説明

燃料電池セル

【課題】耐久性を向上可能な燃料電池セルを提供する。
【解決手段】燃料電池セル10において、ジルコニウムを含む固体電解質層12と、空気極15との間に、セリウムとジルコニウムを含むバリア層14とを備え、該バリア層14の前記空気極との接合領域Xにおけるジルコニウム濃度の最大値は、前記固体電解質層12におけるジルコニウム濃度の最大値を“1”とした場合に“0.08以上0.4以下”とする。前記接合領域Xにおけるジルコニウム濃度の最大値を“0.08以上”にすることによって、バリア層14と空気極15との界面剥離を抑制でき、最大値を“0.4以下”に規定することによって、バリア層14と空気極15との間における高抵抗層の形成を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から、燃料電池に注目が集まっている。燃料電池は、燃料電池セル及びインターコネクタ等を備える。燃料電池セルは、一般的に、固体電解質層と、固体電解質層を挟んで対向する燃料極と空気極とを含む。
【0003】
ここで、固体電解質層と空気極との界面に高抵抗層が形成されることを抑制するために、固体電解質層と空気極との間にバリア層を介挿させる手法が提案されている(特許文献1参照)。また、固体電解質層を構成する材料として、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)やScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)などのジルコニア系材料などが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−3478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、固体電解質層を構成する材料としてジルコニア系材料を用いた場合、固体電解質層とバリア層との焼成(共焼成を含む)によって、固体電解質層に含まれるジルコニアがバリア層に拡散される。このようにバリア層に拡散されたジルコニアは、燃料電池セルの高温作動時に空気極を構成する材料と反応することによって、燃料電池の耐久性を低下させるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、耐久性を向上可能な燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面に係る燃料電池セルは、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極との間に配置され、ジルコニウムを含む固体電解質層と、固体電解質層と空気極との間に配置され、セリウムとジルコニウムを含むバリア層と、を備える。バリア層のうち空気極との接合領域におけるジルコニウム濃度の最大値は、固体電解質層におけるジルコニウム濃度の最大値を1とした場合、0.08以上0.4以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐久性を向上可能な燃料電池セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】燃料電池の構成を示す断面図
【図2】固体電解質層およびバリア層におけるセリウム濃度分布とジルコニウム濃度分布を模式的に示すグラフ
【図3】第2バリア層の表面画像
【図4】1350℃で焼成されたサンプルにおけるジルコニウム及びセリウムについてのシグナル強度の測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
以下の実施形態では、燃料電池の一例として、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)を挙げて説明する。また、以下においては、積層された複数の燃料電池セルを備える縦縞型燃料電池について説明するが、本発明は、基板上に並べられた複数の燃料電池セルを備える横縞型燃料電池にも適用可能である。
【0012】
≪燃料電池1の構成≫
燃料電池1の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、燃料電池1の構成を示す断面図である。
【0013】
燃料電池1は、図1に示すように、燃料電池セル(以下、「セル」と略称する。)10と、集電部材20と、を備える。燃料電池1では、図示しないが、複数のセル10が集電部材20を介してy軸方向にスタックされている。
【0014】
以下、セル10の構成、集電部材20の構成、固体電解質層12およびバリア層14におけるジルコニウム濃度分布の順に説明する。
【0015】
〈セル10の構成〉
