説明

燃料フィルタの異常検出装置

【課題】走行距離や運転時間を目安とすることなく燃料フィルタの目詰まりを直接的に検出し得るようにする。
【解決手段】燃料が燃料フィルタ4を正常な通過抵抗で通過できなくなった時に前記燃料フィルタ4の入側及び出側のうちの圧力が大きく変動する側に圧力センサ14を備えると共に、燃料タンク1から燃料フィルタ4に到る燃料系路の適宜位置に燃料の温度を検出する温度センサ15を備え、前記圧力センサ14の検出圧力が設定圧力を超える大きな変動を示した時に前記温度センサ15の検出温度が設定温度以上であれば燃料フィルタ4の目詰まりを判定し且つ該設定温度を下まわっていれば燃料のワックス化を判定する制御装置16を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料フィルタの異常検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両のエンジンにおける燃料の供給系には、燃料中の異物を濾し取る燃料フィルタが介装されており、該燃料フィルタで燃料中の異物を除去することでエンジンに異物が送り込まれてしまう虞れを未然に回避し、安定したエンジン性能が維持されるようになっている。
【0003】
前記燃料フィルタは、長期間に亘る使用により異物が堆積して最終的には目詰まりを起こしてしまうため、このような目詰まりに到る前に交換する必要があるが、従来においては、車両の走行距離や運転時間を目安として燃料フィルタのエレメントの交換を行うようにしており、より具体的には、走行距離が所定のkm数に到達した場合や、運転時間が所定の年数に到達した場合にエレメントの交換を行うようにしている。
【0004】
尚、この種の燃料フィルタの目詰まりに関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−283724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両の使用形態は様々であり、特にトラック等の運搬車両にあっては、常に舗装道路ばかりを走行しているような使用形態の車両もあれば、未舗装の砂利道ばかりを走行しているような使用形態の車両もあり、更には、粗悪な燃料の使用により燃料フィルタの目詰まりが早まるようなケースもあるため、一律に走行距離や運転時間で交換時期を決めるだけでは、予定よりも早く燃料フィルタに目詰まりが生じてしまう場合があり、燃料フィルタに目詰まりが生じていることを認識しないまま運転し続けることで車両故障を招く虞れがあった。
【0007】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、走行距離や運転時間を目安とすることなく燃料フィルタの目詰まりを直接的に検出し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、燃料が燃料フィルタを正常な通過抵抗で通過できなくなった時に前記燃料フィルタの入側及び出側のうちの圧力が大きく変動する側に圧力センサを備えると共に、燃料タンクから燃料フィルタに到る燃料系路の適宜位置に燃料の温度を検出する温度センサを備え、前記圧力センサの検出圧力が設定圧力を超える大きな変動を示した時に前記温度センサの検出温度が設定温度以上であれば燃料フィルタの目詰まりを判定し且つ該設定温度を下まわっていれば燃料のワックス化を判定する制御装置を備えたことを特徴とする燃料フィルタの異常検出装置、に係るものである。
【0009】
而して、このようにすれば、燃料が燃料フィルタを正常な通過抵抗で通過できなくなった時に前記燃料フィルタの入側及び出側の何れかで起こる過剰な圧力の変動を圧力センサで捕えて異常を判定することが可能となり、しかも、その過剰な圧力の変動を捕えた際における燃料の温度を温度センサにより検出して参酌し、燃料の温度が設定温度を下まわっている時には燃料のワックス化により一時的な通過抵抗の上昇が生じているものと判定し、燃料の温度が設定温度以上となっていて燃料のワックス化が想定されない条件下での圧力の過剰な上昇が検出された時にだけ、燃料フィルタに堆積した異物による目詰まりを要因として持続的な通過抵抗の上昇が生じているものと判定することが可能となる。
【0010】
更に、本発明においては、制御装置が燃料フィルタの目詰まりを判定した時にエンジンの出力制限を指示するように構成したり、燃料のワックス化を判定した時にエンジンの一時的な出力制限を指示するように構成することが好ましく、このようにすれば、燃料フィルタが目詰まりを起こしていたり、燃料がワックス化しているような場合に、エンジンの出力を制限することで車両故障を回避することが可能となる。
