説明

玄米を用いる液体麹の製造方法

【課題】発酵飲食品の製造に用いられる液体麹、特に焼酎醸造に使用できるグルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼの活性が高い液体麹を提供する。
【解決手段】発酵飲食品製造に用いられる液体麹の製造方法であって、培養原料として玄米を含む液体培地で麹菌を培養することを特徴とする液体麹の製造方法。これによって、グルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼ同時にバランスよく高生成されて、焼酎等の発酵飲食品の製造に必要な酵素活性を有する液体麹を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵飲食品の製造に用いられる液体麹、特に焼酎醸造に必要な酵素活性を有する液体麹の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酒類等の製造に用いられる麹は、蒸煮等の処理後の原料に糸状菌の胞子を接種して培養する固体麹と、水に原料及びその他の栄養源を添加して液体培地を調製し、これに麹菌の胞子又は前培養した菌糸等を接種して培養する液体麹がある。
【0003】
従来の酒類又は発酵飲食品、例えば、日本酒、焼酎、しょうゆ、みそ、みりん等の製造では、固体培養法により製麹された、いわゆる固体麹が広く利用されている。この固体培養法は、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus oryzae)、又は、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等の麹菌の胞子を、蒸煮した穀類等の固体原料へ散布し、その表面で麹菌を増殖させる培養方法である。
【0004】
例えば、焼酎の製造では、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)やアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)等の固体麹が広く用いられている。しかしながら、固体培養法は、原料や麹菌が不均一に分散する培養系であるため、温度や水分含量、各種栄養成分といった因子を均一にすることが困難であり、その培養制御は大変煩雑である。また、開放状態で製麹されることも多く、この場合は、雑菌による汚染といった品質管理面での注意も要する。そのため、大規模製造には不向きな方法ともいえる。
【0005】
これに対して、液体培養法は、培養制御や品質管理が容易であり、効率的な生産に適した培養形態であるが、例えば、焼酎醸造に必要な酵素活性が十分に得られない等で、麹菌を液体培養して得られる培養物を、実際に焼酎麹として用いた例は少ない。ここで、液体培養法で得られる培養物とは、液体培養法で得られる培養物そのもの(以下、液体麹ともいう)の他、培養液、菌体、それらの濃縮物又はそれらの乾燥物であってもよい。
【0006】
液体培養法で得られる培養物が焼酎等の発酵飲食品の製造に利用されない大きな理由として、液体培養では麹菌のアミラーゼ、セルラーゼ等の酵素生産挙動が固体培養と大きく異なるばかりか、全般的に生産性が低下することが知られている(非特許文献1参照)。
【0007】
通常、焼酎をはじめとする酒類の製造では、並行複発酵によりアルコールが生成される。従って、麹菌へのグルコース供給に影響を与える麹菌の糖質分解関連酵素、特にグルコアミラーゼや耐酸性α−アミラーゼは、アルコール発酵における鍵酵素である。しかしながら、液体培養法で得られる培養物において、グルコアミラーゼの活性は著しく低く、生産挙動も固体培養とは大きく異なることが知られている(非特許文献2参照)。
【0008】
麹菌のグルコアミラーゼ活性を向上させる方法として、菌糸の生育にストレスを与えながら麹菌を培養する方法(特許文献1参照)や焙炒した穀類を麹菌培養液に添加する方法(特許文献2参照)が報告されている。特許文献1に開示の方法は、多孔性膜上又は空隙を有する包括固定化剤中で培養してグルコアミラーゼをコードする新規遺伝子glaBを発現させて同酵素活性を高めるもので、厳密な制御又は特殊な培養装置が必要であり、実用的ではない。また、特許文献2に開示の方法は、原料の少なくとも一部に焙炒した穀類を用いた液体培地で麹菌を培養するもので、穀類を焙炒するという、新たな製造工程が加わることになる。
【0009】
そこで、本発明者らは、麹菌にとって難分解性の糖質を含有する液体培地を用いた麹菌の培養方法に関する発明を提案した(特許文献3参照)。この発明によれば、麹菌の液体培養において、酒類又は発酵飲食品の製造に使用可能な、グルコアミラーゼ等の糖質分解関連酵素の活性が高い麹菌培養物を、簡便、且つ安価に培養することができる。
【0010】
一方、耐酸性α−アミラーゼについては、最近、分子生物学的な解析が詳細に行なわれ始めている(非特許文献3参照)。それによれば、白麹菌は非耐酸性α−アミラーゼと耐酸性α−アミラーゼという性質の異なる2種類のアミラーゼ遺伝子を有しているが、その発現様式は大きく異なっており、液体培養においては、非耐酸性α−アミラーゼは十分に生産されるものの、焼酎醸造の鍵酵素である耐酸性α−アミラーゼはほとんど生産されないことが報告されている。
