説明

熱陰極蛍光ランプ

【課題】導電性マイエナイト化合物を電極とする熱陰極蛍光ランプにおいて、輝点の寿命が有意に改善された熱陰極蛍光ランプを提供することを目的とする。
【解決手段】蛍光体が設置されたバルブと、該バルブの放電空間に充填された希ガスおよび水銀と、前記バルブの放電空間に配置された一組の電極とを有する熱陰極蛍光ランプであって、前記電極は、導電性マイエナイト化合物を有し、前記希ガスは、前記放電空間に、5.3kPa以上の圧力で充填されていることを特徴とする熱陰極蛍光ランプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱陰極蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光ランプは、家庭用照明、表示装置のバックライト、および各種生産工程での光照射など、様々な用途に用いられている。
【0003】
蛍光ランプには、大きく分けて、熱陰極蛍光ランプと、冷陰極蛍光ランプの2種類のものがある。熱陰極蛍光ランプとは、陰極に高温の輝点が生じ、主に輝点における熱電子放出によって放電を維持する蛍光ランプの総称である。電極には一般に、タングステンなどの高融点金属製フィラメントにアルカリ土類酸化物を主成分としたエミッタを塗布した電極が用いられている。一方、冷陰極蛍光ランプとは、陰極に輝点がなく、主に二次電子放出で放電を維持する蛍光ランプの総称である。電極には一般に、ニッケル、モリブデン、およびタングステンなどの融点の高い金属が用いられている。
【0004】
また、一般に、熱陰極蛍光ランプは、ランプ内に含まれる希ガスの圧力が2Torr〜16Torrの範囲のような、比較的低い圧力下で使用される(例えば、特許文献1)。これは、ガス圧は低いほどランプの発光効率が高くなる傾向があるが、一方でエミッタが消耗しやすく電極の寿命が短くなる傾向があるためである。
【0005】
なお、最近、このような熱陰極蛍光ランプ用の電極材料として、導電性マイエナイト化合物を使用することが提案されている(例えば、特許文献2)。導電性マイエナイト化合物は、仕事関数が2.4eVと比較的低く、さらに導電性を有すると言う特徴を有する。このため、導電性マイエナイト化合物を熱陰極蛍光ランプの電極材料に適用した場合、従来のフィラメントにエミッタを塗布した電極に比べて、電極の寿命が向上することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−232069号公報
【特許文献2】国際公開第WO2011/024821号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願発明者らの実験によれば、導電性マイエナイト化合物を電極として使用した熱陰極蛍光ランプにおいて、しばしば、熱陰極の輝点の寿命が短くなる場合があることが見出されている。
【0008】
熱陰極の輝点は、放電を生じさせるための熱電子放出の起点となるため、陰極内に輝点が存在しなくなると、以降は、放電を維持するために、電極間に大きな放電電圧を印加することが必要となる。この場合、蛍光ランプのエネルギーロスが大きくなってしまう。また、そのような大きな放電電圧を印加した場合、蛍光ランプそのものの寿命が短くなってしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、導電性マイエナイト化合物を電極とする熱陰極蛍光ランプにおいて、輝点の寿命が有意に改善された熱陰極蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、
蛍光体が設置されたバルブと、該バルブの放電空間に充填された希ガスおよび水銀と、前記バルブの放電空間に配置された一組の電極とを有する熱陰極蛍光ランプであって、
前記電極は、導電性マイエナイト化合物を有し、
前記希ガスは、前記放電空間に、5.3kPa以上の圧力で充填されていることを特徴とする熱陰極蛍光ランプが提供される。
【0011】
ここで、本発明による熱陰極蛍光ランプにおいて、前記圧力は、13.3kPa以下であっても良い。
【0012】
また、本発明による熱陰極蛍光ランプにおいて、前記電極は、金属製のカップと、該カップに挿入された塊状、または柱状の導電性マイエナイト化合物とを有しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、導電性マイエナイト化合物を電極とする熱陰極蛍光ランプにおいて、輝点の寿命が有意に改善された熱陰極蛍光ランプを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による熱陰極蛍光ランプの概略的な一例を示した断面図である。
【図2】電極の導電性支持体の別の構造を概略的に示した断面図である。
【図3】電極の導電性支持体のさらに別の構造を概略的に示した断面図である。
【図4】実施例1に係る蛍光ランプにおけるランプ電圧の経時変化を示したグラフである。
【図5】希ガスの充填圧力と電極温度の関係を示したグラフである。
【図6】実施例2に係る蛍光ランプにおけるランプ電圧の経時変化を示したグラフである。
【図7】比較例1に係るランプにおけるランプ電圧およびランプ電流の経時変化を示したグラフである。
【図8】比較例2に係るランプにおけるランプ電圧の経時変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明による熱陰極蛍光ランプについて説明する。
【0016】
図1には、本発明による熱陰極蛍光ランプの概略的な一例を示す。
【0017】
図1に示すように、本発明による熱陰極蛍光ランプ100は、放電空間120を有するガラス等で構成された管状のバルブ130と、一組の電極140と、封止部151とを有する。
【0018】
