説明

特定原料の回収および再利用が並行して行われるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法

【課題】MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造に用いる特定原料(MEK、メタノール及び塩化カルシウム)の回収および再利用方法を提供し、更に製造工程の一部を改善することにより、MEK変性樹脂中の塩化カルシウム濃度を100ppm以下に管理し品質を安定化する方法の提供。
【解決手段】水溶媒中で原料のレゾルシン、回収塩化カルシウム水溶液、回収MEKを添加し、撹拌して2相系とし、塩酸触媒を添加後、反応系にホルマリンを滴下して液液不均一反応を進行させる。反応後、水洗及び蒸留を含めた密閉系リサイクル製造方法により、塩化カルシウム濃度が100ppm以下であり、レゾルシン単量体が3〜9%相当であり、レゾルシン5核体以上が30〜55%相当であるレゾルシンホルマリン樹脂水溶液を得る、特定原料(メタノール、塩化カルシウム、MEK)の回収および再利用が並行して行われるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルエチルケトン変性レゾルシンホルマリン樹脂(以下、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂と略称する)の製造工程の改良および製造時に使用する特定原料(メチルエチルケトン(以下、MEKと略称する)、メタノール及び塩化カルシウム)の再利用方法に関するものである。
更に詳しくは、本発明では、上記の原料以外にレゾルシン、水、塩酸及びホルマリン等を使用しており、これらの化学物質含む廃液から効率良く上記特定原料の回収および再利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原料である塩化カルシウム、水、MEK、レゾルシン、塩酸を所定量加え完全溶解している中に、ホルマリンを滴下して反応を行ないMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造工程において、塩化カルシウムを含む水層とMEK層とに分離し、MEK層を共沸脱水して析出した塩化カルシウムを加圧ろ過で除去した後、水とMEKを蒸留により溶媒置換後にアンモニア水でpH調整し、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を製造したことが報告されている。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
従来、レゾルシンホルマリン樹脂は硬化速度が速いので、接着剤、合板、集成材、表面被覆剤等に使用され、特にゴムや繊維に対する接着力が優れているので、タイヤ用接着剤、ゴムホース用接着剤として使用されている。
【0004】
ホルマリンには安定化剤としてメタノールが数%から10%程度含まれており、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を製造する際にホルマリンは縮合剤として使用し必須の原料となっている。しかし、各製造工程中からの廃液には、安定化剤のメタノール以外に多くの不純物が含まれており、ホルマリン滴下し液液不均一反応後のMEK層と分離した水層からのメタノール回収は必要不可欠な操作である。
【0005】
また、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂中に塩化カルシウム等の無機塩が微量残存していると、接着剤として使用しているタイヤや繊維等との接着力が低下することも知られており、この塩化カルシウムの除去方法としては、MEK層に含まれる水に溶解している塩化カルシウムはMEK層を共沸脱水して析出後に加圧ろ過により処理される。
しかし、この加圧ろ過による塩化カルシウムの除去法は煩雑で時間がかかり、また除去効果も十分でなく改善の余地がある。
【0006】
【特許文献1】WO2005/035611A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
メタノールはホルマリン中に数%から10%程度含まれており、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を製造する工程で再利用する回収水に含まれるメタノール濃度は再利用回数と共に高くなり、反応前の溶液中に含まれるメタノール濃度が高くなることにより、反応生成物であるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の5核体以上(多核体)の割合が増加するなど品質面で悪影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