【0011】
焼酎製造では、焼酎もろみの腐造防止のために低pH環境下で醸造する。しかし、非耐酸性α−アミラーゼは、低pH条件では速やかに失活してしまうため、焼酎醸造の糖質分解にはほとんど貢献しない。そのため、焼酎醸造の糖質分解に寄与していると考えられる耐酸性α−アミラーゼを、麹菌の液体培養で大量に生成させることが、焼酎製造のために不可欠である。
【0012】
過去には、麹菌の液体培養における耐酸性α−アミラーゼの生産挙動を詳細に検討した報告があるものの、その方法はペプトンやクエン酸緩衝液を含む合成培地を用いているし、培養時間が100時間以上かかるなど、実際の焼酎醸造に適用できるような液体麹の製造方法であるとは言い難い(非特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平11−225746号公報
【特許文献2】特開2001−321154号公報
【特許文献3】特開2003−265165号公報
【非特許文献1】Iwashita K. et al: Biosci. Biotechnol. Biochem.,62,1938-1946(1998)、山根雄一ら: 日本醸造協会誌.,99,84-92(2004)
【非特許文献2】Hata Y. et al: J. Ferment. Bioeng.,84,532-537(1997)、Hata Y. et al: Gene.,207,127-134(1998)、Ishida H. et al: J. Ferment. Bioeng.,86,301-307(1998)、Ishida H. et al: Curr Genet.,37,373-379(2000)
【非特許文献3】Nagamine K. et al: Biosci. Biotechnol. Biochem.,67,2194-2202(2003)
【非特許文献4】Sudo S. et al: J. Ferment. Bioeng.,76,105-110(1993)、Sudo S. et al: J. Ferment. Bioeng.,77,483-489(1994)、須藤茂俊ら: 日本醸造協会誌.,89,768-774(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3の方法ではグルコアミラーゼの活性が高い麹菌培養物は、難分解性糖質を加えて調製された液体培地で麹菌を培養するもので、穀類等の培養原料で調製された普通の液体培地から培養されるものでない。
【0014】
また、麹菌を液体培地で培養してグルコアミラーゼ活性が高い麹菌培養物を得る技術は開示されているが、アルコール発酵におけるもう一つの鍵酵素である耐酸性α−アミラーゼの活性が高い液体麹を、液体培地で麹菌を培養して得るという技術が開示されたものはない。この耐酸性α−アミラーゼは、液体培養では生成されない酵素であると一般的に言われており、これまでに耐酸性α−アミラーゼの活性が高い液体麹は開発されていない。
【0015】
本発明の目的は、発酵飲食品の製造に用いられる液体麹、特に焼酎醸造のアルコール発酵における鍵酵素となるグルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼの活性が高い液体麹を特殊な糖質等を加えたり、焙炒処理された原料を使用するといった特別の液体培地でなく、原料として玄米を使用した液体培地で麹菌を培養して液体麹を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、発酵飲食品の製造に用いられる液体麹を製造するにあたり、培養原料として玄米を含有する液体培地で麹菌を培養することで、グルコアミラーゼ活性、及び耐酸性α−アミラーゼ活性が増強された液体麹が製造されることを見出した。更に、この酵素活性が増強された液体麹は、焼酎醸造に適していることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下に示すものを提供する。
【0018】
(1) 発酵飲食品製造に用いられる液体麹の製造方法であって、培養原料として玄米を含む液体培地で麹菌を培養することを特徴とする液体麹の製造方法。
【0019】
(2) 前記玄米を含む液体培地で培養される麹菌培養物中に、少なくともグルコアミラーゼと、耐酸性α−アミラーゼとを同時に生成、蓄積させる(1)に記載の液体麹の製造方法。
【0020】
(3) 前記(1)または(2)に記載の方法で得られた液体麹を用いて発酵飲食品の製造を行なう発酵飲食品の製造方法。
【0021】
(4) 発酵飲食品の製造が、すべての工程が液相で行なわれる(3)に記載の発酵飲食品の製造方法。
【0022】
(5) 発酵飲料の製造が、外界と遮蔽状態が保たれた状態の液相で行なわれる(3)または(4)に記載の発酵飲食品の製造方法。
【0023】
(6) 発酵飲食品の製造が、前記液体麹に掛け原料を仕込んで一次もろみを製造することにより行なわれる(3)から(5)のいずれかに記載の発酵飲食品の製造方法。