放電空間120内には、希ガスおよび水銀が充填される。希ガスの種類は、特に限られず、希ガスは、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、およびこれらの少なくとも2つを含む混合ガスであっても良い。
【0019】
バルブ130の内表面には、保護膜160および蛍光体170が設置されている。保護膜160は、バルブ130に含まれるナトリウムの溶出を防ぎ、主として水銀とナトリウムの化合物が生成することを抑制することにより、蛍光ランプ内壁が黒化することを防ぐ役割を有する。ただし、保護膜160の設置は、任意である。
【0020】
封止部151は、熱陰極蛍光ランプ100の両端に、バルブ130の放電空間を密閉するように設けられている。なお、図1の例では、封止部151は、バルブ130と一体化された単一の部材となっている。しかしながら、封止部151は、バルブ130とは異なる部材で構成されても良い。
【0021】
電極140は、本体部141と、該本体部141を支持するための導電性支持体149とを有する。図1の例では、導電性支持体149は、収容口152を備えたカップ状の形状となっており、この収容口152内に本体部141を装着することにより、導電性支持体149で本体部141を支持することができる。ただし、この導電性支持体149の構成は、一例であって、導電性支持体149は、他の方法により、本体部141を支持しても良い。
【0022】
本体部141は、例えば、柱状または塊状の形態を有する。
【0023】
なお、電極140の本体部141は、導電性マイエナイト化合物で構成される。導電性マイエナイト化合物は、2.4eVと比較的仕事関数が低く、かつ導電性がある。このため、本体部141を導電性マイエナイト化合物で構成することにより、蛍光ランプ100の始動時に、小さな印加電圧でも、放電を開始させることができる。また、効率的に電子を放出することができる。
【0024】
導電性支持体149の一部には、導電性のリード155の一端が接続される。リード155は、電極140に電圧を印加する際の端子として使用される。図1の例では、リード155の一端は、導電性支持体149の中央部に設けられた開口159内に挿入されている。ただし、これは一例であって、導電性支持体149とリード155の接続方法は、特に限られない。また、導電性支持体149とリード155とは、一体化物として構成されても良い。なお、リード155の他端は、封止部151を貫通して、熱陰極蛍光ランプ100の外部に導出される。
【0025】
なお、以上の電極140の構成は、単なる一例に過ぎず、電極140は、その他の構成を有しても良い。例えば、電極140は、導電性支持体149を有さず、電極本体部142が、直接、リード155と電気的に接続されても良い。あるいは、電極140は、その他の構成であっても良い。
【0026】
このように構成された熱陰極蛍光ランプ100は、以下のようにして作動される。
【0027】
まず、リード155を介し電極140に電圧が印加され、放電が開始する。瞬時に、陰極側の電極140の本体部141に輝点が形成され、電圧が印加されている間、放電が維持される。
【0028】
ここで、陰極から放出された電子の一部は、バルブ130の放電空間120内に封入されている水銀原子と衝突する。これにより、水銀原子が励起され、励起された水銀が基底状態に戻る際に紫外線が放出される。
【0029】
放出された紫外線は、バルブ130の蛍光体170に照射され、これにより蛍光体170から可視光線が発生する。
【0030】
以上の一連の過程により、熱陰極蛍光ランプ100から可視光線を放射させることができる。
【0031】
ところで、本願発明者らは、これまで、導電性マイエナイト化合物を電極本体部とする、様々なタイプの熱陰極蛍光ランプの試作およびその性能評価を行ってきた。その結果、特定の熱陰極蛍光ランプにおいて、電極本体部の輝点の寿命が短くなる場合があることを見出した。
【0032】
前述のように、電極本体部の輝点は、熱陰極蛍光ランプにおいて放電を発生、維持させるための起点となる。従って、電極本体部内に輝点が存在しなくなると、以降は、放電を維持するために、電極間に大きな放電電圧を印加することが必要となる。この場合、熱陰極蛍光ランプのエネルギーロスが大きくなってしまう。また、そのような大きな放電電圧を印加した場合、熱陰極蛍光ランプそのものの寿命が短くなってしまうという問題が生じる。
【0033】
本願発明者らは、これまでに、このような問題に対する対策について、鋭意研究を行ってきた。その結果、驚くべきことに、熱陰極蛍光ランプの放電空間内に充填される希ガスの圧力を所定の値以上とすることにより、電極本体部の輝点の寿命が有意に改善されることを見出し、本願発明に至った。すなわち、本発明では、希ガスは、5.3kPa以上の圧力で、放電空間内に充填される。
【0034】
これまで、熱陰極蛍光ランプにおける希ガスの圧力は、極力低くするように設計される傾向にあり、このような5.3kPa以上という圧力の設定値は、従来の知見を大きく逸脱するものである。
【0035】
なお、希ガスがこのような「高い」充填圧力で放電空間内に充填された熱陰極蛍光ランプにおいて、電極本体部の輝点の寿命が向上する理由は、いまのところ十分に解明されてはいない。しかしながら、以降に詳しく示すように、希ガスの圧力が高くなると、電極本体部の温度が低下する傾向にあることから、希ガスの圧力増加によって、導電性マイエナイト化合物の平均温度が低下し、これにより電極本体部の安定性が向上したことが理由として考えられる。
【0036】
なお、希ガスの圧力は、最大13.3kPa以下であることが好ましい。希ガスの圧力が過剰に高くなると、熱陰極蛍光ランプの効率が低下するからである。この原因としては、電子温度の低下や陽光柱の収縮が考えられる。特に、希ガスの圧力は、5.3kPa〜8.0kPaの範囲であることがより好ましい。
【0037】
このように、本発明の熱陰極蛍光ランプ100は、放電空間120内の希ガスが高い圧力を有し、電極本体部141の輝点の寿命が有意に長いと言う特徴を有する。
