説明

熱転写媒体

【課題】 感熱転写層がブロッキングするのを防止することができると共に、架橋後の記録層の架橋密度を自由に設計することが可能であり、しかも、架橋後に、耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性、透明性に優れた記録層を形成することができる熱転写媒体を提供する。
【解決手段】 少なくともグリシジル(メタ)アクリレートから誘導される繰り返し単位を含むアクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物、エポキシ樹脂、および光重合開始剤によって感熱転写層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材上に、加熱によって溶融または軟化して基材から離型すると共に、被転写体の表面に熱転写される感熱転写層を積層した熱転写媒体は、従来、いわゆる感熱記録方式のプリンタのインキリボンとして広く用いられてきた。すなわち、感熱記録方式のプリンタにおいて、熱転写媒体の感熱転写層を、紙等の被転写体の表面に当接させた状態で、プリンタのサーマルヘッドを用いて、基材側から、記録するパターンに合わせて加熱すると、加熱された領域の感熱転写層が選択的に溶融または軟化して基材から離型すると共に、被転写体の表面に熱転写されて、文字等を記録した記録層が形成される。
【0003】
しかし、熱転写媒体の用途はインキリボンには留まらず、近年では、感熱転写層が、
・ プラスチックや金属等の、種々の被転写体の表面に熱転写可能であると共に、
・ 耐水性に優れた記録層を形成できること、
・ 任意の厚みを有する記録層を形成できること、
等に着目して、例えば、各種生産品の表面等に直接に管理データ等を記録したり、商品の表面やラベル等にバーコードを印刷したり、あるいは、自動改札機対応のプラスチック製の定期券の表面に乗車区間や有効期限、所有者名等のデータを記録したりするためなどにも、熱転写媒体が利用されるようになってきた。
【0004】
また、電子デバイスの分野において、これまで、感光性樹脂を用いて、フォトリソグラフ法によって形成していたレジストパターンを形成したり、透明タッチパネルや液晶パネルを構成する2枚の基板間に介在させるドットスペーサを形成したり、液晶パネル等の標示装置のカラーフィルタを形成したりするためにも、熱転写媒体を利用することが検討されるようになってきた。
【0005】
ところが、これらの分野において、熱転写媒体を利用するためには、熱転写後の記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性を、これまでよりも向上させる必要があった。そこで、感熱転写層を、加熱によって溶融または軟化して熱転写される感熱転写性を有する上、熱転写後に、紫外線等の光照射によって架橋される光架橋性をも有する材料によって形成して、熱転写後の記録層を光照射によって架橋させることで、耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性を向上させることが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、基材上に、熱硬化性樹脂の官能基を(メタ)アクリレートで変性した光重合性化合物(エポキシアクリレート等)と、熱可塑性樹脂と、着色剤とを含むインク層(感熱転写層)を形成することが記載されている。
また、特許文献2には、基材上に、上記エポキシアクリレートと、光重合開始剤とを含む感熱転写性層を形成することが記載されている。
【0007】
特許文献3には、基材上に、エポキシアクリレート等の紫外線反応性樹脂と、光重合開始剤とを含む離型層を介して、インク層を積層することが記載されている。
さらに、特許文献4には、基材上に、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート等のモノマーと、芳香族酸アクリレートハーフエステル等のオリゴマーと、光開始剤とを含むインク層(感熱転写層)を形成することが記載されている。
【特許文献1】特開平8−80670号公報(請求項1、第0016欄、第0024欄〜第0025欄)
【特許文献2】特開平11−245517号公報(請求項1、2、第0009欄〜第0011欄、第0017〜第0022欄)
【特許文献3】特開2003−237247号公報(請求項1、2、第0010欄、第0022欄)
【特許文献4】特表2004−504964号公報(請求項7、8、第0025欄、第0039欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、発明者が検討したところによると、特許文献1〜3において感熱転写層に含まれるエポキシアクリレート等の、従来の光架橋性の化合物は、いずれも、熱硬化性樹脂を基本骨格としているため分子量が小さい上、その構造上、さらなる高分子量化が困難である。そのため、テープ状の熱転写媒体をロール状に巻き重ねた状態で保存した際に、保存中の熱履歴等によって、感熱転写層が基材の裏面に接着する、いわゆるブロッキングを生じやすいという問題がある。