【0024】
(7) 発酵飲食品が、焼酎である(3)から(6)のいずれかに記載の発酵飲食品の製造方法。
【0025】
(8) (1)または(2)に記載の液体麹の製造方法で得られるグルコアミラーゼ活性と、耐酸性α−アミラーゼ活性とを有する発酵飲食品製造用の液体麹のセット。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、玄米を含む液体培地で麹菌を培養することで、焼酎醸造に必要な酵素活性を有する液体麹、すなわち、グルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼの両酵素が同時に高生産された液体麹を得ることができる。液体培養は固体培養に比べ厳密な培養コントロールが可能であるため、品質が安定した液体麹を安価に製造することができる。
【0027】
また、本発明により製造した液体麹を用いると、従来の固体麹を用いた焼酎もろみと同程度の発酵性が得られ、製造された焼酎は固体麹を用いて製造された焼酎と同程度の品質を有し、官能的にも遜色ない焼酎を製造することができる。
【0028】
また、本発明に係る液体麹を用いて焼酎を製造する場合に、固体麹を使用する従来の焼酎製造とは異なり、全工程を液相のままで行なうことが可能なので、従来に比べ効率的、かつ安定的な焼酎製造システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0030】
本発明における液体麹の製造方法は、原料として玄米を添加して調製された液体培地で麹菌の培養を行ない、グルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼの酵素活性を増強した液体麹を製造する工程を包含するものである。
【0031】
本発明において、原料として用いる玄米とは、稲の籾殻のみを取り除いたものである。原料の玄米は、水と混合して液体培地を調製する。原料の配合割合は、麹菌の培養中にグルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼが選択的に生成、蓄積される程度のものに調製される。例えば、玄米を1%(w/vol)から20%(w/vol)、好ましくは5%(w/vol)から13%(w/vol)、より好ましくは8%(w/vol)から10%(w/vol)を添加した液体培地に調製される。
【0032】
玄米を5.0%(w/vol)から13.0%(w/vol)添加した液体培地で麹菌を培養すると、グルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼの両酵素がバランスよく高生産され、特に8.0%(w/vol)から10.0%(w/vol)を添加した液体培地では、焼酎醸造に使用するのに十分な酵素活性を有する液体麹が得られる。
玄米の使用量が上限値を超えると、培養液の粘性が高くなり、麹菌を好気培養するために必要な酸素や空気の供給が不十分となり、培養物中の酸素濃度が低下して、培養が進み難くなるので、好ましくない。一方、玄米の使用量が下限値に満たないと、目的とする酵素が高生産されない。
【0033】
原料に含まれるでん粉は、培養前に予め糊化しておいてもよい。でん粉の糊化方法については特に限定はなく、蒸きょう法、焙炒法等常法に従って行なえばよい。尚、後述する液体培地の殺菌工程において、高温高圧滅菌等によりでん粉の糊化温度以上に加熱する場合は、この処理によりでん粉の糊化も同時に行なわれる。
【0034】
液体培地には、上記の原料の他に栄養源として有機物、無機塩等を適宜添加するのが好ましい。これら添加物は、麹菌の培養に一般に使用されているものであれば特に限定はないが、有機物としては米糠、小麦麩、コーンスティープリカー、大豆粕、脱脂大豆等を、無機塩としてはアンモニウム塩、硝酸塩、カリウム塩、酸性リン酸塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の水溶性の化合物を挙げることができ、2種類以上の有機物及び/又は無機塩を同時に使用してもよい。
これらの添加量は、麹菌の増殖を促進する程度であれば特に限定はないが、有機物としては0.1〜5%(w/vol)程度、無機塩としては0.1〜1%(w/vol)程度添加するのが好ましい。このようにして得られた麹菌の液体培地は、必要に応じて滅菌処理を行なってもよく、処理方法には特に限定はない。例としては、高温高圧滅菌法を挙げることができ、121℃で15分間行なえばよい。
【0035】
滅菌した液体培地を培養温度まで冷却後、麹菌を液体培地に接種する。本発明で用いる麹菌は、糖質分解酵素生産能を有する麹菌、好ましくはグルコアミラーゼ生産能、耐酸性α−アミラーゼ生産能を有する麹菌であり、例えば、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)等に代表される白麹菌、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)やアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等に代表される黒麹菌、アスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus oryzae)やアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等に代表される黄麹菌等が挙げられる。また、培地に接種する麹菌の形態は任意であり、胞子又は菌糸を用いることができる。