【0038】
(本発明の蛍光ランプの各部材の詳細について)
次に、本発明による熱陰極蛍光ランプ100の電極140および蛍光体170について、詳しく説明する。なお、バルブ130、封止部151、および保護膜160等の部材に関しては、その仕様は、当業者には十分に明らかであるので、記載を省略する。
【0039】
(電極140)
前述のように、本発明による電極140は、本体部141、導電性支持体149、およびリード155を有しても良い。
【0040】
(本体部141)
前述のように、本発明による電極140の本体部141は、導電性マイエナイト化合物で構成される。
【0041】
ここで、「マイエナイト化合物」とは、ケージ(籠)構造を有する12CaO・7Al(以下「C12A7」ともいう。)およびC12A7と同等の結晶構造を有する化合物(同型化合物)の総称である。
【0042】
一般に、マイエナイト化合物は、ケージの中に酸素イオンを包接しており、この酸素イオンは、特に「フリー酸素イオン」と称される。
【0043】
また、この「フリー酸素イオン」は、還元処理等により、その一部もしくは全てを電子で置換することができ、特に、電子密度が1.0×1015cm−3以上のものが「導電性マイエナイト化合物」と呼ばれる。「導電性マイエナイト化合物」は、その名が示すように導電性を有するため、本発明のような電極材料として使用することができる。
【0044】
本発明では、「導電性マイエナイト化合物」の電子密度は、1.0×1018cm−3以上であることが好ましく、1.0×1019cm−3以上であることがより好ましく、1.0×1020cm−3以上であることがさらに好ましい。導電性マイエナイト化合物の電子密度が1.0×1018cm−3よりも低い場合、電極に使用した際の電極の抵抗が大きくなる。
【0045】
導電性マイエナイトの電子密度と導電率の関係は、以下のようになる。本発明における導電性マイエナイト型化合物の電気伝導率は、電子密度が1×1018/cmのときに0.1S/cmであるため、0.1S/cm以上であることが好ましく、1.0S/cm以上であることがさらに好ましい。電気伝導率の最大値としては、単結晶では1500S/cm程度が可能である。
【0046】
なお、本願において、導電性マイエナイトの電子密度とは、電子スピン共鳴装置での測定により算出された、または吸収係数の測定により算出された、スピン密度の測定値を意味する。一般には、スピン密度の測定値が1019cm−3よりも小さい場合は、電子スピン共鳴装置(ESR装置)を用いて測定することが好ましく、1018cm−3を超える場合は、以下のようにして、電子密度を算定することが好ましい。まず分光光度計を用いて、導電性マイエナイトのケージ中の電子による光吸収の強度を測定し、2.8eVでの吸収係数を求める。次に、この得られた吸収係数が電子密度に比例することを利用して、導電性マイエナイトの電子密度を定量する。また、導電性マイエナイトが粉末等であり、光度計によって透過スペクトルを測定することが難しい場合は、積分球を使用して光拡散スペクトルを測定し、クベルカムンク法によって得られた値から、導電性マイエナイトの電子密度が算定される。
【0047】
なお、本発明において導電性マイエナイト化合物は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)からなるC12A7結晶構造を有している限り、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)および酸素(O)の中から選ばれた少なくとも1種の原子の一部または全部が、他の原子や原子団に置換されていても良い。例えば、カルシウム(Ca)の一部は、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および/または銅(Cu)などの原子で置換されていても良い。また、アルミニウム(Al)の一部は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ヨーロピウム(Eu)、イットリビウム(Yb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)および/またはテリビウム(Tb)などで置換されても良い。また、ケージの骨格の酸素は、窒素(N)などで置換されていても良い。
【0048】
また、導電性マイエナイト化合物は、12CaO・7Al化合物、12SrO・7Al化合物、これらの混晶化合物、またはこれらの同型化合物であることが好ましい。
【0049】
本発明では、これらに限定されるものではないが、導電性マイエナイト化合物として、例えば下記の(1)〜(4)に示す化合物が考慮される。
【0050】
(1)C12A7化合物の骨格を構成するカルシウム(Ca)の一部が、マグネシウム(Mg)またはストロンチウム(Sr)に置換された、カルシウムマグネシウムアルミネート(Ca1−yMg12Al1433、またはカルシウムストロンチウムアルミネート(Ca1−zSr12Al1433。なお、yおよびzは0.1以下であることが好ましい。
【0051】
(2)シリコン置換型マイエナイトであるCa12Al10Si35
【0052】
(3)ケージ中のフリー酸素イオンがH、H、H2−、O、O、OH、F、Cl、Br、S2−またはAuなどの陰イオンによって置換された、例えば、Ca12Al1432:2OHまたはCa12Al1432:2F
【0053】
(4)陽イオンと陰イオンがともに置換された、例えばワダライトCa12Al10Si32:6Cl
【0054】
なお、本発明において、電極140の本体部141は、導電性マイエナイト化合物単独で構成されても良いが、さらに別の添加物質を含んでも良い。別の添加物質は、例えば、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)または酸化カルシウム(CaO)等であっても良い。電極本体部141が導電性マイエナイト化合物とこのような酸化物を同時に含む場合、低温域(〜800℃程度)から高温域(〜1300℃程度)までの広い温度範囲にわたって、優れた熱電子放出特性が得られる。