セル10は、燃料極11、固体電解質層12、中間層13、バリア層14および空気極15を備える。セル10は、y軸方向に直交するx軸方向に延びる薄板である。セル10は、セラミックス材料によって構成される。セル10の厚みは、例えば30μm〜300μmであり、セル10の直径は、例えば5mm〜50mmである。
【0016】
(燃料極11)
燃料極11は、セル10のアノードである。燃料極11は、セル10に含まれる他層を支持する基板(換言すれば「支持体」)としての機能を有していてもよい。
【0017】
燃料極11の材料としては、例えば、公知の燃料電池セルの燃料極に用いられる材料を用いることができる。具体的に、燃料極11は、酸化ニッケル‐イットリア安定化ジルコニア(NiO‐YSZ)及び/又は酸化ニッケル‐イットリア(NiO‐Y23)を主成分として含んでいてもよい。本実施形態において、「組成物Aが物質Bを主成分として含む」とは、好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が60重量%以上であることを意味し、より好ましくは、組成物Aにおける物質Bの含量が70重量%以上であることを意味する。
【0018】
燃料極11の厚みは、例えば10μm〜300μm程度であればよい。燃料極11の厚みは、燃料極11が基板として機能する場合、セル10に含まれる他層の厚みよりも大きくてもよい。
【0019】
(固体電解質層12)
固体電解質層12は、燃料極11と中間層13との間に配置される。固体電解質層12は、空気極15で生成される酸素イオンを透過させる機能を有している。
【0020】
固体電解質層12は、ジルコニウムを含んでいる。固体電解質層12は、ジルコニウムをジルコニア(ZrO2)として含んでもよい。固体電解質層12は、ジルコニアを主成分として含んでいてもよい。また、固体電解質層12は、ジルコニアの他に、イットリア(Y23)及び/又は酸化スカンジウム(Sc23)等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、安定化剤として機能する。固体電解質層12において、安定化剤のジルコニアに対するmol組成比(安定化剤:ジルコニア)は、3:97〜20:80程度であればよい。すなわち、固体電解質層12の材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ及び10YSZ等のイットリア安定化ジルコニアやスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などのジルコニア系材料などを挙げることができる。
【0021】
固体電解質層12の厚みは、例えば30μm以下であればよい。
【0022】
なお、固体電解質層12とバリア層14におけるジルコニウム濃度分布の関係については後述する。
【0023】
(中間層13)
中間層13は、固体電解質層12とバリア層14との間に配置される。中間層13は、固体電解質層12およびバリア層14と共焼成されている。中間層13の厚みは、0.5μm以上であればよいが、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0024】
中間層13は、ジルコニウムとセリウムとを含んでいる。中間層13は、ジルコニウムをジルコニアとして、また、セリウムを酸化セリウム(CeO2:セリア)として含んでいてもよい。中間層13において、セリウム(又はセリア)とジルコニウム(又はジルコニア)とは混合されていればよいが、両者は固溶体を構成していることが好ましい。また、中間層13は、セリウム及びジルコニウムの他に、固体電解質層12やバリア層14に含まれる添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、固体電解質層12に含まれるイットリウム(Y)やスカンジウム(Sc)、或いは、バリア層14に含まれるガドリニウム(Gd)やサマリウム(Sm)などが挙げられる。
【0025】
また、中間層13は、図1に示すように、第1面13aと第2面13bと複数の気孔13cとを有している。中間層13は、第1面13aにおいて固体電解質層12に接合され、第2面13bにおいてバリア層14に接合されている。
【0026】
ここで、図2は、固体電解質層12、中間層13およびバリア層14におけるセリウム濃度分布とジルコニウム濃度分布の一例を模式的に示すグラフである。第1面13aは、図2に示すように、セリウム濃度とジルコニウム濃度とが一致するラインによって定義されている。また、中間層13の第2面13bは、断面におけるセリウム最大濃度の85%濃度のラインによって定義されている。
【0027】