本発明は、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造に用いる特定原料(塩化カルシウム、MEK)およびホルマリン中に含有されるメタノールの回収および再利用方法を提供することであり、また製造工程の一部を改善することにより、最終製品中の塩化カルシウム濃度を100ppm以下に管理し品質を安定化することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)レゾルシンを水溶媒100質量部に対して20〜40質量部添加し、(B)塩化カルシウムを水100質量部に対して20〜80質量部添加し、(C)メチルエチルケトン(以下、MEKと略称する)を(A)レゾルシン100質量部に対して10〜100質量部添加し、撹拌して固形分の残存しない2相系とし、触媒の(D)塩酸を添加し、(E)1〜40%ホルマリンを、(A)レゾルシンに対して、ホルムアルデヒド/レゾルシン=0.3〜0.7mol比となるような量を撹拌下で滴下し、液液不均一反応を進行させ、静置して2層に分離させ、水層(0)を除去後の反応生成物層であるMEK層(0)に水を反応生成物量と等量〜5倍量添加して水洗いし、静置して2層に分離させ、水層(1)を除去し、この水洗操作をさらに1回以上行い水層(2)を除去し、MEK変性されたレゾルシンホルマリン樹脂を含むMEK層(2)を得、このMEK層に対して、質量で2.5〜5倍量の水を添加し、1〜30%アンモニア水を添加して蒸留し、(C)MEKを蒸留によって除去して最終的に、反応生成物濃度30〜80%、pH6〜10の適度な流動性を有し、塩化カルシウム濃度が100ppm以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析で得られる全体のピーク面積に対して、レゾルシン単量体に相当するピーク面積が3〜9%であり、レゾルシン5核体以上に相当するピーク面積が30〜55%であるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂水溶液を得る、前記した製造工程中の特定原料(塩化カルシウム、MEK)および(E)ホルマリン中に含有されるメタノールの回収および再利用が並行して行われることを特徴とするMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法である。ただし、( )内の数値は処理順番を表す。
【0010】
本発明においては、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を製造するため、ホルマリン中に含有されるメタノールが製造工程中の水層(0)、水層(1)、水層(2)、およびMEK(2)から減圧蒸留し、更に精留することにより、メタノールの回収および再利用が並行して行われることを特徴とするMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法である。
【0011】
本発明においては、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を製造するため、製造工程中の水層(0)から減圧蒸留によりメタノール除去後の水層中に含まれる塩化カルシウム濃度を反応開始時濃度に管理するにより、反応開始時の特定原料(塩化カルシウム)として再利用が並行して行われることを特徴とするMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法である。
【0012】
本発明においては、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を製造するため、製造工程中のMEK層(2)、水層(1)および水層(2)から単蒸留し、更に精留することにより、特定原料(MEK)の回収および再利用が並行して行われることを特徴とするMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法である。
【0013】
MEKは、単にレゾルシンホルマリン樹脂のケトン変性化だけでなく、液液不均一反応溶媒としても使用し、溶解度の違いを利用して目的とする樹脂の分子量分布をコントロールする働きがある。更には、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の抽出溶媒としても利用している。
【0014】
MEKの回収法は、主として製造工程中のMEK層(2)から単蒸留し更に精留することにより分離回収できる。また、MEK層と分離した水層(1)および水層(2)からメタノール等を減圧蒸留法により除去した水を含むMEK溶液を、精留により高純度のMEKを回収することもできる。
【0015】