【0036】
これらの麹菌は一種類の菌株による培養、又は同種若しくは異種の二種類以上の菌株による混合培養のどちらでも用いることができる。これらは胞子又は前培養により得られる菌糸のどちらの形態のものを用いても問題はないが、菌糸を用いる方が対数増殖期に要する時間が短くなるので好ましい。麹菌の液体培地への接種量には特に制限はないが、液体培地1ml当り、胞子であれば1×10〜1×10個程度、菌糸であれば前培養液を0.1〜10%程度接種することが好ましい。
【0037】
麹菌の培養温度は、生育に影響を及ぼさない限りであれば特に限定はないが、好ましくは25〜45℃、より好ましくは30〜40℃で行なうのがよい。培養温度が低いと、麹菌の増殖が遅くなるため雑菌による汚染が起きやすくなる。培養時間は24〜72時間が好ましい。培養装置は液体培養を行なうことができるものであればよいが、麹菌は好気培養を行なう必要があるので、酸素や空気を培地中に供給できる好気的条件下で行なう必要がある。また、培養中は培地中の原料、酸素、及び麹菌が装置内に均一に分布するように撹拌をするのが好ましい。撹拌条件や通気量については、培養環境を好気的に保つことができる条件であればいかなる条件でもよく、培養装置、培地の粘度等により適宜選択すればよい。
【0038】
上記の培養法で培養することにより、グルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼの両酵素がバランスよく高生産され、焼酎醸造に使用するのに十分な酵素活性を有する液体麹が得られる。尚、上記の培養法で得られる液体麹は、培養物そのものの他に、培養物を遠心分離等することにより得られる培養液、麹菌体、それらの濃縮物又はそれらの乾燥物等としてもよい。
【0039】
本発明の製造方法で得られた液体麹は、酒類又は発酵飲食品の製造に用いることができる。例えば、清酒を製造する場合には、酒母や各もろみ仕込み段階において、焼酎を製造する場合には、もろみ仕込み段階において、しょうゆを製造する場合には、盛り込みの段階において、味噌を製造する場合には、仕込み段階において、みりんを製造する場合は、仕込み段階において、液体麹を固体麹の代わりに用いることができる。
【0040】
また、上記した液体麹或いは培養物から得られる培養液又はそれらの濃縮物等を用いて酒類又は発酵飲食品を製造する場合には、全工程を液相で行なうことができる。全工程を液相で行なう酒類の製造方法としては、例えば、焼酎を製造する場合、とうもろこし、麦、米、いも、さとうきび等を掛け原料に用い、該原料を約80℃の高温で耐熱性酵素剤を使用して溶かして液化した後、これに上記した液体麹、及び酵母を添加することでアルコール発酵させたもろみを、常圧蒸留法又は減圧蒸留法等により蒸留して製造する方法が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>[玄米を用いた液体麹の製造]
1.前培養方法
90%精白米8gと水100mlを500mlバッフル付三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、この前培養培地に白麹菌(Aspergillus kawachii IFO4308)の種麹胞子を1×10個/mlになるように植菌し、37℃、24時間、100rpmで振盪培養した。
【0043】
2.本培養方法
玄米1〜10gと硝酸カリウム0.2g、リン酸2水素カリウム0.3g及び水100mlを500mlバッフル付三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、この本培養培地へ前培養液1mlを植菌し、37℃、48時間、100rpmで振盪培養した。
一方、対照として、90%精白米1〜10gと硝酸カリウム0.2g、リン酸2水素カリウム0.3g及び水100mlを500mlバッフル付三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、この本培養培地へ前培養液1mlを植菌し、37℃、48時間、100rpmで振盪培養した。
培養終了後、それぞれの培養上清中のグルコアミラーゼ活性(GA)と耐酸性α−アミラーゼ活性(ASAA)について測定した。グルコアミラーゼ活性(GA)の測定は、糖化力分別定量キット(キッコーマン製)を用いて行ない、耐酸性α−アミラーゼ活性(ASAA)の測定は、<非特許文献3>に記載の方法を若干改良し、培養物を酸処理することで非耐酸性α−アミラーゼ活性を失活させた後、α−アミラーゼ測定キット(キッコーマン製)を用いて行なった。より具体的には、培養液1mlに9mlの100mM 酢酸緩衝液(pH3)を添加し、37℃で1時間酸処理を行なった後に、α−アミラーゼ測定キット(キッコーマン製)を用いて測定した。
