説明

燃料噴射弁

【課題】液化石油ガスなどの高圧の燃料を主燃料とするエンジンにおいても、エンジン停止時、即ち、燃料噴出孔が閉じている状態において燃料噴出孔への燃料の流出を確実に防止する。
【解決手段】エンジンの吸気管に燃料を噴出するための燃料噴射孔31を有するノズルボディ3と、ノズルボディ3の上流側に形成された環状のシート部5を有する弁座4に着座する球面状の当たり面21を有する弁体2とからなり、弁体2の球面状の当たり面がフッ素ゴムで形成され、弁座4のシート部が硬質材により形成され且つ低摩擦性を有する複合メッキ層により被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁、特に、液化石油ガスなどの高圧の燃料を主燃料とするエンジンに適した燃料噴射弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの運転状態に応じて電子制御装置から電気信号の通電時に電磁力で弁体に開き動作を行わせ、非通電時には戻しばねの付勢力により閉じ動作を弁体に行わせることにより、所要量の燃料をエンジンの吸気管に噴射する燃料噴射弁においては、電気信号に基づいて弁体が敏感に反応する必要があるとともに、閉弁時に弁体が確実にシート部に密着することが必要である。
【0003】
そこで、弁体の当たり面および弁座のシート面の少なくとも一方をゴムまたは合成樹脂で作り、弁体が弁座に着座したときにゴムまたは合成樹脂を圧縮変形させて着座を確実にして燃料の流れを遮断させることは周知であり、例えば特開2002−227742号公報に提示されている。
【0004】
ところが、シートの不良や劣化、エンジンからの発熱による燃料噴射弁内の燃料圧力上昇などにより僅かの隙間からも燃料の流出が発生し、燃料の流れを遮断できない場合が生じ、特に、液化石油ガスなどを主燃料とする場合には高圧化されやすいので漏れやすく、燃料噴射孔より流出した燃料が多い場合には、エンジンの再始動時に始動不良が生じたり、燃焼異常が発生するなどの問題があった。
【特許文献1】特開2002−227742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記のような問題点を解決することであり、液化石油ガスなどの高圧の燃料を主燃料とするエンジンにおいても、エンジンの停止時、即ち、燃料の噴出孔が閉じている状態において燃料噴射孔への燃料の流出を確実に防止することができる燃料噴射弁を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
エンジンと吸気管に燃料を噴射するための燃料噴射孔を有するノズルボディと、前記ノズルボディの上流側に形成された環状のシート部を有する弁座に着座する球面状の当たり面を有する弁体とからなり、前記弁体の少なくとも当たり面をフッ素ゴムにより形成するとともに、前記弁座のシート部が硬質材により形成され且つ例えばNi−P系金属マトリクス中にフッ素系樹脂粒子が分散された複合分散メッキなどの低摩擦性を有する複合メッキ層により被覆されていることを特徴とする。
【0007】
弁座のシート部が硬質材により形成され、また、弁体側へ広くなる傾斜面形状であり且つその表面に低摩擦性を有する例えばNi−P系金属マトリクス中にフッ素系樹脂粒子が分散された複合メッキなどにより被覆されていることから、弁体がシート部に接触した際、弁体は滑り、積極的に噴射孔側へ寄り、接触衝撃が緩和され、弁体当たり面の早期劣化が防止される。また、同時に他の補助機構を要さずにシート効果を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は特に複雑な構成や部品を必要とすること無しに、液化石油ガスなどの高圧燃料を主燃料とするエンジンにおいても、エンジン停止時、即ち、燃料噴出孔が閉じている状態において燃料噴射孔への燃料の流出を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0010】
図1は本発明である燃料噴射弁1を示すものであり、燃料噴射弁1は従来のものと同様に、ボディケース11内に、電磁力で弁体に開き動作を行わせるための電磁駆動機構と非通電時に閉じ動作を弁体に行わせる戻しばね機構とを内蔵しており(図示せず)、エンジンの運転状況に応じて電子式制御装置から送られる電気信号により弁体2を往復移動させてエンジンに燃料を噴射するための燃料噴射孔31を有するノズルボディ3の上流側に形成された弁座4を開閉するタイプである。