【0011】
また、本発明においては、制御装置が判定結果を報知手段により運転者に報知するように構成されていることが好ましく、このようにすれば、運転者に異常を報知して無理な運転を自制させると共に、燃料フィルタのエレメントの交換等の対応を促すことが可能となる。
【0012】
尚、燃料フィルタが正圧型である場合には、該燃料フィルタの入側に圧力センサが備えられていることが好ましく、燃料フィルタが負圧型である場合には、該燃料フィルタの出側に圧力センサが備えられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記した本発明の燃料フィルタの異常検出装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0014】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、圧力センサの検出圧力と温度センサの検出温度とに基づき、走行距離や運転時間を目安とすることなく燃料フィルタの目詰まりを直接的に検出することができ、しかも、燃料のワックス化による一時的な圧力変動を目詰まりと混同せずに区別して検出することもできるので、燃料フィルタのエレメントの適切な交換時期を把握することができ、燃料フィルタに目詰まりが生じていることを認識しないまま運転し続けることで車両故障を招くといった不具合を未然に防ぐことができる。
【0015】
(II)本発明の請求項2,3に記載の発明によれば、燃料フィルタが目詰まりを起こしていたり、燃料がワックス化しているような場合に、エンジンの出力を制限することで更に確実に車両故障を回避することができる。
【0016】
(III)本発明の請求項4に記載の発明によれば、運転者に異常を報知して無理な運転を自制させることができると共に、燃料フィルタのエレメントの交換等の対応を促すことができるので、より一層確実に車両故障を回避することができる。
【0017】
(IV)本発明の請求項5,6に記載の発明によれば、燃料フィルタが正圧型であるか負圧型であるかに応じ、燃料が燃料フィルタを正常な通過抵抗で通過できなくなった時に圧力が大きく変動する側に圧力センサを配置して確実に異常な圧力変動を捕えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】図1の制御装置における具体的な制御の手法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、コモンレール式の燃料噴射装置に適用した燃料フィルタの場合で例示しており、燃料タンク1内の燃料が、サプライポンプ2のカム軸で駆動されるフィードポンプ3により吸い上げられ、燃料フィルタ4を介し異物等が濾過された後にサプライポンプ2へと送られるようになっており、該サプライポンプ2により所定圧力に昇圧された燃料がコモンレール5に供給されて蓄圧されるようになっている。
【0021】
前記燃料フィルタ4には、オーバーフローバルブ6が備えられていて、前記燃料フィルタ4における内部圧力が所定値以上となったときに、オーバーフローバルブ6が開いて燃料がオーバーフローパイプ7及びスルーフィードパイプ8を介して燃料タンク1へ戻されるようになっている。
【0022】
また、前記サプライポンプ2には、コモンレール5における燃料圧を所定圧力に維持するためのスルーフィードバルブ9が備えられ、前記サプライポンプ2における内部圧力が所定値以上となったときに、スルーフィードバルブ9が開いて燃料がスルーフィードパイプ8を介して燃料タンク1へ戻されるようになっている。
【0023】
更に、コモンレール5内の高圧の燃料は、インジェクションパイプ10を介しエンジンの各気筒毎に装備された複数のインジェクタ11に向け供給され、該インジェクタ11のノズルから前記各気筒内に噴射されるようになっており、各インジェクタ11に供給された燃料のうち、各気筒内への噴射に費やされなかった燃料は、各インジェクタ11からリーク燃料としてリーケージパイプ12に集められてスルーフィードパイプ8を介し燃料タンク1へ戻されるようになっている。
【0024】
また、コモンレール5には、プレッシャリミッタ13が取り付けられており、前記コモンレール5内の圧力が所定値以上となると、プレッシャリミッタ13が開いてオーバーフローパイプ7及びスルーフィードパイプ8を介し燃料が燃料タンク1に戻され、コモンレール5の圧力が所定圧に保たれるようになっている。
【0025】
そして、本形態例においては、前記燃料フィルタ4の入側に燃料の圧力を検出する圧力センサ14が設けられていると共に、前記フィードポンプ3の入側に燃料の温度を検出する温度センサ15が設けられており、これら圧力センサ14及び温度センサ15からの検出信号14a,15aが制御装置16に入力されるようになっている。