なお、本実施形態において、各層の成分の「濃度」とは、各層における成分の平均含有量である。このような「濃度」は、例えば、原子濃度プロファイルによるライン分析、つまりEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による特性X線強度の比較によって得ることができる。具体的には、セル10の厚み方向(図1のy軸方向)に平行な断面において、y軸方向に沿ってEPMAでライン分析を行うことにより、図2に示すような各元素の濃度分布データが取得される。なお、本実施形態では、EPMAは、EDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)を含む概念として用いられている。
【0028】
複数の気孔13cは、中間層13内に位置する。複数の気孔13cの少なくとも一部は、閉気孔(closed pore)であってもよい。閉気孔とは、その全体が中間層13内に存在しており、セル10の外気から遮断された気孔である。
【0029】
気孔13cの形状は特に限定されないが、気孔13cの断面は円形又は略楕円形であってもよい。気孔13cの直径又は長径は、0.05μm以上であることが好ましく、また、1μm以下であることがより好ましい。また、y軸方向に平行な断面における気孔13cの数は、第1面13aおよび第2面13bに平行な方向において、10μm長さ当たり5個以下であることが好ましい。
【0030】
また、中間層13の気孔率(換言すれば「空間率」)は、1%以上で15%以下であることが好ましい。このような中間層13の気孔率は、バリア層14の気孔率よりも高い。バリア層14の気孔率は、10%以下であることが好ましい。また、中間層13の気孔率は、固体電解質層12の気孔率よりも高い。固体電解質層12の気孔率は、例えば7%以下とすることができる。
【0031】
なお、気孔率は、所望の層の総体積V1に対する空隙の体積V2の比(V2/V1)で表されるが、所望の層の断面における単位面積当たりにおける気孔の占有面積に近似することができる。具体的に、気孔率は、y軸方向に平行な断面の電子顕微鏡(SEM或いはFE−SEM)画像における[気孔の面積の総和/層の総面積]と捉えることができる。このように、2次元の組織から3次元の構造を推定する手法については、“水谷惟恭、尾崎義治、木村敏夫、山口喬著、「セラミックプロセッシング」、技報堂出版株式会社、1985年3月25日発行、第190頁から第201頁”に詳細に記載されている。
【0032】
なお、1つの視野において算出された気孔率を層全体の気孔率とみなしてもよいし、複数の視野において算出された気孔率の平均値を層全体の気孔率とみなしてもよい。
【0033】
(バリア層14)
バリア層14は、中間層13と空気極15との間に配置される。バリア層14の厚みは、例えば40μm以下、30μm以下或いは20μm以下であればよい。バリア層14は、空気極15から固体電解質層12へのカチオンの拡散を抑制することによって、高抵抗層の形成を抑制する。これによって、セル10の出力密度の低下が抑制されるとともに、セル10の長寿命化が図られている。
【0034】
本実施形態において、バリア層14は、図1に示すように、第1バリア層14aと、第2バリア層14bと、によって構成されている。
【0035】
第1バリア層14aは、中間層13上に配置されている。第1バリア層14aは、中間層13と共焼成されており、緻密な構造を有している。第1バリア層14aは、セリウムを含んでいる。第1バリア層14aは、セリウムをセリアとして含んでもよい。第1バリア層14aの材料としては、セリア及びセリアに固溶した希土類金属酸化物を含むセリア系材料を用いることができる。セリア系材料としては、例えばガドリニウムドープセリア((Ce, Gd)O2:GDC)やサマリウムドープセリア((Ce, Sm)O2:SDC)などが挙げられる。希土類金属酸化物のセリアに対するmol組成比(希土類金属酸化物:セリア)は、5:95〜20:80程度であればよい。
【0036】
また、第1バリア層14aは、ジルコニウムを含んでいる。第1バリア層14aは、ジルコニウムをジルコニアとして含んでいてもよい。バリア層14において、ジルコニウム(又はジルコニア)は、主成分であるセリウム(又はセリア)と混合されていればよいが、セリウムと固溶体を構成していることが好ましい。
【0037】
第2バリア層14bは、第1バリア層14aと空気極15との間に形成される。第2バリア層14bは、空気極15に接合されている。
【0038】
第2バリア層14bは、固体電解質層12および第1バリア層14aの共焼成後に別途焼成されることによって形成されている。すなわち、第2バリア層14bは、固体電解質層12および第1バリア層14aとは共焼成されていない。第2バリア層14bの気孔率は、第1バリア層14aの気孔率より大きくてもよい。
【0039】
第2バリア層14bは、上述した第1バリア層14aと同様の材料によって構成することができる。具体的には、液相法(共沈法やクエン酸法など)によって作製されたGDCなどを、第2バリア層14bの材料として用いることができる。
【0040】
本実施形態に係る第2バリア層14bは、後述するように、セリウム(又はセリア)を主成分として含んでいるが、微量のジルコニウム(又はジルコニア)も含んでいる。
