説明

特殊糸の製造方法

【課題】短いスラブを生成するためにフロントローラの急激な減速及び加速を行うための電磁クラッチあるいは容量の大きなモータを必要とせずに、生産性を殆ど落とすことなく短いスラブを有する特殊糸を製造する。
【解決手段】フロントローラとバックローラとがそれぞれ別の可変速モータで駆動されるドラフトパートを有する紡機を用い、スラブの生成動作前に糸の太さを変えずに、一時的にフロントローラ及びバックローラを減速させ、紡出速度を通常紡出時よりも遅くした状態にし、その状態からスラブ生成動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊糸の製造方法に係り、詳しくは太さが一定ではなく、部分的に基準太さの部分より太く生成されたスラブを有するスラブ糸あるいは意匠糸と呼ばれる特殊糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の特殊糸は、基準太さの糸の紡出中にフロントローラとバックローラとのドラフト比を一時的に小さくするようにフロントローラ及びバックローラを変速させることにより製造されている。また、スラブの最短長さは繊維長程度であることが一般的に言われており、短いスラブを製造するには、短い繊維長の原料を使ったり、フロントボトムローラ及びバックボトムローラを短時間に急加減速させたりすることが有効であることが公知となっている。
【0003】
従来、図7に示すように、ショートスラブ(短いスラブ)を生成する際にはフロントローラの回転数を一時的に零にし、ロングスラブを生成する際にはフロントローラの回転数をバックローラの回転数に近づけるように減速する特殊糸の製造装置が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の製造装置では、フロントローラ及びバックローラはそれぞれ別の可変速モータで駆動される。また、フロントローラは2個の歯車伝動機構及び2個の電磁クラッチを介して可変速モータの回転が伝達可能に構成されている。2個の電磁クラッチがオフ状態では可変速モータの回転がフロントローラに伝達されず、1個の電磁クラッチがオン状態の時より2個の電磁クラッチがオン状態の時の方が可変速モータの回転速度が減速された状態でフロントローラに伝達されるようになっている。そして、2個の電磁クラッチの断接を制御することで、ショートスラブ及びロングスラブの生成を行い、ショートスラブの生成時にはフロントローラの回転を一時的に停止させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−162031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、フロントローラの急激な減加速を電磁クラッチ及び歯車伝動機構を用いて行う構成では機構が複雑になり、コストも高くなる。また、通常の紡出速度(15〜30m/分)では可変速モータの変速だけでフロントローラの減加速を行ってショートスラブを生成するには、可変速モータとして容量の大きなモータが必要になるだけでなく、駆動系の伝動装置の強度を大きくしなければならないという課題もある。
【0006】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は短いスラブを生成するためにフロントローラの急激な減速及び加速を行うための電磁クラッチあるいは容量の大きなモータを必要とせずに、生産性を殆ど落とすことなく短いスラブを有する特殊糸を製造することができる特殊糸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、部分的に基準太さの部分より太く生成されたスラブを有する特殊糸の製造方法であって、フロントローラとバックローラとがそれぞれ別の可変速モータで駆動されるドラフトパートを有する紡機を用い、前記スラブの生成動作前に糸の太さを変えずに、一時的に前記フロントローラ及び前記バックローラを減速させ、紡出速度を通常紡出時よりも遅くした状態にし、その状態からスラブ生成動作を行う。ここで、「バックローラ」とは、フロントローラへスライバを送り出し、フロントローラとの回転速度差でスライバをドラフトするためフロントローラの上流側に配置されたローラを意味する。例えば、ドラフトパートが3線式であればミドルローラ(セカンドローラ)及びサードローラ(バックローラ)となり、ドラフトパートが2線式であればセカンドローラ(バックローラ)となる。