【0009】
また、光架橋性の官能基として基本骨格に導入される(メタ)アクリレートの数は、当該(メタ)アクリレートが結合される、基本骨格が有する熱硬化性の官能基の数によって規定され、変化させることが困難であるため、架橋後の記録層の架橋密度と、それによる、記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性等の特性とを自由に設計できないという問題もある。
【0010】
さらに、上記の光架橋性化合物は、基本骨格となる熱硬化性樹脂の種類にもよるが、不透明であることが多いため、カラーフィルタ等の、高い透明性が求められる記録層を形成できないという問題もある。
特許文献1に記載されているように、感熱転写層に熱可塑性樹脂を含有させれば、実質的に架橋密度を調整したのと同様の効果が得られると共に、熱可塑性樹脂として高分子量のものを用いることで、ブロッキングを抑制することも可能であると考えられる。しかし、熱可塑性樹脂は架橋に関与しないため、熱可塑性樹脂の添加量を多くすればするほど、架橋による、記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性を向上する効果が低下するという新たな問題を生じる。
【0011】
また、特許文献4に記載された感熱転写層においては、良好な熱転写性を維持するために、モノマーやオリゴマーを、熱転写の終了時まで未硬化の状態で維持する必要がある(請求項7)ことから、やはり、テープ状の熱転写媒体をロール状に巻き重ねた状態で保存した際に、感熱転写層がブロッキングを生じやすいという問題がある。
本発明の目的は、感熱転写層がブロッキングするのを防止することができると共に、架橋後の記録層の架橋密度を自由に設計することが可能であり、しかも、架橋後に、耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性、透明性に優れた記録層を形成することができる熱転写媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、基材上に感熱転写層を備えた熱転写媒体であって、感熱転写層が、少なくともグリシジル(メタ)アクリレートから誘導される繰り返し単位を含むアクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物と、エポキシ樹脂と、光重合開始剤とを含むことを特徴とする熱転写媒体である。
請求項2記載の発明は、エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である請求項1記載の熱転写媒体である。
【0013】
請求項3記載の発明は、感熱転写層が、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物Aと、エポキシ樹脂Eとを、重量比A/E=95/5〜60/40の割合で含んでいる請求項1記載の熱転写媒体である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明においては、従来の、熱硬化性樹脂を基本骨格とする化合物よりも高分子量化が可能な、アクリルポリマーを基本骨格とする(メタ)アクリレート変性物を、光架橋性の化合物として用いている。そのため、基本骨格としてのアクリルポリマーの分子量を調整することによって、例えば、テープ状の熱転写媒体をロール状に巻き重ねた状態で保存した際に、感熱転写層がブロッキングするのを防止することができる。
【0015】
また、上記(メタ)アクリレート変性物においては、その基本骨格であるアクリルポリマー中に含まれる、グリシジル(メタ)アクリレートから誘導される繰り返し単位の割合を変化させることで、当該繰り返し単位のグリシジル基の部分に結合される、光架橋性の官能基としての(メタ)アクリレートの数を任意に変化させることができる。そのため、架橋後の記録層の架橋密度と、それによる、記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性等の特性とを自由に設計することもできる。しかも、(メタ)アクリレート変性物の基本骨格であるアクリルポリマーは、通常の樹脂中では最高レベルの高い透明性を有するため、記録層の透明性を向上することもできる。
【0016】
なお、メタクリレートの場合を例にとって説明すると、下記反応式に示すように、アクリルポリマー中に含まれる、グリシジル(メタ)アクリレートから誘導される側鎖(1)と、メタクリレート(2)とは、側鎖(1)の末端のグリシジル基と、メタクリレート(2)中の水酸基とが反応することで互いに結合される。そして、この結合によって合成された、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物の側鎖(3)の末端のC=C基が、光照射によって励起した光重合開始剤や、他の側鎖(3)の末端のC=C基と重合反応することで、当該(メタ)アクリレート変性物が架橋される。