【0041】
具体的には、図2に示すように、第2バリア層14bは、微量のジルコニウムを含む接合領域Xを有している。接合領域Xとは、バリア層14のうち空気極15との界面(図2では、グラフの右端)から3μmの領域として定義することができる。
【0042】
このような接合領域Xにおけるジルコニウム濃度の最大値は、固体電解質層12におけるジルコニウム濃度の最大値を“1”とした場合に、“0.08以上0.4”以下に規定されていることが好ましく、“0.32〜0.4”の範囲内に規定されていることがより好ましい。
【0043】
接合領域Xにおけるジルコニウム濃度の最大値は、バリア層14の材料の合成方法、平均粒径及び比表面積や、バリア層14の材料からなるセラミックグリーンシートの膜厚、焼成温度及び焼成時間などを調整することによってコントロール可能である。
【0044】
なお、第2バリア層14bの厚みが3μm以下である場合には、第2バリア層14bの全体が接合領域Xとして定義されうる。
【0045】
(空気極15)
空気極15は、バリア層14上に配置される。空気極15は、セル10のカソードである。空気極15は、緻密な構造を有するバリア層14よりも多くの微細な孔を含んでいる。本実施形態において、空気極15は、「多孔質層」の一例である。
【0046】
空気極15の材料としては、例えば、公知の燃料電池セルの空気極に用いられる材料を用いることができる。具体的に、空気極15は、ランタンストロンチウムコバルトフェライト((LaSr)(CoFe)O3:LSCF)を主成分として含んでいてもよい。LSCFの組成は、例えばLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83とすることができるが、これに限られるものではない。
【0047】
空気極15の厚みは、5μm〜50μm程度であればよい。
【0048】
〈集電部材20の構成〉
集電部材20は、図1に示すように、複数の導電接続部21と、導電性接着剤22と、を有する。
【0049】
導電接続部21は、集電部材20に設けられた凹部である。導電接続部21の底部は、導電性接着剤22を介して空気極15に接続されている。発電時には、導電接続部21の周囲から空気極15に空気が供給される。
【0050】
≪燃料電池セル10の製造方法≫
次に、燃料電池セル10の製造方法の一例について説明する。ただし、以下に述べる材料、粒径、温度、及び塗布方法等の各種条件は、適宜変更することができる。
【0051】
まず、複数のセラミックグリーンシートを積層し熱圧着することによって、燃料極11となる第1材料層を形成する。セラミックグリーンシートは、例えば、酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア系材料(例えば8YSZ)、造孔剤(例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂))などによって構成される。
【0052】
次に、第1材料層上にジルコニア系材料によって構成されるセラミックグリーンシートを積層することによって、固体電解質層12となる第2材料層を形成する。
【0053】
次に、第2材料層上にセリア系材料によって構成されるセラミックグリーンシートを積層することによって、第1バリア層14aとなる第3材料層を形成する。
【0054】
次に、第1乃至第3材料層を脱脂後に1100〜1350℃で1〜20時間かけて共焼成することで共焼成体を形成する。これによって、第1材料層が燃料極11となり、第2材料層が固体電解質層12となり、第3材料層が第1バリア層14となる。
【0055】
次に、共焼成体の第1バリア層14a上に、液相法(共沈法やクエン酸法など)によって作製されたセリア系材料によって構成されるセラミックグリーンシートを積層することによって、第2バリア層14bとなる第4材料層を形成する。
【0056】
次に、第4材料層を脱脂後に1100〜1450℃で1〜20時間かけて焼成する。これによって、第4材料層が第2バリア層14bとなる。
【0057】
次に、第2バリア層14b上に、LSCF材料を印刷法などによって塗布することによって、空気極15となる第5材料層を形成する。
【0058】
次に、第5材料層を900〜1150℃で1〜20時間かけて焼成することによって第5材料層が空気極15となり、セル10が完成する。
【0059】
≪作用及び効果≫
(1)本実施形態に係る燃料電池セル10において、バリア層14の接合領域Xにおけるジルコニウム濃度の最大値は、固体電解質層12におけるジルコニウム濃度の最大値を“1”とした場合に、“0.08以上0.4以下”に規定されている。
【0060】
本発明者らは、焼成時に固体電解質層12からバリア層14にジルコニアが拡散することに着目して燃料電池セル10の耐久性について鋭意検討を行なった。