【0008】
この発明では、基準太さの部分の紡出中にその紡出速度においてスラブの生成動作、即ちフロントローラの急激な減加速を行う従来技術と異なり、スラブの生成動作前に糸の太さを変えずに、一時的にフロントローラ及びバックローラを減速させて紡出速度を通常紡出時よりも遅くした状態から、スラブの生成動作を開始する。即ち、通常の紡出速度より低速の状態から、ドラフト比が基準太さの部分を紡出するときより小さくなるように、フロントローラの減加速及びバックローラの加減速の少なくとも一方の変速を行ってスラブを生成する。例えば、スラブ生成動作前に一旦紡出速度を通常紡出時の1/3に落とせば、スラブ生成動作時のローラに必要な減速度及び加速度は通常紡出時の1/9に落とすことが可能である。そのため、極短スラブを生成する際に、可変速モータとして容量の大きなモータを使用せずにフロントローラやバックローラの変速を無理なく行うことができる。したがって、短いスラブを生成するためにフロントローラの急激な減速及び加速を行うための電磁クラッチあるいは容量の大きなモータを必要とせずに、生産性を殆ど落とすことなく短いスラブを有する特殊糸を製造することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記スラブ生成動作は、前記フロントローラを減速してドラフト比を下げる。この発明では、スラブ生成時には、フロントローラの減速だけでドラフト比を下げるため、バックローラの変速制御を行う必要がない。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記スラブ生成時には、前記バックローラを増速してドラフト比を下げる。この発明では、スラブ生成時には、バックローラの加速制御が行われる。バックローラの加速制御だけでドラフト比を目的の値に下げる場合はフロントローラの変速制御を行う必要がない。また、バックローラの加速制御と共にフロントローラの減速制御を行う場合は、バックローラ単独あるいはフロントローラ単独で変速制御を行ってドラフト比を目的の値に下げる場合に比べて、フロントローラ及びバックローラの変速量を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短いスラブを生成するためにフロントローラの急激な減速及び加速を行うための電磁クラッチあるいは容量の大きなモータを必要とせずに、生産性を殆ど落とすことなく短いスラブを有する特殊糸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は一実施形態の各ボトムローラの速度変化、ドラフト比の変化及びスラブ糸の形状との関係を示す模式図、(b)はパターンデータを示す模式図。
【図2】特殊糸製造装置の構成図。
【図3】別の実施形態の各ボトムローラの速度変化を示す図。
【図4】別の実施形態の各ボトムローラの速度変化を示す図。
【図5】別の実施形態の各ボトムローラの速度変化を示す図。
【図6】別の実施形態の各ボトムローラの速度変化を示す図。
【図7】従来技術のスピンドル、フロントローラ及びバックローラの速度変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
特殊糸製造装置は基本的にリング精紡機と同じに構成されている。図2に示すように、スピンドル1はモータ2により駆動される駆動プーリ3と、被動プーリ4と、両プーリ3,4間に巻き掛けられたタンゼンシャルベルト5とを備えたスピンドル駆動系により回転駆動されるようになっている。モータ2にはインバータ6を介して駆動される可変速モータが使用され、ロータリエンコーダ2aを備えている。スピンドル列に沿ってラインシャフト7が回転自在に配設されている。ラインシャフト7にはトラベラTが走行するリング8aを備えたリングレール8と、スネルワイヤ9を備えたラペットアングル(図示せず)とを昇降させる昇降ユニット10が所定間隔で配設されている(1個のみ図示)。
【0014】
昇降ユニット10はラインシャフト7に一体回転可能に嵌着固定されたねじ歯車11と、リングレール8を支持するポーカピラー12の下部に形成されたスクリュー部12aに螺合するとともにねじ歯車11と噛合するナット体13とを備えている。ラインシャフト7はサーボモータ14の駆動軸に歯車機構(図示せず)を介して連結されており、サーボモータ14が正逆回転駆動されることによりリングレール8が昇降するようになっている。サーボモータ14はロータリエンコーダ14aを備え、サーボドライバ15を介して制御される。