最終的に得られたMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の中で、メチルエチルケトンが分子中に取り込まれた成分の分子量MWは、MW=110×k+72×l+30×m−18×n(k、l、m、nは整数を表す)となる。ここで110はレゾルシンの分子量、kはレゾルシン単位の個数、72はメチルエチルケトンの分子量、lはメチルエチルケトン単位の個数、30はホルムアルデヒドの分子量、mはホルムアルデヒド単位の個数、18は水の分子量、nは水単位の個数である。そしてこれらの数値の関係はk+l+m≒n+αとなり、2≦kであり、1≦lであり、0≦mであり、α=1または2である。このメチルエチルケトンが分子中に取り込まれた成分は、液体クロマトグラフィー分析により、保持時間がメチルエチルケトンを分子中に含まない成分の5核体よりも、保持時間が長いピークとして得られるので、液体クロマトグラフィー分析で把握することができる。本発明においてレゾルシンn核体とは、レゾルシンホルマリン樹脂そのもの自体のn核体と、ケトン変性されたことによってレゾルシンホルマリン樹脂そのものよりも分子量が少し大きくなっているケトン変性レゾルシンホルマリン樹脂の双方を意味している。またそれぞれのn核体の分子量は、レゾルシンホルマリン樹脂そのもののゲルパーミエーションクロマトグラフのピークを基準にして判別している。
【0016】
本発明においては、製造工程を一部改善することにより最終樹脂製品中に含まれる塩化カルシウム濃度は大幅に低減された。改善前のMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂[比較例2]と改善後のMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂中[実施例2]に含まれる塩化カルシウム濃度とを比較した分析結果を[表1]に記載する。
【0017】
【表1】

[表1]に示す通り、製造工程中の処理方法変更および水洗処理回数によるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂中の塩化カルシウム濃度の低減効果は、かなり大きい。
【0018】
採用した分析法を次に示す。
【0019】
低温灰化・酸分解―ICP法により、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂中のカルシウム量を定量した。
【発明の効果】
【0020】
メタノールの回収方法を検討した結果、反応溶液を静置してMEK層と水層とを分離後水層(0)を抜き取り、これにアンモニア水等を添加してpH=6〜10に調整した後、蒸留法によりメタノールを効率良く回収できる。また、水洗後の水層(1)および水層(2)、MEK層(2)にも含まれており、これらを主に蒸留初期の留分を精留することにより得ることができる。
この方法で回収したメタノールは設備の洗浄溶媒や燃料用等に使用でき、またメタノールを除去したことにより、塩化カルシウムを含む水層の再利用も可能となった。
【0021】
塩化カルシウムはメタノールを蒸留法で除去した水層から、減圧または共沸脱水等により塩化カルシウムを回収することができるが、この回収法以外にも上記リサイクル法による再利用もできる。すなわち、反応前の溶液中の塩化カルシウムの濃度は39質量%であり、反応後には36質量%に低下することから、この濃度低下した分の塩化カルシウムを後追加するか、または水を単蒸留法により除去して溶液の塩化カルシウム濃度を39質量%に濃度調整することにより反応前の系に戻す、いわゆる密閉系リサイクル使用が可能である。
【0022】
MEKについては、主に製造工程中の水層と分離したMEK層(2)を単蒸留し更に精留することにより分離回収ができる。その他、分離した水層からも単蒸留し、その初留分を精製することにより回収できる。
回収した高純度のMEKは、すべて原料の一部として反応系に戻し再使用ができる。
【0023】
現行法は、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を製造する工程において、反応終了後に静置しMEK層と塩化カルシウム等を含む水層とに分離している。MEK層に含まれている微量な水に溶解している塩化カルシウムを除去するため、MEK層を共沸脱水して析出した塩化カルシウムを加圧ろ過法で除去していたが、この方法は煩雑で時間がかかり、また除去効果が不十分であった。その為にMEK層を水洗する方法(2回以上実施)に工程変更することにより、最終製品であるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂中の塩化カルシウム濃度は確実に100ppm以下に低減することが可能となり、接着力等の品質の安定した製品が製造できるようになり、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
上記製造工程の水層(0)には、原料の塩化カルシウム、メタノールおよび塩酸等が多量に含まれているため、酸性度の高い廃液である。本発明では、液中の塩化カルシウム濃度を調整するため蒸留条件としてアンモニア等で塩酸を中和し、塩酸の影響を抑えておく必要がある。蒸留に供する水層(0)の液性の程度は、pH=4〜10、より好ましくはpH=6〜9になるようにアンモニア水等でpH調整した後に減圧蒸留にて水およびメタノールを留去する。この留去したメタノール水は装置等の洗浄用に使用する。
