説明

熱間静水圧加圧成形用のカプセルおよび熱間静水圧加圧成形方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、金属粉末を熱間で静水圧加圧(以下「HIP」と略記する)して、焼結した成形体を得る技術の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】HIP法は、金属粉末の焼結体の製造をはじめとする種々の目的で実施されているが、その最大の用途は、高速度工具鋼の粉末焼結体の製造にある。
【0003】高速度工具鋼の粉末としては、充填密度の高く得られるガス噴霧粉末を使用する。 その工程は、多くの場合、軟鋼で製作した円筒形のカプセルに粉末を充填して真空脱気し、密封したものをHIP炉に入れ、Arガスで焼結の進む温度に数時間加熱することからなる。 粉末のカプセルへの充填はできるだけ高密度になるように行なうが、それでも充填密度は70%台であって、HIP処理により理論密度の100%に近い値になるため、カプセルは収縮して変形する。
【0004】このカプセルの変形は止むを得ないものであるが、変形の態様は、HIP後の焼結体の処理に好都合なものとしたい。 たとえば円柱状の焼結体を得る場合、あらかじめ充填密度の変化を考慮して定めた金属粉末の収容量にもとづき設計したカプセルが、相似形を保って収縮することが望ましい。 相似形でないにしても、焼結体のほぼ全長にわたって径が一定であり、上下の端面は平面に近いものが好ましい。
【0005】一方、HIPにより直接製品形状に近い(near net shape)焼結体を得ることも、盛んに試みられている。 この場合には焼結体の形状のコントロールがいっそう望まれること、いうまでもない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記の要望にこたえ、HIPによる焼結体がその実質的部分においてカプセルと相似形を保っているか、または相似形でないにしても以後の加工に好都合な形状で得られるようなカプセルを提供すること、またそのカプセルを使用して実施するHIP成形法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明のHIP成形用のカプセルは、HIP用の金属製のカプセルにおいて、図1R>1に代表的な例を示すように、円柱状の外形を有し、上下の蓋(上蓋が2A)にその外周と同心の円形の溝(4)を設けるとともに、胴(3)の上下端近くに胴を一周する溝(5A,5B)を設けて、それらの部分を薄肉としたことを特徴とするカプセルである。
【0008】
【0009】本発明の金属粉末のHIP成形方法は、上記した特徴を有する金属製のカプセルに金属粉末を充填し、真空脱気したのち密封し、加熱下に不活性ガスで加圧することからなる。
【0010】
【作用】図1に示すようなカプセルは、従来は一部断面を図2に示すような構造、すなわち円筒形の胴(3)に上蓋(2A)および下蓋(図示してない)を溶接により固定したものである。 これをHIP処理すると、図2の金属粉末(6)が図3の焼結体(7)になり、カプセルは図3にみるように変形する。 円筒の稜部は構造上強固であるためほとんど変形しないのに対し、上下の蓋の面は凹み、胴部の端近くが図3にみるような異常な変形をする。
【0011】本発明に従って、図4に示したようにカプセルに溝を設けてその部分を薄肉にしておくと、HIP処理に伴う変形が薄肉部分において集中的に起るため、図5に示したように、上蓋(2A)は溝より内側の部分がほぼ平面の形状を保って凹み(下蓋も同様)、胴(3)は上の溝(5A)と下の溝(図示してない)との間がほぼ同じ径を保って収縮する。
【0012】溝の深さおよび幅は上記した機構にもとづいて決定すべきことは、以上の説明から理解されるであろう。 しかし、実施の便宜のため一般的な指針を示せば、溝の深さはカプセル材の肉厚の少なくとも1/3、代表的には1/2、場合によっては2/3までの範囲から選択すればよい。 上記の作用はカプセル材の肉厚の差が大きいほど明確であるが、カプセルに金属粉末を充填したものがHIP処理までの取扱いに耐えるか否か、カプセルの機械的強度に関して制約があるので、それを考慮に入れなければならない。
