判の転写ラベルの転写作業では適当な対策を講じなければならない。
【0030】
さらに、転写作業を行なう場所の高度も考慮することを要する。大気圧は高度が上がれば低下する。標高0mでの気圧が1013hPaであるのに対し、標高1000mでは約900hPa、標高2000mで約800hPaと気圧が変化する。すなわち、軽井沢などの標高1000mの高地における転写作業では、通常の10%減の圧力になる点にも留意すべきである。
【0031】
高圧力を要する転写作業は、下記に示す加圧工法または減圧+加圧法である加減圧工法を利用すると容易に実現可能である。例えば、加圧工法において、公知のエアコンプレッサを利用すると、5kg/cm以上の圧力を達成することは容易である。また、熱転写機が存在する作業室について、室内の作業環境自体を高圧化することも可能である。
【0032】
(2)加圧工法(図3参照)
図3において、加圧用プレート32を矢印方向に下降し、被着体20の裏面側に密封空間40を形成してから、通路36から圧縮空気を送り込む。この結果、被着体20を熱板5に押し付け、該被着体と熱板5との間に位置する熱転写ラベル22および被着体20に熱と圧力を加え、該ラベルを被着体20に熱圧着する。この際に、図3の装置下方は、図1のそれと類似するけれども、空間16が存在しても密封する必要はない。
【0033】
被着体が図示のようなシート材20であると、加圧工法を用いて、高圧で熱転写ラベル22を転写することは比較的容易である。一方、加圧工法では、被着体をその裏側から熱板5の方へ押し付けるので、該被着体がサンバイザやクッション類などであれば、内部に充填した発泡材を損傷しないように、転写圧力および転写時間を正確に調整することが必要である。
【0034】
(3)加減圧工法(図4参照)
高圧転写の目的で減圧工法と加圧工法を組み合わせた工法である。加減圧工法では、装置下方において、熱板5の周囲の密封空間16を減圧するとともに、装置上方において、被着体20の裏面側の密封空間40へ圧縮空気を送り込む。この結果、被着体20を熱板5に押し付け、該被着体と熱板5との間に位置する熱転写ラベル38および被着体20に熱と圧力を加え、該ラベルを被着体20に熱圧着する。
【0035】
加減圧工法を実施できる装置は、図4の装置以外にも存在する。例えば、図5に示す熱転写機51は、曲面を有するシート状の被着体52に熱転写ラベル54を転写できる。固定基部56において、熱板58は球面状に突出し、該熱板周辺の環状溝である空間60には通路62を形成する。通路62の小径分岐路64は、熱転写ラベル54を事前に熱板58に吸着させるために形成し、他の手段でラベル54を事前に静止できるならば設けなくてもよい。一方、加圧用プレート66は、熱板上方において昇降自在に取り付け、その下面が球面状に凹んでおり、該プレートには通路68を形成する。
【0036】
転写の際には、熱転写ラベル54および被着体52を固定熱板58の上に載せ、プレート66を矢印方向に下降させると、該プレート周辺と基部56の表面とで被着体52を挟着する。この状態で、通路62から密封空間60内の大気を吸引して被着体52を熱板58に吸着させる一方、通路68から圧縮空気を空間70内へ送り込むと、湾曲状の密封空間70を高圧化して被着体52を熱板58の方に押し付ける。この際に、転写ラベル54がある程度通気性を有していれば、分岐路64によって被着体52を熱板58に直接吸着することも可能である。
【0037】
また、図6に示す熱転写機73では、加圧工法の側を下方に固定し、減圧工法の側が矢印方向に昇降自在に稼働させる。昇降プレート74の下側には可動熱板76を突設し、該熱板周辺の環状溝である空間78には通路80を形成する。通路80の小径分岐路82は、熱転写ラベル84を熱板76に吸着させるために形成すると好ましい。一方、プレート下方の固定基部86は、その上側が矩形状に凹んでおり、この凹部である空間88に通路90を形成する。
【0038】
転写の際には、昇降プレート74の熱板76に転写ラベル84を反対向きに吸着させてから、被着体92を固定基部86の上に載せ、プレート74を矢印方向に下降させると、まず該プレートの周辺部と固定基部86の周辺部とで被着体92を挟着する。この状態で、通路80から密封空間78内の大気を吸引して被着体92を熱板76に吸着させてから、通路90から圧縮空気を下方の密封空間88内へ送り込むと、該空間を高圧化して被着体92を熱板76の方に押し付ける。