【0025】
塩化カルシウムは、メタノールを蒸留法で除去した水層(0)から前記したリサイクル法による再利用ができる。すなわち、再利用時に反応系の塩化カルシウムの濃度は39質量%に濃度調整してから反応前の系に戻す、いわゆる塩化カルシウムの密閉系リサイクル使用が可能となった。
【0026】
水洗1回実施した水層(1)には、MEK、メタノールおよび少量の塩化カルシウム等が含まれており、初留分を除去した留分を精留することにより、高純度のMEKを得ることができる。なお、除去した初留分には主にMEKとメタノールが含まれ、これを精留することで分離・回収ができる。
【0027】
水層(2)にはMEKおよびメタノールが含まれており、アンモニア水によるpH調整の必要はなく、そのまま減圧蒸留し初留分を除去した留分を精留することにより、MEKとメタノールとを分離・回収できる。なお、メタノール回収後の水層はそのまま廃棄処理できる。
【0028】
MEKは、主に製造工程中のMEK層(2)の水溶媒置換の段階で単蒸留する。水を含むために、更に精留することにより分離回収できる。その他、分離した水層(1)および水層(2)を蒸留し更に精留することで回収できる。回収した高純度のMEKは、すべて原料の一部として反応系に戻し再使用ができる。なお、液温はMEK−水の共沸温度以下で、蒸留装置としては充填塔なしの蒸留装置でよい。また、精留装置も一般的なもので(理論段数5〜10段位)で分離することができる。
【0029】
MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造工程を改善することにより、最終製品であるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂中の塩化カルシウム濃度は確実に100ppm以下に低減でき、接着力等も含め品質の安定した製品が製造できるようになった。
【0030】
すなわち、本発明では使用される特定原料(塩化カルシウム、MEK)およびホルマリン中に含有されるメタノールの分離回収および再使用ができるので、原料コストの削減にもなっている。また製造工程を一部改善することにより、製品であるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂中の塩化カルシウム濃度が100ppm以下に低減でき、品質的にも安定したものが製造できるので、本発明の効果はかなり大きい。
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【実施例1】
【0032】
耐酸性の500リットル反応槽に水270kg、塩化カルシウム170kg、レゾルシン74kgを入れ、50℃で溶解させた後、MEK30kg、35%塩酸0.9kgを反応槽に入れた。反応系を50℃に維持しながら、37%ホルマリン33kgを30分間かけて滴下し、滴下終了後さらに30分間撹拌して液液不均一反応を進行させた。反応系の温度を維持しながら静置して2層に分離し、水層(0)を抜き取った。MEK層(0)に水100kgを添加し十分に水洗いする。静置して2層に分離させて水層(1)を抜き取った。この水洗操作をさらに1回以上行ない水層(2)を除去し、MEK層(2)にはMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を含むMEK溶液を得た。
【実施例2】
【0033】
[実施例1]で得られたレゾルシンホルマリン樹脂のMEK溶液を、再度反応槽に入れ、水80kgを添加し、28%アンモニア水0.6kgを添加して共沸温度で蒸留を行い、MEKを除去し、水分量を減量させて、目的とする固形分が約50%の適度な流動性を有するレゾルシンホルマリン樹脂水溶液を得た。この固形分が約50%のレゾルシンホルマリン樹脂水溶液は無機塩を含有せず、レゾルシン単量体およびレゾルシン5核体含有量の低減されたMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂である。
【実施例3】
【0034】
[実施例2]で得られたMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂をテトラヒドロフランに溶解させて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析を行い、未反応レゾルシン〜レゾルシン5核体以上の分布を測定した。結果を[図1]に示した。また次に、得られたクロマトグラムのピーク面積比を示した。
レゾルシン ――――― 6.5%
レゾルシン2核体――――― 13.4%
レゾルシン3核体――――― 14.3%
レゾルシン4核体――――― 13.5%
レゾルシン5核体以上――― 52.3%
【0035】
また、この時のゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析条件を次に示した。