【0026】
ここで、フィードポンプ3の入側で温度センサ15により燃料の温度を監視することは従来から行われているので、この温度センサ15には既存の装備品を流用することが可能であり、一般的なコモンレール式の燃料噴射装置に対しては、実質的に燃料フィルタ4の入側に新たに圧力センサ14を設けるだけで良い。
【0027】
また、前記制御装置16では、圧力センサ14及び温度センサ15からの検出信号14a,15aに基づき、燃料フィルタ4の異常が判定されるようになっており、より具体的には、図2にフローチャートで示す如く、ステップS1において、圧力センサ14により検出された圧力が所定の設定圧力以上となっているか否かが判定され、この設定圧力を下まわっている限りは「NO」に進んで判定が繰り返される。
【0028】
ここで、ステップS1における設定圧力は、フィードポンプ3の信頼性を保証するための許容可能な上限圧力として決められており、燃料が燃料フィルタ4を正常な通過抵抗で通過できなくなった時に前記燃料フィルタ4の入側で起こる過剰な圧力上昇を捕えて異常を判定するようにしている。
【0029】
一方、検出された圧力が所定の設定圧力以上となっていれば「YES」に進み、次のステップS2において、温度センサ15により検出された温度が所定の設定温度以上となっているか否かが判定され、この設定温度を下まわっていれば「NO」に進んでステップS3に到り、ここで燃料のワックス化が判定され、次のステップS4に進んでインジケータランプ17(報知手段)の点滅と一時的なエンジンの出力制限が指示されるようになっている。
【0030】
即ち、燃料が燃料フィルタ4を正常な通過抵抗で通過できなくなって前記燃料フィルタ4の入側で過剰な圧力上昇が検出されたとしても、それが必ずしも燃料フィルタ4に堆積した異物による目詰まりであるとは決めつけられない。
【0031】
なぜなら、外気温度が低い条件下で走行すると、燃料タンク1から燃料フィルタ4に到る燃料系路が走行風により冷やされることにより燃料がワックス化して粘度の高い状態となり、燃料の流動性が著しく低下して燃料フィルタ4を正常に通過し難くなることがあるからである。
【0032】
従って、圧力センサ14の検出圧力が設定圧力以上となり且つ温度センサ15の検出温度が設定温度を下まわっている場合に燃料のワックス化が制御装置16にて判定され、インストルメントパネルのインジケータランプ17と、インジェクタ11による燃料噴射を制御する燃料噴射制御装置18(燃料フィルタ4の異常を検出する制御装置16が兼ねていても良い)とに向け指令信号17a,18aが出力されてインジケータランプ17の点滅と一時的なエンジンの出力制限が指示され、運転者への異常の報知と車両故障の回避が図られることになる。尚、燃料のワックス化は、燃料の温度上昇に伴い解消されるものなので、この場合のエンジンの出力制限は一時的なもので良い。
【0033】
また、先のステップS2において、温度センサ15により検出された温度が所定の設定温度以上となっていれば「YES」に進み、ステップS5において、燃料フィルタ4の目詰まりが判定され、次のステップS6に進んでインジケータランプ17の点灯とエンジンの出力制限が指示されるようになっている。
【0034】
この場合は、圧力センサ14の検出圧力が設定圧力以上となり且つ温度センサ15の検出温度が設定温度以上となっており、燃料のワックス化が想定されない条件下での圧力の過剰な上昇であるため、燃料フィルタ4に堆積した異物による目詰まりが原因であると判定され、インジケータランプ17と燃料噴射制御装置18とに向け指令信号17a,18aが出力されてインジケータランプ17の点灯とエンジンの出力制限が指示され、運転者への異常の報知と車両故障の回避が図られることになる。
【0035】
而して、このようにすれば、燃料が燃料フィルタ4を正常な通過抵抗で通過できなくなった時に前記燃料フィルタ4の入側で起こる過剰な圧力の変動を圧力センサ14で捕えて異常を判定することが可能となり、しかも、その過剰な圧力の変動を捕えた際における燃料の温度を温度センサ15により検出して参酌し、燃料の温度が設定温度を下まわっている時には燃料のワックス化により一時的な通過抵抗の上昇が生じているものと判定し、燃料の温度が設定温度以上となっていて燃料のワックス化が想定されない条件下での圧力の過剰な上昇が検出された時にだけ、燃料フィルタ4に堆積した異物による目詰まりを要因として持続的な通過抵抗の上昇が生じているものと判定することが可能となる。
【0036】