【0055】
別の添加物質は、本体部141の全重量に対して、例えば1wt%〜50wt%の範囲で添加される。
【0056】
本発明において、導電性マイエナイト化合物の導電率は、還元性雰囲気での熱処理により、比較的容易に調整することができる。従って、本体部141の抵抗値も、比較的容易に制御することができる。また、抵抗値は、焼結体の緻密さによっても制御することが可能である。
【0057】
また、本体部141は、柱状または塊状の形態を有する。柱状とは、四角柱、六角柱、または円柱(ロッド状)など、上面と下面の断面積が同じ立体や、四角錐台、円錐台など上面と下面の断面積が異なる立体形状を意味する。また、塊状とは、円錐、角錐、円筒、角筒、球状、またはらせん状など、一般的な立体形状を単体で、あるいは組み合わせて得られる形状を意味する。
【0058】
(導電性支持体149)
導電性支持体149の材料には、通常、コバールなどの鉄基合金、ニッケル、モリブデンまたはタングステンが使用される。なお、導電性支持体149は、いかなる形状であっても良い。
【0059】
図2および図3には、図1に示した導電性支持体149とは異なる、導電性支持体の別の構成例を示す。
【0060】
図2の場合、導電性支持体149Aは、第1の端部181Aと、第2の端部182Aとを有する。第1の端部181Aは、中央部に本体部141を収容するための円筒状または角筒状の収容口152Aを有する。ここで、図2の例では、第1の端部181Aの長さは、本体部141よりも短く描かれているが、第1の端部181Aの長さは、本体部141より長くなっていても良い。すなわち、本体部141を第1の端部181Aが内包するような構造であっても良い。また、第2の端部182Aは、ロッド状になっており、本体部141とは反対の側に延伸している。第2の端部182Aは、さらに前述のリード155と接続されても良い。あるいは、第2の端部182Aは、前述のリード155と一体構成されても良い。
【0061】
図3には、導電性支持体のさらに別の構造を示す。この場合、導電性支持体149Bは、ロッド状の第1の端部181Bと、ロッド状の第2の端部182Bとを有する。第1の端部181Bは、本体部141内に挿入されている。また、第2の端部182Bは、本体部141とは反対の側に延伸している。第2の端部182Bは、さらに前述のリード155と接続されても良い。あるいは、第2の端部182Bは、前述のリード155と一体構成されても良い。
(リード155)
リード155の材質は、導電性を示す材料である限り、特に限られない。また、リード155の寸法、形状等も、特に限られない。なお、前述のように、リード155は、導電性支持体(149、149A、149B)と一体化構成されても良い。
【0062】
リード155の断面積は、例えば、0.01mm〜400mmの範囲である。
【0063】
(蛍光体170)
蛍光体170としては、例えば、ユーロピウム付活酸化イットリウム蛍光体、セリウムテルビウム付活燐酸ランタン蛍光体、ユーロピウム付活ハロ燐酸ストロンチウム蛍光体、ユーロピウム付活バリウムマグネシウムアルミネート蛍光体、ユーロピウムマンガン付活バリウムマグネシウムアルミネート蛍光体、テルビウム付活セリウムアルミネート蛍光体、テルビウム付活セリウムマグネシウムアルミネート蛍光体、およびアンチモン付活ハロ燐酸カルシウム蛍光体などを単独、または混合して使用できる。
【0064】
なお、熱陰極蛍光ランプ100において、形状、サイズ、ワット数、ならびに蛍光ランプが放つ光色および演色性などは、特に限定されない。形状については、図1に示すような直管に限られず、例えば、丸形、二重環形、ツイン形、コンパクト形、U字形、電球形などの形状で合っても良い。サイズについては、例えば4形〜110形などであっても良い。ワット数については、例えば数ワット〜百数十ワットなどであっても良い。光色については、例えば、昼光色、昼白色、白色、温白色、および電球色などがある。
【0065】
作動中(アーク放電中)に、熱陰極蛍光ランプ100の両電極間に流れるランプ電流は、例えば0.010A〜1Aの範囲であっても良い。
【0066】
(電極の本体部の製造方法)
次に、本発明による電極140の本体部141の製造方法の一例について説明する。
【0067】
本体部141の製造方法は、マイエナイト化合物に導電性を付与する工程の違いから、2つの方法に大別される。第1の方法は、マイエナイト化合物の粉末を焼結させて焼結体を得た後、これを所望の形状に加工してから、マイエナイト化合物に導電性を付与する方法である。一方、第2の方法は、マイエナイト化合物の粉末を焼結して、焼結体を得る際に、同時に導電性を付与する方法である。
【0068】
(第1の方法)
導電性マイエナイト化合物からなる本体部141を製作する第1の方法は、マイエナイト化合物を含む粉末を調製するステップ(ステップ110)と、前記粉末を含む成形体を形成するステップ(ステップ120)と、前記成形体を焼成し、焼結体を得るステップ(ステップ130)と、得られた焼結体に導電性を付与する処理を行うステップ(ステップ140)とを有する。以下、各ステップについて詳しく説明する。
【0069】
(ステップ110)
まず、平均粒径1μm〜10μm程度のマイエナイト化合物粉末が準備される。特に、粉末の平均粒径は、2μm以上6μm以下であることが好ましい。なお、平均粒径が1μmより小さいと、粉末が凝集してそれ以上の微粉化することが困難であり、10μmより大きいと、焼結が進みにくくなるおそれがある。
【0070】
通常の場合、マイエナイト化合物粉末は、マイエナイト化合物原料を粗粉化し、さらにこの粗粉を微細まで粉砕することにより調製される。原料の粗粉化には、スタンプミル、自動乳鉢等が使用され、まず平均粒径が約20μm程度になるまで粉砕される。粗粉を、前述の平均粒径の微細粉まで粉砕するには、ボールミル、ビーズミルなどが使用される。