【0015】
ドラフトパート16を構成するフロントローラ17(ボトムローラのみ図示)は可変速モータとしての第1サーボモータ18に連結されている。ミドルローラ19(ボトムローラのみ図示)は可変速モータとしての第2サーボモータ20に連結され、バックボトムローラ21(バックトップローラは図示せず)は歯車列22を介してミドルローラ19と連結されている。この実施形態ではミドルローラ19以降のドラフトローラがバックローラを構成する。即ち、フロントローラ17とミドルローラ19以降の他のドラフトローラ即ちバックローラとは、それぞれ別の可変速モータで駆動されるようになっている。両サーボモータ18,20はロータリエンコーダ18a,20aをそれぞれ備えている。ミドルローラ19はエプロン19aを備えている。フロントローラ17に一体回転可能に固定された歯車17aの近傍にはフロントローラ17の回転に対応してパルス信号を出力するセンサS1が設けられている。
【0016】
前記各モータ2,14,18,20を制御する制御装置23は、CPU(中央処理装置)24、プログラムメモリ25、作業用メモリ26、入力装置27を備えている。CPU24は図示しない入力インタフェースを介してロータリエンコーダ2a,14a,18a,20a、センサS1及び入力装置27とそれぞれ接続されている。CPU24は図示しない出力インタフェース及びモータ駆動回路を介してインバータ6、サーボドライバ15にそれぞれ接続されている。CPU24は図示しない出力インタフェース、駆動回路及びサーボドライバ28を介して第1サーボモータ18に接続され、出力インタフェース、駆動回路及びサーボドライバ29を介して第2サーボモータ20にそれぞれ接続されている。
【0017】
CPU24はプログラムメモリ25に記憶された所定のプログラムデータに基づいて動作する。プログラムメモリ25は読出し専用メモリ(ROM)よりなり、前記プログラムデータと、その実行に必要な各種データとが記憶されている。
【0018】
プログラムデータとしては巻き取り運転中のモータ2及びサーボモータ14の制御プログラム、通常紡出時の第1サーボモータ18及び第2サーボモータ20の駆動制御のためのプログラム、スラブを生成する際の第1サーボモータ18及び第2サーボモータ20の変速制御のためのプログラムがある。各種データには種々の繊維種、基準太さの紡出糸番手及びドラフト率等の紡出条件と、通常紡出時のスピンドル回転速度、第1サーボモータ18及び第2サーボモータ20の回転速度、リングレール8の昇降速度との対応データ等がある。
【0019】
作業用メモリ26は読出し及び書替え可能なメモリ(RAM)よりなり、入力装置27により入力されたデータやCPU24における演算処理結果等を一時記憶する。作業用メモリ26はバックアップ電源(図示せず)を備えている。
【0020】
入力装置27は特殊糸のパターンデータ、基準太さの紡出糸番手、基準太さの紡出糸の紡出時のスピンドル回転速度、リフト長、チェイス長等の紡出条件データの入力に使用される。なお、特殊糸のパターンデータは、図1(b)に示すように、特殊糸SYの基準太さの部分Y0より太いスラブ(太糸部)Sの長さであるスラブ長Lsと、スラブS間の基準太さの部分Y0の長さであるスラブSのピッチ長Pで構成されている。そして、パターンデータは、スラブ生成のための変速をいつ行うかを示すデータ、即ちスラブ生成動作前の減速動作開始及びスラブ生成動作開始をいつ行うかを示すデータであり、紡出長により示されている。紡出長はセンサS1からの出力信号に基づいて演算される。
【0021】
第1サーボモータ18及び第2サーボモータ20の制御プログラムは、各ローラ17,19,21を通常紡出時の回転速度からスラブ生成のための回転速度に一段階で変速するのではなく、スラブ生成のための変速に先立って、通常紡出時の回転速度より低速の所定速度までドラフト比を一定に保持して変速した後、スラブ生成のための変速を行う。詳述すると、図1(a)に示すように、各ローラ17,19,21は、通常紡出時の回転速度から低速の所定速度まで減速された後、フロントローラ17はその低速に維持され、ミドルローラ19及びバックボトムローラ21はスラブ生成速度まで加速され、スラブ生成速度に所定時間保持された後、スラブ生成のための変速前の低速まで減速される。その後、各ローラ17,19,21は通常紡出時の回転速度までドラフト比を一定に保持して加速された後、通常紡出が行われるようになっている。