従って、上記形態例によれば、圧力センサ14の検出圧力と温度センサ15の検出温度とに基づき、走行距離や運転時間を目安とすることなく燃料フィルタ4の目詰まりを直接的に検出することができ、しかも、燃料のワックス化による一時的な圧力変動を目詰まりと混同せずに区別して検出することもできるので、燃料フィルタ4のエレメントの適切な交換時期を把握することができ、燃料フィルタ4に目詰まりが生じていることを認識しないまま運転し続けることで車両故障を招くといった不具合を未然に防ぐことができる。
【0037】
また、特に本形態例においては、制御装置16が燃料フィルタ4の目詰まりや燃料のワックス化を判定した時にエンジンの出力を制限するように構成されているので、燃料フィルタ4が目詰まりを起こしていたり、燃料がワックス化しているような場合に、エンジンの出力を制限することで更に確実に車両故障を回避することができる。
【0038】
更に、制御装置16が燃料フィルタ4の目詰まりや燃料のワックス化を判定した時には、運転者に対しインジケータランプ17の点灯や点滅で異常を報知して無理な運転を自制させることができると共に、燃料フィルタ4のエレメントの交換等の対応を促すことができるので、より一層確実に車両故障を回避することができる。
【0039】
尚、以上に述べた形態例においては、燃料フィルタ4の上流側からフィードポンプ3で燃料を押し込んで濾過させるようにした正圧型の場合で説明しているが、フィードポンプ3と燃料タンク1との間に燃料フィルタ4を介装し、燃料フィルタ4の下流側からフィードポンプ3で燃料を吸い込んで濾過させるようにした負圧型の場合には、燃料が燃料フィルタ4を正常な通過抵抗で通過できなくなった時に前記燃料フィルタ4の出側で起こる過剰な圧力降下(負圧)を捕えて異常を判定するようにしても良い。
【0040】
また、本発明の燃料フィルタの異常検出装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、報知手段は警報ブザー等であっても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 燃料タンク
4 燃料フィルタ
14 圧力センサ
14a 検出信号
15 温度センサ
15a 検出信号
16 制御装置
17 インジケータランプ(報知手段)
17a 指令信号
18 燃料噴射制御装置
18a 指令信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が燃料フィルタを正常な通過抵抗で通過できなくなった時に前記燃料フィルタの入側及び出側のうちの圧力が大きく変動する側に圧力センサを備えると共に、燃料タンクから燃料フィルタに到る燃料系路の適宜位置に燃料の温度を検出する温度センサを備え、前記圧力センサの検出圧力が設定圧力を超える大きな変動を示した時に前記温度センサの検出温度が設定温度以上であれば燃料フィルタの目詰まりを判定し且つ該設定温度を下まわっていれば燃料のワックス化を判定する制御装置を備えたことを特徴とする燃料フィルタの異常検出装置。
【請求項2】
制御装置が燃料フィルタの目詰まりを判定した時にエンジンの出力制限を指示するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料フィルタの異常検出装置。
【請求項3】
制御装置が燃料のワックス化を判定した時にエンジンの一時的な出力制限を指示するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料フィルタの異常検出装置。
【請求項4】
制御装置が判定結果を報知手段により運転者に報知するように構成されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の燃料フィルタの異常検出装置。
【請求項5】
燃料フィルタが正圧型である場合に該燃料フィルタの入側に圧力センサが備えられていることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の燃料フィルタの異常検出装置。
【請求項6】
燃料フィルタが負圧型である場合に該燃料フィルタの出側に圧力センサが備えられていることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の燃料フィルタの異常検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−68195(P2013−68195A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208796(P2011−208796)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)