【0071】
(ステップ120)
次に、マイエナイト化合物粉末を含む成形体が製作される。
【0072】
成形体の製作方法は、特に限られず、ペースト(またはスラリー。以下同じ)を介して、あるいは粉末またはペーストの加圧成形により、成形体を製作しても良い。
【0073】
例えば、前述の調製粉末をバインダとともに溶媒中に添加、撹拌することにより、ペーストを調製しても良い。
【0074】
(ステップ130)
次に、得られた成形体が焼成される。なお、成形体が溶媒を含む場合は、予め成形体を50℃〜200℃の温度範囲で20〜30分程度保持し、溶媒を揮発させて除去しても良い。また、成形体がバインダを含む場合は、予め成形体を200〜800℃の温度範囲で20〜30分程度保持し、バインダを除去しても良い。あるいは、両者の処理を同時に行っても良い。
【0075】
焼成条件は、特に限られない。
【0076】
焼成処理は、例えば大気雰囲気中、真空中、または不活性ガス雰囲気中等で行なわれる。
【0077】
焼成温度は、例えば1200℃〜1415℃の範囲であり、1250℃〜1350℃の範囲であることが好ましい。1200℃より低い温度では、焼結が不十分となり、得られる焼結体が脆くなる可能性がある。また、焼成温度が1415℃よりも高い場合、粉末の溶融が進行し、成形体の形状を維持できなくなるおそれがある。
【0078】
前記温度に保持する時間は、成形体の焼結が完了するように調整すればよいが、好ましくは5分以上、さらに好ましくは10分以上、さらにより好ましくは15分以上である。保持時間が5分より短いと焼結が十分に進まないおそれがある。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、作製コストを考えると、保持時間は、6時間以内が好ましい。
【0079】
得られた焼結体は、その後、所望の形状に加工される。加工方法は、特に限られず、機械加工、放電加工、レーザ加工等が適用されても良い。
【0080】
(ステップ140)
次に、得られた焼結体(マイエナイト化合物)に対して導電性を付与する処理が行われる。
【0081】
焼結体への導電性の付与は、還元性雰囲気で焼結体を熱処理することにより行うことができる。ここで、還元性雰囲気とは、還元剤の存在により、酸素分圧が10−3Pa以下となる雰囲気(または減圧環境)を意味する。還元剤としては、例えばカーボンやアルミニウムの粉末を原料に混ぜても良く、また、雰囲気に接する部位に、カーボン、カルシウム、アルミニウム、チタンを設置しても良い。カーボンの場合は、成形体をカーボン容器に入れて真空下で焼成する方法が例示される。
【0082】
酸素分圧は、例えば10−5Pa以下であり、10−10Pa以下であることが好ましく、10−15Paであることがより好ましい。酸素分圧が10−3Pa以上の場合、十分な導電性を得ることができないおそれがある。
【0083】
熱処理温度は、600〜1415℃の範囲である。熱処理の温度は、1000℃〜1400℃の範囲であることが好ましく、1200〜1370℃の範囲であることがより好ましく、1300℃〜1350℃の範囲であることがさらに好ましい。熱処理の温度が600℃よりも低い場合、マイエナイト化合物に十分な導電性を付与することができないおそれがある。また、熱処理温度が1415℃よりも高い場合、焼結体の溶融が進行し、成形体の形状が維持できなくなるおそれがある。
【0084】
熱処理時間(保持時間)は、5分〜6時間の範囲であることが好ましく、10分〜4時間の範囲であることがさらに好ましく、15分〜2時間の範囲であることがさらに好ましい。保持時間が5分未満の場合、十分な導電性を得ることができなくなるおそれがある。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、作製コストを考えると、保持時間は、6時間以内が好ましい。
【0085】
以上の工程により、導電性マイエナイト化合物からなる本体部141を製作することができる。
【0086】
(第2の方法)
導電性マイエナイト化合物からなる本体部141を製作する第2の方法は、マイエナイト化合物を含む粉末を調製するステップ(ステップ210)と、前記粉末を含む成形体を形成するステップ(ステップ220)と、前記成形体を焼成し、焼結体を得ると同時に、焼結体に導電性を付与するステップ(ステップ230)とを有する。このうち、ステップ210およびステップ220については、前述の第1の方法のステップ110およびステップ120と同様である。そこで、以下、ステップ230について詳しく説明する。
【0087】
(ステップ230)
このステップでは、焼成処理によって、ステップ220によって得られた成形体が焼成される。なお、成形体が溶媒を含む場合は、予め成形体を50℃〜200℃の温度範囲で20〜30分程度保持し、溶媒を揮発させて除去しても良い。また、成形体がバインダを含む場合は、予め成形体を200〜800℃の温度範囲で20〜30分程度保持し、バインダを除去しておいても良い。あるいは、両者の処理を同時に行っても良い。
【0088】
焼成処理は、成形体を還元性雰囲気で熱処理することにより行なわれる。還元性雰囲気とは、雰囲気に接する部位に還元剤が存在し、かつ酸素分圧が10−3Pa以下の不活性ガス雰囲気、または減圧環境を意味する。還元剤としては、例えばカーボンやアルミニウムの粉末を原料に混ぜても良く、また、雰囲気に接する部位に、カーボン、カルシウム、アルミニウム、チタンを設置しても良い。カーボンの場合は、成形体をカーボン容器に入れて真空下で焼成する方法が例示される。
【0089】
酸素分圧は、10−5Pa以下であることが好ましく、10−10Paであることがより好ましく、10−15Pa以下であることがさらに好ましい。酸素分圧が10−3Paより大きい場合、マイエナイト化合物に十分な導電性を付与することができないおそれがある。