【0061】
その結果、ジルコニウム濃度の最大値を“1”とした場合に、接合領域Xにおけるジルコニウム濃度の最大値を“0.4以下”に規定することによって、バリア層14と空気極15との間における高抵抗層の形成を抑制できるという知見を得た。具体的には、接合領域Xにおけるジルコニウム濃度を抑えることによって、燃料電池セル10の高温作動時にバリア層14のジルコニウムと空気極15のランタンやストロンチウムとから高抵抗層(LaZrやSrZrOなど)が形成されることを抑制できる。
【0062】
また、本発明者らは、ジルコニウム濃度の最大値を“1”とした場合に、接合領域Xにおけるジルコニウム濃度の最大値を“0.08以上”に規定することによって、バリア層14と空気極15との界面剥離を抑制できるという知見を得た。具体的には、接合領域Xにおけるジルコニウム濃度を必要量確保することによって、バリア層14の膜強度を向上させることができる。その結果、空気極15をバリア層14に焼き付ける際にバリア層14に発生するクラックを低減できるので、バリア層14と空気極15の界面剥離の発生を抑制することができる。
【0063】
このように、本実施形態では、接合領域Xにおけるジルコニウム濃度を適切な範囲に規定することによって、燃料電池セル10の耐久性の向上と空気極15の剥離の抑制とが実現されている。
【0064】
(2)中間層13は、複数の気孔13cを有する。
【0065】
従って、固体電解質層12とバリア層14とが共焼成されることによって固体電解質層12およびバリア層14の内部に発生する歪を、中間層13に含まれる複数の気孔13cによって緩和することができる。そのため、固体電解質層12とバリア層14とが剥離することを抑制することができる。
【0066】
(3)本実施形態に係る燃料電池セル10において、中間層13の気孔率は、バリア層14の気孔率よりも高い。
【0067】
従って、中間層13による歪緩和効果(すなわち、熱応力緩和効果)をより向上させることができる。
【0068】
(4)複数の気孔13cの少なくとも一部は閉気孔である。
【0069】
従って、中間層13による歪緩和効果を向上できるとともに、中間層13にクラックが発生したとしても、その成長を閉気孔で止めることができる。
【0070】
≪他の実施形態≫
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0071】
(A)上記実施形態において、セル10は、燃料極11、固体電解質層12、中間層13、バリア層14および空気極15を備えることとしたが、これに限られるものではない。セル10は、中間層13を備えていなくてもよいし、また、燃料極11と固体電解質層12との間に他の層が介挿されていてもよい。
【0072】
(B)上記実施形態において、バリア層14は2層構造を有することとしたが、これに限られるものではない。バリア層14は、単層構造、或いは、3層以上の多層構造を有していてもよい。なお、バリア層14が3層以上の多層構造を有している場合には、空気極15に直接接触する接合層が「接合領域」を有していればよい。さらに、この場合には、接合層を構成する材料の合成方法、平均粒径及び比表面積や、接合層の材料からなるセラミックグリーンシートの膜厚、焼成温度及び焼成時間などを調整することによって、接合領域Xにおけるジルコニウム濃度の最大値をコントロールすることができる。なお、バリア層14のうち接合層のみを調整することによってジルコニウム濃度の最大値をコントロールした場合であっても、燃料電池セルの耐久性の向上と空気極の剥離の抑制とを実現できることは実験的に確認されている。
【0073】
(C)上記実施形態において、接合領域Xは、バリア層14のうち空気極15との界面から3μm以内の領域であることとしたが、これに限られるものではない。例えば、バリア層14が単層構造であって厚みが3μm以下である場合、バリア層14の全体を接合領域Xとして定義することができる。
【0074】
(D)上記実施形態では特に触れていないが、セル10の形状は、燃料極支持型、平板形、円筒形、縦縞型、横縞型、片端保持型、両端保持型などであればよい。また、セル10の断面は、楕円形状などであってもよい。
【0075】
(E)上記実施形態では特に触れていないが、燃料極11は、2つ以上の層によって構成されていてもよい。例えば、燃料極11は、基板と、基板上に形成された燃料極活性層(燃料側電極)と、によって構成されていてもよい。基板及び燃料極活性層は、燃料極11の材料として上述した材料によって構成されていればよいが、例えば、NiO‐Y23によって基板を構成し、NiO‐YSZによって燃料極活性層を構成することができる。
【実験例】
【0076】
以下において本発明に係るセルの実験例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0077】