【実施例1】
【0039】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。図1は、本発明に係る減圧転写工法を実施するための熱転写機1の要部を示し、該転写機には可動の熱板は存在しない。
【0040】
減圧転写用の熱転写機1は、標準的な寸法の熱転写ラベル2でも熱接着可能なように、例えば、寸法60mm×110mmの平坦な矩形端面3を有する固定熱板5を備え、該熱板は固定基部の基準面6から上方へ突出している。図示しないけれども、固定熱板5は、受け台4の上に設置し、ヒータを内蔵した中空金属製であり、約100〜250℃の所望の温度に加熱することができる。熱板5の周囲の固定基部の基準面6は平坦であり、該熱板を取り囲むように矩形環状の耐熱性枠材7を基準面6から上方へ突設している。
【0041】
環状枠材7は、硬質の耐熱ゴム製などであるので弾力性を有する。環状枠材7の先端面は、固定熱板5の端面3よりもわずかに高く、その高さの差は被着体8の形状や素材または熱転写ラベル2によって異なり、所望に応じて調整すればよい。また、熱板5の基部には、枠材7と熱板5との間の表面から通路10を形成し、該通路は公知の真空ポンプ(図示しない)と接続する。
【0042】
図1において、被着体8は自動車のサンバイザであり、該サンバイザでは表皮11の内部に発泡材などの芯材12を充填するうえに、細い金属フレーム14が内部に存在する。このサンバイザでは、その内部に介在する細い金属フレーム14により、その厚みが部分的に異なっているので、従来のように、平坦な熱板を押し付けるだけでは熱転写ラベル2の表面全域に均一な圧力が掛からず、該転写ラベルの熱圧着が不完全になる。
【0043】
熱転写ラベル2を被着体8に転写するには、固定熱板5の加熱端面3の上に転写ラベル2を裏向きに載せ、さらに被着体8のサンバイザを環状枠材7の上に載置する。このサンバイザは比較的肉厚で保形性を有し、表皮11の下表面は平坦に近いので、環状枠材7の上に載せるだけで表皮11は環状枠材7の先端面と密接する。この状態で通路10から空間16内の大気を吸引すると、サンバイザ表皮11が環状枠材7の先端面と密着し、ついで密封の空間16を減圧化してサンバイザ表皮11の表面を固定熱板5に吸着させることにより、熱転写ラベル2の接着層をサンバイザ表皮11に押し付け、該熱転写ラベルに対して、約200℃の熱と約1.0kg/cmの圧力を加えて熱転写することになる。
【0044】
熱転写機1では、熱転写ラベル2の熱圧着に際して、該ラベルの表面全域に均一な圧力が掛かり、該転写ラベルを強固に熱圧着することができる。また、被着体8であるサンバイザの内部には加圧力が作用しないので、該サンバイザ自体に熱と力による変形および損傷を与えることがない。
【実施例2】
【0045】
実施例1で用いた熱転写機1を用いて、図2に示すように、被着体として、ワッペンのような浅い突出物18を接着したシート材20に熱転写ラベル22を転写する。シート材20は、ラミネート生地のように通気性を有しないことを要する。シート材20は、突出物18の存在により、その厚みが部分的に異なっているので、平坦な熱板を押し付けるだけでは熱転写ラベル22の表面全域に均一な圧力が掛からずに熱圧着が不完全になる。
【0046】
熱転写ラベル22をシート材20に転写するには、固定熱板5の加熱端面の上に転写ラベル22を裏向きに載せ、さらにシート材20を環状枠材7の上に載置する。次に、環状枠材7と同じ平面形状の環状押さえ枠24を用い、該押さえ枠と環状枠材7とでシート材20を挟着すると、シート材20は環状枠材7の先端面と密接する。この状態で通路10から空間16内の大気を吸引すると、密封空間16を減圧化してシート材20を固定熱板5に吸着し、熱転写ラベル22の接着層をシート材20に押し付け、該熱転写ラベルをシート材20に熱圧着する。
【0047】
熱転写ラベル22の熱圧着に際して、該ラベルの表面全域に均一な圧力が掛かり、該転写ラベルを熱圧着することができる。また、シート材20には熱と圧力が殆ど作用しないので、該シート材に変形および熱損傷を与えることがない。
【実施例3】
【0048】