【0017】
【化1】

【0018】
また、感熱転写層は、熱転写時に、感熱転写層に被転写体に対する接着力を生じさせるエポキシ樹脂を併用しているため、所定の熱転写温度に加熱することで、感度良く、被転写体の表面に熱転写させることができる。また、エポキシ樹脂は、光照射による(メタ)アクリレート変性物の架橋時に、光照射によって発生する熱によって、当該(メタ)アクリレート変性物の、上記側鎖(3)中に含まれる水酸基と反応して架橋物中に取り込まれるため、熱転写後の記録層を光照射によって架橋させることで、被転写体の表面に、より強固に接着させることもできる。そのため、特に、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等の、表面エネルギーが小さい被転写体の表面であっても、感熱転写層を、感度良く熱転写させると共に、熱転写後の記録層を架橋させることで、高い接着力でもって、強固に接着させることが可能となる。
【0019】
しかも、請求項1記載の発明においては、光照射による光重合反応によって、上記のように、(メタ)アクリレート変性物、エポキシ樹脂、および光重合開始剤の各成分が架橋反応して、三次元網目状構造を有する分子量の大きな架橋物が形成されるため、架橋後の記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性を向上することもできる。また、エポキシ樹脂の割合を変化させることで、感熱転写層の熱転写時の感度を調整したり、熱転写後の記録層の接着強度を調整したりできる上、架橋後の記録層の架橋密度と、それによる耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性等の特性とを自由に設計することもできる。
【0020】
また、請求項2に記載したように、エポキシ樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂を使用した場合には、当該ビスフェノール型エポキシ樹脂が、分子中にヒドロキシル基を含み、被転写体に対する接着力に特に優れることから、感熱転写層を、さらに感度良く、被転写体の表面に熱転写させると共に、熱転写後の記録層を架橋させることで、当該被転写体の表面に、より一層、強固に接着させることができる。
【0021】
エポキシ樹脂の割合は、請求項3に記載したように、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物Aと、エポキシ樹脂Eとの重量比A/Eで表して、95/5〜60/40の範囲内であるのが好ましい。この範囲よりエポキシ樹脂Eの割合が少ない場合には、当該エポキシ樹脂を併用したことによる、感熱転写層を、感度良く、被転写体の表面に熱転写させると共に、熱転写後の記録層を架橋させることで、当該被転写体の表面に強固に接着させる効果が十分に得られないおそれがある。また、この範囲より(メタ)アクリレート変性物Aの割合が少ない場合には、感熱転写層がブロッキングしやすくなったり、架橋後の記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性が低下したり、透明性が低下したりするおそれがある。これに対し、重量比A/Eが95/5〜60/40の範囲内であれば、感熱転写層のブロッキングを防止すると共に、架橋後の記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性、透明性を向上する効果を維持しつつ、感熱転写層を、さらに感度良く、被転写体の表面に熱転写させると共に、熱転写後の記録層を架橋させることで、当該被転写体の表面に、より一層、強固に接着させることが可能となる。また、重量比A/Eを上記の範囲内で調整することによって、感熱転写層の熱転写時の感度を調整したり、熱転写後の記録層の接着強度を調整したりできる上、架橋後の記録層の架橋密度と、それによる耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性等の特性とを自由に設計することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の熱転写媒体は、基材上に感熱転写層を備えたものであって、当該感熱転写層が、少なくともグリシジル(メタ)アクリレートから誘導される繰り返し単位を含むアクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物と、エポキシ樹脂と、光重合開始剤とを含むことを特徴としている。