測定機種:東ソー製HLC−8020
カラム:(G−2000)+(G−2000)+(G−4000)
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1ml/min
【0036】
[比較例1]
耐酸性の500リットル反応槽に水270kg、塩化カルシウム170kg、レゾルシン74kgを入れ、50℃で溶解させた後、MEK30kg、35%塩酸0.9kgを反応槽に入れた。反応系を50℃に維持しながら、37%ホルマリン33kgを30分間かけて滴下し、滴下終了後さらに30分間撹拌して液液不均一反応を進行させた。反応系の温度を維持しながら静置して2層に分離し、水層(0)を抜き取った。MEK層(0)をMEK200kgで希釈し、水100kgを添加して、更に同一温度を維持しながら反応系を30分間撹拌し、静置後2層に分離し、水層(1)を抜き取った。再びMEK層(1)をMEK400kgで希釈し、水とMEKの共沸温度で蒸留を行い脱水した。次に室温に冷却してから固形分の塩化カルシウムをろ過して除去して、MEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を含むMEK溶液を得た。
【0037】
[比較例2]
[比較例1]で得られたレゾルシンホルマリン樹脂のMEK溶液を、再度反応槽に入れ、水200kgを添加し、28%アンモニア水0.6kgを添加して共沸温度で蒸留を行い、MEKを除去し、水分量を減量させて、目的とする固形分が約50%の適度な流動性を有するレゾルシンホルマリン樹脂水溶液を得た。この固形分が約50%のレゾルシンホルマリン樹脂水溶液は、レゾルシン単量体およびレゾルシン5核体含有量の低減されたMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂である。
【0038】
[比較例3]
[比較例2]で得られたMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂をテトラヒドロフランに溶解させて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析を行い、未反応レゾルシン〜レゾルシン5核体以上の分布を測定した。結果を[図2]に示した。また次に、得られたクロマトグラムのピーク面積比を示した。
レゾルシン ――――― 6.6%
レゾルシン2核体――――― 13.3%
レゾルシン3核体――――― 14.0%
レゾルシン4核体――――― 13.2%
レゾルシン5核体以上――― 52.9%
【実施例4】
【0039】
[実施例1]の製造工程で得られた水層(0)からのメタノール留去の方法は、以下の通りである。
すなわち、MEKと水との液液不均一化反応が進行した後、反応系の温度を維持しながら静置して2層に分離させて、水層(0)を蒸留釜(1000L)に移動する。この水層(0)に28%アンモニア水を添加し、水溶液のpHを7〜8に中和する。その後、蒸留法(液温:65〜70℃付近)にて水溶液中のメタノールを留去する。この回収メタノールは、水層(1)および水層(2)等から回収したメタノールも含めて混合容器に移し、主に設備洗浄用として再利用できる。
【実施例5】
【0040】
耐酸性の500リットル反応槽に、[実施例4]で得られたメタノールを除去した水層中に含まれる塩化カルシウム濃度を39質量%に調整した水溶液436kg、およびレゾルシン74kgを入れ、50℃で溶解させた後、回収MEK30kg、35%塩酸0.9kgを反応槽に入れた。反応系を50℃に維持しながら、37%ホルマリン33kgを30分間かけて滴下し、滴下終了後さらに30分間撹拌して液液不均一反応を進行させた。反応系の温度を維持しながら静置して2層に分離し、水層(0)を抜き取った。MEK層(0)に水100kgを添加し十分に水洗いする。静置して2層に分離させて水層(1)を抜き取った。この水洗操作をさらに1回以上行ない水層(2)を除去し、MEK層(2)にはMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を含むMEK溶液を得た。
【実施例6】
【0041】
[実施例5]で得られたレゾルシンホルマリン樹脂のMEK溶液を、再度反応槽に入れ、水80kgを添加し、28%アンモニア水0.6kgを添加して共沸温度で蒸留を行い、MEKを除去し、水分量を減量させて、目的とする固形分が約50%の適度な流動性を有するレゾルシンホルマリン樹脂水溶液を得た。この固形分が約50%のレゾルシンホルマリン樹脂水溶液は無機塩を含有せず、レゾルシン単量体およびレゾルシン5核体含有量の低減されたMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂である。
【実施例7】
【0042】