【0022】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。機台の運転に先立ってまず、入力装置27により紡出条件が入力される。紡出条件としては特殊糸のパターンデータ、基準太さの紡出糸番手、基準太さの紡出糸の紡出時のスピンドル回転速度、リフト長、チェイス長等のデータが入力される。
【0023】
そして、機台の起動に伴い制御装置23からの指令により、モータ2、サーボモータ14、第1サーボモータ18及び第2サーボモータ20が駆動制御される。CPU24は各ロータリエンコーダ2a,14a,18a,20aの出力信号に基づいて各モータの回転速度を演算する。そして、CPU24はスピンドル駆動系、ドラフトパート駆動系及びリフティング駆動系を紡出条件に対応した所定の速度で同期駆動するための指令信号を出力インタフェース、各駆動回路を介してインバータ6及び各サーボドライバ15,28,29に出力する。スピンドル駆動系、ドラフトパート駆動系及びリフティング駆動系はそれぞれ独立した状態で同期駆動され、ドラフトパート16から送出された特殊糸SYはスネルワイヤ9及びトラベラTを経てボビンBに巻き取られる。
【0024】
CPU24は、基準太さの糸の紡出時には、センサS1からの出力信号に基づいてフロントローラ17の回転数、即ち紡出糸長を演算する。CPU24は、スラブSの紡出を行う際には、糸の太さを変えずに、即ちドラフト比を一定に保持した状態でフロントローラ17、ミドルローラ19、バックボトムローラ21を通常紡出時の回転速度から所定の低速度まで減速させる。その後、スラブ生成のため、フロントローラ17は所定の低速に維持し、ミドルローラ19及びバックボトムローラ21をスラブ生成最高速度まで加速した後、所定時間スラブ生成最高速度に維持し、その後、所定の低速度まで減速させる。そして、ミドルローラ19及びバックボトムローラ21が所定の低速度まで減速された後、各ローラ17,19,21は通常紡出時の回転速度までドラフト比を一定に保持して加速された後、通常紡出が行われる。以下、同様にして、特殊糸の紡出が行われる。
【0025】
その結果、図1(a)に示すように、特殊糸SYは、ミドルローラ19及びバックボトムローラ21の回転速度が通常紡出時の回転速度より低速の所定速度から加速を開始した時点から太さが基準太さより太くなり、ミドルローラ19及びバックボトムローラ21の回転速度がスラブ生成最高速度となった時点で最も太くなる。そして、ミドルローラ19及びバックボトムローラ21の回転速度がスラブ生成最高速度に維持される間、最大太さの部分が生成され、その後、スラブ生成動作開始時点の低速度まで減速される間、太さが次第に細くなるように生成される。特殊糸SYの太さが基準太さの部分より太い部分がスラブSとなり、スラブ長Lsは太さが異なる部分全長を意味する。
【0026】
各ローラ17,19,21を通常紡出時の回転速度から所定の低速度まで減速させる間(図1(a)の時点t1から時点t2迄)の減速勾配と、スラブ生成動作終了後に各ローラ17,19,21を通常紡出時の回転速度まで加速させる間(図1(a)の時点t3から時点t4迄)の加速勾配は同じに設定されている。生産性を殆ど落とすことなく短いスラブを生成するためには、減速に要する時間は0.3秒以下にする必要があり、減速勾配は、通常紡出時の速度と減速完了後の目的の速度とに対応して適切な値に設定される。また、スラブ生成動作の間のバックローラ(ミドルローラ19及びバックボトムローラ21)の加速勾配と減速勾配は同じに設定されている。スラブ生成動作時間(時点t2から時点t3迄の時間)は、0.4秒以下とし、スラブ生成動作の際の加速勾配は、スラブ生成動作開始時の回転速度とスラブ生成最高速度とに対応して適切な値に設定される。即ち、スラブ生成前の準備段階(通常紡出速度からスラブ生成動作開始速度までの減速)からスラブが生成されて元の紡出速度に戻るまでの時間は1秒以下となる。
【0027】
CPU24は、紡出糸長の長さからスラブ生成動作が必要な時期に近づくと、特殊糸SYのスラブSのピッチ長Pをパターンデータのピッチ長Pと変えないように、かつ紡出速度減速完了ポイントがスラブ生成動作開始ポイントとなるように、予め紡出条件に基づいて紡出速度を落とすポイント(図1(a)の時点t1)を演算する。