このうち、(メタ)アクリレート変性物の基本骨格であるアクリルポリマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレートのみからなるもの、すなわち、グリシジルアクリレートのホモポリマー、グリシジルメタクリレートのホモポリマー、グリジジルアクリレートとグリシジルメタクリレートとのコポリマーが挙げられる他、グリシジル(メタ)アクリレートと他のモノマーとのコポリマーも使用可能である。
【0023】
グリシジル(メタ)アクリレートとコポリマーを形成することのできる他のモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ドデシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等の、アルキル基の炭素数が1〜18のアルキル(メタ)アクリレートモノマーや、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマーの1種または2種以上が挙げられる。
【0024】
アクリルポリマーが、グリシジル(メタ)アクリレートと他のモノマーとのコポリマーであるとき、当該コポリマーにおける、グリシジル(メタ)アクリレートの含有割合は、50重量%以上、特に60重量%以上であるのが好ましい。含有割合がこの範囲未満では、コポリマーの、グリシジル基の部分に結合される、光架橋性の官能基としての(メタ)アクリレートの数が少なすぎて、架橋後の記録層の架橋密度が不十分になるため、当該記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性が低下するおそれがある。
【0025】
なお、アクリルポリマーは、先に説明したように、グリシジル(メタ)アクリレートのみで形成してもよいため、その含有割合の上限は、100重量%まで限定されない。ただし、他のモノマーを共重合させることによる、架橋後の記録層の架橋密度と、それによる耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性等の特性とを自由に設計する効果を良好に発揮させるためには、グリシジル(メタ)アクリレートの含有割合は、95重量%以下であるのが好ましい。
【0026】
グリシジル(メタ)アクリレートのみの重合体として、その含有割合を100重量%とするか、または、他のモノマーを共重合させて、グリシジル(メタ)アクリレートの含有割合を、50重量%以上の範囲内で調整することによって、架橋後の記録層の架橋密度と、それによる耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性等の特性とを自由に設計することができる。
本発明において、光架橋性の化合物として用いられるアクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物は、上記アクリルポリマーの、グリシジル基の部分に、(メタ)アクリレートが結合された構造を有する。詳しくは、1つのアクリルポリマー中の複数のグリシジル基に、いずれもアクリレートが結合された化合物や、メタクリレートが結合された化合物が挙げられる他、アクリレートとメタクリレートが混合して結合された化合物が挙げられる。
【0027】
上記アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物は、そのガラス転移温度が40〜80℃、特に40〜70℃であるのが好ましい。ガラス転移温度がこの範囲未満では、感熱転写層が、その熱転写温度以下でも溶融、軟化しやすくなって、例えば保存中の熱履歴等によってブロッキングしやすくなるおそれがある。また、ガラス転移温度がこの範囲を超える場合には、感熱転写層の溶融、軟化温度が上昇するため、所定の熱転写温度に加熱しても、感度良く、被転写体の表面に熱転写させることができないおそれがある。
【0028】
なお、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物のガラス転移温度を調整するためには、
・ アクリルポリマーを構成するグリシジル(メタ)アクリレートの種類を変更する、
・ 2種のグリシジル(メタ)アクリレートを共重合させる場合はその比率を変化させる、
・ 他のモノマーを共重合させる場合はその種類を変更したり、比率を変化させたりする、
・ グリシジル基に結合させる(メタ)アクリレートの種類を変更する、
・ 2種の(メタ)アクリレートを混合して結合させる場合はその比率を変化させる、
等の方法を採用すればよい。
【0029】
アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物としては、上記各種の化合物の中から1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