【0013】溝の幅は、深さと同等ないし5倍程度、通常は2〜3倍の範囲からえらぶ。幅が広く薄肉の領域が広い方が大きな変形に対処できるが、実際にカプセルに要求される変形の量はそれほど大きくはないことと、薄肉部分が広すぎるとそこでわん曲した変形を生じて、かえって目的に合致しないこともある。
【0014】なお、図示した例では溝が外側にあるが、内側にあってもよいし、両側から設けてもよいことはもちろんであって、要は、ある幅をもった薄肉の領域を与えることにある。 しかし、カプセルの製作およびHIP処理後の加工の両方の便宜から、外側に設ける方が有利である。
【0015】
【実施例】外径が300mm、長さ1800mmで肉厚が10mmの軟鋼の円筒に、肉厚がやはり10mmの鋼板を円形に切り出した蓋を組み合わせて、カプセルを形成した。このカプセルは、上下の蓋に円筒の外周から25mm内側に入ったところを中心に幅10mm、深さ5mmの円形の溝を設け、胴にも、上下の端から同じ25mm入った線を中心に幅10mm、深さ5mmの、胴を一周する溝2本を設けた。
【0016】このカプセルにSKH51相当の合金組成をもつ鋼の窒素ガス噴露粉(粒60メッシュ通過)を充填(平均充填密度71%)し、脱気して密閉し、HIP装置に入れた。 温度1100℃、Arガス圧力1000kg/cm2の条件で3時間、HIP処理を行なった。
【0017】図5に示すようなカプセルの変形を伴う焼結が行なわれた。 焼結体の収縮率は長手方向に約9%、径方向に約13%であって、ほぼ変形前のカプセル内寸に相似の形状をもつ焼結体が得られた。
【0018】
【発明の効果】本発明のカプセルを使用して金属粉末のHIP成形を行なえば、HIPに伴う収縮でカプセルが異常に変形することがなく、もとの形状にほぼ相似形か、相似でないまでも、好ましい形状に収縮した金属粉末焼結体が得られる。
【0019】従って、HIP成形以後のカプセル除去・焼結体取り出しの旋削作業が容易であり、焼結体のうち製品として使用できる部分の歩留りが高い。
【0020】図示した例は円柱状の焼結体を得るという最も基本的な態様であるが、円筒状の焼結体、さらにはコア材を挿入してある焼結体も同様に得られることは当業者には自明であろうし、ニア・ネット・シェイプ成形に本発明を適用して有効なことも、上記の説明からわかるであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のHIP成形用カプセルの一例を示す斜視図。
【図2】 従来のカプセルの一部を示す断面図。
【図3】 図2のカプセルを用いてHIP処理を行なったときの、収縮に伴うカプセル変形の状況を示す断面図。
【図4】 本発明のカプセルの一部を示す、図2に対応する断面図。
【図5】 図4のカプセルを用いてHIP処理を行なったときの、収縮に伴うカプセル変形の状況を示す、図3に対応する断面図。
【符号の説明】
1 カプセル
2A 上蓋
3 胴
4 上蓋の溝
5A,5B 胴の溝
6 金属粉末
7 焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱間静水圧加圧成形用の金属製のカプセルにおいて、円柱状の外形を有し、上下の蓋にその外周と同心の円形の溝を設けるとともに、胴の上下端近くに胴を一周する溝を設けて、それらの部分を肉薄としたことを特徴とするカプセル。
【請求項2】 請求項1に記載の金属製のカプセルに金属粉末を充填し、加熱下に不活性ガスで加圧することからなる金属粉末の熱間静水圧加圧成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3252446号(P3252446)
【登録日】平成13年11月22日(2001.11.22)
【発行日】平成14年2月4日(2002.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−168013
【出願日】平成4年6月25日(1992.6.25)
【公開番号】特開平6−10007
【公開日】平成6年1月18日(1994.1.18)
【審査請求日】平成11年3月25日(1999.3.25)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【参考文献】
【文献】特開 昭64−17808(JP,A)