【0090】
焼成温度は、1200℃〜1415℃の範囲である。焼成温度は、1250℃〜1350℃の範囲であることがより好ましい。焼成温度が1200℃よりも低い場合、焼結が進行しにくくなり、得られる焼結体が脆くなる可能性がある。また、マイエナイト化合物に十分な導電性を付与することができないおそれがある。一方、焼成温度が1415℃よりも高い場合、粉末の溶融が進行し、成形体の形状を維持することができなくなる。
【0091】
焼成時間(保持時間)は、成形体の焼結が完了し、かつ十分な導電性が付与されれば、いかなる時間であっても良い。保持時間は、例えば、5分〜6時間の範囲であっても良く、10分〜4時間の範囲であることが好ましく、15分〜2時間の範囲であることがより好ましい。保持時間が5分未満の場合、マイエナイト化合物に十分な導電性を付与することができないおそれがある。また、保持時間を長くしても、特性上は特に問題はないが、作製コストを考えると6時間以内が好ましい。
【0092】
以上の工程により、導電性マイエナイト化合物からなる本体部を製作することができる。
【0093】
なお、前述の製造方法では、電極140の本体部141が導電性マイエナイト化合物のみで構成される場合を例に、本体部141の製造方法について説明した。
【0094】
一方、導電性マイエナイト化合物とアルカリ土類金属酸化物の混合物を含む本体部を形成する場合は、前述のステップ110および210の段階で、マイエナイト化合物粉末に、例えば、所望のアルカリ土類金属炭酸塩の粉末を添加し、混合粉末を調製すれば良い。ただし、このような混合粉末を出発物質として使用する場合は、反応の過程で生じるCOを除去する処置が必要となる。COが残留すると、熱陰極蛍光ランプ中の水銀が劣化され、発光効率が低下してしまうからである。
【0095】
COの除去は、例えば窒素雰囲気または真空下で、成形体に対して、予め800℃〜1200℃の温度に20〜30分間程度保持することにより行われても良い。
【実施例】
【0096】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0097】
(実施例1)
以下の方法により、熱陰極蛍光ランプを作製し、その特性について評価した。
【0098】
(導電性マイエナイト化合物焼結体の作製)
電極は、モリブデン製の支持体と、導電性マイエナイト化合物からなる本体部とで構成した。
【0099】
まず、以下のようにして、本体部用の導電性マイエナイト化合物の焼結体を作製した。
【0100】
313.5gの炭酸カルシウム(CaCO)粉末と、186.5gの酸化アルミニウム(Al)粉末とを混合した後、この混合粉末を耐熱容器に入れ、大気中、1350℃まで加熱し、この温度に6時間保持した。昇温速度は、300℃/時間とした。その後、耐熱容器を300℃/時間の冷却速度で、室温まで降温した。これにより、約362gの白色塊体を得た。
【0101】
次に、アルミナ製スタンプミルにより、この白色塊体を、寸法が約5mmの破片になるように解砕した。さらに、これをアルミナ製自動乳鉢で粗粉砕し、白色粉末を得た。この白色粉末350gと、直径5mmのジルコニアボール3kgと、粉砕溶媒としての工業用ELグレードのイソプロピルアルコール350mlとを、2リットルのジルコニア製容器に入れ、容器にジルコニア製の蓋を載せてから、回転速度94rpmで、16時間、ボールミル粉砕処理を実施した。処理後、得られたスラリーを吸引ろ過により粉砕溶媒を除去した。その後、得られた粉末を80℃のオーブンで10時間乾燥させた。これにより、粉末A1を得た。X線回折分析の結果、得られた粉末A1は、C12A7単相であることが確認された。
【0102】
前述の方法で得られたマイエナイト化合物粉末A1を、長さ40mm×幅20mm×高さ30mmの金型に敷き詰めた。この金型に対して、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。さらに、180MPaの圧力で等方静水圧プレス処理し、縦約40mm×横約20mm×高さ約10mmの寸法のマイエナイト化合物成形体を得た。
【0103】
次に、前記成形体およびアルミニウム粉末を2重のカーボンるつぼ内に入れ、1250℃で6時間焼成した。内側のカーボンるつぼは、外径60mm×内径50mm×高さ60mmの略円筒状の形状を有し、外側のカーボン容器は、外径80mm×内径70mm×高さ75mmの略円筒状の形状を有するものを使用した。焼成後に、焼結体B1が得られた。
【0104】
この焼結体B1の相対密度は、97.0%であり、X線回折分析の結果、C12A7単相であった。また、電子密度は1.6×1021cm−3であり、電気伝導率は17S/cmであった。
【0105】
このようにして、導電性マイエナイト化合物の焼結体B1を作製した。
【0106】
(電極の作製)
前記導電性マイエナイト化合物焼結体B1を、外径φ1.8mm、長さ6mmに機械加工し、本体部を得た。機械加工には、冷却水を使用せず、ドライ条件下で加工した。底部にφ0.6mmのデュメット線が溶接された内径φ1.8mm、外径φ2.0mm、深さ5mmのモリブデン製カップに、前記本体部を挿入し、前記本体部がモリブデン製カップから1mmだけ露出した電極を作製した。
【0107】
(蛍光ランプの作製)
次に、前述の方法で作製した電極を用いて、以下のようにして、蛍光ランプを作製した。
【0108】
まず、外径φ15mmおよび内径φ13mmのガラスチューブの両端に、前記電極を封着した。電極間隔は、46mmであった。ガラスチューブは、中央部でT字型に分岐しており、この分岐部は、排気台に接続されている。
【0109】
次に、前記ガラスチューブの内部を、10−3Paまで真空排気した状態で、前記ガラスチューブを400℃に加熱し、30分間真空排気処理を行った。その後、ガラスチューブの内部に、アルゴンガスを圧力が18.6kPaとなるように充填した。さらに、チップオフして、実施例1に係る蛍光ランプを作製した。