エポキシ樹脂としては、熱転写時の感熱転写層に、被転写体に対する接着力を生じさせることができると共に、光照射による熱によってアクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物と反応して架橋物を形成することができる、種々のエポキシ樹脂が、いずれも使用可能であるが、特に、ビスフェノール型のエポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール型のエポキシ樹脂は、分子中にヒドロキシル基を含み、被転写体に対する接着力に特に優れることから、感熱転写層を、さらに感度良く、被転写体の表面に熱転写させると共に、熱転写後の記録層を架橋させることで、当該被転写体の表面に、より一層、強固に接着させることができる。
【0030】
また、エポキシ樹脂としては、その数平均分子量が1000〜3000、特に1000〜2000であるものを用いるのが好ましい。数平均分子量がこの範囲未満であるエポキシ樹脂を含む感熱転写層は、所定の熱転写温度以下でも接着力を生じやすくなる傾向がある。そのため、例えば、保存中の熱履歴等によって、感熱転写層がブロッキングしやすくなるおそれがある。また、感熱転写層を、サーマルヘッド等を用いて、記録するパターンに対応させて部分的に加熱して、被転写体の表面に熱転写させる際に、加熱された領域の周辺の、加熱されていない領域の感熱転写層においても接着力を生じやすくなる。そして、熱転写時に、当該領域の感熱転写層まで被転写体の表面に熱転写されてしまって、記録層によって形成されるパターンの再現性、鮮明性が低下するおそれもある。
【0031】
一方、数平均分子量が上記の範囲を超えるエポキシ樹脂を含む感熱転写層は、所定の熱転写温度に加熱しても、接着性を生じにくくなる傾向がある。そのため、所定の熱転写温度に加熱しても、感熱転写層を、感度良く、被転写体の表面に熱転写させることができないおそれがある。
また、エポキシ樹脂としては、そのエポキシ当量が、1500g/eq以下、特に600〜1000g/eqであるものを用いるのが好ましい。エポキシ当量がこの範囲を超えるエポキシ樹脂は、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物との反応性が低下して、光照射時に、強固な架橋物を形成できないおそれがある。そのため、記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性が低下するおそれがある。
【0032】
上記の条件を満足するビスフェノール型のエポキシ樹脂の具体例としては、これに限定されないが、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート(登録商標)シリーズのうち、いずれもビスフェノールA型エポキシ樹脂である、エピコート1002〔エポキシ当量:600〜700g/eq、軟化点:78℃、数平均分子量:約1060〕、エピコート1003〔エポキシ当量:670〜770g/eq、軟化点:89℃、数平均分子量:約1200〕、エピコート1055〔エポキシ当量:800〜900g/eq、軟化点:93℃、数平均分子量:約1350〕、エピコート1004〔エポキシ当量:875〜975g/eq、軟化点:97℃、数平均分子量:約1600〕、エピコート1004AF〔エポキシ当量:875〜975g/eq、軟化点:97℃、数平均分子量:約1600〕等が挙げられる。
【0033】
感熱転写層は、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物Aと、エポキシ樹脂Eとを、重量比A/E=95/5〜60/40、特にA/E=90/10〜70/30の割合で含んでいるのが好ましい。重量比A/Eがこの範囲内であれば、感熱転写層のブロッキングを防止すると共に、架橋後の記録層の耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性、透明性を向上する効果を維持しつつ、感熱転写層を、さらに感度良く、被転写体の表面に熱転写させると共に、熱転写後の記録層を架橋させることで、当該被転写体の表面に、より一層、強固に接着させることが可能となる。また、重量比A/Eを上記の範囲内で調整することによって、感熱転写層の熱転写時の感度を調整したり、熱転写後の記録層の接着強度を調整したりできる上、架橋後の記録層の架橋密度と、それによる耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性等の特性とを自由に設計することもできる。
【0034】
光重合性架橋剤としては、紫外線等の光照射によって、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物を光重合させると共に、エポキシ樹脂を取り込んで架橋物を形成しうる種々の化合物が、いずれも使用可能である。