【0044】
3.結果
表1に示した通りである。これまでの検討で焼酎醸造に必要な酵素活性は、グルコアミラーゼ100U/ml、耐酸性α−アミラーゼ10U/ml程度であれば十分である。対照区の白米を使用した場合は、GAとASAAが同時に目標値を超えることはなかったが、試験区の玄米を使用した場合は、GA並びにASAA共にバランスよく生産される傾向にあり、特に玄米8%以上の使用で目標酵素活性値をクリアした。この結果より、玄米は白米に比べ液体麹の原料として適していることが示された。
【0045】
【表1】

【0046】
<実施例2>[玄米を用いた液体麹による焼酎の製造]
1.固体麹製造方法
90%精白米を用い、洗米後、15分間浸漬、10分間水切り、30分間蒸煮後、40℃まで放冷し、精白米1kgあたり1gの種麹(白麹菌Aspergillus kawachii IFO4308)を植菌し、40℃・相対湿度95%で6時間、30℃・相対湿度90%で18時間培養した。
【0047】
2.液体麹製造法
(1)前培養方法
90%精白米8gと水100mlを500mlバッフル付三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、この前培養培地に白麹菌(Aspergillus kawachii IFO4308)の種麹胞子を1×10個/mlになるように植菌し、37℃、24時間、100rpmで振盪培養した。
【0048】
(2)本培養方法
玄米40gと硝酸カリウム1.0g、リン酸2水素カリウム1.5g及び水500mlを2000mlバッフル付三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。この本培養培地へ前培養液5mlを植菌し、37℃、48時間、100rpmで振盪培養し玄米液体麹を製造した。
対照として、90%精白米40gと硝酸カリウム1.0g、リン酸2水素カリウム1.5g及び水500mlを2000mlバッフル付三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。この本培養培地へ前培養液5mlを植菌し、37℃、48時間、100rpmで振盪培養し白米液体麹を製造した。
【0049】
3.米焼酎製造方法
(1)使用酵母; 焼酎酵母(鹿児島酵母)
(2)仕込み配合
仕込み配合は表2〜表4に示した通りである。米は、90%精米を用い、洗米後、15分間浸漬、10分間水切り、30分間蒸煮したものを使用した。実験区(試験区、対照区)は、1)固体麹仕込み、2)玄米液体麹仕込み、及び3)白米液体麹仕込み、の3区であり、各区の総米並びに汲水量は、同量となるように配合した。酵母はYPD培地で30℃、48時間静置培養したものを50μl植菌した。
(3)発酵条件; 25℃一定
(4)蒸留条件; 減圧蒸留
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
4.結果と考察
発酵経過は図1に示した通りである。図から明らかなように、固体麹仕込み区と玄米液体麹仕込み区は、ほぼ同様の発酵経過を示した。しかし、白米液体麹仕込み区の発酵経過は、劣っていた。また、得られた最終モロミのアルコール度数は、固体麹仕込み区19.1%と玄米液体麹仕込み区18.9%であり、同程度であったのに対し、白米液体麹仕込み区の最終モロミのアルコール度数は12.5%と両者を大きく下回った。
【0054】
固体麹仕込み区、玄米液体麹仕込み区の焼酎モロミを減圧蒸留法により蒸留して製造した焼酎原酒の官能評価を専門パネル6名の5点評価法(良1−3−5悪)で行なったところ、表5に示したように、固体麹仕込み区と玄米液体麹仕込み区の間には大差はなかった。しかし、玄米液体麹区の方が「すっきり・軽快」とのコメントもあり、すっきりした香味の米焼酎が得られることがわかった。以上の結果より、玄米液体麹によっても固体麹と同等品質の米焼酎の製造が可能であることが示された。
【0055】
【表5】

【0056】
<実施例3>[玄米を用いた液体麹の製造]
1.前培養方法
90%精白米(飯米)8gと水100mlを500mlバッフル付三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、この前培養培地に黒麹菌(Aspergillus awamori IFO4388)の種麹胞子を1×10個/mlになるように植菌し、37℃、24時間、100rpmで振盪培養した。
【0057】
2.本培養方法
玄米1〜8gと硝酸カリウム0.2g、リン酸2水素カリウム0.3g及び水100mlを500mlバッフル付三角フラスコに張り込み、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。放冷後、この本培養培地へ前培養液1mlを植菌し、37℃、48時間、100rpmで振盪培養した。
培養終了後、培養上清中のグルコアミラーゼ活性(GA)と耐酸性α−アミラーゼ活性(ASAA)について、実施例1に記載した方法により測定した。
【0058】
3.結果