【0028】
従来技術では、基準太さの部分の紡出中にその紡出速度においてスラブの生成動作、即ちフロントローラ17の急激な減加速を行う。しかし、この実施形態では従来技術と異なり、スラブの生成動作前にドラフト比を変えずに、一時的にフロントローラ17及びバックローラ(ミドルローラ19及びバックボトムローラ21)を減速させて紡出速度を遅くした状態から、スラブの生成動作を開始する。即ち、通常の紡出速度(例えば、15〜30m/分)より低速状態からドラフト比が基準太さの部分Y0を紡出するときより小さくなるように、フロントローラ17の減加速及びバックローラの加減速の少なくとも一方の変速を行ってスラブを生成する。
【0029】
標準的な長さのスラブ(スラブ長30mm以上)を生成するときに必要なローラの加速度は紡出速度の2乗に比例する。また、短いスラブ(スラブ長30mm未満)を生成するときのローラ加速度は標準的なスラブ生成時に比べて、急激なローラ加速度(略3倍〜10倍)が必要になる。しかし、例えば、スラブ生成動作前に一旦紡出速度を通常紡出時の1/3に落とせば、スラブ生成動作時のローラに必要な減速度及び加速度は通常紡出時の1/9に落とすことが可能である。そのため、極短スラブを生成する際に、可変速モータとして容量の大きなモータを使用せずにフロントローラ17やバックローラの変速を無理なく行うことができる。
【0030】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)部分的に基準太さの部分より太く生成されたスラブと呼ばれる部分を有する特殊糸SYは、フロントローラ17とバックローラ(ミドルローラ19及びバックボトムローラ21)とがそれぞれ別の可変速モータで駆動されるドラフトパート16を有する紡機を用いて製造される。そして、スラブの生成動作前に糸の太さを変えずに、一時的にフロントローラ17及びバックローラ(ミドルローラ19及びバックボトムローラ21)を減速させ、紡出速度を通常紡出時よりも遅くした状態にし、その状態からスラブ生成動作を行う。したがって、短いスラブを生成するためにフロントローラ17の急激な減速及び加速を行うための電磁クラッチあるいは容量の大きなモータを必要とせずに、生産性を殆ど落とすことなく短いスラブを有する特殊糸を製造することができる。
【0031】
(2)スラブ生成時には、バックローラ(ミドルローラ19及びバックボトムローラ21)を増速してドラフト比を下げる。即ち、スラブ生成時には、フロントローラ17の変速制御を行わずに、バックローラの加速制御が行われるため、フロントローラ17だけの加減速制御を行う場合に比べて、フロントローラの駆動負荷が減り、また生産性もあがる。
【0032】
(3)スラブ生成動作前に行うフロントローラ17及びバックローラの減速時の減速勾配は、紡出条件に対応して設定される。減速勾配を紡出条件に関係なく一定にしてもよいが、この減速のために要する時間は、短い方が好ましい。減速勾配を紡出条件に対応して設定することにより、ドラフトパート16に無理な負荷が加わらない状態で、減速のために要する時間が短くなる適切な減速勾配に設定することが可能になる。
【0033】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 図3に示すように、スラブ生成時に、フロントローラ17を減速してドラフト比を下げるようにしてもよい。この場合は、スラブ生成時には、フロントローラ17の減速だけでドラフト比を下げるため、バックローラの変速制御を行う必要がない。そのため、バックローラ駆動用の第2サーボモータ20の回転速度を通常紡出時の回転速度より高くする必要が無く、モータとして最高速度が低いものを使用することができる。
【0034】
○ 図4に示すように、スラブ生成時に、フロントローラ17の減速制御と共にバックローラの加速制御を行うようにしてもよい。この場合は、フロントローラ17単独あるいはバックローラ単独で変速制御を行ってドラフト比を目的の値に下げる場合に比べて、フロントローラ17及びバックローラの変速量を小さくすることができる。
【0035】