光重合性架橋剤としては、例えば、ビアセチル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、フェナントラキノン、アゾビスイソブチルニトリル、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムスルフィド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−クロロチオキサントン、メチルベンゾイルフォーメイト等が挙げられる。
【0035】
光重合性架橋剤は、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物と、エポキシ樹脂との総量100重量部に対して、1〜10重量部の割合で、感熱転写層に含有させるのが好ましい。また、感熱転写層には、上記の各成分に加えて、さらに、当該感熱転写層を着色するための着色剤、顔料を分散させるための分散剤、増感剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、粘弾性改質剤等の種々の添加剤を、任意の割合で含有させることもできる。また、着色剤としては、カラーフィルタ等の透明性が要求される分野では、染料が好適に使用され、各種記録等の、隠蔽性が要求される分野では、顔料が好適に使用されるが、逆の組み合わせでも構わない。また、レジストパターンやドットスペーサ等の用途では、通常、着色剤を含有させる必要はないが、識別のために着色してもよい。
【0036】
本発明の熱転写媒体は、上記の各成分と、溶媒とを含む塗工液を、基材の片面に塗布し、乾燥させて、感熱転写層を形成することで製造される。基材としては、熱転写媒体の基材として従来公知の、種々の材料からなるフィルムやシート等が、いずれも使用可能である。そのような基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド等の樹脂からなるフィルムまたはシートや、コンデンサ紙等が挙げられる。
【0037】
上記基材の、感熱転写層を形成する側の表面には、ワックス類を主成分とするものなどの離型層を形成してもよい。また、本発明の熱転写媒体を、サーマルヘッドを備えた感熱記録方式のプリンタに使用する場合には、基材の、上記と反対面である、サーマルヘッドが当接される側の表面に、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ニトロセルロース樹脂、シリコーン変性ウレタン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂等からなり、必要に応じて滑剤を分散させたスティック防止層を形成してもよい。
【0038】
本発明の熱転写媒体は、従来の、感熱記録方式のプリンタに適合した、あるいは、各種生産品の表面等に直接に管理データ等を記録したり、商品の表面やラベル等にバーコードを印刷したり、自動改札機対応のプラスチック製の定期券の表面に乗車区間や有効期限、所有者名等のデータを記録したりするためのプリンタに適合した長尺帯状のテープや、レジストパターン、ドットスペーサ、カラーフィルタ等を形成するのに好適な面状の枚葉シート等の、種々の形状に形成することができる。そして、本発明の熱転写媒体によれば、感熱転写層を、サーマルヘッド、レーザー光、赤外線フラッシュ、熱ペン等を用いて加熱して、各種被転写体の表面に熱転写した後、紫外線等を光照射して架橋させることによって、耐擦過性、耐溶剤性、耐熱性に優れ、上記の各種用途に適した堅牢な記録層を形成することができる。
【実施例】
【0039】
実施例1:
アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物としての、グリシジルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマーのメタクリレート変性物(GMA/MMA−MAA、グリシジルメタクリレートの含有割合:90重量%、ガラス転移温度:46℃)17重量部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂〔ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート1003、エポキシ当量:670〜770g/eq、軟化点:89℃、数平均分子量:約1200〕3重量部と、光重合開始剤としての1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン〔チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のイルガキュア(登録商標)184〕1重量部と、顔料としてのカーボンブラック10重量部とを、69重量部のメチルエチルケトンと混合して、感熱転写層用の塗工液を調製した。
【0040】