[実験例No.1〜No.10の製作]
以下のようにして、実験例No.1〜No.10に係るセルを作製した。なお、実験例No.1〜No.10に係る作製条件の相違点は、第2バリア層の作製方法においてされている点である。
【0078】
まず、酸化ニッケル(NiO、平均粒径:0.8μm)、ジルコニア系材料(8YSZ、平均粒径:0.6μm)、及び造孔剤(PMMA、平均粒径:5μm)からなるセラミックグリーンシート(厚み200μm)を、800μmとなるように積層し熱圧着(60℃、3MPa)した。これによって、一体化された成形体を作製した。
【0079】
次に、成形体上に、別途作製された8YSZからなるセラミックグリーンシートと、GDCからなるセラミックグリーンシートと、を順次積層し熱圧着した。これによって、燃料極材料、ジルコニア系材料層、セリア系材料層が順次積層された積層体を作製した。
【0080】
次に、積層体を1400℃で1〜20時間かけて共焼成した。これによって、燃料極材料から燃料極が形成され、ジルコニア系材料層から固体電解質層が形成され、セリア系材料層から第1バリア層が形成された。
【0081】
次に、第1バリア層上に、GDCからなるセラミックグリーンシートを積層し熱圧着した後に焼成することによって、第2バリア層を形成した。
【0082】
実験例No.1〜No.10では、GDCの合成方法、平均粒径および比表面積や、セラミックグリーンシートの膜厚、焼成温度、焼成時間の組み合わせを次の範囲内で様々に変更した。
【0083】
・GDCの合成方法:固相法、液相法(共沈法、クエン酸法、ペチニ法等)
・平均粒径:0.1〜3μm
・比表面積:1〜30m/g
・膜厚:1〜30μm
・焼成温度:1000〜1400℃
・焼成時間:1〜30時間
なお、実験例No.1〜No.10では、GDCの粒度分布や造孔材添加量についても変更しているが、詳細については省略する。
【0084】
次に、第2バリア層上に、LSCF材料(30μm)を塗布し、900〜1150℃で1〜20時間かけて焼成した。これによって、LSCF層から空気極が形成された。
【0085】
[第2バリア層の表面観察]
実験例No.1〜No.10の第2バリア層を形成した段階で、1150℃、1200℃、1250℃、1300℃、1350℃で焼成されたサンプルの第2バリア層表面をSEM−EDS(Scanning Electron Microscopy-Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)で観察した。また、画像ソフトを用いて第2バリア層表面の画像を取得した。第2バリア層の表面画像を焼成温度ごとに図3(a)〜図3(e)に示す。
【0086】
[バリア層と固体電解質層における成分濃度の測定]
実験例No.1〜No.10のセルを厚み方向に平行に切断し、FE‐EPMA(電界放射型電子プローブマイクロアナライザ)を用いて断面を元素マッピングすることによって、ジルコニウム及びセリウムについてのシグナル強度を測定した。1350℃で焼成されたサンプルの測定結果を一例として図4に示す。
【0087】
[連続発電試験]
実験例No.1〜No.10のセルについて以下の条件で1000時間の連続発電試験を実施した。
【0088】
・試験温度:750℃
・電流密度:0.2A/cm
・空気極に空気を供給(ガス利用率5%以下)
・燃料極に水素ガスを供給(ガス利用率5%以下)
そして、実験例No.1〜No.10のセルについて定電流負荷時の電圧を計測することによって、連続発電前後における1000時間あたりの電圧低下率を劣化率と定義して測定した。
【0089】
電圧低下率の測定結果を、実験例No.1〜No.10の接合領域(バリア層のうち空気極から3μmの領域)におけるジルコニウム濃度の最大値とともに表1に示す。
【0090】
なお、接合領域におけるジルコニウム濃度の最大値は、固体電解質層におけるジルコニウム濃度の最大値を“1”として規格化された値である。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示すように、接合領域におけるジルコニウム濃度の最大値を“0.4以下”に規定することによって、劣化率を大幅に改善できることが確認された。具体的には、実験例No.1〜No.8において、0.4%以下の劣化率を実現することができた。
【0093】
一方で、実験例No.1では、空気極を焼き付けた際に、第2バリア層内のクラックによって空気極が剥離するという不具合が発生することがあった。これは、接合領域におけるジルコニウム濃度が過少であったため、バリア層14の膜強度を十分に向上させられなかったためである。このように、接合領域におけるジルコニウム濃度の最大値を“0.08以上”に規定することによって、バリア層と空気極の界面剥離の発生を抑制できることが確認された(実験例No.2〜No.8)。
【0094】