○ スラブ生成動作をフロントローラ17の減速及び加速により行う方法と、バックローラの加速及び減速により行う方法と、フロントローラ17の減速及び加速と共にバックローラの加速及び減速とにより行う方法のどの方法を採用するかは、機台の仕様や生産する特殊糸の紡出条件による。スラブ生成動作をフロントローラ17の減速及び加速により行う方法では、フロントローラ17の負荷が大きくなるため、フロント駆動系に余裕がある場合に採用するのが好ましい。バックローラの加速及び減速により行う方法では、バックローラの負荷が大きくなるため、バックローラ駆動系に余裕がある場合に採用するのが好ましい。フロントローラ17の減速及び加速と共にバックローラの加速及び減速とにより行う方法では、フロントローラ17及びバックローラの負荷は両者の中間になるため、フロント駆動系及びバックローラ駆動系の余裕が少ない場合に採用するのが好ましい。
【0036】
○ スラブ生成のためにドラフト比が基準太さの部分を紡出するときより小さくなるように、フロントローラ17の減速あるいはバックローラの加速行う場合、フロントローラ17及びバックローラが目的速度に達すると、目的速度を維持することなく、図5あるいは図6に示すように、直ちに減速及び加速を開始するように制御してもよい。
【0037】
○ スラブ生成動作においてフロントローラ17の減速を行う場合、速度ゼロまで減速、即ちフロントローラ17の一時停止を行うようにしてもよい。
○ ミドルローラ19及びバックボトムローラ21を共通の第2サーボモータ20で駆動する代わりに、それぞれ別の可変速モータで駆動する構成としてもよい。
【0038】
○ 各ローラ17,19,21を通常紡出時の回転速度から所定の低速度まで減速させる間の減速勾配と、スラブ生成動作終了後に各ローラ17,19,21を通常紡出時の回転速度まで加速させる間の加速勾配は同じではなく異なる値に設定してもよい。
【0039】
○ 各ローラ17,19,21を通常紡出時の回転速度から所定の低速度まで減速させる間の減速勾配、スラブ生成動作終了後に各ローラ17,19,21を通常紡出時の回転速度まで加速させる間の加速勾配を、予めプログラムメモリ25あるいは作業用メモリ26に紡出条件に対応して記憶させておいてもよい。
【0040】
○ スラブ生成動作の開始は、紡出速度を通常紡出時よりも遅くするためのフロントローラ及びバックローラの減速が完了した時点に限らず、減速が完了した時点から多少遅れてもよい。しかし、通常紡出と異なる紡出状態は短い方が好ましいため、減速が完了した時点から直ちにスラブ生成動作を開始するのが好ましい。
【0041】
○ スラブ生成動作開始時の紡出速度を紡出条件の入力の際にいちいち入力する構成に代えて、スラブSの太さや長さに応じて通常紡出速度からの減速率を予めプログラムメモリ25に記憶させておき、紡出条件からCPU24により自動的に設定されるようにしてもよい。
【0042】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記スラブの生成動作前に行う前記フロントローラ及び前記バックローラの減速時の減速勾配は、紡出条件に対応して設定される。
【符号の説明】
【0043】
B…ボビン、S…スラブ、SY…特殊糸、Y0…基準太さの部分、16…ドラフトパート、17…フロントローラ、18…可変速モータとしての第1サーボモータ、19…バックローラを構成するミドルローラ、20…可変速モータとしての第2サーボモータ、21…バックローラを構成するバックボトムローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的に基準太さの部分より太く生成されたスラブを有する特殊糸の製造方法であって、フロントローラとバックローラとがそれぞれ別の可変速モータで駆動されるドラフトパートを有する紡機を用い、前記スラブの生成動作前に糸の太さを変えずに、一時的に前記フロントローラ及び前記バックローラを減速させ、紡出速度を通常紡出時よりも遅くした状態にし、その状態からスラブ生成動作を行うことを特徴とする特殊糸の製造方法。
【請求項2】
前記スラブ生成動作は、前記フロントローラを減速してドラフト比を下げる請求項1に記載の特殊糸の製造方法。
【請求項3】
前記スラブ生成動作は、前記バックローラを増速してドラフト比を下げる請求項1又は請求項2に記載の特殊糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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