また、基材として、厚み4.5μmのPETフィルムの片面に、シリコーン−アクリル共重合体からなるスティック防止層、反対面に、ワックス系の離型層が形成されたものを用意した。そして、この基材の、離型層が形成された面に、上記の塗工液を塗布し、乾燥させて、厚み2μmの感熱転写層を形成した後、幅100mmにスリットして、バーコード印刷用のプリンタ〔リンテック(株)製のゼブラプリンタ140Xi III Plus〕に適合したテープ状の熱転写媒体を製造した。感熱転写層における、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物Aと、エポキシ樹脂Eとの重量比A/Eは85/15であった。
【0041】
実施例2:
アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物として、GMA/MMA−MAAに代えて、グリシジルメタクリレートホモポリマーのメタクリレート変性物(GMA-MAA、ガラス転移温度:41℃)を同量、使用したこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の熱転写媒体を製造した。
【0042】
実施例3〜7:
エポキシ樹脂として、エピコート1003に代えて、いずれもジャパンエポキシレジン(株)製の、下記の各ビスフェノールA型エポキシ樹脂を同量、使用したこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の熱転写媒体を製造した。
実施例3:エピコート1001〔エポキシ当量:450〜500g/eq、軟化点:64℃、数平均分子量:約900〕
実施例4:エピコート1002〔エポキシ当量:600〜700g/eq、軟化点:78℃、数平均分子量:約1060〕
実施例5:エピコート1004〔エポキシ当量:875〜975g/eq、軟化点:97℃、数平均分子量:約1600〕
実施例6:エピコート1007〔エポキシ当量:1750〜2200g/eq、軟化点:128℃、数平均分子量:約2900〕
実施例7:エピコート1009〔エポキシ当量:2400〜3300g/eq、軟化点:なし、数平均分子量:約3750〕
実施例8:
エポキシ樹脂として、エピコート1003に代えて、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔バンティコ社製のアラルダイト(登録商標)ECN−1280〕を同量、使用したこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の熱転写媒体を製造した。
【0043】
実施例9〜12、比較例2:
GMA/MMA−MAAとエピコート1003の使用量、および両者の重量比A/Eを、それぞれ、表1に示す値としたこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の熱転写媒体を製造した。
【0044】
【表1】

【0045】
比較例1:
GMA/MMA−MAAに代えて、エポキシアクリレートとしての、グレゾールノボラックポリグリシジルエーテルのメタクリレート化物(CNEPX−MAA、ガラス転移温度:40℃)を同量、使用したこと以外は実施例1と同様にして、テープ状の熱転写媒体を製造した。
【0046】
(感度試験)
実施例1〜12、比較例1、2で製造したテープ状の熱転写媒体を、バーコード印刷用のプリンタ〔前出のリンテック(株)製のゼブラプリンタ140Xi III Plus〕の専用リールに巻き重ねた状態で、上記プリンタに装填して、被転写体としてのポリイミドシートの表面、またはポリエチレンテレフタレートシートの表面に、ライン幅150μm、ライン間隔150μmのストライプパターン状に熱転写した後、転写状態を、下記の基準で評価して、感度の良否を比較した。なお、熱転写の条件は印字速度PS:3インチ/秒、印字エネルギーPE:26(ツマミ値)とした。
【0047】
○:鮮明に転写することができた。感度きわめて良好。
△:若干、鮮明性が低いが、実用可能なレベルであった。感度良好。
×:ドット抜けや、本来、転写されてはいけない部分が転写される余剥離が生じ、不鮮明であった。感度不良。
(ブロッキング試験)
実施例1〜12、比較例1、2で製造したテープ状の熱転写媒体を、上記と同じ専用リールに巻き重ねた状態で、温度50℃、相対湿度80%の環境下で96時間、保存し、次いで室温(23±1℃)で24時間、冷却した後、巻きほどいてブロッキングの有無を確認し、下記の基準で評価した。
【0048】
○:ブロッキングなし。
△:リールの巻き芯の付近で、巻きほどく際に、若干の抵抗(タック感)があったが、実用上は問題がなかった。
×:ブロッキングあり。
(耐擦過性試験)
実施例1〜12、比較例1、2で製造したテープ状の熱転写媒体を、上記と同じ専用リールに巻き重ねた状態で、転写性試験と同条件で、被転写体としてのポリイミドシートの表面、またはポリエチレンテレフタレートシートの表面に、ライン幅150μm、ライン間隔150μmのストライプパターン状に熱転写した。次いで、熱転写したストライプパターンに対して、紫外線照射装置〔フュージョン・ユーブイ・システムズ・ジャパン(株)製のLH−6〕を使用して、積算光量が1500mJ/cmとなるように紫外線を照射して架橋させた後、摩擦子として不織布〔旭化成(株)製のベムコットM−1〕を装着したクロックメータ型の摩擦試験機を用いて、圧力450g/cmの条件で、架橋させたストライプパターンを100回、ラビングして、下記の基準で耐擦過性を評価した。