表6に示した通りである。前述のように、焼酎醸造に必要な酵素活性の目標値はグルコアミラーゼ100U/ml、耐酸性α−アミラーゼは10U/ml程度であれば十分と考えられている。表6から明らかなように、玄米使用量8%の試験区において、GAとASAA活性が共に目標値をクリアし、黒麹菌を用いても、白麹菌の場合と同様に酵素高生産効果が奏されることが確認された。また、玄米使用量を更に増やした場合も、白麹菌と同様に酵素高生産効果が期待できる。
【0059】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、玄米を培養原料として用いて、品質が安定した液体麹を効率よく、かつ安価に製造する方法が提供される。しかも、この液体麹は、発酵飲食品の製造に好適である上に、グルコアミラーゼ、及び耐酸性α−アミラーゼの両酵素がバランスよく高生産されるので、焼酎等の酒類の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】各種の麹を使用した焼酎製造における発酵経過を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵飲食品製造に用いられる液体麹の製造方法であって、培養原料として玄米を含む液体培地で麹菌を培養することを特徴とする液体麹の製造方法。
【請求項2】
前記玄米を含む液体培地で培養される麹菌培養物中に、少なくともグルコアミラーゼと、耐酸性α−アミラーゼとを同時に生成、蓄積させる請求項1に記載の液体麹の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で得られた液体麹を用いて発酵飲食品の製造を行なう発酵飲食品の製造方法。
【請求項4】
発酵飲食品の製造が、すべての工程が液相で行なわれる請求項3に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項5】
発酵飲料の製造が、外界と遮蔽状態が保たれた状態の液相で行なわれる請求項3または4に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項6】
発酵飲食品の製造が、前記液体麹に掛け原料を仕込んで一次もろみを製造することにより行なわれる請求項3から5のいずれかに記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項7】
発酵飲食品が、焼酎である請求項3から6のいずれかに記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の液体麹の製造方法で得られるグルコアミラーゼ活性と、耐酸性α−アミラーゼ活性とを有する発酵飲食品製造用の液体麹のセット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵飲食品製造に用いられる液体麹の製造方法であって、培養原料として玄米を含む液体培地で白麹菌及び/又は黒麹菌を培養して、培養物中にグルコアミラーゼと耐酸性α−アミラーゼとを同時に生成、蓄積させることを特徴とする液体麹の製造方法。
【請求項2】
液体培地が、水に対して1〜20%(w/vol)の玄米を含むものである請求項1に記載の液体麹の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で得られた液体麹を用いて発酵飲食品の製造を行なう発酵飲食品の製造方法。
【請求項4】
発酵飲食品の製造が、すべての工程が液相で行なわれる請求項3に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項5】
発酵飲食品の製造が、外界と遮蔽状態が保たれた状態の液相で行われる請求項3または4に記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項6】
発酵飲食品の製造が、前記液体麹に掛け原料を仕込んで一次もろみを製造することにより行なわれる請求項3から5のいずれかに記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項7】
発酵飲食品が、焼酎である請求項3から6のいずれかに記載の発酵飲食品の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の液体麹の製造方法で得られるグルコアミラーゼと、耐酸性α−アミラーゼとを有する発酵飲食品製造用の液体麹のセット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−158250(P2006−158250A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352320(P2004−352320)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【特許番号】特許第3718678号(P3718678)
【特許公報発行日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】