【0110】
(放電試験)
作製した実施例1に係る蛍光ランプを用いて、以下のような放電試験を行った。
【0111】
まず、バラスト抵抗5kΩの直流回路に、実施例1に係る蛍光ランプを配線し、50mAの定電流で蛍光ランプを放電させた。
【0112】
5時間間隔でランプ電圧を測定した。また、同じタイミングで、電極の輝点の有無を目視で確認した。
【0113】
図4には、測定によって得られたランプ電圧の経時変化を示す。この図から明らかなように、実施例1に係る蛍光ランプでは、ランプ電圧は、約75V〜約90Vの範囲であり、少なくとも700時間にわたってほぼ一定であった。なお、測定期間中、電極には輝点が視認され、長期にわたって、蛍光ランプが熱陰極モードで放電されていることが確認された。
【0114】
このことから、実施例1に係る蛍光ランプの輝点の寿命は、700時間以上であることがわかった。
【0115】
さらに、運転開始から700時間後に、放射温度計(LUMA SENSE TECHNOLOGIES社製、IGA8 pro)を用いて、電極部分の平均温度を測定した。使用した放射温度計は、測定スポット範囲が約1mmφであり、測定スポットが電極の輝点部分を含まないようにして、測定を行った。従って、測定結果は、輝点部分を除く、電極の平均的な温度を表していると言える。測定の結果、電極の温度は、460℃であった。
【0116】
また、同様の方法で、ガラスチューブ内部に充填されたアルゴンガスの圧力のみが異なる複数の蛍光ランプを作製し、同様の温度測定を実施した。アルゴンガスの圧力は、4.0kPa〜53kPaの間で変化させた。
【0117】
結果を図5に示す。図5から、ガラスチューブ内部に充填されるアルゴンガスの圧力が高くなるほど、電極温度が低下する傾向にあることがわかる。特に、アルゴンガスの圧力が5.3kPa以上の場合、電極温度は、600℃以下にまで低下している。このことから、希ガスの充填圧力を高くした場合に、電極の輝点の寿命が延伸するのは、充填圧力の上昇によって、電極の温度が低下するためであると推察される。
【0118】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で蛍光ランプを作製し、その特性について評価した。
【0119】
ただし、この実施例2では、電極の作製方法および蛍光ランプの作製方法を、以下のように変更した。
【0120】
(電極の作製)
前記導電性マイエナイト化合物焼結体B1を、外径φ1.8mm、長さ6mmに機械加工し、本体部を得た。機械加工には、冷却水を使用せず、ドライ条件下で加工した。底部にφ0.6mmのデュメット線が溶接された内径φ1.8mm、外径φ2.0mm、深さ5mmのモリブデン製カップに、前記本体部を挿入して電極を作製した。この際には、前記本体部の先端位置が、モリブデン製カップの先端位置と一致するようにして、本体部を挿入した。(従って、本体部は、モリブデン製カップから突出していない。)
(蛍光ランプの作製)
外径φ6mm、内径φ4mmのガラスチューブの両端に、電極間隔が138mmとなるようにして、電極を封着した。このガラスチューブは、中央部でT字型に分岐しており、この分岐部は、排気台に接続されている。
【0121】
次に、前記ガラスチューブの内部を、10−3Paまで真空排気した状態で、前記ガラスチューブを400℃に加熱し、30分間真空排気処理を行った。その後、ガラスチューブの内部に、アルゴンガスを圧力が5.3kPaとなるように充填した。さらに、チップオフして、実施例2に係る蛍光ランプを作製した。
【0122】
(放電試験)
作製した実施例2に係る蛍光ランプを用いて、実施例1と同様の放電試験を行った。
【0123】
図6には、測定によって得られたランプ電圧の経時変化を示す。この図から明らかなように、実施例2に係る蛍光ランプでは、ランプ電圧は、約150V前後であり、少なくとも170時間にわたってほぼ一定であった。なお、測定期間中、電極には輝点が視認され、長期にわたって、蛍光ランプが熱陰極モードで放電されていることが確認された。
【0124】
このことから、実施例2に係る蛍光ランプの輝点の寿命は、170時間以上であることがわかった。
【0125】
(比較例1)
以下の方法により、熱陰極蛍光ランプを作製し、その特性について評価した。
【0126】
(導電性マイエナイト化合物焼結体の作製)
前述の実施例1と同様の方法で得られたマイエナイト化合物粉末A1を79.8gに、成形用バインダとしてのポリエチレンオキサイド13.0gと、可塑剤としての脂肪酸エステル0.2gと、潤滑剤としてのステアリン酸7.0gとを配合し、成形体原料を調合した。
【0127】
次に、この成形体原料を射出成形し、成形体を得た。得られた成形体は、円柱の一つの底面に、同じ底面形状および同じ底面寸法を有する円錐が張り合わされたような(鉛筆のような)形状であった。円柱部分の直径は、3.4mmであり、長さは5.0mmであった。また、円錐部分の長さは、2.5mmであった。従って、成形体の全長は、7.5mmである。
【0128】
次に、以下の方法で、成形体に金属線を挿入し、組立体を得た。
【0129】
まずドリルを使って、予め成形体の底面の中心に、直径0.5mm、深さ2.5mmの穴を形成した。次に、この穴から、直径0.5mmφのニッケル線を挿入した。挿入深さは、2.5mmとした。
【0130】
次に、以下の方法で、得られた組立体の脱バインダ処理を行った。
【0131】
組立体をアルミナ板に置載した状態で電気炉内に設置し、空気中で、40分間で200℃まで昇温した。その後、組立体を8時間で600℃まで昇温した後、2時間で室温まで冷却させた。
【0132】
次に、以下の方法で、組立体を還元雰囲気下で焼成した。
【0133】