[実施例6]で得られたMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂をテトラヒドロフランに溶解させて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析を行い、未反応レゾルシン〜レゾルシン5核体以上の分布を測定した。結果を[図3]に示した。また次に、得られたクロマトグラムのピーク面積比を示した。
レゾルシン ――――― 6.9%
レゾルシン2核体――――― 13.6%
レゾルシン3核体――――― 14.2%
レゾルシン4核体――――― 13.2%
レゾルシン5核体以上――― 52.1%
【0043】
[実施例6]の回収原料(MEK、塩化カルシウム水)を用いて合成したMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂で得られたクロマトグラムのピーク面積比と回収原料を使用しないで合成したMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂[実施例2]のゲルパーミエーションクロマトグラムのピーク面積比を比較検討すると、両者に違いは認められない。また、その他の品質試験も同様な結果が得られており、原料回収品の使用は品質上に問題ないことが確認された。
【実施例8】
【0044】
モデル実験(1)として、[実施例1]と仕込み比率を同一にした製造条件でMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂を合成し、反応後の後処理工程で得られた水層(0)、水層(1)、水層(2)およびMEK層(2)の各層中に含有するメタノール量およびMEK量をGC(ガスクロマトグラフィー)法により定量した。なお、原料のホルマリンに含有するメタノール量は8.1V/V%であった。分析結果を[表2]に記載する。
【0045】
【表2】

【0046】
また、それぞれの得量とその比重および[表2]の分析結果から、各試料中のメタノールおよびMEKの量を[表3]に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
[表3]に各試料(No.1〜No.4)中のメタノール量を示す。これは、下記の検量線を用いて各試料に含まれるメタノール量を定量し、これらの結果より各試料への分配比率は概ね[表3]に示した数値であり、当初の予想した通りの結果であった。
【0049】
各試料中のメタノールおよびMEK含有量は、以下のGC条件で定量した。
【0050】
[GC条件]
機種:Agilent Technologies 6890N、オートインジェクタ 7683ALS
カラム:溶融シリカ HP−1、0.25mmφ×30m(膜厚0.25μm)
検出器:水素炎イオン化検出器、 水素流量:30ml/min、
空気流量:400ml/min、
カラム温度:60℃(保持時間4分)、50℃/min昇温、160℃(保持時間5分 )
注入口温度:200℃、 検出器温度:220℃、
キャリアーガス:ヘリウム、 カラム流量:26cm/sec(1.0ml/min)
スプリット比: 20:1
セプタムパージ:3〜6ml/min、 メイクアップガス:窒素、25ml/min
注入量:1μl、 分析時間:4min、
【0051】
[メタノールおよびMEK用検量線の作成]
検量線の作成方法は、以下の通りである。
(1)メタノールの検量線は、メタノール5mlを100mlメスフラスコに採取し、水で定容して5%(V/V)溶液を調製した。この溶液を水で希釈して0.05、0.1、0.2および0.5%(V/V)の検量線用溶液を調製し、上記のGC条件で測定してピーク高さ(Y)と濃度(X)との検量線を作成した。
(2)同様にMEKの検量線は、0.2、0.5、1.0、および3.0%(V/V)溶液を用いて作成した。
得られた検量線の回帰式は、それぞれ以下の通りである。
【0052】
[メタノールおよびMEKの検量線]
(1)メタノール:
回帰式:Y=694.5622Х―1.5038 (相関係数r=0.9991)
(2)MEK:
回帰式:Y=2052.7238X+9.2004 (相関係数r=0.9998)
【0053】
次にモデル実験(2)として、反応液に含有するメタノール量の影響を検証する為、[実施例1]と仕込み比率を同一にした製造条件に一定量のメタノールを添加して反応を行なった。得られたそれぞれのMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂をテトラヒドロフランに溶解させて、先の分析条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析を行い、未反応レゾルシン(モノマー体)〜レゾルシン5核体以上の分布を測定した。また、得られたクロマトグラムのピーク面積%(PA%)を[表4]示した。
【0054】
【表4】

【0055】