以上より、固体電解質層におけるジルコニウム濃度の最大値を“1”とした場合に、接合領域におけるジルコニウム濃度を“0.08以上0.4以下”に規定することによって、燃料電池セルの劣化率の低減と第2バリア層のクラックの抑制とを両立できることが判った。
【0095】
[熱サイクル試験]
実験例No.4〜No.9のセルを準備して、大気雰囲気の赤外線ランプ式電気炉において、常温から800℃まで400℃/hrで昇温した後、炉冷によって200℃/hrで冷却する熱サイクル試験を連続100回行った。
【0096】
熱サイクル試験終了後に、各セルの空気極とバリア層の界面における剥離の発生の有無を光学顕微鏡による表面観察及びSEM画像上での断面観察により評価した。界面剥離の有無を下表2に記載する。
【0097】
【表2】

【0098】
表2に示すように、実験例No.6〜No.8において、接合領域におけるジルコニウム濃度の最大値を“0.32以上かつ0.40以下”に規定することによって、空気極とバリア層との剥離を抑制できることが確認された。従って、接合領域におけるジルコニウム濃度の最大値を“0.32以上”に規定することによって、燃料電池セルの耐久性を向上させられることが判った。
【符号の説明】
【0099】
1 燃料電池
10 燃料電池セル
11 燃料極
12 固体電解質層
14 バリア層
14a 第1バリア層
14b 第2バリア層
14 空気極
20 集電部材
21 導電接続部
22 導電性接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極との間に配置され、ジルコニウムを含む固体電解質層と、
前記固体電解質層と前記空気極との間に配置され、セリウムとジルコニウムを含むバリア層と、
を備え、
前記バリア層のうち前記空気極との接合領域におけるジルコニウム濃度の最大値は、前記固体電解質層におけるジルコニウム濃度の最大値を1とした場合、0.08以上0.4以下である、
燃料電池セル。
【請求項2】
前記固体電解質層と前記バリア層との間に介挿され、ジルコニウム及びセリウムを含む中間層を備え、
前記中間層は、気孔を有する、
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記中間層の気孔率は、前記バリア層の気孔率よりも高い、
請求項2に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記中間層における気孔率は、1%以上で15%以下である、
請求項2又は3に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記バリア層における気孔率は、10%以下である、
請求項2乃至4のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記中間層に含まれる気孔の長径は、1μm以下である、
請求項2乃至5のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項7】
前記中間層は、閉気孔を含む、
請求項2乃至6のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項8】
前記バリア層は、前記固体電解質層と共焼成されている、
請求項1乃至7のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項9】
前記バリア層は、前記固体電解質層と共焼成された第1バリア層と前記空気極に接する第2バリア層とを有しており、
前記接合領域は、前記第2バリア層に含まれている、
請求項1乃至7のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項10】
前記接合領域におけるジルコニウム濃度の最大値は、前記固体電解質層におけるジルコニウム濃度の最大値を1とした場合、0.32以上である、
請求項1乃至9のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項11】
前記接合領域は、前記バリア層のうち前記空気極との界面から3μm以内の領域である、
請求項1乃至10のいずれかに記載の燃料電池セル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−41809(P2013−41809A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96682(P2012−96682)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【特許番号】特許第5055463号(P5055463)
【特許公報発行日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】