【0011】
そして、弁体2は全体が棒状で先端に半球面を呈する弁座4への当たり面21が形成されている。特に、本実施の形態では前記当たり面21がフッ素ゴムにより形成されている。
【0012】
また、本実施形態では弁体4を構成するシート部5は、円錐形で傾斜面を有する例えば金属や硬質合成樹脂のような硬質材により形成され、シート面は低摩擦性を有するNi−P系金属マトリクス中にフッ素系樹脂粒子が分散された複合分散メッキ層で覆われている。
【0013】
本実施形態において用いられる複合メッキとしてはNi−P系金属マトリクスにフッ素系樹脂粒子が分散されたものであり、従来知られているNi(ニッケル)−P(リン)系の組成を有する無電解メッキにより得られるが、Ni(ニッケル)−P(リン)系の組成を有するものであればよく、更に、例えば、Co(コバルト)を組成とするものなども含まれる。
【0014】
以上の構成を有する本実施形態は、従来のものと同様に、棒状の弁体2を往復移動させて(図示する上下方向)、弁座4への着座と離脱動作により燃料噴射孔31を開閉する。
【0015】
図2は開弁時の状態を示すものであり、ボディケース11の頂部に配置された燃料供給管接続口12に接続した燃料供給管(図示せず)から供給された燃料の所定量を燃料噴射孔31からエンジンの吸気管(図示せず)に噴射するものである。
【0016】
また、図3は、弁体2を弁座4側に移動させて着座させることにより閉状態を形成して、燃料噴射孔31からの燃料流出を阻止する状態を示すものであり、弁座4側(閉方向)に移動する弁体2は半球面状の当たり面21が、傾斜面を有するシート部5にシート(接触)して燃料噴射孔31を閉じる。
【0017】
このとき、本実施形態では、弁体2の当たり面21がフッ素ゴムにより形成されているので、当たり面21がシート部5にシートする際に生じる衝撃が吸収される。加えて、シート部5のシート面が硬質であるので当たり面21とシート部5とが確実に接合し、更に、半球面状の当たり面21がシーとするシート部5は傾斜面を形成するばかりか表面が低摩擦性を有するNi−P系金属マトリクス中にフッ素系樹脂粒子が分散された複合メッキ層で覆われていることによりシート効果が向上し、高圧の燃料であっても燃料噴射孔31へ流出する心配がないばかりか、当たり面21がシート部5にシートする際に生じる衝撃が低摩擦による滑りにより緩和され、弁体2における当たり面21の早期劣化が防止される。
【0018】
以上のように、本実施形態は、液化石油ガスを燃料とした燃料噴射弁についてきわめて有効であるが、例えば、遮断弁などの他の種々の構造の弁に使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明における実施形態の一部を切載した状態を記す全体図。
【図2】図1の開弁状態における一部拡大図。
【図3】図1の閉弁状態における一部拡大図。
【符号の説明】
【0020】
1 燃料噴射弁、2 弁体、3 ノズルボディ、4 弁座、5 シート部、21 当たり面、31 燃料噴射孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと吸気管に燃料を噴射するための燃料噴射孔を有するノズルボディと、前記ノズルボディの上流側に形成された環状のシート部を有する弁座に着座する球面状の当たり面を有する弁体とからなり、前記弁体の少なくとも当たり面をフッ素ゴムにより形成するとともに、前記弁座のシート部が硬質材により形成され且つ低摩擦性を有する複合メッキ層により被覆されていることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記弁座のシート部が弁体側へ広くなる傾斜面である請求項1記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記複合メッキ層はNi−P系金属マトリクス中にフッ素系樹脂粒子が分散された複合分散メッキにより形成されている請求項1または2記載の燃料噴射弁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−106656(P2008−106656A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289471(P2006−289471)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】