【0049】
○:ストライプパターンには、全く変化が見られなかった。耐擦過性きわめて良好。
△:ストライプパターンがごくわずかに取れた部分があったが、実用可能なレベルであった。耐擦過性良好。
×:ストライプパターンが取れてなくなってしまった。耐擦過性不良。
(耐溶剤性試験)
実施例1〜12、比較例1、2で製造したテープ状の熱転写媒体を、上記と同じ専用リールに巻き重ねた状態で、転写性試験と同条件で、被転写体としてのポリイミドシートの表面、またはポリエチレンテレフタレートシートの表面に、ライン幅150μm、ライン間隔150μmのストライプパターン状に熱転写した。次いで、熱転写したストライプパターンに対して、紫外線照射装置〔フュージョン・ユーブイ・システムズ・ジャパン(株)製のLH−6〕を使用して、積算光量が1500mJ/cmとなるように紫外線を照射して架橋させた後、摩擦子として、アセトンまたはジメチルスルホキシドを含浸させた不織布〔旭化成(株)製のベムコットM−1〕を装着したクロックメータ型の摩擦試験機を用いて、圧力450g/cmの条件で、架橋させたストライプパターンを100回、ラビングして、下記の基準で耐溶剤性を評価した。
【0050】
○:ストライプパターンには、全く変化が見られなかった。耐溶剤性きわめて良好。
△:ストライプパターンがごくわずかに取れた部分があったが、実用可能なレベルであった。耐溶剤性良好。
×:ストライプパターンが取れてなくなってしまった。耐溶剤性不良。
以上の結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表より、光重合性化合物としてエポキシアクリレートを用いた比較例1の熱転写媒体は、感度こそ良好であったものの、ブロッキングが発生すると共に、耐擦過性、耐溶剤性共に不良となることがわかった。
また、光重合性化合物としてアクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物を使用しているものの、エポキシ樹脂を併用しなかった比較例2の熱転写媒体は、感度が不良である上、耐擦過性、耐溶剤性共に不良となることがわかった。
【0053】
これに対し、実施例1〜12の熱転写媒体は、いずれも、各評価が○〜△であって、良好な特性を有することがわかった。また、実施例1、2を比較すると、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物としては、アクリルポリマーがグリシジル(メタ)アクリレートのホモポリマーでも、他のモノマーとのコポリマーでも、共に良好な特性を有することがわかった。
【0054】
また、実施例1、3〜7を比較すると、実施例3、7に比べて、実施例1、4、5、6の結果が良好であったことから、エポキシ樹脂としては、数平均分子量が1000〜3000の範囲内にあるものを用いるのが好ましいことがわかった。また、上記の中でも、実施例1、4、5の結果が特に良好であったことから、エポキシ樹脂としては、エポキシ当量が1500g/eq以下であるものを用いるのがさらに好ましいことも判った。
【0055】
また、実施例1、8を比較すると、実施例8に比べて、実施例1の結果が良好であったことから、エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型のものを用いるのが好ましいことがわかった。さらに、実施例1、9〜12を比較すると、実施例9、12に比べて、その他の実施例の結果が良好であったことから、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物Aと、エポキシ樹脂Eとの重量比A/Eは、95/5〜60/40の範囲内でも、特に90/10〜70/30の範囲内であるのが好ましいことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に感熱転写層を備えた熱転写媒体であって、感熱転写層が、少なくともグリシジル(メタ)アクリレートから誘導される繰り返し単位を含むアクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物と、エポキシ樹脂と、光重合開始剤とを含むことを特徴とする熱転写媒体。
【請求項2】
エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂である請求項1記載の熱転写媒体。
【請求項3】
感熱転写層が、アクリルポリマーの(メタ)アクリレート変性物Aと、エポキシ樹脂Eとを、重量比A/E=95/5〜60/40の割合で含んでいる請求項1記載の熱転写媒体。