[表4]の結果から、反応液中にメタノール量が増加するとRF樹脂中の2核体から4核体の一部が水層に移行し、結果的に5核体以上が増加する傾向が認められた。この分析結果より、反応液中にメタノール量が10%以上存在すると品質の規定値(RF樹脂中の5核体以上の割合)を逸脱することが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、特定原料(塩化カルシウム、MEK)およびホルマリン中に含有されるメタノールの回収および再利用が並行して行われることを特徴とするMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法であり、製品の品質安定化、コストダウン、環境への負荷を低減することで、同様なホルマリンを使用した重合物の製造にも応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例2で得られたMEKレゾルシンホルマリン樹脂水溶液のゲルパーミエーションクロマトグラフ図である。
【図2】比較例2で得られたMEKレゾルシンホルマリン樹脂水溶液のゲルパーミエーションクロマトグラフ図である。
【図3】実施例6で得られたMEKレゾルシンホルマリン樹脂水溶液のゲルパーミエーションクロマトグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レゾルシンを水溶媒100質量部に対して20〜40質量部添加し、(B)塩化カルシウムを水100質量部に対して20〜80質量部添加し、(C)メチルエチルケトン(以下、MEKと略称する)を(A)レゾルシン100質量部に対して10〜100質量部添加し、撹拌して固形分の残存しない2相系とし、触媒の(D)塩酸を添加し、(E)1〜40%ホルマリンを、(A)レゾルシンに対して、ホルムアルデヒド/レゾルシン=0.3〜0.7mol比となるような量を撹拌下で滴下し、液液不均一反応を進行させ、静置して2層に分離させ、水層(0)を除去後の反応生成物層であるMEK層(0)に水を反応生成物量と等量〜5倍量添加して水洗いし、静置して2層に分離させ、水層(1)を除去し、この水洗操作をさらに1回以上行い水層(2)を除去し、MEK変性されたレゾルシンホルマリン樹脂を含むMEK層(2)を得、このMEK層に対して、質量で2.5〜5倍量の水を添加し、1〜30%アンモニア水を添加して蒸留し、(C)MEKを蒸留によって除去して最終的に、反応生成物濃度30〜80%、pH6〜10の適度な流動性を有し、塩化カルシウム濃度が100ppm以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析で得られる全体のピーク面積に対して、レゾルシン単量体に相当するピーク面積が3〜9%であり、レゾルシン5核体以上に相当するピーク面積が30〜55%であるMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂水溶液を得る、前記した製造工程中の特定原料(塩化カルシウム、MEK)および(E)ホルマリン中に含有されるメタノールの回収および再利用が並行して行われることを特徴とするMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法。ただし、( )内の数値は処理順番を表す。
【請求項2】
前記した(E)1〜40%ホルマリン中に含有されるメタノールを前記したMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂製造工程中の水層(0)、水層(1)、水層(2)、およびMEK(2)から減圧蒸留し、更に精留することにより、メタノールの回収および再利用が並行して行われる、請求項1記載のMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記したMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂製造工程中の水層(0)からメタノール除去した後に、水層中に含まれる塩化カルシウム濃度を反応開始時濃度に管理することにより、反応開始時の特定原料(塩化カルシウム)として再利用が並行して行われる、請求項1記載のMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記したMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂製造工程中のMEK層(2)、水層(1)および水層(2)から単蒸留し、更に精留することにより、特定原料(MEK)の回収および再利用が並行して行われる、請求項1記載のMEK変性レゾルシンホルマリン樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−106233(P2008−106233A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223907(P2007−223907)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】