組立体と金属アルミニウムとを入れたアルミナ製るつぼを、外径40mm×内径30mm×高さ40mmの第1カーボン製るつぼ内に設置し、カーボン製の蓋をした。さらに、この第1カーボンるつぼを、外径80mm×内径70mm×高さ75mmの第2のカーボン製るつぼ内に配置し、カーボン製の蓋をした。
【0134】
この第2のカーボンるつぼを、5Pa以下の真空雰囲気中に保持し、1時間で1250℃まで昇温した。次に、1250℃で6時間保持した後、4時間で室温まで冷却させた。これにより組立体が還元焼成され、ニッケル線付きの焼結体C1が得られた。
【0135】
なお、この焼結体C1の表面には、炭化アルミニウムなどが付着していたため、ドライ加工で、これらの表面層を取り除いた。
【0136】
また、ニッケル線を挿入しなかったことを除き、同様の方法で作製した焼結体を用いて、粉末X線回折分析を行った。その結果、焼結体は、C12A7単相であった。また、光拡散反射スペクトルからクベルカムンク法により求められた電子密度は、1.6×1021cm−3であった。このことから、焼結体C1は、導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0137】
(電極の作製)
導電性マイエナイト焼結体C1に挿入したニッケル線と、直径φ0.7mmのコバール線とをスポット溶接し、電極を作製した。
【0138】
(蛍光ランプの作製)
外径φ4mm、内径φ3mmのガラスチューブの両端に、電極間隔が80mmとなるようにして、電極を封着した。このガラスチューブは、中央部でT字型に分岐しており、この分岐部は、排気台に接続されている。
【0139】
次に、前記ガラスチューブの内部を、10−3Paまで真空排気した状態で、前記ガラスチューブを400℃に加熱し、30分間真空排気処理を行った。その後、ガラスチューブ内に水銀を120mg導入し、再び10−3Paまで真空排気を行った。次に、ガラスチューブの内部に、アルゴンガスを圧力が2.6kPaとなるように充填した。さらに、チップオフして、比較例1に係る蛍光ランプを作製した。
【0140】
(放電試験)
作製した比較例1に係る蛍光ランプを用いて、以下のような放電試験を行った。
【0141】
まず、バラスト抵抗2kΩの交流回路に、比較例1に係る蛍光ランプを配線し、矩形波、1kHz、300Vの定電圧で蛍光ランプを放電させた。
【0142】
20分間隔でランプ電圧およびランプ電流を測定した。また、同じタイミングで、電極の輝点の有無を目視で確認した。
【0143】
図7には、測定によって得られたランプ電圧およびランプ電流の経時変化を示す。この図7から明らかなように、比較例1に係る蛍光ランプでは、放電開始から1.6時間の間は、ランプ電圧およびランプ電流は、ほぼ適正な範囲の値を示したが、1.6時間経過後に、ランプ電圧は急激に上昇し、ランプ電流は、急激に低下した。
【0144】
また、1.6時間経過後には、電極に輝点が視認されなくなり、電極全体が赤くなる様子が観察された。
【0145】
このことから、比較例1に係る蛍光ランプの輝点の寿命は、約1.6時間であることがわかった。
【0146】
(比較例2)
実施例2と同様の方法で蛍光ランプを作製し、その特性について評価した。
【0147】
ただし、この比較例2では、蛍光ランプの作製の際に、アルゴンガスのガス圧を2.6kPaとした。その他の導電性マイエナイト化合物焼結体、電極および蛍光ランプの作製条件は、実施例2と同様である。
【0148】
図8には、ランプ電圧の経時変化を示す。
【0149】
点灯開始直後には、ランプ電圧は140Vであり、電極に輝点が確認された。しかしながら、2時間後には、ランプ電圧が185Vになり、電極に輝点は認められなくなった。
【0150】
このことから、比較例2に係る蛍光ランプの輝点の寿命は、約2時間であることがわかった。
【0151】
以上のように、蛍光ランプに含まれる希ガスの圧力を2.6kPa以下とした場合、電極の構造に関わらず、輝点の寿命は極めて短くなった。これに対して、希ガスの圧力を5.3kPa以上とした場合、電極の構造に関わらず、電極の輝点の寿命が有意に改善されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明は、放電用の電極を有する蛍光ランプ等に適用することができる。
【符号の説明】
【0153】
100 本発明による熱陰極蛍光ランプ
120 放電空間
130 バルブ
140 電極
141 本体部
149 導電性支持体
149A、149B 導電性支持体
151 封止部
152、152A 収容口
155 リード
159 開口
160 保護膜
170 蛍光体
181A、181B 第1の端部
182A、182B 第2の端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体が設置されたバルブと、該バルブの放電空間に充填された希ガスおよび水銀と、前記バルブの放電空間に配置された一組の電極とを有する熱陰極蛍光ランプであって、
前記電極は、導電性マイエナイト化合物を有し、
前記希ガスは、前記放電空間に、5.3kPa以上の圧力で充填されていることを特徴とする熱陰極蛍光ランプ。
【請求項2】
前記圧力は、13.3kPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱陰極蛍光ランプ。
【請求項3】
前記電極は、金属製のカップと、該カップに挿入された塊状、または柱状の導電性マイエナイト化合物とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱陰極蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−45528(P2013−45528A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180959(P2011−180959)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】