図4は、本発明に係る加減圧転写工法を実施するための熱転写機30を示し、該転写機は図1の熱転写機に加圧機能を付加している。加減圧転写用の熱転写機30は、図1の熱転写機1に加えて、その上方に矩形状の加圧用プレート32を昇降自在に取り付ける。プレート32の下面において、耐熱性枠材7と対応させて矩形環状の枠材34を固着し、該枠材34は金属または耐熱性プラスチックなどであればよい。プレート32には通路36を形成し、該通路は公知のエアコンプレッサ(図示しない)と接続する。また、被着体は、図2に示すシート材20と実質的に同一である。
【0049】
熱転写ラベル38をシート材20に転写するには、固定熱板5の加熱端面の上に転写ラベル38を裏向きに載せ、さらにシート材20を環状枠材7の上に載置する。次に、プレート32を矢印方向に下降させて、その枠材34と環状枠材7とでシート材20を挟着すると、シート材20は環状枠材7の先端面と密接し、さらに該シート材とプレート32の内部とにおいて密封空間40を形成する。同時に、装置下方において密封空間16が形成され、該空間は公知の真空ポンプ(図示しない)に連通する。
【0050】
この状態で、装置下方において、通路10から密封空間16内の大気を吸引すると、該空間を減圧化してシート材20を固定熱板5に吸着させる。一方、装置上方において、通路36から高圧空気を空間40内へ送り込むと、密封空間40を高圧化してシート材20を固定熱板5の方に押し付ける。この結果、熱転写ラベル38の接着層をシート材20により強く押し付けることができ、該熱転写ラベルをシート材20に熱圧着する。
【0051】
熱転写ラベル38の熱圧着に際して、該ラベルの表面全域に均一な圧力が掛かり、該転写ラベルをほぼ完全に熱圧着することができる。また、シート材20には熱と圧力が殆ど作用しないので、該シート材に変形および損傷を与えることが少ない。
【符号の説明】
【0052】
1 減圧転写用の熱転写機
2 熱転写ラベル
3 端面
5 固定熱板
6 固定基部
7 環状枠材
8 被着体
16 密封空間
24 押さえ枠
30 加減圧転写用の熱転写機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱板を有する熱転写機を用いて熱転写ラベルを被着体に熱圧着する際に、熱板の加熱端面と被着体との間に熱転写ラベルを介在させ、熱板の加熱端面、熱転写ラベルおよび被着体を含む空間を密閉状態にしてから、この空間を減圧化して被着体の表面を熱板に吸着させることにより、熱転写ラベルを被着体の表面に押し付け、該熱転写ラベルに実質的に熱と圧力を加えることで熱圧着する減圧転写工法。
【請求項2】
熱板を有する熱転写機を用いて熱転写ラベルを被着体に熱圧着する際に、熱板の加熱端面と被着体との間に熱転写ラベルを介在させ、熱転写ラベルを配置する被着体の背後の空間を密閉状態にしてから、この空間を加圧化して被着体の表面を熱板に圧着させることにより、熱転写ラベルを被着体の表面に押し付け、該熱転写ラベルを熱と圧力を加えることで熱圧着する加圧転写工法。
【請求項3】
熱板を有する熱転写機を用いて熱転写ラベルを被着体に熱圧着する際に、熱板の加熱端面と被着体との間に熱転写ラベルを介在させ、熱板の加熱端面、熱転写ラベルおよび被着体を含む空間を密閉状態にしてから減圧化するとともに、熱転写ラベルを配置する被着体の背後の空間を密閉状態にしてから加圧化し、被着体の表面を熱板に吸着させると同時にその表面を熱板に圧着させることにより、熱転写ラベルを被着体の表面に押し付け、該熱転写ラベルを熱と圧力を加えることで熱圧着する加減圧転写工法。
【請求項4】
被着体の通気性を低下させるために、該被着体の裏面に樹脂コーティングまたはフィルムを貼着する請求項1,2または3記載の工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−131124(P2012−131124A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285423(P2010−285423)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(391002513)ジャパンポリマーク株式会社 (6)
【Fターム(参考)】